十六夜の零

 

 

 

第四章 「剣士と友人」

 

 

 

 

十六夜念法

それは京也の父、十六夜 弦一郎が開祖となる流派だ。
その根底となる力は、人間の念を7つのチャクラを通して霊的エネルギーにまで高めたものである。
霊的エネルギーにまで高められた念は、物理現象を超越し驚異的な威力を発揮する。
そして、その威力を余す事無く発揮するために、厳しい武術の鍛練が必要となる。
念の霊的エネルギーの昇華ですら、並々ならぬ才能と努力を必要とするのだが、それに伴う死の一歩手前という武術の鍛練が、技を修めようとする者に課せられる。

 

――――――その修行風景は一本の名刀を作る過程に似ているのかもしれない。

 

「まあ、他にも親父がこの流派を何故興したのか?
 霊的エネルギーとかチャクラって何?
 とか色々と疑問があるとも思うが、そこは簡略してだな。
 俺が決闘で使った技の説明は以上だ」

ギーシュ達との決闘騒ぎが終わった後、夜中になってから部屋に戻ってきた京也を待っていたのは、部屋の主のルイズと何故か居るキュルケとタバサだった。

「あの木の棒は?」

ギーシュの青銅のゴーレムや、マリコルヌの風の矢を消した木刀にもルイズは興味津々だった。

「俺の愛刀で『阿修羅』っていう名前の木刀だ。
 俺自身、まだまだ未熟な身の上でね、親父の念が篭ったこの木刀を使う事で念の威力を上げれるんだ」

そう言いながら京也が右手を振ると、その木刀は突然右手の中に現れた。
どう考えても隠しようが無い長さの木刀が、何処から現れるのか・・・首を傾げるルイズだが、今は木刀への興味の方が勝った。

「さ、触ってみてもいい?」

「別にいいぞ」

何やら大切な木刀らしい事に気が付き、少々気後れしながら尋ねるルイズに対して、京也の口調は軽いものだった。
何故ならば『阿修羅』に籠められた父親の念を凌駕しない限り、『阿修羅』に何かを仕掛ける事は出来ないのだから。

手渡された『阿修羅』を握ったルイズは、不思議な力の波動を感じていた。
京也からも時々感じる暖かい、包み込むような力。

「ねえ、京也。
 私にもその木刀を触らせてよ」

「私も」

「別にいいけど・・・そんなに興味深いか?」

ルイズと同じく興味津々の表情で『阿修羅』を囲む二人に思わず苦笑する。

今まで見た限り、ルイズの気性からするとキュルケともタバサとも仲が良いとは思えない、そんな三人が車座になって真剣に『阿修羅』を調べる場面は、今後のルイズの交友関係に良い影響を与えるだろうと思えた。

「実際興味深い。
 平民が魔法使いに勝った事でも大事なのに、ましてや魔法を消し去れるなんて」

「そうそう、簡単に身に付けられるような技法じゃないみたいだけど・・・
 こんな武術を平民達が揃って身に付けたりしたら、とんでもない事になるわね」

キュルケとタバサの発言から、その事に思い至ったルイズが慌てて京也に視線を向ける。自分の使い魔の強さに浮かれていたが、その存在はこの貴族社会を根底から覆す事が可能な事を示していたのだ。

「・・・基礎から修得しようとするなら、赤ん坊の頃から人里離れた山奥で地獄のような修行が必要になるんだぜ?
 しかも、中途半端に習った所で念法の真髄には程遠い威力しか望めない。
 それに人に教えるつもりも無いしな」

「じゃあ、京也も赤ん坊の頃から、父親に連れられて?」

簡単に修得は出来ないだろうと思っていたが、予想もしていなかった修行方法に思わずルイズは京也にそう尋ねた。

今はタバサの手にある『阿修羅』を見ながら、京也は応える。

「・・・一時期は憎んだ事もあったけどな。
 後々になってから、それなりの理由があった事を知ったんだけどさ。
 その『阿修羅』と念法は親父が残してくれた形見だ」

 

 

 

 

「十六夜念法、ね。
 随分と面白いじゃない、彼」

「・・・」

あの後、湿っぽくなった空気を嫌ったキュルケは、ルイズの部屋からタバサを連れて退散した。
去り際に京也の使う念法については、黙っておくと約束をしておいた。
口約束に過ぎないのに、騒ぐルイズを押さえ込んで京也は頷いてくれた。
自分の身の上が危ない事を分かってないのか・・・それとも私達を信用しているのか?

「タバサも珍しく興味を持ってるみたいだけど、京也の事は黙っていたほうがいいわよ?」

「・・・分かってる」

何かを考え込んでいるタバサは、キュルケの忠告に頷きながら自室へ帰っていった。
その小さな背中と不釣合いな大きな杖を見送りながら、キュルケも自室へと向かって行った。

 

 

 

 

トリステイン魔法学院の院長室で、昨日と同じようにオールド・オスマンとコルベールの会話がなされていた。

「つまり彼がもつルーンから、伝説の使い魔ガンダールヴだというのかね?」

「はい、まず間違い無いかと。
 『神の盾』と呼ばれるだけに、どうやら防御に適した能力を持っているみたいです」

「むう、そうなると昼間の決闘を見逃したのは惜しいのぉ・・・
 ドットメイジとはいえ、二人掛りの魔法使いを倒すとは」

そう言いながら、顎鬚をしごくオールド・オスマン。
例の教室での調査に熱中するあまり、報告が遅れたコルベールは居心地が悪いのかモジモジとしている。

「しかし、昼間にそれだけの騒ぎになったのなら、学院長には教師から連絡が入ったと思いますが?」

「いや、ちょっとその時はミス・ロングビルにお仕置きを受けていて・・・ゴホン
 丁度重要な書類を作成中でな、部屋に誰も入れないようにしていたのじゃよ」

コルベールの視線が突き刺さるようなものに変わったので、急いで話題を替えようとする。

「・・・木の刀で魔法の矢を消し去り、青銅のゴーレムを切り裂いたか。
 う〜む、どうにも学生の報告では信用が出来んのう。
 もし本当の話だとしたら、恐るべしガンダールヴじゃな。
 千人もの軍隊を一人で壊滅させるというのも、本当なのかもしれんのう。
 とりあえず、この件は一旦保留としておこうかの、内容が内容なだけにそうそう口外できんわい」

「そうですね・・・」

無難な解決策を提示するオールド・オスマンに、少々物足りなさを感じるコルベールだったが、個人的にルイズと京也にコンタクトを取ってみようと思っていた。

 

 

 

 

そんな思惑が取り巻く中、ルイズの京也への尋問は続いてた。

「じゃあ、本当に京也は異世界から来たっていうの?」

「口で言っても分かってもらえないだろうしなぁ・・・
 何も証拠になる物も持ってないし」

自分の制服を漁りながら、そう呟く京也。
そんな京也の姿を、ベットに腰掛けたルイズが不思議そうな顔で見ていた。
ルイズとしては、京也があれ程の実力を隠していたほうが気になるのだ。

もし自分にあれだけの力があれば・・・

「ねえ、京也はあれだけ強いのにどうして専守防衛なんて言ってるの?」

「人を傷付ける為に覚えた技じゃないからなぁ・・・
 念法を使って無闇に人を傷付けたら、あの世の親父が化けて出てくるかもな。
 お、携帯発見」

京也はそう言って制服の内ポケットから、小型の折り畳み携帯を取り出す。
携帯を渡されたルイズは不思議そうな顔をしているが、京也に促されて携帯を開き驚く。そこには不思議な文字を浮かべる綺麗な絵が、刻一刻と動いていた。
どんな名画も及ばないその色使いと、不思議な現象に食い入るようにルイズは携帯の画面を凝視した。

「さすがに充電は出来ないだろうから、ニ、三日で電池切れになるから。
 その前に見せれて良かったよ」

「・・・これが、京也の世界にあるモノ?」

「そ、平民でも皆が持ってる。
 離れた場所に居る人と話が出来る道具なんだ。
 どうだ、少しは信じる気になったか?」

「うん、まあそこまで言い切るなら、一応信じてあげる。
 でも、それじゃあ、京也の出身地を聞かれた時に困るわね。
 誰彼構わず京也の事を言いふらすのは、余計な詮索を呼ぶかもしれないし。
 ・・・とりあえず、あまり親交の無い東方のロバ・アル・カリイエの出身にしておく?」

「確かに俺としても変に疑われるのは嫌だからな、それでいいよ。
 ま、ギーシュ達に勝った事は、当分大人しくしていれば皆忘れてくれるだろうさ」

「いや、それ難しいから・・・」

余りに能天気な京也の言葉に、平民が貴族に勝つ意味を分かっていないと、深い溜息を吐くルイズだった。
そんな京也の態度から、改めて京也が自分とは違う環境から来た事を感じるのであった。
「あー、今日は色々有って疲れたわ・・・もう、寝る」

「着替えてから寝ろよ、行儀が悪いなぁ」

「うっさい」

 

 

 

 

翌朝、京也は日の出と共に起き出し、洗濯場へと向かった。
流石に三日も着たきりでは、文明人としては辛いものがあるのだ。
昨日のうちにコック長のマルトーには、こっそりと替えの下着等を依頼していた。

・・・流石に女性のシエスタには頼み辛かったのだ。

だが、待ち合わせ場所にはシエスタが居た。

 

――――――笑顔で手を振るシエスタに、思わず天を仰ぐ京也だった。

 

「コレを京也さんに渡して欲しいと、コック長から預かってきたんです」

「あ、そうなんだ。
 ・・・有難う」

シエスタに笑顔で差し出された、白い布に包まれた物体。
どうやら中身までは言っていないらしい・・・もっと他に気を使って欲しかったが。

とりあえずシエスタにお礼を言いながら、物体を受け取る京也。
この時、マルトーには後でこっそりと仕返しをしてやろうと心に決めた。

 

実はマルトーは自分で手渡すつもりだったが、京也と待ち合わせていると知ったシエスタが、どうしても自分が行きたいと主張したので、仕方なく譲ったのだった。
シエスタに下着の塊を渡す時、心の中で京也に必死に謝っていたマルトーだった。

 

そんな事情は知らない京也は微妙な表情をしていたが、シエスタは改めて頭を下げながら礼を述べた。

「昨日は本当に有難う御座いました。
 私達を庇ってくれたうえ、貴族様と決闘まで・・・」

「何とかお互いに怪我もなく終わって良かったよ。
 それに、ギーシュ達ともあの後で和解できたしな」

実際、昨日の敵は今日の友のノリで、京也とギーシュ達は意気投合をしていた。

決闘の後、京也が冷えてしまった賄い食の続きを食べていると、頬を腫らしたギーシュと身体中に足跡を着けたマリコルヌが現れた。

厨房でリベンジをするつもりか? と緊張が高まったが、特に何をするでなく京也の食事が終わるまで黙って待っていた。
その後、二人はシエスタ達に謝った事を伝えて、改めて京也と取り留めの無い話をしていたが、段々会話がエスカレートをしていき最後は殴り合いを始めたので、それを見ていたシエスタ達は驚きに目を丸くしていた。

 

もっとも、三人共笑いながら殴り合っていたので、凄惨な気配は無かったが。

 

「ああ、ついでだから洗濯を手伝うよ」

「え、良いんですか?」

シエスタからすれば自分を助けてくれた恩人だが、話しやすい異性でもある京也との会話は決して嫌なものでは無かった。

 

 

 

シエスタの手伝いが終わった後、ルイズを起こして着替えさせて、アルヴィーの食堂に向かう。
ルイズだけが食堂に入り、京也は昨日と同じように厨房に向かう。
別れ際の京也は凄く良い笑顔が張り付いていたが、何だか怖いのでルイズは関わる事をスルーした。

「おおおおおお、良く来たな『我等が剣士』よ」

「ええ、来てしまいましたマルトーさん」

器用に後ずさりながら、京也との間に距離を取ろうとするマルトー。
京也は込み入った厨房の中なのに、瞬く間にマルトーとの間をゼロにした。
ついに壁に背を預けた形になり京也に追い込まれる。

「いやぁ、今朝はシエスタが例の物を持ってきてくれて助かりましたよ。
 でもシエスタみたいな可愛い子に、アレを渡すのはどうかと?」

「あはははは、いや悪かったって思ってるよ」

「これはそのお礼です」

「顔が笑ってないぞ、京也。
 それより、何で拳をパキパキいわせてるんだ?」

「やだなぁ、本当に感謝してるんデスヨ?」

「絶対嘘だ!!」

 

 

 

「・・・何か厨房から悲鳴が聞こえなかったかい?」

「聞こえたけど関わりたくない。
 それとも様子を見に行くか?」

「・・・いや、止めておこう」

何気に仲が良くなったギーシュとマリコルヌは、厨房からの悲鳴を無視して朝食に専念するのであった。

 

 

 

「どうです、肩凝りが取れたでしょ?」

「確かに肩凝りは無くなったが・・・あの揉み方は殺人的だな、おい」

軽くなった肩を回しながら、マルトーはジト目で賄い食を食べている京也を睨む。
シエスタに下着を持っていかせたのは悪かったが、何も厨房でみっともない姿を晒す必要は無かっただろうに。

「しかし物凄い握力だな、見た目はそれほど力持ちには見えないのに」

「鍛え方の年季が違いますよ、本気になれば岩でも握りつぶします」

「・・・・・・・・・・・・もう揉まなくていいからな」

どうにも京也の言葉が冗談に聞こえなかったので、マルトーは心の底から頼み込んだ。

 

 

 

食事が終わった後、ルイズと一緒に食堂から出てきたキュルケとタバサ達と四人で教室に向かう。
京也は特に授業を受ける必要は無いのだが、魔法という今まで知らなかった知識に興味があるのか、黙ってルイズの隣に座って授業を受けていた。

一部の生徒が昨日の決闘について話しているが、それほど大きな騒ぎにはなっていないみたいだった。
その理由としては、やはりギーシュやマリコルヌがドットメイジでしかなく、ラインメイジやトライアングルメイジが相手にすれば、京也など相手にならないと思われていたからだった。

「京也、私はこれから図書館に行くけど、どうする?」

「図書館か・・・着いて行こうかな」

魔法学院の図書館なのだから、きっと貴重な本が存在するかもしれない。
元の世界に帰る為には、まずは情報を集めないとな。

京也はルイズが図書館に行く理由については、聞かなくても分かっていた。
自分で魔法を使うために、別方面から挑戦をするための資料集めだろう。

「あら、相変わらず勉強熱心ね。
 私も暇だから着いて行こうかしら」

「付き合う」

「む、あんた達も来るつもり?」

教室の出口でキュルケ達に捕まり。
図書館に向かう途中の廊下では、ギーシュ達に捕まった。

「やあ京也、暇ならマリコルヌの彼女探しを手伝わないか?」

「是非とも頼む!!」

「・・・人の使い魔を絶対不可能なミッションに誘うな」

 

「「「惨っ!!!」」」

 

何故か男組三人が仲良く同時に悲鳴を上げる。
その後、虚ろに笑うマリコルヌを京也が引き摺りながら、全員で図書館へと向かうのであった。

 

 

 

ルイズは小難しい理論が書かれた本を読みながら、自分の魔法について考えていた。
魔力が発生していたという京也の言葉を疑ってはいなかった。
昨日、実際に見えない風の刃を見事に避けてみせたのだから。
だったら問題は魔力の発動の仕方?

・・・スペルの唱え間違いなんて、今更考えられないし。

「うーむ、やはり読めん・・・」

「なんだ京也は文字が読めないのかい?」

「ははは、腕っ節しが強い事しか誇れる事が無いんだな」

「・・・良い度胸だマリコルヌ、その発言を後悔させてやろう」

「か、軽い冗談じゃないか!!」

「言い訳は地獄でしろ」

京也から例の拳骨をくらい、痛さのあまり無言で地面を転がりまくっているマリコルヌに呆れた目を向ける。
昨日の今日でまあ見事に仲良くなったものである。
とてもじゃないが、殺し合いに近い決闘をした貴族と平民の付き合いとは思えない。

「仲が良いわねぇ、あの三人」

「意外と京也もノリが良いみたいなのよ。
 ・・・ご主人様を放っておいて何してるんだか」

「あら、焼き餅?」

「だだだだ、誰が焼き餅を焼いてるっての!!」

思わず持っていた資料を振り回しながら、キュルケに反論をする。
確かにギーシュ達と盛り上がっていて、会話に混ざれないのは少しは腹正しいけど。

「変な意地を張ってる間に、ほらタバサに京也を取られちゃうわよ」

「ナンデスト?」

キュルケに指差された先には、タバサに文字を教えてもらっている京也の姿があった。
普段のタバサからは想像もつかない姿に、隣に居るギーシュも驚きを隠せていない。
マリコルヌは未だ床を転がっている。

「あの娘、随分と京也にご執心なのよねぇ、思わず私も応援したくなっちゃうわ。」

「ナナナナナ、ナニヲオシャルノカシラ?」

「・・・いい加減、あなたも動揺から立ち直りなさいよ」

目をグルグルさせているルイズに、さすがにからかいすぎたかと反省するキュルケだった。
しかし、実際問題としてタバサの京也への関心度は異常だった。
今までは自分に話しかけてくる男性など、視線で黙り込ませていた『雪風』のタバサが、自分から京也へアプローチをするなんて。

「・・・魔法消去能力、かしら?」

その執着心が生まれた契機は、昨日京也が説明した念法の下りからだとキュルケは予想していた。
タバサの抱える事情を全て知っている訳ではないが、何かその能力が必要となる事態があるのかもしれない。

「でも、どちらにしろ異性に興味を持つという事は良い事だわ」

「止めなさいよ、あんたは・・・」

「あら、燃え上がる恋の炎は消せないものよ。
 決めた、私は絶対にタバサの恋を成功させてみせる!!」

「この恋馬鹿はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

――――――余りの騒がしさに、図書館を追い出される六人だった。

 

 

 

予定よりかなり早く図書館を追い出された六人は、時間潰しを兼ねて中庭で会議を開いていた。
主な内容は京也の事・・・ではなく、何故かマリコルヌの恋人探しについてだった。

「まあ、女性の好みについてはあれだけ大っぴらに発言したんだ、皆わかっている。
 僕にはとてもとても真似出来ないけど、その大胆さに感激だ」

「というかあの場に居た殆どの女性を敵にまわしたわね」

「ああ、奴は勇者だ」

「無謀と勇気は違う」

「つまり底無しの馬鹿ね」

「君達には優しさが足りない!!」

上からギーシュ、ルイズ、京也、タバサ、キュルケの発言だった。
発言のついでに全員から生暖かい視線を向けられて、マリコルヌが魂の叫びを上げる。

 

男3、女3のグループだというのに、明らかに彼だけが浮いていた。

 

「大体、選り好みを言える立場じゃないでしょ・・・アンタ?」

キュルケからそんな発言を受けても、マリコルヌは胸を張って反論する。

「何を言うかな。
 自分の好みに適合しない女性と一緒になっても、長続きするはずがないだろうが。
 ・・・というか、俺だけがピエロか?最下層なのか?
 京也、君はどうなんだ、ステディはいるのか?あん?」

「故郷じゃそこそこモテたぞ」

「やはりお前も敵か」

膝を抱えてブツブツと呪いの言葉を漏らすマリコルヌに、全員の頭の上に大きな汗が浮かんだ。

「あら珍しい組み合わせね?」

全員の視線が声の主に向かう。
そこには京也が初めて見る、理知的な美貌の大人の女性が居た。
女性に対する反応が早いギーシュが早速話しかける。

「ミス・ロングビル、そちらこそこんな所に何か御用でも?」

「ええ、中庭が騒がしいのでちょっと様子を見るためにね。
 それに貴方達を見ていると、故郷に居る兄弟を思い出しちゃって」

そう言って笑いながら、ミス・ロングビルはルイズの隣に座り込んだ。
プロポーションではキュルケには負けるが、大人の色気を醸し出すミス・ロングビルにマリコルヌが興奮した顔で擦り寄って行く。

「何だか怖い」

「まあ、近づかなければ噛み付かないから大丈夫」

自分の背後に隠れたタバサに、友達甲斐の無い事を言う京也だった。
それを聞いたマリコルヌが歯を剥き出しにして威嚇の声を上げていた。

「・・・本当、仲が良いのねぇ。
 とても使い魔とはいえ、平民と貴族の付き合いには見えないわ」

「はぁ、何らや馬が合いまして。
 実際凄いですよ京也は、二人掛かりで手も足も出ませんでしたし」

「いや、良い決闘だったと思うぞ。
 ギーシュもマリコルヌも、もっと本気で修行すればきっと強くなれるさ」

「ほ、本当かい?」

自分が完敗した相手に持ち上げられ、思わず身を乗り出すギーシュ。

「何事も努力次第だって。
 何なら俺が今まで行ってきた修行を試してみるか?」

「そうだね・・・お願いしようかな。
 もちろんマリコルヌ込みで」

「俺もかよ!!」

真剣な顔で京也に修行を頼むギーシュと、それに巻き込まれたマリコルヌが速攻で異議を唱える。
そんなマリコルヌの肩を掴んで、ギーシュが真剣な顔で説得をする。

「マリコルヌ・・・古来から強い男性は女性にモテる条件の一つなんだよ」

「宜しく頼む京也」

目を輝かしながら京也に頼み込むマリコルヌだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・コイツ等を鍛えるの?本気?」

「滅茶苦茶、動機が不純よね」

「ははははははははは」

女性陣の白い目を一身に受けて、乾いた笑い声しか出せない京也だった。

 

 

 

 

その後、仕事に戻るロングビルを送り出し、晩餐が始まる前にそれぞれが自室へと荷物を置きに戻っていった。

私が部屋で休んでいる間に、京也はギーシュ達と約束があるからと先に部屋から出て行った。
どうやら約束通り、本当にあの二人を鍛えるつもりらしい。
あんな二人より、御主人様が魔法を使えるように手伝うのが本筋ってもんじゃないかしら?

京也の不義理についてルイズが腹を立てていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

「無理、無理だってそんなの!!」

「ザゼンって何だよ!!
 俺の体型で、そんな体勢出来るわけないだろ!!」

「分かった、分かったから無言でその木刀を構えないで!!」

「ぎやぁぁぁぁ、頭が!! 頭が割れるように痛い!!」

 

 

 

・・・・・一人で頑張ろう、とルイズは心に誓った。

 

 

 

「・・・・・・・・顔色が悪いわよ、二人とも?」

食堂で約束した訳ではないが、何となく五人揃って座ったのでキュルケがギーシュに質問をする。

「ふふふふ、京也はね手加減って言葉を覚えるべきだね」

「頭が、頭が、木刀が、骨がミシミシって」

椅子に座って虚ろな瞳でブツブツと呟く馬鹿二人。

「結構追い詰められてる」

「そうね」

タバサとルイズも自業自得とはいえ、中々惨い状態の二人に引いていた。
もっとも、京也から説明を受けた荒行を実際に体験したのだから、それも当然の結果かもしれない。

「それはそうと、今度の虚無の曜日に京也を連れてトリステインの城下町に行っていいかな?」

「え、何しに行くのよ?」

ギーシュから出た意外な申し込みに、何か良からぬ事を考えているのでは?とルイズは勘繰る。

「そりゃ、京也もこれから毎日毎日同じ服だと大変だろう?
 下着は何とか都合をつけたみたいだけどさ」

「・・・マリコルヌ、それはルイズには秘密だと京也と約束したよね。
 君はまずその軽い口をどうにかするべきだね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちなみに、僕はきちんと京也に報告するよ。
 巻き込まれるのはご免だし」

ガタガタブルブルと震えだしたマリコルヌを、ギーシュが素早く見捨てる。
彼等の友情について疑いを持ってしまうような場面だった。

「どういうことかしら?」

ルイズが不機嫌な声で問い質す。
主人の自分に黙って、他の魔法使いに服装の相談をするとは・・・
それはある意味、自分の主人が経済的に頼り無いと言っているようなものではないか。

「いや、まあ誤解をしてるみたいだから補足しとくけど、京也は男としてだね女性に下着とか服を買ってもらうのは情けないというか、出来れば堪忍して欲しいというか」

「そ・れ・で?」

「男の矜持の問題と思ってくれないかい?」

「分かんない。
 私、女の子だもん」

「うわ、似合わねぇ」

復活するなり再びルイズに床に沈められるマリコルヌ。
そんなマリコルヌをタバサが冷たい目で見ていた。

「でも、まあ一応そういう理由があるのなら納得してあげるわ。
 だけどトリステインの城下町には私も行く。
 京也が買った品物の代金も私が支払うわよ」

男の矜持というのはよく分からないけど、確かに京也の服装にまで気を掛けていなかったわね。
京也も直ぐに相談をしてくれれば良かったのに・・・って、それが出来ないからギーシュ達に相談したんだったっけ。
本来なら私が気付かないといけない事だったんだろうし。

「はいはい〜、じゃあ私も一緒に行く」

「私も」

「はぁ・・・あんた達なら断っても勝手に付いて来るもんね。
 分かったわよ、皆で行きましょ」

キュルケとタバサも付いて来るのは嫌だけど、まあ仕方が無いか。

・・・等とルイズが考えている所に、マリコルヌが爆弾を投下した。

「それは困るなぁ、せっかく男連中だけで『魅惑の妖精』亭に遊びに行く予定なのに」

ギーシュは無言でその場から逃げ出した。
しかし、ルイズに回り込まれてしまった。

「どいう事かしら?」

ルイズから放たれる致死量の殺気にギーシュは一歩も動けなくなった。
最後の悪あがきとばかりに、事の発端たるマリコルヌを糾弾する。

「君を見損なったよ!! マリコルヌ!!」

「ははははははは!!
 死なば諸共だ!!」

「あー、一応京也もそういう事に興味あるんだ。
 うん、健全な男性で良かったじゃない、タバサ」

「?」

 

 

 

 

その日の真夜中、学院の裏庭で焚き火を囲いながら溜息を吐いている三馬鹿が居た。

「お前等なぁ・・・隠し事をペラペラ話してどうするの?
 ルイズが臍を曲げたお陰で、三日間野宿だぞ」

「すまない京也。
 僕もモンモランシーに報告されて、部屋の中に匂いのキツイ香水を放り込まれて。
 当分匂いが取れるまで部屋に帰れないから付き合うよ」

そう言ってさめざめと泣くギーシュ。

「ま、なるようになるさぁ」

焚き火で肉を焼きながら、何処か達観をしているマリコルヌ。
そんなマリコルヌを見て、改めて溜息を吐く二人だった。

 

 

 

後書き

四週連続達成。

阪神、来年に期待だぜー

 

 




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