十六夜の零

 

 

 

第九章 「剣士と盗賊」

 

 

 

 

フーケが隠れている廃屋には、馬車での移動となった。
ルイズを筆頭に結局、その場に居た学生達は全員『破壊の珠』の捜索メンバーに入ってしまった。
それぞれに事情や思惑あったのだろうが、危ないと忠告をしていた京也は微妙に不貞腐れた顔をしていた。
その理由は仲間が好意からこの捜索に加わった事も確かなので、怒る機会を逃してしまったからだった。

そんな理由もあって、ルイズも心配そうな視線を向けながらも、馬車の中では京也と距離を取っていた。

ロングビルが操る馬車の中には京也、ルイズ、モンモランシー、ギーシュ、マリコルヌ、コルベールが座っており。
キュルケとタバサはシルフィードに乗って、馬車の上空で警戒を兼ねて待機をしていた。

何となく沈黙が満ちる馬車の中、京也の頭の上に居るヴァーユが暇そうに欠伸をしている。

「京也君、ちょっと話をしてもいいかな?」

これ幸いと京也に話しかける人物が居た。

「ええ、構いませんよ」

学院の教師としては珍しく、侮った態度で接してこないコルベールを京也は見直していた。
ハルケギニアに召喚された時は、かなり警戒をされていたのでお互いに距離を取っていたのだ。
意外にも気さくなその態度に、京也は警戒心を少し緩めた。

「君はその左手のルーンについて、何か知っているかね?」

「まあ一通りは知っていますが。
 あまり公言出来ない内容みたいですけどね」

『おうよ、俺が相棒に教えてやったんだぜ』

ちらりとルイズに視線を向けながら京也とデルフが、質問をしていきたコルベールに返事をする。
その時、京也と視線がぶつかったルイズは、慌てて視線を逸らした。

学院長からはガンダールヴのルーンについては、他言無用と念を押されている。
確かにこの社会を作ったという始祖の縁のルーンなど、そうそう言いふらすべきではないだろう。
余計な揉め事は放っておいても向こうからやってくるだろうが、自ら呼び込むのは遠慮をしたい所だ。

今回のような出来事は今後なるべく控えるべきだと、京也は猛省していた。

「ほう、ならやはり特別な力とかを感じるかね?」

そんな京也と学院長の思いなど、何処吹く風の男が此処に居た。
ルイズ達に知られるのは、色々と問題があると思うので此処は黙らせるべきかと京也が悩んでいるうちに馬車が停止した。

「皆さん、到着しました」

ロングビルの声を聞いて、全員が馬車の入り口に視線を向ける。
目的地に着いた事に気が付いたのか、ヴァーユが一声鳴いて京也の頭の上から外に飛び出して行った。

「おい、危ないぞヴァーユ」

「きゅい♪」

制止する京也の声を振り切ってヴァーユは狭い馬車内から大空に飛び立った。
普段は京也の言う事を良く聞くだけに、余程馬車内が退屈だったのだろう。
そんなヴァーユに苦笑をしながら、京也達も続いて馬車を降りる。
特に人の気配は感じないので、待ち伏せは無いだろうと京也は判断をしていた。

京也達が馬車から降りた事を確認して、タバサ達を乗せたシルフィードも地面に降りて来た。

 

 

 

馬車を降りた先は鬱蒼とした森に囲まれた、大きな空き地だった。
周囲を森に囲まれているせいか、薄暗い印象を感じる。
そんな空き地の真ん中に、確かに廃屋は存在していた。

 

 

「確かにミス・ロングビルの情報通りですな」

廃屋が有る事を確認して、コルベールがロングビルを褒める。

「いえ、追跡調査位なら誰でも出来ますわ」

謙虚にそう答えるロングビルに、コルベールが感激したのかさかんに褒めちぎっていた。
ロングビルはそんなコルベールの褒め言葉に、笑顔のまま・・・失礼にならない程度の受け答えで相手をしていた。
そんな大人二人の喜劇を冷めた目で見守る京也と学生達は、コソコソと車座になって小声で会議を開いていた。

「絶対に罠だよなぁ、このパターンって」

「それ以外にないでしょ」

マリコルヌの呟きに、ルイズが突っ込みを入れる。
この期に及んで、改心をしたフーケが『破壊の珠』を返却するとは思えない。
問題は何故、自分達をこの廃屋まで誘導したかという事だった。

「そもそも、『破壊の珠』について詳しい情報を持っていそうなのは、京也しかいないんだ。
 その点から考えると、京也の情報が目当てかな?」

「そうだろうな。
 『破壊の珠』が俺の想像通りの代物なら、使い方は分からないはずだ」

京也はそわそわと廃屋を伺いながら、ギーシュの意見に賛成をする。
常には無い態度に、今更危機感を覚えたのかマリコルヌが質問をする。

「『破壊の珠』が危ない代物だというのは何となく分かるけど。
 そんなに簡単に使える物なのか?」

「・・・正直に言えば実物を見るまでは何とも言えない。
 ただ、使用方法としては何処かに設置をして、遠隔地から合図を送って爆発させるのが『普通』だ」

「『普通』じゃない使用をしたら?」

「確実に使用者も俺達も消滅する。
 ここから学院まで含む大きな更地が出来るだろうな」

『お、俺はどうなるの?
 ほら、鋼と魔法技術の塊だぜ?』

「だから言っただろ、跡形も無く消滅するって」

 

 

 

淡々と述べられた京也の言葉に、その破壊の規模を想像しきれずに全員が呆けた顔をした。

 

 

「そんな規模の爆発なんて、有り得ない。
 とてもじゃないけど、想像も出来ないわ」

「俺の故郷では2回、その爆発が起こった。
 その時の死者は二十万人以上でているし、その時の余波でその数倍以上の被害者が出ている。
 ・・・あれだけは、絶対に使っちゃいいけない物なんだ」

モンモランシーの言葉を真っ向から切り伏せる。
京也から発するプレッシャーが高まり、全員が口を塞いだ。
二十万人という数字も想像出来ないのに、さらに数倍の人間に及んだ被害というものが理解出来ない。

だが、ここまで京也がピリピリとしている理由は、その被害を自分達に及ばないようにする為でもある事だけは分かった。

「とにかく、一刻も早く『破壊の珠』を確保したい。
 間違いであれば、それはそれで安心出来る」

「分かった、じゃあ取りあえず廃屋を調べてみようか」

マリコルヌの提案に京也は同意をした。
此処まで着た以上、速やかに目的を達成する事が大切だ。

「・・・そうだな、ギーシュ達は此処に残って万が一に備えてくれ。
 ルイズはヴァーユを頼む。」

「分かったよ、特に後ろの女性には気をつける」

「ま、まあ、仕方ないわね」

ルイズにも京也の危機感は伝わったらしく、嫌がるヴァーユに手間取りながらも胸に抱きかかえる。
ヴァーユも捕まってからは大人しくなり、円らな瞳で京也を見上げていた。

「じゃ、行くかマリコルヌ」

「おう」

未だ下手な漫才を続けている大人二人を残して、京也とマリコルヌが廃屋に近づく。
足音も立てず、すべるように廃屋に近づく京也。
そして、地面から少し浮いた状態で、それに併走?というか併転するマリコルヌ。

手段は違えど、見事に廃屋に同時に辿り着いていた。

「ああ、最近あのマリコルヌの移動姿に違和感を感じない自分が怖い」

「でも彼の唱えるフライより、あの移動方法の方が早いのは事実」

「・・・やっている事は凄いんだけどね」

キュルケとタバサの酷評に、一生懸命に友人の名誉を守ろうとするギーシュだった。

 

 

廃屋に着いた京也は既に室内に誰も居ない事を気配から察していた。
もし、自分に『破壊の珠』の使用方法を聞きだすためなら、この廃屋内に問題の品が置かれている可能性も有る。
何処でロングビルがその仮面を脱ぎ捨てるつもりか分からないが、『破壊の珠』さえ確保出来れば、後は何とか対処出来る自信が京也にはあった。

「うん、魔法の罠とかも無さそうだ」

デティクト・マジックで魔法関係の有無を調べていたマリコルヌが、京也にそう報告する。
その報告に一つ頷き、京也は阿修羅を右手に持ち、慎重に廃屋に入っていった。

 

 

「京也の話、どう思う?」

「二十万もの死者が出たのに、その話を噂にも聞かないのは不自然」

「そうよねぇ」

タバサの意見を聞いた後、キュルケは視線をルイズに向けた。
ルイズは時々抜け出そうとするヴァーユの相手に精一杯で、キュルケの視線には気が付いていなかった。
今まではあえて問い詰めていなかったが、京也の言動は東方の出身という、社会基盤が違うというだけの理由では説明が出来ないレベルにあった。
困った事に先ほどの発言を全て嘘で片付けられれば、ここまで悩む必要は無いのだが。

「・・・そんな嘘を吐く男には見えないものね」

キュルケの呟きに、タバサは無言で頷き同意をした。

 

 

ルイズはキュルケの視線に気が付いていない訳ではなかった。
ただ、京也の事を問い質されても、答える術が無かったので適当にヴァーユに構っている振りをしていたのだ。
以前、京也の事については、本人から異世界の人間だと教えてもらった。
実際に携帯電話なる不思議な物も見せられたし、召喚時に着ていた衣服も不思議な手触りの素材だった。

その京也が警戒をしている『破壊の珠』は、本当に危ない物なんだと思う。
だけど、大切な使い魔が・・・命懸けの仕事に趣くならば、主人たる自分も着いて行くべきだと思った。

 

 

――――――本来ならば主人を守るのが使い魔の役目ではあるのだが。

 

 

自分の心の動きを素直に認められないルイズだった。

 

 

 

廃屋に入る京也とマリコルヌを見守りながら、ギーシュは隣で青い顔をしているモンモランシーを気遣っていた。
優しい気質の彼女には、先ほどの会話は強烈だったのだろう。
何時もなら自分と同じように女性への気遣いを見せる京也が、そこまで気を遣えない状態だったのだ。

なら、彼氏としては彼女が落ち着くまで傍に居る事が当然だろう。

「大丈夫かい?」

「うん、落ち着いてきたから。
 でも、やっぱりさっきの話は嘘だと思う。
 だってトリステイン王国民の全てを足しても、確か百五十万人程のはず。
 そのうち二十万人を殺せるような代物なんて、存在するはずがないわ」

「そうだね」

「きっとそうよ。
 学院に帰ったら、問い詰めてやるわ」

「ははは、お手柔らかに頼むよ」

少しづつ顔色を良くするモンモランシーに合いの手を入れながら、ギーシュは京也達が無事に帰ってくる事を願った。
モンモランシーも自分を気遣ってくれるギーシュに感謝をしながら、廃屋に視線を注いでいた。

 

 

――――――そんな仲間達の背後で、事態は大きく動き出していた。

 

 

「埃の積もったテーブルに酒の空き瓶、後は壊れた暖炉と木のチェスト」

京也が廃屋内を一瞥したところ、目立ったのはそんなガラクタばかりだった。

「怪しいのはチェストかな?」

京也の背後から同じように廃屋内を覗き込んだマリコルヌの発言を受けて、京也が用心深く木のチェストに近づく。

「ま、そうだろうな・・・そうだといいな・・・無いな、残念」

木のチェストを阿修羅を使って開いてみたが、そこには何も無かった。
半ば予想していた事とはいえ、やはり目当ての品が無いと分かると気落ちをする。

「一応、床板を引っぺがしていくか?」

「ああ、魔法は使うなよ。
 万が一も考えられるから、丁寧に一枚一枚剥がすんだ」

「うげぇ・・・」

フーケの思惑通りなら、何か動きがあるはず。
その動きがあるまでは、一応廃屋の捜査を続けなければいけなかった。

しかし、京也とマリコルヌが床板に手を掛けた瞬間。

 

 

 

「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

身も世も無い男性の悲鳴が外から響いてきた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・普通、こうゆう場合は美女の悲鳴じゃないのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・同感だ」

マリコルヌの意見に賛成をしつつ、京也は廃屋を飛び出した。

 

 

廃屋を飛び出した先では、二十メートルの身長を誇る土のゴーレムが居た。
そしてそのゴーレムの右腕には、コルベールが捕まっており。
ロングビルならぬ、フーケは笑顔でゴーレムの肩に立っていた。

「ミ、ミス・ロングビル!!
 ここここ、これは何のプレイですか!!」

「ななな、何勘違いしてるんだいこの禿!!」

「禿だなんて、そんな酷い!!」

どうやらまだ漫才は続いていたようだ。
色々とやる気とか焦りとか根気とか使命感とか、大切なナニかを失いながらも京也達は何とか踏み止まっていた。
しかし、こちらから声を掛ける事は・・・京也といえども無理だった。

「出来ればもっとソフトな方が・・・」

「趣味を疑われるような事言うんじゃないよ!!」

好い加減、堪忍袋の緒が切れたのか、凄い勢いでゴーレムの右腕をシェイクする。
さすがにそのプレイ?は効いたのか、コルベールは泡を吹きながら気絶をしてしまった。

「はぁはぁ、思い知ったかい、この変態禿助平親父が!!
 まったく!! あのセクハラ学院長といい、この変態教師といい!!
 どうなってるんだい、あの魔法学院は!!」

「うわぁ、何か私の中のコルベール先生のイメージが変わったわ」

「変わった・・・というより、終わった、よね」

荒い息のフーケに何故か同情しつつ、モンモランシーとキュルケが小声で会話をする。
いまいち意味が分からなかったタバサとルイズは、不思議そうに頭を傾げながら京也を見る。
その視線を受けて、京也はギーシュに助けを求めた。
ギーシュはそのパスをマリコルヌにスルーした。

「良し、任せろ。
 俺が詳しく教えてやるぜ、主に実戦形式で」

「「止めろ、この馬鹿」」

友人二人の突込みを受け、マリコルヌは地面に沈んだ。
会話に付いて行けないルイズとタバサは、お互いにハテナマークを量産していた。

「お前達!! 私を無視するんじゃないよ!!」

「・・・いや、決して無視をしたかった訳じゃないんだが。
 まあ良いや、それより『破壊の珠』は何処だ」

真面目な表情になった京也が、阿修羅をフーケに突き付けながら言い放つ。
そのプレッシャーに圧されたかのように、二十メートルの巨人が一歩後ずさった。

たかだか棒切れを持つ平民に気圧された事に気が付き、動揺しながらもフーケは余裕を伺わせる声で話を続ける。

「・・・驚かない所を見ると。
 どうやら私の正体がフーケだと知ってたみたいだね」

「まあな」

「なら、ここに誘き出したのは罠だと分かってるって事かい?」

「分かっていても、見逃せない事がある」

「・・・それほど凄いお宝って事かい、この『破壊の珠』は」

フーケが指差した先・・・
そこにはゴーレムの額に、滑らかな金属の輝きを放つ丸い珠が埋め込まれていた。

珠の表目に刻まれているおなじみの原子力マークを確認して、思わず京也が呻く。
一番起きて欲しくない事態が、此処に現実として現れていた。

「おやおや、何時も飄々としているアンタらしくないじゃないか?
 アンタならこの『破壊の珠』の使い方を知っていると思ってたけど、これは当たりみたいだねぇ」

「・・・」

ここで原子爆弾の恐ろしさを語っても、相手にその知識が無い以上、説得できるとは思えない。
京也は黙り込んだままで、どうやって相手を説得するか考えていた。

・・・そう簡単に原子爆弾が爆発するとは思えない。
だが、何らかのリモートスイッチかタイマー式の起爆スイッチが存在する可能性もある。
元々がテロリストが使うような、非常識な爆弾なのだ。
こちらの常識では考えもつかない起爆方法がある可能性は捨てられない。
やはり、速やかに『破壊の珠』を奪還して、何らかの無効化手段を講じる必要がある。

覚悟を決めた京也が、まず目の前のゴーレムを倒そうと仕掛けようとした時、京也達を挟む形でもう一体のゴーレムが現れた。

「このクラスのゴーレムをもう一体作るなんて!!
 まさかフーケはスクウェア・メイジなのか!!」

前方と同じ二十メートルの身長を誇るゴーレムに、ギーシュが驚きの声を上げる。

「ふふふ、さすがに同時にこれだけのゴーレムは作れないさ。
 でも今回は時間を掛けて用意が出来たからねぇ。
 先に作っておいたゴーレムと、今のゴーレム分の精神力が溜まったから、こうやって仕掛けたのさ!!」

両方から襲い掛かってくるゴーレムの攻撃を避ける為、京也はルイズを抱えてその場から跳び退く。
ギーシュもモンモランシーの手を引いて逃げ出し、マリコルヌも転がって難を逃れた。

「ナイスタイミングよタバサ!!」

「この娘のお陰」

タバサとキュルケはシルフィードによって救出されていた。

「ははははは!!
 アンタは不思議な技を使うそうだが、二体同時に相手は出来ないだろう?
 感謝しなよ、このフーケが平民相手に策を練って用意したんだ。
 ・・・風竜に乗ってるお前さん達も、逃げようとするんじゃないよ。
 変態とはいえ、自分達のせいで教師が死ぬのは目覚めが悪いだろう?」

「くそっ、人質に原子爆弾付きかよ」

フーケが肩に乗っているゴーレム1号に相対しながら京也は呻く。
一体だけならば仲間と協力をして、隙を見てゴーレムを無効化すれば、コルベールと『破壊の珠』を回収出来た。
・・・だが、二体が相手ではそれは無理だ。
正面のゴーレムに集中すれば背後のゴーレムは仲間を襲うだろう。
かと言って、背後の一体を京也が無効化した時点で、フーケはまず逃げをうつ。
そして、フーケが引き際の判断を誤るようなアマチュアとは思えない。
きっとゴーレムを二体用意した理由も、京也の念法に対する情報が足りない為に保険として用意をしたのだろう。

京也が事態を打開する為の方法を考えている間にも、仲間達がゴーレム2号に攻撃を仕掛けているが、その表面を削り取る事がやっとの状態だった。

「無駄無駄無駄!!
 学生にしてはそこそこの腕前みたいだけど、時間を掛けて防御力を上げてる特別製のゴーレムだからね。
 あんた達の攻撃じゃあ、表面を削り取る事で精一杯さ!!
 何時までも足掻いていないで、いいかげん降参しな!!
 それとも・・・一人か二人、殺してやろうか?」

上空からの行われるタバサやキュルケの攻撃を、ゴーレムに防がせながらフーケが嘲笑う。
京也の情報が頭に残っているのか、一応『破壊の珠』には命中しないように気を付けているが、戦闘時には何が起こるか分からない。

ギーシュやマリコルヌも何時までも逃げ続けるのは無理だろう。
何よりギーシュはモンモランシーを庇いながらの戦闘だ、精神的にも肉体的にもかなりの負担だろう。

タイムリミットは近い・・・それまでに何か手を考えなければ。

京也が現状を打開する為に悩んでいると、抱きかかえているルイズが話し掛けてきた。

「京也、あんたなら一人でゴーレムを一体は倒せるよね」

「まあ、そこに集中できればな」

ゴーレム1号の蹴りを避けながら、ルイズの問いに答える。
相変わらずルイズに抱えられたままのヴァーユだが、雰囲気を察しているのか暴れようとはしていなかった。

「・・・なら私を降ろして戦いなさい。
 もう一体は私達が受け持つ」

「どうやって?」

現在の戦力では、手も足も出ない。
それは上空で無駄な攻撃を行わず、回避に専念しているタバサ達が証明していた。
魔法を使った攻撃では、あの二人が最強なのだ。

「貴族としては癪だけど・・・逃げ回って、気を引いてみせる。
 何も出来ないかもしれないけど、何もしないままで居たくない。
 私は魔法が使えなくても貴族として、京也の主人として、相応しい人物だと証明したい。
 だって、あの『破壊の珠』が使われたら、大変な事になるんでしょ」

ルイズの真っ直ぐな眼差しを受け、京也は黙り込んでしまった。
そこには真摯なまでの信頼があった。
京也の話を信じ、その実力を信じ、自分自信を信じようとする姿だった。

「なら俺は、ルイズに勝利を味合わせてやる」

 

 

 

それは『破壊の珠』の正体発覚以来、初めて見せる京也の天真爛漫な笑顔だった。

 

 

 

京也の合図で少し距離を取った場所に仲間達は集結した。
そこで短い間に作戦の指示を出し、京也は一人でフーケの下に向かい、ルイズ達はゴーレム2号へと向かった。

「おやおや、ご主人様のお守りは終わりかい?」

「まあな、あんたもルイズ達を舐めてると痛い目を見るぜ」

相変わらず気絶をしたままのコルベールを握っているゴーレムの右腕が、返事とばかりに繰り出される。
ルイズを抱えていない分、身軽になった京也は軽くその攻撃を避けた。

「避けてばかりじゃ終わらないよ!!
 さっさっと『破壊の珠』について吐いちまいな!!
 それとも、ご主人様が蛙みたいに潰されないと、話す気になれないのかい!!」

先ほどと違い、余裕の表情を浮かべている京也が気に入らないのか、コルベールへの気遣いも忘れて凄い勢いでフーケはゴーレム1号を操りだした。

「ははん、何時まで笑ってられるかな?
 ではでは、十六夜 京也――――――推して参る!!」

 

 

 

「どう思う、親友?」

「ここまで来て引き下がれないよ。
 どちらにしろ、この作戦に僕達の命運は掛かっているんだし。
 モンモランシーを守る為だ、何でもするよ僕は」

京也から言われた事を信じたいが、あまりに荒唐無稽と思われる話に戸惑っていた。
だが、今まで京也を信じて戦ってきたのだ、ならば今回も信じるのみだ。

背後を振り返れば、ルイズが決意を込めた表情でこちらに向かってくるゴーレム2号を睨んでいる。
その両脇にはタバサとキュルケが立っており、モンモランシーは少し離れた位置で全員を見守っていた。

少なくとも、いざとなればモンモランシーだけでも逃げ出せる可能性は高い。

不謹慎な話だと分かっているが、それを確認してギーシュの心は軽くなった。

「で、ローザとの仲はどうなんだい?」

「ここで聞く話かぁ?
 ・・・ま、良い感じにはなってるよ、それなりに」

「今度は花でも贈ってみたまえ。
 効果は抜群だ、保障する」

「そこまで言うなら花を選ぶ時は手伝えよ」

「代金はちゃんと自分で払うなら付き合うよ」

「良し、乗った」

お互いに笑顔で約束をした後、ギーシュとマリコルヌは左右に散った。
ゴーレム2号がどちらを追うか迷っている間に、キュルケとタバサから全力の攻撃が放たれる。
巨大な火球と氷の矢の攻撃を続けて受け、爆煙につつまれて流石に巨体を揺るがす。

しかし、所々にヒビらしきものを入れただけで、再びゴーレム2号はルイズ達を目標と決めて動き出した。

「くっ、あの攻撃でヒビだけなんて、なんて生意気!!」

「尋常じゃない硬さ」

最後の攻撃を放ち終えた二人は、青い顔で座り込んでいた。
流石に逃げ出す気力は無いらしく、上空に居るシルフィードが心配そうに鳴いている。

しかし、そんな事はゴーレム2号には関係が無い。
ただ、打ち込まれたコマンドに従い、主人の脅威となりそうな邪魔者を潰す。

だが、5歩進んだ時点で・・・突然ゴーレム2号は地面に胸まで沈み込んだ。
それと同時に大量の黒い粉が上空に舞い上がる。

「こ、ここまでの錬金が僕の限界だ!!」

魔法の使いすぎによる精神力の枯渇により、ふらふらになりながらギーシュがゴーレム2号から距離を取る。
その危なっかしい姿に、モンモランシーは駆け寄りたい衝動を必死に押さえ込んでいた。

やがて目晦ましのように待っていた黒い粉が、渦を巻きながらゴーレム2号に纏わり付く。
しかし、その黒い粉に特に害は無いらしく、両手を落とし穴の縁に置いたゴーレムが身体を持ち上げようとした時、風の結界を維持していたマリコルヌの声が響き渡った。

「準備完了!!
 派手にかましてやれ、ルイズ!!」

「言われなくても!!」

ありったけの精神力を込めたファイヤー・ボールをルイズは放った。
残念ながら何時ものように失敗魔法だが、京也は最初に言っていた。

 

 

――――――火が出ればルイズの勝ちだ、と。

 

 

そして、私達の誰もが予想しない大爆発が起こった。

 

 

響き渡る轟音

衝撃はその後に訪れた。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「のわぁぁぁぁ!!」

「どえぇぇぇぇぇ!!」

「何のなのよぉぉぉぉぉ!!」

「きゅいぃぃぃぃぃぃ!!」

仕掛けた本人達も、空を飛ぶ風竜すら巻き込む衝撃波が通り過ぎた後、地面に立っている者は居なかった。

そして、当然の如く爆心地に居たゴーレム2号の姿は影も形も残っていなかった。

 

 

「な、何が起こったんだい?」

フーケは爆心地から幾分離れていた為、暴風に煽られたが辛うじてゴーレム1号に捕まってやり過ごす事が出来た。
そして、煙が晴れた先には、渾身の力作ともいえるゴーレム2号の姿を確認する事が出来なかった。

「凄いだろ、粉塵爆発って言うんだぜ」

「なっ!!」

直ぐ耳元で聞こえた声に、驚いてゴーレム1号の頭部を見上げる。
そこには『破壊の珠』を左手に持つ、京也の姿があった。

「何時の間に・・・」

「さっきの爆風に乗って、ちょっと跳び上がったのさ。
 言っただろ、ルイズ達を舐めるなよって」

「ちっ!!」

笑顔で啖呵を切る京也に向けて、ゴーレム1号の右腕が襲い掛かる。
その一撃を京也は跳び上がって避けた後、大上段から阿修羅の一撃を繰り出した。

「せいやぁぁぁっ!!」

地面に阿修羅が叩きつけられた時。
静かにゴーレム1号は左右に別れ、地面に着く前に塵と化した。

「な、何て出鱈目な技だい!!」

いち早く危機を感じ取ったフーケは、逃げ出そうとし杖を振ろうとした瞬間、京也が投擲した投げナイフに杖を弾かれその場に座り込んでしまった。

「俺達の勝ちだな」

悔しげに目を向けた先には、太陽の笑顔を向ける京也が居た。

 

 

 

目を回していたルイズ達が、爆風にやられた鼓膜をモンモランシーに治療してもらいながら合流をしたのは、それから十分ぐらい経った後だった。

「・・・まだ耳がキーンって」

「ははは、勝利の代償って奴だな」

まだ真っ直ぐ歩けないルイズの頭を撫でて、その健闘を称える京也だった。
一歩間違えれば、ギーシュ達は潰され、ルイズ達も無事では済まなかっただろう。
だが、無事にその姿を見せてくれた事に、京也は喜びを感じていた。
ルイズもそんな京也の気持ちが分かるのか、黙って頭を撫でられていた。

そんな二人の様子をロープで縛られたフーケが憮然とした顔で見ている。

「何時もの失敗魔法はどうしたんだい、ミス・ヴァリエール?」

「何時もの失敗魔法よ、フーケ」

フーケの問い掛けに、今度はルイズが憮然とした表情で返事をする。
そんなフーケの疑問に答えたのは京也だった。

「あれは科学の力さ。
 せいぜいドット・メイジが二名もいれば、あの程度の爆発も起こせる」

「あの爆発がドット・メイジ二人の仕業だって!!」

心底驚いた顔をするフーケ。
ルイズは実際に体験をしただけに「科学」の恐ろしさが身に沁みて分かった。

「そして、そんな科学の力の結晶が・・・この『破壊の珠』だ。
 一つ言わせてもらえるなら、この『破壊の珠』の力はさっきの爆発の比じゃないぜ」

今なら京也があれほど焦っていた理由が分かる。
ルイズはギーシュとマリコルヌの二人が用意した導火線に、火を点けただけだった。
その結果は大地に刻まれた大きなクレーターとして、今も目の前に残っている。

その威力に戦慄する仲間達を置いて、京也とフーケの会話が続く。

「前々から不思議だったんだ。
 どうして、宝物庫にある他の財宝を無視して、『破壊の珠』のみを狙ったのか。
 宝石の一掴みでも持って出ていれば、十分な儲けになってただろう?」

「ふん、目標以外のお宝を盗むのは、自分の美徳に反するんでね」

京也達の会話に気が付いたのか、ギーシュ達もその周囲に集まってくる。
キュルケなどは先ほど馬鹿にされていただけに、縛られているフーケを見て良い気味だと鼻で笑っていた。

「・・・嘘だな」

京也はフーケの主張を嘘と決め付けた。

「何がだい?」

「心臓に何を仕込まれた?」

「!!」

フーケの表情が強張り、次の瞬間にがたがたと青い顔で震えだした。
明らかに異常なその様子に、思わずギーシュとマリコルヌが身体を押さえようとするが、それすらも跳ね飛ばしそうな勢いでフーケが身体を揺すり。

そして、信じられない事に次の瞬間、身体を縛るロープを弾き飛ばした。

「ちょっと、どれだけ馬鹿力なのよ!!」

「ルイズ、下がれ!!」

何事か叫びながらルイズに向かっていくフーケの前に、当然の如く立ち塞がるのは京也。
京也の出現により突進のスピードは鈍ったが、そのままの勢いでフーケは体当たりを仕掛けた。

『相棒、相手は正気じゃねえぞ!!』

「見りゃ分かる」

目を半眼にして、阿修羅を正眼に構え身体のチャクラを次々に全力稼動させる。
そして、喉にある第五のチャクラまでが全力で動いている状態で、京也はその一撃を繰り出した。

 

 

フーケと京也が交差し、お互いの動きが止まった。

 

 

『し、心臓を一撃かよ、すげーな相棒』

デルフの言葉の通り、阿修羅は見事にフーケの心臓を貫いていた。
フーケの背中まで貫いた阿修羅の切っ先は、ローブを突き破っていた。

「きょ、京也・・・まさか君が人を殺すなんて・・・」

信じられないとばかりに首を左右に振るギーシュの前で、突然フーケの背中から黒い影が凄い勢いで飛び出す。
やがて影が一箇所に集まり、人の顔らしきモノを型作り始めた。
その黒い影はまるで生きる者全てを呪うような、禍々しい気配を周囲にばら撒いていた。

「な、何よアレ・・・」

その禍々しい気配に心身を縛られて、弱っていたルイズ達は指一本動かせない状態に陥る。

『ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

「心臓に寄生して、他人の人生を操るとは良い趣味とは言えねぇぞ」

黒い影は一番身近に居る京也に目を付けたのか、凄い勢いで襲い掛かった。

「京也、危ない!!」

ルイズが悲鳴を上げる。
しかし、京也は慌てずフーケから阿修羅を引き抜き、横殴りの一閃でその影を切り裂いた。

 

――――――今度は悲鳴を上げる間も無く、その影は空中に消えた。

 

呆然とした表情で、今までの出来事を見守っていたルイズが、恐る恐る京也に質問をする。

「さっきの影って何なの?」

「さあ? 多分、何かのマジックアイテムを使った呪い、かもな。
 フーケの心臓に明らかに異質な魔力が宿っていたんだ。
 それを言及した途端に、証拠隠滅をする為に寄生主を暴走状態にして襲い掛かった。
 ・・・何処で仕掛けられたのか知らないが、ある意味彼女も被害者かもな」

そう言って、地面に横たわるフーケを京也は抱き起こした。

「そんな理由が有ったなんて」

「フーケは誰かに利用されていたのね」

タバサとモンモランシーが表情を曇らせ、キュルケも先ほどの態度を反省するような顔をしていた。

「でも仕方ないさ、他人に操られる人生だったけど。
 最後には京也のお陰で自由になれたんだ」

「そうだね」

 

「・・・ちょっと待て、何を言ってるんだお前達?」

 

綺麗に話を纏めようとしたマリコルヌとギーシュの言葉に、京也が待ったをかける。

「え、だって心臓を貫いてたじゃないか」

「普通に死ぬだろ、ありゃ」

「十六夜念法を舐めるなよ。
 ちゃんと傷一つ無く生きてるよ」

「「「「「「何ぃぃ!!」」」」」」

京也の思わぬ告白に、キュルケが京也からフーケを奪い取り、そのローブを下着ごと胸元まで捲って傷を確かめる。

そこにある豊満な胸には、本当に傷一つ無かった。

「嘘、本当に無傷よ!!」

「触っても傷跡一つ見当たらないわ!!」

キュルケに続いてモンモランシーも、回復魔法の使い手として興味があるのか丁寧に心臓の辺りを撫で回す。

フーケの背中を覗いていたルイズとタバサも、傷が無い事を確認して驚いていた。

 

・・・では、自分達が見たあの光景は一体何だったのだろうか?

 

「・・・いや、眼福もんだけどさ、流石にそろそろ隠してやれよ」

「個人的には問題無い」

「個人的には下も脱がして、怪我の確認をするべきだと具申致す」

フーケから視線を外した京也、欲望にちょっと正直なギーシュ、欲望に忠実なマリコルヌの言葉を聞いて、女性陣からは無言のまま攻撃呪文の雨が降らされた。

 

 

 

「あー、心霊治療って治療方法が俺の国にはあってさ。
 身体に傷を残さず、患部に直接手を入れて治療とかするんだけど。
 今回は呪いを患部に見立てて、阿修羅を使ってそれを行ったわけだ。
 かなりの精神力と念が必要だけどな」

「へー、それは随分と器用な・・・というか、呆れるような技ね」

まあ、それもこれも十六夜念法を使える事が前提だけどなー

と、のほほんとトンでも話をする京也を置いておいて、私達はフーケが気が付くまで地面に座り込んでいた。
色々と限界一杯の所に、調子に乗ってデリカシーの無い男性陣に呪文を使った為、精神力が尽きてしまい動けなくなったのだ。

しかし、何かする度に京也には驚かせられる。
今回の「粉塵爆発」や「熱膨張」という現象も、京也の指示に従って動いた結果だし、あのフーケを呪いから助けたのもそうだった。

そんな自分の使い魔が誇らしく、そして・・・正直に言えば嫉ましい。

自分には喉から手が出るような力を京也は持っている。

努力と言う意味でなら、私も負けない位にしてきたつもりだ。

だから、せめて、私も普通に魔法が使える位にはなりたい。

 

京也に胸を張って、自分が主人だと言える程度には・・・

 

 

 

「丁度いいや、皆にお願いがあるんだ」

コルベール先生の事を思い出した京也が、かなり離れた場所で目を回している先生を見つけて連れて来た後、休んでいる私達にそう話しかけてきた。
改まってお願いをする京也の姿を不思議に思いながら、全員が視線を向けた。

「さっき教えた「熱膨張」と「粉塵爆発」のやり方。
 それを他人には教えないでくれ。
 できれば、自分達で使う事も止めて欲しい」

「何故?」

タバサが代表するような形で京也に問い掛ける。
京也はじゃれ付いてくるヴァーユの相手をしながら、その理由を話してくれた。

「激しい温度差で物質の硬度を劣化させる「熱膨張」
 地面を石炭に錬金して、風の結界で包み込んで起こした「粉塵爆発」
 ・・・どれも教えただけで、皆が使える科学の力だ。
 その手軽さゆえに、広まれば簡単に大量の死者を出してしまう」

「確かに、ドット・メイジ二人であの爆発力・・・
 これがラインやトライアングルになったら。
 戦争にでも使われだしたら、それこそ地獄が大量生産できそうね」

キュルケもそれに思い至ったのか、青い顔で唇を噛んだ。

「俺には皆に頼む事しか出来ない。
 お願いだからこの知識を他人に話さず、自らも使わないでくれと。
 『破壊の珠』に俺が拘ったように、これは危険な知識だと分かって欲しい」

そう言って頭を下げる京也に、皆は快く頷き沈黙を誓った。
確かにあの破壊力には惹かれるものがあるが、過ぎた力は身の破滅を呼ぶとよく言われている事を知っていたから。
自分達が力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられると思っていたから。

 

 

 

だからこそ、その誓いは破られないと・・・その時は誰もが、そう思っていた。

 

 

 

 

「う・・・此処は?」

「あ、気が付いた?
 日が暮れる前に気が付いて良かったわ」

あの呪いを受けて以来、常に感じていた心臓の疼きが無くなっていた。
いや、それ以前に確か心臓を木の棒で貫かれたはず!!

飛び起きた後、思わずローブの胸元を見る。
そこには確かに貫かれた後があった。
しかし、ローブと下着を捲った先には、なだらかな無傷の胸があっただけだった。

「夢だったのかい?」

「・・・その気持ちも分かるけど、とりあえずそのむかつく胸をしまいなさいよ」

呆然と呟く私に、不機嫌そうな声で文句を言ったのはルイズだった。
思わずその薄い胸に目を向けてしまい・・・鼻で笑ってやった。

「ななななな、鼻で笑った?
 ねえ、今、鼻で笑ったわよね?」

「胸ぐらいでガタガタ騒ぐんじゃないよ。
 気になるなら頼りになる使い魔兼彼氏に揉んでもらいな」

「つつつつ、使い魔だけど彼氏じゃないわよ!!」

「あー、はいはい。
 分かった分かった」

真っ赤な顔で否定してくるルイズを適当にあしらいながら、問題の使い魔を探した。
そいつはルイズの後ろで、先ほどの爆風で壊れてしまった馬車をギーシュと一緒に修復していた。

「どうするんだよ、こんなに壊しやがって・・・」

「それ、君が言う?
 ねえ、君が言う?」

ぎゃいぎゃいと遊んでいる二人の上では、マリコルヌが呆れた顔で馬車の屋根を修復していたが、風竜の子供に突かれて悲鳴を上げながら地面に落ちていた。
それを見て京也とギーシュが囃し立て、起き上がったマリコルヌが真っ赤な顔で仕返しとばかりに、地面に散らばっている馬車の木材を振り回す。
勿論、そんな攻撃が京也には当たる筈も無いが、ギーシュの頭には見事にヒットしていた。
それを見て腹を抱えて笑い出すマリコヌル。

・・・何処にでも居るガキの集団だ。

「こんな奴等にこの『土くれ』のフーケが負けるなんてねぇ」

しかし、夢でなければこの京也の一撃で、自分はあの女の呪いから救われたのだ。

・・・何が目的なのかは知らないが。

「京也、フーケが気が付いたわよ」

「お、そうかそうか」

ルイズに呼ばれた京也が相変わらず暴れているマリコルヌを手で制止して、京也だけが私の元に歩いてくる。

「こんな泥棒の命を助けるなんて、物好きな事をするんだね」

「でも仕送りが出来なくなったら妹さん達が困るだろ?」

 

 

「・・・何の話だい?」

少し黙り込んでしまった事を悔やみながら、なるべく平静な声で話を続ける。
そんな私の前に京也は背中に背負っていた剣を抜き、地面に突き刺した。

「魔剣デルフリンガー改め、魔剣デスブリンガーさんです」

『ど、どうもお久しぶりです』

その聞き覚えのある名前を記憶の底から思い出す。
つい最近、聞いた名前だった。

 

思い出した。

 

「・・・・・・・・・・・・揃って騙してたんだね?」

『いや、発案者は相棒、相棒なんだよ本当に』

「いたいけな女性を騙して虐めて、そんなに楽しいのかい?」

『いやいたいけって誰のことだよ?
 というか、何で俺だけ責められてるの? ねえ?
 おい、何を信じられないって顔で後退してるんだよ、相棒!!』

よよよ、と泣き崩れる振りをすると、面白いようにインテリジェンス・ソードが慌てていた。

「ちゃんと責任は取れよ、デルフ」

「そうそう、末永くお幸せに」

何故かデルフと私から距離を置いて、京也とルイズが手を振っている。

『よっしゃ、俺も男だ責任は取ってやらぁ!!』

「はん、何が悲しくて剣相手に一緒にならないといけないのさ」

 

 

『俺が弄ばれてるぅ!!』

 

 

泣き叫ぶデルフを鞘に押し込んで黙らせた京也が、改めてフーケに経緯を説明した。
それを聞いたフーケは所々で質問をした後、色々と考え込んでいた。

「・・・改めて聞くけど、何で私を助けたのさ?」

「同情もあったけど、情報を聞き出したかったんだ。
 あの『破壊の珠』を盗むように命令をしたの誰なんだ?」

京也の正直な物言いにフーケは好感を抱いた。
これで同情だけで助けたというのなら、そんなあやふやな理由で他人の人生に干渉をするなと言うのだが、ギブアンドテイクとなれば、情報を提供する事はやぶさかではない。

 

・・・無償の好意を信じる事は、もう出来ない生き方を今までしてきたのだ。

 

「三年ほど前に夜道で変な女に襲われて、その時に何かのマジックアイテムで呪われたのさ。
 それ以来、手紙で何処そこのお宝を盗んでこい、とかの指示が届くようになった。
 意図的に逆らうと、とたんに心臓に激痛が走るのさ。
 まあ、盗難の対象はどれもこれも、珍しいマジックアイテムばかりで骨を折ったもんさ。
 盗んだお宝は、毎回住所の違う届け先に配送して仕事は完了。
 一度、荷物の届け先を調べようとしたけど、ただの空き家だった。
 もちろん、この呪いについても色々と解呪方法を試したけれど、どれも失敗。
 他人にこの呪いを話そうとすると、一気に呪いが活性化して理性が消えちまう」

一応、成功報酬でそこそこの額が貰えるので、仕送りや生活には困らなかったが。

フーケからそんな説明を受けて、京也達は考え込んでしまった。

「・・・誰かが意図的に危険なマジックアイテムを集めている、か。
 しかも、戦争位にしか使えない危険な代物ばかり」

「もしかすると、フーケ以外にも呪われて盗みを働いている人が居るのかな」

視線で京也が続きを促すが、それ以上の情報を持たないフーケは肩を竦めた。

「襲われた時の女性の顔は?」

「さあねぇ、フードで顔を隠してたし。
 ・・・そういえば、額にルーンらしきものがあったような気がするね」

「額にルーンね」

『破壊の珠』を狙った本当の犯人は、結局見つからなかった。
京也としてはこんな物騒な物を狙った相手を、なんとしても探し出し意図を確かめたかったがこれ以上は手のうちようは無かった。

「さて、この後はどうするんだい?
 一応、呪いを解いてくれた恩人だけど、捕まる訳にはいかないからね。
 見逃してくれると嬉しい限りだけど」

「ん、秘書を続けたらいいんじゃないかな?
 それに、その謎の女が様子を見に来た時、俺が居た方がいいだろ。
 俺自身もその女に興味があるし」

京也がそう言うと、フーケが驚いた顔をして固まった。
『破壊の珠』を取り返した以上、逃がしたところで大した問題にはならないと思う。
だが、フーケに呪いを掛けた女が『破壊の珠』の真相を知っているならば、それは京也と同じ世界の人間という可能性が高い。
つまり、元の世界に帰る為の情報源となる可能性があるのだ。

それに、この姉御肌の女性にこれ以上罪を重ねて欲しくないとも思っている。

「・・・あの変態教師と、セクハラ爺さんの相手をまだ続けろって言うのかい?」

「そこは本気で同情するけど、安全と引き換えの上、さらに給料も貰えるならまだ良い話だと思うぞ。
 一応、俺達の腕前は自分自身で確認出来ただろうし。
 ・・・ルイズはどう思う?」

「ま、このまま逃がすより。
 目の届く所に居る方が安心するわね」

京也の提示する破格の扱いに、ルイズとしては反対したい点もあった。
本来なら京也が守るのは自分だけ、と言いたかった。
しかし、そんな狭量な所を京也に見せるも躊躇われたのだ。

ルイズの心の動きを、フーケはその視線から感じ取ってはいた。
だが、確かに今度あの女に狙われれば、命が無いと勘が告げている。
あの女に対抗する為には、こちらも通常ではない戦力をぶつけるしかない。
そう、目の前で不機嫌になったルイズを一生懸命宥めている、この京也のような男を。

まだ死ねない身の上としては、貞操と安全を秤にかけるならば、貞操を売る方に傾いた。

 

 

 

「・・・分かったよ。
 でも護衛については、本当に宜しく頼むよ」

苦笑をしながら秘書に戻る事を了承するフーケ。

「おう、任せとけって。
 今後も宜しく、ミス・ロングビル」

 

 

 

 

こうして、謎を残しつつも『破壊の珠』の盗難事件は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

あとがき

一巻の最後は次になりました(苦笑)

 

 

 





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