十六夜の零

 

 

 

第十章 「剣士と舞踏会」

 

 

 

「・・・はっ、此処は何処だ!?」

教師たる私が不覚にも意識を失っていた。
周囲を見渡せば、そこは森の中にある空き地だった。
どれほどの間、意識を失っていたのか分からないが、素早く起き上がり周囲を確認する。

どうやら私は地面に寝ていたらしく、既に日は暮れようとしている。
所々で地面がめくれており、信じられないほどの大きな穴も一つ開いている。
あれほどの破壊力を持つ魔法が使えるとは思えない、もしかすると『破壊の珠』が使用されたのだろうか?
周囲の惨状もかなりのものだった。
どうやら、私の予想通りフーケは学生達には荷が重過ぎる相手のようだ。
京也君がかなり腕が立つ事は学院長から聞いているが、これ程の実力者を相手にしては心許無い。

 

――――――そう、彼が伝説の使い魔だとしてもだ。

 

ここはやはり、このコルベールが隠してきた実力を見せるしかない!!

そして、ミス・ロングビルの好感度アップを狙うのだ!!

そう、 この髪が消えないうちに!!

「コルベール先生、気合満々な所悪いんですけど。
 フーケはもう逃げちゃいましたよ」

「何デストー!!」

マリコルヌの一言により、コルベールは再び意識を失った。

 

 

 

「コルベール先生、また意識を失ったって?」

「下手に動かせないから、地面に寝かせて様子を見てたのに・・・」

「お、俺が悪いのか?」

日が暮れてきたので、一応の用心として焚き火用の薪を集めていた京也とギーシュが、呆れたような口調でマリコルヌに突っ込む。
マリコルヌとしても中年の禿げたおっさんを見守りたくなかったが、他にやる事も無かったので仕方なく残っていたのだ。

何とも言えない表情を作る三人の周りを、ヴァーユが楽しげに回っている。

「学院長にはタバサから『破壊の珠』の奪取成功を伝えてもらっているから、一泊くらい問題無いと思うけど」

「最近、何かと野宿に縁があるなぁ」

そんな事を言いつつ、手馴れた手付きで焚き火を作る京也とギーシュ。
見ているのも暇なので、マリコルヌはボロボロになった馬車の中から備え付けの食料を取り出してきた。

「女性陣はまだ沐浴から戻ってないのかい?」

「ああ、戻ってない」

ハムを切り分けているマリコルヌに、ギーシュが問いかける。
事件が一段落すると、ルイズを始め女性陣が揃って水浴びを主張したのだ。
粉塵爆発による土ぼこりは予想以上に凄かったらしく、女性としては直ぐに髪や顔の汚れを落としたかったらしい。
女性陣の言い分としては、煤まみれの顔で凱旋など出来ないという所だった。
もっとも、この春先に湖に浸かるわけにはいかないので、髪を洗い濡れたタオルで身体を拭くぐらいが精一杯だろうが。

いがみ合いながら、近場の湖に向かうキュルケとフーケの姿は中々に新鮮だった。

「心配ダナー、様子ヲ見ニ行カナイカ?」

「僕モ丁度ソノ提案ヲスルトコロダッタンダヨ、親友ヨ」

「その気持ちは良く分かるが・・・止めとけって。
 嫌な予感がする、俺の勘は当たるから。
 絶対お前達は失敗する」

不穏な事を言い出す二人に、嫌な予感しかしない京也は止めに入った。

『なんでい相棒!!
 アイツ等の熱い魂が理解出来ないのかよ!!
 かーっ!! 嫌だねこの年で枯れてるなんてよ!!』

「・・・最近、遠慮が無くなって来たなデルフ」

背中で騒ぎ立てるデルフに、京也は冷めた目で返事をする。
ちょっとお仕置きをしてやろうかと思っているうちに、止める間もなくギーシュ達は森に向かって走って行った。

 

そして、その背後を凄い勢いで追いかける・・・コルベール。

 

「教職として、そんな破廉恥な真似は許しませんぞー!!」

「じゃあ、俺達より前を走るなよ!!」

「二人とも足が速いよ!!
 いや、マリコルヌは転がってるけどさ!!」

 

 

 

「コルベール先生・・・打ち所が悪かったのかな?」

『いや、素質があったんだろうぜ・・・きっと』

「きゅい?」

 

 

 

―――――――それから数分後、夕闇に爆発音が響いた。

 

 

 

 

結局、三人に増えた怪我人を地面に並べて、残りのメンバーは食事に掛かっていた。
といってもフーケ以外はまともに料理も出来ないお嬢様なので、京也とフーケだけで準備を行う。

「あんた達も料理の一つくらい出来た方がいいよ。
 狙いの男を落とすのに手料理は良い武器になるからさ。
 ・・・ま、平民狙いなら、って条件が付くけどね」

「うん、それは言えてるな」

干し肉を炙っていた京也が、フーケの物言いに大きく頷く。
それを見ていたルイズが、こっそり料理の勉強をしようかと思っていた。

「それにしても、私を助けてもデメリットの方が多いと思うけどねぇ。
 アンタも中々物好きなもんだ」

「うーん、確かに面倒事を避ける為なら、その方がいいかもしれないけど。
 そういうトラブルって、上手く避けたつもりでも結局後になって倍になって襲ってくるんだよな。
 なら、良い条件で仲間や協力者を増やした方がマシってもんさ。
 あ、これ、経験談ね」

「・・・難儀な人生を歩んでそうだねぇ」

何故か意気投合をする京也とフーケに、ルイズは不機嫌そうな視線を向ける。
ここは今日活躍をした主人と盛り上がるべきでしょうが、と目に力を込めるが京也は気が付かない。
そんなルイズを横目で見ていたキュルケが、声を掛ければいいのに意地っ張りねぇ・・・と、モンモランシーと視線で会話をしていた。

そして、中々戻ってこない一行を心配したのか、タバサがシルフィードと一緒に夕食後に戻ってきた。
タバサは学院長からの伝言を貰っており、怪我人が動かせないようなら無理をせずに明日、学院に帰ってくればいい、という事らしい。
フーケを逃した事は惜しいが、『破壊の珠』を取り返しただけも上々という事だった。

女性陣は野宿を嫌がったが、自業自得とはいえ怪我人達を動かすのも可哀想なので、結局野宿となった。

 

 

 

一応、何があるか分からないので寝ずの番を京也が言い出した。

地面に毛布を引いただけの寝床で、時々呻き声を上げる三人を視界に納めつつ、焚き火に薪を足す。
ヴァーユも遊び疲れたのか、胡坐をかいた京也の膝の上で気持ち良さそうに寝ていた。

「眠れないのか?」

京也は女性陣が占領した馬車内から、こちらを伺っていたタバサに声を掛ける。
他の人間を起こさないよう、抑えられた低い声だがタバサには聞こえていたらしく、毛布を羽織ったまま馬車を降りてきて京也の隣に座った。
タバサが寒くないように、京也は薪を多めに火にくべた。

暫くの間、お互いに無言のままだったが、タバサから口を開いた。

「貴方にお願いがあります」

「随分と改まった話みたいだな」

何時も以上に硬質なタバサの声に、京也も何かを感じたのか表情を引き締めた。

「私のお母様は魔法で調合された強力な毒を飲まされて心を壊しました。
 いままで、色々な薬や魔法を試したけれど、どれも駄目でした。
 でも、貴方が昼間フーケに使った方法なら、まだ望みはあるかもしれません」

「・・・」

「もう私には他の手が残っていないんです。
 お金も地位も、私に用意できる限りの報酬を用意します。
 ですから、一度お母様を診てくれませんか?」

その場に両手をついて頭を下げようとするタバサを、京也は肩を押さえる事で押し止める。
動きを止められた事で、何時もは感情の窺えないタバサの目に動揺が浮かんだ。

そんなタバサの顔を覗き込みながら、京也は変わらない笑顔で約束をする。

「何を仲間内で遠慮してるんだよ。
 俺の十六夜念法は、人助けの為にあるんだぜ?
 タバサに頼まれたなら、報酬なんか無くても全力で手助けするさ」

頭を撫でられながら京也にそう言われて、タバサは驚いた顔をしていた。
京也は自分の振るう技の価値に、全然気が付いてないと思ったのだ。
彼が振るう十六夜念法は、最早「奇跡」と言っても差し支えないレベルの業だ。
数々の文献を読み漁った自分でも、心臓に掛かった呪いを木刀の一振りで弾き飛ばすという非常識な話は、読んだ事も聞いた事も無い。

「そう言えば、俺って今まで頑張った報酬って・・・何も貰ってないよなぁ」

急に沈んだ声になった京也に、タバサは思考を切り替える。

「レヴィー・ラーの時も、バビロンの時も、ああ、カダスの時もそうだな・・・」

タバサには聞いた事の無い人名だが、この京也が報酬を貰いたいと思うほどの事件が、過去に何度かあったらしいという事は分かった。
そしてその全てを無報酬でやり遂げている事も、彼の反応を見ていれば分かる。

・・・思わず笑ってしまう位にお人好しなのかもしれない。

焚き火に向かって、ぶつぶつと文句を言う京也を横目で見ながら、タバサは本当に久しぶりに優しい気持ちになって眠りに落ちた。

 

 

 

 

肌寒い空気に目覚ますと、狭い空間に四人の女性が寝転がっていた。
私に抱きつくように眠っている女性が、キュルケである事に気が付き、思わず蹴り起こそうと思ったけど、向こうの抱きしめる力が強すぎて身動きが取れなかった。

・・・馬車の反対側ではモンモランシーとフーケが毛布に包まって眠っている。

不思議な事に、私達の命を狙ったフーケに対する怒りや恨みはなかった。
ロングビルの仮面を被っている時よりも、フーケの時の方が口調も砕けており、近寄り難い雰囲気が消えている事は確かだった。
だいたいミス・ロングビルがキュルケと胸の大きさで競い合ったり、つかみ合いの喧嘩をする姿なんて思い浮かばない。

実際にこの二人は湖で喧嘩をして、モンモランシーが仲裁をする為に魔法で水を大量に頭上から振り掛け、ずぶ濡れのまま怖い笑顔で二人一緒に、必死に謝るモンモランシーを湖に放り込んでいた。

・・・それを見て笑っていた私も、同じ目にあわされたけど。

その後で、濡れた服を脱いで乾かしてる途中に覗きをしてきた三馬鹿を全員で血祭りに上げた。
三馬鹿の一人が京也じゃなくて、コルベール先生だった事には驚いたけど。

あの血祭りが私達の間に奇妙な連帯感を育んだのは確かだった。

 

 

 

――――――――つまり、不思議な事にフーケは私達の身近な存在になっていたのだ。

 

 

 

タバサと合流をして馬車の中で眠る時、女性が集まれば姦しいの言葉通り色々な事を話した。
人生経験という意味では一番豊富なフーケの話に、ついつい惹きこまれる事も多々あった。
貴族の生活と平民の生活を経験したきた彼女の視点から語られる世界は、私達の知る世界がいかに狭いものであるか教えてくれた。
貴族の立場からすると痛々しいと思える話すら、フーケは苦笑をした程度で私達に話をする。

「でも、急に険が取れたわねぇ・・・」

「貴方も心臓に呪いを掛けられて、他人に自分の命を握られてみなよ。
 それで笑って良い子で居られたら、そんな人間を私は逆に信用出来ない」

「・・・ごめんなさい」

キュルケの軽口に真面目な顔で切り返したフーケに、素直にキュルケは謝る。
しかし、フーケは直ぐに砕けた笑顔を見せて、キュルケの謝罪を受け入れた。

「もう済んだ話だからいいよ。
 しっかし、本当に憑き物が落ちたような良い気分よ。
 正直言えば学院長の秘書をやっている時は、何の苦労も知らずに馬鹿騒ぎをしている貴方達が憎かった。
 逆恨みだと分かっていても、何もかも壊してやりたくなる事もあった。
 自分に降りかかった不幸と、同じだけの不幸を味あわせてやりたいってね。
 でもさ、京也の一撃は不思議な事に長年私が蓄積してきたそんなドロドロとした感情を、心臓の呪いごと一緒に吹き飛ばしたのさ。
 そんな奇跡をやり遂げた後も、何てこと無いって顔で話しかけてくるし。
 ・・・ふふふ、とんでもない男ね貴方の使い魔は」

「ふ、ふん、私の使い魔なんだから当然よ!!」

寝転がったまま胸を反らすという器用な真似を披露した私を、呆れたような目で全員が見ていた。

「でも気をつけなよ、強すぎる力はそれに伴う責任を求められる。
 今は学院長に守られているけど、国に目を付けられたら・・・」

「分かってる・・・分かってるわよ、多分」

フーケの視線には本当に気遣う色があった。
自分が国の理不尽により辛い目にあっただけに、その言葉には無視できない重みがあった。
もう全員が嫌でも気付いていた、京也がただの使い魔では無い事を。
その底知れない能力によって助けられフーケは、特に強く感じているのだろう。

何ともいえない沈黙が馬車内に訪れた。

馬車の直ぐ近くに居る、呻いているギーシュ達をからかっているであろう京也。
三人で馬鹿をやっている姿は、そんな凄い技を振るう存在には思えない。
でも今までに何度も、彼の十六夜念法は私達を驚かせてきた。

それに、あの「熱膨張」「粉塵爆発」という科学の知識。
京也から異世界について説明を受けている私でも、あの現象には驚いた。
もしかすると京也は知識の面でも、私達には想像もつかないモノをまだ持っているのかもしれない。

「・・・で、何をしてるんだいタバサ?」

「本当に体調に変化は無い?」

女性だけという気安さからか、フーケは自分の胸をはだけて心臓の辺りを触るに任せていた。
それを良い事に、タバサは熱心にその胸を調べている。

確かにあの心臓を阿修羅で貫かれていた現場を見た限り、フーケが無事と言うのは信じ難いけれど・・・

触るだけ触って満足をしたのか、タバサは一つ頷くと毛布に包まり、馬車のすみの方で眠りに落ちた。
私達もその後は疲れが出てきたのか、次々と夢の世界へと旅立った。

 

 

昨日の寝る前の事を思い出しながら、何とかキュルケの拘束から抜け出す。
考えてみたら一年生の時は何かとこのキュルケとも喧嘩をしたものだ。

 

・・・それが今では、一緒の馬車で仲良く眠っているのだから世の中は分からない。

 

朝の寒さを防ぐ為に毛布を肩から羽織って、馬車の外に静かに出る。
この寒さの中、京也が一人で火の番と見張りをしていたのかと思うと、流石に気の毒に思った。
馬車の中を見渡して、まだ蓋の開いていないワインの瓶を見つけたので、それを手土産に馬車を降りる。
ギーシュから京也はあまりアルコールを飲まないと聞いているけど、冷えた身体には暖めたワインは嬉しいはず。

 

そんな事を思いながら、私は京也の姿を探した。

 

 

京也は昨日と同じ位置に座っていた。

 

 

昨日と違うのはその膝を枕にして、タバサが眠っているという所だ。

 

 

「あらあら、やるじゃないタバサ。
 幸せそうな顔で寝ちゃって」

「こりゃあ見事に出し抜かれたみたいだねぇ」

私の後ろで巨乳姉妹が楽しそうに笑っている。

 

・・・何時の間に起きたのよ。

 

「お、起きたのかルイズ。
 おはようさん」

「な、なんでタバサと一緒に居るのかしら?」

「んー、まあ俺に頼み事があったらしくてさ、夜中に馬車から出てきたんだ。
 その後話し込んでたら眠っちゃってさ。
 地面にそのままってのも可哀想だから膝を貸した」

「あ、あらそうなの」

何時もの飄々たる態度で、淀みなく答える京也を流石にこれ以上問い詰める事は出来なかった。
よくよく考えてみれば、京也は悪い事を何をしていない。

そう、悪い事はしていない、が。

 

 

腹が立つ。

 

 

・・・そうよ別に怒ってなんか無いわ、きっとお腹が空いてるせいで気が立ってるのよ。

 

 

「あら凄い、嫉妬のオーラが目に見えるわ」

「素直じゃないねぇ」

「まあまあ、ルイズの意地っ張りな所は皆さん御存知ですし」

 

背後の見物人にモンモランシーが追加されていた。
何だか我慢とかをするのが馬鹿らしくなったので、私は京也の隣にまで歩いていって手に持っていたワインの瓶を手渡した。

「お、ワインか、有り難う」

「どういたしまして」

笑顔で礼を言う京也の顔を見れず、ついつい横を向いてしまう。
向けた視線の先には、ニヤニヤと笑うフーケ達三人。

「・・・何よ」

「「「別にぃ〜♪」」」

「うわ、なんか投げたい、滅茶苦茶投げたい」

「こ、こらせっかくのワインを投げるなって!!」

力一杯投げたワインの瓶は、残念ながら見当違いの方向に飛んで行った。

「あーあ、後で割れた瓶の回収をしとかないとなぁ」

「ふん」

疲れたような声で呟く京也に罪悪感を感じたが、ついついそっぽを向いてしまう。

 

 

そして。

 

 

「ふぎゃ!!」

「だ、大丈夫ですかコルベール先生!!
 あああああ、顔のど真ん中に瓶がめり込んでる!!
 マリコルヌ、早くモンモランシーを呼んで来てくれ!!」

「ああ、分かった!!
 って、なんだかヤバイ気な痙攣を起こしているぞ!!」

 

 

・・・意図はしてなかったけど、コルベール先生に止めを刺してしまった。

 

 

 

 

 

トリステイン魔法学院には昼前に帰る事が出来た。
元々もが極秘の任務だった為、派手な出迎えなどは勿論無い。
まあ、こちらとしても、そんな歓迎は期待していなかったので、落ち込む事も無かった。

以前、トリステインの城下町に行った時と同じように、僕と京也は御者台に座ってとりとめの無い会話をしていた。
最初は一晩中寝ずの番をしていた京也を、馬車の中で休ませてあげようと思っていたが、コルベール先生が気絶したままなので諦めてもらった。
もっとも本人はまだまだ余裕があるらしく、楽しそうにヴァーユという名前の風竜にパンの切れ端を食べさせている。

考えてみれば昨日の朝から、馬車での移動にフーケとの戦闘、それに続いて寝ずの番・・・

これだけ不眠不休で動いても、まだ体力に余裕があるとは恐れ入る。
どうやらこの親友は体力面でも人並み外れたモノを持っているらしい。

「しかし、本当にフーケを連れてきて良かったのかい?」

「罪を憎んで人を憎まず・・・俺の故郷の近くの国にそんな諺が有る。
 綺麗ごとだと思うけどさ、まだ人死にが出ていない今なら、受け入れられると思わないか?」

「そうだね、あの戦いで誰か殺されていれば・・・僕はフーケを許せなかったと思う」

それは一歩間違えれば、確かに現実になりえた事だった。
今でも思い返せばギリギリの戦いだったと思える。
フーケは同じトライアングルでも、モット伯とは比べ物にならない相手だった。

でも、同じ土系統の魔法使いとしては、得る物が多い戦いでもあった。

もしかすると、シュヴルーズ先生よりもより実践的な意見をフーケからは聞く事が出来るかもしれない。

「さて、まずは学院長に報告かな」

「気が重い話だよね」

 

 

 

「あーあ、またあのセクハラの嵐に耐えないといけないのかい・・・」

「口調がフーケに戻ってるわよ、ミス・ロングビル」

「あら、いけない」

軽口を叩きあうフーケとキュルケを連れて、京也達は学院長室に入った。

「おお、諸君、お手柄じゃったな」

ニコニコと笑いながら、オールド・オスマンは僕達全員と握手をした。
京也は握手の後に『破壊の珠』をオールド・オスマンに手渡す。
『破壊の珠』を受け取り、暫く手元で観察をした後で京也に問い掛ける。

「それで、やはりこれは君が考えている通りの代物だったのかね?
 もし説明の通りだとしたら、何とかして封印をしないと駄目なんじゃが」

「確かに俺の予想通りの品物でした。
 もっとも、起爆装置に仕掛けをしたのでもう爆発の危険はないですけどね」

「ふむ・・・まあ、わしの恩人の形見の品じゃからな。
 もう使えないと言われて、わしの中で価値が変わったりはせんわい」

むしろ、これで安全なら手元に置けるというものじゃ。
そう呟きながら、オールド・オスマンは嬉しそうに『破壊の珠』を机の引き出しに入れた。

そして、真面目な顔をして目の前に並ぶ生徒達に話しかける。

「さて、君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を・・・考えておったのじゃが、フーケを捕まえられなかったのは痛いのう。
 もし捕まえる事が出来ておれば、『シュヴァリエ』に相応しい功績じゃったが」

「・・・まあ、逃がしたのは僕達の実力不足が原因ですからね。
 仕方が無いですよ」

「そうそう、相手は名うてのトライアングル・メイジ。
 こっちは魔法学院の学生ですからねぇ」

ギーシュとマリコルヌが仕方が無い、と頷きながら相槌を打つ。
ルイズ達も実際に『シュヴァリエ』の爵位に興味はあったが、あの見栄っ張りのギーシュが引いているのに、ここで我侭を言う気にはなれなかったので黙っていた。

「ほほう、今更捕まえる気は無い、という事かね?
 目の前に本人が居るのに?」

「えっ!!」

フーケがその場を飛び退るより早く、オールド・オスマンが放った捕縛の魔法がその身を絡め取る。

「あらかじめ馬車の中に、わしの使い魔モートソグニルを忍び込ませておったのでな。
 事の経緯と事情は全て把握済みじゃい。
 あまりわしを侮るなよ、伊達に長生きをしとらんぞい?」

普段は絶対に見せない好々爺然とした仮面の下にある、苛烈なまでの意思に打たれて生徒達は黙り込んでしまった。

しかし、そんな彼等とは違う存在も居る。

京也は素早くフーケに近づき、阿修羅の一撃でオールド・オスマンの捕縛の魔法を打ち消した。

強烈な締め付けから解放されて、思わず床に倒れそうになるフーケを、京也は抱きかかえて支える。

「・・・ふむ、やはりその程度の魔法など、消すのは容易いか」

「いやいや、今まで一番手強い魔法でしたよ。
 それにしても盗み聞きとは趣味が悪い」

「遠見の鏡などはお主に気付かれるから、手が限られて大変じゃぞい。
 わしの使い魔ならお主が離れている時に、タイミングを見てわしに連絡を取れるしのう」

フーケを何とか立たせて、ルイズ達と一緒に背後に庇いながら京也はオールド・オスマンと対峙する。
お互いに軽口を叩いているが、隙を見せるような事は無かった。

「生徒諸君、ここでフーケを逃がした場合・・・君達も共犯とみなすがどうするかね?」

何気ない口調での発言だが、その内容は衝撃的だった。
難事件を解決した英雄から一転、盗賊の一味という烙印を押されかねない。

生徒達は思わず視線でお互いの意思を確認する。

「そいつ等は関係無いだろうがこのエロ爺!!
 そこのガキ共は全員、私の嘘に騙されただけなんだよ!!
 捕まえるならこのフーケだけで十分だろうが!!
 ここまで来たら逃げも隠れもしないよ!!」

勢いよく啖呵をきるフーケに向けて、オールド・オスマンが杖を振る。
その杖から迸った雷光がフーケを貫く前に、阿修羅によってかき消された。

フーケや学生の意見など関係無いとばかりに、京也とオールド・オスマンの間で火花が散っている。

次の瞬間、嵐のように攻撃呪文が次々にフーケに襲い掛かる。
京也は阿修羅を振るい、その一つ一つを確実に消し去っていった。

「ちょ、ちょっと人の話を聞きなよ!!」

「あー、駄目駄目、何だか二人とも戦闘モードに入ってるよ」

「まぁすんなり騙せると思ってた俺達が甘かったよなぁ」

慌てふためくフーケの左右に、膝を震わせながらもギーシュとマリコルヌが立つ。
以前とは違う圧倒的なプレッシャーの中、自分を鼓舞しながら立っているのだ。

「ちょっと、タバサも来るの?」

「私はあの人にお願いがあるから」

「人の使い魔に何かってに約束を取り付けてるのよ!!」

「とにかくほとぼり冷めるまで、ツェルプストー家で匿ってもらうのね?
 もうここまで来たら最後まで付き合うわよ・・・一応、ギーシュも居るし

立ち直ったルイズ達が何時もの騒がしさでフーケの背後に立つ。
思わず怒鳴り返そうとしたフーケは、青褪めた顔で立っている彼女達を見て、結局何とも言えず黙り込んでしまった。

 

そして、学生達がフーケの下に集まった後、京也は笑顔でオールド・オスマンに向かって自分の背後を指差した。

 

「ふむ、それがお主達の総意か・・・
 ならば、これ以上は必要無いな」

「分かってくれて嬉しいですよ」

お互いに苦笑をしながら、杖と阿修羅を下げる。

「まったく、最初から素直に白状しておればこんな芝居をせんでもすんだものを。
 老骨に無茶をさせよってからに」

「ははは、まだまだ現役でいけますよ学院長」

腰を叩く振りをしながら、椅子に座るオールド・オスマンと軽口を叩き合う京也。
現状についていけないフーケ達は、呆けた顔をしていた。

「しかし、実際に手合わせをしてみて、初めて分かる恐ろしさじゃな。
 それがガンダールヴの力なのかね?」

「とんでもない、これは自前の修行の成果です。
 そんなあやふやな力になんて、怖くて頼れませんよ」

「どちらにしろ、十六夜 京也、恐るべし・・・じゃな」

「あの・・・会話に付いていけないんですけど?」

京也達の会話に何とか割り込んだ発言をしたのは、負けず嫌いではトップのルイズだった。
オールド・オスマンは質問をしてきたルイズに向かって笑顔で説明を始めた。

「こんな非常識な使い魔を学院で匿ってるおるんじゃ、今更改心した盗賊の一人匿っても何とも思わんわい。
 それに、フーケを秘書に雇ったのはわしじゃからな・・・罪はわしにもある。
 じゃが、今回のフーケ隠匿にはその関係者全員の協力が必要なんじゃ。
 モット伯の件は、喧嘩両成敗というお題目で王宮の人間を煙に巻いたからのう。
 おぬし達の覚悟を見せてもらえなければ、安心してフーケを匿えないじゃろうが?
 それと対外的に何も無かった事になるんじゃ、当然お主達の功績は何も無い事になる」

オールド・オスマンの説明を聞いて、全員が驚いた顔をする。
この学院長を侮っていた訳ではないが、既にフーケを匿う事について覚悟を決めていたのだ。
自分の非を隠すためとも取れるが、ルイズ達にフーケを庇う意思が無ければ、罪を覚悟でフーケを王宮に送っていたかもしれない。

その覚悟を聞いた後では、自分達の功績が消える事についても、今更ながらだが仕方が無いと納得できた。

「ま、最初からわしの芝居に気付いておる奴もおったがのう」

「殺気は無かったですからね」

糸目になって視線を送るオールド・オスマンに、京也は肩を竦めて返事をする。
しかし、オールド・オスマンの芝居を分かっている上で、それに付き合う京也も良い度胸をしていると、その場の全員が思っていた。

「お前達の意思は分かった。
 これからも宜しく頼むぞい、ミス・ロングビル。
 ほほほ、お主が居ないと、仕事が溜まって大変じゃからな」

「は、はい、こちらこそ宜しくお願いします」

頭を下げるフーケに笑顔でオールド・オスマンが近づく。

「・・・って、何気に感動してる所で尻を揉むな!!」

「おおう、老骨の楽しみを奪わんでくれぇ」

何時もの如くオールド・オスマンの頬を叩き、床に倒れた後に踏みつける。

「痛い痛い痛い」

「少しは真面目になりやがれ!!」

目の前で繰り広げられるハードなプレイに、コルベールを相手に容赦なくゴーレムを操っていた時の姿がだぶる。
きっと、あの時のフーケの容赦の無さはこのオールド・オスマン相手によって育まれたのだろう。

「・・・さっきまでの威厳は何処にいったのよ」

「というか、今になって気が付いたんだけど」

「馬車の中に使い魔のモートソグニルを仕込んでいたって事は」

「あの日の会話と着替え姿は殆ど筒抜け」

 

「「「「・・・・・・・」」」」

 

 

 

フーケに加えて残りの女性陣もお仕置きに参加をした。

 

 

 

 

「・・・生きてるかなぁ、学院長」

「それよりもコルベール先生は気が付いたかな。
 後でお見舞いに行かないか?」

「変な後遺症が残ってないといいけどな」

唯一、暴走する女性陣を止められる存在に見放された学院長は、その後数時間に渡って折檻を受けるのであった。

 

 

 

 

「オールド・オスマン!!
 このコルベール、幾多の死線を越えて無事に帰って参りました!!」

「いや、わしもつい先ほど死線を越えたけどね。
 まあお互い無事で何よりじゃのう」

「学院長、本日の『フリッグの舞踏会』ですが、まるで準備が進んでいないようですが?」

「おお、ミス・ロングビル!!
 貴方は今日も美しい!!」

「・・・は、はぁ、それはどうも。
 もう怪我は宜しいのですか、ミスタ・コルベール?」

「はははは、もう全快しておりまぞ!!
 私は不死身の男なのですよ!!
 しかし、フーケも大した事はありませんな!!
 私が本気を出すと、敵わないと見て逃げ出すのですから!!」

「「・・・記憶を失ってる?」」

「いやぁ、怪我を負った私を運んでくれた京也君から、先ほど事情を聞いたのですが。
 実はゴーレムに掴まれてから記憶が無いのですよ。
 しかしそこは流石の私、無意識のままでも華麗に炎を操りフーケのゴーレムを撃退したのです。
 ・・・あれ、ゴーレム?
 何で身体が震えが止まらない?」

「そ、そうですしたわね!!
 私も現場を見てましたから!!
 凄い手柄ですわね、ミスタ・コルベール」

「いやいや、報告はミス・ロングビルから聞いておるぞい。
 それにしても、顔色が真っ青じゃぞ?」

「いえ、何故かゴーレムに掴まれて振り回されたような記憶が・・・
 他にも何か思い出してはいけないような記憶が、こう湧き上がってくるような・・・」

「それはきっと気のせいでわ!!」

「ははは、そうですよね・・・あれ、何で涙が?」

「まだ疲れておるんじゃろう。
 今日はゆっくり休むといい」

「はあ、では失礼します」

 

 

 

「さ、流石に見るに耐えんかったのう」

「京也達も苦し紛れに嘘をついたんだろうねぇ」

 

 

 

 

アルヴィーズの食堂は煌びやかに飾り付けがなされ、正装をした生徒達が楽しそうに踊ったり、食事と会話に興じている。
京也達はバルコニーで会場から確保した料理を食べながら、女性陣の登場を待っていた。
「はぁ、自分の偉業を誇れないのは空しいねぇ」

「そう言うなよ、事情が事情だし仕方が無いだろ?」

「そんな大人な意見を述べるマリコヌル君は、さっきローザにさんざん自分の活躍を自慢しているのであった」

「んな、何でその事を京也が知ってるんだ!!」

京也に秘密の逢引の事実をばらされて、真っ赤な顔をしながらマリコルヌが料理の空き皿を投げる。
勢いよく飛んできた皿を、京也は見事に指の間に挟んで止める。
そんな京也の芸当を見て、ギーシュが口笛で賞賛をしていた。

「てめっ、このっ!!」

「料理は投げるなよ、勿体無いから」

「別にちょっと位、自慢をしてもいいじゃないか!!
 ギーシュはモンモランシーとずっと一緒だったんだし!!
 あ、もう皿が無い!!」

マリコルヌの攻撃が終わったので、受け止めた皿を地面に重ねて並べながら、京也は種明かしをする。

「まあ、ローザに他言無用と言っとけば問題無かったと思うけどな。
 でもシエスタから聞かされた時は驚いたぞ。
 とりあえずローザとシエスタには、黙っておいてくれるように頼んでおいた」

「というかマリコルヌって、何気にローザと好い仲だと公言してるよね」

更に真っ赤になった顔で言い訳をしようとして、黙り込んでしまうマリコルヌ。
何も言えず口を開け閉めしている間に、女性陣が次々と華やかなパーティドレス姿で現れた。

鮮やかな真紅のドレスを着たキュルケは、直ぐに仲の良い男連中に囲まれてしまい、その場で足止めをされてしまった。
視線で助けを求めるキュルケを残して、白いドレス姿のルイズと黒いドレス姿のタバサが京也達の下に向かってくる。

他の生徒達にはルイズ達の活躍が通知されていないので、普段から交友関係の少ないルイズとタバサに声を掛ける学生は居なかった。
その二人の直ぐ後ろを、薄い水色のドレスを着たモンモランシーが歩いている。

「さて、僕はモンモランシーをダンスに誘ってくるかな」

「おう、行って来い・・・
 あ、俺もついでに料理を取りに行く」

ギーシュから目配せを受けて、マリコルヌも慌ててバルコニーから去る事を京也に伝える。
そんな親友達の姿を不思議に思いつつも、特に深く考えずに京也は頷いた。

「じゃ、俺はここで残ってるかな。
 どうもあの貴族然とした雰囲気に、未だに馴染めなくてな」

「了解、まあ上から僕達の踊りを眺めていたまえ」

「・・・ギーシュはともかく、マリコルヌは踊れるのか?」

「・・・お前、貴族を舐めてるだろ?
 俺も相手がいれば踊れるっての」

憮然とした表情のマリコルヌを引き連れて、ギーシュはバルコニーから降りていった。
その途中の階段で、予想通りルイズとタバサにすれ違う。

「京也はバルコニーに居るんでしょ?」

「ああ、今は一人で月でも見てるんじゃないかな」

「分かったわ、有難う」

ギーシュに礼を言った後、ルイズはタバサと一緒に階段を登っていく。
気を利かせたのか、二人の手にはワインのボトルと幾つかの料理があった。
ルイズの後ろを歩いているタバサも、ギーシュ達に頭を下げて通り過ぎる。

「タバサも大分丸くなったよなぁ」

「これも京也のお陰かもな」

楽しそうに二人の女性を見送った後、親友に気を利かせたつもりの二人はそれぞれの目的地に向けて分かれて行った。

 

 

 

二つの月に照らされる月夜を眺める事にも慣れてきた。
元の世界に戻るための手掛かりらしきものは見つけたが、未だ先行きが明るいとは言えない。

バルコニーのテラスにもたれ掛りながら、京也は今までの事とこれからの事を考えていた。

『何を黄昏てんだ、相棒?』

「俺にだって故郷を想う事もあるさ」

まだ残っていた料理を食べながら、デルフ相手に軽口を叩く時には何時もの京也に戻っていた。
その肩の上には沢山の料理を食べて満足をしたのか、眠そうに目を瞬いているヴァーユが止まっていた。

『しっかし、あの科学って知識はすげーな。
 もしかしたら相棒の故郷じゃ、俺みたいなインテリジェンスソードも簡単に作れるのかい?』

「作れるというより、溢れてるかな・・・」

『あ、溢れてるのか?』

「色々な機材が会話をするからなぁ・・・
 それこそ鍋釜風呂桶まで、なんでもござれだ。
 でも危険も一杯だぞ。
 新宿って街なんて、歩いてるだけで冒険に近いしな。
 指先一つで人を殺せる化け物が、普通に隣を歩いているし。
 ・・・捻くれた性格だけど、凄腕の医者とかもいるけどな」

『正に人外魔境だな。
 相棒はそんな故郷に帰りたいのかい?』

 

 

 

「――――――多分、待っててくれる人が居るからな」

 

 

 

京也がそんな呟きを洩らした時、ルイズとタバサはバルコニーに姿を現した。
その二人が近づいて来ている事に気付いていた京也は、笑顔になって声を掛ける。

「どうしたんだよ、二人ともバルコニーなんかに出てきて。
 クラスメイト達と付き合わなくていいのか?」

「うるさいわね、私とタバサにそれほど親しい友人は居ないわよ。
 キュルケとモンモランシーは相手が居るけどね」

「騒がしいのは苦手」

そんな事を言いながら二人は京也の左右に立つ。

『その割には随分とめかし込んでるじゃねぇか、二人とも』

「そうそう、二人とも似合ってるぞ」

「うるさわいね、貴族の嗜みよ」

「・・・」

デルフの揶揄に反論をしながらも、京也の褒め言葉を聞いて二人は赤い顔をする。

「そういえば、タバサから正式に依頼の話を聞いたわよ。
 また時間の都合がついたら、私も一緒に付いていくわ」

「そうか、まあ俺はタバサとの約束さえ守れればいいさ。
 タバサはそれでもいいのか?」

「私は・・・お母様さえ助けれれば、それでいい」

タバサの了解も得たので、また近いうちにタバサの実家に向かう事が決定した。
きっと、その時にはギーシュ達も付いて来るだろうと、タバサは確信をしていた。

「あー、もう、折角の『ブリッグの舞踏会』で暗い話ばっかりしても仕方が無いわ。
 京也、ちょっとダンスのパートナーを付き合いなさい」

「・・・踊れないぞ、俺」

「じゃ、ここで練習すれば良い。
 私が教えてあげる。
 覚えていて損は無い」

「ちょ、ちょっとタバサ!!
 私が先に京也を誘ったのよ!!」

「私はホールで踊るつもりは無いから、此処で練習する相手には丁度良い」

「別に私もホールで踊る事に拘らないわよ!!」

「じゃあ、マリコルヌでも誘ったら?」

「よりによってマリコルヌ?
 何で? もしかしてお似合いとか思ってる?
 大体、アイツは他に相手が居るし!!
 そもそも、さっきこのホールか抜け出してたし!!」

「・・・(ふっ)」

「笑った、今笑ったわよねアンタ?」

「・・・ひでぇ言われようだな、マリコルヌ」

『モテモテだな、相棒』

「うるせぇ」

 

 

 

結局、京也は交互にダンスの相手を務める事になった。
舞台はバルコニーのまま。
運動神経が並外れている京也は、直ぐにステップを覚え、ルイズとタバサのパートナー役を優雅にこなしていた。

月明かりの中、微かに聞こえる音楽に乗ってルイズと京也が緩やかに舞う。

ルイズは誰にでも優しく、誰よりも強い京也が使い魔で良かったと心の底から思った。
二人で過ごした時間はまだ短いけれど、自分の使い魔は京也しかいないと今なら断言出来る。

 

きっとこの先も、ずっと先も、京也と二人で過ごしていける。

 

でも、京也は既に自分一人の使い魔ではなくなりつつあった。

 

フーケやタバサや、ギーシュ達にとっても大切な人物になった。

 

もう、独り占めは出来ないのかもしれない。

 

 

――――――そんなのは、嫌だ。

 

 

京也の胸に顔を埋めて、ルイズは自分にとって更に特別な存在になりつつある京也を想い、ダンスの余韻に浸りながらそう心の中で呟いていた。

 

 

 

 

 

後書き

やっと一巻分の話が終わりました。

長かった・・・

 

 




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