十六夜の零

 

 

 

第十八章 「剣士と弟子」

 

 

 

京也達が無言のまま「女神の杵」に帰ると、憮然とした表情のワルドが部屋で出迎えてくれた。
色々と言いたい事があったみたいだが、ルイズ達の雰囲気を読んだのか結局何も言わなかった。

そして、全員が無言のまま夕食を済ませ。

今は京也達の部屋で食後のお茶を飲んでいる。

「・・・で、何かあったのかい?」

黙っていても話が進まないと理解したのか、ワルドが京也に話しかけてきた。
ワルドとしてはルイズに話しかけたかったのだが、京也以上に憮然とした表情にしているので諦めたのだった。

「まあ、確かにトラブルは有ったけどさ。
 巻き込まれた本人が随分と参っててね」

「・・・」

京也が向けた視線の先には、縋るような目で自分を見ているアルトの姿があった。

『参っているというより、熱に浮かされてる方じゃねぇのか?』

「そうとも言う」

「全然話が見えないな。
 とりあえず、僕が眠っている間に何があったか最初から説明をしたまえ。
 じゃないと、この首の痛みと同じだけの痛みを京也君に与えそうだ」

デルフの合いの手で更に訳が分からなくなったワルドは、今朝方痛めた首筋を揉みながら京也達に詳しい説明を求めた。

 

 

 

 

 

「ふむ、『正義の味方』を目指す・・・実に素晴らしい考えじゃないかな?」

ワルドの何処か揶揄を含んだ擁護を受けて、アルトの表情が明るくなる。
しかし、京也の表情は動かない。

二人のその様子を見てワルドは不思議そうに首を捻る。
短い付き合いながら京也とは刃すら交えた仲である、不本意ながらその考え方や性格はそこそこに理解をしている。
ワルドの考えから言うと、アルトの強くなるという考えに同意をして二つ返事で師事をすると思ったのだ。

「私も同じ事を言ったんですけどね。
 何故か嫌がるんですよ」

「ほほお、それはまた何故かね?」

「・・・個人的な話ですが、弟子には良い思い出が無からですよ。
 それにアルトは、明日トリステイン魔法学院にタバサに送ってもらうつもりです」

「そんな!!」

京也の話を聞いて、アルトが驚いて大声を上げる。
突然会話に名前が出てきたタバサも眉を少し顰めていた。

「・・・別に俺に習わなくても、他に武術の手解きをしてくれる人が居るだろうさ」

「だから、傭兵以外にそんな酔狂な人は居ないって。
 それにアルトにそんな傭兵を雇うお金があるわけないでしょ」

「〜〜〜〜〜っ、それでも駄目だ」

京也の意固地なまでの態度に、ルイズが溜め息混じりに注意をする。
しかし、その言葉を聞いても京也はアルトの弟子入りに頷かなかった。

「一端その話は置いておいて、明日の事について話さないか?」

「ああ、その意見には同感です。
 さあさあ、アルトは向うの部屋に戻って寝てろ」

「いやだ、僕も京也さん達と一緒にアルビオンに行く!!
 皇太子を探す手伝いもさせてください!!」

アルトがそう主張した瞬間、ワルドが鋭い視線を京也に向ける。
その視線を受けた京也が、急いで顔を左右に振った。

「いやいや、そんな大切な事をそう気軽に話す訳ないじゃないですか。
 だいたい、アルトを巻き込みたくないから、さっきから弟子入りも断ってるんだし」

 

「――――――そうなると」

 

京也とワルドの視線が、コソコソと部屋を出て行こうとしているルイズに止まる。
自分に視線が集中している事に気が付いたのか、乾いた笑い声を出しながらルイズが言い訳を話し出した。

「い、いやぁ、昼前にタバサに問い詰められてついポロッと・・・
 ほら、京也を連れてきてもらったりしたから、理由位説明しておこうかなぁ、って。
 その時にアルトが後ろに居た事を忘れてて、てへ」

可愛く舌を出して己の失敗を述べるルイズ。

「・・・・・・・・・・・・・・俺の今までの努力が」

そんなルイズの告白を聞いて、テーブルに上半身を倒しこみ呻くように京也が呟く。
流石にルイズを庇いようもないので、ワルドも天井を見上げて嘆息をしていた。

「どちらにしろ、依頼の内容を知った以上・・・アルトを放置出来ないな。
 しかし、タバサ君にまで事情が漏れてしまったか。
 仕方が無い、ラ・ロシェールでタバサ君とアルトは、事が終わるまで二人で待っていてもらうか?」

「・・・個人的な伝だけど、アルビオンの情報屋と連絡を取れる」

今まで黙って話の経緯を見ていたタバサが、突然そんな事を言い出す。
それを聞いてワルドと京也の視線が鋭くなった。

「平民の情報屋だけど、私が直接乗り込めば何か情報を引き出せるはず」

「それは有り難い話だね。
 正直に言うとアルビオンに渡ってからは、手探り状態での捜査予定だったしね」

タバサの話を聞いてワルドが早速頷く。
京也としてはタバサを巻き込みたくなかったが、今後の活動の手掛かりとなる以上そうとも言ってられないので、反対意見を述べる事は出来なかった。

そして、ますます自分が避けたかった方向に事態が進む事に力ない溜め息を吐く。

・・・考えてみれば自分が避けようと努力する度に、事態がさらに複雑になるのは何時もの事といえばそうなのだが。

むしろ、周囲の味方によって混迷度が増すのもデフォなのか?

遠い故郷で患者に微笑んでいる彼女と、性格破綻している知人の医者を思い出した京也であった。

京也がそんな事を思い出している間に、ワルドは困ったような顔で杖を取り出していた。

「そうなると、タバサ君は別として・・・
 そこまで事情を知られているアルト君には、僕が取る手段は限られてくるのだが?」

 

 

―――――――どうする?

 

 

右手に持った杖で床を突きながら、視線で京也に問いかけてくるワルドに京也は観念したように頷いた。

「弟子入りどうこうは別問題として、アルトもアルビオンまで連れて行こう。
 簡単な護身術とかなら教えてやるさ」

「本当!!
 やった!!」

京也から正式とは言えないまでも、承諾を引きずり出す事に成功した事に喜ぶアルト。
ルイズがその喜びように良かったわね、と祝福を述べているがワルドとタバサの表情には何とも言えない感情が浮かんでいた。

「後はこちらで今後の話を詰めておくから、アルトは部屋で休んでいたまえ。
 心配しなくとも、この京也君は自分から言い出した約束を破る男じゃないさ」

「はい!! じゃあお休みなさい!!」

ワルドからそう勧められ、難しい話には興味が無いアルトは昼間の疲れもあったので、素直に部屋へと帰っていった。

 

 

部屋に残された面々は、それぞれ思うところがあるのか微妙な表情をしていたが。

 

 

「じゃ、じゃあ私もそろそろ部屋に帰ろうかなぁ・・・」

「帰るのは小言の後だ、馬鹿」

「今回は京也君の肩を持つよ、ルイズ」

沈黙に堪えかねたのかルイズが部屋に帰ろうとした瞬間、その両肩をそれぞれ京也とワルドに掴まれて部屋の中央に引きずり戻される。

「え、ええええええええ?」

椅子に強制的に座らされて、そのまま二人から冷たい視線を浴びたルイズが動揺した声を上げる。

「あのなぁ・・・今が極秘任務の最中だって自覚有るのか?
 もう少しでアルトの命を賭けて、ワルドさんと本気の戦いをするところだったんだぞ」

「え、ええええええええ!!」

本気で怒っているらしい京也の説明を受けて、ルイズは今度は別種の驚きの声を上げた。

「任務の都合上、僕達の情報を知る者は少ない方が良い。
 ただでさえ成功確立の低い任務なんだからね。
 ならば秘密を知った平民を泳がすなどもっての他だ、
 そうなると記憶を消せない以上、始末をするしかない。
 妃殿下からの極秘任務と平民の命・・・貴族として悩む事もない選択だろう?」

「ワルドさんが最後に俺に問いかけた内容は、アルトの命を此処で絶つ・・・
 それが嫌なら自分で面倒を見ろ、という意味の問いかけだったんだよ」

ワルドと京也から先ほどの遣り取りの意味を聞かされて、ルイズは青い顔をしていた。
自分の不注意からアルトを引き返せない道に巻き込んでしまった事に、二人から指摘をされて初めて思い知ったのだ。

「・・・当然、その流れで行くとタバサ君にも御同行を願うしかなくなる。
 それを理解していたタバサ君は、こちらの心情を思って自ら同行する理由を作ってくれたんだが」

「別に良い、元々協力するつもりだった」

ワルドから確認を受けてもタバサの返事には動揺も無く、何時もの淡々としたものだった。
ルイズは自分の軽挙妄動から二人を巻き込んだ事を知り、更に落ち込んだ表情になる。
しかし、ここでちゃんと釘を刺しておかなければ同じ事を繰り返しかねないと思った二人は、心を鬼にして止めの言葉を放った。

「つまり、アルトとタバサがアルビオンで危ない目にあった場合、少なからずその原因はルイズにあるという事だ。
 ルイズには今回の任務に対する覚悟が不足していると思われても、仕方が無い事をしたんだぞ」

「そして敵地に乗り込んでの極秘任務、その危険性はかなり高い。
 勿論、ルイズは何があっても僕が守って見せるが、正直アルトはただの足手まといだ。
 そのアルトを守るために、京也君が危ない目にあう可能性も高くなる。
 無用なリスクのみを増やしたのが、君の今回の行動の結果だ」

理路整然と京也とワルドに諭されてしまい、元々頭は良いルイズは全てを理解した。
そして、確かに心に油断があった事は確かなだけに、反論をする事も出来なかった。
京也やワルドの強さに慢心してしまい、注意を怠っていたのだ。

 

何より考え無しに取った自分の行動のせいで、取り返しのつかない事態になる所だったという事が堪えた。

 

「うっぐ、えぐ・・・ごめんなさい・・・」

涙を流しながら謝罪をするルイズに、流石にやり過ぎたか・・・と元来人の良い京也とルイズ命のワルドの顔が引きつる。

お互いに悪者役を演じただけに、下手に慰めの言葉も出せない状況だった。
通常の配役ならばどちらかが慰め役にまわるのだが、今回は最初の配役で間違っていた。

声を殺して静かに泣くルイズの前で、視線でお互いに慰め役を譲り合う二人。
何気にアイコンタクトが成立しているあたり、相性は良いのかもしれない。

 

 

―――――――救いの手は意外な所から伸ばされた。

 

 

「京也は何故、アルトに武術を教える事を嫌がったの?」

いい加減、話に進展が無い事に飽きたタバサが、ついにじゃんけんに及ぼうとした京也達にそんな話題を提供した。
タバサの声により気を取り直したのか、ルイズも流れる涙をハンカチで拭き取りながら視線を京也に向ける。

何故か愉快な格好の京也とワルドの姿を見て首を傾げていたが。

「そういえば随分と渋い顔をしてたわね?
 ギーシュ達に頼まれた時には、簡単に引き受けていたのに」

「・・・ギーシュ達は魔法使いとしての訓練だろ?
 力の使い方から戦闘方法の前提まで、通常の修行とは違いすぎる。
 でも、今回アルトがお願いしてきたのは念法の修行だ」

「そんなに念法を教える事が嫌なのかい?」

ワルドのその質問を受けたあと、京也は苦々しい表情で不貞の弟子について語りだした。

「故郷で一人、どうしても念法を教えて欲しいという同年代の友人が居たから、そいつに手解きをしてやったんだが・・・
 修行の途中で念法の威力に虜にされて、女に走ったんだ。
 性根はまだ真っ直ぐな奴だから、大きな間違いは起こさなかったけど、時々後始末に駆り出されたもんさ」

「力を持つと性格が変わる事はよくある事だ。
 だがそれは力を与えた者の責任ではなく、振るった者の責任ではないのかね?」

「私もそう思う」

ワルドの意見にタバサも同意をする。
ルイズは自分にそれだけの力が無い為に、その会話に参加をする事は出来なかったが意見的には二人と同意していた。

「問題はその力を持ったが為に性格が変わるという事だ。
 特にアルトは念法を求めている。
 変に誤魔化した指導をしても、なまじ俺の基礎が念法に特化してるだけに、必ずその特色が出てしまう。
 しかも、何らかのタイミングで念の取っ掛かりを掴んだ場合、なお始末が悪い」

「中途半端が一番困るのは何処でも一緒」

タバサの言葉に頷きながら、京也は部屋に備え付けられていた石のテーブルの端を掴んだ。

「念法は長年の修行により、人の念を聖念に昇華する事により成り立つ。
 ただし、念を使うだけならばそこには破壊しか生まれない」

次の瞬間、京也の掴んでいた石のテーブルが京也の指先により抉られる。
余りに容易く行われたとんでもない行為に、思わず全員が黙り込んでしまった。

「念法ではなく。
 念のみを使って肉体を強化すば、こんな事も容易く行える。
 そんな力を得た時、そのまま苦しい修行の果てに聖念を得るよりも、力のみに頼って事を成す方を選ぶかもしれない。
 現に俺の親父の友人は苦しい修行の過程で、その力の誘惑に負けて外道に堕ちた」

抉り取ったテーブルの破片を、そのまま窓の外に投げ出しながら京也が続ける。
あくまで可能性の話をしている筈だが、何故か京也はアルトがその暗黒面に陥ると確信をしているようだった。

全員が無言のまま京也の話の続きを待っていた。

「・・・アルトはきっとまだ両親の死を昇華しきれていない。
 両親を失ってからまだ二日しか経っていないんだ、当然の事だ。
 力を得た時、それがどう変わるのか誰にも予想は付かない。
 確かに年のわりにはしっかりした子供だと思うけど、子供なだけに力に飲み込まれやすいのも確かだ。
 俺自身、常々自分を鍛え律する事で間違いを犯さないようにしているんだ」

『じゃあ相棒が人を殺さないと言い張っているのも、それが理由なのかい?』

「堕ちる事は容易く、上り詰める事は苦しいもんさ」

デルフの言葉に京也が頷く。
その言葉を聞かされた魔法使い達は、それぞれ思い当たる節があったのか無言のままだった。

 

 

 

 

「おはようございます!!」

「おお、おはよう」

朝食を食べようとしてワルドと一緒にロビーに降りて来た京也に、元気良くアルトが挨拶をしてきた。
ホテル備え付けのレストランでは、ルイズが難しい顔でサラダを食べており、タバサは既に食事を終わらせたのか紅茶を飲んでいた。
アルトはやはり二人の貴族と一緒に食事をするつもりなど無いので、ロビーのソファに座って京也を待っていたのだった。

「昨日と違って随分と懐かれたもんだな」

「・・・まあ、そうですねぇ」

ワルドに皮肉気に笑われても、流石の京也も咄嗟に切り返す事は出来なかった。
昨日自分の処分を巡ってどのような会議があったのか・・・勿論そんな事を知らないアルトは、自分の望み通り京也が弟子にしてくれると疑わず、希望に目を輝かせていた。

 

 

 

その瞳の奥に一点の濁りを見付けた京也は、人知れず重い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

「出港だ!! もやいを放て!! 帆を打て!!」

昼前に帆船のような船に乗り込んだ京也達は、船長の大きな掛け声を聞きながら用意された客室へと向かった。
貴族用にと作られている客室はやはり豪華な作りをしており、庶民的な感覚の持ち主である京也と平民のアルトには居心地の悪いものだった。

「明日の昼前には、アルビオンのスカボローの港に到着する予定だそうだ」

船長に船の予定を聞きに行っていたワルドが、全員が部屋に揃っている事を確認してからそう伝える。

「じゃあ、一日はゆっくりとしてられるのね」

ルイズが固定されたベットの上で背伸びをする。
貴族の女性としてその態度は駄目だろうとワルドが注意をしようとした瞬間、アルトが京也に向かって修行をしてくれるように頼み込んだ。

「京也さん!! 今から出来る修行ってないんですか?」

「・・・うーん、ちょっと甲盤まで着いて来い」

「はい!!」

苦笑をしながら京也がそう言うと、アルトが元気良く返事をしながらついていく。
二人を送り出した後、ルイズ達は複雑な表情でお互いに視線を交わした。

「随分と張り切ってるわね」

「最初は皆あんな感じ」

「確かに自分の知らない事を教えて貰う事は楽しみではあるが・・・」

必ずしもアルトが闇に堕ちるとは限らない。
だが、京也に注意をされて以来、注意深くアルトを見ていればその無理矢理な明るさや、突然考え込む仕草に異常は伺えた。

「それと船長に確認をしてきたのだが・・・
 ウェールズ皇太子が居ると思われるニューカッスル付近には、反乱軍の陣が配置されていて苦戦中らしい。
 陥落するのはもう目前だろう」

「じゃあ、ウェールズ皇太子は無事なのね?」

ワルドの話を聞いてルイズが勢い込んで確認する。

「いや、ウェールズ皇太子が無事かどうかまでの情報は無かった。
 やはり、現地に赴かなければならないだろうな・・・
 港は反乱軍に制圧されているだろうから、向こうについてからは本当に大変な任務になるだろうね」

「そう・・・」

明日からの難業を思いつつも、ルイズは京也とアルトの事が心配で仕方が無かった。

 

 

 

 

「足元がふらついてるぞ!!」

「は、はい!!」

延々と木の棒を振り続けて二時間・・・
アルトは既に全身汗だくになっており、自分が何をしているのかも時々思い出せなくなりそうになっていた。
ただ、意識を失いそうになると決まって京也の怒声が飛び、直ぐに正気に戻される。

最初は物珍しそうに見ていた船員達も、アルトが同じ動きを一時間も繰り返していると興味を失い、それぞれが自分の仕事へと戻っていった。

木の棒を教えて貰ったとおりの形で振り下ろして30分。
汗に塗れながら何時まで繰り返すのかと質問した時、京也は自分が止めるまでと言った。

そして一時間が経過した時、もう動けないと言って木の棒を降ろした。
その時京也はならもう二度と指導はしないと脅した。

二時間経った今は何故自分が木の棒を振っているのか、分からなくなっていた。
ただ、我武者羅に木の棒を振り下ろす。

何故かその振り下ろす先に両親を殺した傭兵が見えた。
その頭の上に木の棒を叩き込んだ。

自分を殺そうとする男性が襲い掛かってきた。
その頭の上に木の棒を叩き込んだ。

京也の姿が目に入った。

 

 

―――――――木の棒を叩き込んだ。

 

 

 

「・・・やっぱりトラウマになってるな」

気を失いながらも木刀を撃ち込んで来たアルトの根性に感心しつつも、その原動力を感知して京也は渋い顔を作った。
ある意味、この一途な想いはアルトを強くするが、それは脆く儚い強さであった。
アルトの危険性を認識しつつも、ここで放り出すことは余計に危ないと分かるだけに、京也にはアルトを善き方向に導くしか方法が残されていなかった。

『この坊主・・・その念ってやつの才能はあるのかよ?』

「念は生きようとする人の意思だ、誰にでも宿っている力さ。
 その力の使い方を知り、聖念に昇華する事が念法だ。
 まあ、妄執に囚われている限り、昇華は無理だろうが・・・」

所謂物理現象に留まる限り、念を使えるだけでも十分な凶器になる。
念法は聖念に至ってこそ、初めて意味をもち物理現象を超越した様々な奇跡を起こす。

例の不貞の弟子も、念を身に付けた段階で聖念への昇華に至らず欲に飲まれた。
アルトが何処まで自分の闇に向き合えるのか、今後の一番の課題はそれだろう。

「弟子を導くのが師匠の仕事、か。
 俺自身、そんな大層な人間じゃないんだがなぁ」

 

 

 

気を失ったアルトを背負って客室に向かいながら、京也は苦笑をしていた。

 

 

 

 

―――――――そして翌日の昼前。

 

 

 

ついに京也達はアルビオンへと到着した。

 

 

 

 

あとがき

やっとアルビオンに着きました!!

長かったなぁ・・・