< ナデひな >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの、忌々しい戦争が和平という奇跡の幕を閉じ。

 激戦を戦い抜いたナデシコの面々も、今は平和な世界へと溶け込もうとしていた。

 

 しかし、その平和を享受できぬ不幸な男が一人・・・

 

 これは、その男の愛と戦いの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、ターゲットは四合目に到達しました」

 

「特に問題は無いんでしょ?」

 

「はい、信じられないスピードで行程を消化しています」

 

「じゃ、問題が無ければまた定時に報告を下さい」

 

「了解しました!!」

 

 軍服のようなものを着た若い男性が、緊張した声で報告を読み上げ。

 高価なドレスを着た婦人が、テーブルの紅茶を飲みながら、それを受けていた。

 そして少々ギクシャクした動きで敬礼をした後、その若い男性は去っていった。

 

「でも、本当に面白い人ばかりね、ネルガルの人って」

 

「・・・ネルガルも同じような感想を持ってるかもな、我が国に対して」

 

「あら、それはどういう意味ですか?」

 

 極上の笑みを浮かべて尋ねてくる妻に、何とも難しい顔を作るピースランド国王。

 妻の暇潰しに巻き込まれたネルガル社員を、哀れんでいるのかもしれない。

 

「本人が望んで単独登頂をしてる以上、何も言う事は出来んだろう。

 何を考えて、そんな事をするのか理解は出来ないが」

 

「そうですよね、あの娘や彼の知り合いは、本当に個性的な人が多くて羨ましいですわ」

 

 本当に楽しそうに笑う王妃を横目にして・・・

 

 『お前もその個性的な知り合いの一人だろうが』

 

 とは、決して口に出せないピースランド国王だった。

 なにはともあれ、衛星軌道上から監視をされているゴート(修行中)だったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十六話 花火になったアイツ

 

 

 

 

 

 

 

 あの後も、なるちゃんの機嫌は直らなかった。

 意識的に俺との接触を避け、翌日浜茶屋で働いていても、厨房に近づこうとしない。

 俺としてもどうフォローをすればいいのか分からないので、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

      ドン、ドン!!

               ピーヒャララ!!

 

 賑やかな太鼓の音と笛の音が聞こえる。

 ちょうど俺達の滞在中に、この近所で夏祭りが行われるのだ。

 女性陣は、はるかさんから浴衣を借りて、既に行く気満々だ。

 

「アキト、どう似合う?」

 

「へ〜、これが浴衣ですか」

 

 ・・・言っちゃなんだけど、よくサラちゃんとアリサちゃんに合うサイズの浴衣を持ってたな、はるかさん。

 どう見ても、日本人女性の平均的なスタイルとは程遠いでしょうに。

 そう、俺の両腕を占領している二人もまた、はるかさん支給の浴衣を着ていた。

 金と銀の髪も、今は綺麗に結い上げてある。

 そんな二人が俺にじゃれ付く度に、背後からの冷たい視線が、俺を貫く。

 ―――ああ全く、俺にどうしろというのだ?

 

 頭の上にタマちゃんを乗せたまま、俺は深々と溜息を吐いた。

 

 

 

 

 そんな俺の悩みとは関係無く、祭りの広場へと皆は移動していく。

 先頭には、なるちゃんと・・・瀬田さんの姿があった。

 なんでも瀬田さんは、この付近に卑弥呼の墓があるという情報を得て来たらしい。

 本気なのか冗談なのか分からないが、お陰でなるちゃんの機嫌が少し直った事には感謝だ。

 ただ、瀬田さんの娘のサラちゃんと、こちらのサラちゃんの事で、色々と騒いでいたけどね。

 皆は「サラさん=アリサちゃんの姉」と「サラちゃん=瀬田さんの娘」で折り合いをつけたみたいだ。

 

 ちなみに、俺が「サラさん」と呼ぶと本気で怒ったので、今はどう呼ぼうか悩んでいる。

 余計な悩み事ばかりが増えてるな・・・

 

 

 

 

 出店の一つ、射的屋の前で立ち止まった一同

 はるかさんと瀬田さんが、見事な腕前を披露する。

 素子ちゃんは、何故か割り箸を投げて景品に当てていたけど。

 

「わ〜、良い腕をされてますね、瀬田さんとはるかさんって。

 ・・・考古学の教授と、喫茶店の店主でしたよね?」

 

 俺の右腕を掴んでいたアリサちゃんが、最初は感心した口調だったが、最後は首を捻りながら呟く。

 射撃のプロである彼女の目から見て、二人の腕が素人離れしていると思ったのだろう。

 

「うん、あの二人は謎が多いんだ」

 

 俺は正直にそう話した。

 

「・・・アキトさんが言える台詞じゃないと思います、それ」

 

 ご意見、ごもっとも。

 

 楽しそうに笑いながらそう注意するアリサちゃんに、俺は肩を竦めて返事をした。

 左手を掴んでいるサラちゃんは、珍しそうに周囲を見回している。

 どうやら、二人は日本の夏祭りに参加するのは初めてらしい。

 機嫌良く右へ左へと引っ張る二人の相手をしながら、俺もいつしか笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どっからどうみても付き合ってるやろ、あれは」

 

「うっ、やっぱりそうなんでしょうか?」

 

「べ、別に私には関係無い事ですし」

 

「え〜、そうなんか?」

 

 

 


 

 

 

 その後、スゥちゃんがしのぶちゃんの手を取って、更に奥に向かって走り出す。

 どうやら何か興味を惹かれるものがあったみたいだ。

 素子ちゃんとキツネさんも、二人が心配なのかその後を追う。

 俺も付いて行こうかと思ったが、キツネさんに視線で止められた。

 

 ・・・まあ、両手がふさがってるし、背後からの視線が痛いし。

 

 俺はキツネさんの好意に甘える事にした。

 素子ちゃんがいれば、そうそうトラブルは起きないだろう。

 

「あれだけ親密なのに、付き合ってないって言うんですよ。

 全く信じられないですよね〜」

 

「あははは、彼には彼の事情があるんじゃないのかな?」

 

 こちらに聞こえるように、なるちゃんが大きな声で瀬田さんと話している。

 はるかさんの言葉を信じるなら、瀬田さんが俺の正体をばらす心配はないそうだけど。

 しかし、どうしてなるちゃんはそこまで突っかかってくるかな?

 

 瀬田さんとなるちゃん、俺とサラちゃんとアリサちゃんの5人は、微妙な距離を保ったまま移動する。

 サラちゃん達は後ろの二人が気にならないのか、出店を珍しそうに見学している。

 

「あ、アキト、あの棒に刺さったリンゴは何?」

 

「あれはリンゴ飴って言うんだ。

 リンゴを丸ごと水飴で包んだ食べ物だよ」

 

 サラちゃんにリンゴ飴を一個買って渡す。

 最初は何処から食べていいのか迷っていたけれど、端の方から少しずつ齧っている。

 頬が緩んでいるのを見る限り、どうやら気に入ったみたいだ。

 

   クイクイ

 

「ん?」

 

 袖を引かれたのでそちらを見ると、アリサちゃんがちょっと拗ねた目で俺を見ていた。

 どうやらサラちゃんばかりを構うので、拗ねかけているようだ。

 

「はい、アリサちゃんはコレ食べた事ある?」

 

 直ぐ側で見つけた出店で買ったモノを、アリサちゃんに手渡す。

 

「・・・何ですか、コレは?」

 

「綿飴っていうんだよ」

 

 不思議そうに綿飴を見た後、アリサちゃんも食べ方を迷っているみたいだ。

 それでも隣を歩いていた子供が、同じ綿飴に思いっきり食いついているのを見て、自分も真似をする。

 最初の一口は、不思議な食感に戸惑ったみたいだけど、その後は笑顔で残りを食べていた。

 

「・・・む〜」

 

「なるちゃん、そんな怒った顔で歩いていると子供が怖がるよ」

 

「怒ってません!!」

 

 ・・・後ろの二人は、相変わらず騒がしい。

 そういえば、はるかさんとサラちゃん(小さい方)は何処に行ったんだろう?

 

 その後、俺達はお化け屋敷に入ったりして祭りを楽しんだ。

 何故かお化け屋敷では、灰谷と白井がバイトをしていて驚いたけど。

 

 ただ、あまりに久しぶりだったので、声を掛けられた時に誰なのか思い出せなかった。

 また後で、落ち合うことを約束して、二人とは別れた。

 

 そして、俺達がお化け屋敷を出た時―――

 

 

 

 

 

 

「お、アキトじゃね〜か!!」

 

「・・・お前・・・相変わらず、変なタイミングで遭遇するな」

 

 俺を見つけたガイが、大きく手を振りながら走ってきた。

 

 

 


 

 

 

「ヒカルちゃんと万葉ちゃんはどうしたんだ?」

 

 とりあえず、出掛ける時は何時も一緒だろうと思う二人の行方を聞く。

 

「ああ、もう直ぐここに来るはずだ。

 それより、なんでアリサとサラがここに居るんだよ?」

 

「「それはこっちの台詞です」」

 

 呆れた声で言い返す二人。

 俺としてもどうしてこうガイと遭遇するのか、不思議で仕方が無い。

 一時期、あのルリちゃん達からでさえ逃げおおせた俺を、このガイは二度も見つけているのだ。

 ・・・もっとも、そのうちの一回は、俺は正体不明のマスクマンだったが。

 

「で、どうして海に出てきたんだ?」

 

「ああ、ヒカルが漫画の資料集めの為に、祭りに行きたいと言い出してな。

 それで軍の仕事が終わった後、3人でここまで来たんだ」

 

 ああ、今回はまともな動機があったんだな。

 以前の理不尽な行動理由より、余程納得できる内容だ。

 

「ねぇ、この人って日向市主催の格闘大会に出てた人じゃないの?」

 

 ガイの大声に引き寄せられるように、隣になるちゃんが寄ってきた。

 そして、目の前で騒いでいるガイの事を思い出したのか、俺にそう尋ねてきた。

 

「お!! 俺の事を知ってるのか!!

 そう!! 俺こそは正義の味方ガイ・ザ・サード!!

 俺を呼ぶときは、是非ガイ・ザ・サードと呼ん―――

 

「耳元で騒がないでよ!!」

 

     ゴスゥ!!

 

 ・・・いい角度で決まったな〜

 なるちゃんの右拳が突き刺さった鳩尾を押さえながら、ガイが地面にしゃがみこむ。

 俺はその肩を、精一杯の同情を込めて叩いた。

 

 相手が悪かったな・・・ガイ

 

「どうしてアンタの知り合いって、こんな非常識な人ばっかりなのよ?

 もしかして『類は友を呼ぶ』を地でいってるの?」

 

「じゃ、なるちゃんもそうなのかな?」

 

     ガスゥ!!

 

 ・・・ガイの隣に同じように座り込む俺だった。

 アリサちゃんとサラちゃんに両腕を掴まれていたため、咄嗟に動くわけにはいかなかったのだ。

 

 その後、なるちゃんは付き合ってられないとばかりに、瀬田さんの手を引いて歩き去った。

 どうしてそこまで怒るのか、俺には理解しかねる・・・

 

「あいてて・・・随分と凶暴な知り合いだな?

 お前の周りには、あんな女性しかいないのか?」

 

「「ヤマダさん、それどういう意味なのかな〜?」」

 

 そのまま、青い顔をしたガイに詰め寄るサラちゃんとアリサちゃん。

 自業自得だし、止めに入る義理もないのでそのままにしておく。

 

 ふと視線を向けると、見知った二人の女性が手を振りながら歩いてくる。

 ヒカルちゃんと万葉ちゃんも、浴衣で祭りに来てたんだな。

 まぁ今日は、旧知の仲間とゆっくり祭りを楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、なるちゃんの機嫌を直すのを忘れてた・・・」

 

 ―――明日も疲れる一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十七話に続く

 

後書き

いや、本当はガイに花火の如く、空を飛んでもらう予定だったんですけどね〜

ちょっと話の雰囲気的に無理があるので、やめました。

そのかわり、他の場面で彼には泣いてもらいましょう(笑)

 

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