< 時の流れに Re:Make >

 

 

 

 

 

第九話 その1

 

 





2197年9月

ムネタケから告げられた連合軍からのナデシコへの最初の命令は、北極に取り残された親善大使の救助という突っ込み処が多いものだった。

「いや、別に個人の趣味に文句を言うつもりは無いけど。
 ・・・どうして親善大使は、単身で北極圏を彷徨ってるのさ?」

「そんな事を俺に聞くなよ。
 気になるならムネタケ提督に聞けばいいだろ?」

アキトは勿論、その理由を知っていたが今説明をした所で笑われるのがオチだろうと思い、アカツキからの質問を他者に委ねた。
カウンターに座っていたアカツキは特に追求するつもりは無いらしく、ふーんと言った後で食後のお茶を一口含む。

「それにしても、テンカワ君のエプロン姿は微妙に似合わないね・・・こう、小さい服を無理矢理着ているような感じで。
 ちょっと気合を入れたら破けるんじゃない?
 ほら、昔の格闘漫画っぽくさ」

一言で言えば、アキトのエプロン姿はどこぞのコントのようにサイズ違いも甚だしい状態だった。
鍛えに鍛えた身体は、八ヶ月前の制服とは余りにサイズが違い過ぎていたのだ。

当然ながら当人もその事に気付いており、既に制服を支給している部署に新しい制服の貸与申請は出しているが、次の補給まではこの窮屈なエプロンで我慢をする事になっていた。

「・・・もう3回ほど破いてるよ」

アカツキからの指摘に暗い顔で同意し、昨晩も夜鍋して裁縫をしていた事を告白するアキト。
良く見ればエプロンには様々な布地が当てられ、実に複雑なパッチワークを作り出していた。
人知れず苦労をしていた自社の社員を見て、経営者の一人として少し罪悪感を覚えたアカツキだった。

しかし、それとは別にアキトが頼めば喜んで裁縫をしてくれる女性など幾らでもいるだろうに、と思ったアカツキは隣に座るジュンに話を振る。

「テンカワ君の頼みなら、喜んで裁縫をしてくれる娘が居るんじゃない?」

それほど親しい仲ではないアカツキから、突然そんな話を振られたジュンは少し戸惑ったものの、昨日の惨劇を思い出しながら説明をした。

「・・・頼んで全滅だったんだよ。
 いや、あれはむしろ悪意すら感じられる結末だったな。
 僕としては、『あの』状態にまでエプロンを復元をしたテンカワの腕前を褒めてやりたいね」

ジュンからの返答は簡潔だった。

「・・・・・・苦労してるんだねぇ」

同情を多分に含んだアカツキの視線と、背後で苦笑をしているホウメイの視線が、とても痛いと感じるアキトだった。






「リョーコ、その指の絆創膏の山はなに?」

「うるさいな、ほっとけよ」

ヒカルは何気に気落ちしているリョーコを見付けて質問をしたが、返事にも力は篭っていない状態だった。
その事を不思議に思いながら、シミュレーター室へ向けて何時もの三人で歩を進める。

「それはそうと、ヤマダ君は誘わなくていいの?」

「当分反省するまで構ってや〜んない」

イズミからの質問を受けて、人の悪い笑顔をヒカルは作る。
流石に前回の暴走については、自分を含めて命の危険があった為に、色々と許せない事だったらしい。

「・・・逆効果にならないといいけどね」

「え、何か言った?」

イズミが呟いた言葉が聞き取れなかったヒカルが、不思議そうに顔を覗き込んでくる。
そのヒカルに対して少し考え込んだ後、イズミは結局何でもないとばかりに首を振って誤魔化した。
そんなイズミの態度を不審に思いながらも、特に問題は無いだろうと判断したヒカルはリョーコをからかいに行く。

ヒカルとリョーコの後姿を見ながら、イズミは最終的には本人の心の問題だろうと下手な介入をする事を止めたのだった。





そして当面の問題となっているガイは自室で不貞腐れていた。
アカツキの存在が気に入らない事は本当だが、自分が何にイラついているのかは分かっていた。

「たった八ヶ月で、あんなに腕が上がるもんなのかよ・・・」

つい先日、目にした光景が今でも忘れられない。
自分では最早理解不可能な機動に、背後からの銃弾すら斬り飛ばす戦闘技術。

以前までならば、必死に努力をすればその足元に手が届くような感触がまだ残っていた。

しかし、今ではその感触すら幻としか思えない。

「見習いコック兼臨時パイロットに負ける正規パイロットか、情けなぇ話だよな」

エステバリスの正規訓練を終えて、好成績を認められてナデシコに乗り込んだはずだった。
ナデシコに乗り込んだ当初は、自分のこれからの活躍を夢想して随分とはしゃいでいた覚えがある。
だというのに、現状を振り返ってみれば常に頼られるのは自分ではなく、臨時パイロットとして雇われたアキトばかりだ。
実際、その名声に相応しい活躍をしている事をガイも認めていた。

アキト本人にしても、話してみると気の良い奴だし、自分の趣味丸出しの発言にも嫌がらずに合わせてくれる。
今まで付き合ってきた表面だけの友人とは違い、得難い友人だという事は嫌というほどに分かっている。
ましてや、同じ戦場を何度も共に戦った存在だし、命の危機を救われてもいるのだ・・・嫌いになどなれる筈が無かった。

だからこそ、アキトに追い付き肩を並べて戦う事を夢見たのだ。

何時の間にか産まれていた焦りを誤魔化す為に、第一印象から気に入らなかったアカツキに突っ掛かりもしたが、全て空回りをするだけだ。

馬鹿をやって気を紛らわせようと現実は優しくは無い、アキトの存在は何時しかガイにとって遠いものとなっていた。

「いっきに強くなる方法は無いのは分かってるけどよぉ」

追い掛けるべき背中が余りに遠い事を知り、ガイの気持ちはかつて無いほどに落ち込んでいた。
自分が憧れる主人公「天空ケン」になりたいという望みは、未だ心の底にへばりついてもいる。

しかし、部屋で再生されているゲキガンガーの音声すらも、今のガイの耳にはまともに聞こえていなかった。

「・・・アキトの作った晩飯を食べにいかないのは、初めてだな」

パイロット用に配給されている、味気無い携帯食料を齧りながらガイの心は沈み続けていた。






「・・・なんで指が絆創膏だらけなのさ?」

「私にも苦手な分野があるのよ」

たまたま休憩所で顔を合わせたエリナに、アカツキは不思議に思った点を問い質した。
渋い顔でそんな返答をしつつ、エリナは自販機から取り出したミネラル・ウォータのボトルに口を付ける。

「ああ、テンカワ君のエプロンね。
 そっか、エリナ君も挑戦したんだ。
 ・・・結果は思わしくないみたいだけど、何と言うか、意外な欠点だね」

「料理とか洗濯なら問題は無いのよ、でも裁縫だけは昔から駄目・・・」

珍しく気落ちしているその姿に、本当に苦手なんだなぁとアカツキは内心で思った。
暫く顔を下に向けていたエリナだが、自分に気合を入れ直したのか「よしっ」と呟いて顔を上げた。

「それはそうと、次の目的地に敵は居るのかしら?」

「さあねぇ、北極を占領しても即物的な旨味は少ないだろうし、特別な施設がある訳じゃないからねぇ。
 普通に考えれば敵は居ないはずだよね」

「そんな無意味な所に戦艦を使って人命救助に向かうのって、無駄の極致じゃない?」

無駄を嫌うエリナは顔を顰めながら、今回の連合軍からの命令に愚痴を溢した。

「半分嫌がらせだと思うよ、何しろ前科持ちだからねナデシコは」

「ナデシコというより、ネルガルがでしょ?」

飲み干したボトルをゴミ箱に入れながら、エリナがそんな訂正をする。
実際問題として今回の派遣はただの嫌がらせとしか、二人には思えなかった。

「もし何らかの意図が動いてるとしたら、クリムゾンの爺さんが裏で糸を引いてるかもね」

「となると、当然のように罠がある可能性が高いわけね」

「そうだろうねぇ」

これは気合を入れていかないと駄目かな、とアカツキは小声で呟いた。





「ユリカ、絆創膏が剥がれかけてるよ?」

「あ、本当だ。
 また医務室に貰いに行かないと」

ユリカはジュンに指摘された、中途半端に剥がれている絆創膏を指から剥がす。
少し浮き出してきた血を舐めとりながら、目の前に表示している戦術ウィンドウに集中をする。

「何ていうか悪夢みたいな戦闘能力だよね」

「みたい、じゃなくて悪夢そのものだよ」

シミュレーター上に配置したチューリップを含む無人兵器の群れを、中央から真っ二つに切り裂く漆黒のエステバリス。
エリナから手渡されたアキトの戦闘データを使用した途端、不利だった戦況は正に一変した。
そもそも、小型の機動兵器の機動性にナデシコクラスの戦闘能力を持つという事が規格外すぎるのだ。

どんな不利な状況からでも、力技で戦況を引っ繰り返す存在など、敵にとっては正に悪夢そのものだろう。

「むしろ、敵に回った場合・・・テンカワを止める手段が思い浮かばないよ」

「ジュン君はアキトが敵になると思ってるの?」

そう尋ねながらユリカは新しいウィンドウを開き、ナデシコを囮にした新しい戦術を開始する。
画面内では敵を引き付けながら後退するナデシコの登頂から、突撃を行ったアキトが一撃でチューリップを沈めていた。

その鮮やかな手並みを見て、思わずジュンは唸り声を上げる。

「どうだろ、気の良い奴だし、信義を重んじる性格だって分かってる。
 だけどさ・・・ここまで突き抜けた戦力を、連合軍が見逃すとは思えない。
 何時か、もしかすると、軍に徴収されたテンカワが、何らかの理由で僕達に牙を剥くかもしれない」

馬鹿な想像かしれないけれどね、とジュンは苦笑をしながらユリカに話しかける。

「うん、私もそんな事は無いと思いたいし、信じたいよ。
 でもね・・・アキトの事は信じられても、その他の人までは信じられないんだ。
 だってアキトという前例がいる以上、DFSを使える人が他に存在しないなんて有り得ない。
 だから、ジュン君の心配は当然だし、その対策を考える事は必要だと思う」

「・・・本当に頭の痛い話だね、それは」

自分が展開したウィンドウ内で、縦横無尽に無人兵器を屠る漆黒のエステバリスを見ながら、ジュンは重い溜息を吐いた。






「プロスさんよぉ、この秘密兵器って書かれたコンテナどうするんだよ?
 いいかげん、開封してもいいだろ?
 それほど大きなモノじゃねぇけどよ、格納庫のスペースは限られてるんだぜ」

「駄目です、開封をした後に分解される事が分かっていますから。
 いざ、という時に使えない秘密兵器などお笑いモノですからね」

正に絵に描いた餅ですな、とプロスはウリバタケに注意をする。

「んだよ、それなら仕様書位寄越せってんだよ」

「仕様書を見た後に、好奇心に勝てますかな?」

「・・・そんなに面白いモノって事かよ」

獲物を狙うハンターの目付きに変わったウリバタケに、失敗したとばかりに顔を手で覆うプロス。
ウリバタケからの呼び出しに応えて格納庫に来た事を、少しばかり後悔をした。

「それにしてもテンカワの奴、何処まで腕を上げるつもりなんだろうな。
 アイツの腕前の上昇に、悔しい事に機体性能が何時まで経っても追い付かねぇ。
 しかも最近は全力じゃなくて、機体性能に合わせてレベルを下げた操縦をするようになりやがって・・・不憫で仕方がねぇよ。
 それに現行の武器にしても、今のままじゃあアキトには役不足なんだよな」

ウリバタケの溢したピンポイントな話題に、実はコンテナを開いたのではとプロスは疑った。
当然ながらプロス自身は既にアカツキから、秘密兵器と書かれているコンテナの中身を聞いている。

プロスはウリバタケの先程の発言の意図を確認する為に、その先を促してみる事にした。

「ウリバタケ班長は私に何を言いたいのですかな?」

「つまりよ、テンカワの奴が全力で戦える機体を作ってやりてぇんだ。
 その予算を分けてくれって相談だ。
 きっとネルガルにも悪い話じゃねぇと思うぜ」

技術革新を巻き起こしてやると、と息巻くウリバタケをこちらは冷めた目でプロスは見ていた。

「ほう、テンカワさんの全力を受け止める機体ですか。
 ・・・そんなハイスペックな機体を、他のパイロットが使用できますかな?」

人の悪い笑みを浮かべたプロスが、ウリバタケに確認するように尋ねる。
そんなプロスの意地の悪い問いかけに、ウリバタケは真面目な顔で返答した。

「いや、無理だろ、元が元だし・・・
 せいぜい、マイナーダウンをしても一騎当千のエースパイロットが使う専用機体になるだろうな」

「却下です」

「ひでぇ」






ナデシコ食堂での昼の勤務を終えたアキトが、夜用の仕込みも終ったのでパイロット達と合流をする。
先にシミュレーターで訓練をしていたリョーコ達は、早速模擬戦を始めようと息巻いた。
訓練を始めた時には何故かテンションが低かったガイも、アキトが来て模擬戦の話を聞いた瞬間から急にやる気を出していた。

どうやら皆揃って、アキトのレベルアップがどの程度なのか、気になって仕方が無い状態らしい。
そんな四人を気の毒そうな目で見ているアカツキは、心の中で彼等の冥福を祈っていた。

そして、有耶無耶のうちにアキト対残りのパイロット全員という構図の対戦が始まった。

『最初から飛ばしていくからな、ヒカル、イズミ!!』

『合点、承知!!』

『余計な余力なんて残してられない・・・』

『おい待てよ!!俺を置いて行くな!!』

リョーコを先頭にした三角形のフォーメーションで、三人娘が勢い良く飛ぶ。
その後ろを少し遅れてガイが追いかけていき、アカツキは皆元気だねぇ、とその場で傍観をしていた。

『出遅れたヤマダが悪い!!
 それと何ぼーっと突っ立てやがるアカツキ!!』

『え、僕も参戦するの?』

『ヤマダって言うな!!』

シミュレーターにはリョーコに無理矢理放り込まれたので、対戦の意思が無いアカツキがリョーコからの言葉を聞いて驚いた表情を作る。
そしてガイの叫びは、全員に綺麗に無視されていた。

『当たり前だろーが!!』

『えー』

リョーコの返事を聞いて、アカツキは心底嫌そうな表情をした。
そんなふざけた態度を取るアカツキを、ガイは闘争心で溢れた目で見ていた。
その視線に気付いたアカツキは、つまらないモノを見たとばかりに溜息を吐きながら視線を逸らす。

二人の間に険悪な雰囲気が醸し出される中、待ち草臥れたアキトから最終通告が出される。

『・・・そろそろ始めていいか?』

『ちょ、まだ心の準備が――――――』

そして、アカツキの意思を確認する前にアキトは動き出した。




最初は自分から攻撃を行わず、相手の攻撃をひたすらアキトは避けていた。
様々な手段でアキトを撃墜しようとしたリョーコ達だが、その努力も全て無駄に終っていた。
まず大前提として相手の動きに目が着いて行かない。
遠距離ならばその動きはまだ追えるが、中距離から近距離に入った瞬間にはアキトの機体を全員が見失ってしまう。

フォーメーションを組んでお互いの死角をカバーしてい筈なのに、どうしてもその動きを捉えきれていない。

全員で放った弾丸は掠りもせずに虚空に消えた。
振りかざした接近戦の武器を振りぬく前に、向けるべき相手を見失ってしまう。

接近戦をガイとリョーコが仕掛け、自爆覚悟で足止めを行ったが、息の合っていない急造コンビでは刹那の足止めにすらならない。
圧倒的な実力差を見せ付けられ、戦意が鈍りそうになる所をリョーコが大声で叱咤する。
その声にヒカルとイズミが応え踏ん張るが、アカツキは諦め交じりの溜息を付き、ガイは雄叫びを上げながら単機で突撃を繰り返す。

『ヤマダ!! 一人じゃ無理だって分かってんだろ!!』

『・・・うるせぇ!!
 もう少しで届きそうなんだよ!!』

頭に血が上っているのか、リョーコの制止を振り切りガイは無謀な突撃を掛ける。
八ヶ月前までならば、曲がりなりにもリョーコの指示を聞いていた筈だが、今はその制止を振り切って戦闘をしている。

そしてそんな無謀なだけの突撃によってアキトが捕まえ筈も無く、ガイが伸ばした指先は掠る事すら出来なかった。

『ちくしょう!!』

『ちょっとは頭を冷やせこの馬鹿野郎!!』

先程から繰り返されるそんな二人のやりとりを、呆れたような顔で見ていたアカツキはどうしたものかと頭を悩ましていた。

『そろそろテンカワ君の攻撃が始まるんだよねぇ・・・
 ちょっと離れて見学しておこうかな』

アキトのスパルタ振りを知るアカツキが、こそこそと後衛に回ろうとした瞬間、コクピット内にガイの悲鳴が響き渡った。

『ちょっ、おまっ、無理、何を!!ぐえっ!!ぎゃぁぁぁぁぁ!!』

『・・・』

アカツキの視線の先では、ピンクのエステバリスが漆黒のエステバリスに、ショートレンジでフルボッコにされている光景があった。
その悲鳴を聞く限り、ガイのコクピットは凄い事になっているのだろう。

『うわぁ、何か凄い光景だね・・・
 武器無しでエステバリスが解体されていってるんだけど・・・』

『あれは正に生き地獄ね・・・』

『というか、迂闊に手を出せないよな、常にヤマダを盾に使う位置取りをしてやがる』

無残に解体されるピンクのエステバリスを見て、三人娘もドン引きしていた。
普通にナイフで切り裂かれたり、ライフルで撃ち抜かれたりするのなら、まだここまで恐怖を感じたりはしない。
だが目の前で展開している光景は、加害者と被害者が人型なだけに一種のホラー映画に近いものを感じさせた。

そのうちガイの悲鳴も聞こえなくなり、ピンクのエステバリスは残された胴体をナイフで縦に切り裂かれて四散した。

『・・・相変わらず訓練だと容赦無いよね』

『アカツキ、お前もあんな目に会った事あんのか?』

ガイの身に起こった不幸を想像して、少し青い顔になったリョーコがアカツキに確認をする。

『最初にやれらた時は、三日ほど悪夢に魘されたよ。
 機体損傷状態でも、反撃なり退避なりしてみろって無茶言われながら解体された。
 お陰で無人兵器が可愛く見えるようになったよ』

その発言を聞いて、流石に気の毒そうな視線を全員がアカツキに向けた。
誰しも真綿で絞め殺されるような恐怖を、自ら味わいたいとは思わないだろう。

『確かに、ある意味悪夢よね』

『うんうん、あれで高笑いとか入ったら完璧に魔王クラスだよ』

『確かに、生身でも同じ事できそうだしね、彼』

ヒカルとイズミの発言に気を良くしたのか、アカツキが余計な一言を付け加えた。

『よし、次はアカツキに決めた』

その発言を聞いて一目散に逃げるアカツキ、それを追いかける漆黒の悪夢。
それを見た三人娘は我先にと、アカツキを犠牲にして逃げ出すのだった。





――――――しかし、魔王からは誰も逃れられない。





アキトを除く全員がシミュレータ室に備え付けられた休憩所で、陸に上がった魚のような格好で寝そべっていた。

「あ、有りえねぇだろあの衝撃。
 シミュレーターのリミッター機能が壊れてるんじゃねぇのか?」

「だよね、私なんて全身痣だらけだよ。
 というより女性はもっと優しく扱うべきだと思う」

「揺れすぎて三半規管が壊滅、真っ直ぐ立てない・・・」

一応女性相手には手加減をしたのか、三人娘にはまだそんな文句を言うだけの体力が残っていた。
その向こうに転がされている二人の男性は、更に酷い状態だった。

ガイなどは泡を吹きながら白目を剥いている。

「シミュレーターについては、ウリバタケさんに頼み込んでリミッターをカットしてもらってるからな。
 再現率が上がった分、練習にはもってこいだと思うけど。
 まあ確かに揺れは凄いらしいけど、死ぬ事は無いって保証してたから多分大丈夫だろ?
 多分?だけど?」

大事な箇所なので、アキトは二度強調する。

「疑問系で恐ろしい事を言うなよ、この馬鹿」

「そうだよ慰めになってないよ、戦闘馬鹿」

「あのウリバタケ班長の手が入ってて何を安心しろと言うのよ、このサディスト」

「何気に皆して酷くない?」

本人としては親切心から言ったつもりだが、最後の最後で本心が吐露されたらしい。
しかし、全員のウリバタケに対する認識は共通しているらしく、誰からも擁護の声は出なかった。





その後、三人娘はお互いに励ましあいながら自室へと向かった。
アキトは床に伸びているガイとアカツキを台車に載せ、それぞれの自室に向けて運んでいた。

流石に汗臭い男を二人を抱えて移動する事は嫌だったらしい。

ガイの部屋に向かう途中、アキトはムネタケとゴートという少々意外な組み合わせと遭遇した。

「あ、ムネタケ提督とゴートさん、お疲れ様です」

「・・・アンタ、何使って誰を運んでいるのよ」

「いやぁ、別に怪我をしている訳じゃないので、台車で十分かなぁと」

「だがはみ出したヤマダの頭が床で磨れてるぞ」

ゴートの発言を聞いて、アキトは急いで台車の横を覗き込む。
そこには良い感じでタンコブを量産しているガイの頭が有った。

ムネタケとゴートが見守る中、無言でアキトはガイを台車の中央に積み直した。
そのさい、ガイを上に乗せられたアカツキから呻くような声が漏れた。

「それでは失礼します」

「ちょっと、何事も無かったかのように行くんじゃないわよ。
 台車を持ってるなら丁度いいわ、この荷物を私の部屋まで運んで頂戴」

そう言ってムネタケは、ゴートの背後に置いてある数個のダンボールを指差す。
どうやらゴートとムネタケの二人で、この荷物を運んでいたらしい。

しかし、アキトが見た限りではそこそこの量が有る為、現在運搬中のアカツキ達を乗せたままでは積み込みは不可能に思えた。

「今、この台車にはアカツキとガイが乗ってるんですけど?」

「そっちをこの大男に運ばせればいいでしょ。
 私と違って立派なガタイをしているんだから」

「ぬ・・・」

それほど表情は動かなかったが、ゴートとしても汗臭い男二人を抱えるのは嫌だったらしく、視線でアキトに断れと合図をしてきた。
その合図を受け取り、アキトは小さく頷く。

「じゃ、二人は壁に立て掛けておきますね。
 ゴートさん、部屋まで宜しくお願いします」

「壊れ物が有るそうだから、台車に載せる時に落とさないでよ」

「了解しました」

ゴートが異議を唱える前に、手早く荷物の積み込みをアキトが行う。
そして数分後には先導するムネタケに従う形で、二人は荷物と共に廊下の先へと消えた。

「・・・」

取り残されたゴートは、気絶したままの自分の雇い主と、何かと問題が多い同僚パイロットの前で無言のまま考え込んでいた。






「何を運んでるのか気になるかしら?」

「はぁ、まあそれなりには・・・」

暫くの間、無言で歩いていたアキトとムネタケだが、沈黙に耐えれなくなり話し出したのはムネタケだった。

「中身はフクベ提督の私物よ。
 まあ、それほど私物は持ち込んで無かったみたいだけどね」

「気になるモノでも有りましたか?」

「・・・別に無いわよ」

それ以降、会話は続かなかった。






ある日、ルリはナデシコ食堂へと向かう途中、廊下の端で笑顔で手招きをしているアカツキを見付けた。
色々な意味でその姿に不安を覚えたルリは、何も言わずにその場で回れ右をして自室に帰ろうとする。

「ちょっと待ってよホシノ君、それは酷くない?」

「話しかけないで下さい、アキトさんを呼びますよ」

「・・・いや、そんないきなりリーサルウェポンを投入するのはどうかと。
 と言うより、テンカワ君を呼ばれるような事、僕が何かしたかな?」

「いえ、視線に犯罪的な色を感じたので」

「僕、ホシノ君の気に障るような事、本当に何かしたかなっ!?
 というより殆ど初対面だよね、ね?」

少し涙目になりながらアカツキはルリに走り寄る。

「きゃー、ロリコン」

「人聞きの悪い事を言わないでくれ!!」

そう言ってルリの口を塞ぎ、急いで左右を見回しながら、アカツキは最初から目を付けていた空き部屋にルリを連れ込んだ。
先に空き部屋で待っていたプロスは、暴れるルリの口を押さえて連れ込むアカツキの姿を見て引いた。

「何とも見事なスキャンダル現場ですな。
 さしずめタイトルはネルガル会長、ご乱心?
 金と地位にモノを言わせたロリコン野郎、という事でOKでしょうか」

そう言いながら、何処からか取り出したカメラでルリを抱きかかえるアカツキを激写する。

「ちょっとー!!」

「ははは、これは良い画が撮れましたね。
 ルリさんも記念に一枚どうぞ」

「さくっとネットに流しておきます。
 勿論顔にモザイクは無しです」

「待ってー、それは本当に止めてー!!」

本気でルリに土下座をするアカツキの姿を見て、溜飲を下げるルリだった。
暫くの間、色々とゴタゴタしていたが、やがてアカツキが落ち着きを取り戻したので、真面目な話をする事になった。

「それで、私をこんな所に引っ張りこんだ理由は何ですか?」

食事に行く途中だったんですけど、と小声になりながらルリは不満を漏らした。

「うん、単刀直入に言うとホシノ君に僕達の手助けをして欲しい」

「12歳の少女に何が出来るっていうんですか?」

ルリが不思議そうに正面に座っているアカツキを見上げる。
その人の真意を読み取ろうとしている金色の瞳に、アカツキはルリが年相応の少女ではないと改めて感じ取っていた。

「色々と出来ると思うよ、少なくとも地球のラピス君から、僕の事について連絡は受けてるでしょ?
 そうじゃないと、僕が待っているこの廊下をわざわざ選ぶ筈が無い」

「それこそ偶然です」

「ラピス君の事は否定しないんだ?」

アカツキの追求を受けても、ルリは少し微笑んだだけだった。

「全て連絡済という事を念頭に話をするけど、ラピス君に協力を依頼した時にまずホシノ君を味方に付けろ、って言われてね。
 君達の間柄がいまいち把握しきれていないけど、長女的な位置にホシノ君は居るのかな?
 君達の協力を受ける為には、ホシノ君を口説く事が必要らしいね」

「プロスさん、犯罪者が、ロリコンが目の前に居ます」

「まったく、嘆かわしい事ですね」

二人揃って二、三歩後ずさる。

「・・・僕に味方は居ないのか」

暖簾に腕押し状態のルリに、アカツキは疲れたように肩を落とした。
しかし、次の瞬間には表情を改めて、再度ルリへのアタックを敢行する。
ここはアカツキにとって正念場でもあった、ここで失敗をすればルリはもう次の機会を作ってくれないと、本能的に察していたのだ。

「君が気にしているのはどうしてテンカワ君を通して、自分に協力を申し出ないのかという事だろう?」

「・・・」

その沈黙が雄弁にルリの心情を語っていた。
自分の正体にについて既に知っている筈なのに、ネルガル会長よりも見習いコックを選ぶその態度に苦笑を禁じえなかった。

アカツキはそこまでIFS強化体質者に好かれているアキトに感心しつつ、だからこそ自分の切り札が有効であると確信をした。

「今更テンカワ君と君達の関係について、詮索をするつもりは無いよ。
 僕も君達の力に随分と助けられたからね。
 でも、テンカワ君を通さずに君達の力を借りたい理由は、ちゃんと有るんだよ」

無言のままこちらの出方を窺うルリに、アカツキはプロスに見せたものと同じ資料を手渡した。
訝しげに資料を受け取ったルリは、チラチラとアカツキを窺いながらその資料に目を通していく。
やがて、アカツキとプロスの事すら気にならなくなったのか、凄い勢いで資料を読み切り、更にもう一度中身に目を通した。

「こっちのカードは先に切らせてもらったよ。
 この情報を知った上で、ホシノ君はテンカワ君を巻き込むべきだと思うかい?」

「意地悪な質問ですね、こんな情報をアキトさんが知ったら、次に起こす行動なんて一つしかないじゃないですか」

「そ、君が望んでいる英雄のテンカワ アキトは誕生しない。
 ただの凄腕のテロリストが誕生するだろうね。
 確かに彼の行動で大元の元凶は取り除けるけれど、その後の大混乱に巻き込まれて大量の死人が出るだろうね」

ルリはアカツキの話を聞きながら、手元の資料をじっと見詰めていた。
やがて、諦めたように溜息を吐いて、アカツキへの協力を約束した。

「それにしても、本当に邪魔ですねこの人」

「その意見には全面的に賛成するよ」

「でも、裏の事情が分かって良かったです。
 私達では辿り着けなかった情報ですからね、これは。
 それに本心かは分かりませんが、アカツキさんがアキトさんに敵対していない事も確認出来ましたし」

そう言って、初めてアカツキに向けてルリは笑顔を見せた。

「あははは、最初から誠心誠意でそう説明しているつもりだったんだけどね。
 ・・・ところで、ずっと握り締めてたそのスイッチって何?」

「押すと緊急時の呼び出しが掛かります」

「何処に」

「アキトさんのコミュニケに直接。
 第一級のエマージェンシーコールですから、どんな場所でも来てくれると信じてます」

「へ、へー、そうなんだ・・・」

無邪気に微笑むルリを見て、やはり薄氷を踏む勝利だったと、アカツキはその時に思い知ったのだった。






その後、ナデシコの修理が終わり、地球に着くまでは平和な時間が続いた。

しかし、ガイの暴走は治まりを見せず、徐々に孤立を深めていく。

アキトはその暴走がアカツキへの嫉妬だと信じており、決定的なフォローをする事が出来なかった。

また、ヒカルはガイの異常に気が付きながらも、下手に距離を置いてしまった為に声を掛けるタイミングを逃していた。

そしてそのツケは、地球に戻ってから初めての戦闘で支払われた。





北極へと向かう途中、ナデシコは無人兵器の艦隊と遭遇した。
即座に戦闘態勢に入ったクルー達は、ユリカの号令の元に戦闘を開始。
エステバリス隊はジュンの指示に従い、ナデシコに接近する敵からナデシコを防御する事となった。

そんな中、遭遇した無人兵器の中にチューリップが無い事を確認して、ユリカは人知れず胸を撫で下ろしていた。

「今回はナデシコの復調具合を見るつもりだから、最後には敵をグラビティ・ブラストで一掃しちゃいます。
 ジュン君はエステバリス隊を指示して、指定ポイントに無人兵器を追い込んでね」

「了解」

ユリカの指示に返事をしながら、ジュンが指示を出すためにウィンドウを開く。
以前までならばパイロットの人数が少ない為、どちらかと言えば苦手な防御戦だったが、今は6名も存在している。
そのうちの一人は、かなり無茶な命令も難なくこなせる凄腕パイロットなので、ジュンの指示するパーティは当初から決まっていた。

「リョーコとヒカルとイズミでナデシコの右舷を防御、アカツキとガイで左舷、テンカワは正面を頼む」

『え、俺、一人で正面なのか?』

「一人のほうが動きやすいだろ、君の場合。
 せいぜい離脱タイミングを誤って、グラビティ・ブラストに巻き込まれないようにしてくれよ」

もっとも、狙って撃った所で当たるとは思えないけどね、と思いつつジュンはアキトの発進を指示した。

『はいはい、頑張って働きますよ』

そう言い残して、漆黒のエステバリスはナデシコから飛び立つ。

『よーし、俺達も派手に行くか!!』

『あんまり働きたくないなぁ』

『寝起きだしね、私達・・・』

「愚痴を言う前に、給料分は働くように!!」

ジュンの怒声を浴びながら三人娘が出撃する。

『じゃ、こちらも適当に相手をしてこようかね』

『・・・』

アカツキがペアとなったガイに向けて会話を試みるが、ガイからの返事は無かった。

『はぁ、最近はダンマリが多いねぇ・・・』

「大丈夫かガイ?」

『ああ、体調は悪くねぇから大丈夫だ』

何時もの快活な瞳ではない、どちらかというと焦りに彩られた瞳を見てジュンは心配になった。
そして、ジュンはそんな瞳の持ち主を今まで何度も見てきた。

隣に立つユリカの才能に嫉妬し、自滅していった同期の仕官達の顔が思い出される。

ガイの精神状態に一抹の不安を感じたが、今更作戦を変更する事は出来ない。
精神的な問題でエステバリスから降ろした場合、後々まで同じ問題を引き摺りかねない。
そうなれば、残された道はパイロットの解雇しかないだろう。
日々のシミュレーション訓練の結果については、ジュンは勿論目を通している。
そこにあるガイの危うさに気が付いても、どうやればその危うさを取り除けるのかジュンは思いつけなかった。
秀才と呼ばれていても、20歳という人生経験では対処が出来ない問題だったのだ。

本人がこれが練習ではなく、本物の戦場だという事を認識し、気持ちを切替えてくれる事を祈るだけだ。
そこで保険として、ジュンは友人を止める事が可能な位置に居る人物に話しかける。

「アカツキ・・・」

『はいはい、ちゃんと見張っておくよ』

極度の集中を行っているのか、ガイはアカツキとジュンの間に交わされている会話に、一言も口を挟もうとはしなかった。
やがてガイが出撃をし、アカツキはそんなガイの後ろ姿を冷めた目で確認した後で出撃をした。

「胃が痛くなってきた」

全員の出撃を見送った後、ジュンは何故かメグミから差し入れとして貰った胃薬のカプセルを、ポケットから取り出して飲み込むのだった。






「大変です、テンカワさんが想定以上の速度で敵を殲滅しています」

「・・・何処まで非常識なんだあの男は」

「あははは、さすがアキトだね♪」

ルリの報告を受けてウィンドウを見ると、次々と消えていく光点が映し出されていた。
その光景を見て頭を抱えるジュンと、能天気に喜びの声を上げるユリカ。

当初の目的となっているグラビティ・ブラストの試射にしても、ある程度の規模の敵さえ残っていれば問題は無いと判断されていた。
今回の改修を受けてその威力が上がっているらしいので、その威力を是非とも確認しておきたいのがユリカとジュンの思惑だった。

「レイナード君、テンカワに少しペースを落とすように伝えてくれないか?」

「・・・」

「レイナード君?」

無言のまま復唱をしないメグミに、ジュンが首を傾げる。

「ああ、ジュン君。
 この前、名前で呼んで下さいねっ、てメグちゃん言ってたじゃない。
 私の記憶だと、確かその時は頷いてた筈だけど?」

その疑問にいち早く正解に辿り着いたのは、隣で仕事をしているミナトだった。
敵の攻撃はパイロット達により見事に防がれており、フィールドも万全な為にその言動には余裕が溢れていた。

「え、いや、今戦闘中ですよ?お仕事中なんですよ?
 というか、あの時はハルカさんはその場に居なかった筈では」

ジュンからの猜疑の目を受けても、余裕の笑みで弾き返すミナト。

「いやはや、何時の間にかそういう関係になっていたのですか、アオイさん。
 戦闘が終わった後、この件について少しお話を聞きたいんですが?」

プロスがメガネを光らせながらジュンの肩を叩き、今すぐ職員室に不良を連行する教師のような口調で話しかける。

「プロスさん、ちょっと僕の話も聞いて下さい!!」

「言い訳とは男らしくないぞ、アオイ ジュン」

「そうそう、男らしく責任を取りなさい」

「責任を取るような事は何もしてない!!」

ゴートとエリナから覚えの無い事で追求を受け、思わず逆上をするジュン。
何故か自分が悪くないのに、段々と追い詰めらている錯覚に陥るジュンに対して、最後の止めが刺された。

「ジュン君、私もメグちゃんの事は名前で呼んでるんだし、仕事中でも別に良いと思うよ?
 でもそうだったんだ、ジュン君とメグちゃんが、ふ〜ん」

心の底から祝福の笑顔を向けるユリカの一言を受け、ジュンの肩は力なく下がった。

「・・・メグミ君、テンカワに伝言を頼む」

「はい、了解しました♪」

何だか色々なモノが、最早どうでも良くなってきた気分のジュンだった。




「・・・何だか人間関係に細々とした変化が見られますが、これはこれで良いでしょう」

ルリは背後の馬鹿騒ぎに苦笑をしながら、忙しなく目の前の戦場の推移を見守っていた。







アキトがジュンからの制止を受け、少し無人兵器の殲滅速度を落として囮役をやっている時、アカツキから緊急通信が入ってきた。

「何かあったのか?」

すれ違い様にナイフで無人兵器を切り裂きながら、アキトは通信ウィンドウに映るアカツキに尋ねる。

『僕絶賛大ピンチ中、前衛が先程無理な突撃をして海に落とされてね・・・おっと危ない。
 遠距離専用の僕がショートレンジで大活躍だよ』

台詞ほど余裕が無いのか、忙しなく動くアカツキの額には大粒の汗が浮かんでいた。

『しかも、ヒカル君がヤマダ君救出の為に、無理矢理向こうのチームから外れたからさ、右舷側もヤバイらしいよ』

ちなみに僕も結構ヤバイ、とアカツキがおどけた口調で言う。
その態度からまだアカツキには余裕があると判断したアキトは、ルリにブリッジの判断を聞いてみた。

「ルリちゃん、ユリカやジュンは何か手を打ってるのか?」

『正面の敵をこれからグラビティ・ブラストで殲滅させる予定です。
 当初より殲滅率が少ないですが、このままパイロット達を危険な目に遭わせ続けるよりはマシという判断です。
 その後、無理矢理作った隙を利用して体勢の立て直しを計ります。
 今の所予定では、右舷にアカツキさんを派遣、アキトさんはそのまま左舷の防御に入ってもらいます。
 前方の敵にはフィールドを強化して、纏まった敵が現れたら再度グラビティ・ブラストで攻撃。
 ・・・ですので、アカツキさんはソロプレイを暫くの間、死ぬ気で頑張って下さい』

『うゎ、全然励ましになってないよホシノ君』

『ちなみに、奮闘やむなく落とされたら「色々な話」をアキトさんにバラしますから』

『うわぁ、やる気が満ち溢れてきたよ、僕!!』

突然元気になったアカツキが、気合を入れて無人兵器に攻撃を開始する。
それを不思議そうに見てたアキトに、ブリッジからの通信コールが入ってきた。
先程ルリが教えてくれた内容と同じ命令を受けて、アキトは即座に了解と返事をした。

「・・・何をアカツキと小声で話してたんだい?」

『それは秘密です』

楽しそうに笑うルリを見て、少々引っ掛かるモノはあったが、悪い事はしていないだろうと信じるアキトだった。


その後は大きなトラブルも無く、予定通りに無人兵器は殲滅された。






そしてその後、ナデシコ内にある反省室にガイとヒカルの姿があった。

先の戦闘の後、無事に救出された二人は命令違反の罪に問われて、この部屋に放り込まれたのだった。
軍に派遣されている扱いのため、厳罰を主張するムネタケを何とかユリカとジュンが煙に巻き、反省室入りで治める事が出来たのだった。

しかし、ガイについては実戦で2度目の暴走なだけに、ブリッジ全員の目には冷たいものが宿っていた。
余裕の勝利のはずが、一転して命の危機に晒されただけに、どうしてもその視線には非難の色が窺えた。

益々居場所を失っていくガイに、ヒカルの内心の不安だけが増大していく。

「・・・ヤマダ君、あれだけ注意されてたのに、どうしてまた飛び出したの?」

「・・・」

隣の部屋で床に転がっているガイに向けて、ヒカルが話しかける。





――――――だが、ガイからは何も言葉は返ってこなかった。









 

 

 

 

第九話その2に続く

 

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