< 時の流れに >

 

 

 

 

 

プロローグ

 

 

 雄大な火星をバックに二隻の船がチェイスを繰り返していた・・・

 追う者には譲れぬ想いと、忘れられえぬ思慕が・・・

 追われる者にも譲れぬ決意と、何者にも許しえぬ己の罪の意識を抱き・・

 今日もまた、お互いの想いを抱えすれ違うばかりなのだろうか。

 

 

「アキトさん!! ・・・もう直ぐユリカさんが退院されるのですよ!!

 せめて、せめて顔を出すくらい―――いいじゃないですか!!」

 

 ルリちゃんの必死な声が俺の耳に聞こえる・・・

 いや聞いた様に認識しただけだ、俺の五感が損傷著しいのは仕方が無い。

 ただ、何時までもラピスをこんな俺の呪縛に付き合わせるつもりは無いのだがな・・・

 

 ・・・未練、だな。

 

「・・・ラピス、ジャンプの準備を頼む。」

 

「・・・うん、解ったアキト。」

 

 俺の顔を暫く見た後、ラピスはダッシュにジャンプフィールドの生成を命じた。

 

「アキトさん!!」

 

「・・・俺とユリカの道が交わる事はもうありえ無い。

 そうルリ、君と同じ道を歩む事も無い。

 もし、全てが・・・

 よそう、それは言っても仕方が無い事だ。」

 

『ジャンプフィールド生成完了しました!!』

 

「アキト、ジャンプフィールドが生成終了したよ。」

 

「ああ、解った・・・何処に、行こうか。」

 

 一度、遥か遠くに行って見ようか?

 まだ誰も踏み出した事の無い領域に・・・俺には似合わないなそんな考えは。

 

 自分の突拍子の無い考えに自嘲する。

 

「よし、ジャンプ先は・・・」

 

「させません!! アキトさん!!」

 

 

ドガッッッンンン!!!!!

 

 

 突然の衝撃が、俺達の乗るユーチャリスを襲う!!

 

「くっ!! 何が起こったんだ!!」

 

『アンカーを打ち込まれたんだよ、アキト!!』

 

 強襲用のビームアンカーを打ち込んだのか!!

 このまま、ユーチャリスに乗り込んでくるつもりか、ルリちゃん?

 

 しかし、事態は俺やルリちゃんの予想を、遥かに越えた事になる。

 

「アキト!! ジャンプフィールドが暴走してる!!」

 

 ラピスが動揺をしながら、俺に報告をする。

 

 ・・・暴走、だと?

 冗談では無い、これでは本当に未知の世界に跳んでしまう!!

 

「くっ!! ジャンプフィールド緊急解除!!

 俺がブラックサレナでアンカーを絶つ!!」

 

『駄目だアキト!! フィールドの制御装置にアンカーが直撃してる!!』

 

 俺の提案はダッシュによって否定された。

 何処までも運が無いな・・・俺も!!

 

「何!! このまま、暴走するしかないのか!!」

 

「アキト・・・ナデシコが。」

 

 しまった、ナデシコとユーチャリスは繋がったままだ!!

 

「間に合うのか・・・!!

 ルリちゃん、早く逃げるかアンカーを切り離せ!!

 このままだとナデシコCも、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」

 

 余りにもナデシコCとユーチャリスの距離が近過ぎる!!

 

「し、しかし、アキトさんが!!」

 

 コミュニケの画面のルリちゃんが、珍しく慌てている。

 こんな時に何だが・・・懐かしい表情だな。

 

「俺達は何とでもなる!!

 ナデシコCの乗員全員が、ジャンパーの措置を受けているのか?

 このままジャンプに巻き込まれたら、措置を受けていない者が全員死ぬぞ!!」

 

「!!!!

 ハーリー君!! 急いでアンカーを切り離して!! 

 ディストーション・フィールド緊急展開!!」

 

「はい!! 艦長!!」

 

『駄目だ!! ジャンプを開始したよ、アキト!!』

 

「くっ、フィールドは間に合わんか!! 済まんルリちゃん!! ナデシコのクルー!!」

 

 その言葉を最後に、俺の視界は虹色の光彩に包まれた・・・

 

 

 ヴオォォォォォォォォオオオンンンン・・・

 

 

 虹色の光に包まれて・・・

 二隻の戦艦は・・・

 何処とも知れない場所へと旅立つ・・・

 それぞれの想いを乗せて・・・

 その行き付く先は果たして・・・

 

 

 

 

 

 

 

第一話に続く

 

 

 

 

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