< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第五話.ルリちゃん「航海日誌」・・・勝手に見ないで下さい、アキトさん(怒)

 

 

 

 

 

「ねえ、ルリちゃん・・・アキトと何処で知り合ったの?」

 

 ユリカさん・・・気になるんですか?

 アキトさんは、今はトレーニング室ですね。

 

 ・・・ここは、先制攻撃をしましょう。

 

「昔、一緒に住んでいました。」

 

 

 ズデ〜〜〜〜ン!!!!

 

 

 ブリッジにいる、私以外の人が全員床に倒れました。

 ・・・オーバーアクションですね。

 

「ちょ、ちょっとルリルリ!! それ本当?」

 

「ア、アキトさんって変態だったの!!」

 

「むう・・・そんな事実があったとは。」

 

 ミナトさん、メグミさん、プロスさんからコメントを頂きました。

 ・・・そう言えば、近頃フクベ提督の姿をあまり見かけませんね?

 昔も今も目立たない人です。

 そう言えば、一番大きなリアクションを返す事を予想していた、ユリカさんはどうしたのでしょうか?

 

「あれ、艦長は・・・・居ませんね?」

 

 ユリカさんの定位置でもある、ブリッジの上部にその姿はありません。

 先程、私に質問をしたはずですよね?

 

「ル、ルリルリ・・・多分冗談だったと思うけど。

 あの艦長にそんな事を言ったら駄目よ。

 一目散でアキト君を探しに、ブリッジから出て行ったわ。」

 

 ・・・アキトさん御免なさい。

 これからアキトさんに訪れる騒動を予想して、ちょっと反省してしまいました。

 

 そう言えば、もうミナトさんは私を『ルリルリ』と呼んでますね。

 ・・・なんだか嬉しいです。

 

「はい、今後は気を付けますミナトさん。」

 

「うんうん、子供は素直が一番よ。」

 

「・・・ミナトさん、私、少女です。」

 

 でも、自己主張を忘れたら駄目ですよね。

 このナデシコでの、今の私の姿では形勢不利ですから。

 ・・・せめて、5年後まで引っ張らないと。

 

「な〜んだ、ルリちゃん冗談だったんだ・・・そうよね、アキトさんがロリコンの訳ないわよね。」

 

 安心した表情でそう呟くメグミさん・・・

 やはり・・・そうなんですねメグミさん。

 

「・・・メグミさんも敵、です(ボソ)

 

「え? 何か言ったかしらルリちゃん。」

 

「いいえ、何も。」

 

 そして、順調に火星への航海は続いて行きます。

 

 追記。

 アキトさんに詰め寄ったユリカさんの話を、ウリバタケさんが盗み聞きし。

 アキトさんが暫く落ち込んだのは、失敗でした。              

 

 

 

 

 

 

「ルリちゃん・・・」

 

 疲れた顔でアキトさんが私を見ます。

 ・・・ちょっと意地悪が過ぎましたか。

 

「済みませんアキトさん。

 ちょっとだけ、ユリカさんをからかうつもりだったのですが・・・」

 

 アキトさんが自室に居るのを確認してから、通信を繋げて謝罪をします。

 

「ま、もう良いけどね。

 それで他に連絡でもあるのかな?」

 

「・・・別に今はありませんが。

 何か連絡が無いと、アキトさんと話をしては駄目ですか?」

 

「そんな事は無いよ・・・そうか、あの時の事を思い出してるんだな。」

 

 アキトさんの表情が暗くなり。

 私の表情も暗くなったと思います。

 

「・・・あの時、墓地で再開してから後のアキトさんは、私を避けてました。」

 

「あの時が・・・本当の意味で、ルリちゃん達との決別を決めた時だからね。

 俺の手は余りに血に塗れ過ぎた・・・

 それなのに、最後には結局巻き込みたく無かったルリちゃんまで巻き込んで。」

 

 あの時の事を思い出したのか・・・アキトさんの表情が険しいモノに変わります。

 

「・・・あの時から、幾度と無く連絡を取りましたよね? 

 でも、アキトさんは一度もまともに答えてくれなかった。

 ユリカさんの救出が終った後でも・・・」

 

「消え去るつもりだったからね・・・完全に皆の前から。」

 

「今回も、ですか?」

 

 今回も同じ様な事が起こるのでしょうか?

 今回も、アキトさんとユリカさんに災厄が訪れるのでしょか?

 ・・・そして、今回もアキトさんは私達を置いて去るのですか?

 

 私の真剣な眼差しと・・・

 アキトさんの漆黒の瞳が正面から絡み合います。

 

「・・・大丈夫だよ、俺はもう何処にも行かない。

 ちゃんとユリカを・・・全員を救ってみせるさ!!」

 

 その全員の中に、アキトさんは含まれているのですか?

 過去に戻ってからのアキトさんは、明るくなりました・・・見かけ上は。

 でも、本質は・・・

 自分が全ての不幸の元凶である、という考えは直ったのでしょうか?

 私はそれだけが不安なんです、アキトさん・・・

 

「それを聞いて安心しました。

 私は業務に戻りますね。」

 

「ああ、頑張ってね。」

 

「はい、それじゃあ・・・」

 

 この時、もう少し注意を払って回線を繋いでいれば・・・

 最後のアキトさんの呟きを、聞き逃さなければ・・・

 

・・・幸せになれるさ ・・・俺が消えればね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回は、お葬式がありません。

 お陰で逆にユリカさん達は暇を持て余しています。

 ・・・良かったですね、暇で。

 

「う〜〜ん、暇だよ〜、ルリちゃ〜ん。」

 

 だからって私に絡まないで下さい。

 業務の邪魔です。

 

「・・・ヤマダさんのお見舞いにでも行かれたら、いいんじゃ無いですか?」

 

 ヤマダさんは順調に回復をし。

 一週間後には、退院できるそうですが。

 艦長として、怪我をしたクルーの見舞い位はやってくれないと士気に関わります。

 ・・・もっも、このナデシコのクルーのテンションは、何時も異様に高いですが。

 

「うん、それがね。

 ユリカがお見舞いに、ユリカの手作りクッキーを持っていったらね。

 ・・・ヤマダさんの入院期間が延長されたの?

 どうしてかな?」

 

「・・・前言撤回をします。

 そのまま艦長席で、ゲームでもしていて下さい。

 

「は〜〜い?」

 

 ・・・ヤマダさん、御愁傷さまです。

 それにしても、相変らずの殺人料理なんですね、ユリカさん。

 あ、過去だから当たり前ですか。

 でも、どうしてユリカさんは急にクッキーなんてお見舞いに作ったのでしょう?

 

 ・・・まさか。

 

「もしかして、そのクッキーはアキトさんの所に、始めに持って行ったのでは?」

 

「そうだよ? 良く解ったねルリちゃん。」

 

 ゲームに熱中しながらも、私の質問に応えるユリカさん。

 こういう事では、実に器用なんですけどね・・・

 不器用が、殺人料理の決め手ではないようですね。

 

 しかし・・・アキトさん、入院中のヤマダさんを犠牲にしてまで。

 でも、背に腹は替えられませんよね。

 今、アキトさんに入院されては困りますからね。

 

「でもね、アキトったら酷いんだよ!!

 『私が食べさせてあげる!!』、って言ってるのに。

 今からトレーニングだから食べれない、って言ってね。

 ヤマダさんのお見舞いでもしてくれば、なんて言うの。」

 

 ・・・また、確信犯ですかアキトさん。 

 このままだと、ヤマダさん再起不能になっちゃいますよ?

 

 しかし、人外の回復力をもつヤマダさんは、十日後に退院されました。

 ある意味、大物かもしれませんね。

 

「俺はここで終らない!! 俺が死ぬのはコクピットの中でだ!!」

 

 そう叫んで、生死の境から黄泉返って来たそうです。

 

 ・・・熱血って凄いんですね。

 

 

 

 

 

 

 

「で、テンカワそこで素早くダシを取る!!」

 

「はい、ホウメイさん。」

 

 テンカワさんが、ホウメイさんに指示を仰ぎながら料理をされてます。

 ・・・そう言えば、お腹が空きましたね。

 

「しかし、エースパイロットのコックとはね〜

 あんたも珍しい奴と言うか、不思議な奴と言うか・・・」

 

 そんな事無いですよ、ホウメイさん。

 もともとテンカワさんは、コックになりたかったのですから・・・

 あの、運命の悪戯さえなければ。

 

「そうですね・・・まあ異色のパイロット、っていうのは認めますけど。」

 

 アキトさんが照れながら、ホウメイさんに返事をします。

 でも、料理をするその顔は本当に楽しそうです。

 やっぱりアキトさんには、笑顔が一番似合いますね。

 

「でも、アキトさんは料理もお上手ですよね!!」

 

「そうそう、強いし料理も出来るし頼れる人よね。」

 

「そうよね、アキトさんだったら私・・・」

 

「何を言ってるのかな、この子は!!」

 

「大胆発言よね!!」

 

「ははは、光栄だなそんな事言って貰えると。」

 

 ・・・敵がここにも。

 ふふふふふふ、アキトさん後でお話をしましょうね?

 

 

 ぞくっ!!

 

 

「な、なんだ? 急に背中に悪寒が・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルリちゃん、艦長は何処に行ったのかな?」

 

「メグミさん・・・実はココに篭ってます。

 オモイカネ、艦長の居場所を表示。」

 

『了解!!』

 

 そして現れる、ユリカさんの居場所・・・

 

「ここって、展望室?

 何をやってるのかしら?」

 

「展望室で星を見てますね。」

 

「・・・それは解ってるわよ、ルリちゃん。」

 

「そうですか。」

 

 ・・・ま、ユリカさんの悩みに見当はつきますが。

 ここは適任の人がいますし。

 

「大丈夫ですよ、今は敵の攻撃もありませんから。」

 

「そうよね・・・じゃあ、私はこれで今日の仕事は終るからね。

 ルリちゃんも、ちゃんと休むんだよ。」

 

「はい、解りました。

 お疲れ様です、メグミさん。」

 

 そして、メグミさんはブリッジを出て行きました。

 さて、アキトさんに連絡を取りますか・・・

 

「アキトさん、実は・・・」

 

 

 

 

 

「・・・何やってるんだよ、ユリカ?

 こんな所で一人でさ。」

 

「・・・星、見てるの。」

 

 いや・・・まあそうでしょうねユリカさん。

 でも、それを覗き見をしている私も、余り良い趣味じゃありませんね。

 ・・・お二人が心配だからいいんですよ。

 別に疚しい気持ちは・・・多分、ありません。

 

「で、何を悩んでるんだ?」

 

「アキトはさ、私をどうして避けるの?

 私なにか気に障る様な事、アキトにしたの?」

 

 やはり、その事に気付いてられましたか・・・

 恋愛関係には鈍いと思ってましたが。

 ・・・アキトさん、どう答えるのですか?

 

「ユリカ、お前が今やってる事は何だ?」

 

「え、私のやってる事・・・ナデシコの艦長、かな。」

 

 ユリカさんの目を真っ直ぐ見詰めながら、アキトさんが話します。

 多分、今アキトさんの心中は穏やかじゃないでしょうね・・・

 私にユリカさんの話をする時でさえ、辛そうな顔をされるのですから。

 

「そうだ、艦長なんだよ。

 そして俺は、パイロットでもあるんだ。

 俺はユリカの命令に従って出撃するんだぞ?

 今のお前に私情を挟まずに、俺に激戦区に出撃命令が出せるか?」

 

「・・・そんな、アキトは元々はコックなんだし。」

 

 

「そんな甘ったれた事言ってる場合か!!」

 

 

 急にアキトさんに怒鳴られ、驚くユリカさん。

 

「もう俺は、ナデシコでパイロットになる事を承知したんだ。

 俺が出撃しなくても、リョーコちゃんやガイは出撃するんだ。

 なら、一人でも数は多い方がいい・・・

 ユリカ、お前はこのナデシコの全責任を負ってるよな?」

 

「うん・・・」

 

「俺と仲が良いからと言って、特別視をするな。

 それが・・・俺が今迄ユリカを避けて来た訳だ。

 お前はナデシコを導かないといけないんだよ。

 俺のせいで、肝心な時に判断を誤る訳にはいかないんだ。」

 

 アキトさん・・・でも、それは間違ってます。

 感情を押し殺したユリカさんは、ユリカさんじゃありませんよ。

 何を・・・考えられているんですか?

 そこまでユリカさんを避けるなんて・・・

 まるで、自分がいなくなっても大丈夫な様に、気を配ってるみたいですよ・・・

 

「じゃあ、私がしっかりとプライベートと艦長の仕事を区別していれば。

 アキトは・・・私を避けないのね!!」

 

「う!! そ、そうだな・・・」

 

 ・・・やはり口論では勝てませんか。

 墓穴を掘ってられますが、ユリカさんは元気になりましたね。

 お疲れ様ですアキトさん。

 

 ・・・今日の覗き見は、ここまでにしておきます。

 サービスで展望室も、ロックしておきます。

 しっかり・・・反省して下さい。

 

「で、出られ無い!! 何故だ!!

 ま、まさかルリちゃんか!!」

 

「ア〜キ〜ト〜!! 今は5時過ぎだから艦長の仕事は終わりだよ!!

 プライベートだと、私の事避けないんだよね?」

 

「・・・怒ってるのかルリちゃん(汗)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くすると艦内で叛乱が起こりました・・・

 そういえば過去でも、火星に到達寸前にウリバタケさん達が叛乱を起こしましたね。

 叛乱の理由は・・・男女交際についての条件でした。

 ・・・昔と同じだと解っていますが。

 良い大人がそんな事で、一致団結しないで下さいよね。

 

 あ、今は人事じゃないですね。

 私もアキトさんと・・・(ポッ)

 

 

「我々は〜、断固ネルガルに抗議する〜!!」

 

 

 ウリバタケさんの抗議の声の大きさに、驚くユリカさん。

 

「ちょっと、急に何を言い出すんですか?」

 

「これを見てみろ、艦長!!」

 

 そう言ってネルガルの契約書を、ユリカさんに突き付けるウリバタケさん。

 ・・・かなりヒートアップしてますね。

 

「え〜!! 男女交際は手を繋ぐまで〜!!」

 

「そう言う事だ。

 お手て繋いで、ってここはナデシコ保育園か?」

 

 そう言いつつ・・・やはり、リョーコさんとヒカルさんの手を取って。

 鳩尾に一撃をもらいましたね。

 

「調子に乗るな!!」 × (リョーコ、ヒカル)

 

 以後、ウリバタケさんの演説が続きます・・・

 

「ルリちゃん・・・」

 

「何ですかアキトさん?」

 

「キリが無いから、先に格納庫に行ってるよ。」

 

 ああ、もうそろそろですね。

 木星の無人兵器の一斉攻撃は・・・

 

「じゃあね。」

 

「はい、解りました。」

 

 ・・・相変らず恋愛関連に関しては逃げますね、アキトさん。

 この騒動も、半分はアキトさんも関連していると思うのですが?

 リョーコさんも、おられるんですからね。

 

「それは!! 契約書にサインされた方が悪いのです!!」

 

 あ、プロスさんとゴートさんがライトアップされながら登場しましたね。

 演出が凝ってますね・・・オモイカネも既に、このナデシコに染まってますね。

 まあ、私がここまで教育したのですが。

 

「何だと!! こんな細かい項目まで、誰が目を通すって言うんだ!!」

 

「あ、私は全部読みました。」

 

「へ? ルリルリ・・・そんな。」

 

「ふっ、これでウリバタケさんの論拠は崩れましたね。」

 

 眼鏡の位置を直しながら、勝利の宣言をするプロスさん。

 それを見て、悔しそうに歯軋りをするウリバタケさん。

 

 さて、一応これで口論は終りでしょうか?

 

 その時、ブリッジに大きな衝撃が走りました。

 

 

 ドゴォォォォォォンンンン!!!

 

 

 ふむ、やっと火星に到着しましたね。

 

「これは・・・木星蜥蜴の攻撃です。

 これには迎撃が必要です、艦長!!」

 

「そうなの、ルリちゃん?

 それでは、総員戦闘態勢に移行して下さい!!」

 

 ユリカさんの命令を受けて、ブリッジの全員がそれぞれの持ち場に着きます。

 ウリバタケさんとリョーコさん達も、格納庫に向っています。

 

 暫くすると、アキトさんから連絡が入りました。

 

 

 ピッ!!

 

 

『ルリちゃん出して!!』

 

「解ってます。

 テンカワ機、発進します。」

 

「流石アキト!! 行動が早いね!!」

 

 こうしてアキトさんが先行で出撃をする形で。

 ナデシコの火星侵攻が始まりました・・・

 

 

 

 アキトさん・・・貴方はこの戦争の後に、何を考えているのですか?

 私には、解りません・・・

 アキトさんのエステバリスを補佐しながら、私は未来に思いを馳せます・・・

 

 

 小さな幸せ・・・それすらも、自分には許せないのですか、アキトさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六話に続く

 

 

 

 

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