< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第六話.「運命の選択」みたいな・・・俺が、決めるのしかないのか?

 

 

 

 

 

「さて、と・・・」

 

 俺は一足先に出撃をし、雑魚共の掃除をしていた。

 リョーコちゃん達やガイを待つ間の、時間つぶしだ。

 ・・・別に一人で突撃をしても、無傷で帰ってくる自信はある。

 だが、ガイもそうだが皆とのチームワークを、無用に乱す必要は無いだろう。

 

「おーい、テンカワー!!」

 

「お待ちどう様〜〜♪」

 

「ふふふふ、やっぱり無事だったようね・・・」

 

 おや、リョーコちゃん達が先に着いたか・・・

 ガイはどうしたんだ?

 真っ先に突っ込んで来ると、予想していたんだがな。

 

「リョーコちゃん、ガイはどうしてた?」

 

 俺は取り敢えず、リョーコちゃんにガイの行方を訪ねた。

 

「ガイ・・・誰だそりゃ?」

 

 頭を捻ってるリョーコちゃん。

 まてよ? そう言えば・・・

 

「ほらリョーコ!! 格納庫にいた男の人!!

 確か自分はダイゴウジ ガイだ!! って叫んでなかった?」

 

 ・・・リョーコちゃん達とガイは、面識が無かった、な。

 ガイは先日まで、入院状態だったからな。

 

「・・・ああ、あの謎の熱血男。

 確かエステバリスに乗り込もうとしてるから、三人でフクロにしたのよね。」

 

 イ、イズミさん!!

 ・・・それは、酷い。

 ガイ、お前って・・・それにしても整備班は誰も止めなかったのか?(止めなかったらしい・・・)

 

 帰艦後、ガイが一週間入院をするほどの怪我をした事を、俺はルリちゃんから聞いた・・・

 この三人に逆らうのは・・・得策では無い様だ。

 

 

 

 

 

 そして戦艦ナデシコの、初めての本格的な戦闘が始まった・・・

 

「おらっ!!」

 

 リョーコちゃんの一撃で牽制をし・・・

 

「ヒカル!!」

 

「お任せ!!」

 

 ディストーション・フィールドを全身に纏った、ヒカルちゃんのエステバリスが敵を一気に殲滅する。

 

「おらおら!! 次ぎ行くぞ、次ぎ!!」

 

「お〜!!」

 

「・・・くくく、殺して上げる。」

 

 ・・・元気なのは良い事だ。

 でも、イズミさんが何だか恐いよ。

 さてと、雑魚はリョーコちゃん達に任せておいて。

 

「ルリちゃん、敵の戦艦は幾つ?」

 

『戦艦タイプは3隻を確認しています。

 後は、護衛艦タイプが30隻ですね。』

 

 ルリちゃんから、素早い返答が返って来る。

 レスポンスがいいね、相変わらず。

 

「ナデシコのディストーション・フィールドが、この敵戦艦の集中攻撃に耐えられるのは・・・

 後、10分ってところですか?

 フィールドを張るのに全力をかけてますから、グラビティ・ブラストの援護射撃はありません。

 でも、アキトさんには余裕ですよね?

 では、お任せしますアキトさん。」

 

 全然焦った様子も見せず、俺に微笑みながら現状を報告するルリちゃん。

 ・・・後ろのブリッジは、何だか騒がしいのだが。

 

「了解!! 5分で全戦艦を殲滅する!!」

 

 ・・・信頼されてるからな。

 今は、その信頼に応えないとな。

 

「リョーコちゃん!! ヒカルちゃん!! イズミさん!!

 サポート頼みます!!」

 

「おう!!雑魚は任せとけ!!」

 

「派手にやっちゃってね!!」

 

「・・・宇宙に華を咲かせてね。」

 

 ・・・イズミさん、それ意味を間違えたら恐いよ。

 

「では!! 行って来る!!」

 

 

 ゴゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウ!!!

 

 

 俺はエステバリスのスラスターを全開にし、手にはイミディエット・ナイフを持って突進する。

 敵戦艦からの主砲の攻撃を、ギリギリで避け・・・

 護衛艦や、バッタ達のミサイルの一斉攻撃を素早く潜り抜け・・・

 時には、ディストーション・フィールドの一撃で雑魚共を殲滅する・・・

 

 

 戦闘時の俺の意識は・・・昔の俺に戻る。

 

 血に塗れ・・・

 

 血に飢え・・・

 

 あいつ等への復讐だけに、我が身を焦がした時間。

 

 

 全ての敵の攻撃が移動が、俺にはスローモーションに見える。

 戦闘時にはいつも感じる感覚だが、更にシャ−プになっている・・・

 やはり、五感を取り戻したのが大きいのだろう。

 最早、無人兵器では今の俺を止める事は・・・出来ん!!

 

 

「お、おおおおおおお!!!!」

 

 

 遂に、一隻目の戦艦に突撃をする!!

 慌ててフィールドを強化している様だが・・・遅い!! 

 

 

 ドシュ!!

 

 

 ・・・ドゴゴゴゴゴォォォォォォォンンン!!

 

 

 俺の一撃にエンジン部分を破壊され、沈む戦艦。

 現在、ルリちゃんとの通信から3分がたっていた・・・

 

 

 

 

 

「まさか!! 本当に5分で終らせるつもりですかテンカワさんは!!」 (プロス)

 

「プロスさん・・・アキトさんの実力はまだまだ、こんな物じゃ無いですよ。」 (ルリ)

 

「そうだよね、アキトは、アキトは私の王子様だもん!!」 (ユリカ)

 

「しかし、信じられん・・・いや、異様な程の戦闘能力だな。」 (ゴート)

 

「良いじゃない? 味方なんだからさ。」 (ミナト)

 

「・・・では、もしテンカワが敵にまわるとしたら?」 (ジュン)

 

「それは無いですよ。」 (メグミ)

 

「何故、そんな事を断言出来る?」 (フクベ)

 

「「「ナデシコには私がいますからね。」」」 (ユリカ、ルリ、メグミ)

 

「はいはい、ご馳走様。」 (ミナト)

 

「「「・・・」」」 (プロス、ゴート、フクベ)

 

 ブリッジでこの話しがされている間に、俺は二隻目の戦艦を撃沈した。

 現在の時刻・・・通信後から4分。

 

 

 

 

 

「ラスト!! 沈めれる、な?」

 

 俺の攻撃を予想していたのか、最後の戦艦はフィールドの強化を終らせ。

 自分はナデシコへの攻撃を止め。

 護衛艦とバッタ、ジョロに俺への攻撃を集中させていた。

 

 どうやら、ナデシコよりも俺に脅威を感じた様だ。

 もっとも、無人兵器に感情は存在しないがな。

 純粋に俺とナデシコの戦力の差を、計算した結果だろう。

 

「ふん? 無人兵器もそれなりに考える、か。

 ・・・だが、それしきの攻撃で俺を止められると思うなど、甘い考えだ!!」

 

 ギュオン!!

 

 俺は一旦戦艦から距離をとり・・・

 フィールドを前方一点、拳にのみ集中する。

 

「テ、テンカワ!! お前何をするつもりだ!!」

 

「無茶よアキト君!!」

 

「・・・貴方が華になってどうするの、アキト君。」

 

 俺の意図に気が付いたパイロット三人娘から、制止の声が上がる・・・

 現在の時刻・・・4分30秒。

 

「ふっ、無茶をするつもりは無いし・・・自殺願望でもない!!」

 

 俺はそう返事を返し・・・宇宙に盛大なスラスターの光列を描き、爆発的な加速を開始する!!

 そして、雨の様に降り注ぐミサイルとビームの嵐の中に、俺のエステバリスが突入する!!

 

       ゴォォォォォォオオオオ!!

 

                             ギュワァァァァァアアア!!

 

 全身にフィールドを張れば、それらの攻撃を防げるが、着弾の衝撃でスピードが落ちる・・・

 ならば・・・攻撃を全て避ければいい!!

 拳の先に集中したフィールドでの一撃・・・それも、最高にスピードの乗った一撃。

 これで決着をつける!!

 

 

「落ちろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 一瞬のデジャビュ・・・

 俺はこの時、あの復讐鬼と化していた。

 

 ミサイルを全て紙一重でかわす!!

 出来るかぎり一直線で、余計な回避は行わない!!

 ビームが機体を掠める・・・それも敵の銃口から射軸を計算済みだ、当たりはしない!!

 敵の攻撃の間を一筋の光の矢と化し・・・

 俺の一撃が敵戦艦のフィールドを突破し・・・

 遂に敵戦艦を捕らえる。

 

 

 ドガァァァァァアアアンンン!!

 

 

「ディストーション・フィールド、前方に解放!!」

 

 ナイフを突き刺した状態で、拳に集中していたフィールドを解放。

 エンジン周辺を爆破する!!

 

 そして・・・

 

 

 ズズズゥゥゥゥゥゥンンンン・・・

 

 

 最後の戦艦が撃沈された・・・

 

 

 

「敵戦力80%を殲滅・・・

 通信後からの経過時間は、4分53秒。

 お疲れ様ですアキトさん。」

 

「ミッション終了・・・後は残敵の掃討に入るよ、ルリちゃん。」

 

「はい、護衛艦はナデシコに任せて下さい。」

 

「じゃあ、バッタとジョロの相手でもしてくるか。」

 

 俺とルリちゃんの緊張感の無い会話を・・・

 信じられない、と言う顔で全員が聞いていた。

 

 

 

 

 

 そして、ナデシコは火星に無事突入した・・・

 懐かしい風景が、俺の目の前に広がる、そして・・・

 火星を覆い尽くすナノマシンの光が・・・

 俺が幼い頃から見続けた光景が・・・

 両親がいて、ユリカがいて、俺が俺らしくあった幸せな時代・・・

 もう・・・帰れない時代の象徴。

 俺はそのナノマシンの煌きに見惚れた・・・

 

 

 

 

 

「グラビティ・ブラスト、スタンバイ!!」

 

「グラビティ・ブラスト、発射準備完了。」

 

「どうして今更グラビティ・ブラストの用意をするの艦長?」

 

「火星で待ち構えている、敵第ニ陣を一挙に殲滅します!!

 ルリちゃん、チューリップの位置はサーチ出来た?」

 

「完了してます。

 ミナトさん・・・このポイントに移動して下さい。」

 

「・・・ふんふん、了解!!」

 

 

 ドゴオォォォォォォォォオオオオオオオンンンン!!

 

 

 そしてナデシコの上空からのグラビィテ・ブラストの一撃に、敵チューリップは殲滅した。

 ただし・・・

 

 

「重力制御を忘れてるぞユリカ!!」

 

 俺は必死で手近な物に掴まる!!

 今や床は直角の壁と化していた!!

 

「テ、テンカワ!!」

 

「きゃああああ!! アキト君!!」

 

「くっ!!」

 

 ぐえっ!!

 

 リョーコちゃん達三人が、俺にしがみ付く。

 全員女性だったのと・・・ナデシコに乗ってからの日課の鍛錬のお陰で、何とか支える事が出来たが。

 

 下手をすれば全員滑り落ちてたぞ。

 

「くそ〜〜〜〜〜!! テンカワばかり美味しい目に会いやがって!!」

 

 ・・・俺も出来れば変わって欲しいですよ、ウリバタケさん。

 

 あ、ウリバタケさんが落ちた。

 ・・・ま、大丈夫だろう。

 

 

 と言った被害が発生した。

 頼むからもう少し考えて戦ってくれ、ユリカ・・・

 

 

 

 

 

「では、今からナデシコはオリンポス山に向かいます。」

 

「そこに何があるんですか?」

 

 プロスさんの話を聞いて、ユリカが質問をする。

 

「そこにはネルガルの研究施設があるのですよ。

 我が社の研究施設は、一種のシェルターでして・・・

 一番生存確率が高いのです。」

 

「では、今から研究所への突入メンバーを発表する。」

 

 ゴートさんの声を聞きながら、俺は思案にくれていた・・・

 どうやって一人でユートピア・コロニーに行く?

 多分今の俺を、プロスさん達が手放すとは思え無いしな。

 これではアイちゃん・・・イネスさんを救出なんて出来ないぞ。

 仕方が無い、ここは過去と同じ現象を期待しよう。

 

「済みません、俺にエステを貸して貰えますか?

 故郷を・・・ユートピア・コロニーを見に行きたいんです。」

 

「何を言い出すんだテンカワ!!

 今、お前とエステを手放せる訳ないだろう。」

 

 ゴートさんが顔を顰めて怒る。

 

 やっぱり・・・そう言うよな。

 

「・・・かまわん、行ってきたまえ。」 

 

「提督!! 何を言うんですか!!」

 

 期待通りのお言葉、有難うございます提督。

 貴方の心中・・・今では理解出来ますよ。

 俺も貴方も、大切な者を助ける為に血を・・・罪を重ねた身ですから。

 俺はユリカを、貴方は仲間と地球の人々を・・・

 だから俺は貴方を責めません。

 罪悪と後悔の念に捕われる者同士だから・・・

 

 

 

 

 そして俺は、陸戦用エステバリスで故郷の地を踏みしめた・・・

 ・・・メグミちゃんを連れて。

 一体何時の間に、俺のエステバリスに取り付いたんだ?

 女性は時に、俺の予想を遥かに越える事をしてくれる・・・

 

 その頃格納庫では・・・

 ウリバタケさんを筆頭にアンチ・テンカワ アキト同盟が成立していた。

 

 ・・・勘弁してくれ。

 

 

 

「うっわ〜〜〜〜!! 気持ちいい!!」

 

「・・・あんまり身体を乗り出すと、エステから落ちるよメグミちゃん。」

 

「・・・ここから、アキトさんの故郷って遠いんですか?」

 

「まあ、ちょっとね・・・」

 

 メグミちゃん・・・今回は俺との接点は殆ど無い筈なのに。

 何故、俺に近づく?

 

「アキトさん・・・どうして何時もそんな悲しそうな目で、皆を見てるのですか?」

 

「そ、そんな事無いよ。」

 

 俺の心臓は、一瞬跳ねあがった。

 

「嘘です。

 私にはアキトさんが何を悲しんでいるのかは、解りません・・・

 でも、気になるんです。

 今迄の人生でそんな悲しいけど・・・澄んだ目の人とは、出会った事が無かったから。」

 

「・・・」

 

「別に無理に話す事は無いです・・・

 ただ、私は何時でもアキトさんの相談に乗りますからね!!」

 

「・・・ああ、有難うメグミちゃん。」

 

 

 メグミちゃんの話を聞き終わり。

 俺は地球にいるラピスに、話し掛ける。

 

(・・・ラピス、これがナデシコの人達だよ。)

 

(・・・うん、私も乗ってみたいな、ナデシコに。)

 

(必ず乗せてあげるよ・・・もう少ししたら、ね。)

 

(うん、解った待ってるよアキト。

 だから、アキト頑張ってね!!)

 

(ああ、じゃあラピスも頑張ってな。)

 

(うん。)

 

 そして、俺とラピスの話は終わった。

 

 

「・・どうしたんですかアキトさん?」

 

「え? ああ、見えたよあれがユートピア・コロニー・・・だった所だよ。」

 

「あれが・・・アキトさんと艦長の故郷。」

 

 

 

 その頃ナデシコブリッジでは・・・

 

「・・・問題、有りますよね!!」

 

「いいじゃ無い・・・敵さんが来ないんだから、通信士の一人位居なくても。」

 

「問題大有りです。」

 

「ル、ルリルリ(汗)」

 

「ルリちゃん(汗)」

 

メグミさんの行動力を侮っていました・・・

 これは、アキトさんを問い詰める必要がありますね。」

 

「ミ、ミナトさん・・・ルリちゃんが恐い。」

 

「そ、そうね・・・」

 

 この時俺は何故か、ナデシコに帰るのは危ない、と本能が告げていた。

 でも、帰らない訳にはいかないだろう・・・

 

 

 

 

 俺はイネスさんと合流する為に、例の場所に向かった。

 ・・・今回は時間の勝負だから。

 ルリちゃんに、ユリカを何時までも引き止める事は出来ないだろう。

 

「ここらへんだった・・・かな?」

 

「・・・どうしたんですか、アキトさん?」

 

「いや、ちょっとね・・・地盤が緩くなってる!!」

 

 そんな台詞をいいながら。

 俺は目測で、地面のある一点に踵を叩き付ける!!

 

 

 ボコッ!!

 

 

 予想通り、ドンピシャだ!!

 俺達の足元の地面が崩れ、俺とメグミちゃんが地下に落下する!!

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!!」

 

 俺はとっさにメグミちゃんを抱き抱え、両足のバネをフルに使って着地の衝撃を逃がす!!

 

 

 ドン!!

 

 

 ふう、どうやら怪我も無く着地出来たようだな。

 

「メグミちゃん、もう大丈夫だよ。」

 

「あ、有難う御座います、アキトさん。」

 

 何故か赤い顔をしているメグミちゃんを、俺は地面に降ろし周囲の気配を探る。

 確か過去では、ここでイネスさんと・・・

 

 しかし、俺が見付けたのは白衣の女性ではなく。

 

「誰だ!! お前達は!!」

 

 男性? しかも複数!!

 

「わ、私達はナデシコの・・・」

 

「木星の奴等か!! くそっ、ここまで見付けたのか!!」

 

 そう言って男達は暴徒と化し、俺達に襲いかかって来た・・・

 長い避難生活で、気がふれかかっているのか!!

 

「どいてろ、メグミちゃん!!」

 

「で、でも、アキトさん!!」

 

 俺はメグミちゃんを後ろに庇い、迫り来る男達と対峙する。

 ・・・少々の怪我位、覚悟してもらうか。

 

 

 ビュッ!!

 

 

「危ない!!」

 

 俺はメグミちゃんに向って、鉄パイプを振り落としてきた男を蹴り飛ばす!!

 

 

 ドガッ!!

 

 

「女性と認識していても・・・おかまい無しか!!

 なら、俺が目を覚ましてやる!!」

 

 俺の素早い回し蹴りをくらい、吹き飛ぶ男・・・

 

 ガスゥ!!

 

「ぐあっ!!」

 

「貴様!!」

 

 一人の男が怒声を上げながら、俺に向って突進する。

 無言でその男の攻撃を、体捌きでかわしつつ・・・カウンターで鳩尾に肘を叩き込む。

 

 ドゥ!!

 

「げっ!!」

 

 そのまま泡を吹いて倒れる男。

 

 ・・・手加減はしてある。

 三日も寝込めば回復するだろう。

 

 一瞬の内に三人の仲間を倒され・・・全員の顔に理性が戻りつつあった。

 かわりにその顔に浮かぶものは・・・俺への恐怖だがな。

 

「さて・・・どうする?

 このまま全員地面に沈むか。

 それとも・・・そこまで人生を諦めてるなら。

 いっその事、俺がお前達の人生に幕を降ろしてやろうか?」

 

 俺の本気の眼差しを前に・・・

 俺の顔を真正面から見れるほどの人物はいなかった。

 

「そこまで・・・人生に絶望はしていないわ・・・少なくとも私は、ね。」

 

 ・・・そこに、居たんだなイネスさん。

 男性陣の後ろからイネスさんが現れた。

 

「それで、勇敢なナイトさんは何処から来られたのかしら?」

 

「俺達は・・・」

 

 俺の説明と・・・メグミちゃんの説得に、イネスさん達は予想通りナデシコへの乗船を拒否した。

 

「では、住民を代表してプロスさんにその意思を伝えて下さい。」

 

「・・・そうね、貴方達もそれなりに苦労してここまで来たのだし。

 私がプロスさんに説明をするわ。」

 

 よし、予想通りイネスさんは連れ出せたな。

 

「では、この上にエステバリスが置いてありますので。」

 

 そして、俺とメグミちゃん、イネスさんは・・・ナデシコに向って旅立った。

 

 これで俺がナデシコに合流すれば、あの地下の人達は無事に火星で過ごせるだろう。

 

 ・・・もう少しの辛抱だ。

 この火星は・・・必ず取り戻す!!

 

 

 

 

 

「・・・ルリちゃ〜ん、お願い!!」

 

「駄目です・・・アキトさんからお願いされてますから。」

 

「艦長、いい加減諦めて、アキト君達が帰って来るのを待ってなさいよ。」

 

「ぶ〜〜〜、でもアキトとメグちゃんが一緒なんだよ!!

 ルリちゃんも心配・・・!!」

 

 

 ズズゥゥゥゥゥゥンンン!!!

 

 

「敵、前方のチューリップから次々に現れます。」

 

「ルリちゃん!! グラビティ・ブラスト発射準備!!」

 

「グラビティ・ブラスト・・・発射準備完了。」

 

「発射!!」

 

 

 ギュォォォォォォォォンンンン!!!

 

 

「・・・敵、小型機は殲滅するものの。

 戦艦タイプは依然として健在。

 その数・・・更に増大しています。」

 

「な、何でグラビティ・ブラストが効かないの?」

 

「・・・艦長、敵もディストーション・フィールドを張ってるみたいです。」

 

「そんな・・・ここからフィールドを張りつつ撤退!!

 あ、でもアキトがまだ合流してない!!」

 

「・・・テンカワ機より、通信が入ります。」

 

「え!! 本当ルリちゃん!!」

 

「本当です、通信出します。」

 

 

 ピッ!!

 

 

「ユリカ!! 今から敵陣を強行突破してナデシコに合流する!!」

 

「・・・アキト。」

 

 呆然とした顔で呟くユリカ?

 一体どうしたんだ?

 

「・・・聞いているのか?

 俺とメグミちゃんと後一人、イネスさんって人が合流するからな!!」

 

「・・・アキトさん。」

 

 どうしてルリちゃんの目が冷たくなってるんだ?

 

「大丈夫だよルリちゃん。

 今回は回避に徹するからさ。」

 

「・・・アキト君って。」

 

 ミ、ミナトさんまで?

 

 

「「「そんなの信じられません!!」」」

 

 

「へ?」

 

 俺は頭の中が一瞬白紙になった・・・

 

「何よアキトその格好は!!」

 

 ユリカが叫び・・・

 

「どうしてメグミさんを、膝に抱っこされてるんですか?」

 

 ルリちゃんが凍り付く様な瞳で、俺を睨み・・・

 

「その右手に抱いている女性は誰なの、アキト君?」

 

 ミナトさんが軽蔑の眼差しで、俺を見る・・・

 

 

 ・・・音声だけにしておけば良かった。

 映像まで送ったのは・・・失敗だったな。

 だって、コクピットって基本的には一人用なんだぞ?

 三人も乗ってれば・・・こうなるんだって。

 しかも、今は戦闘中で激しく揺れるし・・・

 

 

「・・・後で、きちんと釈明します。」

 

「なら宜しい。」

 

「・・・本当の事を言って下さいねアキトさん。」

 

「どんな言い訳をするのかな? アキト君は?」

 

 

 未来を知っていても・・・

 俺は女性陣には勝てんみたいだ・・・

 

「くっそ〜!! お前達が一番の邪魔物なんだよ!!」

 

 俺は取り敢えず、目の前に展開する無人兵器に怒りをぶつける事にした。

 ・・・結果、予想よりかなり早くナデシコと合流する事が出来た。

 

 しかし・・・

 

 格納庫で俺に抱き付いてエステから降りて来るメグミちゃんと、イネスさんを見て。

 アンチ・テンカワ アキト同盟が。

 テンカワ アキト抹殺組合に格上げされた事を、俺は知らなかった。

 

「テンカワ・・・お前だけが幸せになれると思うなよ!!」

 

 

「おおおおおお!!」(整備班全員)

 

 

 ウリバタケさんの号令のもと・・・多数のメカニックが参加していたらしい。

 

 俺の・・・せいなのか?

 

「アキトさんのせいです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

第七話に続く

 

 

 

 

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