< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第八話.温めの「冷たい方程式」・・・ここからが本当の始まり、だ。

 

 

 

 

 

「もう直ぐだよね・・・アキトが帰って来るのは。」

 

「そうだね、火星脱出から八ヶ月・・・過去と同じ事象が起こるとすれば・・・」

 

「じゃあ・・・今日はこれ位にしておきましょうか。

 予定の80%は完了してるし、後は仕上げだけね。」

 

「そうしよう、近頃は大分警戒がキツクなってきたし。

 十分に注意をしておいて損は無いしね。」

 

「ふふふ・・・まだまだ余裕があるくせに。

 でも、私も疲れたからもう寝る。

 通信を切るね・・・お休みハーリー。」

 

「ああ、お休みラピス・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・帰って来るんですね艦長・・・いや、ルリさん。

 アキトさんと一緒に。

 僕は・・・僕はやっぱり、彼には勝てないのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回も目が覚めれば・・・

 戦闘の真っ只中だった。

 

 第四次月攻略戦

 

 

 

 ピッ!!

 

 

「おはよう御座います、アキトさん。」

 

「ああ、おはようルリちゃん。」

 

 俺はぼやける頭を、強く左右に振って覚醒させる。

 そして、俺は周りの現状を素早く確認する。

 

 ・・・ご丁寧にも、また展望室に飛んでるな。

 過去と完全に同じ状況か。

 しかし・・・ルリちゃんって結構タフだな。

 俺より先に気が付いてるし。

 

 

 俺の右側には、イネスさんが。

 左側には、ユリカが気絶した状態で寝ていた。

 

 取り敢えず・・・起こすか。

 外は戦闘中だしな。

 

「おい、ユリカ起きろ!! 起きろってば!!」

 

 かなり激しくユリカの身体を揺さぶる。

 お、反応があったぞ。

 

「う〜〜〜ん、アキト〜〜〜〜」

 

 ゴロッ・・・

 

 寝言を言いながら横に転がる。

 

 ・・・そして、それっきり動かないユリカ。

 

「何だよ?

 ・・・まだ寝てるのか、コイツ?」

 

 寝言で返事を返すな!! 紛らわしい!!

 

「えっ!! アキト!!

 ・・・そんな駄目よ、まだ正式に付き合ってる訳じゃ無いし。

 でも、アキトなら・・・私。」

 

 ・・・本当に寝言か? ユリカ?

 

 俺は疑いの眼差しで、馬鹿な事を言っているユリカを睨む。 

 

「・・・で、どうするんですかアキトさん。」

 

 ルリちゃん・・・ずっと監視してたのか?

 別に、俺は疚しい事をしてた訳じゃ無いんだ。

 そうだよな・・・なら、堂々としていよう・・・

 しかし、ユリカの寝顔を見るのも久しぶりだな。

 

 あの、屋台を出していた時間を思い出す・・・

 忘れる事を強制した、幸せな思い出の時間。

 ルリちゃんとユリカ、三人で屋台を引いて帰ったよな。

 同じ部屋で寝泊りして・・・

 

 ・・・今なら、あの時をやり直せる?

 いや、止そう。

 この想いは・・・封印したんだ。

 

「強行手段に出る。」

 

 ユリカの寝起きの悪さは、俺もルリちゃんもよく知っている。

 さて、どうするか?

 

「・・・目覚めの口付でもしますか?」

 

 ル、ルリちゃん? 何を言い出すんだよ。 

 

 ん!! 何故かユリカが顔を赤らめてる?

 お前まさか・・・

 

「・・・じゃあ、お言葉に甘えて。

 ついでにその先も、やっちゃおうか?」

 

「ほ、本当アキト!! でも、あの、その先って!! あ・・・」

 

 

 シーン・・・

 

 

「・・・馬鹿。」

 

 ルリちゃん・・・久しぶりだねその台詞。

 俺とルリちゃんの冷たい眼差しが、ユリカに突き刺さる。

 そして冷や汗をかきながら、ユリカが現状をルリちゃんに聞く。

 

「ル、ルリちゃん現状を報告!!」

 

 誤魔化したなユリカ。

 

「はい、ナデシコは通常空間に復帰しました。

 ・・・現在ナデシコ船外では戦闘中。」

 

「へ? 誰と誰が戦闘をしてるの?

 ・・・あれ? 私どうして展望室にいるの?」

 

 頭を捻りながらユリカがルリちゃんに質問をする。

 ・・・今の状況は、そんな呑気な事を言ってる場合ではないぞユリカ。

 

「モニターに出します・・・これ現場です、艦長。」

 

 ルリちゃんも、説明するより実際に見せる方が早いと考えたらしい。

 モニターには・・・連合宇宙軍と木星蜥蜴の戦闘が映しだされた。

 あ、一匹のバッタがドアップで飛んで来る・・・

 

「のええええええええ!!!」

 

 はしたないぞユリカ・・・お前、お嬢様育ちだろうが?

 

「ど、どーなってるの、これ?」

 

「本艦は現在月付近を航行中、木星蜥蜴の軍の真っ只中です。」

 

 どうやらチューリップから出現して、さほど時間はたってないみたいだな。

 俺はルリちゃんの報告を聞きながら、そう判断した。

 

「グ、グラビティ・ブラスト広域放射。

 直後にフィールドを張って後退!!」

 

「了解しました・・・」

 

 ん、ちょっと待てよ確か過去ではその命令を実行して・・・!!

 

「ル、ルリちゃん、ちょっとその命令・・・あ。」

 

 

 ゴワァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 ドゴゴゴゴ!!

 

                バガガガガガッガア!!

 

 俺の目の前では、グラビティ・ブラストの広域放射で破壊される無人兵器の群れが・・・

 ついでに破壊される、連合宇宙軍の艦隊が・・・

 

「ルリちゃん・・・」

 

「大丈夫です、奇跡的にも連合宇宙軍に死人は出てません。」

 

 ・・・そ、そう?

 まさか、さっきのユリカの狸寝入りの報復じゃ無いよな?

 

「艦長、巻き込まれた連合宇宙軍の司令から、苦情の連絡が入ってます。」

 

「え、ええええええええええ!!!」

 

 その後、ユリカは連合宇宙軍の司令からさんざん嫌味と脅しを受け・・・

 いじけている所を更に、ジュンとゴートさんの小言に追撃をされていた。

 

「ふぇぇぇぇんんん、ごめんなさ〜〜〜い。」

 

「御免で済んだら戦争なんておきないよ、ユリカ。」

 

 うむ、名言だジュン。

 

「せめてブリッジにいれば、状況は見えた筈だ。」

 

「うううう、だって気が付いたら展望室にいたんだもん・・・」

 

 そして連合宇宙軍の艦隊は、傷付いたナデシコを残して去って行った。

 ・・・一応民間の船が困ってるんだから、助けろよな軍人さん。

 

 

「・・・これでユリカさんも反省するでしょう。」

 

「・・・やっぱりルリちゃん、解っててやったんだね。」

 

 俺はエステバリスに待機状態だったので、ブリッジの会話を通信で聞いていた。

 ルリちゃんに逆らうのは怖い、と俺は痛感した・・・

 

『そうだ!! ねえアキト!!

 アキトはどうして私達が展望室にいたか、皆に説明出来ないかしら?』

 

 いや・・・説明は出来るが・・・

 ここで話せる様な内容じゃないぞユリカ?

 

「え、そんな事を言われても・・・俺も何が何だか・・・」

 

 ピッ!!

 

『私もその話に、興味があるな〜アキト君?』

 

 ヒカルちゃんが会話に乱入してきた・・・

 

 ピッ!!

 

『私も聞きたいです。

 大体非常識です、戦闘中に展望室に行くだなんて。』

 

 メグミちゃんも登場・・・だから、別にヤマシイ事はしてないって。

 

「・・・ほら、イネスさんも一緒に居たじゃないか!!

 イネスさんに説明し・・・そう言えば寝てたな、まだ。」

 

 

 

「う〜〜ん・・・」

 

 この時、イネスさんは幸せな夢の世界にいたそうだ・・・

 

 

 

 俺はあれだけユリカと一緒に騒いでいたのに、起きなかったイネスさんを思い出した。

 は、八方塞がりか?

 いや、待てよ・・・確か過去では、ここでリョーコちゃんが助けてくれた筈だ!!

 

 ピッ!!

 

『テンカワ・・・』

 

「リョ、リョーコちゃん!!

 リョーコちゃんは俺を信じ・・・」

 

『俺もその話に興味があるな。』

 

「・・・へ?」

 

 望みは全て断たれた・・・

 

 ・・・ルリちゃん、助けて。

 ユリカ、メグミちゃん、ヒカルちゃん、リョーコちゃんの四人の通信ウィンドウに囲まれながら・・・

 俺はルリちゃんに、目で助けを請う・・・が・・・

 

『私も聞きたいですね。』

 

 ・・・撃沈された。

 万事休す、俺は・・・どうしてこんな事で悩まないといけないんだ?

 そもそも何を悩んでいるんだ?

 俺は何も恥じる事はしていないぞ・・・多分。

 

 俺は思考の迷路に迷い込んだ・・・

 

 

『敵、第ニ陣来ます。』

 

「有難うオモイカネ・・・艦長、敵第ニ陣が来ます。」

 

 ・・・助かった。

 俺は出会ってからはじめて、無人兵器に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 敵の大群が目の前に展開している・・・

 まさに雲霞の如く、だな。

 

「リョーコ、作戦は?」

 

「この数だぜ?

 各自戦況に応じて応戦だ!!」

 

「了解!!」 × 俺、ヒカルちゃん、イズミさん

 

 確かこの戦いの途中で、俺はアカツキ ナガレと出会うはずだな。

 それとナデシコ級戦艦コスモス、とも。

 エリナさんは今回も同行・・・してるだろうな。

 

 まあ良い。

 今は憂さ晴らしに無人兵器を落す!!

 今の俺はかなり好戦的な考えに取り憑かれていた。

 多分ストレスが溜まっているのだろう・・・色々と。

 

 俺は盛大にスラスターの炎を宇宙に描きながら・・・

 獲物に襲いかかる豹の如く、貪欲に敵を殲滅しだした。

 

 

 

 

 ドゴゴゴン!!

 

 

「うっそ〜〜〜!!

 バッタさん達のフィールドが強化されてる〜!!」

 

 自分が撃墜したはずのバッタが、多数生き残ってるのを見てヒカルちゃんが叫ぶ。

 

「・・・進化する兵器、って訳ね。」

 

 冷静に現実を分析するイズミさん。

 

「へん!! だからどうした!!

 それなら拳で決着をつけてやるだけだ!!」

 

 何処か嬉そうなリョーコちゃん。

 

 

「そのと〜り!!

 男は拳で勝負だ!!」

 

 

 ・・・こ、この声は!!

 俺の視線の先には、アイツのエステバリスがあった。

 そして通信ウィンドウが開く。

 そこには、あの男が映っていた。

 

「て、てめーは確か!!」

 

「リョーコとイズミと私でフクロにした、男の人?」

 

「本当にパイロットだったのね。」

 

 

「だからあの時そう言っただろうが!!」

 

 

 ガイの叫びに、俺の鼓膜が悲鳴をあげる!!

 

「・・・もう少し、小さな声で話してくれガイ。」

 

「おう!! 待たせたなアキト!!

 お前の真の親友が、やっと戦場に復活したぜ!!」

 

 ・・・すまん、さっきまで存在すら忘れてた。

 

「テンカワ・・・友人は選べよ。」

 

「アキト君・・・この人、濃すぎるよ。」

 

「今迄何処にいたの、彼?」

 

 

「お前等が俺を再々入院させたんだろうが!!」

 

 

 ガイ・・・頼むから小声で喋ってくれ。

 しかも今は戦闘中だぞ。

 

「ガイ・・・その話はまた後で、全員で話して解決しよう。

 今は戦闘中だからな。」

 

「そ、そうだったな。

 ・・・これが、これが俺の初の木星蜥蜴との戦闘になるんだ!!

 アキト!!

 俺こそがナデシコの真のエースだという事をよく見てろよ!!」

 

「・・・馬鹿」 By ブリッジのルリ

 

「そ、そうか・・・まあ、また怪我をしない様に頑張ってくれ。」

 

「おう!! 任せとけって!!」

 

 そして俺達は戦闘に突入した・・・

 俺はかなりガイの行動に、不安を抱いていたが。

 

 

 

 

 ドババババババ!!

 

                                         ドドン!!

  

                  ボカァァァンン・・・

 

 俺は快調にバッタやジョロを掃討していく・・・

 しかし、フィールドの強化はさすがに痛いな。

 俺にとっては、少々てこずる程度の事だが・・・

 

「む〜、このバッタさん達生意気!!」

 

「・・・以前ほど、有利に戦え無いわね。」

 

「殴る殴る殴る!!」

 

 この三人は、経験も腕も一流だから大丈夫だろう。

 で、ガイは・・・

 腕は一流だと思うんだけど。

 

 

「ガァイ!! スゥーパァー・・・ぐえ!!」

 

 

 ・・・ガイ、乱戦状態の戦場でいちいちポーズを決めながら戦うなよ。

 囲まれてるぞ、おい・・・

 あ、台詞の途中で攻撃を受けてる。

 

 

「うぉ!! おのれ卑怯な!!

 アキト!! 親友のピンチだぞ!!」

 

 

 ・・・なんだか親友を止めたくなったよ、俺。

 

 その時、包囲されているガイを助け出す機影が現れる!!

 

 ・・・ここで登場か、アカツキ!!

 しかし、ガイお前って・・・

 

「役立たずですね・・・」 By ブリッジのルリ

 

 

 

「君達、下がりたまえ!! ここは危険だ!!」

 

「誰だよテメーは!!」

 

 突然の乱入者に驚くリョーコちゃん。

 その時・・・幾筋もの閃光が木星蜥蜴の軍を襲う!!

 

 

 ドゴォォォォオオォオオオンンンン!!!

 

 

「敵、二割がた消滅。」

 

「うっそ〜〜!!」

 

「第二波感知。」

 

 

 ドゴォォォォオオンンンン!!!

 

 

「す、凄い!!」

 

「多連装のグラビティ・ブラスト、だと!!」 

 

「そ、それじゃあ!!」

 

 

 そして、その後はコスモスの活躍により木星蜥蜴の軍は壊滅した。

 ・・・俺はストレスの発散をする事なく、ナデシコへと帰艦した。

 

「ふっ・・・ガイのせいで暴れる事が出来なかった。」

 

「近頃のアキトさん、凄く疲れてますね?」

 

 ・・・否定はしないよルリちゃん。

 

 

 

 

 

 

 そして、ナデシコの格納庫にて・・・

 

「やあ、はじめましてナデシコの皆さん。

 俺はアカツキ ナガレ、コスモスから来た男さ。」

 

 ・・・変わって無いなアカツキ・・・当たり前か。

 でも歯が光るのは、いったいどんな仕組みなんだ?

 ・・・今度機会があったら聞いてみよう。 

 

 

・・・それを聞いて、何をするつもりですかアキトさん。

 

 

 ・・・やっぱり止めておこう。

 何故か悪寒が身体に走ったから・・・

 

 

 

 

 

 

 その頃ユリカは、ネルガルの役員と何か話し合いをしていたらしい。

 

「では、良い返事を期待するよ。」

 

「はあ、取り敢えずクルーの皆と相談します。」

 

 ・・・まあ、民主的でいいかもしれんが。

 決断力の無い艦長だと思われるぞ、ユリカ。

 

 

 

 

 

 

「チューリップを通り抜けると、瞬間移動する・・・とは限らないのね。」

 

 起きたんだ、イネスさん。

 今、俺達は主要なメンバーを集めて、ブリッジで今後の対策について会議をしている。

 

「少なくとも火星での戦いから、8ヶ月が経過しているのは事実よね。」

 

 今回も8ヶ月、か。

 ・・・そうだ、ラピスに無事に帰って来た事を連絡しないと。

 

「ちなみに、その間に連合軍とネルガルは和解し・・・

 戦艦を作って月面を奪還。

 で、私の見解では!!」

 

「ああ、それはまたの話しで!!」

 

 ナイスフォローだ、プロスさん。

 

「それでネルガル本社は、連合軍と共同戦線をする事になりまして・・・

 ね、艦長。」

 

「あ、それで・・・ナデシコは地球連合海軍 極東方面に編入されます。」

 

 暗い表情で、ネルガル本社からの今後の方針を告げるユリカ。

 

「私達に軍人になれって言うの?」

 

「ま、一時的な共同戦線みたいなものかな。」

 

 ・・・お前、いたのかアカツキ?

 あ、ミナトさんを口説いてるよ。

 どうでもいい事だが、お前そんな台詞言ってて恥ずかしく無いのか?

 

 

 しばし観戦・・・ (ミナト VS アカツキ)

 

 

 ・・・見事撃沈、か。

 まあ、ミナトさんは外見はどうあれ古風な女性だからな。

 しかし、本当に昔から誰にでも手を出す奴だよな・・・アカツキ。

 

「・・・多分、アキトさんにそれを言う資格は無いと思います。」

 

「え!! ル、ルリちゃん俺の独り言を聞いてたの?」

 

「ええ、収集マイクの操作をオモイカネに頼んで。」

 

「・・・それ本当?」

 

「冗談ですよ。」

 

 多分冗談だと思うが・・・今度からは独り言にも気を付けよう。

 だけど俺にアカツキの悪行を悪く言う資格が無い? どうしてだろう?

 

 ブリッジに満ちる怒号を聞きながら、俺は一人物思いに耽った。 

 

 

 

・・・天然、ですかアキトさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八話 その2に続く

 

 

 

 

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