< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十一話.サイド・ストーリー

 

 

 

 

 

 

「バーストモード・スタート。」

 

 

 フィィィィィィィィィィンンンンンン!!!

 

 

 真紅のディストーション・フィールドが、テンカワのエステバリスを包み込みだす。

 我ながら良い仕事をしたと、自負している機能だ。

 

「くっ!! 本気かテンカワ!!

 ・・・ウリバタケ整備長!! アカツキ達を至急出撃準備!!」

 

 ゴートが俺に通信ウィンドウを送って来る。

 俺はコクピットのテンカワの顔を凝視していた・・・

 自棄を起こしてる顔じゃ無いな。

 

「・・・まあ待てよゴートさん。

 少なくとも、テンカワの奴は冷静だぜ。

 何か考えがあるんだろうよ。

 それにもし、前回と同じ様な事をするなら・・・俺はテンカワを許さねえ。」

 

 俺は決意を顔に出してブリッジからの通信に答える。

 そう・・・テンカワ、俺は二度目は許さねえぞ。

 死にたがりを戦場に送り出す様な趣味は俺にはねえ!!

 

 俺の視線を受けてブリッジに静寂が落ちる・・・

 

「・・・恐いですねウリバタケさん。

 大丈夫ですよ約束は守ります。」

 

 そんな俺達の通信ウィンドウにテンカワが現れる。

 ふん、憎たらしい程に落ち付いてやがる。

 俺でも今の状況がどれだけ大変か解るってのによ!!

 

「おう!! 忘れてなかったらそれでいいんだよ!!

 さて、お手並み拝見するぜテンカワ!!」

 

 俺は俺に出来る最後の応援の言葉をかける。

 

「ええ、特等席でどうぞ!!」

 

 そして、テンカワの掲げる白い刃が真紅に染まる・・・

 

「さて・・・今度は何を見せてくれるのかなテンカワ君は?」

 

 アカツキが俺に話しかけてきた。

 

「さあな。

 でも、何時も俺達の予想の遥か上を行くからな・・・アイツは。」

 

 

 そして・・・

 

 真紅の刃を漆黒に染め替え・・・

 

 テンカワが叫ぶ・・・

 

『咆えろ!! 我が内なる竜よ!!

 秘剣!! 咆竜斬!!!

 

 

 

 

 

「いやはや・・・信じられない事をするね、彼は。」

 

「ああ、我ながら信じられない物を作ったもんだ・・・

 その能力を100%以上に活用出来る、テンカワも・・・化け者だと思うがな。」

 

 僕達の目の前には深く抉れた地面と・・・

 その体積の半分以上を抉られた山・・・

 とてもじゃないが・・・エステバリス一機で可能な破壊の跡とは思えない。

 

 テンカワ君・・・君はその力を誰の為に振るう?

 

 呆然としてるウリバタケの顔を見ながら・・・

 多分ブリッジも。

 他のクルーも同じ様な顔をしてるんだろうな、と僕は思った。

 ・・・いや。

 あの少女は、多分何時もと同じ無表情だろうな・・・

 

「さて・・・僕達の希望は旅立った、と。

 ヒカルちゃん、イズミさん。

 僕達もお仕事しましょうか。」

 

 僕の横で呆然としていた、ヒカルちゃんとイズミさんが元に戻る。

 しかし、顔色は優れない・・・

 仕方が無いか、あんな場面を見せられた後じゃね。

 

「・・・アカツキさん。

 アキト君って味方だよね?」

 

「ああ、そうだよ。

 ・・・第一彼がその気になったら、ナデシコなんて一秒で沈むよ。」

 

「そうね・・・テンカワ君の実力って、まるで読めないわ・・・」

 

 ・・・イズミさんの言葉を最後に、僕達はナデシコ船外の戦車隊の掃討に出た。

 ある程度数を減らしておかないと、ディストーション・フィールドに負荷が掛かり過ぎるらしいんだ。

 

「テンカワ君の実力・・・彼の正体・・・

 本当に謎と話題が豊富だね、テンカワ君は。」

 

 そう言いつつ僕は戦車隊を掃討していく・・・

 でも、今は彼の実力が頼もしい。

 

 

 タイムリミットは・・・後、8時間30分だったかな?

 

 

 

 

 

 

 俺はブリッジに俺のコレクションを渡した後・・・

 会長と合流して例の計画を実行する。

 ちなみにブリッジクルーの服のサイズは、コミュニケからデータを検索して直してある。

 俺は小さな親切を大事にする男だからな!!

 

「感度はどうだい、作戦部長?」

 

「ああ、ばっちりだ。」

 

 ・・・どうしてなのか解らないが、テンカワのエステバリスの通信は拾えなかった。

 ま、それは何となく理由は想像が付くがな。

 俺はリョーコちゃんのエステバリスに取り付けた、隠しマイクから音声を受信してるって訳だ。

 

 

 

 

 グラカーニャ村・・・同日20時10分通過

 

 

「なあテンカワ・・・お前さ、何処であんな技を身に付けたんだ?」

 

 ・・・それは俺も聞きたいな。

 あの若さであの腕前。

 余程の戦場・・・それも泥沼の戦場を渡り歩かなければ、あんな技術は身に付かない。

 テンカワ・・・アイツが時たま見せる暗い瞳を俺は思い出した。

 ・・・あんな瞳を抱く程の心の闇。

 お前は一体何を見て来た?

 

「あんな技?

 ああ、咆竜斬ね・・・俺のオリジナルだよ。」

 

「嘘だろ? よくあんな技を思い付くな!!」

 

 ・・・本当にな。

 あれがオリジナル?

 何者だお前はテンカワ?

 

「ま、訳ありでね。」

 

 何故か・・・心に重く響く声だった。

 

 

 

スベイヌン鉄橋・・・同日20時45分通過

 

 

「テンカワってさ・・・もてるよな。」

 

 ・・・(怒)

 

「え? そうなの?

 ・・・よく解らないなそんな事?」

 

 ・・・!!(激怒)

 本気かコイツ!!

 俺は更なる闘志を抱く!!

 

 

 

 カモフ丘・・・同日21時10分通過

 

 

「しっかしテンカワ!! よくオメーあのDFSを使いながら機動戦が出来るな!!」

 

 DFS・・・俺とイネスさんとテンカワの合作。

 作っておいて何だが・・・DFSを扱える奴なんていないと、俺は思ってた。

 

「え? ああ、DFSね・・・

 慣れだよ慣れ。

 リョーコちゃん達もコツを掴んだら直ぐに使えるよ。」

 

 ・・・嘘だな。

 リョーコちゃん達も、かなりのレベルのエステバリスライダーだが・・・

 とてもじゃ無いが、テンカワはレベルが違い過ぎる!!

 

 俺は初めてテンカワがDFSを使って戦った時の事を思い出す。

 ・・・あれは、人間に出来る戦いなのか?

 テンカワ、お前をそこまで駆り立てる想いは何なんだ?

 

 

「リョーコちゃん・・・イールに着いたよ。

 早く携帯イカダを用意して。」

 

「あ、ああ!! 解った。」

 

 

 イール・・・同日21時30分通過

 

 

「・・・止まってリョーコちゃん。」

 

「どうしたんだ? テンカワ?」

 

「地雷原だ。」

 

 地雷原まで来たのか。

 どうやら作戦は順調に進行してるな。

 ・・・俺達の作戦は全然進行してないが、くそっ!!

 

「何!!」

 

「・・・やるか。」

 

「何をだテンカワ?」

 

 本当に何をだ?

 

「時間が無い・・・一撃で決める!!」

 

 おいおい、何が起こってるんだ?

 こっちは音声しか聞こえ無いから不安なんだぞ!!

 

「くっ!! やっぱり秘剣クラスでも耐えられないのか?

 この肝心な時に!! 強度で欠点が出てくるとは!!」

 

 何!! DFSが故障だ〜〜〜!!

 そんなヤワな物は作らんぞ俺は!!

 そうか!! ・・・過負荷、か?

 明らかに先程テンカワが見せた技は、俺とイネスさんの予想出力を遥かに越えていたからな。

 

「・・・戻るかテンカワ?」

 

 ・・・今、戻れば全員ナナフシの餌食だな。

 

「・・・いや、今更引き返せない。

 それに、まだ手はある!!」

 

 まだ奥の手があるのか?

 はははは!!

 本当に大した奴だよ!! テンカワお前って奴はよ!!

 

「じゃあ、今は地道に地雷原を抜けるとすっか!!」

 

「そうだね・・・ここで立っていても時間が勿体無いし。」

 

 

 モアナ平原・・・同日22時30分通過

 

 

 

 

「一旦休憩しよう、リョーコちゃん。」

 

「何言ってやがる!!

 こちとら時間が無いんだぞ、テンカワ!!」

 

 焦ってるなリョーコちゃん。

 そこで焦ってミスを犯さなければいいが・・・

 

「でも今焦ってナナフシに向っていっても。

 疲れが溜まった状態で勝てる相手じゃ無いよ、ナナフシは。」

 

 ナイスフォローだテンカワ!!

 流石最強の天然女殺し!!

 

「・・・そうだな、解った休憩にしようぜ。」

 

 ・・・リョーコちゃんもテンカワと二人きりだと素直だな、おい。

 

 

「リョーコちゃん!! 料理が出来たよ!!」

 

「おう!! 今エステから降りるぜ!!」

 

 ・・・俺も腹が減ってきたな。

 ん?

 てめ〜アカツキ!! 一人で出前を食ってんじゃねえ!!

 あ? 俺の分も出前を取ってる?

 

 ・・・なら、いいんだよ。

 

「へ〜、流石!! 見習でもコック!!

 美味いじゃね〜か!!」

 

「それ程でも・・・ないよ、俺の料理なんてさ。

 でも、自分の料理を人に褒めて貰えるのは嬉しいよ。」

 

「なあ、テンカワ・・・」

 

 お!!

 

「ん、何だい?」

 

 いけいけいけいけいけい!!!!

 

「俺の話し・・・聞いてくれるか?」

 

 

 

「よっしゃ〜〜〜〜!!」

 

 

「頑張れよリョーコ君!!」

 

 

「リョーコ頑張れ!!」

 

「ふっ・・・踏ん切りが付いたみたいね。」

 

「・・・・何時の間に?」 × (ウリバタケ、アカツキ)

 

 僕達の横には、何時の間にかヒカルちゃんとイズミさんがいた(汗)

 

「ふふふふふ・・・こんな面白いイベント、私達が見逃す訳ないじゃない♪」

 

「そうそう・・・」

 

 あの・・・ココが見付かった理由になってませんが?

 ちなみにこの隠れ場所は、某組織の隠れアジトである。

 何とオモイカネさえこの部屋をサーチする事が出来ない!!(実はルリにはバレてる)

 

「ま、ココを見付けたのは偶然だけど〜ね。」

 

「私の第六感がココが怪しいと告げたの。」

 

 君の方が怪しいよイズミ君。

 

「さ〜てと!! 私達はブリッジにこの事を報告・・・」

 

「ちょ〜〜〜っと待った〜〜〜〜!!」

 

 それはいろんな意味でヤバイ!!

 その時・・・

 

 

『なあテンカワ・・・お前好きな女の子とかいないのか?』

 

 

 ・・・艦内放送と僕達の聞いている声が重なる?

 これは・・・

 

「おいおい・・・ルリルリ、艦内放送で流してるぜ。」

 

「・・・これは、ブリッジが楽しそうねイズミ!!」

 

「そうね・・・修羅場が見れそうね、ふふふふふ。」

 

 そう言い残して、二人はその場から立ち去った・・・

 

「ウリバタケさん・・・隠れ家を変更しないと・・・」

 

「あ、ああそうだな。」

 

 後には呆然とした僕達が残った・・・

 何だか大事になってきたな。

 

 

『俺が好きな女の子?

 ・・・いる・・・いや違うな、いたと言うべきかな。』

 

 

 ほう・・・そうなのかいテンカワ君。

 

 

『じゃあ!! ・・・今、付き合ってる奴はいない訳だな。』

 

 

 今頃・・・例の女性陣が喜んでるだろうな・・・

 

 

『そうだね・・・俺には・・・いや、別に何でもないよ。』

 

 

 気になるぞテンカワ君!!

 男なら堂々と胸の内を明かしたまえ!!

 

 

『それじゃあ・・・テンカワ。

 もし、もしだぞ!!

 ・・・俺がお前と付き合いたい、って言ったらどうする?』

 

 

 よし!! よし!! よし!!

 作戦はこれで半分は成功したね!!

 

 

『・・・その、もしもには答えられないよリョーコちゃん。

 俺は・・・自分で自分を赦せない限り。

 自分だけ幸せになるつもりは無んだ。

 それに・・・俺の何処がいいんだい? リョーコちゃんは?』

 

 

 何!! そう切り返すかテンカワ アキト!!

 う〜む、流石に場慣れしてるな。

 

 

『・・・初めはテンカワの才能に嫉妬してた。

 次ぎに、テンカワのナデシコクルーを見る目に興味を持った。

 そして・・・北極の戦いで、完全に魅せられた。

 最後は・・・自分の気持ちに気が付いたのは・・・

 寂しそうにたった一人格納庫で自分のエステバリスを見詰める、テンカワを見て・・・』

 

 

 ・・・そう、謎だらけの人物。

 普通、自分の側にこんな怪しい奴がいたら不安で仕方が無いだろう。

 だが・・・テンカワ君の周囲には不安が無い。

 何故か逆に安心出来る雰囲気を彼は持っている。

 それなのに・・・あの修羅の如き戦闘。

 知れば知るほど彼の謎は深まる・・・

 それも・・・また彼の魅力、か。

 

 

『じゃあ!!

 ・・・じゃあ、テンカワ。

 お前は何を赦せないんだ?

 何時・・・自分を赦す事が出来るんだ?』

 

 

『・・・それは解らない。

 もしかしたら、一生自分を赦せないかもしれない。

 でも・・・この戦争が終れば・・・』

 

 

『終れば・・・何なんだテンカワ?』

 

 

『何か・・・答えが見付かるかもしれない。

 ・・・時間だよリョーコちゃん。

 休憩は終り、ナナフシに向おう。』

 

 

『・・・ああ、解った。』

 

 

『・・・それと、御免。』

 

 

『・・・今は・・・その言葉だけでいいさ。』

 

 

 そこでテンカワ君達の会話は終わった・・・

 謎は深まり・・・

 僕達の作戦も失敗に終わった・・・

 だが・・・

 

「テンカワは、絶対俺達の敵にはならね〜ならしいな。」

 

「そうですね・・・」

 

 彼が自分自身を赦すまで・・・

 少なくとも彼は僕達の敵にはならないだろう。

 

 

「今回は作戦失敗、っと!!

 もう一つの作戦は・・・テンカワなら何とかするだろ。」

 

「それは確実でしょう。

 だってテンカワ君ですよ。」

 

「はははは!! それはそうだ!!」

 

 

 僕達は部屋の整理(撤退準備)をしながら笑っていた。

 テンカワ君とリョーコ君が失敗すればナデシコは沈む。

 だが・・・ナデシコの全クルーは感じていた。

 あの不思議な人物が・・・

 鬼神の強さと・・・

 不思議な脆さを見せる彼が・・・

 自分達を必ず救ってくれると・・・ 

 

 

 

 

 そして、僕達の予想は見事に的中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話へ続く

 

 

 

 

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