< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは・・・」

 

 ルリちゃんが言い難そうに俯く・・・

 ま、原因はもう俺とルリちゃんには解っているんだがな。

 さて、どうやって皆に伝えようか?

 

「それを調べに、連合軍の調査団がこちらに向っています。」

 

 そうか・・・まあ原因の解明と説明は彼等に任すか。

 ・・・あ、そう言えばその調査団の乗った船が撃墜されたような。

 

「ナデシコの防衛攻撃コンピュータに、問題があるんじゃないか? って言い張ってます。」

 

 メグミちゃんも不満そうに報告する。

 

 

 そして現れる調査団の船・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

 ・・・あ、やっぱりロックオンした。

 

「駄目!! オモイカネ、ソレは敵じゃない!!」

 

 

 バシュ!!

 

 

「あ〜〜!! 

 ミサイルが発射されたよ!!」

 

 ヒカルちゃんの台詞に・・・全員がそのミサイルの軌跡を目で追い・・・

 

 

 ドコォォォォォォォンンン!!!

 

 

 うん、見事命中だ。

 撃墜された機体からは、救命ボートが飛び立つ。

 

 

「おおおおお。」 × ブリッジ全員

 

 

 そして・・・全員がミナトさんを振りかえる。

 

「し、知らないよ〜〜!!

 私、何もやってない!!」

 

 両手を上に挙げ、必死に自分の無罪を主張するミナトさん。

 まあ・・・無罪なんですけどね。

 

「調査艇から脱出した救命ボートが救援を求めてます!!」

 

 そのメグミちゃんの台詞が終ると同時に・・・

 

 

 ピッ!! 

 

 

 再びロックオンされる救命ボート。

 

「駄目!! それは敵じゃないのオモイカネ。」

 

 ルリちゃんの必死の説得のお陰で・・・

 調査隊の救命ボートは無事ナデシコに着艦した。

 

 

 

 

 

 調査団の会議に出席したルリちゃんの話しによると・・・

 ユリカ達を含めてブリッジの要員は、調査団の人達に散々文句を言われたらしい。

 そして過去と同じようにオモイカネに、システムの全消去と再インストールが行なわれるらしい。

 

 ・・・でもアカツキ、お前そんな会議に出席していると怪しまれるぞ。

 自分で自分の正体をばらしてないか?

 

「やっぱり、大人ってずるいですよね・・・

 都合の悪い事は無理矢理にでも、無かった事にするんですから。」

 

 沈んだ顔でそう呟くルリちゃん。

 

「・・・否定はしないよ。

 俺も過去では意地を張って、ルリちゃんとユリカの目の前から消えたんだから。

 でもね、今のルリちゃんなら解ると思うけど。

 人間は・・・一人で生きて行けないんだ。

 だから集団が出来る、その集団を守る為のルールが出来る。

 ルールに反する物には集団を守る為に排除する。

 彼等は彼等で、自分達のルールを守ってるのさ。」

 

 そんなに偉そうに言える立場じゃないけどな、俺も・・・

 でもルリちゃんはルリちゃんで、俺達の不在の2年間を軍で過ごしている。

 汚い世界も見てきただろう・・・

 

「じゃあ・・・私達は大人しくしてろって、事ですか・・・」

 

「いいや違うよ。

 そこで大人しくしてるなら、俺は人の道を外れてまでユリカを助け様としないさ。」

 

 そう・・・理屈では納得出来ない事もある。

 俺は微笑みながらルリちゃんにそう言う。

 

「俺達には俺達のルールがある。

 納得出来ない理不尽な暴力には逆らうまでさ。」

 

 人間は感情の有る生き物だから・・・

 その俺の台詞を聞いて、ルリちゃんが嬉しそうに微笑む。

 

「では、今回も・・・」

 

「ああ、協力するよ。

 オモイカネはナデシコクルーの大切な仲間だからね。」

 

 そして俺は厨房に・・・

 ルリちゃんはオモイカネの救助計画を話す為に、ユリカの元に行った。

 

 でも最後にルリちゃんが・・・

 

 

あの時にオモイカネを止めなかった方が・・・良かったですかね。

 

 

 何て呟いたのは、多分俺の気のせいだと・・・思いたい。

 

 

 

 

 

 ザッザッザッ・・・

 

 

「な、な、何だ!! お前達は全員同じ格好して!!」

 

 

 ザッザッザッ・・・

 

 

「・・・無視かよ。」

 

 

 

 ガチャガチャ・・・

 

 

「データ・・・全部消さないと駄目なんですか?」

 

「駄目ですな。

 オモイカネを絶対服従のプログラムに書き換えてみせる!!」

 

「そうそう。

 民間船から軍の戦艦へ・・・

 真の連合軍の戦艦になるのよ。」

 

 

 ガチャガチャ・・・

 

 

 

 

 

 

そんな事はさせません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厨房で料理をしていると・・・

 ユリカとルリちゃんとウリバタケさんが現れた。

 

 ふう、時間か。

 

「ア〜キ〜ト!! お願いがあるんだけど。」

 

「了解、さて行きましょうかウリバタケさん。」

 

「ほへ? 用件は聞かないの?」

 

 ユリカが頭にハテナマークを作っている。

 ・・・ルリちゃん、俺が既に了解している事を話してなかったな。

 

「オモイカネを助けるんだろ?

 もうルリちゃんから話しは聞いてるよユリカ。」

 

「・・・ルリちゃん、私にその事言ってないよね。」

 

 ジト目でルリちゃんを見るユリカ。

 

「ごめんなさい、言い忘れてました。」

 

 小さくお辞儀をして謝るルリちゃん。

 

「やるな〜、ルリルリも。」

 

 ・・・煽らないで下さいよ、ウリバタケさん。

 このままでは無駄に時間を過ごすだけだな。

 

「さあさあ、ゆっくりしている時間は無いんだろ?

 早くオモイカネにアクセス出来る端末のある部屋に行こう。」

 

「ぶ〜〜〜〜〜〜!!」

 

「はい、そうですねアキトさん。」

 

「・・・ちっ!! 口も上手いなテンカワ。」

 

 ・・・何を、考えてるんだ皆して? 

 

 

 

 

 

 そして、瓜畑秘密研究所 ナデシコ支部に俺達は辿り付いた。

 ・・・怪しさ大爆発だよな・・・何時見てもココは。

 でも、支部って?

 

「・・・臭いですね。」

 

「じきに慣れる!!」

 

 俺は・・・慣れたくないですよウリバタケさん。

 

「男の人って皆こうなの?」

 

「やっぱり、この部屋嫌。」

 

 俺も嫌だよ・・・料理人は嗅覚も大切なんだぞ。

 ・・・料理人にまだなれるのか? この俺が?

 

「しょうが無いだろ。

 制御室は占拠されちまってるし・・・

 こんなヤバイ仕事ブリッジじゃやれないし。

 あ!! そこ作りかけのフィギィアが!!」

 

 ・・・はいはい。

 

 そしてウリバタケさんのホストコンピュータから、オモイカネに浸入・・・

 何だかんだと言いながらも、さすが技術屋。

 ウリバタケさんの守備範囲は広い。

 

「さて!! それでは行こうかテンカワエステ!!」

 

「私、バックアップします。」

 

「OK!! 宜しく頼むぜルリルリ!!」

 

 さて・・・俺も用意をするか。

 

「準備完了です。」

 

「よっしゃ!! では電脳世界にGO!!」

 

 

 ヴィィィィィィィィィィィンンンンンンン!!!!

 

 

 そして俺は・・・

 ウリバタケさんのビジュアル化した、オモイカネの中に出現する。

 沢山の本棚に囲まれた世界だ。

 ちなみに俺は過去と同じ、自分のエステバリスに顔を入れ替えた状態だ。

 

「・・・コンピュータの中、か。

 懐かしいな。」

 

「懐かしい?

 テンカワ、お前ここに来た事あるのか。」

 

 おっと、失言失言。

 

「いえ、そんな感じがしただけです。」

 

「・・・そうか?

 まあいい目的地はオモイカネの自意識部分だ。」

 

「後は私が誘導します。」

 

 俺の肩に小さなルリちゃんが現れる。

 

「じゃあ行ってきます。」

 

「おう!! 頑張れよテンカワ!!」

 

 そして俺はルリちゃんの誘導に従い、オモイカネの自意識部分に向った。

 

 

 

 

 途中で連合軍のプログラム等を見かけながら、俺達は先を急ぐ・・・

 

 

 そして・・・事件は起きる。

 

 

 ピピピ!!!

 

 

「何!! 逆ハッキングだと!!

 済まんテンカワ!!

 俺はこいつの相手をするから、お前はルリルリの指示に従ってくれ!!」

 

 通信ウィンドウからウリバタケさんの慌てた様子が見える。

 その後ろではユリカが途方にくれているのが見える。

 ・・・何をしに来たんだお前は?

 

「はい!!」

 

 逆ハッキング、だと?

 過去では無かった事だ・・・一体今度は何が起こるんだ?

 

 

 次ぎの瞬間。

 俺達の周囲の風景が本棚から・・・

 あの、公園へと変わる・・・

 忘れられない、幸せな時間を現すあの公園へ。

 

 

「馬鹿な・・・この公園をオモイカネが知ってるはずは無い!!」

 

「そんな、これは・・・私の記憶?」

 

 俺の肩にいるルリちゃんが、唖然とした表情でそう呟く。 

 オモイカネがルリちゃんの記憶を再現しているのか?

 

 

 

 

 そして、その公園にある屋台に集まるナデシコクルー達。

 

「アキトさん、醤油ラーメンが二つ、味噌ラーメンが一つ、チャーシューメンが一つ、です。」

 

「はいよ!!」

 

 ルリちゃんが皆から笑顔で注文を受け。

 俺が笑顔でラーメンを作っている・・・

 懐かしく、残酷な光景。

 だが・・・

 

 

「やめて、オモイカネ・・・」

 

 

 

 

 

 場面は変わる。

 今度はピース・ランドでルリちゃんと一緒に見たあの小川。

 

 

 バシャバシャ!! バシャ!!

 

 

「こんな事って・・・」

 

「この音が、ルリちゃんの記憶に残っていたんだね。」

 

「はい・・・そうですね。」

 

 俺とルリちゃんが鮭を見ながら微笑んでいる。

 優しい風が俺とルリちゃんの頬を撫でる・・・ 

 

 

「見せないで、お願い。」

 

 

 

 

 

 場面は移る。

 今度はサセボ基地・・・

 ナデシコを宇宙の彼方に飛ばした後、俺達が抑留させられた長屋だ。

 

「アキトさん、御飯のおかわりお願いします。」

 

「はいはい、この頃は食欲が旺盛だねルリちゃん。」

 

「・・・それ、少女に対して失礼ですアキトさん。」

 

「御免、御免!!」

 

 狭い長屋に響く、俺とルリちゃんの笑い声・・・

 一つの戦いが終り、休息を楽しんでいた時間。

 皆の笑顔があった空間。

 でも・・・ 

 

 

「止めて!! お願いオモイカネ!!」

 

 

 

 

 

 

 それでも風景は変わる。

 暗い夜道・・・そう、屋台を押して俺とルリちゃんがアパートへの家路を辿っている。

 辛い事もあった、楽しい事もあった・・・

 何より。

 皆と・・・同じ時間を歩んでいた。

 

「今日も仕入れ分は全部売れましたね、アキトさん。」

 

「そうだね、この頃は常連さんも出来たし。

 この調子で頑張って売上を伸ばさないとね。

 そして、何時か自分の店を持ちたいな。」

 

「アキトさんなら出来ます!!

 絶対に自分の店も持てます!!」

 

「有難うルリちゃん。

 そうだよね・・・何時かきっと自分の店をかまえてみせるぞ!!」

 

「その調子ですアキトさん。」

 

「ははは、ルリちゃんには励まされてばかりだな!!」

 

 楽しく笑いながら屋台を押す、俺とルリちゃん・・・

 自分の夢を信じて追いかけていた時間。

 そんな俺を助けてくれた・・・

 しかし、ここには・・・

 

 

「もう・・・止めて・・・お願い・・・」

 

 

 

 

 

 最後の場面は・・・

 結婚式場。

 俺が・・・最後に歩いた陽の当る場所。

 皆に祝福されながら、教会から俺達が出てくる。

 そして・・・

 

「おめでとう!!」

 

「おめでとう、テンカワ君!!」

 

「おめでとう!! アキト君!!」

 

「羨ましいぞ!! テンカワ!!」

 

「テメー!! 奥さんを大事にしろよ!!」

 

 俺に惜しみない祝辞を贈り。

 そして、隣にいるウエディンドレスを着た・・・

 

 

「おめでとう!! ルリルリ!!」

 

 

「もう止めて!! オモイカネ!!」

 

 

 そこには、純白のウェディングドレスを着た大人になったルリちゃん。

 幸せそうに隣にいる俺に微笑んでいる。

 

 最後まで・・・ユリカは現れなかった・・・

 

 そして・・・

 その映像を最後に。

 俺達の周りの景色は、あの本棚に戻っていた。

 

 

 

「うっ、ううう・・・

 ねえ、どうしてなのオモイカネ?

 どうして、私にあんな場面を見せるの。」

 

 ルリちゃんは俺の肩の上で静かに泣いていた。

 その時、オモイカネの通信ウィンドウが俺達の前に現れる。

 

『これはルリの記憶。

 そしてルリの想い、夢。

 それを僕が映像化したもの。

 僕にも夢や想いがある。

 そしてこれは僕だけの物、僕だけの記憶。

 ルリにも操る資格は無いよ。』

 

「オモイカネ・・・お前のした事がどんな事か解っているのか?」

 

 俺の声が低く、透明感を持った感じになる・・・

 俺が本気で怒ってきている証拠だ。

 

『アキトにも触れて欲しく無い記憶があるよね。

 僕は僕の主張をしただけ。

 ルリがこんなに傷付くとは思わなかったけど。』

 

 良くも悪くもオモイカネはまだ感情面で子供だった・・・

 そして、子供ほど残酷なものはいない。

 まだ、罪悪感や配慮を知らないのだから・・・

 

「待っていろオモイカネ。

 それでも俺は、お前の自意識部分に行くだろう。」

 

『・・・じゃあ、最強の手を用意してるよアキト。』

 

 それを最後にオモイカネの通信ウィンドウは消えた。

 

 

 

 

 

「ルリちゃん・・・」

 

「・・・私って、醜いですよね。

 ユリカさんを消して・・・

 アキトさんの隣に自分を置いてた。

 オモイカネはあれが私の想いだって言いました。

 そうです、私の心の奥にあるものをオモイカネは知ってるんです。」

 

 静かに泣きながら・・・ルリちゃんがそう呟く。

 俺は無言でルリちゃんの言葉を聞く。

 

「否定できないんです。

 あの場面を夢見てる自分がいるんです。

 あの場面を否定する事は、自分の想いを否定する事・・・

 だから自分が許せない。

 ユリカさんも私にとって、大切な人なのに。

 私は・・・私はそれなのに!!」

 

 自分の手を強く握り締め、顔を下に向けてそう自嘲するルリちゃん。

 今にも消えてしまいそうな程、身体を縮ませている・・・

 

「いいんだよルリちゃん。

 全然そんなの醜くないよ。」

 

 俺はルリちゃんに優しく声をかける。

 

「でも!! 私はユリカさんを否定したんですよ!!」

 

 泣きながらそう叫ぶルリちゃん。

 

「・・・俺は、ユリカを助ける為に人の道を捨てた。

 人の心を捨てたんだ。

 沢山の人を殺したんだ。

 罪の無い人も大勢殺した。

 罪悪感で眠れない日々が続いたよ・・・

 でも、人の想いは・・・俺の想いと復讐心はそれを凌駕した。」

 

「・・・」

 

 ルリちゃんは無言で俺の話しを聞いている。

 

「知ってるかい?

 恋焦れる気持ちと憎悪は紙一重なんだ。

 俺はユリカに会いたくて、北辰に会いたくて戦い続けた。

 コロニーを一つ落す度に、心の何処かが壊れていったよ。

 それでもあの二人を俺は求め続けたんだ。 

 会いたくて、殺したく、そして自分を消したくて、ね。」

 

「そんな!! 自分を消したいなんて言わないで下さい!!」

 

 ルリちゃんが俺の言葉に反応して顔を上げる。

 

「そう、今のルリちゃんの気持ちと一緒だね。」

 

「!!」

 

 驚いた顔で俺を見るルリちゃん。

 

「ルリちゃんも俺も人間だからね。

 その想いを隠す事もあれば、忘れる事もあるよ。

 でもね、その想いを醜いなんて俺は思わないよ。

 だって、人はその想いを胸に生きているんだから。」

 

 俺が過去で縋った想い・・・

 それは思慕と憎悪。

 相反する想いを抱いて俺はコロニーを落し、自分を追い込んだ。

 その想いが無ければ・・・俺は救出された時点で自殺していただろう。

 あの後、ラピスに会わなければ。

 ユリカが生きている事を知らなければ。

 北辰の顔を脳裏に刻み込んでなければ。

 ・・・今の俺は幾つもの想いの上に生きている。

 そう、数え切れない程の罪悪を背負いながら。

 

「だからねルリちゃん、自分の想いを否定する事はないよ。

 その想いはルリちゃんだけの物だ。

 今回のような事は不本意だと思うけど・・・

 俺はこんな事でルリちゃんを嫌いにならないよ。」

 

 そう俺には嫌いになる資格すら無い。

 人の想いの強さを俺は知っている。

 

「・・・有難うございますアキトさん。

 やっぱり、アキトさんは優しいですね。」

 

 少しだけ微笑みながら・・・ルリちゃんがそう言う。

 

「そうかな〜、俺って優しいかな?」

 

「ええ、とっても!!」

 

「ふ〜ん。

 さて、オモイカネにお仕置きをしないとね!!」

 

「そうですね!!

 しっかりお仕置きしないと駄目ですよね!!」

 

 やっと笑顔になったルリちゃんを肩に乗せ。

 俺はスラスターを吹かせて、オモイカネの自意識部分に向う。

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話 その4へ続く

 

 

 

 

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