< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十二話.あの「忘れえぬ日々」・・・アキトさん私はあの日々を忘れません

 

 

 

 

 

 破壊したナナフシを残して。

 俺と俺のエステバリスは、ヒカルちゃんとイズミさんのエステバリスに吊り下げられナデシコに帰って来た。

 リョーコちゃんは・・・

 ちょっと頭と気持ちを落ち付けて帰るそうだ。

 ま、それは仕方が無い事だと・・・俺でも思ったからな。

 

 そして・・・俺はナデシコに帰って来た。

 

 

 

「ふう・・・今、帰りましたウリバタケさん。」

 

「おう!! お疲れさん!!」

 

 俺は半分スクラップ状態のエステバリから降りる。

 ここまで酷い壊れ方をするなんてな・・・

 

「しっかしテンカワ、派手に壊したな今回はよ〜」

 

 俺のエステバリスを見上げてウリバタケさんがそう言う。

 

「ええ、今回はギリギリの条件が多過ぎましたからね。

 ・・・我ながら良くナナフシを破壊出来たものですね。」

 

「ふん!! ナナフシの破壊はお前にしか出来なかったよ!!

 だが、D・F・S無しでよくナナフシが破壊出来たもんだな。」

 

 あれ、変だな?

 俺はまだD・F・Sが故障した事は、誰にも言って無い筈だけどな。

 

「そうそう、D・F・Sが壊れて大変だったんですよウリバタケさん。

 でも、どうしてD・F・Sが壊れた事を知ってるんですか?」

 

 その一言で沈黙するウリバタケさん。

 

「・・・それは・・・まあ、秘密だ!!」

 

「はあ・・・」

 

 取り敢えず疲れているので・・・

 俺はその事を追及するのを止めた。

 

 

 

 

「テンカワ アキト、只今戻り、ま、した?」

 

 ブリッジの視線が俺に集中する。

 俺・・・何かしたかな?

 

「アキト・・・リョーコちゃんとの共同作戦は楽しかった?」

 

 ユリカが軍服姿で俺に詰め寄る。

 ・・・何故、そんな軍服を着てるんだユリカ?

 

「え!! いや・・・楽しいと言うより大変だったんだけど・・・」

 

 俺は訳がわからず正直な感想を言う。

 あ、そう言えばリョーコちゃんとの会話が、ナデシコで放送されたって言ってたな。

 

 俺は狼の巣に入り込んだ事に、今気が付いた・・・

 

「アキトさん。

 リョーコさんとのお付き合いを考慮中って本当ですか?」

 

 メグミちゃんが目を光らせながら俺を問い質す・・・

 やっぱり軍服を着てる。

 

「え〜と・・・

 何処でそんな話しになったのかな?」

 

 俺はこの場から逃げたくなって来た。

 さり気無くブリッジのゲートに後退する・・・

 

「でも〜悪い気はしなかったんでしょう、アキト君は?」

 

 ・・・ミナトさん。

 お願いだから今回は俺の味方になって下さいよ。

 

 今は一人でも味方が欲しい・・・

 ナナフシ以上の強敵がここには揃っている。

 

 よし・・・あと1mで、俺の一回の跳躍でゲートに到達可能な地点だ!!

 

『ブリッジのゲート、ロック完了』

 

「有難うオモイカネ。」

 

 ・・・退路は断たれた。

 

「ル、ルリちゃん?」

 

 この時俺はある事に気づいた・・・

 いや、ブリッジに入った時点で気付くべきだった。

 ブリッジにはプロスさんとゴートさんとジュンと、ついでにムネタケが不在だった。

 つまり・・・

 

 

 四面楚歌・・・訳(退路が無い事)

 

 

「さあ、アキトさん。

 詳しい事を話してくれませんか?

 大丈夫ですよ、今ブリッジはアキトさんを除いて全員女性ですから。」 

 

 ・・・怒ってるよルリちゃん。

 何が大丈夫なんだい?

 俺の逃げ道を塞いだじゃないか・・・

 

 

「さあ、アキト。

 早く話してよ・・・何があったのか。」

 

 ユリカ・・・その笑顔が恐いぞ。

 

「アキトさん・・・リョーコさんと他に何を話されてたんです?」 

 

 メグミちゃん・・・目がイっちゃってるよ。

 

「アキト君話しちゃいなよ!!

 大丈夫!! 誰にも言わないから♪」

 

 楽しそうですね、ミナトさん・・・

 

「これは会社への報告義務よ、アキト君。」

 

 それは絶対嘘だろエリナさん。

 

「アキトさん・・・本当に他には何も無かったんですか?」

 

 久しぶりに・・・

 本気の冷たい目で俺を睨むルリちゃん。

 

 誰か・・・

 

 俺を・・・

 

 助けて・・・

 

 そして俺への非難の声は2時間もの間続いた。

 世の中にはナナフシより余程手強い敵が存在する事を・・・

 俺はここに記す     (By テンカワ アキト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い気味だな。」 By 某組織の某作戦部長

 

「ま、作戦の半分は成功したね。」 By 某組織の某会長

 

「でも・・・まだまだ甘いですよ!!」 By 某組織の新参謀長

 

 

 

 

 

 

・・・とうとう、新隠れ家を見付けました(クスッ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと思った。」

 

 人間って・・・精神的な攻撃でも死ねるんだな。

 

 俺は久しぶりに、少しだけあっち側を覗いた。

 そこには大きな河とお花畑があって・・・

 

 ・・・もう思い出すのはよそう。

 心身共に悪影響が大き過ぎる。

 

「・・・厨房で何も考えずに料理でもするか。」

 

 取り敢えず・・・

 嵐が過ぎ去るまで俺は逃げ続ける事にした。

 

 

 

 

 厨房に立つと何故か気が落ち着く・・・

 もうコックになんてならない・・・何て過去ではルリちゃんに言ってたのにな。

 ・・・俺も結構いい性格をしているらしい。

 

「テ〜ン〜カ〜ワ〜さん!!」

 

 ホウメイガールズの一人・・・

 ジュンコちゃんが俺に話しかけてきた。

 

「ん? 何だいジュンコちゃん?」

 

 俺は鍋の中のシチューをかき混ぜながら応える。

 シチューって暖める時にかき混ぜていないと、底の方が焦げるんだよね・・・

 ホウメイさんに仕上げを頼まれたシチューに、俺は意識を殆ど集中していた。

 

 この一言を聞くまでは。

 

「リョーコさんとなら・・・上手くやっていけそうなんですか?」

 

 

 ガンッ!!

 

 

 ・・・俺は眩暈を感じて鍋のふちに手をついた。

 俺に安住の地は無いのか?

 

 いや・・・まてよ医療室なら案外大丈夫かも。

 殆ど博打みたいな事を俺は考える程に、俺の思考力は低下していた。

 

「あの・・・手、熱くありませんテンカワさん?」

 

 そんな俺にジュンコちゃんが心配そうに訪ねる。

 

「え? 手?

 ・・・・アッチィィィィィィィ!!!!!!!

 

「だ、大丈夫ですか!! テンカワさん!!」

 

「何をやってるんだい!! テンカワ!!」

 

 ほんと、何をやってるんだ・・・俺は。

 

 シチューは見事に焦げてしまった。

 ホウメイさんにも怒られてしまった。

 さんざんだった。

 

 

 

 

 

 そして俺は現在医療室にいた。

 

「・・・本当に、何をしてるのよアキト君らしくもない。」

 

 火傷の場所に薬を塗りながらイネスさんが呆れた声で呟く。

 何時もの白衣を着た姿で椅子に座り、俺の火傷の手当てをしてくれている。

 

 治療術とかの腕も良いんだイネスさんは。

 その他にもいろいろと博士号を持つ才媛だし。

 

「ええ・・・返す言葉がありません。」

 

 俺は自分の思惑を実現したわけだ・・・

 左手の尊い犠牲のお陰で。

 

「でもアキト君ちょっと質問していい?」

 

「何ですか?」

 

「・・・アキト君がD・F・Sで放った技だけど。

 やっぱり叫ばないと駄目なの?」

 

 ・・・いや、そんな真剣な顔で質問されても。

 

「そんな事ないですよ・・・

 まあ、声に出したほうがイメージを強固に出来ますよね?

 それと同じ理屈なんですよ。

 後台詞は・・・まあ、その場の勢いかな。」

 

 無意味に頭を掻きながら、俺はイネスさんの質問に応える。

 ちょっと悪乗りが過ぎたな今回は。

 

 ちなみにあの台詞はラピスが考えた。

 ・・・何でも昔のアニメとか漫画をダッシュと一緒に勉強したらしい。

 言わないと・・・ラピスが怒るからな・・・

 

 イネスさんは半分納得、半分呆れた顔で俺を見ている。

 

「ふ〜〜ん、そんな理由がね・・・

 それにしても、疲れている様ねアキト君。

 休んで行く?」

 

「ええ、そうさせて貰います。」

 

 俺は医療室のベッドの誘惑に勝てなかった。

 帰って来てからいろいろと忙しく、時間が飛ぶ様に過ぎたので忘れていたが。

 俺はナナフシとの戦いで、結構疲れが溜まっていたらしく。

 ベットに横になって直ぐに深い眠りに落ちた・・・

 

 

 

 二時間後・・・

 

 

 

「おはよう・・・アキト君。」

 

「・・・状況の説明をお願いします。」

 

「いいでしょう!!」

 

 俺の説明、と言う言葉に反応して飛び起きるイネスさん。

 そう・・・俺の寝ているベットの中にイネスさんはいた。

 つまり・・・同衾状態だった訳だ。

 

 ルリちゃんに見られてたら・・・ 

 

 俺はそう考えただけで、またあっち側を覗いた気がした。

 イネスさんの考えが俺には理解出来ないよ。

 

「ああ、ルリルリには見られない様にオモイカネにプロテクトをしておいたから。

 患者のプライバシーは大切にしないとね。」

 

 ひとまず最悪の事態は避けれた様だ。

 ・・・俺って浮気が発覚した時の、夫や恋人みたいな事考えてるよな。

 

 俺がそんな事を考えてる中・・・イネスさんの説明は最高潮に達した様だ。

 全然聞いて無かった俺には、訳が解らない話しだけど。

 

「早い話し、アキト君が魘されていたから添い寝してあげたのよ。

 初めは手を握っていてあげた、だけだったけど・・・」

 

 何故か頬が赤いイネスさん・・・

 でも、手を握ってただけだったら。

 何故俺の隣に寝ていたんだ?

 

「アキト君たら・・・強引に私をベットに連れ込んで・・・」

 

 

 おいおいおいおいおいおいおい!!

 

 

「う、嘘ですよね!! イネスさん!!」

 

 心底慌てている俺を見て。

 逆にイネスさんが冷静になっていく。

 

「証拠なら・・・あるのよアキト君。

 見てたわよね?」

 

 

 シャッ・・・

 

 

 ベットとベットを隔てているカーテンを取り除くイネスさん。

 そして、隣のベットには・・・

 がいた。

 

「うぃっす!!」

 

 そう返事を返したのは・・・

 

「ガイ!!

 ・・・お前まだ医療室にいたのか?

 それにその格好はなんだ?」

 

「ほっとけ!! 俺だってな!! 俺だって早くココから脱出したいんだよ!!」 

 

 ジタバタ、ジタバタ・・・

 

 ガイは・・・ベットにロープで拘束されていた。

 それ故にベットと一緒に跳ねている。

 何故ガイは拘束されているんだ?

 それに、とても元気そうに見えるのだが?

 

「俺はな!! この医療室に監禁さ、れて・・・グーグー・・・」

 

 台詞の途中で熟睡に入るガイ。

 ・・・イネスさんの仕業・・・としか考えられないよな。 

 

「あら? 薬が切れた様ね。」

 

 ガイの状態を一目見てそう判決を下すイネスさん。

 ・・・何の薬を使ったんだ?

 

「・・・俺、自分の部屋に帰ります。」

 

 ベットから抜け出した俺は、そのまま医療室を脱出しようと試みる。

 それはそうだろう・・・誰だって自分から進んで人体実験に付き合いたいとは思うまい?

 

 そんな俺に、イネスさんが背後から声をかけて来る。

 

「ヤマダさんはね・・・実は怪我が悪化してるのよ。」

 

「え? どうしてですか?」

 

 ガイの怪我は大分回復していたはず・・・

 

「ナナフシの戦いの時にね。

 最後の方にはアカツキ君達だけじゃあ、防御しきれない時があったの・・・

 そこでヤマダさんが、自分で痛み止めの薬を打って出撃したのよ。」

 

 ガイ・・・無茶な事をするなよな。

 

「ヤマダさんはね・・・アキトには負けられない!! って出撃したの。

 それは照れ隠しなんでしょうね。

 結局、ヤマダさんもこのナデシコが大切なのね・・・

 戦闘が終ってからは、結局再入院だったけどね。」

 

「昔からこういう奴ですよ。」

 

 もしかしたら、一番真剣にこの戦争を戦ってるのはガイだけかもな。

 昔からひたむきに地球の正義を主張するガイ。

 ガイがこの戦争の真実を知れば・・・

 

 ・・・その時はその時だな。

 

 

「・・・でも、アキト君がナナフシを倒す事を信じてたわよヤマダさん。

 私や艦長達も信じてたわ。

 ナデシコのクルーの殆どの人が信じてた・・・

 不思議よね、今にも自分達が蒸発するかもしれないのに。

 何故か全員がアキト君を信じて安心してたわ。

 皆心の中ではアキト君を信頼してる・・・

 だから・・・一人で悩まないでアキト君。

 相談役くらいなら何時でもなってあげるわよ。」

 

「・・・俺、何か寝言で言いましたか?」

 

 俺の真剣な目が、イネスさんの真意を探ろうと瞳を見詰める。

 しかし、イネスさんの瞳からは何も読み取る事は出来なかった。

 

「じゃあ、俺は自室に帰ります。」

 

「・・・ええ、気を付けてねアキト君。」

 

 俺はイネスさんの言葉を背中に受けながら医療室を出た。

 まだ身体が少しダルイな・・・

 ここは大人しく自室で休憩をしよう。

 

 

 

 

 

「アキト君・・・自分が生き残った事が罪、なんて・・・言わないでよ。」 

 

 青痣が残る腕を見ながら私はそう呟いた。

 何故か・・・心が凄く痛かった・・・

  

 

 

 

 

 

 

 自室への帰り道でウリバタケさんと偶然会った。

 

「よう!! テンカワ!! みっちりと艦長達に絞られた様だな。」

 

 凄く上機嫌な様だ。

 しかし、それ以前に・・・

 

「・・・どうしてそんな事をご存知なんですか?」

 

「え・・・それは・・・ミ、ミナトさんから聞いたんだよ!!」

 

 慌てて俺に言い訳をするウリバタケさん・・・

 言動が怪し過ぎますよ。

 

「まあ、その話は忘れるとして・・・

 正直に言うとだなテンカワ。

 D・F・Sのデータ取りに協力してくれね〜か?」

 

 急に真面目な顔で俺に頼み込むウリバタケさん。

 D・F・Sのデータ取り?

 今度は何を考えているんだろう?

 

「そのデータを元に、D・F・Sの出力を常に一定化するプログラムをルリルリに組んでもらうつもりだ。」

 

「つまり・・・最低限の出力を持ったD・F・Sの量産化ですか?」

 

 もし実現するのなら、接近戦での戦闘が格段に楽になるな。

 このD・F・Sならリョーコちゃん達なら確実に使いこなせる。

 

「・・・何時までもお前一人に、負担をかける訳にはいかね〜だろうが。

 言っとくけどな、これはナデシコクルー全員の意見だぜ!!」

 

 怒鳴る様に話して照れ隠しをするウリバタケさん・・・

 そしてクルーの皆の心遣いが嬉しかった。

 

 

 俺は・・・・

 改めて、自分が過去に無くした場所の温かさを知った。

 

 

「心配・・・してもらえて嬉しいですよ。

 データ取りには時間が空けば、直ぐに協力させて貰いますよ。」

 

「おう!! じゃあ時間が空いたら何時でも連絡してくれよな!!」

 

 そう言い残してウリバタケさんは格納庫に帰って行った。

 

「俺が心配だから・・・か。

 過去ではよく皆に言われた言葉だったな。」

 

 過去を知る俺は今を変えようともがき・・・

 今を生きる皆は過去と同じ様に、不器用な俺を心配する。

 

 何も変わる事なく時間は過ぎてゆくのだろうか?

 

 また、俺はあの未来を辿るのか?

 

「いや!! 俺は今度こそユリカを、ルリちゃんを・・・

 火星の生き残りの人達をアイツ等から守ってみせる!!

 その為に俺は帰ってきたんだ!!」

 

 過去に戻ってこれた奇跡を喜ぶ時間は終りを告げた。

 

 既に過去は過去で無くなりつつある。

 この先の未来は変わり始めたのだ。

 今回の戦いでソレは如実に現れた・・・

 

 俺の知らない戦闘・・・

 

 俺が関与する事で生き残った人達・・・

 

 俺の・・・存在と力を疑いつつ、信頼を寄せてくれるナデシコのクルー・・・

 

 それは・・・この先の未来が、俺の知る未来と分れつつある証拠。

 そして、もう俺には予測出来ない事が発生する証。

 これから先は更に苦しい戦いになるだろう。

 

「だが・・・負けん!!

 ルリちゃんや皆との約束を守る為にも!!

 そして俺自身の為にも!!」

 

 己の決意を心に刻み・・・

 俺は一人廊下で佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話 その2へ続く

 

 

 

 

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