< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトさん!!」 

 

 

 

 珍しいな、ルリちゃんがこんな大声を出すなんて。

 でも、肝心のアキトさんはまだあの漆黒のエステバリスの中・・・

 でも大きな機体よね〜

 隣に立っている銀色のエステバリスより4m程背が高いし。

 まあ、アキトさんが乗ってるんだから特別な機体なんだよね!!

 

 私の周囲には主だった人達が集まっていた。

 艦長、エリナさん、リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、ホウメイガールズ。

 あ、格納庫の入り口にホウメイさんとイネスさんも。

 そして、私の隣にはルリちゃんがいる。

 

 やっぱりルリちゃんも・・・だよね。

 

「お〜い、テンカワ!!

 早く降りてこいよ〜!!」

 

 ウリバタケさんがアキトさんの機体の下で、スパナを振り回して叫んでる。 

 ・・・多分、早くこの機体を分解したいのね。

 壊さなければいいけど。

 まあ、あれでも実は凄腕のメカニックらしいから大丈夫かな。

 でも、時々とんでもない発明をしてるし。

 この前もルリちゃんが、女風呂で怪しい穴を塞いでいるのを見たけど。

 ・・・まさか、ね。

 

 それより、今はアキトさんの顔が早く見たい!!

 もう〜!!

 機体を所定の場所に置くぐらい、メカニックに人にやってもらえばいいのに!!

 

「・・・メカニックの方は誰もIFSを持ってられませんから。」

 

 だから無理だって言うの?

 得意の根性でどうにかならないのかしら・・・

 あ、それはヤマダさんか。

 

「でもね、三ヶ月ぶりの再会なんだ、よ・・・って。

 ・・・私、何時から喋ってたルリちゃん?」

 

「『壊さなければいいけど。』・・・からですよメグミさん。」

 

「ああ、そうなの、ははははは。」

 

 殆ど聞かれたわけね。

 

「ちなみに女風呂の件については、既にウリバタケさんに制裁をしています。」

 

 やっぱりウリバタケさんの仕業だったのか。

 でも制裁って?

 

「ど、どんな制裁をしたのかな、ルリちゃん?」

 

「聞きたいですか?」

 

 

 ニコニコ・・・

 

 

 ・・・そのルリちゃんの笑顔は。

 本当に恐かった。

 だって目が・・・

 笑ってないんだもん。

 

「け、結構ですぅ・・・」

 

「そうですか。

 ・・・正しい判断ですね。」

 

 ルリちゃん・・・怒らせると恐いのね。

 今後は気を付けようっと。 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 

 突然、格納庫にメカニックの人達の大声が満ちる。

 その理由は・・・シャトルから降りて来た一人の女性のせいだった。

 綺麗な長い金髪を、私と同じ様に三つ編みにしている。

 ・・・悔しいけど胸は完敗。

 スタイルは艦長と比べても見劣りしない。

 そして連合軍の軍服を着ている。

 と、言う事は軍人さんなのかな。

 それに年齢は私と同じ位、かな?

 

 美人でスタイル抜群、これはメカニックの人達が騒ぐ訳よね・・・

 

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 

 ま、またなの?

 

 今度は、あの銀色のエステバリスから降りて来た女性だった。

 髪はサラサラのプラチナブロンドをポニーテールにして。

 そして、その身体にフィットしたパイロットスーツを着ている。

 ・・・こちらもスタイル抜群だったりする。

 最初に見た金髪の女性と、顔立ちがそっくり。

 もしかして、双子なのかしら?

 まあ、それは別問題として。

 

 はあぁぁぁぁぁ・・・

 

 溜息をついて横を向くと、隣のルリちゃんと視線が合った。

 私達の意見は・・・同じらしい。

 

 

 スタイルのいい外国人女性なんて、嫌いだ。

 

 

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 

 まだ女性がいるの〜〜〜〜〜〜!!

 どうなってるのよ、このシャトルは!!

 

 次に出てきた女性は・・・あれ?

 誰か知り合いに似ている様な気がするけど。

 ・・・気のせいかな?

 

 肩で揃えた黒髪に黒い大きな瞳、そしてなかなかの美人だ。

 何処かその表情には愛嬌を感じる。

 そして・・・何故か作業着を着ていたりする。

 せっかくの美人なんだから、もっと綺麗な服を着ればいいのに。 

 

「・・・メグミさん。

 何だかあの人って、エリナさんに似てません?」

 

「あ、本当だ。」

 

 ルリちゃんの言葉を聞いて私も気が付いた。

 そうか、エリナさんに似てるんだ。

 

 近くにいたエリナさんの顔を見ると。

 こちらは驚いた表情をしている。

 ・・・どうやら関係者だという事は確実ね。

 

 あ、まだシャトルから人が降りて来るけど・・・

 連合軍の軍服を着たオジサンが二人?

 まあ、これは別にどうでもいいわ。

 

 そのオジサンの一人が艦長に何か報告をしている。

 オジサンは艦長が若い女性だと知って、少し驚いていたけど・・・

 でも、直ぐに微笑みながら艦長に敬礼をした。

 どうやら軍人さんみたいだけど、キノコさんより大分マシみたい。

 その後ろでもう一人のオジサンも苦笑している。

 

 そして艦長の号令が掛かる。

 

「皆さん〜〜〜〜!!

 ちょっと注目!!」

 

 その声を聞いて、格納庫にいた人達が全員が艦長の方を向き。

 そして艦長はこのオジサン達と、女性達の紹介をします。

 

「えっとですね。

 この人はオオサキ シュンさんです。

 アキトが所属していた部隊の隊長だったらしいです。

 え〜と、今度からこのナデシコの副提督に就任されました。」

 

 艦長の紹介が終わった後、そのシュンさんが私達に挨拶をする。

 細身の身体で背も170cm位かな。

 茫洋とした顔付きだけど、何処か鋭いモノを感じるわ。

 

「まあ、略式ながら挨拶をさせてもらう。

 名前は先程紹介されたからいいとして。

 俺は堅苦しい事は苦手でね、気軽に名前で呼んでくれ。

 今日から宜しくナデシコの皆さん。」

 

 

 パチパチパチ!!

 

 

 一斉に拍手が鳴る。

 

 ふ〜ん、軍人にもまともな人はいるんだ。

 ・・・まあ、判断の基準があのキノコさんじゃ、ね。

 

「えっと、その後ろに控えている人が副官のタカバ カズシさんです。

 オオサキ副提督の補佐につかれるそうです。」

 

 この人はオオサキ副提督と違って大柄な人ね。

 

「ええ、先程紹介されたカズシです。

 まあ、仕事はシュン副提督の補佐を担当します。

 今後とも宜しく!!」

 

 

 パチパチパチ!!

 

 

 明るい人みたいね。

 冷静なオオサキ副提督と、活発なカズシさんか。

 いいコンビみたいね。

 ・・・もう、あのキノコさん不要なんじゃないの?

 

 そして、遂に例の女性陣の紹介が始まる。

 格納庫にいるメカニックの人達は、今か今かと艦長の言葉を待ってるし。

 

「え〜、とですねこの方は・・・」

 

「あ、自分で自己紹介しますよ艦長。」

 

 艦長の言葉をそう言って遮る金髪の女性。

 気が強そう・・・

 

「そ、そうですか?」

 

 う〜ん、何故か艦長を見る目が恐いな〜

 何か艦長に思うところがあるんだろうか?

 

「初めましてナデシコの皆さん。

 私の名前はサラ=ファー=ハーテッド、18歳です。

 配属は通信士になります。

 えっと、特技は料理です。

 趣味は読書と散歩で・・・」

 

 ちょっと緊張した声で自己紹介をするサラさん。

 しかし、特技が料理とは!!

 もし、彼女が・・・

 

「最後に、私の将来の夢はお爺様公認のある人と結婚する事です。」

 

 

 ギシッ!!

 

 

 何故か・・・エステバリスを固定する台の前で停止するエステバリスが一機。

 ちなみにボディーカラーは真っ黒だったりする。

 

 全員の視線がその機体に集中する中。

 次の銀髪の女性が自己紹介を始める。

 

「改めて、初めましてナデシコの皆さん。

 私の名前はアリサ=ファー=ハーテッドと言います。

 年齢は18歳です。

 既に気付かれていると思いますが、隣にいるサラとは双子の姉妹です。

 普段は、姉さんと呼んでいます。

 配属先は私の格好を見ての通り、エステバリスのパイロットです。

 特技は射撃と陸上競技。

 趣味はシルバーの小物集めです。」

 

 ・・・アリサさんは場慣れしてるわね。

 パイロットだから度胸があるのかな?

 

 何故かリョーコさんが睨んでるけど。

 やっぱり同じ女性パイロットとしてライバル意識があるのかな?

 

「私の夢は、お爺様も認めた憧れの人と故郷で幸せに暮らす事です!!」

 

 

 

 クル・・・

 

 

 ガシィン、ガシィン、ガシィン・・・

 

 

 何故か・・・その場で回れ右をして、射出口に向う一機のエステバリスが。

 その動きが普段からは想像出来ない程、ギクシャクしているのは動揺しているからかな?

 ちなみにそのエステバリスは闇色に染まっている。

 

 全員(一部を除く)の冷たい視線がそのエステバリスに集中する。

 ・・・私は隣のルリちゃんの顔を見る勇気が無かった。

 そんな私の顔も多分、なかなかの表情をしていると思うけど。

 

 だって、隣にいたメカニックの人が怯えた目で逃げ出すんだもん。

 

 もう!! 失礼ね!!

 

「じゃ、最後の自己紹介いきま〜す♪

 名前はレイナ・キンジョウ・ウォン、18歳です!!

 名前で解かったと思いますが、そこにいるエリナ・キンジョウ・ウォンの妹です!!

 配属先は私の格好を見れば一目瞭然ですよね?

 で、特技は改造と発明です。

 趣味は音楽鑑賞とゲームとお菓子作りです。」

 

 ・・・普通の人よね。

 何だか特技がウリバタケさんと同じなのが、気になるけど。

 多分、害は無いと思う。

 だって、エリナさんの妹だし。

 じゃあ・・・駄目か。

 

「どうしたんですかメグミさん、急に溜息なんかついて?」

 

「何でもないわ、ルリちゃん。」

 

「で、私の将来の夢はですが・・・

 それは私の作ったエステバリスで、直ぐ無茶をする旦那様(予定)を守り続ける事です!!」

 

 レイナさんの最後の言葉がそれだった。

 

「・・・サラさんが赤い顔で言ったあの人の部分。

 確か視線は、あのエステバリスを見てたような気がする。」

 

 と、艦長。

 

「あの『白銀の戦乙女』が憧れる人物か・・・

 視線が黒いエステバリスに向ってたよな。」

 

 リョーコさんが呟く。

 

「レイナさんが言う直ぐ無茶をする旦那様(予定)、ですが。

 実は私に一人、心当たりがあります。」

 

 ルリちゃんが冷たい声で私に話す。

 

「ええ、私も一人知ってるわ。」

 

 私もルリちゃんにそう返事をする。

 

 

 シィ〜〜〜〜〜〜〜〜ンン・・・

 

 

 そして、痛い程の静寂が格納庫に満ちる。

 メカニックの人達は静かに闘志を漲らせているみたいだけど。

 

 

 ガシィン、ガシィン、ガシィン・・・

 

 

 その静寂の中・・・

 滑稽な程、甲高く響くエステバリスの歩く音。

 

 そのエステバリスを格納庫にいる全員が見詰めている。

 冷めた目で・・・

 熱い目で・・・

 興味深い、という目で・・・

 覚えていろ、という目で。

 

 

 

 

「オモイカネ・・・格納庫からの射出口の扉をロック。」

 

『OK、ルリ!!』

 

 

 ガシィィィィィィンンンン!!

 

 

 漆黒のエステバリスが後二、三歩で外に出れる!!

 

 と、いう所で射出口の扉は閉まった。

 

 

 シィ〜〜〜〜〜〜〜〜ンン・・・

 

 

 そして再び訪れる沈黙・・・

 

「アキトさん・・・皆さん待ってられますよ。」

 

 ルリちゃんが無表情なままで、アキトさんの乗るエステバリスに通信を入れる。

 その通信ウィンドウに映ったアキトさんは・・・

 

 凄い冷や汗をかいていた。

 

『あ、あのさ、まだ敵がいるかもしれないから。

 俺が偵察に行って来るよ。』

 

「ア〜キ〜ト〜・・・艦長命令です、早く降りてきなさい。」

 

 艦長参戦。

 微笑んでるけど。

 人間って怒り過ぎると笑う、っていうしね。

 

『ユ、ユリカ、お、俺は何もやましい事はしてないぞ!!』

 

「じゃあ、早く降りてこいよテンカワ・・・」

 

 リョーコさんも参戦。

 顔は俯いて表情は解らないけど。

 肩が震えているのを見る限り・・・

 

『リョ、リョーコちゃんまで。』

 

「あら、私もいるわよテンカワ君。

 ブリッジで言ったわよね、いろいろと聞きたい事があるって。」

 

 エリナさんが続いて参戦。

 その握り締めた手が震えてる。

 何時ものキャリアウーマンの仮面が、剥れかけてるみたい。

 

『・・・頼むよ、オモイカネ〜』 

 

『駄目』

 

 何やらコクピット内で悪あがきをしているアキトさん。

 ルリちゃん以外の人のお願いをあのオモイカネが聞く訳ないのに。

 

「あら、面白い機体よね。

 私も凄く興味が湧いて来たわアキト君。」

 

『イ、イネスさんまで。』

 

 イネスさんも参戦・・・

 目が全然、笑ってないけど。

 

「「「「「アキトさ〜ん!! 早く厨房に行きましょうよ〜!!」」」」」

 

『あ、あはははははは・・・』

 

 ホウメイガールズのコーラス。

 苦笑で応えるアキトさん。

 

「さて、説明をしてもらいましょうか?」

 

『・・・ゴメンナサイ』

 

 私の一言で遂にアキトさんは降参した。

 

 

 

 

「なあ、アキトの奴はナデシコじゃあこんな奴なのか?」

 

 ウリバタケさんを捕まえて、そんな質問をするオオサキ副提督。

 

「ああ、そうだよ。

 男の敵だと思わんか?」

 

「・・・向こうの駐屯地でもあんなもんだったぞ。」

 

「何ぃ!!」

 

 カズシさん・・・

 是非、後ほど詳しい話しを聞きたいですね。

 

 そして怒り狂うウリバタケさんは、懐から一枚の紙を取り出してオオサキ副提督に渡す。

 受け取った書類に目を通したオオサキ副提督は・・・

 

「ふむ・・・カズシ、ペンはあるか?」

 

「ええ、持ってますけど?

 何ですかその書類は?」

 

 カズシさんからペンを受け取り。

 オオサキ副提督は軽く微笑みながら、こう呟いた。

 

「誓約書だ。」

 

「はあ?」

 

 後日、この誓約書は某組織への加入する為の書類だと判明する。

 ルリちゃんの定期検査のサーチに引っ掛かったその誓約書には・・・

 連名でオオサキ副提督とカズシさんの名前があったそうだ。

 

 ・・・いきなりナデシコに染まってますね、オオサキ副提督。

 

 

 

 そして、エステバリスからアキトさんが出て来る。

 久しぶり・・・と言っても3ヶ月しかたってないけど。

 だから、その顔は余り変化なんてしてない。

 相変らず優しい微笑みを私達に向けている。

 

 ・・・でも、何処か違う。

 私達はその違和感に戸惑った。

 ううん、悪い変化じゃない。

 滲み出る余裕、それと包み込む様な優しい雰囲気。

 以前のアキトさんが纏っていた虚ろな気配が無くなっている。

 ナデシコを離れる前は、何処か儚い所が覗えた。

 何時の間にか消えてしまいそうな・・・

 

 それが・・・今は生き様とする活力が、ひしひしとアキトさんから感じられる。

 一体、ナデシコを離れてから何があったのだろう?

 

 唯一つ確かな事は・・・

 アキトさんがまた私達の元に帰ってきてくれた事と。

 皆の顔に本当の笑顔が戻った事だった。

 

 

 そして、アキトさんがナデシコに帰艦して初めての言葉。

 

「約束は守ったよ。

 ただいま・・・皆。」

 

 私達はアキトさんに駆け寄り精一杯の歓迎をした!!

 

 

 

 

 

「ここが、アキトの帰りたかった場所であり、守りたい場所か。」

 

「気に入りましたか副提督?」

 

「ああ、気に入ったよ。

 ・・・グラシス中将の命令、俺達も出来る限りの事はしなければな。

 それと副提督は止めろ。」

 

「はいはい、シュン隊長にしておきますか?

 この呼び方の方が慣れてますしね。

 それにしても・・・アキトが全ての鍵となる、ですか。

 守れますか、俺達にあのテンカワ アキトが?」

 

「見えている敵には無敵だよ、アキトはな。

 俺達がする事は見えない敵、権力やら諜報戦からアキトを守る事だ。

 ・・・絶対に動くぞクリムゾンは。」

 

「そうでしょうね。

 グラシス中将が無理矢理、アキトをナデシコに送り返した事をもう知ってるでしょう。

 これは、忙しくなりますね。」

 

「そうだな、だが・・・

 これ程守りがいのある奴はいないだろう?

 お姫様じゃないのが不満と言えば、不満だがな。」

 

「それは同意見ですね。

 しかし、アキトを守る事・・・つまり平和を守る事、ですか。」

 

「お、詩人だな。」

 

「なに、私もあの光景を見ればそんな事も言いますよ。」

 

「そうか・・・そうだな。

 このナデシコは自分の部隊を解散してまでも、守る価値に値するか。」

 

「そうですね。」

 

 

 

 

 格納庫の壁際で、そんな会話があった事など知らず。

 私達はアキトさんとの再会と、新しい仲間との親交を楽しんでいた。

 

 

 今、私達は戦場にいながらも幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十三話 その4へ続く

 

 

 

 

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