< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十七話.それは「遅すぎた再会」

其之壱 帰還後には・・・

 

 

 

 

 

 

 シュゴォォォォォォ・・・

 

 

 俺が北斗との戦闘に疲れ果て・・・

 やっとの事で、傷ついたブラックサレナと共にナデシコに戻ってきた。

 レイナちゃんや、ミナトさんも無事に保護した事を、ルリちゃんから聞いた。

 ついでに彼も保護したらしい。

 

 ・・・本気で捨てられたのか?

 

 まあ良い、これで目先の心配事は片付いた。

 もっとも、また別の厄介事が増えているのだが・・・

 

 そして、帰還した俺を迎えたクルーの歓迎は、なかなかのものだった。

 

 ・・・ああ、それはもう凄かったよ。

 

 

 

 

 バシュ!!

 

 アサルトピットの扉を開け。

 俺がナデシコの格納庫に降り立つと、直ぐにウリバタケさんが走り寄ってきた。

 

 

「お〜い、テンカワ!!」

 

 

 俺に呼び掛けるウリバタケさんの声に、俺は怒りの感情を感じた。

 それに、何故かウリバタケさんの後ろには、多数の整備班の姿も見える。

 

「何ですか、ウリバタケさん?」

 

 別に怒れる様な事は・・・したな、月面で思いっきり。

 

 俺は苦笑をしながら、ウリバタケさんの次の台詞を待った。

 幾ら仕方が無かったとは言え。

 ナデシコのクルー全員を試したのは、俺なのだから。

 

「ふんふん〜、覚悟は出来てるみたいだな?」

 

「はあ、まあ仕方が無いですけどね。

 ここまできたら、逃げも隠れもしませんよ。」

 

 逃げれば後が怖いしな。

 

 俺がウリバタケさんの質問に、そう応えると・・・

 嬉しそうにウリバタケさんは笑い、後ろの整備班に号令をする。

 

「よっし良い覚悟だ!! なら抵抗はするなよ?

 野郎共、かかれ〜〜〜〜〜!!」

 

 

「おう!!」(整備班)

 

 

 ドドドドドドドドド!!!

 

 

 ちょ、ちょっと待ってくれよ!!

 幾らなんでも、リンチはしないだろうな?

 命の危機を感じたら、俺は反撃しますよ?

 

 ・・・手加減無しで。

 

 あれ?

 

 

 グルグルグル・・・

 

 

「班長!! 作業終了しました!!」

 

 一人の整備員が敬礼をしながら、ウリバタケさんに報告をする。

 その報告と、現在の俺の姿を見て、邪悪な笑みを浮かべるウリバタケさん。

 

 ・・・おい。

 

「ご苦労!!

 これで我々は、あの『漆黒の戦神』を生け捕った整備班として。

 未来永劫、後世に名を残すだろう!!」

 

 

「おおおおおおお〜〜〜〜!!」(整備班)

 

 

 名を残すって・・・そんな大層な事か?

 

 今の俺の状態は・・・

 ロープに身体を二重、三重に縛られ、口はタオルで防がれ。

 格納庫の地面に転がっていた。

 

 冷たい格納庫の床の感触が、ダイレクトに身体に伝わる。

 

 ・・・ここまで、するか?

 と言うか、俺は珍獣じゃないんだぞ?

 このままだと本当に、月面都市で見世物にされそうだ。

 

 いや、本気でやりかねんな(汗)

 

 

「ム〜!! ム〜〜〜!!」

 

 

 ドタバタ、ドタバタ!!

 

 ピョン、ピョン!!

 

 その場で跳ね飛びながら、ウリバタケさんに抗議をする俺!!

 口が聞けないので、自然とぼでぃらんぐえっじになる。

 

 戦闘が終わったばかりで、凄く疲れているんだけどな・・・俺。

 

「おおお、活きが良いな!!

 流石、『漆黒の戦神』!! 特A級の獲物だぜ!!」

 

 俺の苦しむ姿を見て、嬉しそうに笑うウリバタケさん。

 

 

 ギン!!

 

 

 俺の視線に怒りが混じる。

 ・・・ちょっと、殺意も混じったかもしれない。

 

 

 ニヤリ!!

 

 

 ・・・ウリバタケさんの笑みの、邪悪度が跳ね上がる。

 不本意だが、少し気圧されてしまった。

 

「ぐふふふふふ・・・取り敢えず、俺達整備班のお仕置きはココまでだ。」

 

 ・・・充分過ぎると思いますが。

 

 俺は目でもう一度非難をする。

 が、今度は無視をされた。

 

 ・・・本当にグレるよ、俺?

 

「そして!! 次が本命!!

 おいでませ!!」

 

 ウリバタケさんの合図と共に、格納庫の扉の一つが開き。

 地面の排水口から・・・

 

 

 バシュウ!!

 

 

 排水口から、ス、スモーク!!

 ちょっと待て、絶対にドライアイスだろ、これ!!

 しかもこんな大量に!! 格納庫の床が殆ど埋まってしまってるじゃないか!!

 その上・・・このドライアイスが溶けるという事は。

 床に転がってる俺は、酸欠に・・・な、って・・・しま(ガクッ)

 

 俺は酸欠によって気絶する寸前に、スモークの向こうから現れる複数の鬼を、見た様な気がした。

 

 ふっ、そんなのは悪い夢さ・・・

 

 そして、俺の意識は遠い世界に旅立った。

 

 

 

 

「あ、しまった・・・

 流石に酸素がなければ、テンカワでも呼吸が出来ないか。」

 

「班長〜〜〜!!」

 

「・・・ウ・リ・バ・タ・ケ・さん(は〜と)」 (謎の女性艦長)

 

「・・・(冷や汗))」

 

「セ・イ・ヤ・さん(ニコリ)」 (謎の女性通信士)

 

「いや・・・まあ、半分冗談だったんだけどな?」

 

「「「「「ふ〜〜ん、それで?」」」」」 (謎の5人組)

 

「・・・いや、それで、って言われても。」

 

「貴方も呼吸困難を体験してみる?」 (謎の科学者)

 

 

 クルリ・・・

 

 

「よし、では撤収!!

 転進、転進、これは撤退にあらず〜〜〜〜〜!!」

 

 

「お〜〜〜〜〜〜!!」(整備班)

 

 

「逃げ切れると、思ってるんですか!!」(女性陣)

 

 

 ドドドドドドドドド・・・(複数の人間)

 

 

「ギャ〜〜〜〜ス!!」

 

「は、班長〜〜〜!!」

 

「お前達の死は〜〜〜〜、無駄にしない〜〜〜〜!!」

 

「そ、そんな〜〜〜〜〜!!」

 

 

 

 

 

 

 暫くたって、俺は気が付いた・・・

 未だ縛られた状態で、格納庫の床に転がっていたが。

 

 ・・・ふっ、皆して俺の存在を忘れたな。

 

 俺は騒がしい周囲を意図的に無視し、その場で不貞寝を開始した。

 やはり、疲れていたためか、結構容易く俺は眠りに落ちた。

 

 

「んきゃ?」

 

 ゴスゥ!!

 

「ぐえっ!!」

 

 二分後に、ユリカが俺の上に倒れ込んできて、無理矢理起こされてしまったがな。

 

 

 

 

 

「・・・流石に、今の格納庫には入れません。」

 

「・・・同感。」

 

「・・・」(治療中)

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に気が付くと・・・医療室のベットの上だった。

 目に優しい光量で部屋が満たされている。

 そして、微かに匂う消毒液の匂いが、俺が寝ている場所が医療室だと教えていた。

 

 ・・・そう言えば、近頃はこの部屋に訪れていないな。

 この世界でナデシコに乗った頃は・・・

 

 

「俺の出番はまだか〜〜〜!!」 

 

 

 ・・・乗った頃は、確かこの医療室には。

 

 

「俺に出撃許可を出せ〜〜〜!!」

 

 

 ・・・在中していたんだよな、コィツ。

 

 

「俺はダイゴウジ(ゴシュ!!)」

 

 

「煩いわよ、ヤマダ君。」

 

「・・・」

 

 返事が無い・・・どうやら止めを刺された様だ。

 

 しかし、見事に一撃で決めたな、イネスさん。

 ガイも一応は身体を鍛えたパイロットだ、よほど的確に急所を捉えないと、気絶をさせる事は無理だろう。

 それを、女性の力で・・・しかも、一撃で轟沈するとは。

 あれから、また腕を上げたみたいだな。

 

 ・・・まあ、練習相手には困らない環境だしな。 

 

 

 

 コツ、コツ、コツ・・・

 

 暫くして、イネスさんが俺の寝ているベットの近くに来た。

 そして目を醒ましている俺を見て、微笑みながら話し掛けてきた。

 

「あら、目が醒めたのアキト君?」

 

「まあ、あれだけガイが騒げば目も醒めますよ。」

 

 おれは苦笑をしながら、イネスさんに返事を返した。

 実際・・・あの大声の聞こえる状況下で眠れるほど、俺の聴覚はおかしくない。

 

「でも、ハーリー君達は慣れたみたいよ?」

 

「・・・彼等は特別なんですよ、きっと。」

 

「あら、そうかしら?」

 

 俺の隣のベットには、健やかに眠るハーリー君達の姿があった。

 ちなみに、メンバーはハーリー君、ジュン、ゴート、カズシさんだった。

 

 ・・・近頃は四人揃って、不幸の友の会と呼ばれているらしい。

 

 カズシさん、何故貴方までが?

 

 

 

 

 

「不可抗力ですね。」

 

「まあ、ハーリーに出会ったのが不幸だよね。」

 

「・・・僕って何?」(後日、この時の会話を聞いた時のコメント)

 

 

 

 

 

 

 

「今、ナデシコは何処に向かっているんですか?」

 

 俺は自分が寝ている間に、ナデシコが移動をすると考えていた。

 何、簡単な事だ。

 あの宙域にいても、最早何の成果もないからだ。

 

 ただ、行き先だけが不明だった。

 

「月よ・・・いろいろと補給したい物資もあるし。

 何より、クルー達の休養も必要だわ。」

 

 ・・・月、か。

 

 俺にそう言いながら。

 イネスさんは自分の椅子を引き寄せ、俺の寝ているベットの横に座る。

 

「ちゃんと皆で考えて、艦長が判断をしたのよ。

 『クルーの皆さんに、お休みをあげちゃいます!!』 ってね。」

 

 その場面を思い出したのか、イネスさんが軽く笑う。

 そうか、ユリカの判断か。

 少しは俺の気苦労も減ったかな。

 

「でも、無茶な事をしたものね。

 ・・・怖くなかったの、皆に忌避される事が?」

 

 急に真面目な表情になって、俺にそう尋ねるイネスさん。

 

「怖いですよ・・・嫌われるのは、ね。

 でも、このまま自分達のしている事も知らず、人殺しなんて出来ないでしょう?

 和平か、戦争か・・・

 どちらかを、自分の意志で決める必要があったんです。」

 

 俺の意思は決まっていた。

 だから、俺はここまで強くなれたのだ。

 これからはクルーの皆の番だ。

 自分の未来は、自分で選択するべきもの。

 他人に決められたレールの上を走るだけでは、何も変わる事は無い。

 俺の目的は、木連との和平だけで終らないから。

 

 ・・・俺は、俺の認める事が出来る世界が見たい。

 アイツ等が唱えた、新たな秩序なんて興味は無い。

 ただ、大切な人達が自然に笑っていられる、そんな世界が・・・

 

 武力では無く、お互いの理解の上で、木星の人達と未来を作りたい。

 俺はその礎になればいい・・・

 後は、この戦争を通じて成長した皆がやってくれる。

 ルリちゃんやラピス、それにユリカ達が。

 

 俺はその平和を・・・見てみたいんだ。

 

 この所、ずっと暇があれば考えていた事を、俺はもう一度再認識する。

 そんな自分の考えに篭っている俺を引き上げたのは、イネスさんの言葉だった。

 

「まあ、賭けの結果は上々だからいいとして・・・

 アキト君、少し入院しなさい。」

 

「は? 何故です?」

 

 自分の身体なら、自分が良く知っている。

 別に悪い所は無いはずだが?

 

 頭にクエスチョンマークを浮かべている俺に。

 イネスさんは顔を顰めながら、話をする。

 

「身体的には確かに問題は無いわ。

 いえ、健康過ぎる程ね。

 ・・・でも、身体と心は別だわ。」

 

「・・・」

 

 少しは自覚はあった・・・

 確かに身体の疲れより、心の疲れを感じていた事を。

 

「ストレスが溜まってるみたいね。

 睡眠も少ないみたいだし。

 身体が人一倍丈夫な分、限界まで我慢するつもりでしょう?」

 

「でも、俺がいなければ・・・」

 

 今のナデシコは俺が不在でも大丈夫だろう。

 しかし、アイツが現れれば、俺が絶対に出撃しなければならない。

 

 俺は、イネスさんに反論をしようとすると・・・

 

 

「お黙りなさい!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 思わず、背筋を伸ばして返事をしてしまった。

 

 そんな俺を見て、イネスさんは溜息をつきながら話をすすめる。

 

「ふぅ〜、アキト君、少しは皆を信じてあげなさいよ。

 アキト君からのメッセージは、確かに皆が受け取ったわ。

 なら、今は離れた位置で、その成果を見てみるのもいいんじゃないの?

 今まで一人で頑張ってきた分、ゆっくり休む権利が貴方にはあるわ。」

 

「そうでしょうか・・・俺は、自分の為に頑張ってきただけかもしれません。」

 

 イネスさんに話す言葉は、自分の声だと思え無いほどに、生気に欠ける声だった。

 だが、貧乏性な俺は、自分が動いていないと不安になる。

 困った性格だな、我ながら・・・

 

「そう言って自分を納得させてるなら、それでも良いわ。

 結果的に、ナデシコのクルーを今まで守ってきたのはアキト君なのだから。

 これは艦長以下、主だったクルー全員の意見よ。

 さあ、今は眠りなさい・・・」

 

「・・・じゃあ、そうします。」

 

 ここでイネスさんに逆らって、怪しい薬を注射されると厄介だ。

 それに・・・正直言って、確かに心が休息を求めている。

 アイツとの戦いは、久しぶりに心身共に激しく消耗をしたのだ。

 だが、アイツの戦う理由は単純だ・・・俺とは違う。

 また、それが羨ましいと思う俺もいる。

 

 

 北斗・・・お前は俺に何を見た?

 

 

 俺は、死闘を繰り広げた相手の事を思いながら。

 再び眠りに落ちていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、アキトさん。」

 

「ゆっくり休んでね。」

 

「・・・ハーリー(君)は、何時まで休んでるつもり(ですか)?」

 

「・・・(ビクッ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ここにテンカワ アキトが寝てるらしいけど。」

 

 

    プシュ!!

 

 

「あら、切り捨てられた蜥蜴の尻尾さん。」

 

 

 ズテッ!!

 

 

「・・・しょ、初対面の人間に対して、中々の挨拶っすね?」

 

「冗談よ、ちょっと言ってみたかっただけ。

 それで、アキト君に何か用かしら?」

 

「いや、ちょっと恨み言の一つや二つ言ってやろうかと・・・」

 

「あの時に殺されかけた事かしら?

 アキト君はちゃんとコクピットを外して、攻撃してくれてたんでしょ?」

 

「ま、そうですけどね〜

 それに本気で戦っていたら、俺を倒すのに一分もかからないんでしょうね。

 悔しいですが、それが現実ですし・・・

 しかし、今迄敵だった俺が、こんな自由に艦内をうろついてもいいんですかね?」

 

「じゃあ、何か破壊工作をしてみる?

 ルリちゃんとオモイカネの監視の目を誤魔化すのは大変よ。」

 

「確かに難しいでしょうね・・・

 じゃあ、テンカワ アキトの暗殺と(ゴキュ!!)

 

 

 ・・・バタッ!!

 

 

「ふっ、それこそ愚問ね・・・

 皆、その人を例の部屋に連れていって。

 ナデシコの流儀を教えてあげないと、駄目みたいだから。」

 

 

「了〜解♪」(某同盟の構成員達)

 

 

 ズルズルズル・・・(暗闇に消えるサブロウタ)

 

 

 

 

 

 

「口は災いの元ですよ、サブロウタさん。」

 

「・・・流石、ハーリーの兄貴分だね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話 その2へ続く

 

 

 

 

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