< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、着信表示があるぞ?

 ・・・オモイカネ、どうして僕達に通知をしてくれなかったんだよ?」

 

『・・・』

 

「・・・まだ、フリーズしてるんだ。」

 

 

『ルリ、ラピス・・・その舞台設定は・・・だ、め・・・』

 

 

「当分は・・・再起不能みたいだね。

 でもルリさん達は、どんな舞台装置を考えたんだ?」

 

「「ハーリー(君)が知る必要は、無いよ(ありません)」」

 

「ひっ!! 何時の間に僕の背後に!!」

 

「・・・さて、某組織の計画を話してもらいましょうか。」

 

「そうだね、あんな自信満々なあの人達の顔は、今まで見た事ないもんね。」

 

「・・・(ダダダダ!!)」

 

 

『ハーリーは逃げ出した。

 ・・・しかし、回り込まれてしまった。』

 

 

「そんなナレーションなんてするな〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 

 

 

 

『・・・で、通信ってどんな内容だったんだい〜?』

 

「え、知りたいの?

 アンタならちょっと手を伸ばせば『見れる』でしょ?」

 

『でも、今は通信関係をディアが。

 ナデシコ自体のハードウェア関係は、僕が担当してるからね〜

 そこまで手が回らないよ〜

 オモイカネ兄ほど、経験は積んでないんだしさ〜」

 

「・・・じゃ、端的に言うとお客さんが来るの。

 で、これがそのリスト。」

 

『これ・・・知らせなくていいの?』

 

「面白そうだから黙っとく。」

 

『誰に似たんだろうね、ディアってさ?』

 

「少なくとも、ラピ姉に一番似てるんじゃない。」

 

『自覚は・・・あったんだね〜』

 

 

 

 

 

 

 今更、約束を反故する訳にはいかず。

 俺は自室で再び黄昏ていた。

 ・・・どうして、こう、ナデシコに帰ってきてから立て続けに不幸になるんだ?

 そう言えば、ジュンの奴も姿を消していたな?

 一応怪我人だし、医療室で寝てるのかな。

 

 それにしても、今回の敗因は北斗の事だよな。

 いや、まあ、確かに一緒に踊ったよ。

 だけど、あれは不可抗力であって・・・

 

 ・・・

 ・・・

 一番の原因を思い出した、今からナオさんのお仕置きに行こう。

 

 俺は静かに立ち上がり。

 自室から出る寸前、目の前にウィンドウが開き・・・

 

 ピッ!!

 

『アキト兄、起きてる〜?』

 

「どうしたんだ、ブロス?」

 

 ディアじゃなくてブロスが通信を入れてくるなんて。

 ・・・何があったんだ?

 

『後、30分後にお客がくるよ。

 シュン小父さんとカズシ小父さんは、現在ホウメイガールズの練習を見てるし。

 ユリカ姉達は・・・まあ、例の練習に没頭してるしね〜

 ミナトさんは、ルリ姉とラピ姉のメイクに掛りっきりでしょ?』

 

「・・・そうか、で俺に判断をして欲しいんだな。

 だが、プロスさんにゴートさんもいただろう?

 そう言えばディアはどうした?」

 

 鈍痛を訴える頭を、片手で抑えながら俺はブロスに質問をした。

 

『プロスさんとゴートさんは、コンクールの下準備で大忙し。

 緊急事態以外は、着信拒否にされてるんだよね〜

 で、ディアはダッシュ兄と一緒に何か悪巧みをしてる。』

 

 ゴン・・・

 

 思わず部屋の壁に頭を打ち付けてしまった・・・

 現在、確かに木連の無人兵器は地球上には少ない。

 ナデシコの活躍により、殆どの地上戦力は排除したからだ。

 だが、そこまで油断をしていていいのか?

 というより、オモイカネはどうした?

 機動戦闘の制御に特化したブロスに、ナデシコの運営をさせるなよ・・・

 

「・・・で、オモイカネはどうしてる?」

 

『オモイカネ兄? こうなってるよ〜』

 

 ピッ!!

 

 

『ゴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン』

 

 

 大きな銅鐸にでかでかと書かれた、『フリーズ』の文字。

 ・・・逃げたな、オモイカネ。

 

『で、通信の件だけど。

 コレがそう。』

 

「はいはい、俺が判断してや・・・る・・・」

 

 その通信内容を見て、俺の時間が止まった。

 そこに書かれてあるのは短い要請文。

 内容を理解するには、2秒もあれば事足りる。

 

 そして、この依頼を断る事は出来ない。

 だが、それにより巻き起こる騒動を予想して・・・俺の心臓は3秒ほど停止したのだ。

 

『で、どうするの?

 ちなみに、残された時間は後20分。』

 

 ブロスの無情な声が、俺の脳に響き渡った・・・

 

「主要メンバー全員をブリッジ・・・いや格納庫に集めてくれ。」

 

『通常回線で?』

 

「いや、緊急回線でだ!!」

 

 もう、こうなったら成るように成れ!! だ!!

 

 

 

 

 

 

 そして、ナデシコの格納庫に主要メンバーが集まる・・・

 

「アキト〜、一体どうしたの?

 私、これから歌の猛練習しないと駄目なんだけど?」

 

 ユリカがステージ衣装を着たまま現れ、俺にそう言う。

 ・・・ユリカ、もうちょっと大人になってくれ、頼むから。

 

「テンカワ君、現在敵の存在は確認されていないわよ?

 一体これは何事なの?」

 

「そうだよ、テンカワ君!!

 私も姉さんとのデュエットの練習で忙しいんだからね!!」

 

 エリナさんとレイナちゃんが不機嫌そうな顔で、俺にそう聞いてくる。

 まあ、敵は確かにいないけどね。

 

 それ以外にも、敵と呼べるモノはいるんですよ。

 

「テンカワ、本当に何があったんだよ?」

 

「アキト君、私達準備で忙しいんだけど?」

 

「くくくく・・・」

 

 いや、でも重要な事だし・・・だから、ステージ衣装で現れないでよ、三人共・・・・

 

「姉さん、これスカートが短くありませんか?」

 

「う〜ん、そうかも。」

 

 ・・・何故に、セーラー服なんだいサラちゃん、アリサちゃん?

 多分、後ろでにやけているウリバタケさんのコレクションなんだろうな。

 

 また、大嘘をついたんですねサラちゃん達に・・・

 後でどうなっても知りませんよ?

 

「アキトさん、これ似合いますか?」

 

 過去と同じく、看護婦姿を俺に披露してくれるメグミちゃん。

 いや、似合うけどさ・・・この格納庫じゃ浮くって・・・

 

 ・・・整備班達の視線が痛いのは、気のせいだけじゃ無いな。

 

「お〜い、アキト。

 どうして今更緊急召集をするんだ?」

 

「ナオさん・・・貴方が今回一番の被害者ですね。」

 

「何だよ、それ?」

 

 頭を捻るナオさんに、俺は片手でブロスに合図を送る。

 ・・・そう、未だにオモイカネはフリーズ中だ。

 いい加減に再起動をしろよ、オモイカネ。

 

 それにしても、プロスさんとゴートさん。

 それに、シュン隊長とカズシさんは間に合わなかったか。

 

 ・・・ちょっと痛いな、歯止め役が不在なのは。

 

 ピッ!!

 

『アキト兄、この一覧でいいの〜?』

 

「ああ、十分だよブロス。

 ナオさんこれを見て笑ってられますか?」

 

 ブロスの表示したリストを見て、表情を強張らせるナオさん。

 ふっ、俺の予想通りだな。

 

 ・・・俺も人事じゃないけど。

 

「こ、これは!!」

 

「そう、優華部隊・・・彼女達とその他一名がやってくるんですよ。

 このナデシコにね!!」

 

 俺は叫ぶ様に、今朝届いた通信の内容を皆に告げた!!

 

「本当ですか!! アキトさん!!」

 

「その他一名・・・三郎太君の事なの?」

 

 ルリちゃんと、ミナトさんがそんな台詞を行った瞬間・・・

 

 ピッ!!

 

 『優華部隊、御一行到着〜』

 

 ブロスの能天気なメッセージウィンドウが、俺達の目の前に現れた。

 やはり彼女も・・・乗ってるんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴゥゥゥゥゥゥゥ・・・・

 

                 ブシュゥゥゥゥゥ!!

 

 

 私達の目の前に、一台の連絡船が止まります。

 彼女達とその他一名は・・・地球を脱出しようとしましたが。

 ・・・考えてみれば、連絡船で大気圏を突破出来る筈ありません。

 それ以前にバリア衛星で撃墜されてしまいますね。

 

 しかも、最寄のチューリップは綺麗さっぱり、ナデシコクルーが殲滅しましたし。

 

 つまり、帰れなくなったんです。

 

 このまま地球に骨を埋めてもらっても、私的には支障は無いのですが。

 流石に・・・木連内の和平推進派を敵にまわすのは、愚かでしょう。

 そこで、私達は泣く泣く彼女達を受け入れました。

 

 

 

 

「ナオさん!! 逃げちゃ駄目ですよ!!」

 

「ご、後生だアキト!! 俺はあの娘にだけは会いたく無いんだ〜〜〜〜!!」

 

「そんな事、十分解ってますよ!!

 ですから、普段の俺の苦労を知る良い機会でしょ!!」

 

「お、鬼かお前は!!」

 

「はいはい、西欧方面軍では『戦鬼』と呼ばれてましたから。」

 

「ミリア〜〜〜〜〜〜!! ヘルプミ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 ・・・何をされてるんだか。

 

 でもこれは、アキトさんの監視を強化しておかないと駄目ですね。

 ピースランドで見た優華部隊の皆さんは、美人揃いでしたからね。

 

 それとサブロウタさん・・・後でお仕置きです。

 

 

 

 

「いや〜、ご迷惑をおかけします〜」

 

「・・・」

 

 一同、無言で軽い挨拶をしてきた男性を睨みます。

 

「あれ、反応が無い?

 嫌だな〜ミスマル艦長、そんなに不機嫌な顔をされては美人が台無しですよ?

 でも、お出迎えの服装にしては派手ですね?」

 

「・・・」

 

 珍しく、ユリカさんも無言です。

 まあ、楽しみにしていたイベントを潰されたのですから・・・

 

 それを思い出したら、私も少し不機嫌になりました。

 三郎太さんはハーリー君と一緒に、スペシャルコースのお仕置きです。

 

 

「どうしてですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 空耳は忘れましょう。

 

「あ、リョーコちゃん、お久しぶ(ゴシュ!!)」

 

 そして、リョーコさんの方に向かって歩き出した三郎太さんは・・・

 背後から投げつけられたスパナの直撃を後頭部に受け、地面に沈みました。

 

「・・・貴様は、ここが一応は敵の戦艦だという自覚はないのか!!」

 

 セミロングの黒髪をした、眼鏡をかけた女性が三郎太さんの背後から現れます。

 羨ましい程のプロポーションをされてます。

 

 ・・・むう。

 

「三姫、無駄よ。

 意識が無いわ。」

 

 地面に倒れ伏す三郎太さんの片手を掴み、反応を見てからそう告げる背の高い女性。

 長い髪は茶色で、表情が引き締まってます。

 ・・・雰囲気がイネスさんに似てますね?

 

 この人も、プロポーションが良いです・・・

 

「そこらへんに放置しておけば、3分もしたら復活するだろう。

 それより飛厘、私達の事を説明しなくていいのか?」

 

 この人は、細身の体付きで長い黒髪を後頭部で一つに縛ってます。

 ちょっとキツイ顔立ちですが・・・やはり美少女です。

 

「万葉、それは私がしておくわ。

 貴方はまだ傷が癒えてないでしょう?」

 

 万葉と呼ばれた黒髪の少女の後ろから、長い緑色の髪をした女性が降りてきます。

 おっとりとした感じの人ですが・・・ミナトさんを見た時の目付きが、その性格を裏切ってます。

 

 私は、見てはいけないモノを見てしまったのでしょうか?

 

 

「・・・ナオ様〜〜〜〜!!」 

 

「やっぱり居た〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

        ダダダダダダダッ!!

 

 逃げるナオさん。

 

               タタタタタタタ!!!

 

 軽やかな足音を残して、追撃に入る栗色の髪をした小柄な少女。

 ・・・そして、二人は格納庫から消えました。

 

「・・・いいんですか?」

 

「・・・いいんだよ。」

 

 隣に立っているアキトさんにそう聞くと、そう言い返されました。

 近頃立て続けに不幸ですね、ナオさん・・・

 

 全員の視線が、走り去った二人に集中していた時。

 

「千沙!! 大変よ!!」

 

「どうしたの、京子?」

 

 肌の白い、長い栗色の髪をした・・・京子と呼ばれた女性が、慌てた表情で現れました。

 

「北斗殿が!!」

 

 

「何!! 北斗だと!!」 × クルー

 

 

 その名前に、格納庫にいたナデシコクルー全員が緊張します!!

 

 それもそうでしょう、連合軍と木連を含めて唯一、アキトさんと互角に戦える存在。

 その実力は、皆さんは嫌というほど知っています。

 その宿命のライバルとも言える人物が・・・今、このナデシコに。

 

 緊張をするなと言う方が、無理です。

 

 静寂が満ちた格納庫に・・・

 連絡船から聞こえる、足音が響きます。

 もう、直ぐそこにあの『真紅の羅刹』が・・・

 

  カツカツカツ・・・ 

 

             ピタッ!!

 

「やっほ〜、アー君お久しぶり!!」

 

  シィィィィィィィィィンンンン・・・

 

 一同、何が起ったのか理解出来ていません。

 私もちょっと固まってます。

 

 ですが、流石にこの人の復活は早かったです。

 前回で免疫が出来たのでしょうか?

 

「や、やあ、北斗。」

 

 

「何ぃ!!!!!!!!!!!!」

             × クルー全員

 

 

 膝下まである赤毛を、背中の辺りから三つ編みにし。

 鳶色の瞳を、嬉しそうに細めながら。

 可愛い水色のワンピースを着た美少女が、皆の大声に驚きながらも格納庫に降りてきました。

 

「むう、凄い大声だね耳が痛いよ。

 それと、アー君!! 私は枝織だよ!!

 前にちゃんと自己紹介したでしょう?」

 

 頬を少し脹らませ、可愛い仕草でアキトさんに抗議をする北斗・・・ではなく、枝織さん。

 

「あ、ああ、そうだったね。」

 

 アキトさんも、どう対応していいのか迷っているみたいです。

 

「じゃ、アー君には罰として私と遊んでもらおうかな〜♪」

 

 アキトさんが素直に謝った事に気を良くしたのか。

 直ぐに枝織さんの機嫌は直りました。

 

 ですが、聞き捨てならない事を言いましたね?

 

 

 

「おい!! お前が北斗だって!!」

 

「だから!! 私の名前は枝織だってば!!」

 

  ダン!! 

 

             ドゴウ!!

                           ガスッ!!

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

 

                                  ドゴォォォォォォンンンンン!!

 

  

 その現場を見ていた全員の表情が、凍りました・・・

 

 大声で誰何の声を掛けて来たヤマダさんに、一瞬にして10m程の間合いを詰め。

 朱金の輝きに包まれた掌で、その鳩尾を軽く打つ。

 

 それだけでヤマダさんは、空高く舞い・・・格納庫の端に積んである資材に激突。

 そして、二度と起き上がってくることは有りませんでした。

 

 あの頑丈さが取り柄のヤマダさんを、掌の一撃で倒すとは。

 やはり・・・この人が。

 

 皆さんの視線が、ヤマダさんと枝織さんの間を行き来します。

 そして理解をしました・・・彼女が、北斗である事を。

 

「でね、アー君とは後で遊ぶとして〜

 今日はお友達の零ちゃんも来てるんだよ。」

 

「は、初めまして、零夜です。」

 

 枝織さんの紹介に、顔を赤らめながら一人の少女が挨拶をしました。

 美少女・・・と言うより可愛い、と言える人ですね。

 

「えっと・・・」

 

「と言うわけで・・・」

 

「突然ですが・・・」

 

「地球を脱出するまでの間・・・」

 

「密航者扱いで・・・」

 

「宜しくお願いしますね。」 

 

 上から、万葉さん、千沙さん、三姫さん、京子さん、飛厘さん、零夜さんの挨拶です。

 ・・・極上の微笑み付きです。

 

 既にウリバタケさん達は骨抜きですね。

 

「宜しくね!! アー君!!」

 

 そして、止めは枝織さんの満面の笑顔でした。

 

 あの北斗と同一人物だと、忘れてませんよね?

 ねえ、アキトさん!!

 

 

 

 そして、私達は非常に明るい密航者達と合流しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 LessonUへ続く

 

 

 

 

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