< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十九話.明日の『艦長』は君だ!

 

Lesson T 合流、ですか?

 

 

 

 

 

 

 ・・・ナデシコに帰ってからは、地獄だった。

 

 その一言しか、俺は言えん。 

 詳しい事は・・・言いたくない。

 

 

 

 

 展望室で一人黄昏る。

 俺は、人としての尊厳を失った・・・

 何があったかは、思い出したくも無い。

 

 現在の時刻は真夜中。

 展望室からは、壮大な夜空が見える。

 俺は寝転がって、その夜空を見上げていた。

 

「何、黄昏てんだよ・・・アキト?」

 

 背後から俺を揶揄する声に、俺も皮肉で返事を返す。 

 後ろの人物の声と気配は、良く知ってる人物のモノだったからだ。

 

「ナオさんだって・・・先程まで、通信でミリアさんに必死に謝ってたじゃないですか。」

 

「・・・悪かったな。」

 

「で、許してもらえましたか?」

 

「聞くな・・・」

 

 そして、二人して展望台で涙を流す・・・

 何やってるんだろう、俺達・・・

 

 

 

 

 

「お気の毒様、です。」

 

「まあ、自業自得だね♪」

 

「今日は・・・何て良い日なんだ!!」

 

「「ハーリー(君)、後でお仕置き(です)」」

 

 

 

 

 

 

「まあ、実際問題・・・和平への望みは出来た訳だ。」

 

「そうですね、でもまだまだ地盤は緩いですよ。

 ・・・ナデシコの存在が在っての和平です。

 俺達はこれから先、ますます負ける事は許されなくなる。」

 

 俺はナオさんの台詞に、そう言って返事を返す。

 これから先、敵の攻撃はナデシコに絞られるだろう。

 ・・・俺は、何処まで皆を守れるだろうか?

 

 いや!! 誰一人として殺させはしない!!

 必ず全員を守り抜いてみせる!!

 

   ギュッ・・・

 

 固く拳を握り、己の決意を確認する。

 

「・・・気持ちは解るけどな、今位はリラックスしてろって。

 そう簡単にくたばる奴等じゃないのは、もう十分に解ってるだろ?」

 

 俺が拳を握り締めながら、軽く吐息を付いていると、ナオさんがそう話し掛けてきた。

 しかし、ナオさんの顔は正面を向いたままだ。

 どうやら横目で一瞥しただけで、俺の気の高ぶりを見抜いたらしい・・・

 

 俺も、まだまだ未熟だな。

 

「皆の実力は信じてますよ・・・

 でも、俺もまだまだ強くならないとね、身も心も。」

 

「向上心が旺盛な事で。」

 

 俺の台詞を聞いて、笑いながらそう返事をするナオさんだった。

 

 そう、俺にはまだ越えなくてはいけない敵がいる。

 防がなくてはならない、野望がある。

 まだ・・・俺の力は足らない。

 それを、ピースランドでは嫌と言うほど見せ付けられた。

 

「そう、まだまだですよ・・・俺の力も。」

 

 展望室に浮かぶ夜空を見上げ、俺はそう呟いた。

 

 何時の時代も変わらない星空は、今日も神秘的に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・覚悟はいいか、ジュン?」

 

「何の覚悟ですか!!

 どうして僕は縛られているんですか!!

 僕と皆さんは、固い絆で結ばれた同志じゃなかったんですか!!」

 

「君には三つの選択権がある。

 一つは、イネスさんの研究の実験台。

 一つは、メグミ君、リョーコ君、艦長、この三人の料理の味見役。

 一つは、ルリ君とラピス君、それとディア君とブロス君の御機嫌取り。

 さて、どれを選ぶのかな?

 1秒で選ばなければ、全てを実行してもらうよ。

 ・・・はい、時間切れ。」

 

「何ですかそれは!!

 どうして僕は縛られているんですか!!

 僕と皆さんは、固い絆で結ばれた同志じゃなかったんですか!!」

 

「ジュンさん・・・僕は悲しいです。

 大人になるって事は、汚れるって事なんですね。

 ・・・あ、ジュンさんの今までの行動を某同盟にリークしておきました。

 近日中に、多分拉致されると思います。

 身辺整理と、仕事の引継ぎをやっておいて下さいね。」

 

「裏切ったんだな!!

 僕の気持ちを裏切ったんだな!!」

 

「それは、僕達の台詞だよ。

 ・・・君はこれから、ユダと呼ばれて生きていくのさ。」

 

「そんな名前は嫌だ〜〜〜〜〜〜!!」

 

「某同盟との取引場所に連行したまえ。」

 

「はっ!!」 × 某組織の下っ端’S

 

 ズルズルズル・・・

 

 

「あ、あいしゃる!! りた〜〜〜〜ん・・・」

 

「うるさい!! ユダめ!!」

 

「自分は!! 自分達は貴方を信じていたのに!!」

 

「この罪は重いですぞ!!」

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、予想通り内部分裂を始めましたね。」

 

「そうだね、次はルリの番だね。」

 

「え?」

 

「さあ、皆が例の部屋で待ってるよぉ♪」

 

「・・・(冷や汗)」

 

 

 

 

 

 

『ディア・・・何だか妙な雰囲気が漂ってるね〜』

 

「そうね、オモイカネ兄も怯えてるし。」

 

『アキト兄は?』

 

「まだ精神的なダメージが抜けないみたい。」

 

『・・・敵が来たらどうしよう〜か?』

 

「取り敢えず、『ラグナ・ランチャー』でも撃っとけば?」

 

『・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 ゴォォォォォォォォ・・・

 

 

「あ、一番星見つけた!!」

 

「いいか、リョーコ。

 お前も何だっていい、自分の中の一番星を見つけろよ。」

 

「何それ?」

 

「これだけは自慢出来る。

 自分の中の一番星だ。

 そいつを持ってる奴は、きっと幸せになれる。」

 

「自分の中の・・・一番星・・・」

 

 

 

 

 ・・・どうも、夢見が悪いな。

 

 真夜中に起き出した俺は、朦朧とした頭でそんな事を考えてた。

 

「むがぁぁぁぁ!!」

 

 ・・・相変わらず、寝相が悪いなイズミ。

 一度、イツキの部屋に放り込んでやろうか?

 

 ちなみに、イツキは同室希望者が居なかった為、三人部屋で一人で寝ている。

 アリサはサラと同じ部屋だ。 

 それと、俺達はイツキの部屋には訪ねた事すらない。

 

 バフッ・・・

 

 そんな事を考えつつ、俺は自分のベットに倒れ込む。

 

 親父、自分が誇れる一番星は・・・見付けたと思う。

 だけど、アイツは・・・

 テンカワは俺達を・・・俺の事をどう想っているんだろうか?

 

「馬鹿だよな、人の心なんて読めるかよ。

 ・・・それに聞いた所で、以前と同じ答えが帰ってくるだけだろうしな。」

 

 ナナフシ殲滅作戦の時、俺は自分の気持ちを伝えた。

 いや、伝えようとした。

 ・・・最後まで、俺の気持ちは伝えられなかった。

 

 こんな気持ちを、皆も持ってるのだろうか?

 それに以前テンカワが言っていた、好きな女性とは・・・誰だ?

 

 考え出せば、キリが無かった。

 今までも、こんな眠れぬ夜が無かった訳じゃ無い。

 だからと言って・・・慣れるとかの、問題でも無い。

 

「辛い・・・よな。」

 

 テンカワの過去に何があったのだろう?

 俺はテンカワに聞かれれば、自分の過去を話せる。

 だが、テンカワは・・・

 

 そんな事を想像しつつ、俺は何時の間にか眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「一番星・・・」

 

 ビリビリ・・・

 

「一番星。」

 

     ビリビリ・・・

 

「一番星!!」

 

          ビリビリビリ!!

 

「何処もかしこも一番星、一番星!!」

 

 もう、何なのよ〜これ〜〜〜〜〜!!

 私が歩く先々に張ってあるポスター!!

 それに書いてある内容は・・・

 

 

 

 

 

 プシュ!!

 

「なんなんですか!! コレは!!」

 

   バン!!

 

 私は手に持っていた、大量のポスターをプロスさんの机に叩きつけた!!

 しかし、プロスさんはそのポスターを一瞥すると・・・

 

「ポスター・・・ですな。」

 

   カチャカチャ・・・

 

 そう言って、会社の報告書を作成する為に、再びタイピングを始める。

 ・・・私の事、無視するつもりですか?

 

 そうですか、なら実力行使でいきますね。

 

「艦長、最後までそのポスターに書いてある事を読んで欲しいですな。」

 

 私の殺気に反応をしたのか、プロスさんがタイピングをしながらそう告げる。

 何よ、アイドル募集としか・・・

 

「・・・」

 

「どうやら、最後まで眼を通されたみたいですな。」

 

「う、嘘〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 現状を把握した私は、思わず悲鳴を上げた!!

 

「嘘ではありません。

 昨日の深夜でしたかな・・・

 廊下で虚ろな瞳の・・いや眠たそうな瞳のテンカワさんに出会いましてね。

 この事を提案したら、二つ返事でOKしてくれたのですよ。

 もっとも、何かに怯えていた様ですが。

 まあ、言質も取りましたし、今更反故にはされないでしょう。

 あ、これ証拠のテープです。」

 

   カチッ!!

 

 そう言いながら、プロスさんは胸元から出したレコーダーを再生した。

 

『・・・と、言うわけでテンカワさん、何も考えずに『OK』と言って下さい。』

 

『・・・何が、と言うわけですか?

 ちゃんと事情を説明してくださいよ。』

 

『あ、そう言えばラピス君とメグミさんが、先程テンカワさんを探してられましたな〜

 見つけたら連絡をしてくださいと頼まれてましたし・・・』

 

『解りました!! OK!! OKです!!

 後、10分逃げ切れれば、今日のお仕置きは時効なんですよ!!』

 

『はい、了解しました。

 御協力、感謝しますよ。』

 

 カチッ!!

 

 再生の終ったレコーダーをポケットに仕舞いながら。

 プロスさんはにこやかに笑っていた。

 

 そう、アキトはこの事を『OK』したのね。

 だって、自分で言ってたもん。

 

 そのポスターに書いてあった事・・・

 それは、優勝者はアキトと二人でアイドルデビューをする事が出来るらしいの!!

 もし平和になれば、何時も二人で一緒に仕事をして、食事をして、アレもコレも・・・ずっと一緒!!

 そして最後には!!

 

「は、はははは・・・」

 

「艦長?

 お〜い、艦長?

 駄目ですな、返事がありません。

 眼が既に、あっちにイってますな。

 ・・・どうやら、威力がありすぎたみたいで。」

 

 ピッ!!

 

「おや、何ですかなゴートさん。

 ・・・何時もより、不機嫌そうですが?」

 

『・・・ミスター、あのポスターを見た女性クルーの殆どが、意識不明になっているのだが。

 例外は、ミナト君とヒカル君、イズミ君、それとカザマ君だけだ。』

 

「ほう、そうですか・・・いやいや、私の部屋でも艦長がその状態でして。」

 

『なら、もう少しタイミングを考えてこの事を発表するべきだった。

 今のナデシコは無防備状態に等しい。』

 

「確かにそうですな〜

 ですが、テンカワさんを追い詰める為には、既成事実を作っておかないと。」

 

『本当にテンカワが・・・この事を了承したのか?』

 

「さあ、真実は神のみが知ってますよ。」

 

『・・・そうか。』

 

 ピッ!!

 

 私が正気に戻ったのは、それから3時間後だった。

 ・・・お昼、抜いちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 プシュ!!

 

「シュン隊長!! 

 プロスさんは何処ですか!!」

 

「お、アキトじゃないか。

 ・・・お前、とうとう芸能界を目指すんだってな。

 スキャンダルには気を付けろよ?」

 

「そんな事は言ってませんし、目指す気もありません!!」

 

「ほほ〜、じゃあそれをあの女性クルーを前に宣言出来るか?」

 

「うっ・・・」

 

「まあ、諦めろ。

 アイドルデビューは断れたとしても、当分は優勝者に付き合わされるだろうな。」

 

「シクシクシク・・・」

 

「言質を取られたお前の負けだよ、迂闊だな。」

 

「俺は・・・まだまだ未熟だ。」

 

「今頃気付いたのか?」

 

 

 

 

 

 

「我々は、断固としてこの計画を阻止しなければならない!!

 さもなくば、また第二、第三のユダを生むだろう!!」

 

「だから!! その名前は止めてください!!」

 

「煩いぞ、裏切り者!!」

 

「うるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるうるう」

 

「・・・いい加減、鬱陶しいなあ〜」

 

「まだ反省が足らないよ、当分はそのままにしておきたまえ。

 今の問題はこのイベントをどう阻止するかだ。」

 

「そうだ、テンカワが一人の女性に拘束されるのはいい!!

 しかし!! あのテンカワの事だ!!

 もしかすると、上位20人位でグループを結成して、その中のリーダーに納まるかもしれんぞ!!」

 

「そうだ!! 我々は彼の暴挙を止めなければいけない!!

 哀れで無力な子羊を、戦後も彼の毒牙にかけてはいけないんだ!!」

 

「・・・ですが、ナデシコクルーの誰が哀れで無力な子羊なんですか?」

 

「そこ、突っ込まないの・・・こんな時はノリと勢いが大切なんだから。」

 

「そ、そうですか。」

 

「しかし、実際問題・・・どうやってこのイベントを阻止するんだ?」

 

「ふっ、僕に良いアイデアがありますよ。」

 

「何だよ、ユダ?」

 

「・・・いいですか、つまり一番星を無くせばいいんですよ。」

 

「だから、それが出来ないから困っているんだろうが?」

 

「ふふふ、そのポスターには参加資格が女性だけと書かれてますか?」

 

「ま、まさかお前!!」

 

「そうですよ、僕達も参加するんです!!

 数では圧倒的に僕達が有利!!

 最終的に優勝は、我等のメンバーに決まってます!!」

 

「おお!! 盲点を突いた凄い作戦だ!!

 ・・・じゃ、参加するのはジュンの役目な。」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!

 そんな、僕を推薦したら・・・今後、コンクールが終るまで、命を狙われるじゃないですか!!

 なにより水着審査なんて嫌だ〜〜〜〜〜!!」

 

「だ・か・ら、お前なんだよ。

 さて、それじゃあ俺はプロスさんに交渉をしてくるぜ。

 ちゃんと一発芸を考えておけよ?」

 

 

「な、何てこったい!!」

 

 

「哀れ、だな・・・」

 

「哀れ、ですね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 LessonT その2へ続く

 

 

 

 

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