< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第二十話.深く静かに「戦闘」せよ

 

それは、二度とは還らない・・・

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、マイハニ〜、元気にしていたかい?』

 

『だ・れ・が!! 「マイハニー」ですか!!』

 

  ドゴゴゴゴゴゴ!!

 

      ガンガンガン!! 

 

『ははは、照れない照れない〜』

 

『くぅ〜〜〜〜!! お待ちなさい!!』

 

『それにしても、どうして胴着姿なんだい?』

 

『これが私のパイロットスーツだからです!!』

 

『・・・あ、そうなの。』

 

 

 私達の目の前で、二人の戦闘は突然始まりました。

 ライフルを乱射しながら、青紫の機体を追いかける千沙の『雷神皇』。 

 『雷神皇』は、青と白の塗装をされた小型のジンタイプ。

 千沙の特技にあわせて、遠距離射撃を得意とする機体です。

 私達が操る神皇タイプは、北斗殿が操る『ダリア』をマイナーダウンしたものとも言え。

 その為に姿形はどちらかと言えば、ナデシコクルーが操る機動兵器に近いのでした。

 

 現在敵は、その千沙の射撃をギリギリのところで見事に避けています。

 ・・・ところで、お互い戦闘リーダーの地位という立場でしょう?

 私達への指示は無いのかしら?

 

 そう考えると、千沙も見事に手玉に取られていますね。

 普段は冷静な癖に、恋愛沙汰になると理性が無くなるんだから・・・

 まあ、普通は命のやり取りをする戦場で、女性を口説く人なんていないですね。

 

 ―――不謹慎な人ですね、あの青紫の機体の男性は!!

 

 ピッ!!

 

『京子、どうする?』

 

「どうするも何も・・・千沙は何だか暴走していますし。」

 

 白衣姿の飛厘が『闇神皇』から通信を送ってきたので、そう答えます。

 ちなみに『闇神皇』は、黒と白を基調にして塗装をされている。

 

 そして私から見て、遥か頭上の位置で戦火を交える閃光が輝いています。

 ・・・腕は、ほぼ互角のよう。

 流石に、口だけの男ではないと言う事ですか。

 

 そして私は左隣の戦闘を見る。

 そこでは、万葉がピンク色の敵機と戦闘をしてました。

 

『わはははは!! 流石にやるじゃないか万葉!!』

 

『お前もな!! ガイ!!』

 

 ガシィィィィンン!!

 

               ガン!!

 

 ガイと呼ばれた男の一撃を、ギリギリで避け。

 通り抜けたその機体に、刀で斬りかかる緑と白の塗装をされた、万葉の『風神皇』

 しかし、その刀の一撃を、敵の機体は拳で刀身を叩いて軌道を逸らします。

 ちなみに、万葉は忍装束のパイロットスーツを着ています。

 

『へっ、厳しいところ狙ってきやがる。』

 

『お前こそ、よく防げたな!!』

 

 ・・・こちらも、命懸けの馴れ合いをしているみたいです。

 

 

 

 そして右隣では――――

 

『そ、それで実は・・・ナオ様に、この手紙を届けて欲しいんですけど?』

 

『ふ〜ん、別に私は構わないけど?』

 

      ギチギチギチ・・・

 

 百華の操る、真っ白の機体・・・『龍神皇』と黄色の機体が力比べをしています。

 そんな状態でお互いに会話をしている。

 ブレザーの上下を着た百華には、戦闘中の緊張感は感じられません。

 

 別に、秘匿回線で話せとは言わないけど・・・

 百華―――貴方、見境が無さ過ぎ。

 その頼みを快諾する、この黄色い機体の女性パイロットも、パイロットですね。

 

『ところでさ〜、私としては他の人の援護をしないと駄目なんだけど?』

 

『あ、あのピンク色の機体の人ですか?

 もう、隅に置けませんね、ヒカルさんも(ハート)』

 

『・・・どうして、そう思うわけ?』

 

     ギチギチ・・・

 

 黄色の機体が、一気に『龍神皇』を押さえ込む。

 

『え〜、だって、一瞬だけど万葉さんとの戦闘を伺ってたじゃないですか〜

 私の目は誤魔化せませんよ〜』

 

『あ、侮れない娘ね〜』

 

               ギャリギャリギャリ・・・

 

 今度は、『龍神皇』が押し返す。

 

 ・・・その才能を、無駄に浪費していると思うのは、私だけかしら?

 百華も特殊な育ち方をした娘だから、皆が甘やかすのよね。

 まあ、私もその一人なんですけど。

 

 

 

 

 

 また、私の前方・・・かなり離れた位置では――――

 

『おらおらおら!!』

 

 ギャン!!

          ザン!!

 

『まだまだ!!』

 

     ドン!!

 

 赤い機体と、巫女姿の三姫が操る赤と白の塗装がされた『炎神皇』が、激しい接近戦を繰り広げています。

 お互いに、一歩も譲る気配は無い。

 

 敵の放つ斬撃を、薙刀で逸らし体勢を崩しつつ―――柄頭で相手の頭部を狙う三姫。

 しかし、相手も並みのパイロットではありません。

 その下方からの攻撃を、首を捻る事で避け。

 密着した状態から肘で三姫の機体を押し返し、再び距離を取ります。

 

『へへ、やるじゃね〜か!!』

 

『そちらこそ!!』

 

 ―――まあ、別に干渉をする必要は無いみたい。

 

 

 後方の少し離れた場所では、暗褐色の機体と零夜の操る『光神皇』が戦闘をしています。

 『光神皇』には黄色と白の塗装がされています。

 それと零夜のパイロットスーツは――――何故かサンタクロースでした。

 これを初めて着た時には・・・笑ったのよね、皆して。

 

 後で零夜を宥めるのが大変でしたけど。

 今は・・・いろいろな意味で、吹っ切れているみたい。

 

 そして、ここでも何か会話がされている・・・

 

『聞いてくださいよ〜、北ちゃんったら帰ってからもずっと・・・』

 

『うんうん、解ります!!

 私も先輩が・・・』

 

『ですよね〜!!』

 

 ・・・受信範囲を越えているので、私には詳しい会話の内容は解りません。

 でも、零夜も優華部隊の一人です。

 そうそう、敵に遅れは取らないと思います。

 

 でも何だか、全然戦闘と関係の無い事を話しているような・・・気もするけど・・・

 

 

 

 

 周囲の状況の確認が終わり。

 現状で危険は無いと判断した私は。

 通信を繋いだままだった飛厘に、このまま戦闘の続行をする事を提案します。

 

「取り敢えず、怪我をしない程度に頑張りましょう、飛厘。」

 

『・・・そうね。』

 

 ピッ!!

 

 そして、飛厘との通信は切れました。

 私の目の前には、白銀と青の機体が立ち塞がっています。

 

 どうやら、この二人が私の相手のようですね。

 私の意識が自分に向いている事を感じたのか・・・

 白銀の機体が、背後に背負っていた槍を掴み構えを取る。

 

 面白いわね―――その実力、見せて貰いましょうか?

 

「さて、私もそろそろ戦闘に入りますか。」

 

 そう呟き、自分自身に気合を入れたその時――――

 

 ビィー!! ビィー!! ビィー!!

 

 最大級の危険信号が、私のディスプレイに表示されました!!

 この信号は・・・北斗殿が近づいてきているの?

 

   ザシュゥゥゥゥゥゥ!!

 

 そう理解をした瞬間、目の前の隕石が一瞬にして両断され・・・

 どうやら、かなりの広範囲にわたる技を使われたみたいです。

 

 ・・・当たってたら、一撃で撃墜されてましたね。

 今更ながら、冷たい汗が背中に流れる。

 

 ピッ!!

 

『そ、総員退避〜〜〜〜〜!!』

 

『こっちも同じく〜〜〜〜〜〜!!』

 

 

 千沙と敵機の男性が慌てた様子で、全員に通信を送ります。

 ・・・勿論、そんな通信を貰う前に私達は退避行動を行なっていました。

 まあ、あのハリケーンに一番近い位置にいたのは、千沙とあの男性の機体だから・・・

 

 慌てたでしょうね―――絶対。

 

 今度からは、もっと北斗殿達から距離を取って戦おう。

 そう心に誓う私でした。

 

   ドウゥン!!

 

『ぐわぁ〜〜〜〜〜〜・・・』

 

 あ、あの青紫の機体・・・攻撃が掠ったのですね。

 

 

 

 そう思った瞬間―――

 一際大きな衝撃が、私の乗る薄い青色に塗装された『氷神皇』を襲った。

 ちなみに、私のパイロットスーツはジーパンにジージャンです。

 だって、肌を出すような服装は、元一郎様に悪いですから・・・

 と言うより、私達のパイロットスーツは舞歌様から直接手渡されてモノです。

 拒否権など、初めから存在していません。

 ・・・どの様な基準で、それぞれのパイロットスーツを選ばれたのかは知りませんが。

 

 ――――今はそれどころ無いですね。

 

 

『沈め!! アキトォォォォォォォ!!』

 

        ドギャァァァァァァァンンン!!!

 

『させるか・・・北斗!!!!!』

 

  ドシュゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!

 

 

 どうやら、また引き分けの様ですね・・・

 

 薄れ行く意識の中で、何て傍迷惑な人達なんだろうと私は思いました。

 多分、この場に居る全員の意見はその点では一致してると、確信しながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

「で、被害状況はどうなっとお?」

 

 私は、旗艦に無事帰って来れた事を、つくづく不思議に思った。

 まあ、実際は北斗殿が私達を連れて帰ってきてくれのだが・・・

 

 先程の戦闘は、月からかなり離れた位置で行なわれたのだった。

 そして―――テンカワ アキトとの戦闘により、『ダリア』の旗艦への誘導装置は故障しており。

 普通なら1時間で帰れるところを、5時間で帰って来れたのは奇跡だろう。

 それほどに、北斗殿の方向音痴は筋金入りなのだ。

 

 空間跳躍を使えれば、簡単だったかもしれないが。

 気絶していた私達のイメージが混じれば、不確実な跳躍になると判断されたため。

 地道に私達を曳航しながら、飛んでられたらしいのだが・・・

 

 もしかしたら、私達はそのまま宇宙の藻屑と化していたかも知れない。

 零夜が極めて早く気絶から回復したのは、運が良かったと言えよう。

 後で聞いた話によると、北斗殿は一番明るい星を目指して疾走していたらしい。

 ・・・つまり、太陽を。

 

 確かに、その方角に行けば何かに遭遇する確率が高いが・・・

 敵と遭遇する可能性が一番高いと思う。

 

 ――――やはり、とことんまで一般教養を教え込んだ方がいいと思った。

 これは救出された優華部隊全員の総意だった。

 

「まあ、軽微と言えば軽微ですが・・・

 本当に、攻撃の余波で壊れたのですか?」

 

 『炎神皇』のチェックをしていた整備員が、半信半疑で私にそう問い掛けてくる。

 それもそうだろう、私達が操る神皇シリーズは、最新機のテストタイプである。

 頑丈さで言えば、木連でもトップクラスの機体なのだから・・・

 

 だが、そんな理屈が通じる相手では無いのだ―――あの二人は。

 

「まあ、現場を見ていなければ信じられないかもしれないが。

 ・・・全部、本当の事ばい。

 北斗殿とテンカワ アキトの戦いは、それ程に凄まじいとよ。」

 

 あの時の光景を思い出せば、未だ身体に震えが走る。

 あれ程の近距離まで、二人の戦いに巻き込まれた事は今まで無かった。

 私は、目の前の赤い機体―――スバル リョーコとの戦いに集中をしていた為、反応が遅れた。

 スバル機も、それは同じだったと思う。

 機体を激しく揺さぶる衝撃の中で、スバル リョーコの苦悶の声も聞えたのだから。

 

「『真紅の羅刹』対『漆黒の戦神』・・・ですか?

 一度は見てみたいものですね。」

 

「命が惜しくないのなら、予備の機体で出撃してみれば?

 少なくとも、一生の自慢の種になるとよ?」

 

 ひたすら感心をしている整備員に、私は軽く言葉を返す。

 

「と、とんでもないです!!

 三姫殿ですら近づけない戦いに、自分が近寄る事が出来るはず無いじゃないですか!!」

 

 慌てて私の提案を否定した後、その整備員は機体の修理に取り掛かった。

 確かに、とんでもない事かもね・・・あの二人の戦いに随伴する事は。

 

 

 

 

 

 特にする事も無いので、タラップを昇って整備を受ける『炎神皇』を眺める。

 手摺に顔を乗せ、力を抜いた状態で階下の作業を見詰める。

 そう言えば、パイロットスーツ(巫女着)も着替えたい。

 しかし、何となく動く事が億劫なのでその場に佇む。

 

 ・・・貴方も大変よね、あんな戦いに巻き込まれて、さ。

 でも、今回も私の命を守ってくれて有り難うね。

 これで、また高杉さんと話をする事が出来るわ。

 

 『炎神皇』の頭部を眺めながら、そんな事を思う。

 

 自分でも未だに信じられないが・・・高杉さんと婚約をしたのだ、私は。

 2年前に交わした再開の約束を忘れられていた時は、正直ショックだった。

 そして、報告書に添付されていた動画ファイル・・・

 そこには、ナンパに勤しむ高杉さんの姿があった。

 裏切られたという想いと、もう一度逢いたいという想いに悩んだ。

 万葉には何度も相談に乗ってもらった。

 私は・・・本当は自分が弱い女である事を知っている。

 だからこそ―――偽りの自分を作り上げ、頑張ってきた。

 

 しかし、再開の場面では逆にそれが仇になり――――

 

 自分でも、可愛くない女性を演じていたと解る。

 でも、裏切られたという想いが、私の行動に歯止めを利かせなかった・・・

 このまま、高杉さんにとっては「乱暴な女」で終わると絶望をした。

 だけど、最後の一歩を・・・踏み出す勇気を万葉がくれた。

 

『三姫には2年分の「想い」があるのだろう?

 なら、何も無い私よりよっぽどマシだ。

 どうせなら、その想いを振り切る為にも最後の言葉を言うべきだ。』

 

 ナデシコの一角で泣いていた私を慰めてくれたのは、万葉だった。

 その言葉に促されるように、私は医療室に向かい―――最後の言葉を発したのだった。

 

 そして、私の想いは通じた。

 

 本当に万葉は私の誇れる仲間であり、大切な友人だとつくづく実感をした。

 その恩返しも兼ねて、私は万葉の―――

 

 その時・・・物思いに耽る私に、背後から声が掛った。

 

「あら、三姫じゃないの。

 休まなくていいの?」

 

「京子?

 ・・・取り敢えずはね、私は身体の方は丈夫だから。」

 

 話し掛けてきた京子の方を向き、微笑んで返事を返す。

 そんな私の顔を見て・・・京子が優しく微笑む。

 

「良い表情をするようになりましたね、三姫も。

 やはり、想い人との仲が上手くいくと、変わるものですね。」

 

「うっ・・・」

 

 流石に、ここで否定をするほど私も意地っ張りではない。

 また、そんな軽い気持ちで高杉さんと婚約をしたわけでは、決してなかった。

 だが、逆に京子にこの話題を振っても、平気な顔で月臣少佐との仲を惚気られるのは解っている。

 

 ・・・それも何だか癪なので、ここは黙っている事にした。 

 

「高杉殿も今頃は「かんなづき」ですか。」

 

「そう・・・ね。

 元々の役職は、「かんなづき」の副長ばい。

 舞歌様の用事が終れば、元の部隊に帰るのは当然の事・・・」

 

 別れ際に、微笑んでくれた高杉さんの顔が思い浮かぶ。

 

「・・・寂しい?」

 

「・・・」

 

 無言の私の背中を、京子が優しく撫でてくれた・・・

 三日もすれば、また出撃をするのだろう。

 だけど、もう一度高杉さんに会うまでは―――

 笑って再会を祝うまでは―――

 

 何が何でも、生き抜いてみせる。

 

 

 

 

 

 

「閣下!! 本当にこの策を実行されるおつもりですか!!」

 

「むろん、そのつもりだ。」

 

「ですが!!」

 

「秋山少佐、君は一体誰に向かって口を聞いてるつもりかね?」

 

「・・・出過ぎた意見を申し上げますが、あえて草壁閣下に申し上げます。

 これでは、過去の過ちを繰り返す事に―――」

 

「秋山君、いいかね?

 このままでは、私達はまた歴史の闇に葬りさられるだろう。

 それだけは何としても防がねばならん!!

 自分達に都合の良い事だけを主張し、我等の存在を影に追いやる地球人達にだ!!

 何時までも私達は黙っていてはならないのだ!!」

 

「その事については、異論は御座いません。

 しかし、その手段がコレでは・・・」

 

「何、心配しなくても最後の最後で爆破をする予定だ。

 私としても自分の名前を、歴史の汚名として残すつもりは無い。

 この事件を機にして、我々の存在を地球に表明する。

 どちらに非があるかは明白。

 そして、我等の意思の強さを示す為の作戦がこれなのだ。」

 

「・・・」

 

「それ程に心配なら、白鳥少佐と月臣少佐も同行する事を許そう。」

 

「最後に、一つだけ・・・聞かせて貰えないでしょうか?」

 

「何かね?」

 

「どうして、舞歌様には今回の作戦を告げては駄目のですか?」

 

「・・・その質問に、答えるつもりはない。

 また君にそれを知る権利は無い。」

 

「・・・解り・・・ました。」

 

    バタン!!

 

 

 

 

 

「歴史、か・・・ふっ。

 後世に残る名前として、相応しいのは誰なのだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十話 その2へ続く

 

 

 

 

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