< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、ならテンカワ アキトを捕まえたと言うのだな?」

 

『まあ、そうなんだよ。

 やっぱり、自分が保護している女の子を見捨てる事は出来なかったみたいでね。

 で、戦利品の彼の愛機なんだけど・・・

 どうも、特定の人物以外が近づくと自衛モードに入る仕掛けがあったみたいでさ。

 あの『フェザー』とか言う名前の武器が、機体の周りを旋回していて手が出せない状況なんだ。

 お陰でドック内に誰も入れない、しかもエネルギーはほぼ無限だろう?

 でも、君が操るダリアなら『フェザー』だけを破壊出来ると思うんだけど?』

 

「一つ尋ねるが、あの男が大人しくお前の言う事を聞くと思うのか?」

 

『ああ、それは大丈夫だよ。

 常人ならとっくに発狂してる量の『薬』を注入したからね。

 もうそろそろ、自意識が無くなってる頃かな?

 あとは『良い子』になって貰う為に『説得』しないとね。』

 

「・・・直ぐに行く、せいぜい逃げ延びてみろ。」

 

『やぁ、来てくれるんだ!! 嬉しいね〜

 ・・・で、逃げ延びろって何から?』

 

 ブツン!!

 

「決まってるだろうが、理性を剥ぎ取られた『獣』からだ。」

 

 

 

 

 

『北斗、何故そんなに慌てて出撃をするの?』

 

 格納庫に向かう俺に舞歌から連絡が入る。

 先程の山崎との通信の内容は、既に零夜を通して舞歌に報告はしてある。

 山崎の奴は俺を名指しで通信に呼び出したのだ。

 どうも、今回の事は草壁も舞歌も関与していなかったらしい。

 

 ならば・・・親父と山崎の共謀か。

 

 ―――まあ、今更そんな事はどうでもいい。

 そう、今の俺の心に満ちているものは・・・

 

「これからの事を思うと、期待と興奮で気が狂いそうだぞ、舞歌。」

 

『・・・何故?』

 

 格納庫に向かう足を一時止め、舞歌に通じている通信機に向かって俺が話をする。

 その俺の返事に、不思議そうな口調で聞き返してくる舞歌。

 

「想像が出来るか? あのアキトが攻撃本能の塊になって襲い掛かってくるんだ。

 DFSは使用出来なくなると思うが、間違い無く今までとは桁違いの攻撃をしてくるはずだ。

 洗練された敵を『倒す』ための技ではなく、殺意に彩られた『殺す』ためだけの攻撃・・・

 ふふふふふ、身震いが止まらんな。」

 

『貴方・・・もしかして、テンカワ アキトがそんな状態に陥った事を喜んでいるの?』

 

 俺の真意を知り、かすかに震える声で俺にそう問い掛ける舞歌。

 だが、俺の本質が変わった訳では無い。

 昔から俺は―――強い敵を求めていただけだ。

 そう、俺の渇きを癒す事の出来る相手を。

 

「忘れたのか、舞歌?

 俺の宿業は殺人者、俺の技は人殺しの技、そして俺が望むのは『強き者』!!

 極限を越えた戦いを常に望む―――それは武人なら誰にでもある欲求だろうが。」

 

『けど、貴方達は―――』

 

 ブツン!!

 

 何かを叫ぼうとした舞歌からの通信を、一方的に切る。

 多分、舞歌が言いたかった事は予想が出来る。

 俺にとってアキトが『親友』とも呼べる存在ではないのかと、そう言いたいのだろう。

 だが、馴れ合うだけが俺達の関係じゃない。

 お互いにギリギリの領域で戦う事を望んでいるのも・・・また事実だ。

 

「そうさ、解っているさ。

 でもな舞歌、そんな世の中のしがらみが俺とアキトを縛る。

 今回は最後のチャンスかもしれないんだ、純粋に戦士と化したアキトと戦う・・・」

 

 最後にそう呟き、俺はダリアへと再び足を運んだ。

 優華部隊は今回の戦いには足手まといになるだけだろう。

 それに、アキトの囚われている戦艦に行く理由が無い。

 

 だが、一番の理由は―――誰にも邪魔をされずに、アキトと戦いたいだけなのだが。

 

 自分でも解るほどに、顔中で満面の笑みを浮かべている。

 ダリアの周りにいた整備士達が、困惑した顔で俺の前に道を開けて行く。

 そして、俺はダリアに乗り込み素早く発進準備を整え―――

 

「ダリア、出るぞ。」

 

      ドゴォォォォォォ!!

 

 管制塔の返事も待たずに、虚空へと跳び出したのだった。

 山崎の乗る戦艦までは『四陣』がナビゲートをしてくれる。

 さて、その戦艦は今頃はどうなっているかな?

 

 山崎、残念ながら『獣』には―――人質、などと言う策は通用しないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どう言う事なのでしょうか?」

 

「テンカワ アキトが山崎の手に落ちた。

 ―――それだけは確かね。」

 

「それは・・・さぞ狂喜乱舞をしてるでしょうね。」

 

「そうね、前々から興味津々だったから。

 でも、さしたる理由も無く、山崎の篭っている戦艦に出向くのは無理ね。

 今回は北斗の好きにさせるしかない、か。」

 

「大丈夫でしょうか?

 先程の通信の内容を聞く限り、どうもテンカワ アキトは自力で脱出すると言われてましたが。」

 

「普通の精神状態で、無事に脱出できれば恩の字ね。

 戦闘本能に支配されたテンカワ アキトになんて、私は会ってみたいとは思わないわ。」

 

「それは―――確かに。

 ですが、この事をナデシコクルーは知っているのでしょうか?」

 

「情報戦にかけては、あちらの方が遥かに上よ。

 きっと、もうテンカワ アキトの状況を知ってると思うわ。

 それに、私の忠告なんてこの段階にまで事態が悪化すれば・・・最早、意味は無いわ。」

 

「止める事が出来るのでしょうか、ナデシコクルーにあのテンカワ アキトを。

 下手をすると、最悪の事態を招きかねないですね。」

 

「・・・どちらにしろ、そんな状態のテンカワ アキトに張り合える者。

 もしくは止める事が出来る者は限られているわ。

 『英雄』の名を地に落とす前に、ナデシコクルーが彼を止めるか。

 北斗の手によって・・・殺されるか。」

 

「皮肉な話ですね・・・」

 

「そうね、何処まで苦しみ傷付けば・・・和平を成す事が出来るのかしらね。」

 

 

 

 

 

 

「・・・遅かったか。」

 

 俺の目の前には鉄屑と化し、宇宙を漂う戦艦の姿があった。

 その横腹に開いた巨大な破壊孔は、内側からの外に向かってナニかが食い破ってきた事を物語っている。

 俺の予想通りなら、拳の一撃で事足りただろう。

 あのブローディアになら、それだけの力が備わっている。

 

 そして、あの機体を扱える者は唯一人。

 

 山崎の奴がどうなろうと俺には関係無いが、あの男の事だ。

 見事に逃げきっているだろう。

 犠牲になったのは、事情も知らない整備士と下っ端科学者だろうな。

 案外、親父の奴もこの戦艦に乗っていたかもしれんが・・・あの男こそ、殺しても死にそうにない。

 

 ここで起ったと思われる事件を考えながら、暫し宙を漂う。

 

「手掛かりは無し、か。

 さて、何処に向かったのだアキトの奴は?」

 

 跳躍を使われたのならば、俺には手も足も出ないだろう。

 しかし、闘争本能の塊になっていると思われるアキトに、跳躍の様な複雑なイメージ形成が出来るとは思えない。

 この地域から一番近い、人が住んでいる場所・・・最寄のコロニーを狙いそうだな。

 理屈で今のアキトを計る事など出来ん。

 俺自身、そんな状態に陥った事が幾度となくあるのだ。

 だから解る、アキトは必ず人の住む場所を目指すと。

 

 手負いの獣は、今や血に飢えた野獣と化しているだろう。

 

「問題は、最寄のコロニーが3つもある事だな。

 ・・・さて、3分の1の確率か。」

 

 『四陣』に向かって、どのコロニーへのナビゲートを命じようか悩む俺に・・・

 

 ピッ、ピッ、ピッ・・・

 

「救難信号?」

 

 その信号を見て俺は少し驚いた。

 

 

 

 

 

 

 気紛れと打算で助けたその脱出ポッドには、意外な人物達が乗っていた。

 

『あの、助けてくれて有り難う御座います。』

 

「気にするな、俺もアキトの手掛かりを知りたくて助けたに過ぎん。

 だが、意外な組み合わせだな。」

 

 ナデシコクルーの一人―――メグミ・レイナードが通信で俺に感謝をする。

 その隣にはラピス・ラズリ・・・今回の事件の元となった少女が震えている。

 アキトの居場所は、この少女が教えてくれた。

 不思議な力だが、アキトと意識がリンクしているらしい。

 そして、やはりアキトの心は破壊衝動で埋め尽くされているそうだ。

 

 ほんの数分とは言え、そんな状態のアキトの精神とリンクした事により、ラピスは激しく震えている。

 儚げな印象を受ける少女だが、見た目以上に気丈なのだろう。

 何しろ、あのアキトの狂った精神に自らを同調させようというのだからな・・・

 子供と言えど、やはりナデシコクルーか。

 

「だが、白鳥 ユキナと言ったな・・・

 お前は確か九十九の妹だな?」

 

『は、はいぃ!!』

 

 俺の問い掛けに、かなり緊張をした声で返事をするユキナだった。

 

『ちょっと、どうしてそんなに緊張をしてるの?』

 

『メ、メグミさんはあの北斗様の事を知らないからそんな事を言えるんです!!

 いいですか!! あの北斗様は見た目は女性ですが、木連では『真紅の羅刹』と呼ばれる・・・』

 

 ・・・陰口を叩くならもう少し小声で話せ。

 

『知ってるわよそんな事。』

 

『へ? 嘘?』

 

『他にも優華部隊の人達に、三郎太さんにも会ってるわよ。』

 

『え? 優華部隊の皆さんに、三郎太にまで?』

 

『勿論、白鳥さんの許婚の千紗さんとも面識はあるし。』

 

『・・・ほぇ?』

 

 ・・・邪魔だから、このまま脱出ポッドごと放り出してやろうか。

 だが、そうするとアキトの奴の居場所を掴む術が無くなる。

 ―――なんとも歯がゆい状況だ。

 昔の俺ならば、悩む事無くこの脱出ポッドを捨てていたと思うのだが。

 

 ・・・まあ、俺も時間が経てば少しは変わるという事か。

 

『大体、アキトさんに色目を使うなんて・・・』

 

『え、え、え、え〜〜〜!! 嘘ですよね!!』

 

 やはり、この場で捨て去ってやろうか?

 そんな事を俺が考えている時・・・脱出ポッドに乗っている最後の人物が話し掛けてきた。

 

『君が・・・北斗君かね?』

 

 

 

 

 タニ コウスケ

 それが、俺に話し掛けてきた男の名前だった。

 見た目からして科学者らしく、白衣を着た背の高い30台後半らしき男だ。

 何処かで見た覚えがあるが・・・気のせいか。

 

「確かに俺が北斗だが・・・俺の事を知っているのか?」

 

『山崎に騙されていたとはいえ、自業自得なのだが・・・

 私はこの『ダリア』の開発者の一人だ。

 だから君が覚えていなくとも、私は一度『ダリア』の調整の為に君に会っている。』

 

 気のせいではなかったらしい。

 そう言えば、『ダリア』を受け取った時に有象無象の中にいたような記憶があるな。

 

「で、それがどうしたんだ?

 今更、俺にこの『ダリア』を渡した事を後悔しているのか。」

 

 鼻で笑いながら、俺はタニを揶揄する。

 

『・・・後悔はこの戦争の真実を知ってから、ずっとしている。

 恩人の息子の天敵の為に、わざわざ新型機を作成していたんだからな。』

 

 その言葉を聞いて、俺の視線がタニに突き刺さる。

 聞き捨てなら無い台詞を、このタニは言ったのだ。

 

「ほう、アキトの関係者か貴様?」

 

『そうだ、私は木連の人間ではない・・・

 火星で生き残っていた、ネルガル所属の科学者の一人だよ。

 イネス君がナデシコと共に地球に跳んだ後、私達は捕虜として囚われた。

 そこで君達木連の正体を知り、私達を見捨てた連合軍を愛想をつかし。

 ネルガルの科学者であった私達は―――山崎の甘言に踊らされた、馬鹿な科学者さ。』

 

 なるほど、山崎一人の仕事とは思えないあの新型機のラッシュの仕掛けは、こういう事か。

 優華部隊に送られてきた新型機も、親父達が使っている見慣れない機体も、コイツ等の手伝いのお陰か。

 

 ・・・道理で、アキト達が使う機体と共通点が多いはずだ。

 基本の所で同じ設計者に行き着くのだからな。 

 山崎も親父も内心で喜んでいたんだろうな。

 ―――それは、草壁の奴も一緒か。

 

「なら、どうしてアキトの手助けをしてやらなかった?

 アキトに対する尋問、及び脅迫が行なわれるのは明確だっただろうに。

 それに、その為に山崎の奴が『薬』を使用する事も、な。

 ・・・もっとも、俺としては今の状況を望んでいたのだがな。」

 

 俺のそんな問い掛けに・・・

 タニは俺の視線から目を逸らし、小さな声で言い訳をする。

 

『反対はした・・・だが、その時には山崎に私達の上司とも言える人を、人質に取られてしまったのだ。

 気が付いた時には、もう私達には何も出来ない状況だった。』

 

 ふん、どうせ研究に熱中をしていて周りが見えなかったのだろう。

 科学者と呼ばれる連中は、熱中しだすと周りの事を疎かにする。

 そして、目的の為に手段を選ばなくなると・・・山崎の様な奴になる。

 

 どちらにしろ、俺には気に入らない人種だ。

 

『テンカワ夫妻に私は師事をした身だった。

 アキト君にも幼少の頃に出会っている、そしてあの事件の後には彼を保護しようともした。』

 

「だからどうした?

 俺はアキトの過去など知らんし、興味も無い。

 それに今のアキトの現状には、全然関係が無い事だろうが。」

 

『・・・』

 

 俺の断定に―――否定の声は返ってこなかった。

 なにやら過去で疚しい事でもあったのだろう。

 

 そして、暫くして・・・

 

『確かに、私は我が身可愛さで・・・あの時、最後の最後にアキト君に差し伸べるべき手を引いた。

 だからこそ、同じ過ちを繰り返したくなかった。

 その為に、ラピス君とメグミ君の救出をユキナ君と一緒に決行したのだ。』

 

 まあ、個人の自己弁護と自己満足に付き合うつもりはない。

 それに俺にとってはアキトの生い立ちなど、どうでも良い事だ。

 

 過去は過去でしかない。

 お互いに、な・・・

 

「今はそんな話はどうでも良い、先程も言っただろう興味は無い、と。

 懺悔がしたいのなら、適当な人物をそこら辺で捕まえて来い。

 同情をひいてまで自分の罪を告白したいのなら、遺書でも書いて自殺でもしろ。

 ・・・それよりラピス、アキトの向かった方向は確かにこちらなんだな?」

 

 俺の質問に青い顔で頷くラピス。

 定期的にアキトとのリンクを試みているのだろう。

 そんなラピスを支えているメグミの背後では、タニが顔色を青くしたり白くしたりしている。

 

 まあ、俺には関係の無い事だ。

 

 

 

 

 

 そして、ダリアのレーダーに映る8つの光点。

 一つの光点を中心に、周囲を旋回する7つの光点・・・

 

「ふっ、悪くは無い戦法だ。

 だが―――俺の存在に気が付いているみたいだな。」

 

 歓喜の波が、再び心の底から湧きあがる。

 アイツは俺の存在を感知している。

 俺が8つの光点の中から、一つの点だけを凝視しているのを知ってるかのように。

 自分を狙う、一番危険な狩人の存在をアイツは本能的に察知したのだ。

 

「それでこそ・・・テンカワ アキトだ。」

 

 その言葉を合図に、俺は運んでいた脱出ポッドを・・・

 ダリアのレーダーの端に映っていたナデシコに向けて放り投げた。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 ココから先、あの女達と男は邪魔なだけだ。

 何より、俺とアキトの戦いに巻き込まれるよりマシな扱いだろう。 

 

 そして、俺は一定の距離をおいて目前の戦いを観戦する。

 アキトの刺す様な殺気を、我が身に受けて楽しみながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 至近距離で放たれようとした『ラグナ・ランチャー』の銃身に、一瞬の早業でカノン砲の攻撃を叩き込み。

 その銃口を僅かに逸らす・・・

 

   ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンン・・・

 

 そして、マイクロブラックホール弾はブローディアの装甲を掠め。

 ―――宇宙の彼方に飛び去って行った。

 

 ブゥゥゥゥンン・・・

 

 『ラグナ・ランチャー』を構えていた青紫の機体が動きを止める。

 どうやら、活動限界―――『フルバースト』とやらの時間が終ったみたいだな。

 

 だが、しかし・・・

 

 ピッ!!

 

「惜しかったな、あそこで一瞬躊躇う事が無ければお前達の勝ちだった。」

 

 俺の通信を聞いて、項垂れていた長髪の男が顔を上げる。

 男は通信ウィンドウに映る俺に一瞬驚くが・・・やがて苦笑をしながら、俺に話し掛けてきた。

 

『ま、僕も人の子だと言う事さ。

 全てを知っていても・・・

 彼を止めなければ、背後のナデシコが無事では済まない事を理解していても・・・

 やはり、僕は『鬼』にはなれきれない。

 ―――詰めが甘いんだよね、どうしても、さ。』

 

 疲れた表情でそう呟く。

 この男にとっても、アキトは大切な友人なのだろう。

 そして、アキトにとっても。

 だからこそ、あの『ラグナ・ランチャー』をこの男が操っていたと思う。

 

 だが―――感傷はここまでだ。

 

 俺の視線の先は、既に復活を果たしている『獣』がいた。

 俺の隙を伺う様な視線を、殺気を・・・今は猛烈に感じている。

 背筋を貫くその殺気に、やはり以前から数度相対したアキトとは桁が違った。

 

 汗ばんでくる手、荒くなる呼吸・・・俺の心は既に眼前の敵にしかなかった。

 

『ここで提案、死なない程度に彼を止めてくれるかな?

 勿論、DFSは使用禁止でね。

 もし約束をしてくれるなら―――僕の命に賭けて、ナデシコと他のパイロット達の介入を止めてみせる。』

 

 動き出そうとするブローディアを横目で見ながら、長髪の男は俺にそう提案をしてきた。

 この場面で、この提案・・・面白い男だ。

 予想以上に使える男らしいな。

 

「俺としては願ったり適ったりだ。

 だが、良いのか?

 DFS無しでも、派手な戦いになるぞ。」

 

『イネスさんって・・・知ってるかな?

 ま、医者だと思ってくれていいんだけどね。

 彼女の立てた仮定の一つに、テンカワ君の『狂気』を全て受け止め昇華する。

 って言う案があったんだけどね。

 僕達じゃ役不足だったみたいでさ。

 困った時はお互い様だろ?』

 

 男の提案が本気なのか、冗談なのか解らんが・・・俺に不利な条件ばかりではない。

 何より、ナデシコの連中に介入される事無くアキトと戦闘が出来るのは魅力的過ぎた。

 

「・・・いいだろう。」

 

 そう判断した瞬間、俺は直ぐに男の提案に同意をしていた。

 

『じゃ、そう言うわけでお願いするね。

 本当は―――僕達の手で止めたかったんだけどさ。』

 

 一瞬、男の表情に―――己の不甲斐なさに対する怒りが浮かんだ。

 まあ、人それぞれの理由があるのだろう。

 もっとも、俺の存在理由は単純明快だがな。

 

「―――殺しても恨むなよ。」

 

『そっちこそ、手加減無しのナデシコのエースパイロットを舐めるなよ。』

 

 男の激励の言葉に軽く笑って返事を返し・・・

 

 俺は前方に待ち構えている、漆黒の獣に向かって突撃をした!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十二話 その3へ続く

 

 

 

 

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