< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日  ウォン姉妹

 

 

 ブローディアに乗り込んだ俺達は、ウォン家の庭にその姿を現した。

 結構な大きさを誇るその庭の先には、古風な佇まいの屋敷があった。

 

 ・・・結構、デカイ

 

 初めてエリナさんとレイナちゃんの実家を見た俺には、そんな感想しか出て来なかった。

 普通の住宅の3倍から4倍はあるだろう。

 

 ま、俺には関係の無い事だな。

 さっさと次の人を運ぶか。

 

「じゃ、二人を迎えに来るのは何時がいい?」

 

「何言ってるのよ、両親に挨拶くらいしていきなさいよ。」

 

「そうよテンカワ君、普段お世話になってるんだし♪」

 

 二人を降ろして帰ろうとした俺だが―――

 その意見ももっともだと思い、御両親に挨拶をする事にする。

 しかし、エリナさんとレイナちゃんの御両親か〜

 

 どんな人なんだろう?

 と、色々な想像をしつつ玄関に辿り付く・・・までに歩いて10分かかった。

 

 そして、玄関には一人の男性が立っていた。

 短い黒髪と鋭い目付きで、俺くらいの背の高さをしている。

 まあ、目付き以外を除けば何処にでもいるオジサンだ。

 着ている服もありきたりな普段着だし。

 

「あ、ただいまお父さん。」

 

「ただいま、父さん。

 久しぶりね。」

 

「うむ。」

 

 エリナさんとレイナちゃんが笑顔で玄関に居る男性に話し掛ける。

 どうやらこの人が二人の父親らしい。

 取りあえず、挨拶を済ませて早く帰らないとな。

 

「初めまして、俺は―――」

 

「で、どっちの彼氏なんだ?」

 

 ・・・人の話を聞いてくれよ。

 俺の挨拶を阻み、俺の両隣にいる二人に唐突に質問をするお父さん。

 

「えっと、両方かな?」

 

「そうなるかしら?」

 

 おい・・・

 

 お互いの顔を見ながら、とんでもない発言をする二人!!

 そして、俺とお父さんの間に沈黙が落ちる―――

 

 一つ、大きく深呼吸をしたお父さんは・・・

 

「お、俺の自慢の娘を二人揃って弄びよって!!」

 

「ご、誤解っす!! お父さん!!」

 

「貴様如きに!!

 『養父さん』呼ばわりされる覚えはないわ!!」

 

 絶対勘違いしてるだろ!! あんた!!

 

 後ろ手に隠していた木刀を素早く振り上げ、踏み込みながら俺の脳天を狙う!!

 ちょっと待て!! 初対面の人物に向かって何てことするんだよ!!

 

 その一撃に驚きつつも、軽く身をよじる事で避ける。

 

   ガン!!

            バキィ!!

 

 そして玄関の敷石を叩いたその木刀を上から踏みつけ、木刀を半ばから叩き折る。

 

「ぬ、俺の一撃を避けるとは・・・近頃締め切りが忙しくて、鍛錬を怠ったのが敗因か。」

 

「お父さん、また締め切りに追われてるの?

 早くしないと、編集長さんが泣き付きにくるわよ。」

 

 手元に残った木刀を恨めしげに見るお父さんに、レイナちゃんが呆れた顔でそう忠告する。

 いや、あの・・・木刀で俺に殴りかかった事を注意をしないの?

 

「テンカワ君、うちのお父さんは私達が男性を連れてくると、何時もああなのよ。

 一度、会議の移動途中にアカツキ君と実家に寄った時は・・・彼が犠牲になったわ。

 あ、それとお父さんの職業は小説家なの。」

 

 ―――結構大変な職業なのかもな、ネルガルの会長って。

 

 俺はエリナさんの説明を聞きながら、アカツキの苦労を垣間見た。

 

「ふん!! 泣き付いたところで書けないもんは書けんわ!!

 ・・・おい貴様、詳しい話は家の中で聞こうか。」

 

 レイナちゃんとちょっとの間会話をした後、俺に向かって殺意を宿す目で睨みつけるお父さん。

 

 既に、俺に断ると言う選択肢は無かった・・・

 

 

 

 

 

「あらあら、レイナとエリナが男の人を連れて来るなんて珍しいわね!!」

 

 黄色のエプロンをした女性が俺達を迎えてくれた。

 見た目は若いが・・・この人が二人の母親だろう。

 何より外見が何処となく似ている。

 ただ、髪は二人と違って背中の辺りにまで伸ばしているが。

 

「久しぶり、母さん。」

 

 と、エリナさんが笑顔で挨拶をする。

 どうやら俺の勘は正しかったようだ。

 

「ただいま、お母さん!!」

 

 レイナちゃんがお母さんに飛び付きながら、再会を祝っている。

 ・・・俺の背後では、お父さんが殺気を漲らせながら俺を監視している。

 

 凄く・・・居心地が悪い

 俺が一体何をしたと言うんだ?

 

「あなた、どうしたのそんなに怖い顔をして?」

 

 お母さんが不思議そうに尋ねると。

 

「・・・取りあえず、一階のリビングにこの野獣を通せ。

 釈明はそこで聞こうか。」

 

 お父さんは俺を睨みながらそう言い捨てて、自分は一人で何処かに去ってしまった。

 

 しかし・・・野獣っすか?

 

 どうして、娘を持つ父親ってこうも極端に過保護なんだ?

 それとも、俺の周りの人物だけがそうなのか?

 

 そんな事を考えつつ、俺はお母さんと二人に案内されてリビングに向かった。

 

 

 

 

 やたらと広いリビングに案内された俺は、エリナさんの勧めに従いテーブルの前の椅子に座る。

 レイナちゃんが煎れてくれたお茶を飲んでいると・・・

 十分程して、お父さんとお母さんが現れた。

 

 そのお父さんの姿を見て―――俺は愕然とした。

 

「あ、あの〜〜〜」

 

「黙れ、鬼畜生」

 

 ・・・今度は鬼畜生っすか?

 俺はその言葉を聞いて、お父さんの誤解を解く事を諦めた。

 

「御免ね〜、テンカワ君。

 うちのお父さん幕末の小説がメインなのよ。」

 

 そう、お父さんはあさぎ色で袖と裾に山型の模様のある着物に着替えており。

 その着物の背中には―――「誠」の一文字があった。

 勿論、腰には日本刀を携えている。

 真剣だったら・・・かなり嫌だな〜

 

 そして絶句している俺の前に歩いてきたお父さんは、テーブルを挟んで俺の正面の椅子に座る。

 その隣にはエプロンを外した姿のお母さんが、微笑みながら座る。

 

 ちなみに、俺の両隣の席にエリナさんとレイナちゃんは座っている。

 そんな俺達の配置を、お父さんは一睨みした後―――

 

「さて、詳しい事情を聞かせて貰おうか?」

 

 と、感情を押さえ込んだ低い声で聞いてきた。

 

 

 

 

「えっと、俺の名前は―――」

 

「貴様の名前など知りたくもないわ!!」

 

 ・・・じゃあ、どうしろと言うんだよ。

 俺は少し拗ねた。

 

「お父さん、そう怒鳴ってばかりだとまた血圧が上がりますよ?」

 

「う、うむ・・・だが、母さん。

 この鬼畜生はエリナとレイナの両方に手を出しているんだぞ」

 

 ・・・違うって。

 

「父さん、それは違うわ。」

 

 俺はエリナさんの援護の言葉に頷く。

 そうそう、もうそろそろ誤解を解いておかないとな。

 

「そうよ、テンカワ君が付き合ってる女性は全部で15人よ。」

 

 レイナちゃんの発言により、リビングに沈黙が落ちる―――

 

「あら、もてるのねテンカワさん。」

 

    チン・・・ 

 

 お母さんのその言葉と同時に、日本刀を静かに抜き放つお父さん。

 俺の予想通り―――やはり真剣だった。

 その顔は怒りの感情が限界を超えたのか、無表情なものに変わっていた。

 

「最早―――言い訳を聞く気にもなれんわ。」

 

「一言も俺の言葉を聞いてくれなかったじゃないですか!!」

 

「天誅!!!」

 

   ビュン!!

 

 上段から振り下ろされた斬撃を紙一重で避ける。

 お父さんの目からは・・・既に正気を伺えなかった。

 

 そして、リビング内で対峙する俺とお父さん。

 俺・・・何しにこの家に来たんだろ?

 

 

 

 

 

「ねえ、テンカワさんを助けなくていいの?」

 

「ああ、大丈夫よ。

 殺しても死なない人だから。」

 

「姉さんの言う通り。

 お父さん如きに殺される様なら、今までに100回は死んでるわよ。」

 

「そう、信頼してるのね。」

 

「ま、まあね。」

 

「姉さん照れてる照れてる♪」

 

「う、煩いわよ、レイナ!!」

 

「・・・彼、あの例の人でしょ?

 それでも隣を歩くつもりなの?」

 

「自分で決めた事だから・・・後で後悔はしたくないしね。」

 

「・・・結構、見ていて脆い所があるんだよね。

 私達でも少しは役にたってるんだ。」

 

「そう、そこまで言うなら母さんは止めないわ。

 自分の好きなように生きなさい。」

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

 

 ・・・途切れ途切れに聞える、ほのぼのとした会話をよそに。

 

 俺はいい加減お父さんの相手に疲れていた。

 何故、俺がこんな目に会わないといけないんだ?

 理不尽じゃないか?

 俺はただあの二人を実家に送りに来ただけなんだぞ?

 

「貴様の様な下種な男に、俺の娘が〜〜〜〜!!」

 

       ・・・プチ

 

「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 『昂氣』を纏った手刀での一撃で刀の腹を叩いて砕く。

 そのまま滑るように間合いをつめ、胸部に肩からぶつかりお父さんを後方に吹き飛ばす!!

 

「ぐぁ!!」

 

 軽くうめいてその場に転がるお父さん。

 手加減はしてあるが、打ち所が悪い場合もある。

 

 俺は床に倒れているお父さんに向かって歩き出す。

 

「ふぅ・・・少しは俺の話を聞いてくださいよ。」

 

「掛ったな、この外道が!!」

 

 外道って・・・ちょっと待てい。

 

 と俺が思っている前で、右腕を振り上げるお父さん。

 何か投げ付けるつもりか?

 

 その場で踏み止まり、お父さんの次の行動に集中する。

 

  ガゴン!!

 

 お父さんの右手に付けている指輪に連動して、俺の立っている床が―――消失する。

 呆れた顔をしながら俺は地下に向かって落下していった。

 

 カラクリ屋敷かよ・・・この家は?

 

 

 

 

 

 

 落とし穴の途中で壁に指で穴を穿ち、その場で落下を止める。

 ・・・チャンスだな、このままジャンプでブローディアに戻って逃げ出そう。

 

「わははははは!! みたか娘達よ!!

 お前達を惑わす悪い虫はこの私が―――ゴブッ!!」

 

「お父さん、あれほど家を改造するのは止めて下さいと言ってましたのに。」

 

「か、母さん!! これには深い訳があるんだ、訳が!!」

 

「訳? 何ですか?」

 

「・・・カラクリ屋敷はの浪漫なんだ!!」

 

 ガイの同類か!! あんた!!

 ・・・あ、もうガイって呼んだら駄目なんだよな。

 

 俺は壁に張り付いた状態のまま、天を仰いで嘆息した。

 俺の周りの人間って、こんな奴ばっかりかよ。

 

「・・・その言い訳は聞き飽きましたよ、えい。」

 

「ちょっ―――」

 

  メキョ!!

 

 すっごく痛そうな音がしたな・・・

 

 そしてそれっきり、お父さんの声は聞えなくなった。

 やはり、母親は強しという事か・・・さて、逃げるか。

 

「もう、テンカワ君が逃げ出したらどうするつもりよ、お父さんも。」

 

「あら、そう言えばテンカワさんは無事かしら?

 多分、家の下に設置してある貯水槽に落ちたと思うけど。」

 

 レイナちゃんの発言に、俺の安否をやっと気遣うお母さん。

 もしかして、この中で一番良い性格をしてるかもしれない・・・

 

「その割には着水音がしなかったわ。

 多分、壁に穴をあけて掴まっているんでしょうね。」

 

 冷静にそう判断をするエリナさんだった。

 う〜ん、良い読みをするな〜

 

「テンカワ君〜〜〜〜〜!!

 ここで逃げ出したら、私達が帰った後で皆でお仕置きだからね〜〜〜〜〜〜!!」

 

「そうよ〜〜〜〜〜〜!!

 言っておくけど、私達を残してナデシコに帰ったらその場で捕まるからね〜〜〜〜〜!!」

 

 頭上から聞えてくるその声に・・・

 

 俺は逃げ道が残されていない事を知った。

 しくしくと痛む胃を意識しながら、俺はやるせない思いを指に込め。

 キンジョウ家の家屋を破壊しながら上に向かって行ったのだった。

 

 

 

 ちなみに、キンジョウ家から脱出したのは、晩御飯まで頂いた後だった。

 ・・・他の皆はどうやって目的地に行ったんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

「む・・・母さん!!

 あのド外道は何処に行った!!」

 

「あ、気が付かれました、お父さん?

 テンカワさんなら、もうあの娘達を連れて帰りましたよ。」

 

「むうううううううう!! おのれ、逃げ出しおったか!!

 ・・・しかし、私の攻撃をあそこまで捌くとは、並みの青年ではないな。」

 

「それはそうでしょうよ、貴方も気に入ってる『漆黒の戦神』なんですから。」

 

「は?」

 

「だから、テンカワ アキト―――彼が『漆黒の戦神』と呼ばれる連合軍の英雄ですよ。」

 

「何ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!

 そんな事一言も言ってなかったじゃないか!!」

 

「お父さんが言わせなかったんでしょうが。」

 

「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・折角のチャンスが!!

 小説の題材にはもってこいなのに!!」

 

「当分悔やんでなさいな。

 これで少しは、貴方も人の話を聞くようになるでしょう。」

 

 

 

 

「なあ、エリナもレイナも―――良い顔をしてたな・・・」

 

「ええ、相手が素敵な男性でしたからね。」

 

「ふん、良くも悪くも噂通りの漢だな。

 今度来た時は絶対に謝らしてやる。」

 

「はいはい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 その4へ続く

 

 

 

 

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