< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第二十三話.「故郷」と呼べる場所・・・それぞれの決意

 

 

 

 

 

 

 

 北辰から聞いた草壁閣下の命令は本当だった。

 まだ一抹の不安は残る・・・

 だが、このまま足踏みをしていても和平への進展は望めない。

 最早、木連の力は尽きかけている。

 これ以上の無理をして、更なる不幸を招く事は―――避けたい。

 

 ならば、危険を承知で動くしかない。

 

 内心でそんな事を考えつつ、私は和平会談を通知する為の使者の選考をする。

 まあ、私自身が動ければこんな事に悩む必要も無いのだけど。

 

 机の上の書類から暫し目を離し、執務室で繰り広げられる戦いを見守る。

 そう、目の前では中々に面白い戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

「九十九!!

 貴様は何処まで腐ってしまったんだ!!」

 

「心外な事を言うな!! 元一郎!!」

 

「は〜、お茶が美味いな。」

 

 木連優人部隊の三羽烏のうち、二人が取っ組み合いの喧嘩をしている。

 残りの一人は、我関せずとばかりに緑茶をすすっている。

 

 事の発端は、私が三人の内の誰かに和平会談への使者を任命しようとして―――

 名乗りあげた九十九君を、元一郎君がなじったのだった。

 

「お前達!! 何時までそんな事でもめているんだ!!

 場所をわきまえろ!!」

 

 氷室君が我慢の限界を超えたとばかりに、滅多に出さない大声で注意をするが―――

 勿論、誰も聞いてはくれない。

 

 あ、また隅っこでいじけるし。

 

 

「許婚がおりながら、その不埒な行動!!

 俺の知っている白鳥九十九は死んだ!!」

 

「お、俺は兄としてユキナを迎えに行くだけだ!!

 決して疚しい気持ちは持ってなどいない!!」

 

「ほ〜、そうなのか九十九?」

 

 動かざるごと山の如しの―――が動いた。

 突然、源八郎君に話しかけられ口論を止める二人。

 

「う、うむ、当たり前だ。」

 

 源八郎君の笑顔を見て首を傾げながらも、そう断言をする九十九君。

 それを確認した源八郎君が今度は私に無言で頷く。

 

「あ、あの〜」

 

 嫌な予感が走ったのだろう、小声で私に話し掛けてくる九十九君。

 でも、もう遅いのよね〜

 

「と言うわけだから、千沙―――九十九君に同行してもいいわよ。」

 

 プシュ!!

 

「は、了解しました。

 必ずや任務を成功させてみせます。」

 

 私の発言を聞いて、執務室のドアが開き―――千沙が入って来た。

 千沙の登場により、顔を赤くしたり青くしたりする九十九君。

 うん、悪戯成功

 

 私と源八郎君は九十九君から見えない角度で、お互いにサインを送った。

 

「まあ、妹を迎えにいくだけなんだ。

 別に許婚同伴してても大丈夫だろう?」

 

   ビクッ!!

 

 元一郎君が嬉しそうに笑いながら、九十九君にそう話し掛けている。

 けど、本来の任務は和平会談への使者なんですけど?

 

 ま、私の手紙さえナデシコの責任者に渡してくれれば。

 後は泥沼の三角関係をしようが、愛憎劇をしようが知った事ではないけどね。

 

「あ、元一郎君は千沙が留守の間、優華部隊の隊長をしていてね♪」

 

      ピキッ!!

 

 私の命令を聞いて、今度は元一郎君の動きが止まる。

 本当なら三郎太君に頼もうかと思ったけど、彼は今や三姫の所有物だからね。

 きちんと隊長を勤められるとは思えないし。

 

「それは大変だな元一郎。

 なにしろ京子殿は嫉妬深い―――いやいや、お前一筋な女性だからな。

 この前みたいに、他の女性と話していたという理由で刺されるなよ。」

 

     ズズゥ〜

 

 固まった状態の元一郎君に向かってそう呟き、再びお茶を啜る源八郎君だった。

 そう、以前にも偶々女性に道を聞かれた元一郎君は、その女性の道案内をしてあげたのだ。

 それを目撃した京子ちゃん―――見事に誤解をしたのよね。

 で、その日の夕方に元一郎君は血塗れになって、私の元に逃げ込んで来たのよ。

 

 ―――思い返せば、楽しい想い出よね。

 

 その結果、元一郎君が出血多量で入院して、その側を誤解だと知った京子が泣きながら看病してたわ。

 うんうん、あの時優華部隊は揃って京子の怖さを再認識したのよね。

 

 一途過ぎるのも、結構怖いモノがあるわね・・・

 

 でも、それでも別れ話を切り出さない元一郎君は―――

 その後の京子の行動が怖いのか、心底惚れているのか。

 まあ、それは本人達の問題だしね。

 

 

 

 

 

 しかし・・・ここで私にも予想外の事件が起こる。

 

    プシュ!!

 

「ねえねえ、舞歌姉さん!!」

 

「あら、枝織ちゃんじゃない、どうかしたの?」

 

 先日のテンカワ君との戦闘の後―――

 流石に疲れ果てたのか、北斗は帰ってくるなり自室で眠ってしまった。

 そして起きた時には・・・枝織ちゃんが出てきていたのだ。

 

 今日はお気に入りのワンピースではなく、珍しい事にジーパンにジャケットを羽織っている。

 枝織ちゃんと北斗に関しては決められた制服は無い。

 それにそんな事を指摘するような無謀な人物は、艦内には存在しない。

 

 私としては特に問題とは思わないので黙認をしているが。

 

「私もアー君の所に行きたい!!」

 

 両手を胸元で組んでおねだりのポーズをする枝織ちゃん。

 ―――勿論、私が面白半分で教えただ。

 

 異性相手には絶大な攻撃力を発揮するだろう。

 でも残念ながら、私は同性なので効き目は薄い。

 それはそれとして―――誰からナデシコを訪問する事を聞いたんだろう?

 一応、最重要機密なんだけどね、この和平会談。

 

「・・・九十九君に聞きなさい。」

 

 止めても無駄だろうと思った私は、厄介事は全て九十九君に回す事にした。

 

「そ、そんな!! 舞歌様!!」

 

 焦る九十九君の側に笑顔で近づく枝織ちゃん。

 頼みを断って枝織ちゃんを泣かす事は、ある意味恐怖だろう―――

 北斗と同じで、手加減が出来ないのだ、枝織ちゃんも。

 駄々をこねだせば、機嫌が直るまで逃げ続けるしか道は無い。

 

 ―――逃げ続ける事も殆ど不可能な相手だけどね。

 

 だが、ここで同行を許せば。

 ナデシコにはテンカワ君が居る。

 きっと、大変な事になるでしょうね〜

 それに、千沙も着いてくるわけだし。

 

 是非私も同行したいわね。

 

「で、ですが枝織様を連れて行く訳には・・・」

 

「むぅぅぅぅぅぅ!!」

 

  ボウゥ・・・

 

 あ、枝織ちゃんが攻撃態勢に入ったわね。

 近頃は『昂氣』のお陰で機嫌が解り易いわ。

 

 ・・・その分、桁違いに攻撃力が上がってるんだけど。

 

 薄っすらと朱金の『昂氣』を纏う枝織ちゃんを見て、九十九君の顔が引き攣る。

 しかし、意外なところから助けの手は伸ばされた。

 

「コホン!! なあ九十九、これは俺からの提案だが。

 優華部隊からもう2、3人を連れていけばどうだ?

 枝織様の面倒を見る女性が必要だろう?

 零夜君や、飛厘君などが俺はお勧めだな。

 あ、そう言えば百華君もナデシコに想い人がいるんだったな。

 そうそう、ついでに万葉君にもそんな噂があるようだし。

 面倒だな―――この際全員連れて行け。」

 

 さり気無く自分の危険指数を下げる為の努力をする元一郎君。

 三姫は三郎太君とラブラブだから安全だと判断したわけね。

 ・・・けっこう、エグイ手を使うわね元一郎君って。

 

 でもこれって・・・九十九君へのフォローになってない様な気がするけど?

 

「げ、元一郎!! 貴様という奴は!!」

 

 九十九君が魂の叫び声を上げようとした時。

 その両肩を、元一郎君と源八郎君が叩く。

 

 そして―――

 

「「逝ってこい―――九十九。」」

 

 と、同時に励ましの言葉を贈った。

 

「・・・お前達、さり気無く違う言葉で励ましてないか?」

 

 涙目の九十九君が枝織ちゃんの説得(若干攻撃が入ってた)により。

 枝織ちゃん及び、優華部隊の同行を認めたのはそれから2時間後だった。

 

 結構粘ったわね、九十九君も。 

 

 

 こうして、木連側の使者は決まった。

 後は―――地球に降りているナデシコが、再び宇宙に上がってくるのを待つのみだ。

 

 この戦争の終結は近い―――

 

 

 

 

 

 

「・・・僕の事、誰も気にしてくれないんだ。」

 

「あら氷室君? 今日の仕事は終ったわよ?

 何時からそこに居たの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 その2へ続く

 

 

 

 

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