< 時の流れに >

 

外伝  漆黒の戦神

 

 

 

 

 

第一話 漆黒の戦鬼

 

 

 

 

 

 今日もまた・・・

 俺の大切な友人が一人、戦場に散った。

 アイツには妻も子供もいた。

 何も無い俺が生き延び。

 守る者を持つアイツが死んだ。

 この戦いは何時終わるのだろう?

 

 この問いに答えを返してくれる上官はいない。

 そして今日もまた、俺達は際限無く送り込まれてくる敵と戦い続ける。

 

 何時までも続く無限地獄・・・

 誰かが死ねば。

 新しい誰かがこの戦場に送られる。

 

 俺も既にこの戦場では古参者だ。

 ただ、生き延びるのが他人より上手いだけ・・・

 だが、戦場では生き延びてこそ勝者だ。

 

 ここは木星蜥蜴との最前線。

 西欧諸国の一角であり・・・地獄でもある。

 俺はその最前線を支える部隊の隊長。

 名前は、オオサキ シュン。

 

 幾人もの戦友と知り合い。

 幾人もの戦友の死を見て来た。

 人間の一生など儚いものだと実感させられる・・・

 そんな倦怠感が包み込まれる戦場に奴は来た。

 突然、何の予告もなく俺の部隊に配置された新人。

 

「今更新人など配置されても・・・」

 

 俺の部隊全員の意見はそう一致していた。

 

 しかし、この停滞した戦線を動かしたのは・・・

 俺達に生き延びる道を示したのは・・・

 そして・・・俺達、歴戦の兵士の心に恐怖と畏怖を深く刻み込んだのは・・・

 

 漆黒のエステバリスをかる戦鬼、テンカワ アキト。

 後に俺達連合軍の兵士から、漆黒の戦鬼と呼ばれる少年。

 

 あの・・闇を纏った若者と俺達との出会いを、今日は話そう。

 

 

 

 

 

 

 初めてのアキトと俺との出会い・・・

 それは決して友好的とは言えないものだった。

 今、思い返して見れば・・・

 よくあんな無謀な事が出来たものだと思う。

 

「よお・・・お前が新入りのエステバリスライダーか?

 しかし、漆黒のエステバリスとはね。

 しかも新型かよ。

 どこぞのお坊ちゃんか、お前さん?」

 

「・・・あれは餞別で貰ったものだ。」

 

 俺の方を見もせずにそう答える新人。

 連合軍の軍服すら着ていない。

 その目は自分のエステバリスを凝視して離れない。

 ちょっと気に障ったね・・・

 こっちが新人だと思って優しく話しかけてやってるのに。

 まったく世間知らずのお坊ちゃんはこれだから。

 

「おい・・・」

 

 俺は後ろにいた俺の副官に合図を送る。

 俺の合図を理解して副官のカズシが動く。

 カズシは俺と同時期にこの戦場に配置された仲だ。

 俺の言いたい事や考えている事は、言葉少なくとも理解してくれる。

 

「・・・坊主、上官に対しては絶対服従が軍隊の掟だぞ!!」

 

 ガスッ!!

 

 誰かを殴り倒す音が俺の背後でする。

 しかし、俺はその光景を見てはいなかった。

 もう、興味は無かったからだ。

 自分達の宿舎に向けて歩き出す。

 ま、あの新人も初陣であの世行きだな。

 新型のエステバリスが破壊されるのが惜しいが・・・

 

「おい、少しは俺の話しも聞いたらどうだ。」

 

「な!!」

 

 その声を聞いて俺は慌てて後ろを振り返る。

 そこには・・・

 信じられない事に、気絶したカズシを片手で持ち上げている新人がいた。

 190cmの身長に鍛え抜いた体躯を持つカズシの体重は100kgに近い。

 それを身長175cm前後、体重にすれば60kg弱の新人が片手で持ち上げているのだ。

 俺に驚くな、と言う方が無理だ。

 

「一応報告してやる。

 俺は連合軍の軍人じゃない、一般企業からの出向社員だ。

 だから軍の階級制度は俺には関係無い。

 俺に命令出来るのは会社の上司と連合軍の人事部だけだ。

 俺に命令をしたかったら人事部に許可を申請しろ。

 それと、俺の名前はテンカワ アキトだ。」

 

 そう言うと右手に吊り下げていたカズシを放り投げる。

 

 ドスゥゥゥゥ・・・

 

 完全に気絶しているカズシは2m程飛んで地面に転がる。

 その結果を見もせず・・・

 俺の返事を聞きもせず・・・

 アキトは自分のエステバリスの元に歩いていった。

 

 俺は、アキトの目に睨まれてから一言も喋れず。

 アキトが放つ凄絶なプレッシャーに耐えるだけだった・・・

 

「何者だ・・・あいつは。」

 

 俺の後ろで騒いでいる部下を叱る事も出来ず。

 冷や汗を流しながら、身体の震えを部下に悟られぬ様に隠すだけだった。

 俺と部下達の視線はその不気味な新人・・・

 テンカワ アキトの背中を見詰めるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 そして・・・

 俺達の駐屯地の近くの街に木星蜥蜴の襲撃が起こる。

 上官達は無視を決め込んだ。

 その街には重要な施設も無く。

 ただ、民間人が静かに暮らしているだけだからだ。

 俺は急いで街の救助の許可を貰いに上官の元へと走った。

 だが。

 

「本気ですか!!

 街の住民を見殺しにしろと言うのですか!!」

 

「フン!! 仕方が無いだろうが。

 今はこの戦線の維持だけで精一杯だろうが?

 もしこれが木星蜥蜴の陽動作戦だった場合、誰が責任を取るんだね?」

 

 くっ!! この小心者が!!

 

「では、自分達だけでも出撃して民間人の救助をさせて下さい!!」

 

「許可は出来んな。

 今は戦力の分散を許す事は出来ん。」

 

 こんな事を言ってる間にも罪の無い人達が死んで行くと言うのに!!

 俺は・・・何て無力なんだ!!

 

「しかし!!」

 

 

 ピッ!!

 

 

 突然、司令部に通信ウィンドウが開く。

 そして通信兵が今の俺には聞きたく無い報告をする。

 

「敵チューリップ4つが移動を開始・・・

 このままでは進路上の街が完全に破壊されます。」

 

「・・・どう、なさるのですか?」

 

「敵が来るのだからな。

 今以上戦線を退く事は許されん・・・我が部隊の総力で戦闘になるな。」

 

 ・・・それで、街の人達はどうなるんだ!!

 今現在も自宅の地下に避難している人もいるはずなのに!!

 しかも!!

 今迄、俺達がチューリップの破壊を出来た事は無い!!

 結局、あの街の命運は尽きていたのか・・・

 だが・・・俺は軍人だ!!

 民間人を守るのが仕事だ!!

 それを忘れれば、俺達は人殺しと大差が無い存在になってしまう!!

 

「・・・何処に行くのかね?」

 

 俺は司令部から退出するところだった。

 

「自分達の部隊が先行偵察をしてきます。」

 

「その合間に救助活動かね?

 やめておきたまえ、君達が無駄死にするだけだ。」

 

 俺はその言葉を聞かなかった振りをした。

 上官もそれ以上注意しようとはしなかった。

 この人も街の住人が心配なのは一緒なのだ。

 

 しかし・・・この作戦は志願制だな。

 

 

 この時・・・

 何故か俺はあのテンカワ アキトが、この作戦に参加する様な気がした。

 人事部への申請は遅れに遅れている。

 だから俺にはアキトに命令をする権限が無い。

 あの衝撃の対面から3日が経つ・・・

 アキトは何時も一人で自分のエステバリスの整備をしているだけだ。

 俺を含め、部下達全員がアキトの纏う雰囲気に勝てず話そうとしない。

 それ故に、依然としてアキトの事は謎に包まれている。

 アキトの秘密をあの上官は知っているのだろうか?

 

 なのに・・・何故俺はアキトがこの作戦に参加すると思った?

 

「まさかな・・・自殺をしに行くようなものだ。」

 

 しかし、俺の考えは甘かった。

 アキトは俺の予想を遥かに越える人物だった。

 兵士としても、人間としてもだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「全員整列!!」

 

 俺の前にいるカズシが大声で部下に号令をかける。

 ・・・アキトは少し離れた場所で俺達の様子を伺っている。

 

 全員が整列した所で俺が今回の作戦内容を伝える。

 

「今回の作戦を伝える!!

 まずは今進撃中のチューリップの偵察。

 それと並行して、チューリップの進路上にある街の住民の避難及び救助。

 なお、この作戦は志願制とする!!

 志願しなかった者は直接上官の指示に従え!!

 では、時間は一刻を争うので出発は30分後とする!!

 以上、解散!!」

 

 俺の命令を理解した部下達に戸惑いの表情が浮かぶ・・・

 当たり前だ、人間なのだからな。

 今の命令は余りに死亡確率が高い。

 下手をすると味方と木星蜥蜴の一斉攻撃に、巻き込まれるのだからな。

 だからこの作戦を拒否しても誰も責めはしない。

 ま、俺は発案者だから絶対に参加するがな。

 

「俺も付いて行きますよ隊長。」

 

「ああ、お前は既に決定だ。」

 

「・・・せめて一言、俺の意見を聞いて欲しかったですね。」

 

 俺の返事を聞いて苦笑するカズシ。

 冗談だよ冗談。

 でも、お前も人が良いからな・・・多分参加すると思ってたよ。

 俺もお前も、もう失う者がない同士。

 せめて人様の役に立ちたいものだな。

 

 

 結局、参加者は俺の部隊の3分の2。

 約60人が参加する事になった。

 そして・・・

 

「民間人の救助なら俺も手伝おう。」

 

 俺の予感も結構当る事が解った。

 ・・・後は悪い予感が当らない事を祈るのみ、だ。

 

 

 

 

 

 

 俺の部隊の構成はエステバリスが五機。(アキトのエステバリスを合せると六機)

 そしてエステバリスのエネルギーフィールド発生装置を積んだトラックが三台。

 司令部を兼ねた指揮用の装甲車が一台。

 次ぎに戦車が二十台。

 歩兵を積んだトラックが十台。

 後は弾薬、医薬品、食料などの補給物資を積んだトラックが五台。

 心もと無いどころか・・・

 チューリップ4つを相手にするのには無謀以外の何者でも無い数字だ。

 ふと、気が向いたのでアキトのエステバリスに通信をする。

 

 

 ピッ!!

 

 

「何だ?」

 

「アキト、お前はどうしてこの作戦に参加したんだ?

 俺が言うのも何だがこの作戦の死亡率は高いぜ。」

 

 俺がおどけてそう言うと・・・

 

「死亡率?

 ふっ、誰も死ぬ事はないさ。」

 

 謎の言葉を残してアキトへの通信が切れた。

 後には、その言葉の意味が理解出来ない俺が残された。

 

「・・・何者ですかね、あのアキトって奴は。」

 

「最初の犠牲者のお前はどう思う?」

 

 俺の切り返しを受けて苦笑するカズシ。

 そして真面目な顔をすると・・・

 

「化け物ですね。

 どうやって気絶させられたかさえ理解出来ませんでしたよ。

 ただ、アイツの瞳。

 あの漆黒の闇みたいな瞳だけが、記憶から消えません。」

 

「・・・そうか。」

 

 何から何まで謎だらけとはね・・・

 今回の作戦のジョーカーにでもなるかな。

 

 

 

 

 

 

 そして街に到着し・・・

 木星蜥蜴の先行部隊も今は撤退している。

 俺達は急いで負傷者や行方不明者の救助にあたった。

 

 道々で聞える怨嗟の声・・・

 

「もっと早く来てくれれば!! お母さんは死ななかったのに!!」

 

「お父さんを返してよ!!」

 

「何が連合軍だ!!

 肝心な時には助けてくれないくせに!!」

 

「私の家を、家族を返せ!!」

 

 やり切れない思いだけが俺の心を埋める・・・

 何時も聞いてる言葉だった。

 忘れる事なんて出来ない言葉だった。

 この声を聞く度に、俺は守れなかった自分の妻と子供を思い出す。

 妻と息子は跡形も無く吹き飛ばされたそうだ・・・

 俺は妻にとって良い夫だっただろうか?

 息子にとって良い父親だっただろうか?

 後悔は腐る程した。

 だから今はこの人達を助けるだけだ。

 

 

「触らないで!!」 

 

 女性の声に振り向くと・・・

 アキトが瓦礫の下から一人の少女を助けた所だった。

 

 どうやら瓦礫に足を挟まれていたらしい。

 金髪の長い髪を俺の目がとらえた。

 

「・・・骨は折れてないが内出血をおこしている。

 急いで医療班に担架を持って来てもらおう。」

 

 

 ビシッ!!

 

 

 挟まれていた少女の足の傷を調べていたアキト。

 その少女がアキトの頬を叩く。

 

「何よ今更!!

 もう、もうお母さんもお父さんも死んじゃったんだから!!

 私もここで死にたかったのに!!」

 

「簡単に死ぬ、なんて言うな!!」

 

「ひっ!!」

 

 アキトの怒声に少女が身を竦める。

 

「俺も理不尽な理由で両親を奪われた。

 だけど、今生きているだろう?

 今は悲しいけど死んでも何も解決しないよ。

 少し落ち付いて考えて・・・

 御両親が生きていたら君に何を願うかを。」

 

 今度は優しい落ち付いた声で少女を慰めるアキト。

 ふむ、少しは見直したなアイツを。

 

 やがて少女は泣きながらアキトの胸に抱き付く。

 アキトは優しくその少女の頭を撫でている。

 

 ・・・どうやら、天性の女たらしでもあるらしい。

 この戦場で女性を口説き落すとは。

 俺は別の意味でアキトに戦慄した。

 

 

 

 そして救出作業が半分ほど終って・・・

 タイムリミットは訪れた。

 

「隊長!! 前方にチューリップ4つ確認!!

 無人兵器はその数800を数えます!!

 指示をお願いします!!」

 

 

 シ〜〜〜ン・・・

 

 

 俺達と住民達の間に沈黙が落ちる。

 今、救助した人達と逃げればギリギリ助かるだろう。

 だが、残された人達はどうなる?

 まだ瓦礫の下に沢山の人達がいる事は、ソナーの反応で解っている。

 確実だと言える事は一つだけ・・・残っていても俺達が全滅する事だ。

 撤退しても瓦礫の下の人達は死ぬ。

 俺は・・・

 一瞬妻と、息子の顔を思い出した。

 この瓦礫の下にはそんな存在がまだ生きている。

 

「救助した民間人を乗せたトラックをまずは退避させろ!!

 それと歩ける人達を誘導して、この街から少しでも逃げるんだ!!」

 

「隊長はどうされるんですか?」

 

 カズシが俺に聞いて来る。

 

「ギリギリまで救助活動の指揮を取る!!

 逃げたい奴は民間人を先導しながらなら許可するぞ!!」

 

「そんな事を言われると誰も逃げれませんよ。」

 

 笑いながら俺にそう話しかけるカズシ。

 それもそうか。

 

 この時、俺に笑いかける妻と息子の顔が見えた気がした。

 ・・・幻覚、だな。

 それでも俺はその笑顔に向けて、微笑んでいたと思う。

 

 そんな俺の視界にアキトと、アキトの肩に掴まって歩く金髪の少女が映る。

 

「アキト!! お前は自分のエステバリスで早く逃げろ!!

 その女の子を連れて駆け落ちしてもいいぞ!!」

 

 俺の言葉に真っ赤になる二人。

 ・・・女たらしの割には意外と初心だなアキト。

 

「何を言ってるんだ!!

 俺は貴方の命令に従う理由は無い!!」

 

 ふっ、顔を真っ赤にしてそう言っても迫力がないぞアキト。

 

「貴方はどうするんですか隊長さん?」

 

 アキトの肩に掴まっている少女が俺に質問する。

 

「俺か? 俺は最後の部下がここを撤退するまで指示を出すのさ。

 なんせ俺はこの隊の指揮官だからな。」

 

 胸を張ってそう言う俺を不思議そうな顔で見詰める二人。

 

「軍人の割には馬鹿ですね隊長。」

 

「軍人の割には馬鹿なんですね。」

 

 ・・・誉め言葉だと思おう。

 後ろでカズシが笑ってるのを後頭部を叩いて黙らせる。

 

「本来なら上官侮辱罪を適用するぞアキト、お嬢さん。」

 

「俺(私)は軍人じゃないですから。」

 

「・・・いきなり仲がいいな、君達。」

 

 さっきまで喧嘩腰で罵っていたのにな。

 ・・・それが一時間程でアキトを見る目はする少女になってるし。

 

 恐るべし、テンカワ アキト。

 

「取り敢えず逃げるんだアキト!!

 お前も民間人なんだろうが!!」

 

 俺の言葉を聞いて驚く少女。

 ・・・自分の立場を黙っていたのかアキト?

 この現場では軍人は憎悪の的だったろうに。

 不器用な男だな。

 

 俺はアキトの評価を更に改めた・・・

 だからこそ、この男にはここで死んで欲しく無かった。

 

「そのお嬢さんの安全の為にも早く逃げるんだアキト!!

 これは一人の人間としての頼みだ。」

 

 俺とアキトの視線がぶつかり合う・・・

 そして。

 アキトは微笑んだ。

 

「なら・・・俺は俺に出来る事をするまでです。

 サラちゃん、悪いけどここからは別の人に送ってもらって。」

 

 そうか、サラと言う名前かこの子は。

 だが・・・それ以前に何を考えているアキト。

 

「そんな・・・アキトはどうするの?」

 

「おい、アキト何を考えているんだ?」

 

 そんな俺達に向けるアキトの視線は・・・・

 あの闇を纏った瞳だった。

 

 その眼光に気圧されて黙り込む俺とサラ。

 後ろのカズシも硬直している。

 

「先程言ったでしょう。

 誰も死にはしないと。

 それに隊長・・・

 貴方は俺の知る軍人の中でも、上位に位置するまともな人物だ。

 ここで死ぬのは惜しい人材だと判断した。

 俺は救助に邪魔なモノを排除するまでだ。」

 

 そう言い残して自分のエステバリスに歩き去るアキトに・・・

 誰も声をかける事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして飛び立つ漆黒のエステバリス・・・

 一瞬だけ俺達の方に顔を向け。

 その後は信じられない加速でチューリップに向って飛んで行った。

 

 

「おい!! エステバリス部隊!!

 アキトがそっちに向った!! 何としてでも止めるんだ!!」

 

 カズシが通信で上空からチューリップを偵察していた、五機のエステバリス隊に命令する。

 

「だ、駄目です!! 追い付けません!!」

 

「何てスピードだ!!」

 

「テンカワ機、無人兵器と交戦可能空域に入ります!!」

 

「何だあの武器は?」

 

「そ、そんな馬鹿な!!」

 

 

 シ〜〜〜ン・・・・

 

 

 突然黙り込むエステバリスのパイロット達・・・

 撃墜されたのかアキト!!

 

 俺とサラとカズシの顔が青くなる・・・

 その時!!

 

 

 ドゴォォォォォォォォンンンンン!!!!

 

 

 信じられない音量の爆発音が俺達の耳を襲う!!

 

「な、何だ!!」

 

「キャアァァァァァァ!!」

 

「くっ!!」

 

 俺とカズシは指揮用の装甲車から飛び出し・・・

 信じられない光景を見た。

 

 真っ二つにされ崩れさるチューリップ。

 その周りを盛大に彩る無人兵器達の爆発光。

 

「テ、テンカワ機、チューリップを一つ撃沈!!

 現在、約100機の無人兵器を掃討してます!!」

 

「やっぱり!! あいつがあのナデシコのパイロットなんだ!!」

 

「すげ〜!! 本当にチューリップを切り裂きやがった!!」

 

 一体、何が起こってるんだ?

 俺達はまた装甲車に戻り、興奮しているエステバリス隊のパイロットに通信を入れる。

 

「エステバリス隊!! こっちに映像を寄越せ!!」

 

「了解!! 隊長、これが俺達エステバリスライダーの、エースの戦いです!!」

 

 そして送られて来た映像には・・・

 白い刃を片手にチューリップに向って突撃する、アキトのエステバリスが映っていた。  

 その直線上にいる無人兵器など、紙細工の様に切り裂くアキト!!

 敵の攻撃は全て最小限の動きで避け、またその白い刃で切り落とす!!

 

「す、凄い・・・」

 

「・・・馬鹿な。」

 

 俺とカズシの顔には驚愕しか無かった・・・

 チューリップ4つの敵戦力。

 これは俺の所属する駐屯地全ての戦力をもってしても、撃退は困難だ。

 それを一機のエステバリスが実行している。

 悪夢でなければ喜劇だった。

 

「凄い・・・アキトの戦いって綺麗・・・」

 

 サラは青空をバックに華麗に飛ぶアキトの漆黒のエステバリスに、目を奪われている。

 そしてアキトのエステバリスが突然、急降下に移り・・・

 

 

 ブィィィィィィィィンンンンンン・・・

 

 

 その右手に持つ白い刃が200m程に急激に伸び・・・

 

 

 ザシュウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 チューリップを斜めに切り裂く!!

 その信じられない映像は・・・

 

 

 ドゴァァァァァォォンンンンン!!!!

 

 

 後からやってきたチューリップの破壊音でこれが現実だと、俺達に認識させた。

 

「化け物・・・」

 

 そう呟くカズシの心情は俺と同じだろう・・・

 次ぎの獲物に向けて加速に入るアキトのエステバリス。

 アキトにとって周りの無人兵器など、眼中に無いのだろう。

 ただ、煩げに、無造作に、無人兵器達を切り裂く・・・

 そして3つめのチューリップが沈み。

 その5分後には最後のチューリップも沈んだ。

 

 

 

 

 帰還してくるアキトのエステバリス。

 その漆黒の機体は傷ひとつ無く・・・

 エステバリス一機のみによる、前代未聞のチューリップ殲滅はここに終わった。

 

 

 

 サラを慰めていたアキト・・・

 カズシを軽く叩きのめしたアキト・・・

 俺を死なせはしない、と言ったアキト・・・

 俺達の全戦力を軽く凌駕する実力を持つアキト・・・

 サラの事でからかわれて赤くなるアキト・・・

 

 鬼神の如き強さ。

 その年齢を疑わせる気迫と雰囲気。

 孤高の寂しさを見せる背中。 

 暖かくサラを包んだその懐の深さ。

 そして、あの闇を纏った瞳。

 

「テンカワ アキト・・・一体何者なんだ?」

 

 それは、俺の心からの疑問だった。

 

 そして、この戦いを見ていた兵士達によって。

 アキトには、漆黒の戦鬼という二つ名がついた。

 

 まだ、一般の兵士達にはアキトの実力しか見えていない。

 あの寂しそうなアキトの微笑みは何を意味するのだろう?

 

 

 アキトに対する俺の疑問と興味は尽きる事が無かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話へ続く

 

 

 

 

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