< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第九話.イトウ アユミの私生活

 

 

 

 

 

 

 

 私には他人に自慢が出来る親友が居る。

 外見は童話に出てくる妖精のようで、神秘的な瑠璃色の長い髪と金色の瞳をしている。

 2年前に知り合った時から、常に成績は学年トップを保持。

 料理クラブに在籍し、手料理もこなす逸材。

 クラス中・・・じゃなく、間違い無くウチの中学校で一番の美少女。

 

 

 

 

 ・・・運動神経が殆ど見当たらないのは、ご愛嬌だと思う。

 

 彼女の名前はホシノ ルリ―――私の親友

 

 

 

 

 

 

 

 親友になったきっかけは、転校して来てからずっと浮いたままのルリルリに私から話し掛けたから。

 後から聞いた話によると、今まで同年代の子供達とまともに話した事がないそうだ。

 人に事情にそうそう踏み込むつもりは無かったので、その日は挨拶と軽い自己紹介程度にしておいた。

 

 第一印象は―――可愛いけれど、人形みたいな娘、だった

 

 ルリルリが学校に来るようになってから数日が経ち。

 私は偶然にも朝の通学途中にルリルリを見付けた事があった。

 思い返せばそれが、ルリルリと私の親友付き合いの切っ掛けだった。

 

「ルリさん!! 今日もアカツキさんかイネスさんの所に行かれるのですか?」

 

 その声で気が付いたのだが、ルリルリの右隣にはハーリー君が居た。

 そして、ルリルリ左隣にはラピスちゃんが。

 

 ハーリー君は黒い髪だけど、ルリルリの瑠璃色の髪とラピスちゃんの薄桃色の髪は凄く目立つ。

 

「・・・そうですね、オモイカネに会いに行くのも目的の一つですし」

 

 そう言ってハーリー君に微笑むルリルリ。

 この時、初めて私はルリルリの笑顔を見た。

 内心で 「なんだ、ちゃんと笑えるじゃないの」 と考えてもいたけど。

 

「ハーリーはキョウカちゃんと遊びに行くんだよね♪」

 

 小悪魔めいた笑みを浮かべながら、ハーリー君の思惑を叩き潰すラピスちゃん。

 勿論、ハーリー君の思惑とはルリルリと一緒に『オモイカネ』に会いに行く事。

 

 ・・・そう言えば、いい加減付き合いも長いけど未だに『オモイカネ』さんの正体を教えて貰った事ないわね?

 また今度聞いてみようっと。

 

「な、何を言いだすんだよ!! ラピス!!」

 

 大慌てでラピスの言葉を否定するハーリー君と、その二人を見て笑うルリルリを見て。

 私は三人に凄く興味を抱いたのだ。

 

 だって、しつこいハーリー君をラピスちゃんが携帯用の棍で叩きのめしちゃうんだもん。

 そりゃあ、興味を持つわよ。

 ・・・ルリルリは気絶したハーリー君を見ても、平気な顔で笑ってるし。

 

 ―――ま、近頃は私も慣れたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 私は特に秀でた特技も無く、外見も少し可愛い程度のもんだ。

 ・・・背も低いし

 そう言えば背の低さについては、ルリルリと真剣に話し合ったっけ。

 知り合いに科学者がいるらしくて、その人に相談する事も考えたらしいんだけど・・・

 恐いから嫌だと、私に話してくれた。

 

 ・・・恐いって、どんな人なんだろその科学者さんって。

 

 まあ、そんな私の日々の努力により、何とかルリルリとの関係も3ヵ月後には親友と呼べるものになっていた。

 しかし、親友になって驚いた事はルリルリに一般常識が欠けていた事。

 社会一般の常識ではなく、女の子としての常識だけど・・・

 

 流行の服、音楽、人気ドラマ、本、ゲーム

 

 話していて思った事だけど、まるで先生に話し掛けているみたいだと、思った事もある。

 そんなルリルリも、私の懸命の努力により・・・かなり砕けてきた(ニシシシ)

 転校当時の近寄り難い雰囲気も随分と薄くなった。

 まあ、あの美貌に柔らかい物腰が加わったルリルリは無敵の美少女だった。

 見ていて面白いくらいに男子生徒が釣れる釣れる。

 

 ・・・でも、結局誰とも付き合わないんだよね。

 我が校の誇る美男子も袖にしてるし。

 

 昔、男の子と付き合わない訳を聞いたら。

 

『もう、私には心に決めた人が居ますから』

 

 今、思い出しても、その時のルリルリの目は中学生のそれではなかった。

 ドラマとかで女優の人が見せたりする、大人の女の目だった。

 

 まだまだ、私の親友には秘密が多そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏服をはためかせながら、私とルリルリが通学路を走る!!

 待ち合わせ場所で合流した時は、結構時間に余裕があったんだけど・・・

 色々と雑談をしている間に、予想以上に時間が掛ってしまったみたい。

 

「ほら、ルリルリ!!

 ラストスパート!!」

 

「ま、待って下さいアユミさん!!」

 

 繋いだ手を無理矢理引っ張り、私はルリルリの牽引役をこなす!!

 しかし、本当に体力が無いよねルリルリは。

 ・・・夏休みに特訓でもしてやろうかな?

 

 お互いに激しく肩を上下させながら、私達は無事に校門を潜りぬけた。

 校門前の先生がかなり恐い目で睨んでいたけれど・・・何時もの事と思って忘れ様・・・うん。

 

 苦笑をしながら、私達が靴箱を開けた時・・・

 

   ドサドサ・・・

 

 何時のようにルリルリの靴箱から複数のラブレターが落ちてくる。

 それを溜息を吐きながら見て、ルリルリは床に落ちた分を拾い上げ・・・途中で固まった。

 

「どうしたのルリルリ?」

 

「いえ・・・ちょっと意外な手紙を見たものですから。

 あの人らしいと言えば、らしいですけど」

 

 楽しそうに笑いながら、ルリルリが拾い上げた手紙は中学生が使うにしては上等な封筒だった。

 差出人は・・・

 

     ヤガミ ナオ

 

 ・・・今まで聞いた事がない生徒ね?

 でも、ルリルリが意外に思うって事は知り合いの学生なのかな。

 

「で、知り合い?」

 

「ええ、戦友です」

 

 嬉しそうに笑いながら、私の質問にそう答えるルリルリ。

 やっぱり、いまいち理解出来ない・・・この娘。

 

 

 

 

 

 結局、そのヤガミ君の手紙を手に持ち、後の手紙は全て鞄に詰め込むルリルリ。

 確かに楽しそうだけど・・・楽しそうなだけであって、嬉しそうではない。

 どうやらヤガミ君はルリルリの想い人ではないようだ。

 でも、まるっきり関係無い人物でもなさそう。

 

 実に手紙の内容が気なる。

 授業中も隣の席に座っているルリルリが気になったけど、先生に注意をされて一時忘れる事にした。

 

 そして、昼になって・・・

 

「ルリルリ、お弁当食べよ」

 

「そうですね」

 

 私はお母さんに用意して貰ったお弁当

 ルリルリは居候先のお手伝いさんに作って貰ったお弁当だった。

 ・・・一度、ルリルリの居候先に遊びに行った事があるんだけど、あんな豪邸に入るのは躊躇いがあるわね。

 ルリルリは気にしてないみたいだったけど。

 

 それにしても、ルリルリも料理クラブに入って少しは料理の腕が上がってる筈なのに。

 早起きして自分の弁当も作れないのは、なんとも間抜けと言うか・・・

 

 おっと、今はそんな事を考えてる場合じゃなかったわ。

 

「ねえ、ルリルリ。

 今朝の手紙の人って、どんな関係なの?」

 

「ヤガミさんですか?

 そうですね・・・」

 

 私の質問に首を傾げ・・・考える事数十秒

 目の前の美少女が考え込む姿は珍しいだけに、私は手紙の主とルリルリとの関係の深さを意識した。

 

 しかし―――

 

「・・・どんな関係になるんでしょうか?」

 

「いや・・・だから、私がそれを聞いてるんだって」

 

 本気でボケてるの?

 いや、案外天然を装って逃げた?

 

 でも目の前でルリルリが未だ悩んでいる姿を見る限り・・・判断に苦しむわ。

 

「で、手紙の中身は読んだの?」

 

 このままでは昼食の時間が無くなると判断した私は。

 自分のお弁当をつつきながら、未だ熟考中のルリルリに声を掛けた。

 

「え?

 ああ、手紙ですか。

 待ち合わせの連絡と、ちょっとした予定変更の通知でした」

 

「随分、色気の無いラブレターね、それ・・・」

 

 手紙の内容を聞いて、私は食べかけのウィンナーを弁当箱に落とす。

 デートの誘いにしても、もう少し言葉を飾ってもいいものだろうに。

 それとも、ルリルリが要約し過ぎてるだけで本文は愛の言葉に満ち溢れてとか?

 

 ・・・ちょっと、想像出来ない。

 

 その時、私達の席に近づいてくる一人の男子生徒の姿があった。

 

「・・・イトウさん、ラブレターって聞えたんだけど?

 ホシノさんがまさか受け取ったのか?」

 

 真剣な顔で私を問い詰める男子生徒

 クラスメイトの一人で、名前はセガワ カズヒサ君

 剣道部の元主将で、背も高めのハンサムさんだ。

 ついでに言えば、家もお金持ち。

 

 受験の為に部活動は終っているけど、主将を努めただけあって人望も高い。

 で、注釈をすれば―――

 

「ホシノさん、本当に受け取ったんですか?

 もしかして、例の『彼氏』から?」

 

「・・・ラブレターじゃありません。

 こういう悪戯が好きな知り合いが、私には多いんです。

 このヤガミさんもそんな人の一人ですよ」

 

 険しかった表情が、ルリルリの返事を聞いて一気に緩む。

 むう、心底惚れ込んでるわね、カズヒサ君。

 

 ルリルリの転校初日から猛然とアタックを繰り返しているのが、このカズヒサ君だった。

 ルリルリの言っている『彼氏』の存在に負けない逸材である。

 校内でも有名なハンサム君だが、ルリルリ一筋の為に他に浮いた噂が無い。

 また、そんなカズヒサ君の想いに応えないルリルリを批判する女生徒が多い事も確かだった。

 

「ふ〜ん、そうなんだ。

 あ、そうそう、ホシノさん放課後一緒に帰らない?」

 

 話し掛けるチャンスを常に伺ってるカズヒサ君

 ここぞとばかりにルリルリにアプローチを開始した。

 

 ・・・私も、ルリルリと一緒に帰ってるんだけど、思いっきり忘れてるわね。

 

 私は視線でカズヒサ君を責めるが、当人はルリルリの返事だけに集中をしている。

 

「残念ですけど、私は今日は早退しますから」

 

「「へ?」」

 

 ルリルリの発言に、私とカズヒサ君の目が点になった。

 また脈絡も無しに何を言い出すかな、この娘は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2に続く

 

 

 

 

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