<剣士がささげる花束は・・・>



第二話 過去


1.昔の物語の始まりわ・・・

 抽選会も無事に終了し。(本当か?)
 剣士達は、自分にあてがわれた部屋へと、帰って行く。
 あたし達は、ガウリイの部屋に集まっていた。
 ガウリイは結局、エレナに自分が父親だとは、言わなかった。
 しかし、否定もしかったのだ・・・
「さて、ガウリイ説明してもらいましょうか。
 カールさんや、ソアラさん達の事。」
 あえて、エレナの事は触れずにする。
 詰め寄るあたしに、ガウリイは冷めた口調で言い返す。
「いいのか? 後から知りたくなかった、と言っても知らんぞ。」
 確かに・・・後悔するかも知れない。
 でも、何も知らずにはいられない。
 それが、あたしの正直な気持ちだった。
「覚悟は出来てるわ・・・始めて頂戴。」
 あたしの目を、しばらく見つめた後、ガウリイが静かに語り出す・・・
 自分の過去の話を、今巡り来た過去の因縁を・・・

 俺の名前は、ガウリイ=ガブリエフ旅の傭兵だ。
 実は、ある事情から実家を飛び出し、旅の傭兵になった。
 まあ、元々剣の腕以外、自慢できる物は無かったから仕方ない。
 しかし、剣の腕では誰にも負けない、自信があった。
 だが、剣の腕だけでは生きていけないのが、世間と言う物だ。
 結構痛い目にもあったし、ずるい生き方なども身に付けてきた。
 そんな中、戦場だけは俺を、俺らしくしてくれる。
 ただ、相手を倒す事のみを考える。
 ただ、ひたすらに殺し続ける。
 面倒な事は考えなくていい、ただ生き延びる。 それだけの世界。
 俺は、だんだん日常生活から離れていった。
 人との交わりが、一番苦手だった。
 そんな中で次ぎの戦場が決まった。
 トライムという領地と、隣のベーセルという領地の戦争らしい・・・
 戦争の原因なんて、俺にはどうでもいい事だ。
 ただ、俺が戦える場を提供してくれるなら、何処にでも行ってやる。
 そして、俺がトライムの傭兵部隊に入隊し、3ヶ月が過ぎた頃。
 ある、作戦行動の下準備をする為に、森の奥に入っていく。
 その時、右手前方から声が聞こえた。
 素早く身を隠し、聞き耳を立てる。
「へへへへ、お嬢様もう諦めちまいな!!
 ここまで来れば、もう助けは来ないぜ。」
「そうそう、諦めて俺達のアジトまで付いてきな!!」
「そこで、たっぷり可愛がってやるよ!!」
 どうやら盗賊が、少女を誘拐してきたらしい。
 そして、少女の悲鳴が聞こえる。
「嫌です!! 誰が貴方達の言う事など!!
 誰か!! 誰か助けて下さい!!」
 やれやれ、大声で助けを呼べば。
 誰かが必ず助けに来てくれると、思ってるのか?
 とんだ、お嬢ちゃんだ。
 ここは戦場なんだぜ? そんな所をうろつく、あんたが悪いんだろうが。
 そう思いながらも、ついバアチャンの遺言を思い出し、しゃしゃり出てしまう。
 俺にもまだ、人間らしい感情が残っていたらしい。
 苦笑をしながら、突然盗賊どもに襲いかかる!!
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」
 ザシュウゥゥゥゥゥゥゥ!!
 返す刀で、更に二人の盗賊の喉笛を切り裂く。
 戦場では、急所のみを狙う剣術が有効だ。
 確実に殺す・・・それには、型の綺麗さなど関係無い。
「き、貴様何物だ!!
 俺達がウエッジ盗賊団だと、知っているのか!!」
「・・・知らんな。」
 そのまま、勢いを殺さず更に三人に止めをさす。
 そして周りを見渡し、宣言する。
「残り15人か・・・三分あれば十分か。」
 その言葉に逆上する盗賊達。
「おもしれー!! 後悔させてやるぜ小僧!!」
 一斉に俺に襲いかかる盗賊達。
 そして三分後。
「さて、後二人か・・・こっちも忙しい身の上でな。
 さっさっと終らせてもらう。」
 間合いを無造作に詰めながら、最終告知をする。
「・・・兄貴逃げてくれ。
 そして、俺達の敵を討ってくれ。」
「し、しかし・・・」
「まかせたぜ、兄貴!!」
 そう言って、子分が俺に飛びかかって来る。
「適うと思ってるのか。」
「こうするのさ!!」
 子分は俺の剣を、自分の腹に刺し俺の動きを止める。
「ちくしょう!! ジーク、絶対に敵は討ってやるからな!!」
 最後に俺を睨んで、頭が逃げて行く。
 まあ、いいだろうさして脅威にはなるまい。
「あの、有難う御座いました。
 失礼かもしれませんが、お名前は。」
 俺が助けた少女は、黒髪黒眼のかなりの美少女だった。
 これが、俺とソアラの出会いだった・・・

 その後は、自分の名前と所属部署を名乗り。
 彼女は自分が領主の娘、ソアラだと名乗った。
 さすがに少し驚き、何故戦場に一人でいたのか聞いてみる。
 すると、先日城の周りを散歩中に、盗賊団にさらわれたらしい。
 そして俺に出くわすとは、運の悪い盗賊団だ。
 そしてソアラを、トライム陣営に送り届け別れた。
 その二日後、トライム領主から俺に感謝状と、城への召喚状が届いた。
「君がガウリイ君かね、若いのに大した剣の使い手らしな。
 娘が世話になった、私がトライムの領主イアン=トライムだ。」
 なかなか、気さくな人物らしい。
「ガウリイ=ガブリエフです。
 先日は、ソアラ様が領主様の御息女とは存ぜず、失礼致しました。」
 形式に添った礼を返す。
「まあまあ、そう固くならなくてもいい。
 実は、お礼を兼ねて頼みたい事がある。」
「・・・どの様なご用件ですか。」
「君に、私の息子と娘の護衛を頼みたい。
 なるべく年の近い者の方が、子供達も気が休まるだろう。
 それに君は、盗賊団20人相手に一人で勝てる男だ、なかなかの逸材だよ。」
 始めは断るつもりだった。
 しかし領主の後ろから、俺を覗く2対の黒眼に。
 何故だか反対の声を、押し切られてしまった。
「・・・解りました、勅命承ります。」
「ああ、それから子供達相手に敬語はいらない。
 年の近い者同士、友好を深めてくれたまえ。」
 本当に軽い領主だな。

「初めまして、カール=トライムだ。
 これから宜しく頼むよ。」
「先日は有難うございました、改めてお礼申し上げます。
 ソアラ=トライムです、これから宜しくお願い致します。」
 カールは父親に似て、気さくな奴らしい。
 ソアラは母親似なのだろう。
 ちなみにカール達の母親は、既に他界している。
 そのカール達の後ろに、もう一人少年がいた。
 俺とそんなに、年は変わらないだろう。
 俺の視線に気がついたのか、ソアラが少年を紹介する。
「彼は私達の幼馴染で、デールと言います。
 彼も私達の護衛の一人です。」
「そうか、よろしくな。」
「ええ、お噂話はよく聞いております。
 こちらこそ、よろしくお願いします!!」
 弾んだ声で返事をする。
 何が嬉しい?
 (後で聞いた話によると、俺は少年剣士達の憧憬の的だったらし・・・)
 まあいい、俺は俺らしくやるだけだ。
 そして俺にとって、久しぶりの心休まる日々・・・

 そして半年後、戦争は一時休戦状態になっていた。
 その年は、トライム剣戟祭の年でもあった。
 俺はトライム剣戟祭も、目的の一つだったのだが・・・
 生憎まだ二つ名を貰うほど、有名ではなかった。
 その年の剣戟祭は、相変わらずカールやソアラの護衛をしていた。
 しかし、何処の世界にも権力者に近づく者を、快く思わない者はいる。
 一度など、貴族の息子に決闘を申し込まれた。
 なかなかの腕だったが、所詮戦場を知らない剣・・・
 手加減はしたつもりだが、かなりの深手を負わしてしまった。
 ・・・まあ、自業自得だ。
 その頃には、デールの視線は憧憬から、崇拝に変わっていた。
 疲れる奴だ・・・まあ、弟とはこういう物かもな。
 そう考える辺り、俺も少しは丸くなっている。
 やはり、カールやソアラ、そしてデールが俺の心の氷を、少しずつ溶かしていったのだろう・・・
 そして、悲劇は幸福な時間を引き裂いて、やってくる。

 もうすぐ春も近い、ある日の深夜・・・
 その不幸の使者はやってきた。
「ご、ご領主がアサシンに殺害されたそうです!!」
 俺の身の周りの世話をしてくれている男、ジンが血相を変えて俺の部屋に入ってくる。
「何!! それは本当なのか!!」
 ベッドから跳ね起き、ジンに聞き返す。
 珍しく動揺する自分に、改めてイアン=トライムの存在の大きさを知る。
 素性も知れぬ俺を信頼し、大切な息子達を俺に任した男・・・
 そして、俺に人の戻る切っ掛けをくれた男だ。
「カールやソアラ達はどうした!!」
「お二人はもう、当直の守護兵達に匿われております!!」
 取り敢えずは一安心か・・・
「・・・ご領主の部屋に行く。」
「お気をつけて・・・」
 ジンに見送られ城に赴く。
 ご領主の部屋には、既にカールと守護兵達がいた。
 青い顔をしているが、動揺は見当たらない。
 お気楽そうに見えても、芯は強い男だという事は、俺が良く知っている。
「ガウリイを残して、皆出て行ってくれ・・・」
 その言葉に、異論を唱える守護兵達。
「し、しかし、もしまたアサシンが出たら!!」
「ガウリイ一人と、お前達全員ではどちらが強いのかな?
 それにこれから、ガウリイに父上の遺言を、伝えなければならないんだ。
 頼むから場を離れてくれ・・・」
 その言葉に、沈痛な面持ちで部屋を立ち去る守護兵達。
「・・・それで、主犯はやはり。」
 俺がカールに問う。
「ああ、間違い無いだろうベーセルの狸爺だ。
 どうやら、父上より俺の方が組し易しと、見たらしいな。」
 カールの目には、本気の光があった。
「では、休息の時間は終りだな。」
「ああ、アサシンを使って領主を殺した卑怯者として、宣戦布告してやる。」
「しかし、証拠がないぞ?」
「そんな物、幾らでもでっち上げてみせるさ・・・」
 やはり大した奴だ。
 そして、再び動乱の嵐が吹く・・・

 開戦して早二ヶ月が経った。
 戦況はトライムが有利だが、収穫期が近い為、早期の決戦が必要だった。
 そして、俺はある覚悟を決めた。
 これは、前領主イアン=トライムに対する、俺の感謝の気持ちだ。
「カール、一つ提案がある。」
「・・・解っている、収穫期までには俺もこの戦いを、終結させるつもりだったからな。
 ただ、お前に負担をかけたく無かった。
 ソアラやデールにも恨まれるしな。」
 俺の考えなぞ、お見通しか。
 思わず苦笑をしながら、言い返す。
「なら、せめて50人は欲しいな。」
「駄目だ、お前に付けられるのは・・・せいぜい20人程度だ。」
 苦しそうに言葉を紡ぐカール。
「十分だ、城内ではどちらにしろ俺一人で、潜入するつもりだからな。」
 それを聞いて、大声で笑うカール。
「わっはっはっはっ!! 一人で城取りか!!
 お前でなければ空絵事だな、解ったなるべく沢山の敵を引き付けておく。」
「ああ、頼んだぞ・・・決行は明日だ。」
 そう言って帰ろうとする俺に、背後から声が掛かる。
「・・・死ぬなよ。
 俺は、ソアラやデールの悲しむ顔は見たく無い・・・」
 その言葉に、軽く答える。
「当たり前だ、まだ報酬も貰ってないからな。」
 そして、俺達は分かれた。

「まさか、一人でここまで辿りつくとはな・・・
 小僧貴様何者だ。」
 目の前に、騎士団の団長らしき男と太った中年の男。
 中年の男がベーセルの領主だろう、豪華なマントを着ている。(全然威厳は無いがな。)
「・・・別段名乗る程の者じゃない。
 ただ、自分の信念の為にここにいるだけだ。」
 俺も既に限界だった、ここに辿り付くまでに軽く40人は倒している。
「今日の決戦告知は、この為の布石か・・・俺が残っていて正解だったな。」
 頭が回る奴がいたらしな。
 しかし、今は自分の目的を達成するのみだ。
「御託はいい、いくぞ。」
 そう言い切り、敵に向かい最後の力を振り絞る。
 ギャン!!
 ダキュン!!
 切り返し、体捌きで攻撃を避け、そして反撃・・・
 俺の限界を待っているのだろう、敵は積極的に攻撃をしてこない。
 このままでは・・・
 その時、敵の領主が俺達の戦いに恐れをなし、逃亡を計る。
「ご領主!! 駄目ですむやみに動かないで下さい!!」
 隙有りだ、愚かな主人を持った自分を悔やめ・・・
 ゾォン!!
「ぐはっ!!」
 敵の脇腹に一撃を叩き込む。
 そして、領主の方に向かって歩き出す。
「ま、待て!! まだ俺は倒れていない・ぞ・・」
 後ろで人が倒れる音がする。
「ひいっ!! 誰か助けてくれ!!」
 逃げ出す領主を追って、部屋を飛び出す。
 そして、遂に領主をテラスに追い詰める。
「お、お願いだ!! 金なら幾らでも出す!!
 地位や名誉も欲しいままだ!! だから助けてくれ!!」
「なら、トライムの前領主イアン=トライムを返して貰おう。」
「そ、そんな事出来る筈ないだろう!!」
「じゃあ、さよならだ。」
 ヒュン!!
 軽い音を立てて、ベーセル領主の首が飛ぶ・・・
 そして、この二つの領地の戦いは終えあった。
 ただ、心残りなのはあの騎士団長の死体を、確認出来なかった事だった。

「この戦争を終結に導き勇者、ガウリイ=ガブリエフに二つ名を与える!!
 その二つ名は『ソードマスター』なり!!」
 カールの宣言が終る。
 ワアァァァァァァァァァァ!!
 歓声で大地が鳴動する。
「おめでとう御座いますガウリイさん!!」
 デールが、まるで自分の事の様に喜んでいる。
「ああ、有難う。
 これで、剣戟祭にも出場出来るな。」
「ええ、ガウリイさんならきっと優勝できますよ!!」
 そして、この剣戟祭がこの夢の終焉でもあった・・・

 そして、季節は巡り俺がトライムに身を寄せて、3年の月日が経った。
 この年の剣戟祭に、俺は出場した。
 順調に勝ち進む俺に、周囲は否が応にも盛り上がっていった。
 そして、決勝を明後日に控えた俺に、ソアラが訪ねてきた。
「・・・ガウリイ様、ソアラはガウリイ様の事を、お慕いしております。」
 ・・・ソアラは輝くばかりの、美少女になっていた。
 始めて会ってから3年・・・彼女は大人の女性へと、変貌していた。
 憎からず思っていた。
 その内面の輝きに、少なからず惹かれてもいた。
 そして俺は・・・彼女の陰に気付くほど、大人では無かった・・・
 ソアラと一夜を共にし、彼女の寝言を聞いてしまう。
「デール、何故なの・・・」
 そして彼女の頬を伝う涙を見て、俺は自分で自分の居場所を壊した事を知った・・・

 そして、決勝戦。
 相手はトライムの守備隊長でもあり、鉄壁の二つ名を持つダラス=エラール。
「勝負・・・初めい!!」
 審判の合図で、お互いに鍔迫り合いに持ち込む。
「・・・ガウリイよ、貴様ソアラ様を・・・」
「・・・ああ、抱いた。
 そして、自分の居場所がここに無い事を知った。」
「ふざけるな!!」
 力まかせに押し切られる。
 そして、素早い斬撃が俺を襲う。
「貴様は!! 貴様を慕う領民や、カール様の心までも裏切るつもりか!!」
「ああ、だからこそ俺はここを出る。」
「それで、この領地から出る言い訳はなんとする!!」
 お互いに、相手の攻撃を避けながらの口論。
 観客には、ただの剣と剣の戦いにしか見えまい。
「では、どうすればいい。
 俺はソアラの本当の気持ちを、知ってしまった。
 ならばこそ、デールやカールに会わす顔が無い・・・」
 悔しい事に、この問題に剣の力量など関係ない。
 ただ、自分が所詮ただの若造だと言う事を、再認識するのみだ。
「一つ賭けをしよう。
 俺が貴様を殺せば、それで話は収まる。
 しかし、貴様が俺を殺せば・・・貴族殺しは重罪だ。
 貴様は領地追放罪になるだろうな。」
 その言葉を聞いて、思わず相手の目を凝視する。
 本気の目だった。
「俺は、息子と共に貴様に感謝もしている。
 戦争が早くに終結したのも、貴様がいたからこそだ。
 だからこそ、生き残れそして罪を償え。
 そして、俺はイアン様を守り切れなかった罪を、今償おう。」
「・・・・・」
 悲しかった、苦しい程に。
 悔しかった、自分の未熟さが。
 滑稽だった、たいそうな二つ名を持つ自分が。
 そして、愚かな俺の生への執着が。
 ダラスの体に、致命傷の一撃を送る・・・
 ズン!!
 心臓への一撃を受け・・・微笑ながらダラスは倒れる。
 俺に遺言を残しながら。
「俺の様な生き方はするなよ。
 もっと世間を見て、もう一度贖罪に来い『ソードマスター』よ・・・」
「父さん!!」
 一人の青年が、ダラスに駆け寄る。
「何故!! 何故殺したんです!!
 貴方の腕前なら、急所を外せたはずです!!」
 そう泣き叫ぶ青年に・・・俺は何も言えなかった・・・
「どうして、何も言い訳されないのですか!!」
 無言で立ち去るしか、俺には何も出来なかった。
 そして、青年の口調までもが変化する。
「貴様は忘れても俺は忘れん!! 一生忘れんからな!!
 デリス=エラールの名を、いつか思い知らせてやる!!
 必ず貴様に罪を償わせてみせるぞ!! ガウリイ=ガブリエフ!!」
 その声が俺を責め、俺に自分の未熟さと愚かさを刻み込む・・・
 ダラスは死に場所を求め・・・俺は、贖罪の時を求める・・・

「何が不服なんだい、あんた。
 男が望む物を、全て手にいれたじゃないか。」
 部屋を出て行く俺に、ジンが話かける。
「確かにダラスの事は、不幸な事故だったさ。
 でも、あんたがしてきた事に比べれば、まだ許される事じゃないのかい?」
 ああ、俺の罪に比べれば、俺の功績など意味が無い。
「世話になったな・・・」
 相棒のなじるよ様な眼差しを、背に受け街を出て行く。

 街外れに一台の馬車が止まっていた。
 そして、馬車の陰からは・・・カール、ソアラ・・・
「ガウリイ様、私と罪・・・どちらを選ばれますか?」
「罪・・・だ。」
「やはり・・・私を選んでくれないのですね。」
 少女は、長い髪で顔を隠す様にうつむいて、俺の背中にそう言った。
「君が好きな男はデールだろう、何があったか知らんが。
 俺はデールにはなれない・・・それが答えだ。」
 彼女の顔を直視出来ないまま、俺は言い募る。
 そして、彼女の横を通りぬけ。
 カールの声に呼び止められる。
「今は、お互い時間を置こう。
 だから逃げる事を許す。
 しかし、必ず戻って来い・・・お前は俺の友であり、この街の英雄でもある。」
「こんな俺を友だって?
 聞いたんだろ、デールとソアラに俺が何をしたか。」
「過去に犯した罪は、償うべき物だ。
 そして、お前がその罪に一番苦しんでいる事を、俺は知っている。
 ソアラの軽はずみな行動もな・・・
 だからこそ、何時の日か必ず贖罪に戻ってくるんだ。」
 そのカールの励ましの言葉を聞きながら。
 俺は、トライムの地をたった・・・
 己の罪を噛み締めながら・・・



2.そして今へ・・・

 ガウリイの告白を聞きながら、ずっと思っていた事を聞く。
「あたしは、ソアラさんの贖罪代わりだったの?
 あたしの保護者をしていたのは、結局守りたくても守れなかった、彼女の替わりだからなの?」
 あたしの質問にも、苦い顔のままのガウリイ・・・
「はっきり言ってよ!! あんたにとって!! 一体あたしは何なのよ!!!」
 口調が激しくなる、それだけあたしは動揺していた。
「初めは、そうだったかもしれない。
 だが、それは・・・」
 最後まで聞かず、あたしは部屋を飛び出した。

「おい旦那!! リナを追いかけないでいいのか!!」
 俺は、沈痛な表情のガウリイに詰め寄る。
「・・・今の俺には、リナに掛ける言葉が無い。
 それに、リナはこれ位で自暴自棄にならんさ・・・」
 暗い瞳でそう答えるガウリイ。
「見損なったぜ、旦那!!」
 俺はガウリイの頬に一撃を叩き込み。
 リナを追って部屋を飛び出す。
「そう、まだ俺の贖罪は始まったばかりだ・・・」
 ガウリイの呟きを、背中で聞きながら・・

 リナは自分の部屋の、テラスにいた。
 そして夜空を見上げている。
 泣いているのか、あのリナが!!
 そして後ろを向いたまま、俺に話しかける。
「・・・ねえゼル、あたしも子供じゃない。
 ガウリイにも、過去はあるわよね・・・
 どんな過去にしろね。
 それに聞き出したのは、あたしだしね。」
 今は俯きながら、俺にそう答える。
 その背中を見る限り・・・泣いているのだろう。
 リナも初め、ガウリイを無条件で信じてたわけじゃない。
 しかし、あの数々の戦いで見せたガウリイの態度が。
 リナにガウリイに対する、信頼を生んだのは確かだろう。
 ガウリイはいつも、必死でリナを守ってきた。
 ガウリイは贖罪として、リナを守ってきたのだろうか?
 罪の意識だけで、リナと高位魔族との戦いに手を貸していたのか?
「ガウリイは、過去を清算すると言ったわ。
 わたしは、最後まで見届けようと思う。
 それが、今まであたしの保護者をしてくれた、ガウリイに対する礼儀よ。
 ガウリイも待っていてくれ。
 とは言ってないけど、帰れとも言ってないからね。
 そして、最後にガウリイの真意を聞きたいの。」
 ・・・リナも子供じゃない、そんな考えも出来る様になったか。
 そして、リナがそう出る事も、ガウリイは知っていたのだろう。
「でもね、やっぱりガウリイがあたしを見てたんじゃなくて。
 あたしを通して、ソアラさんを見てたと思うと・・・」
「リナ・・・」
「ごめんゼル、ちょっと出て行って・・・
 リナ=インバースは、ガウリイ=ガブリエフの前以外では、人前で泣けない・・・の。」
「ああ、解った・・・」
 部屋の外に出て扉を締める。
「旦那・・・あんたはやっぱり罪作りな男だよ・・・」
 季節は冬から春へと、移り行く中。
 俺達の迷走は始まったばかりだった。



第二話 過去     END

                               第三話  激戦  に続く

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