<剣士がささげる花束は・・・>



第四話 決着

1.心配事

 トライム剣戟祭も次から後半に入る・・・
 ガウリイの戦いは、これからも激しくなるのだろうか。
 どうしてここまで、彼等の過去に付き合うのだろう。
 自分も傷つき、彼等を傷つけながら・・・
 それ程に、過去を忘れられず・・・
 殺したい程に、ガウリイを追い求める彼等・・・
 自分の執念と誇り・・・
 その想いを満たす為に、彼等はガウリイと戦った。
 本当は、ガウリイを恨んでるわけじゃなかった・・・
 ただ、自分の生き様と価値観を、ガウリイに否定され。
 ガウリイが、正しい事を知りつつ・・・
 人は急には変われない、それが間違いとしても・・・
 孤児だったトムは、盗賊にならなければ生きて行けないと思った。
 だから盗賊になった、兄弟と共に・・・
 そして、その選択の間違いをガウリイに思い知らされた。
 弟と、仲間達の死と引き換えに・・・
 所詮、自分のやっている事と。
 領主達がやっている事が、一緒だと気づく・・・
 自分は、弟を仲間達を見殺しにした。
 自分一人が助かり、やり直すにしても。
 弟と、仲間達にケジメをつけておきたい・・・
 その執念が、トムにとっての贖罪だったのだ。
 あの日、逃げ出したガウリイに立ち向かう事が。

 クリス・・・彼は貴族という立場上、戦場に立つ事など無い筈だった。
 しかし、ガウリイという異質な存在と出会い。
 自分の価値観を壊され。
 自分の全てを、自己否定してしまった。
 その代償に片腕を失い、また誇りも失った。
 そんな彼が、誇りを取り戻す為に傭兵になり。
 全てを捨て去ったのは、本当に彼が誇り高い男だったからだろう。
 ガウリイの世界に触れ、ガウリイに近づき。
 ガウリイを倒す事だけを求めた・・・
 そして、自分の無知を知り。
 世間を知った。
 ガウリイの言葉どうりに、貴族の世界しか知らない自分。
 自分の無知を恥じ、そしてその誇りを取り戻す為。
 彼は、ガウリイともう一度貴族ではなく、一人の傭兵として戦った。
 そして自分の誇りを取り戻す事が、無知だった自分に対するケジメ。
 だからガウリイと戦う、自分の過去を越える為に。

 彼等は、ガウリイにその事を伝えたかっただけ・・・
 過去の自分を壊し、新しく生きる為に。
 それは、言葉ではなく・・・命での会話。
 あの、戦闘の合間に彼等は、過去の自分と対話し。
 ガウリイに、自分の過ごした年月を語る。
 その事にガウリイは気付いた・・・
 だから逃げない、自分が全ての始まりだから。
 彼等は自分達の為。
 ガウリイも、自分の贖罪の為に戦っている。
 そして、ガウリイとその過去を抱える人物は後二人。
 彼等は、何の為にガウリイとの戦いを望むのだろう・・・



2.我、意地の両刃を

 控え室で、ガウリイの怪我の手当てをしながら伝える。
「ガウリイ、第七試合の相手が決まったわよ。」
「そうか、まあ予想は付くけどな。」
 気軽に答えるガウリイ。
 ・・・出来ればこんな事、もう止めて欲しかった。
 彼等とガウリイの、過去の確執は解っているつもりだ。
 だけど、話し合いではなく。
 お互いの、命のやり取りでしか、解決できないのか。
 この戦いが始まってから、ずっとそう考えていた。
「ねえ、ガウリイ。
 どうして彼等と、話し合いで解決しようとしないの?」
 あたしの質問に、ガウリイが笑って答える。
「話し合いでは、真実を掴めない・・・
 そんな不器用な奴等の、あつまりだからさ。」
 そう言いながら、控え室を出て行くガウリイだった。

 廊下で、エレナとソアラさんに出会った。
「ガウリイ様・・・まだ戦うんですか。
 もう怪我をする所を、見たく無いのに。」
 泣き顔でそう訴えるエレナ。
「エレナ、ガウリイ様を困らせる為に、ここに来たのじゃないでしょう?」
 優しくエレナをあやすソアラさん。
 やっぱり母親なんだな・・・
 そして、父親は・・・
「エレナ、約束しただろう?
 この大会が終わるまで、俺を応援してくれるって。
 だから安心して待ってな。
 きっと優勝してみせるから。」
 エレナに微笑みながら答えるガウリイ。
 そして、ソアラさんにそっと呟く。
「必ずあいつを止めてみせる・・・」
「・・・お願い致します・・・」
 あたしの耳は、その言葉を聞き取った。
 しかし、内容を聞き出せる状況ではなかった。

「それでは、第七試合を開始します!!
 本日最後の試合です!!
 そして勝者は、Aサイド代表としてBサイドの代表と、戦ってもらいます!!」
 司会の言葉が、夕暮れ間近の闘技場に響き渡る。
 そして、ガウリイと・・・双剣のラバールが現れる。
 あたしの予想では、この人はガウリイの過去に出てきた、あの・・・
「俺の名前はラバール=キーソン、やっと会えたなガウリイ・・・」
 遠い目で、ガウリイに話し掛けるラバール。
「そういえば本名は初めて聞くな。
 元ベーセル騎士団団長、やはりあの時の復讐にきたのか?」
 軽く答えるガウリイに、ラバールは笑い返す。
「フッ、負けるべくして、負けた戦争だった・・・
 元々非はこちらにあった。
 ただ、俺は主君を裏切るわけにはいかん。
 その為に騎士団が壊滅しようとも・・・な。」
 自分のシンボルを型どった、ペンダントを胸元から手に取る。
 そう、ラバールのシンボルは壊滅した彼の騎士団の物。
「そして、その騎士団を一人で壊滅においやった男。
 ガウリイ・・・貴様は貴様の信念で、俺の前に立った。
 しかし、俺は自分の主君を守り切れなかった。
 これは俺の意地だ、主君を倒された騎士団団長のな。」
 そう、騎士団を壊滅され、その上主君を倒される・・・
 騎士団団長の意地は・・・全て壊された。
「しかし、貴様を恨んでいるわけではない。
 ただ、純粋に剣士として貴様に挑む。
 あの時の決着を付ける為に!!」
 ラバールは、あの時の決着に不満をもっていた。
 領主さえいなければ、勝負はわからなかった・・・
 そう思えて、仕方がなかったのだろう。
 そして、その勝負を改めて行う為、ここにいる・・・
 
 ザザザッ!!
 ヒュンヒュン!!
 キィィィン!!
 激しく襲い掛かる二つの刃に、果敢に攻め入るガウリイだが・・・
 いかせん隙が見当たらない。
 攻防一体。
 その言葉どおりの剣技を、披露するラバール。
 左手の剣で、ガウリイの攻撃を受け止め。
 右手の剣で、攻撃を繰り出す。
 ガウリイは、自分の動きを止めるわけにはいかず。
 常に移動を強いられている。
 これでは、さすがのガウリイにも限界は近い・・・
 そして、その時はやってきた。
 ザシュウ!!
「くっ!!」
 左足を切られ、大きく後退するガウリイ。
 動けなくなる傷では無いが、確実に機動力は落ちる・・・
「どうしたガウリイ!!
 貴様の実力は、こんなものではないだろう!!」
 いまだ余裕を見せる、ラバールに対して。
 ガウリイは既に、肩で息をしている状態だ。
 それでも、再び激戦は始まる・・・

 元から分の悪い戦いだったのだ。
 ただでさえ、ガウリイはクリスとの死闘を、終えたばかりだ。
 そこに来て、このラバールでは幾らガウリイでも・・・
 ズサッッッ!!
 攻撃を受け止めきれず、吹き飛ぶガウリイ。
「ここまでなのか、ガウリイ?
 あの時の貴様の目は、もっと純粋に戦いを楽しんでいたぞ。」
 そう言いながら追撃をする、ラバール・・・
 最早動きの鈍くなったガウリイに、閃光の一撃を送る!!
 そして、それは来た・・・
 ガウリイの闘気が殺気へ、殺気が鬼気へと変わる!!
「ガッアアアアアア!!」
 早い!!
 既に限界だと思われたガウリイが、ラバールの目前から消失する!!
「何!!」
 勘でガウリイの移動先を感じ、急いで右手の方を向くラバール。
 しかし、ガウリイはその反応を凌駕する!!
「ウォオオオオオッッ!!」
 雄叫びと共に、先程とは比べ物にならない速度で剣光が走る!!
「な、なんのこれしき!!」
 その攻撃を、何とか捌く当たりラバールも、並みの剣士ではない。
 しかし、相手が悪かった・・・
 ギャインンンン!!
「何だと!!」
 ラバールの、左手の剣が折れ飛ぶ。
 さらに続くガウリイの斬撃に、全身を紅に染めるラバール!!
 最早、右手の剣だけでは捌く事は不可能な、ガウリイの攻撃だった。
 大きく剣を振り、ガウリイを牽制しながら間合いを広げるラバール。
「これが、これが貴様の本気か!!
 俺では、貴様には勝てんのか?
 ・・・しかし!! 最後の意地は見せてやる!!
 こい,ガウリイ!!
 俺の意地の一撃、受けてみろ!!」
 その言葉に反応する様に、表情を変えずラバールに突撃するガウリイ。
 そして・・・
「がっあぁぁぁぁ!!」
 ガウリイの右上段からの一撃を、避ける様子も見せず。
 自らの身体で受け止め、自分も右上段の一撃を繰り出す!!
 ラバールの狙いは相打ち。
 自分の身体を囮に、ガウリイの動きを止めたのだ!!
 しかし・・・崩れ落ちたのは、ラバールのみ。
 そして倒れ伏した顔を上げ、ガウリイに呟く。
「そう・・か、これがあの時の結果か。
 結局、俺は貴様に勝てなかったのだろうな。
 あの領主様だけの、せいではなく。
 やはり、我軍は負けるべくして、負けたか・・・
 すまんな、ガウリイこんな過去の意地に、付き合わせてしまって・・・」
 静かになった、ラバールを見下ろすガウリイ。
 ガウリイは・・・
 ブレストアーマーを大きく切り裂かれ、胸に大怪我を負ったが立っていた。
 無事・・・だったんだ。
 この試合は、余りに際どすぎた・・・ガウリイの、陰の部分を引き出す程に。
 ガウリイは、あの状態の自分を、どう思ってるのだろう。
 今のガウリイからは、何の表情も覗えられなかった。
 そして、静かに勝利宣言をし。
 控え室へと引き上げていく。
 ・・・彼の背中は、何故か泣いている様に見えた。



3.我、贖罪の・・・

「ガウリイ!! 怪我は・・・」
「来るんじゃない!!」
 珍しいガウリイの怒鳴り声に、あたしは驚いて立ち止まる。
「・・・お願いだ、少しの間ほおっておいてくれ。」
 やはり背中を向けたまま、ガウリイが答える。
「・・・嫌よ、貴方いま自己嫌悪で何するか解らないもの。」
 あたしの言葉に、肩を震わすガウリイ。
 そして、やっとあたしの方に顔を向ける。
「・・・遂に、飲み込まれちまったよ。
 あの時・・・心から、死ね無いと思った。
 嫌、死にたく無いと願った。
 だから・・・もう一人の俺は目覚めたんだ・・・」
 どこか虚ろな目で、呟くガウリイ。
「あの姿が、戦場での貴方だったの・・・」
「ああ、ただ殺す事を考え。
 ただ、生き残ることを優先する。
 ただの殺戮人形。
 もう一人の俺・・・心の奥底にいる、生存本能の塊さ。」
 戦場で生きていく為に、優しいガウリイが作り出した、もう一人のガウリイ・・・
 その実力は凄まじく・・・あの、ラバールを軽く圧倒した。
 だが、あのガウリイは・・・
 あたしのガウリイなんかじゃない!!
「次も、ガウリイは勝てる自身はあるの?」
 自分自身と、そして多分勝ち上がって来るであろう、あのデリスに・・・
「正直な所・・・解らん。」
 複雑の表情で答えるガウリイ。
「でも、有難なリナ・・・
 お前さんがいてくれて、本当良かったよ。
 確かにあののままの俺じゃ、何を仕出かすかわからんからな。」
 やっと、普段の顔に戻ってガウリイがそう言う。
 そんなガウリイに近づき、傷口にリカバリィをかける。
「・・・あたりまえでしょ、あんたを心配してるのは、あたしだけじないんだから。」
 そう、控え室の扉の前に人の気配感じる。
 多分、ソアラさんだろう・・・でも、今だけはガウリイを独占していたかった。
 ガウリイは、何も言わなかった。
 ただ黙って、あたしの治療を受けていた・・・
 そして、ソアラさんの気配が扉から消えた。

 デリスが、Bサイドで優勝した事を知ったのは、次の日の昼だった。

 そして、トライム剣戟祭最終日。
 決勝戦は、雪の降る寒い日だった。
「まさか、雪の降る日に決勝戦とはね・・・」
「風流で、いいじゃないのか。」
 と、ゼルが答える。
「・・・寒いのは嫌いなのよ。」
 そして、今日の決勝戦の事を思う。
 ガウリイは控え室で、あたしに言った事を思い出す。
「デリスは、昔の俺に近づく為に戦場の戦鬼になった・・・
 今なら・・・まだ間に合う。
 しかし、今の俺では勝つのは難しい。
 だが、またあの時の様になれば・・・」
 苦悩がありありと見える。
 それ程、手強い相手なのだろう。
 そして、ガウリイはあの戦鬼には、なりたくないのだ・・・
 でも、デリス相手にそれは難しい。
 なら、あたしが言える事は一つだ。
「しっかりしなさいよ、ガウリイ!!
 もう一人のあなたも、ガウリイである事に変わりはないんでしょう。
 なら、否定するんじゃなくて、認めなさい。
 そして、逆に利用ぐらいしてみなさいよ!!」
 あたしの激に、驚いた顔をするガウリイ。
 そして、明るい笑顔で笑う。
「ああ、そうだな。
 それに、これは俺が始めた戦いだしな。」
 吹っ切れたのだろう、明るい声で話す。
「リナ・・・有難う。
 やっぱり、お前さんじゃないと俺は駄目だな。
 さて!! 最後の決着ってやつを、つけてくるか。」
 そして、ガウリイは闘技場に向かっていった。

 今から、ガウリイの最後の戦いが始まる。
 考えてみればあたし絡み以外で、自主的に戦うガウリイを見るのは、これが始めてだった。
 ガウリイは本当は、争い事が嫌いなのだ。
 その優しさ故に、人を傷つける事を恐れている。
 しかし、戦場でしか生きていけなかった時に。
 もう一人の自分を作った・・・
 そして、その自分を元の自分に戻してくれた、このトライムの人々。
 そして、その人々を裏切った自分・・・
 ガウリイが、自分を許せないのは解る。
 そして、その贖罪の最後の仕上げがこの決勝戦だと・・・ガウリイはあたしに言った。
 でも、それではエレナとソアラさんは、どうするのだろう?
 ・・・今は、この決勝戦のガウリイの無事を、祈るだけにしよう。
 そう、全てはこの決勝戦が終わってからだ。

「ただ今より、第50回トライム剣戟祭決勝戦を始めます!!
 それでは、決勝戦を前にトライム領主カール様より、お言葉を頂きます。」
 紹介の後、貴賓席からカールさんが現れる。
「このトライム剣戟祭の、最後を飾るに相応しい剣士達よ。
 貴公達の戦い、このカールが最後まで見と届ける!!
 その思いのたけを、全てぶつけるがいい。」
 ・・・すごく、個人的な事を言ってないか?
 周りの人達も、少し不思議そうな顔をしている。
 しかし、カールさんの顔は真剣そのものだった。
 ・・・カールさんにも、辛い戦いなのだろうこの決勝戦は。
 そして、ガウリイとデリスお互いの思いが語られる・・・
「やっと、やっとここまで来た。
 長い道のりだった、髪は銀に染まり。
 夜毎、殺した人々の声に悩まされ。
 この手の血糊は、決してとれる事は無いだろう・・・」
 デリスの静かな声が響く・・・
「ああ、それが俺が辿って来た道だ・・・
 何処にも救いは無い、ただ己を責めるだけの日々。
 自分が自分で無くなっていく感覚。
 何故、そこまでお前は自分を追い詰めた?
 お前には、もう彼女・・・」
 突然!! 剣撃がガウリイを襲う!!
「そこから先は他言無用だ。
 これは、俺の贖罪の戦い。
 最後まで付き合ってもらうぞ、『ソードマスター』」
 そして、最後の戦いは始まった。

 シャンシャンシャン・・・
 細かい粉雪が降りつもる、静かな闘技場の観客席に。
 そして、観客達の目は闘技場の二人から離せなかった。
 お互いが、足場の悪さなど関係無く。
 ただ流れるように・・・
 踊る様に剣を繰り出し・・・
 舞う様に攻撃を避ける・・・
 その二人の剣舞に、粉雪が周りを舞いさらに彩る。
 素直に綺麗だと思った。
 金と銀の髪が踊り、白の雪が周りを舞う・・・
 その合間に、閃き続ける銀の閃光。
 デリスは、これは贖罪の戦いと言った。
 ガウリイも、これは贖罪の戦いだと言った。
 お互いに、贖罪の対象は同じかもしれない。
 ふと、そう思った。
 しかし、ガウリイの話ではデリスは父親の敵討ちに、来たのではないのか?
 その疑問の答えも、この決闘の果てにあるのだろうか?
 まだ、あたしの知らない事情があるのだろう。
 そう、あたしでは立ち入れない彼等の事情が・・・
 シュイィィィィィン!!
 シャキィィィィィィン!!
 キャンッッッ!!
 歌うような、剣と剣のぶつかり合い。
 お互いの思いを、語り合う様な剣舞。
 彼等は今、何を思う?
「ガウリイ・・・お互いに譲れぬ物がある。」
「ああ、そうだな・・・」
 すこし間合いを開けて、デリスが囁きガウリイが答える。
「・・・貴様も、これが贖罪だと言う。
 しかし、真実を知った俺には、不要な事だと思わんか。」
 デリスの声に、少しずつ感情がこもりだす。
 そう、絡まった糸が解きほぐされる様に・・・
「この贖罪の終わりは・・・デリス、いやデールお前を救う事だ。」
 ガウリイの思わぬ言葉に、あたしは驚愕した。
 デール? あのデリスが!!
「そうです、デリス・エラール・・・愛称がデール。
 私達の大切な人。
 そして私の夫であり、エレナの父親です。」
 あたしの席に、歩み寄ってきたソアラさんがそう話し出す。
 その顔は、悲しみに満ちていた。
「私は、一体どれ程あの人達を苦しめたのでしょう。
 私自身の我侭と、愚かな見栄の為に・・・」
 彼女の言葉には、後悔の二文字しかなかった。
「どういう事ですか?
 それに、何故デリスが父親だと、エレナに教えてあげなかったのですか。」
 自然、詰問する口調になるあたし。
「・・・言えません。
 自分を捨てて、戦鬼になったあの人が、あの子の父親だなんて。
 しかも、自ら死に場所を求めてなんて・・・」
 何がそこまで、デリスを追い詰めたのだ?
「リナさん、貴方には事情を知って欲しいのです。
 あのガウリイ様を、今のガウリイ様に変えた貴方には。」
 そして語り出す、あのガウリイが去った後の出来事を・・・
 それは、悲しいけれど愚かな話だった。
 そうお互いが、もう少し大人だったら回避できた事。
 お互いが、大切な為に臆病だった。
 そして起こった悲劇。
 純粋ゆえ、自分を許せなかった彼等・・・
 そして、今その想いをのせて戦う二人。
「ガウリイは、この事を・・・」
「ええ、お話しました・・・
 私は結局、またガウリイ様を利用してしまいました・・・」
「・・・違うわ、どちらにしろガウリイはここに来たわ。
 ガウリイも、自分の過去の清算をしに来たのよ。
 その最後の相手が、デリスなだけ。」
 あたしはそう思っている。
 ガウリイも自分の過去と戦っている。
 でも、ガウリイは死にたいなどと思っていない!!
「そう、ガウリイは絶対に自分からは死なない!!」
 それが、あたしの知っているガウリイなら。

 ガウリイの剣と、デリスの剣が絡み合う。
「あの時は貴様が許せなかった。
 だが真実は違った・・・俺が全ての始まりだった。
 だから、自分が許せなかった。
 そして・・・いや、最早なにも言うまい。
 さあ、ここからが本番だ。
 貴様が死ぬか、俺が死ぬか。
 この戦いの終わりは、それしかない。」
 デリスの気質が変わった!!
 その鬼気に当てられ、ガウリイが後退する。
 それを追う様に、銀光が続く!!
「くっ!!」
 避けきれずに、その一撃で左腕に軽い傷を負うガウリイ。
「本気をだせガウリイ、貴様を追い求め戦場をさ迷ったこの剣・・・
 貴様が本気にならぬなら、あと四撃で貴様を仕留める。」
 その宣言後、繰り出される斬撃にガウリイは・・・
 一撃目を何とか避ける。
 二撃目を剣で弾く!!
 三撃目が、首筋に浅く傷をつける!!
 四撃目!! もうガウリイには、後退する事は出来ない!!
 そして・・・ガウリイもまた、戦鬼へと変貌する・・・
 空を切った四撃目の残光に、逆に満足げに微笑むデリス。
「・・・そうこなくては、俺の5年間の苦しみ。
 せめて、貴様との死闘の果てに終わらせたい。」
 右手に佇む、鬼気を放出するガウリイを見ながら、そう言い放つデリス。
「いくぞガウリイ、最早言葉は不要だ。
 我、贖罪の果ての剣撃・・・受け止めてみせろ。」
 そして、二人の戦鬼の死闘が始まる・・・



第四話 決着     END
                           最終話 花束 に続く

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