<結婚狂騒曲>



1章.父親の意地

「リナを俺に下さい!!」
「駄目だ、帰れ。」
 目の前の男が、情け無さそうな顔をする。
 見た目は満点、剣の腕も達人以上という逸材だ。
 娘の話しを信じるなら、とことんまで優しい人らしい。(娘だけらしいが)
 だが、過去が一切不明?
 そんな怪しい男に、大事な娘がやれるか!!
 その上記憶力が皆無だと?
 本当に娘に会う前は、傭兵をやっていたのかこの男?
 数え上げれば、切りが無い程の不信点が出て来る。
 露骨に疑わしげな顔をしている私に、もう一人の娘が声を掛けて来る。
「確かにガウリイさんの過去は、解らないけわ。
 でも、リナの面倒を見れる様な男性は、ガウリイさんくらいよ父さん。」
「そうですよ、それにこんなにハンサムさんだし。
 何よりも、大切にして貰ってるんでしょリナ。」
 そう言って女房が、娘に話し掛ける。
 娘は、男が結婚の話しを切り出して以来、真っ赤な顔で下を向いている。
 だいたい、三年ぶりに故郷に帰って来たと思ったら。
 婿養子のオマケつきだと?
 ワシはそんな風に、娘を育てた覚えは無いわ!!
 普通は手紙の、一通や二通でも送って来んか?
 だいたい、ルナもルナだ。
 ちょっと出掛けて来ると言って、二ヶ月近く留守にしておいて。
 帰って来ると、リナと婿養子を連れてきおってからに。
 帰ってきての、第一声が「私の弟になる予定の、ガウリイ=ガブリエフさんよ、父さん。」
 ときたもんだ。
 思わず、女房共々目が点になったわい。
 まあ、女房は直ぐに立ち直って、大はしゃぎしておったが・・・
 この男の話しを聞いてると、確かに人柄は良いし、娘にも優しいのだろう。
 リナに向ける眼差しには、一片の迷いも無い慈しむ様な眼差しだ。
 リナの方も、今までワシでさえ見た事の無い、艶やかな顔をしている。
 う〜ん、娘の幸せを思えば・・・しかし、納得がいかんぞ・・・
 こうなれば・・・ワシ自ら試してくれる!!



2章.試練の三番勝負?

「まずは、家の店の手伝いをしてもらおうか。」
「解りました、お養父さん。」
「貴様などに、養父さん呼ばわりされる覚えは無いわ!!」
 などと、ほとんど毎日の様に繰り返している会話をする。
「ワシと、お前のどちらが多く売上を上げるかの勝負だ、解っているな?」
「ええ、負けませんよ養父さん。」
 懲りずに笑顔で言い返す男・・・
 最早何も言うまい。

 3時間後・・・
「な、何よこの混雑具合は?」
 娘の声を間近に聞きながら、自分の軽率さと負けを確認する。
 開店当時から、あの男の前には人込みで埋まっている。
「ああ!! 釣りはいいよお兄さん!!
 へ〜、あのリナちゃんの旦那さんにね〜」
「本当、リナちゃんが羨ましいわ。」
「家の娘にも、こんな婿さん来てくれないかしらね〜」
「きゃ〜!! こっち向いて下さい!! ガウリイ様〜!!」
「ねえねえ!! どっちからプロポーズしたの? やっぱり貴方から?」
 ワシは・・・もしかして、取り返しのつかない事を、してしまったのでは・・・
「いや〜インバースさん!! 羨ましいね、こんなハンサムの婿養子が来てくれて!!」
「ほほほほほ!! 嫌だわ奥さんったら!! 家のリナったら意外と面食いで・・・」
 遠くから女房と、近所の奥さん達の会話が聞こえる・・・
 何か? ワシは要するに、婿養子の紹介に力を貸したのか?
「父さん、動揺してるのは解るけど。
 もう少し冷静になったらどう?」
 ルナの冷静な声を背中に聞きながら、ワシは自宅の部屋へと帰っていった・・・

「いいか!! 今から商品の仕入れに行く!! ちゃんと手順を覚えるだぞ!!」
「はい!! 解りましたお養父さん!!」
 ・・・もう、何も言うまい。
 しかし!! ワシの威厳は見せ付けてやる!!
 そう簡単にワシは、娘をやるつもりは無い!!
 今日は娘も付いて来ている。
 男が迷子になるのを、心配しているらしい。
 ・・・本当に成人男性か? こいつ?
 しかし・・・親の目から見ても、綺麗になったなリナ・・・
 そんなリナの隣に、当然の様に佇む男。
 それを当たり前の様に、振舞うリナ。
 ・・・何だか・・・許せん。

 仕入れに向かう途中、街中でゴロツキに娘が絡まれる事件があった。
 普段の娘なら、呪文の一発で片が着いていたのだろうが・・・
 今日は、あの男がいたりした・・・
「俺のリナに何をする!!」
 とか言いながら、5〜6人を叩きのめし。
「リナに触れていいのは、俺だけなんだ〜!!」
 とか宣言しながら、更に5〜6人をブチのめす。
 最後に・・・
「お養父さん!! 見ていてくれましたか!!」
 と、ワシにアッピールまでしてくれた・・・
 コイツもしかして・・・かなりの知能犯じゃないのか・・・
 こうして、真っ赤な顔をした娘と。
 街中の拍手喝采を浴びながら、ワシは仕入れの市場へと向かった。
 また・・・この男の存在を、街中に宣伝してしまった。

 ちなみに、仕入れもこの男のウィンクと笑顔で、三割引の仕入れになった。
 ・・・連敗かい、ワシの威厳は・・・

「今日は会計をしてもらう。」
 ワシは最後の切り札を出した。
 ふっふっふっ・・・確かこの男は、ある程度以上の金額を覚えられない筈。
 それならば、会計の様な複雑な計算は、とうてい出来まい!!
 勝った!! 遂にワシは勝ったぞ!!
「・・・おいリナ、何故その男の隣にいるんだ?」
「だって、あたしがいないとガウリイ、計算の途中で寝ちゃって。
 今日中に売上集計なんて、終らないわよ。」
 それからワシは、仲つむまじい二人のやりとりを、二時間も見せ付けられた・・・
 勝った事は勝ったが・・・何だか納得がいかんぞ・・・



3章.ある夜の会話

 ワシが夜中に、ふと目を覚ますと。
 男を泊めている居間から、何やら話し声が聞こえる。
「・・・・も言っていたわ。
 あたしに取り憑いた原因は、あの呪文を使用したからかもって。」
 ついぞ聞いた事の無い、よわよわしい声で娘が男に話し掛ける。
「・・・大丈夫だ。
 何があろうと、リナがリナで在る限り俺はリナの側にいる。」
 男の励ましの言葉が聞こえる。
「でも!! これから先も、きっとまた魔族達に狙われる!!
 そんなあたしと一緒になれば、ガウリイはきっと・・・」
「いいんだよりナ、俺はお前じゃないと駄目なんだ。
 そうだろう? お互いあの事件で、そう気付いたんじゃないか。」
「・・・ええ、ガウリイが他の女性を守ってる姿なんて、もう見たくない。」
「俺も、リナが他の奴の隣にいる姿を、もう二度と見たくないんだ。」
 何があったんだ、二人の間に。
「俺は後悔なんてしない。
 もしするとすれば、ここでリナを諦めて手放す事だ。」
「ガウリイ・・・でも、とうちゃんはまだ許してくれないんでしょ?
 どうして、とうちゃんの承諾にこだわるの?」
 そうだ、旅の途中で式でも挙げてしまえば。
 ワシが幾ら反対しても、女房や娘達に押し切られていただろう・・・
「・・・俺には家族がいない。
 でも、リナと一緒になる事で家族が出来るんだ。
 だから、ちゃんとリナの家族に祝福される結婚がしたいんだ。
 リナの家族の一員になりたいんだよ・・・」
「・・・でも、許して貰えなかったらどうするの?」
「このまま、リナの店に住み着くさ。
 何も形式上の結婚にこだわらなくても、俺はリナの側にいれればいい。」
「ふっふふふ!! そうなれば、あたしは一生結婚できないわね。」
「ああ、俺がいる限り結婚なんてさせないさ・・・」 
 そして、部屋の中で衣擦れの音がする・・・
 おい!! 貴様どうどうと親の前で娘を!!(盗み聞きをしてるのはワシか)
 部屋に怒鳴りこもうと、立ち上がると・・・
「あなた、野暮な真似は許しませんよ。」
「父さん、盗み聞きなんて良い趣味とは言えないわよ。」
 女房と、ルナが何時の間にかワシの後ろに立っていた。
 一体いつのまに・・・
 そして、口を押さえられ。
 女房とルナに引きずられながら、ワシはその場を退場した。



4章.男の約束

 ワシも男だ、そろそろ諦めもついてきた。
 それに何よりも、娘の幸せを願っている。
 ただ、譲れない事があるのも確かだ。
「ガウリイ君、ちょっと付き合ってくれんかね?」
「ええ、いいですよお養父さん。」
 ガウリイ君と、街外れの丘に行く。
「・・・君の熱意は良く解った。
 娘との結婚を、認めてやってもいい。」
「えっ!! それじゃあ・・・」
「ただし!!」
 目に力を込め、ガウリイ君に問い質す。
「君の過去だけは教えて貰おう。
 心配しなくても、他の誰にも漏らしはせん。男の約束だ。」
「・・・・・・」
「娘の父親として、どうしても譲れん事もあるのだ。
 君の過去のせいで、娘が傷ついたらどうする。」
 そう、彼の過去を聞き。
 彼の真意を判断をしなければ。
 ワシはガウリイ君に、最後の領域を譲れない。
 リナの本当の保護者となる事を・・・
「・・・いいでしょう、お養父さんには知っていて欲しい。
 俺の過去を、俺が捨ててきた物を、俺がリナに会うまでに積み重ねてきた罪を。
 そして、俺のリナに対する本当の気持ちを。」
 彼は語り出した。
 その今までの人生を。
 罪と後悔と放浪の旅を。
 そして出会った、自分の大切な存在の事を。
「これが、俺がリナに会うまでに辿ってきた、俺の人生です。」
「・・・この事を娘は、知っているのかね?」
「いいえ、リナは俺の過去について、何も聞いてきません。
 あいつは、優しい奴ですから・・・」
「君は、自分の過去によって娘が傷つくならどうする?」
「俺の全てを賭けて、守ってみせます。」
 その返答に大声で一喝してやる。
「ふざけるな!! いいか、娘と夫婦になると言うのなら、二人でその過去に立ち向かえ!!
 既に夫婦になった時点で、君の過去は娘の過去でもあるんだ。
 ただ守られるだけの存在として、娘はいるんじゃない。
 お互いに助け合う為に、夫婦は存在するんだ。」
 ワシの一喝と、説教に目を白黒しているガウリイ君。
「いいかガウリイ君、自分だけで全てを背負い込むな。
 娘が過去を問い質さないのも、過去を全て含めて君を必要としているからだ。
 その期待に応えて、娘を支えてやってくれ。
 これからも、娘をよろしく頼む息子よ。」
 その一言で、彼の顔に笑顔が広がる。
 この笑顔が、娘を魅了したのだろう。
「はい!! 必ず幸せになってみせます!!」
「よし!! 良い返事だ!!
 今日は朝まで飲み明かすぞ!!」
 そして、ワシは大きな息子と共に家に帰っていった。

 その一ヶ月後に、娘とガウリイ君との結婚式が行われた。
 二人の将来を約束する様な、晴れ渡った青空の日だった。



<結婚狂騒曲>               Fin
                            1999.6.12
                                   By Ben

後書き

えーと、どうも皆さんこんにちわ。
駄文書きのBenです。
今回のお話は、自分ならこんな怪しい奴に娘をやるのか?
を、コンセプトに書いてみました。
結婚の話しは多いですが、両親の了解を得る話しは・・・無かったと思います。
よろしければ、感想を頂ければ幸いです。
それでは、またお会いしましょう。

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inoue@earth.interq.or.jp

 

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