<迷子>



第一章.出会い

 あたしにも忘れられない人は沢山いる・・・
 旅に出てから結構時間が経ったし・・・
 出会いと別れは旅につきものだもの・・・
 時が経てば忘れしまう人もいる・・・
 だけど逆に・・・幾ら時が流れ過ぎても決して忘れられない人もいるのだ・・・

「なあリナ・・・」
 あたしの後ろから呆れた様な声が聞こえる。
 声の主など振り向かなくても解る。
 あたしと旅をして3年の月日が経つ、あたしの唯一の相棒ガウリイだ。
 しかし、今のあたしには彼に構っている余裕は無かった。
「何一人で格好付けてるんだよ・・・
 誰がどう見ても迷ってるじゃんか俺達。」
 人間とは他人に真実を言い当てられるとムカツクものである。
 ましてや空腹時であり、疲労が重なっているともう最低だったりする。
「こんな時だけ現状を正確に把握するな〜!!
 普段はクラゲのくせして!!」
 ドコォォォォン!!
 ・・・あたしの八つ当たりのストレートが、ガウリイの腹にめり込む。
「お、お前な!! 八つ当たりにしても程度ってもんがあるだろうが・・・」
 地面に沈み込みながら苦しげに呟くガウリイ。
 どうやらかなり良い所に命中したらし。
 ・・・ガウリイのくせにあたしに意見するのが悪い!!
 そう自分を納得させておこう。
 あたしが近道しようとして先に森に入った事も忘れておこう・・・

 しばらく歩くと急に視界が開けた。
 なにやら広場の様な状態になっている。
「今日はここで野宿ねガウリイ。」
 あたしがガウリイに同意を求めると、ガウリイは何故か森の右手奥を睨んでいた。
「・・・誰かいる。」
「えっ!! それって人間なの?」
 このガウリイ君の野性の勘と剣術の腕に間違いという言葉は無い。
 ・・・それぐらいしか取り柄が無いのだが。
「殺気は無いな・・・そこの木の後ろに隠れているぞ。」
 ガウリイの言葉を聞いてあたしもその辺りに注目する。
 確かに気配が感じられる、どうやら自分の存在を隠すつもりは無いようだ。
「でてきなさい!! 隠れているのは解っているのよ!!」
 あたしの呼びかけに応じて、木の後ろから一人の人物が現れる。
 その人物とは・・・
「こ、子供?」
「誰が・・・どう見ても子供だな。」
 そこには10才位の子供がいた。
 黒髪黒瞳の・・・女の子だ。
 服装はかなり汚れたワンピース。
 凄く痩せていて男の子にも見える。
 髪は腰の辺りでまで無造作に伸ばしてあった。
 だけどその大きな黒い瞳はとても澄んでいた・・・
 初めて出会った時のあたしの感想は綺麗な目をした子、だった。
「お嬢ちゃん、名前はなんて言うのかな?
 どうしてこんな所に一人でいるの?」
 あたしの質問に女の子はその瞳であたしを見詰め。
「・・・リズ。」
 一言自分の名前だけをあたしに伝えたのだった。



第二章.少女の事情

 変わった女の子だった・・・リズと言う名の少女は。
 出会った晩にこの子一人では危ないと思い三人で広場で野宿をした。
 晩御飯の用意をするガウリイの様子を興味深そうに、ずっと見ていた。
 その他にもあたし達のやる事全部に興味を示した。
 しかし、感情の表現が凄く下手なのだリズという少女は・・・
「ほら熱いうちに食べちまいな。」
「・・・ありがとう。」
 ガウリイの差し出す焼けた鳥肉を受け取る。
 礼はするのだ、しかし表情はどう表現していいか解らないらしい。
 自然その顔は無表情になる。
 ガウリイはそんな無表情なリズにも優しく声をかける。
「鳥肉は嫌いなのかリズ?」
「ううん、食べれる物は全部好き・・・」
 そう言って鳥肉を少しづつかじって食べ出す。
 だが表情は無表情のまま・・・
 感情を忘れた子供、それがリズとい少女だった。

「だあ〜!! ちょっとは笑え〜〜!!」
 リズのほっぺを左右から掴んで延ばす!!
「お、おいリナ!!」
「悔しかったら怒って見せろ〜〜い!!」
 頭を掴んで拳骨でグリグリやってみる!!
「止めろって!! リナ!!」
「うが〜〜!! あたしはこんなイジイジした子が一番嫌いなの!!」
「・・・ごめんなさい。」
 ピタッ
 あたしの攻撃にもめげずにリズの無表情は変わらなかった。
 これは・・・親に問題がありね。
 子供は親を見て育つもの・・・ではリズの親には感情が無いのだろうか?
「ねえリズ、貴方の両親は何処にいるの?」
 ビクッ!!
 微かに肩を震わすリズ・・・しかし、顔は相変らずの無表情。
「ママはいないの・・・パパはこの森の先にいる。」
 森の奥を指差しそう呟くリズ。
「貴方迷子じゃないのね?」
 コクン・・・と首を動かし肯定をするリズ。
「・・・だけどここから十日位かかるの。」
 おい・・・
「じゃあ、リズはどうしてここにいる?」
「パパに連れて来られてから・・・ここに置いて行かれたの。」
 どういう事だ?
 ガウリイと二人で顔を見合す。
 リズの父親の真意が解らない・・・
 だが・・・
「信じられない父親ね!!」
「そうだな、ちょっと無責任過ぎるな。」
 あたし達はその無責任な父親に憤慨していた。
 でも当人のリズには感情の変化は無い。
 そんな父親と一緒に過ごしていれば・・・
 リズは多分父親にかまってもらった事が無いのだろう。
 興味の無い子に・・・親は冷たいのだ。
「よっしゃ!! あたしが父親に話しを付けてやるわ!!」
「まあ、たまには人の役に立たんとな・・・」
 ガウリイの同意の言葉が気に障るが・・・あたし達はリズの父親に会いに行く事にした。



第三章.交流

「ほら!! その汚い服脱いで!!」
 黙ってあたしの指示に従うリズ。
 この子は自分の意見を言わない、それ以前に聞かれないと何も喋らない子だった。
 あたしはリズの服装を見兼ねて、自分の古着からサイズを調整した服を作った。
「はい、これを着なさいよ。」
「あ、ありがとう。」
 リズなりに一生懸命表情を作ろうとしているみたいだ。
 その時ガウリイからリズにアドバイスが飛ぶ。
「リズ深く考えなくていいんだよ。
 リナをよく見ててごらん、きっと自然に笑える様になれるさ。」
 ガウリイの言葉を聞いて、リズがその黒い澄んだ瞳であたしを凝視する。
「な、なによ!! あたしを見てても何も解らないわよリズ!!」
 その瞳に負けて慌てまくるあたし。
「ほらなアレが慌てた顔だ。」
 ガウリイの追い討ちを聞いてあたしは顔を真っ赤にして怒る!!
「そしてアレが激怒の顔だ・・・って待てリナ!! 話し合おう!!」
「問答無用!! 覚悟しなさいガウリイ!!」
 あたし達は追い掛けっこをしていて気が付かなかったが。
 リズはあたし達を見て微かに微笑んでいた・・・

「ねえガウリイ・・・リズの父親って何を考えてるのかな?」
 その日の夜、あたしとガウリイは焚き火を挟んで話し合っていた。
「さあな、何か事情があるんじゃないのか。」
「当たり前じゃないの!!
 事情も無しにリズがこんな状態になるまでほおっておくなんて、信じられないわ!!」
 あたしが興奮して叫びそうになるのをガウリイが必死で止める。
「リズが寝てるんだぞ!!
 もう少し静かにしろよ・・・」
 二人して眠ってる筈のリズの方を向く。
 ・・・どうやら目は覚まさなかった様だ。
 リズはガウリイの毛布に包まり木の根子えお枕にして寝ている。
「出来るだけリズの感情が戻るように手伝ってやろうぜ。」
 ガウリイがあたしにそう提案する。
「でも・・・どうやって感情を戻すのよ?」
「なあに、リナはいつも通りのリナでリズに接すればいいのさ。」
 自信満々の表情でガウリイがあたしにそう言う。
「本当にそれでリズの感情が戻るの?」
「ああ、戻るさ・・・リナだからな。
 さてと俺が見張りをするからさ、リナは早く寝ちまいなよ。」
 何だかはぐらかされた気もするが・・・あたしも眠たいのは確かだった。
「うん、おやすみガウリイ。」
「ああ、おやすみリナ。」

 ガウリイの予言通りにリズはあたしと接するうちに、少しづつ感情を取り戻していった。
「あ〜もう!! 女の子なんだから水浴びくらいしなさい!!」
「い、いいよ別に・・・」
「一緒に入ったげるから!!」
「じゃあ入る・・・」
「ガウリイ!! ・・・覗いたら殺すわよ。」
「・・・はいはい。」
 クス!!
 この時初めてあたしはリズの笑顔を見た。

「・・・なあリナ、幾らなんでもこれは捕りすぎなんじゃ。」
 目の前に積まれているあたしが釣った魚の山を見て、ガウリイが呆れる。
「いいのよ!! リズもあたしも育ち盛りなんだから!!」
「・・・その割には胸は成長しないのな。」
「殺す!!」
 ドコッオオォォォォン!!
 吹き飛ぶガウリイを見てリズが初めて驚愕の表情を浮かべた。

「ほらこっちの髪型の方がリズに似合うわよ。」
 腰まであるリズの黒髪に櫛を通し綺麗に三つ編みにする。
「おお!! 似合ってるぞリズ、良かったな。」
「そ、そうかな・・・」
 ガウリイに褒められて初めて顔を赤く染めるリズがいた。



第四章.願い

「ねえリナの事・・・ママって呼んでいい?」
 それがリズの方から始めてあたしに話し掛けた言葉だった。
「う〜ん、年齢的に苦しいから止めときましょうよ。
 そうねお姉さんか、リナ姉さんの方がいいな。」
 あたしはリズの方から話しを切り出したのを喜んでいた。
「・・・じゃあリナ姉さんでもいい?」
「いいわよ、リズみたいな可愛い妹が欲しかったんだあたし!!」
 素直に喜ぶあたしにつられて、リズの顔にも微笑みが浮かぶ。
 リズと同行をしだして5日目の出来事だった。
「じゃあ俺は何て呼ぶんだいリズ。」
 ガウリイの質問に少々考えてからリズが答える。
「・・・ガウリイ兄さん。」
「本当にそれでいいのかいリズ?」
 何故か再度リズに確認をするガウリイ。
「うん、・・・はいるもの。」
「そうか、リズがそう言うならそれでいいさ。」
 リズの頭を撫ぜながらガウリイはそう言った。
 何故かあたしは自分一人だけが、話しに付いて行けてない様な気がした。

 今日の野宿・・・隣にリズがいる状態であたしは眠っている。
 珍しくリズが隣で寝たいと言ってきたのだった。
 勿論あたしは快諾をした。
 この時リズはとても嬉しそうに笑ってくれた。
 本当に年相応のリズの笑顔を見れてあたしも嬉しかった。
 リズが静に寝息をたて始めた頃に、あたしはガウリイに小声で話し掛ける。
「ねえガウリイ・・・リズのお母さんてあたしに似てたのかな?」
 焚き木の側で火を絶やさぬ様に薪をくべているガウリイも小声で返答を返す。
「・・・多分リズは母親の記憶を持っていないな。」
「どうしてガウリイにそれが解るのよ?」
 しばしガウリイは沈黙をしてから答えを返す。
「リズは両親への甘え方を知らない・・・それが答えだよ。」
 始めてあたしはその事実に気が付く。
 感情の事ばかり気にしていたが・・・確かにリズは親への甘え方を知らない。
 だがガウリイがそこからリズに母親の記憶が無い事を予測出来るなんて。
「・・・経験があるんだガウリイ。」
「まあな、だが俺の事はどうでもいいさ。
 早く寝ちまいな。」
 あたしに背を向けている為、ガウリイの表情は見えなかった。
「・・・おやすみガウリイ。」
「おやすみリナ。」

「リズはな、お前さんに母親を見出しているのさリナ・・・
 いきなり母親役なんて出来ないのは解るけどな。」
 焚き木に向かって独り言を呟くガウリイ。
 しかし、あたしの耳にはしっかり聞こえていたりする。
 多分ガウリイもあたしが起きていて、聞き耳を立てている事を知っているだろう。
「リズの願いは母親と共に在る事。
 子供なら誰しもが普通に想う事。
 だからこそ・・・その存在しない記憶をリナに重ねている。
 ならこの旅の間だけでも母親役をしてやれよリナ。」
 ガウリイの独り言は終わった・・・
 母親か・・・ガウリイの母親ってどんな人だったんだろう?
 あたしは・・・リズの母親役を出来るのだろうか?
 深い思考の渦に巻き込まれながら、あたしは眠りについた。
 隣に眠るリズの年の割りに小さな体を胸に抱きしめながら・・・



第五章.父

 あの夜からあたしはなるべくリズの母親役を頑張っていた。
 ただママと呼ばれるのは流石に恥ずかしいので、呼び方はリナ姉さんだったが。
 リズの父親との対面は意外と早く訪れた。
 リズと旅をしだして9日目の昼頃の事だった。
 ガウリイは食料の調達の為に狩に出かけ。
 そしてあたしとリズは火を起こして薪を集めている最中だった。
 パラパラッ・・・
「どうしたのよリズ?」
 突然に集めていた薪を落とすリズ。
 その視線の先には一人の男性の姿があった。
「パパ・・・」
 リズの言葉を聞きその男性を思わず睨みつける!!
「貴方がリズの父親なの!!」
 あたしが男性に詰め寄ると、その男性は冷笑であたしを迎えた。
「ええそうですよ、それが何か?」
 思いっきり人を小馬鹿にした態度に、正直キレかかるあたし。
 だが・・・流石にリズの目の前で実の父親を半殺しにするのは気が引ける。
「ちょっと話しがあるわ・・・こっちに来なさいよ。」
「いいでしょう、付き合いますよ。」
「リズ、ガウリイが帰って来るまでここにいてね。」
「・・・うん。」
 リズが頷いてその場に留まるのを見てから、あたしはリズの父親と共に森に入っていった。

 少し森に入ると結構開けた場所に出た。
「さてと・・・貴方どうしてリズをあんな所に置き去りにしたのよ!!」
「別に私と娘の事情でしょ?
 旅の方には関係無い事ですよ。」
 また冷笑をしながらあたしに返事を返す。
「貴方それでも本当にリズの父親なの!!
 リズが感情を失っているのを知ってるんでしょう!!」
 だがリズの父親の返事はあたしの予想を越えていた。
「いいんですよそれで。
 私にとってリズの感情なんて邪魔なだけですから。」
 冷笑を張り付けた顔で事も無げに言い放つリズの父親。
 その返事にあたしは絶句する。
「だいたい煩わしいだけじゃないですか、子供の感情表現なんて物は。
 そう思いませんか貴方も?」
「・・・ふざけるんじゃ無いわよ!!
 子供はその感情表現でしか親に気持ちを伝えられないのよ!!
 それを煩わしいなんて・・・貴方本当にリズの父親なの!!」
 信じられ無い事を言い出した父親に、あたしは思わず叫び声を上げる!!
「・・・貴方もいい加減煩わしいですね。
 もうそろそろ付き合うのも疲れましたよ。
 別段興味のある話しも無いですし、ここでさよならです。」
 ・・・何を言っているのこの父親は?
「危ないリナ姉さん!!」
 突然横手から突き飛ばされ地面に倒れるあたし。
「なっ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
 あたしの目の前には、突然現れた魔力の矢に胸を貫かれ倒れ伏すリズの姿があった・・・
「リズーーーーーーーーーー!!!」
 絶叫を上げるあたしの目に元リズの父親の姿が目に写る。
「おやおや、まさか身を呈して貴方を庇うとはね。
 よっぽど好かれていたんですね。」
 そこには人の体型をしているが人では無い者・・・魔族の姿があった。



第六章.想い

『近頃は大人しくなったと思っていたんですけどね。』
 後ろに魔蔟の声を聞きながら、あたしはリズの軽い体を抱き上げた。
「リズ!! リズ!! 返事をして!!」
「あ、う・・・リナ姉さん・・・ごめんね私、ゴホッ!!」
 口から血を吐きながらも必死にあたしに謝るリズ!!
「何を謝るのよリズ!! 貴方は何も悪くないでしょう!!
 今すぐにリカバリィの呪文をかけるから黙ってなさい!!」
 ・・・致命傷なのは解っていた。
 でもあたしを庇ってこんな所で死ぬなんて、余りにリズが不憫に思えた。
『助かる訳でも無いのに苦しみを長引かせるのですか?
 それこそ偽善じゃないのですかね。』
 あたしの苦悩と怒りの感情を得て楽しそうに魔蔟が話しかける。
「ずっと、リナ姉さんの事心の中でママって呼んでたの・・・ゴホッ!
 始めてだったのママみたいな人と会ったの・・・
 楽しくて嬉しかったから・・・だから心の中でだけで・・も・・・」
「幾ら呼んでも構わないから!!
 ずっとガウリイと一緒にいてあげるから!!
 だから!!」
 あたしの手の中でリズの体温が段々失われてゆく・・・
 リズのあの綺麗な瞳から光が消えて行く。
「そうガウリイ兄さんにも謝らなきゃ・・・
 ずっと、あんな人が・パパならって・・思って・
 こんな私の事ずっと見ててくれたん・だよ、何処にいても。」
 あたしを探してリズの手がさ迷う。
 その手を掴みあたしの頬に当てる。
「ママ、ママ・・・思い、出せないよママの顔・・・
 リナ姉さんの顔しか・・・思い出せな・い・・・」
「ママはここにいるわ!! リズ!!」
 最早うわ言の様な事を呟くだけのリズを胸に抱きかかえる!!
「暖かい・・・有難う・リナ・ママ・・楽しかっ・・・」
 それがリズの最後の言葉だった。
「あ、ああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 あたしの絶叫が・・・森に響き渡った。
 リズの失った魂を探すように・・・

『そう言えばリズが女性の方とここに来たのは初めてですね。
 さぞかし楽しかったでしょうにね、まあリズにとっては良い思いでになるでしょう。』
 許せ無かった・・・リズの心を弄ぶこの魔蔟が。
 リズが無感情になるのも納得がいく・・・魔蔟が面倒を見ていたのなら。
「・・・何時からリズを利用して人を誘ってたのよ。」
『そうですね・・・6年前ですかね。
 まだ歩き始めたばかりのリズと両親を襲いましてね。
 両親を殺してから、ふと思ったのですよ。
 この子の記憶を操作して人間を呼び込んでみよう、とね。』
 得意げに喋る魔蔟をあたしは睨みつける。
『ま、もうそろそろ飽きてきましたし効率も良く無いですしね。
 貴方で最後としましょうか。』
「6年間もリズを弄んだのね・・・許せ無い・・・許せ無いわ!!」
 静かに魔蔟へと歩み出そうとするあたしを・・・
「・・・リズの側にいてやれリナ。」
 ガウリイの冷ややかな声が押し止めた。
「ガウリイ・・・うん・・・解ったリズの側にいるわ。」
「すまん・・・間に合わなかった。」
 そう言い残して・・・ガウリイは魔蔟に向かって行った。



第七章.魂

『人間如きが何を生意気な!!』
 次々と魔蔟が魔力弾をガウリイに向けて投げつける。
「楽しかったか? リズを使っての遊びは・・・」
 ガウリイのブラスト・ソードが魔蔟の魔力弾の攻撃を弾く。
『馬鹿な!! ただの人間でしかないお前が何故!!』
「愉快だったか? リズの感情が消えて行くのを眺めるのが・・・」
 ガウリイの連撃の前に追い詰められて行く魔蔟。
「面白かったか? 消えかけた幼い時の思い出に縋るリズの姿が!!」
 ガウリイの一撃が遂に魔蔟の右腕を切り裂く。
『ギヤアァァァァ!!!』
 そしてガウリイが止めの一撃を放つ・・・
「満足だったか!! リナとリズの絆が切れていく様を見るのが!!!!!!!!」
 ガウリイのあたしには見えない程の斬撃が・・・魔蔟を二つに切り裂いた。
 そして名前も知らない、知りたくも無い魔蔟は滅びた。

 こんな下級魔蔟のせいでリズの人生は・・・
 胸に抱えた最早動く事の無いリズを、あたしは静かに地面に横たえる。
「お墓・・・作ってあげないとね。」
「・・・俺がもっと早く戻って来てたら!!」
 ガウリイが珍しく感情を剥き出しの声で自分を責めていた。
「ガウリイ・・・リズからの伝言。
 有難うって・・・パパならよかったっ、て・・・
 あ、あたしの事、ずっと心の中でママって呼んでたって!!」
 ガウリイがあたしを抱きかかえてくれた・・・
「あたしリズの事を何も解ってなかった!!
 リズはずっと心の中で叫んでたのに!!
 ガウリイにも、頼まれてたのに!!」
 ガウリイがあたしを抱く力を強める。
「結局救えなかった!!
 リズはあたしをママと呼びたかっただけなのに!!
 あたしは変な意地を張っちゃって・・・そんなあたしを庇ってリズは!!」
「それは違う!!」
 ガウリイが突然大声であたしの叫びを止める。
「・・・リズはリナを助けたかったんだ。
 呼び方はどうあれリズにとってリナは母だった。
 だから自分の身を呈してまでもリナを助けたんだよ。」
 優しいガウリイの声にあたしは堪らず泣き出した・・・
 そんなあたしをガウリイは何時までも抱いていてくれた。
 あたしは心の中で想う・・・
 救えなかったリズの魂の冥福を・・・
 本当の両親との再会を・・・
 そして・・・あたしとの再会を・・・
 何時かは逢える・・・
 その時には存分に甘えさせてやろう・・・
 この世界での分までも・・・
 だから今は・・・
「さよなら・・・リズ、あたしの娘。」

 忘れられない人がいる。
 忘れてはいけない人がいる。
 そして・・・再会を約束した人がいる・・・
 魂を迷子と化してた彼女に・・・何時かあたしは逢いに行く。



<迷子>			END
								1999.8.19
   								   By Ben

後書き

5000Hitのリクエスト小説です。

何でも泣けるガウリナでお願いされました。

・・・何だか泣けるの意味を取り間違えてないか・・・Ben。

まっいっか・・・

もしこの小説を読んで泣けたらメールか掲示板にカキコして下さい。

まあ誰もいないと思いますけど(笑)

では〜〜〜

 

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