<真実への路>


第一部 第一話「始まりの別れ」

(9)

 


 後二日三日でルークが帰ってくる。
 その報告次第では・・・もう後には戻れないだろう。
 どうする?
 連れて行くか?
 諦めるか?
 ・・・諦める事なんて出来ない。
 長い旅路の末にやっと見付けた宝石・・・
 譲れない、放したくない・・・
 誰にも渡したくない。
 そんな想いが募る・・・
 しかし・・・
 だからこそ・・・傷付けたくはない。
 どうする?
 毎日毎日繰り返す自問自答。
 未だ答えは導かれていない・・・

 


「ガウリイ!! もう皆テーブルに着いてるわよ!!
 早く起きてきなさい!!」
 リナの声が寝不足な頭に響く。
 だが、その声が聞こえない事の方が俺を不安にさせるだろう。
 しかしこれ以上怒鳴られるのは、得策ではない。
 素早く身支度を整え食堂に降りる。
「・・・おはよう、リナ。」
「何よ朝から不景気な顔して、早くテーブルに着きなさいよ。」
 そう言うリナの顔も寝不足の為か、少しやつれて見える。
 これは俺のせいだろう、早く結論を出すべきだった。
 しかし、未だ俺は悩んでいる。
 結論は一つしかない。
 その結論にそってリナをどうするか。
 それだけが俺の悩みだった。
 本来なら決して起こる筈のない悩み・・・
 これも運命なのか。
 ならば・・・俺とリナの出逢いもまた、運命だったのか・・・
「ああ、こういう時は食べるに限るな!!
 もうじゃんじゃん食ってやる!!」
「おお!! 急に元気になっちゃって!!
 あたしも負けないんだから!!
 おばちゃ〜ん!! モーニングセット5人前お願いね!!」
 俺達は悩みを振り切るかのように、食べる事に専念した。

 


「旦那・・・あんた何を考えてる?」
 ゼルが俺の部屋の前で待ち伏せをしていた。
「ここ最近の旦那はどこか変だ。
 いつもの余裕が見当たらん。
 何を悩んでいるんだ、俺やリナには話せん事なのか。」
 ・・・するどいよゼル。
 俺は今先程感じた気配から、もう事態は進み始めた事を知っている。
 あの気配は、そう・・・
「ゼル・・・話しがある。
 ちょっと俺の部屋に来てくれないか?」
「・・・いいだろう。」
 そして俺達は部屋に入る。
 そこには予想通りの先客がいた。
「貴様!! まだ帰って来る予定ではない筈じゃ!!」
「ご苦労様、ルーク・・・結果は聞くまでも無いようだがな。」
 俺の部屋には、そんな俺の言葉に無言で頷くルークがいた。
「さて・・・ゼル、これから話す事を聞いてある判断をしてくれ。
 但しこの話しは、リナ達には決して話さないでほしい・・・今はまだな。」
 ゼルの非難の目を浴び、最後に理由を付け加える。
 出来ればリナには、永遠に話したくなかった事だ。
「ルーク・・・そっちの報告から頼む・・・
 ついでに、これまでの事情もな。」
「解った・・・いいんだな、ガウリイ?」
「ああ、もう逃げるつもりはない。
 それに、そこまで無責任にはなれんさ・・・」
 俺は苦笑しながらルークにそう答える。
「じゃあ始めるか・・・」
 そしてルークの報告と、長い物語が語られる・・・

 


「・・・正直、信じられん話しだ。
 確かに旦那が、リナに話したくない気持ちも解る・・・
 だが・・・本当にそれでいいのか?
 今まで悩んでも、答えはでていないのだろう。」
 ああ、今決断した・・・
 これ以上リナに負担はかけたくない。
 今でさえ人には重すぎる宿命を背負っているのだから・・・
 その時ルークの声が部屋に響く。
 そう俺にとって託宣のように・・・
「ガウリイ・・・決断の時だ。
 俺は・・・明日に勝負に出る。
 それ以降は・・・もう昔には戻れんぞ。」
 ルーク・・・お前はミリーナを・・・強くなったな。
「・・・ゼル、本当にいいのか?
 これは俺の我侭かもしれない・・・」
 そう、俺は関係の無いゼルすら巻き込もうとしている。
 ゼルは俺の要請に、快く応じてくれていた・・・
 どれ程の苦難がこの先にあるのか、予想すらつかないのに。
「ああ、どちらにしろ俺の目的と旦那の目標は一致する。
 もっとも、もうすぐ旦那なんて呼べなくなるがな。」
 そんなゼルの台詞に俺は決心を固める。
 ああ、もうゼルはそこまでの決心をしてくれた。
 後は心残りが無い様に行動しておくだけだ。
「なら明日の晩に、お互い心残りを片付けておこう。
 もっとも、ルークが一番分が悪そうだがな。」
 笑いながらそう告げると、ルークが怒った声で言い返す。
「何だと!! 見てろよ俺とミリーナの仲がどれ程の物か見せてやるぜ!!
 それよりゼルの方が、分が悪いんじゃないのか?
 相手は本物の姫さんだろが。」
 仕返しのつもりか、ゼルにそう突っかかるルーク。
「ほっとけ、少なくともお前より確率は高いつもりだ。
 それより一番こじれそうなのは、旦那だと俺は思うがな。」
 耳に痛い言葉だ俺はリナを・・・
「そうだな・・・しかし、これだけは告げておきたい事がある。
 せめて自分の正直な気持ちだけでもな・・・」
 もしかしたら、その方が酷い事かも知れない。
 だがリナに俺の気持ちだけは、知っていて欲しい・・・
 これも俺の我侭だろう・・・
 その事によって、どれだけリナを苦しめるか俺は知っているのに。

 

 

(10)へ続く

 

<真実への路>トップに戻る