いつか信じあえる日まで
 
 
 第六話  願いは一つだけ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「いや〜テンカワさんご苦労さまです。
 
 初めてエステに乗ったとは思えませんでしたよ」
 
 
 格納庫でプロスさんがいつもの笑顔で迎えてきてくれた。
 
 乗っていたエステバリスはかなり破壊されていたので整備班の人達が大忙しで働いている。
 
 
 「プロスさん、そんなことよりさっきの女性は・・・・・・」
 
 
 「ああ、それですよ。
 
 彼女もあなたに会いたがっていますのでこのままブリッジまできてもらえますかね?」
 
 
 整備班が怒鳴り散らしていたのがかなりうるさく、すぐに格納庫を出た。
 
 荷物をくくりつけた自転車を転がしながら、
 
 
 「その前に医務室に行っていいですか?
 
 なんか気分が悪くなっちゃってて・・・・・・」
 
 
 疲れた顔を出し同意を求めた。
 
 本当に疲れていた。
 
 ここまで延々と自転車をこぎ続けてすぐに初めての戦闘に出されては誰だって疲れるだろう。
 
 
 「おや、本当に顔色が悪いですねえ〜。
 
 しかし医務室の人がまだ到着していないと思うので私もついていきますよ」
 
 
 比較的短時間で到着すると医務室の中には一人の女性が座っていた。
 
 
 「おやエルザさん、ようやく着いたんですか?
 
 あなたはもっと早く着かなくてはいけなかったのに」
 
 
 白い真っ直ぐな髪を指先で遊ばしながら、
 
 
 「・・・・・・迷ったの・・・東京から飛行機に乗ったら・・・・・・何故か沖縄にいたわ。
 
 これ・・・・・・お土産よ・・・・・・」
 
 
 だがなぜか手渡されたのは韓国産キムチだった。
 
 オレがマジボケかどうか疑って見つめていると目で、あなたは?、と聞かれたようだったので
 
 
 「あ、オレはテンカワ・アキトと言います」
 
 
 軽く頭を下げ、自己紹介をすると一瞬少し目を大きく広げたような気がした。
 
 手元に置いてあったコーヒーを少しだけ飲んだ。
 
 
 「私は・・・・・・エルザ・アークス・・・・・・よろしくね」
 
 
 「エルザさんはこんな話し方ですけどかなり優秀な科学者ですよ。
 
 それで医療班についてもらったんです」
 
 
 そう言いながらコミュニケを見て時間を気にしていた。
 
 何かブリッジで用事でもあるだろうか?
 
 
 「プロスさん、用事があるんでしたら行っても・・・・・・」
 
 
 「あ、そうですか。すみません、後でブリッジに来てくださいね」
 
 
 足早に医務室を出て行く。
 
 ようやく本来の目的を遂げようとした。
 
 
 「すみません、疲れたので何か栄養剤かなにかもらえませんか?」
 
 
 「あら・・・・・・若いうちから・・・・・・そんなのに頼ってはいけないわ。
 
 ・・・・・・でも本当に・・・・・・疲れているようね。少し待って」
 
 
 言うとすぐに棚を開いて何か取り出そうとしている。
 
 しかし・・・白い髪がとても不思議な印象を与える。
 
 
 「その・・・髪は染めたんですか?」
 
 
 色付きの瓶を取り出している。
 
 きっと注射だろうか?
 
 
 「これは・・・別に染めた訳じゃない・・・わ。
 
 生まれつき・・・・・・」
 
 
 「あれ?そうなんですか?
 
 すみません、失礼なことを聞いて」
 
 
 「・・・皆・・・間違うから・・・気にしてないわ」
 
 
 注射器のなかに透明な液体を入れ、空気が入ってないかどうか少し液体を出す。
 
 
 「さ・・・・・・腕を出して・・・・・・」
 
 
 エルザさんに言われると何故かためらってしまいそうになる。
 
 袖をめくり上げ、ほんの一瞬痛みが走る。
 
 
 「・・・終わったわ。少し話をしない?」
 
 
 突然の申し出に身じろぎしてしまったが、エルザさんはにこりと微笑んでいた。
 
 
 「すみません、この後ブリッジに顔を出すんですよ」
 
 
 ほほんど顔には出さなかったが表情が少し曇った。
 
 
 「そう、残念ね・・・・・・
 
 じゃあ・・・今度デートしようね・・・」
 
 
 社交辞令でいったのだろう。快く頷いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「アキトー!!
 
 アキト、アキト、アキトだーー!!」
 
 
 ブリッジに着くとすぐに艦長こと、ミスマル・ユリカが大げさに喜んだ。
 
 いや、本当に喜んでいたのかな?
 
 ブロスさんに何か起こられていたけど、大丈夫。
 
 
 「あ、あの艦長・・・・・」
 
 
 「もう、アキトったら。艦長なんて他人行儀なこと言わないでよ。
 
 昔みたいにユリカでいいのに。照れ屋さんなんだから〜」
 
 
 手をひらひらとさせて笑っていた。
 
 やっぱりこの人オレの過去を知っている。
 
 
 「あ、あの艦長・・・・・・」
 
 
 「もう、ユ・リ・カだよ」
 
 
 頑として譲らなそうだったので仕方なく妥協策としてユリカさんで済ました。
 
 
 「ユリカさん、お願いがあるんですけど・・・・・・」
 
 
 「お願い!?ひょっとしてお付き合い?婚約??結婚!??」
 
 
 最後まで話を聞かない人だなあ、この人は。
 
 なんか不安になってきた。
 
 
 「い、いえ。そう言うんじゃなくて・・・・・・」
 
 
 「え、いきなり子供!?せっかちさんなんだから」
 
 
 「だから違うんですって!!」
 
 
 このままでは話が進まない。
 
 しょうがない、という顔でプロスさんがオレとユリカさんの間に入ってきた。
 
 目で、話してもいいですか?、と語りかけていた。
 
 余計な人に自分の記憶喪失のことを聞かれたくはなかったが、少しでも早く自分のことを知りたかった。
 
 少しためらったが、仕方が無く頷いた。
 
 
 「実はですねえ、艦長。
 
 テンカワさんは俗に言う記憶喪失でして、艦長に昔のことを聞かして欲しいですよ」
 
 
 ブリッジにいた人達が驚きながらオレに注目してしまった。
 
 なんだかさらし者になった気分だ。
 
 
 「え〜!!ミナトさん、なんだかドラマかなにかの主人公みたいですね」
 
 
 「ざらに記憶喪失なんてならないわよね。
 
 でもメグミちゃん、かっこいいなんていったらあの人に悪いわよ。苦労しているんだから」
 
 
 好き勝手にオレのことをとやかく言う。本当にさらし者だ。
 
 肝心の艦長はポカンと口を開けているだけだった。
 
 
 「それで・・・・・・艦長!?
 
 聞いていますか?艦長!!艦長!!!」
 
 
 プロスさんもすぐに艦長が驚いて何も聞いていないことに気付いた。
 
 呼びかけても全く反応がない。
 
 ぴく、と動いたと思うと、
 
 
 「ええええ〜〜〜〜〜!!!???
 
 アキト私のこと覚えてないの〜〜〜〜!!!???」

 
 
 ブリッジに地震があったかのような振動が響き渡る。
 
 いや、違う。
 
 今のユリカさんの声でそう感じただけだった。
 
 
 「え、ええ。そうなんですけど。
 
 なにか過去のことを聞けば思い出せるかと思って聞きにきたんですけど・・・・・・」
 
 
 「うん、いいよ。
 
 大事なことから教えてあげるね。実はね・・・・・・」
 
 
 「はい・・・・・・」
 
 
 思わず息を飲み、次の言葉を待った。
 
 
 「私の・・・・・・」
 
 
 「私の・・・・・・?」
 
 
 「王子様なのよーーー!!!」
 
 
 「え?え??え???
 
 どういうことなんですか?プロスさん?」
 
 
 訳が分からず、プロスさんに助けを求めた。
 
 良く見るとブリッジにいた全員がずっこけていた。
 
 
 「え〜と、艦長。
 
 テンカワさんが聞きたいのはそう言うことではなくてですね・・・・・・」
 
 
 「なにを言っているの?
 
 アキトを経歴を語るならこのことから始まらずに何から始まると言うの?」
 
 
 「だからそう言うことではなく・・・・・・」
 
 
 「アキトを語るならこのことだけで済んでしまうわ。
 
 なんてったってアキトは私のことが大好きなんだから!!」
 
 
 「本当なんですか、それ!?」
 
 
 「つまりアキトは私のことが大好きなのよ」
 
 
 何度聞いてもこんなことしか返ってこなかった。
 
 しかし・・・・・・オレはこの人とそういう関係だったんだろうか?
 
 
 「それはもういいですから・・・・・・
 
 小さい時のオレのことを知ってたんですよね?
 
 だったら教えてください、知っていること全部!!」
 
 
 「む〜〜、本当にこれだけでいいのに・・・・・・まあいいけど。
 
 私とアキトは火星のユートピア・コロニーでお隣さんで・・・・・・
 
 いわゆる幼なじみだね、それでね・・・・・・」
 
 
 やっと聞けた昔のこと。
 
 単なる思い出話だったが、それでもやっと聞けたオレの過去。
 
 少し長めの話を聞いたがそれでも思い出すどころか、ビジョンすら見なかった。
 
 ・・・・・・少し悲しかった。
 
 
 「という訳で十歳の時に地球帰ったの。わかった?」
 
 
 「はい、わかりました。
 
 つまり付き合っていた訳ではないんですね」
 
 
 さっきまでの話を聞くと十歳から会っていない。
 
 
 「違うわよ〜。
 
 アキトは私のことが大好きなの!!」
 
 
 「え、でも十歳までしか会ってないじゃ・・・・・・」
 
 
 「そうだけど、アキトは私のことが大好きなの!!」
 
 
 「はいはい、もうそこまでにしましょう。
 
 テンカワさん、お疲れでしょう?もう部屋に戻ってもいいですから」
 
 
 プロスさんが終わりそうのない会話に終止符を打った。
 
 流石にこれ以上意味のないやり取りはしたくなかった。
 
 
 「はい、そうですね。休ませてもらいます」
 
 
 「あ、ちなみに戻ってもしばらくは休めませんので。あしからず」
 
 
 はい?
 
 なんのことだろう?
 
 プロスさんに尋ねようとすると、
 
 
 「あ、アキト、私も行くー。お話しよ」
 
 
 「艦長は遅刻した理由を報告してもらいますからね」
 
 
 「ええーー。プロスさん見逃して下さいよー」
 
 
 「だめです。さ、こっちで説明してもらいましょうか」
 
 
 そう言って作戦室に連れていく。
 
 ああ、ありがとうございます。
 
 一緒にいたら休むことができなかったでしょう。
 
 今のうちに部屋に戻りましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 はっきりいってさっきの人、ミスマル・ユリカは本当にどう対処していいかわからなかった。
 
 向こうも八年振りなのにどうしてああなんだろう?
 
 なんか・・・疲れたなあ。
 
 ようやく指定された部屋に着き、カードキーを通す。
 
 シュン、と軽い音がする。
 
 しかし部屋が何故か明るく、不思議な匂いが立ち込めていた。、
 
 
 「・・・・・・誰かいるの?」
 
 
 「あ、アキト。お帰りなさい」
 
 
 さも当然のようにイツキがにこやかに立っていた。
 
 手には皿に乗った紫色の岩石が憮然としながら睨んでいた。
 
 何から聞いていいのか一瞬で砕かれた。
 
 
 「・・・・・・」
 
 
 「どうしたの?さ、早く食べて」
 
 
 言いながら皿をオレに差し出す。
 
 
 「紫苑も食べて欲しいよね〜」
 
 
 イツキの言葉にガウ、と返事をした。
 
 返事をするもんを食べさすな!
 
 返事のするもんを食べさすな!!
 
 返事のするもんを食べさすな!!!
 
 
 「あの、イツキ・・・・・・
 
 それは横に置いといて・・・・・・」
 
 
 「なんでーー?」
 
 
 「いいから。話がしたいんだ」
 
 
 真剣なオレの言葉にイツキは真面目な顔をしながらそっと置いた。
 
 
 「なんで・・・・・・ここにいるの?」
 
 
 「ああ、そのこと。
 
 おばさんにこの書類を届けてって言われたの」
 
 
 近くにあったカバンから取り出した。
 
 あ、その書類は・・・・・・
 
 
 「で届けに来たらなんか邪魔する人達がいたからぶちのめして。
 
 中に入ったらこの艦が行こうとしてたから・・・・・・」
 
 
 「今すぐ降りるんだ」
 
 
 頑張って冷たく言い放った。
 
 今ならまだ間に合う。
 
 このまま乗ってしまうとイツキは・・・・・・
 
 
 「どうして?いいじゃない」
 
 
 「だめだ、今すぐ降りるんだ」
 
 
 コミュニケでプロスさんに連絡しようとする。
 
 すぐにでも連絡船か何かでイツキを降ろしてもらおう。
 
 
 「プロスさん!?返事をしてください」
 
 
 まだユリカさんと話しているのかそれとも故意に出ないのか。
 
 
 「あのね、艦をうろうろしていたらプロスさんに会ったの。
 
 でね、アキトに会いたいって言ったら『この部屋で待ってて下さい』って・・・・・・」
 
 
 今やっとプロスさんの言葉の意味がわかった。
 
 イツキのことを言っていたんだ。
 
 どうして・・・・・・降ろしてくれなかっ・・・いやプロスさんは降ろさない方が得だったんだろう。
 
 
 「なんで・・・・・・放っておいてくれないんだ?」
 
 
 「放って・・・おけるわけないじゃない」
 
 
 「どうして・・・オレはイツキを置き去りにしたんだ!!
 
 酷い奴なんだ!!そんな奴に構うことはない、さっさとこの艦を降りるんだ!!」
 
 
 「だってアキトなんだもん」
 
 
 目尻に涙を溜めて、ぽつりとそう言った。
 
 沈黙がそこを少しだけ支配した。
 
 またイツキが口を開き、
 
 
 「アキトだから、アキトだからなんだよ?
 
 だからこそこんな別れ方は絶対したくなかった・・・・・・」
 
 
 「それは・・・・・・」
 
 
 「アキトは私に会いたくなかった?」
 
 
 「・・・・・・」
 
 
 「私は会いたかったよ。会いたかったんだよ」
 
 
 「・・・・・・・」
 
 
 「私はアキトと会いたかった。
 
 その気持ちだけでここまで来たの」
 
 
 「・・・・・・ここにいたらイツキはパイロットをやることに」
 
 
 「・・・・・・アキトと一緒にいられるんだったらそのくらい大丈夫だよ」
 
 
 「・・・・・・死ぬかもしれない」
 
 
 「アキトを守れるだったら大丈夫だよ」
 
 
 「・・・・・・どうして、どうしてそんなことするの?」
 
 
 「だって・・・・・・」
 
 
 目を伏せ、もう一度オレの目を見た。
 
 その目はとても綺麗で迷いはなかった。
 
 
 「アキトのこと大好きだから!!」
 
 
 そう言った瞬間、オレはイツキを抱きしめていた。
 
 あんなにひどい仕打ちをしたのに・・・・・・
 
 こんなに健気にオレを見ていてくれる。
 
 「イツキ・・・・・・イツキ・・・・・・イツキ・・・・・・」
 
 
 何度も名前を呼びながら強く抱きしめた。
 
 オレは気付いてなかったせいでイツキをこんなにも傷つけてしまった。
 
 もう離したくなかった。
 
 
 「ア、アキト・・・・・・痛いよ」
 
 
 イツキから声が上がるがそれでもイツキを抱きしめ続けてしまった。
 
 観念したのか、イツキはもう声は上げずに抱きしめ返してくれた。
 
 そうしながら何分が過ぎただろうか。
 
 そっと腕の力を緩めるとイツキがすっと体を動かし、顔を俺の顔の前までもってきた。
 
 数センチだけ離れているが少し動かせば、口づけできる。
 
 
 「アキト・・・・・・わたしいてもいいよね?」
 
 
 答えは・・・決まっていた。
 
 そのまま答えずに軽く口と口が触れた。
 
 本当にほとんど触れるだけのキスをした後
 
 
 「・・・・・・愛してる・・・・・・誰よりも」
 
 
 イツキへの初めての愛の言葉。
 
 こんなにも自然に言えるなんて思いもよらなかった。
 
 
 「・・・・・・もう一回言って・・・・・・」
 
 
 「だめ」
 
 
 「なんで?」
 
 
 「恥ずかしいから」
 
 
 「いつ言ってくれる?」
 
 
 「・・・じゃあイツキが言ってくれたらいいよ」
 
 
 「・・・愛してるよ、アキト」
 
 
 「オレもだよ、愛してる」
 
 
 何度もお互いに愛の言葉を言う度に、キスをする。
 
 
 「・・・・・・しよっか?」
 
 
 「・・・・・・エッチ」
 
 
 「だめかな?」
 
 
 「・・・・・・いいよ、しよ」
 
 
 おもむろに服を脱ぎ出そうとする。
 
 しかし・・・・・・
 
 
 「ヤッホー、アキトお話しよー」
 
 
 ユリカさんが・・・・・・来てしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 後書き
 
 どうも十二の翼です。
 
 「どうも親父です」
 
 いつになくやせ細っていますな。
 
 「あれのせいで飯が食えずに、吐いてばっかりいたからな」
 
 自業自得です、はい。
 
 「お前がどんどん新たな生命体を生み出すからなあ」
 
 仕方ないです。イツキの料理のせいです。
 
 「また紫苑とかいう奴出しやがって」
 
 ちなみに生命体が出たら対戦してもらいますので。
 
 「なにーーー!!」
 
 タイトルマッチです。頑張ってください。
 
 「い、いやーーーーー!!」
 
 あ、逃げた。逃げてもどうせ闘うことになるが。