時の流れに番外編

 

 

 

ナデシコ的三国志

 

 

八話、曹操周瑜に火攻めを受け、大敗を喫する前編

 

 

 

前回までのあらすじ

 

 

 

”連環”で水上の安定化を測る曹操軍を一挙に壊滅すべく呉は火計を提案。

老将黄蓋は偽の投降文で曹操に降伏を嘆願、これに成功する。

東南の風が吹きやすい12月を決戦の日として選び、万全の体制を敷いた。

曹操、劉備、孫権、三国志の主役達の野望と想いが錯綜する中、

赤壁の戦いはいよいよクライマックスを迎えようとしていた。

 

 

 

「ねえ、襄陽へ戻らないって本当なの?。」

 

陣幕に座っている、後にナデシコA(漢魏)で五強の1人と呼ばれることになる張コウライザが、傍らにいる男に

質問した。

男の名は夏候淵テツヤ

真紅の牙と呼ばれるナデシコA譜代の猛将である。

 

「ああ、獲物を目の前にしておめおめと引くつもりはねーよ。」

 

「獲物?。

 劉備サラのこと?。」

 

「違う違う。

 趙雲アキトとかいう新参だ。」

 

「ああ、長坂で暴れまわったあの。

 艦長さんがお気に入りだったわね。」

 

テツヤに言われてようやくライザはアキトのことを認識した。

やはりアキトの知名度はまだまだ低い、ライザの言いまわしがそれを物語っている。

 

「でもあんたがここにいるの誰も知らないじゃない。

 もし見つかったらいくら一族でも処罰を受けるわよ。

 任務放棄なんだから。」

 

実はテツヤは蔡瑁ムネタケに嘘をついていたのだ。

曹操ユリカからの命令ではなく、独断で烏林へ来ていた。

 

「かまいやしねーよ。

 だってもうこっちの勝利は確実だろうが。

 黄蓋ゴートが降伏してくるんだろ?。

 譜代の武将に裏切られちゃあもうネルガル(呉)は落としたも同然よ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ならいいんだけど)。」

 

楽天的なテツヤとは裏腹に、ライザは不安な表情をしていた。

確かに長期化でネルガル全体に忍耐の限界が来ているのは事実である。

だがこちらにも長江という天然の要害と疫病による戦力低下で攻めることができないのもまた事実である。

果たしてこれを簡単に信じていいものだろうか。

また劉備サラはどう出るのだろうか。

それに最近かくまった劉備サラ側の参謀、徐庶チハヤもなんのコメントもしてこない。

彼女がこちらに降ると言ったことに嘘はないはず。

だがそれにしては沈黙しすぎである。

参謀は先を読んで言葉を発してこそ参謀である。

この言い知れないギクシャクした状況にライザはどうしても心が冴えなかった。

 

「そういやお前最近劉備側の参謀を引きこんだらしいな。」

 

「当然よ、私周りから軽視されがちでしょ。

 ここでひとつ大きな強みを持っておかなきゃ。」

 

ぶっきらぼうに答えるライザを見て、テツヤは苦笑するだけだった。

 

「なるほどな、ま、この戦が済んだら紹介しろや。

 なにしろ官渡の戦いでおまえの投降を口添えしたのは俺なんだからな。

 俺だって仲間だろ?。」

 

「ええ、でも人見知りする子だから気を使ってよ。」

 

だが、この出会いがチハヤにとっては望んだものであり、テツヤにとっては自らの首を絞めることになる。

それはこの戦いから11年後のこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

「エックション!!。

 あ〜、さすがにこの時期のダイビングはきいたな(汗)。」

 

趙雲アキトが愚痴をこぼしていた。

自分が降伏の品になっていたためいてもたってもいられずこっそりネルガルの使者、關沢サユリ

についていったのだ。

だが勘違いをした(笑)サユリと一緒に長江に落っこちたのだ。

鍛え方が違うとは言え、さすがに早朝の水の冷たさには参ったようだ。

そして秘密裏に樊口へ戻ってきた。

名残惜しそうなサユリを元気付けてからのことである。

 

「ふー、サユリちゃんの話だとうまく行きそうだし、後は決戦を待つばかりと・・・・・・・・・・・・や、やあみんな。

 出迎えてもらえるなんて嬉しいけど、どうして怒ってるの?(汗)。」

 

アキトの視線の先、樊口の宮殿前には劉備サラ、諸葛亮ルリ、張飛アリサ、関羽シュン、伊籍レイナ、そして

1人呆れ顔の関平カズシがいた。

 

「お疲れ、アキト。

 どこ行ってたんだ?。」

 

「え、ええ、ちょっと密偵に。」

 

「ごまかしても駄目よ、アキト。

 あなた単身ナデシコAに行ったんでしょ?(怒)。」

 

気合が入りまくりの表情をするサラに続いて今度はルリが口を開いた。

対照的な涼しい顔、いや、涼し過ぎる、絶対零度の表情だった。

 

「それで向こうの女性を引っ掛けてきたわけですよね(怒)。」

 

「!?シュ、シュン隊長!!なんで話したんですか!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!?。」

 

気付くのが少し遅かったらしい、そう。アキトはかまをかけられたのだ。

 

「アキト君、敵陣でナンパとはいい度胸じゃない(怒)。」

 

「ちょ、レイナちゃん!?。

 違うよ。確かに烏林に行ったけどそんなことしてないよ、つーかそんな余裕あるわけないだろ!!。

 ただ俺はサユリちゃんと長江にダイビングしただけで。」

 

この言葉にアリサが反応した。

 

「アキトさん・・・・・・・・・・・・・・私というものがありながらサユリさんと駆け落ちですか!!(怒)。」

 

「アリサ君、それを言うなら無理心中だろ。」

 

1人冷静なカズシが突っ込みを入れたが誰も反応がない(笑)。

それにしてもシュンも怒っているのはなぜだろうか。

 

「そりゃあアキトをかばって逆さ釣りにされたんだから怒りもするだろう(怒)。

 それにネルガルの娘と駆け落ちとくればなぁ(怒)。」

 

「だから違うんですって!!。」

 

「アキトさん・・・・・・・・・・・・・・・・言うことありますよね?。」

 

ルリの迫力を前にしてアキトはついに観念したようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい(またこのパターンか)。」

 

 

 

 

所変わってネルガルの前線、陸口。

決戦向けての作戦を最終段階へ持っていくため、ネルガルの重臣達が群議に参列していた。

上座には右都督の周瑜ラピスと左都督の程普ダッシュがついていた。

ラピスがにんまりとしながら切り出した。

 

「さあ、ついに決戦だよ!!。

 曹操ユリカはゴートさんの投降文を信じたわ、まあ内容には私今も不満だけど。

 サユリさんの話だとかなり乗り気らしいし、うまく行くこと間違いなし!!。」

 

烏林から戻ってきたサユリも群議の席に参列していた。

彼女からの話によるとこの投降を疑っている人間もいたという。

その1人が賈クヨシサダ、切れ者として名高い外様出身の参謀である。

余談だが賈クはこの呉討伐にも直接戦闘は反対だったと言われる。

戦闘するより兵力に任せて圧力をかけたほうがいいというのだ。

だが荊州制圧の余勢を活かしたい曹操はこの献策を受け入れなかった。

 

「鋭く突っ込まれて結構あぶない所だったんですよ。

 けど艦長は投降を信じきってたようですから大丈夫だと思います。」

 

サユリの思いますという言動は本来信じていいものではないだろうが、誰も不安の色は見せなかった。

なにせ投降の品がなのだから(笑)。

 

「で、問題は投降をいつにするということだが。」

 

実行役となるゴートが渋い顔をしている、いつも渋いが。

 

「12月の頭くらいだよ。

 東南の風が吹く時を狙うの。

 だから具体的に日時はナデシコAに教えなかったんだから。

 重臣が密かに投降するんだからね、日時がはっきりしないのは不自然じゃないでしょ。

 で、気温が高い時の夜半、恐らく風が吹くよ。」

 

『劉備サラ達には何を指示するんだい?。』

 

ダッシュの質問にもラピスはすでに答えはできていた。

 

「うん、ユリカに陸へ逃げられた後の追撃をやってもらうよ。

 もちろん最初ので仕留められれば越したことはないけど。

 しぶとさは銀河一だからね。

 それにサラ達も水上には不慣れだからね、いられるとかえって邪魔だし。」

 

『その後の僕らの行動は〜?。」

 

「長江を遡って江陵へ向かうの。

 ユリカがもしサラ達の攻撃から逃げ切れば間違いなく江陵へ向かうでしょうからね。」

 

次の手を次々打つラピスの深慮遠謀に周りは感嘆の表情をしていた。

だがそんな雰囲気もこの男の手により見事にぶち壊された。

 

「いやぁ、悪い悪い!!。

 遅れちまったよ!!。」

 

皆が白い目で入ってきた男を見ている。

悪びれてないこの能天気な男は呂蒙ジロウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃなくガイ。

ネルガル屈指の猛将で、横野中郎将の地位にある。

後に全軍の指揮官となり関羽討伐で見事な知略を発揮する彼だが、この時期は知略とは無縁の

武勇一辺倒男だった。

 

「ヤマダ、時間厳守と言ったはずだぞ。」

 

「だからそれは仮だって言ってるだろうが!!。

 俺の本当の名はダイゴウジグバ!?。」

 

誰かが後ろから竹簡を投げつけた。

かなりの威力だったらしく完全に落ちたようだ(笑)。

投げたのは黒い髪をした美しい女性だった。

 

「ナデ三では呂蒙ガイだろう(苦笑)。

 苗字は不要だ。

 皆様、遅れてすみません。

 この男を捜すのに手間取っていまして。」

 

「いやいや、彼を探すのは一苦労でしたでしょう。

 ご苦労様でした、万葉さん。」

 

魯粛プロスがねぎらいの言葉をかけた女性の名は陸遜万葉

後に呉の大黒柱となる無双の将軍だが、今はまだ無名の存在だった。

 

「ねえ、大丈夫なの?。

 血が出てるけど。」

 

ラピスはびびっていたが、他の人間達は別段代わった様子はない。

全員を代表してゴートが口を開いた。

 

「心配はいらない。

 すぐに目を覚ます、ほら。」

 

すると何事もなかったかのように、ガイは立ち上がり万葉に文句を言い出した。

 

「おい、竹簡なんか投げるな!!。

 死ぬかと思ったろうが!!。」

 

「群議に遅参しといて言う台詞ではない。

 昼寝していてどう弁解するつもりだ?。」

 

「そ、そりゃあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、皆怒ってる?。」

 

全員が憤怒の表情でガイを睨む、お仕置きが決定した・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

再び樊口、サラ達もまた決戦に向けての群議を行っていた。

なぜかアキトはしばられているが(笑)。

司会のルリが話を進めた。

 

「いよいよ、決戦が近いです。

 で、単刀直入にすれば予想すれば、恐らく私達の役目は陸路に逃げた艦長達の追撃だと思われます。」

 

「追撃?。

 艦長が逃げ切ると?。」

 

シュンの質問は最もな所である。

 

「もちろん、艦長はネルガル自身が討ち取りたいでしょうけど、万が一ということもあるということです。

 そのための保険です、私達は。

 もし私の予想が正しければですが、ネルガルはそのまま水路で江陵へ向かうと思います。

 これが何を意味しているのか、ネルガルは最悪私達が艦長を逃してもいいと思っているのです。」

 

これにレイナが声を上げた。

 

「ええ!!、どうして!?。

 艦長を討ち取れなくてもいいって言うこと?。」

 

「艦長を討ち取ったからといってそれでナデシコAはおしまいでしょうか。

 違います、それで広大な領土をすぐにものにできるものではないということです。

 一族も多いですし、後継者はいるんです。

 確かに艦長の才覚は彼らにとって大きな存在です。

 ですが優秀な家臣達が一致団結されれば艦長がいる時となんら変わらない状況となるでしょう。

 だからネルガルはそれも見越して江陵へ向かったのです。

 いわゆる荊州の中部分である南郡の要地を手に入れるために。」

 

「ネルガルは荊州を手に入れたいということか。」

 

シュンの発言にルリは強く頷いた。

 

「はい、確かラピスやプロスさんは荊州を拠点にして益州を手に入れ、艦長と対峙するという

 銀河(天下)二分の計を献策しています。

 そう、私が発案した策、銀河(天下)三分の計の障害となる危険な策を。

 彼らはそのために私達に追撃させようとしているのです。

 自分達の方が早く荊州制圧に動けるように。」

 

「じゃ、じゃあどうするのよ!!、このままじゃ江陵に行かれちゃうじゃない。

 断るわけにもいかないし。」

 

焦るサラをルリは白羽扇で制した。

 

「ご心配には及びません。

 確かに江陵をとられる可能性が高いですが、それに代わるものを私達も手に入れればいいわけです。

 そう、大儀名分をもって、そして私達自身の力だけで。」

 

ルリの笑みに全員がいぶかしむだけだった。

そんな中、アキトだけがなにやら1人で騒いでいた。

 

「あやうなあをとえーーーーーーーーーーーーーー!!

 (早く縄を解けーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

襄陽、ユリカによる制圧から2ヶ月、もう人心は落着き、劉表フクベ健在中と代わらぬ穏やかな町並みが

戻っていた。

その中に徐庶チハヤがいた。

進んで任地代えを申し出、戻ってきていたのだ。

無論、ネルガルの焼き討ちを予期しての保身のためである。

 

「勝手なものね、人間て。

 艦長が襲ってきた時は、皆してサラさんを聖人扱いしていたくせに。

 政治がまともだと手のひらを返したように変わらない生活して。

 彼女が死んだりしてもきっと何にも感じないでしょうね。」

 

1人でぼやいていたが、心では別のことを考えていた。

 

「(ライザの話だとあいつは襄陽の後詰のはず。

 ならここに駐屯している可能性は極めて高いはずだけど。)」

 

彼女は襄陽の宮殿に向かい、探している男のことを官僚達に聞いた。

だが答えは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

 

「ゆ、行方不明?。」

 

「は、はあ。

 ある程度のことだけ部下に任せてどこかへ消えてしまわれたそうです。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさかライザの言っていたムネタケのとっておきの監視って!?。」

 

彼女は目的の男、テツヤと入れ違いになってしまったことに気付いた。

だが彼らはそう遠くないうちにであることになる、なぜなら彼らは同じ君主に仕えているのだから。

赤壁の舞台の裏側で、人の情念が錯綜している。

赤壁の戦いまでわずか2日前のことであった。

 

 

八話中編へ続く

 

 

ドクターイネスの三国志講座

 

皆さんこんにちは、ナデシコ医療班及び科学班担当のイネスです。

今回は前中後の三分作で行くと作者から宣言があったので、3回に渡って今回の舞台になっている赤壁の戦い

について語ろうと思うわ。

興味のある人は聞いていってね。

 

赤壁の謎1、赤壁の位置

赤壁の戦いは三国志中最も有名な戦いであるにも関わらず、架空説がささやかれているの。

その理由として赤壁の位置が今だ定まっていないということが上げられるわ。

有力と呼ばれる場所だけでも数カ所あるらしいのだけど、一番有力なのは中国湖北省と湖南省の境にある

長江中流域の地点。

ところがここから炭化層が出てこないらしいの。

すなわち大規模な山火事、火計の形跡を見出すことができないということ。

例えば、かの織田信長が比叡山延暦寺を焼き討ちしたという根拠の中にはこの炭化層の出土が必ずもりこま

れているはず。

そういう部分から、赤壁の戦いが架空と呼ばれているわ。

 

赤壁の謎2・疫病により撤退?

史実から曹操軍では慣れない気候のため疫病が発生し士気が低下したというのがあるわ。

そのため実は戦う前に曹操は自ら兵を引いたのではないかという説もあり、呉の戦闘による勝利を否定する

根拠でもあるの。

この疫病がいったいどういう種のものであるかははっきりしていないわ。

一応寄生虫説と、マラリア説が浮上しているけどやはり決め手にはかけてるわね。

ちなみに月間マガジン掲載中の龍狼伝ではセルカリアという血管に巣食う虫を原因にしているわ。

しかしこの疫病が荊州兵にかかったものなのか、それとも北からの直轄軍にかかったものなのかもはっきり

していないわ。

 

赤壁の謎3、戦死者がいない

少なくとも演義を見る限りでは、すさまじい焼き討ちと劉備達の先を見越した追撃でばたばたと死んでいく

曹操の兵士達。

所が、彼らには将軍で戦死したというものがいないの。

夷陵の戦いでは有名な馬良を始め、蜀の家臣達は多く死んだわ。

なぜ戦死者が全く記載されていないのか、例えばこれをかわきりに史実に現れなくなった将軍がいれば、

書かれていないだけだと思えるかもしれないのだけど、特別そういう人物はいないわ。

演義にさえ見られるこの戦の激しさと戦死者がいないというギャップが、架空説の根拠の一つになってるの。

 

どうだったかしら、最も有名な戦いなのに最も謎が多い赤壁。

ではまた。こうして私は赤壁まで出番なしか・・・・・・・・・・・・・・・・恨んでやるわ、作者!!(怒)。

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

3104さんからの連載第八話の投稿です!!

いや〜、最終決戦に向けて用意が整いつつありますね。

しかし、アキト・・・お前、敵陣でナンパまでしたのか?(笑)

さすがに、余裕だな(爆)

そりゃあ、シュンさんも怒るって。

で、意外だったのが万葉。

なんと、北斗を差し置いて優華部隊で一番で登場です!!

う〜ん、おかげでガイの登場シーンが弱くなってるな(苦笑)

 

では3104さん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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