ある日の午後・・・と言ってももう夕方だが

雪谷食堂にお世話になっていた、テンカワ・アキト君はこの日

たまの休みをサセボシティ近くの草原ですごしていた・・・

休みと言ってもお金は無く、遊びなれてもいないので、何時もなら部屋でおとなしくしている所だが・・・

なぜかこの日はここに来なきゃ・・・と言う気がしたのだ


ここは約一年前、アキトが倒れていた草原

火星のユートピアコロニーの地下シェルターにいたはずなのに何故かここにいたのだ

そして今、アキトはあの時と同じ場所に寝転んでいた


とはいえ、もう遅いのでそろそろ帰らなきゃ、と思い始めたとき

誰かの泣き声が聞こえてきた・・・こんな所で誰だろう?

それも、さっきまで誰も居なかった筈なのに・・・

アキトは起き上がり、泣き声のする方に歩き始めた



この日、西暦2196年10月はじめ


第一次火星会戦から一年、この頃の地球は木星蜥蜴の攻撃にさらされていた

それまで密かに進められていた、ネルガルによる『スキャパレリプロジェクト』が
プロスペクター、ゴート・ホーリーのコンビにより、人材集めなどが最終段階に入ったのもこの頃である

後の歴史に大きく影響を与える「機動戦艦ナデシコ」が発進するまであと二ヶ月を切っていたが・・・


それに大きくかかわることになる彼、テンカワ・アキト君はこの時そんな事など知る由も無かったのであった。

 

 

機動戦艦ナデシコ

ラピスの想い



〜第一話「そして再び貴方と出会う」〜



By 三平

 

 

見ると、女の子がうずくまって泣いていた・・・

桃色の髪をした十歳〜十二歳くらいの子だろうか?

水色の変わった服を着ているようだ

いずれにせよほおってはおけない気がしたアキトはその少女に声をかけた

「どうしたの? こんな所で泣いたりして・・・」

その少女は、はっとしてこちらに振り向いた

振り向いてアキトを見るその涙にぬれた金色の瞳は、桃色の髪と相まってどこか神秘的に感じられ
アキトは一瞬どきりとした・・・が、次の瞬間


「アキト・・・アキト〜!!」


少女はなぜかアキトの名前を呼ぶと抱きついてきて・・・
そして抱きついたまま、また泣きだした

「!!・・・・・・」

アキトはまだ未成熟とはいえ、柔らかな少女の体やふくらみを押し当てられドギマギと・・・・・・じゃあなくて(爆)

アキトはとまどっていた、なぜこの子が自分の名前を知っていたのか?
そして何よりアキト自身がこの子の事を、以前から知っているような気がしたから・・・

この子には会った事はないはずなのに・・・・・・

それでもこの子の事をほおっておけない気がしたアキトは
安心させてやるように、やさしく頭をなでてやっていた・・・その子がおちつくまで






アキトは、ワタシが泣き止むまで一緒に居てくれた・・・

でも、次にアキトが言ったことは信じられないことだった。


「そろそろ遅くなったし送っていくよ、君の家はどこだい?」

「!!アキト何を言っているの? どうしたの? わからナイヨ!」

「わからないって・・・・・・そう言えば君はどうして俺の名前を知ってるの? そういう君の名前は?・・・」

「ワスレたの!? ワタシのこと」

「忘れたも何も、君に会うのはこれが初めてのはずだけど・・・」

アキトは申し訳無さそうに言う


ワタシは信じられなかった・・・ううん、考えたくなかった・・・・・・でも気づいてしまった・・・

この人はアキトだけどワタシの知ってるアキトじゃナイ

五感を失ってないし感じもチガウ、ワタシの事も知らないと言う・・・じゃあワタシの知ってるアキトはどこ?



そこまで気づいたとき、ワタシは思い出していた・・・あの時のこと・・・

ホシノ・ルリに追われ、ユーチャリスのジャンプの時アンカーを打ち込まれたこと

ジャンプのシステムが暴走し、アンカーを切断するためにアキトがケーブルに体当たりをして・・・

そのときアキトは・・・・・・


「・・・・・・すまないラピス・・・オレはもう一緒にいてやれない・・・」

リンクを通じてアキトの気持ちが伝わって来る・・・せめて一人になっても強く生きてほしいと・・・

「イヤだよ、アキト、アキトーッ!!」

ラピスのさけびもむなしくアキトの気配は消え・・・

ユーチャリスはランダムジャンプで飛ばされ、ラピスもその時意識を失った

気が付いたらこの草原にいたのだ・・・・・・

 

 

もうアキトはいない・・・認めたくない現実に、ラピスは気づいてしまった

また泣きそうになってくる・・・

「ご、ごめん、何か気にさわったかな? 泣かせるつもりはなかったんだ・・・」

もう一人のアキトが心配そうに声をかけてくる


ワタシは名前を言った、せめてもう一人のアキトにはワタシのこと
知っていてほしかったから? どうしてかワタシにもわからない・・・

「ラピス、 ラピス・ラズリ・・・・・・ワタシの名前だヨ・・・」

「ラピスちゃんか、いい名前だね・・・」

もう一人のアキトがそう言ってにっこり笑ってくれた・・・

ワタシはアキトのこんな顔は始めて見た・・・
理由はわからないけど、こんなアキトを見てるとワタシも嬉しくなって来た

「ラピスちゃんじゃないヨ、ラピスだヨ・・・」

アキトにはラピス、とだけ呼んでほしい。だってアキトがつけてくれた名前なのだから・・・
ワタシの気持ちがわかってくれたのか、アキトは・・・

「ごめん、じゃあ『ラピス』だね」

そう言ってくれた・・・


この時、二人の間には新しい絆が出来はじめたのかもしれない








「チョッと待てーいアキト、お前何考えてるんだ!?」

ここ雪谷食堂では、さすがに店主のサイゾウさんがあきれていた・・・

いや、すこし怒気も含んでいるかもしれない


「イヌネコ拾ってくるのとは訳が違うんだぞ!! わかってるのか?」


いったいどこの世界に女の子拾ってくるやつがあるか・・・
だいたいアキトも居候の身なんだぞ、サイゾウは思う

「すいません、迷惑なのはわかってます。だけどこの子の事をほっとけなかったんです・・・」

アキトの話だと、この子は育ててくれていた人と死に別れ、身よりも帰る所もないらしい

その子を見ると、いかにも訳ありといった風だ

「だが、ふつうこういうのは警察に届けるなり施設に預けるなりするもんだ・・・
 百歩ゆずってお前がなんとかするにせよ、まだじぶんの世話も満足にできない半人前のお前がだなあ・・・」

この場の空気を敏感に察したのだろう、桃色の髪の少女が慌てて口を開いた

「おねがい、ワタシをアキトのそばに居させて、アキトから離さないで・・・」

その子はアキトの影に半分隠れてすがりつくようにして言う・・・捨てられた子犬が訴えるような目をして・・・

『はあ〜〜っ』サイゾウはため息をつくようにおおきく息をはきだした
どういう訳か、その子はアキトにすっかりなついているようだ・・・いったい何をしたのやら


「・・・アキト、何かあった時の責任は全部もてるか?」

「!!親方、それじゃあ・・・!」

「勘違いするな、置いてやるだけだ・・・それに何かあったらお前も一緒にたたき出すからな・・・」

「ありがとうございます、親方」

アキトは素直に喜んでいるようだ

見ると、その女の子『ラピス』もアキトに抱きついて喜んでいる・・・アキトの名を呼びながら


・・・おれもたいがい甘いなあ、だいたい何かあったときは結局おれが責任とらにゃならんだろうし

だが、それをいうなら一年前にアキトを拾ったときからそうだったんだろう・・・まあいいさ

それにこの二人、アキトとラピスの様子を見ていると、ついさっき会ったばかりとは思えない縁というか絆のようなものも感じる

これを引き離すのは何か無粋なようにも思える・・・


「二人とも腹減ったろう、何か作ってやるからとにかく飯にでもするか」


よほどお腹が空いていたのだろう、ラピスの食べっぷりは気持ちのいいほどだった

そんな風景を見ながらアキトは、どことなく嬉しそうに見える

しかしそれにしても・・・・・・

『アキト、おまえロリコンじゃないよなあ?』

サイゾウは心の中でつぶやいた

 

 

 

ラピスがどこで寝るのかでひと悶着あったあと

結局アキトと同じ部屋でアキトの隣で寝ることで落ち着いた・・・

ちなみにラピスの希望である

さすがに布団は別々であるが(当ったり前だって)




「おやすみ、ラピス」

「うん、おやすみアキト・・・」

アキトが布団をかけてあげると、疲れていたのかそれとも安心してくれたのか

ラピスはすやすやと寝息を立てて眠り始めた


そのラピスの寝顔はとても幸せそうだった

それを見て、なぜか心が安らぐアキトだった

「ふわあぁぁぁ〜あ、今日はいろんな事あったしつかれたな・・・」

アキトも疲労がたまっていたのだろう・・・
横になるとすぐ眠気が襲ってきて眠りの世界に入って行ったのだった




『ここは・・・?』

アキトは何も感じない・・・光も、音も、においも何も・・・

いや、自分が何をどうしているのかもわからない・・・?

それなのに・・・いや、それだからか重苦しく感じる・・・どうしてなんだ?

『それは、五感がないからさ・・・いまはオレと感覚を共有しているからな』

!!誰かの声が聞こえる・・・いや、頭の中に直接響くような感じか?

『だれだよ? 何でこんなことを・・・!!』

『・・・接触できたのは偶然だ、だがそのおかげで今なら頼みごとができる・・・・・・』

『頼みごと?』

アキトは思わず聞き返す

『ラピスのことを頼む・・・その事が心残りだったんだ・・・』

『じゃあ、お前があの子を残して逝ってしまった奴なのか?』

俺の質問にそいつは自嘲気味に答えた

『・・・ああ、オレはラピスを復讐のための道具にして散々利用したあげく、何もしてやれなかったろくでなしだ・・・』

俺は、初めはこの理不尽な状態にとまどっていたが、だんだんこいつに腹が立ってきた


『勝手な事言うな、ラピスを道具あつかいして何をいまさら・・・』


『・・・虫のいい話なのはわかっている。だが、オレじゃ駄目なんだ・・・血に薄汚れたオレでは・・・それにもう・・・・・・』

そうだった、こいつはもう生きてないんだ・・・

『・・・あんたに頼まれなくても俺がラピスの面倒はちゃんと見てやるよ、だから・・・・・・』

『それだけじゃ駄目だ、ラピスはマシンチャイルド、道具として作られた存在なんだ、いつかやつらにねらわれる・・・
 だから守ってやってほしい・・・そのために必要な力をおまえにやる・・・受け取ってほしい・・・・・・』

『やつら? やつらって・・・それに力って・・・』

と、言ってるうちにだんだん気が遠くなって行くような気がする・・・

『・・・もうこうしていられる時間がないか・・・そのうちわかる・・・あと、勝手ついでに
 ラピスに人間らしい感情を教えてやってほしい・・・人形でも道具でもなく人間らしく・・・』

アキトに聞けたのはそこまでだった・・・

最後に、それまで見れなかったあいつの姿を見たような気がした

全身黒ずくめでバイザーをかけた・・・どこか自分に似てるあいつを・・・・・・

 

 

「はっ、はあはあはあ・・・夢か・・・・・・」


「アキトどうしたの?」

アキトの様子に心配で目が覚めたのだろうか? ラピスが声をかけてきた

「何でもない、ちょっと夢をみただけだよ・・・」

「ユメ? どんなユメを見たの・・・」

興味をもったのかラピスが聞いてくる・・・アキトは当たり障りのない答えを返すことにした

「ラピスのことたのむ・・・だってさ・・・・・・全身黒ずくめの奴だったかな?」

「!!アキト・・・」

そう言うと、ラピスは急に黙り込んでしまった

うーん、まずい事言ったのかな?


「アキト、アキトはもうドコにも行かないよね?・・・」

初めて会ったときのような不安な表情・・・それは何かを恐れているようにも見える

「俺はどこにも行かないよ、だから安心してお休み・・・」

ラピスはやっと安心したのか、また眠り始めた・・・

その寝顔を見ながらアキトはさっきの夢を思い出す

『ラピスを守ってやってほしい・・・』

その言葉にあの時守れなかった女の子『アイちゃん』の事がダブる・・・

今度こそ守ってみせるさ・・・今度こそ・・・・・・

夜明けまではもう少しだった






つづく



あとがき

ほんとは、このあとのアキトとラピスの雪谷食堂での日常生活?を書くつもりだったのですが、このまま続けても

うまくまとめられない気がしたので次回にもちこしです。 次でナデシコ発進まで行きたいなあ・・・

書いたもの読み返して・・・僕は文章力ないなあ、と、痛感しています。でも書きたいので書くのだ・・・

あと、僕は自分の中のルールとして、逆行物だけは書くまいと思ってたんですが・・・これって逆行物ですよね?

ただ、逆行者はラピスだけだしこのあとナデシコで、何が起こるか知っている人間いないからまあいいかな、と

(個人的には逆行物は大好きです。読むのは、だけどアキトが答えの知っている問題の回答を先回りして
 答えまくるのもどうかな? と思うこともあったりしまして・・・こういうのはどうなるかなあ・・・)

あと、設定のなかにケインさんのナデシコ学園からお借りしたものがあります。夢を見たアキト君がパワーアップする

内容ですが、ケインさん設定借りること承知してくれてありがとうございます。 もっともぼくはうまく使えていないですが

どうパワーアップしてるかは次回以降に、ということで・・・

そんなわけで、今回はこの辺で・・・さあ次は星界だ・・・

 

 

代理人の感想

 

黒アキト・・・・

どうせ夢に出るなら

ラピスの夢に出てやれよ(苦笑)。

 

 

書きたいので書くのだ・・・

 

まあ、SS作家なんてそんなもんですね(笑)。

と言うか、書きたくなければ書かないんだし。

もちろん、面白ければそれに越した事はありませんが(爆)。

 

後、代理人はアキトがどうナデシコに乗りこむかについて、

意表を突いてくれる事を結構期待していたりします(笑)。