西暦2196年12月下旬

ネルガルの『スキャパレリプロジェクト』はすでに準備は大詰めだった



必要な人材はほぼ集め終わっておりますし、あとはパイロットと艦長達が来ればいつでも出航可能ですね。

何が出航可能かって? もちろん『機動戦艦ナデシコ』がですよ

もっとも動かせればいいと言う物ではなく、その後が本番なのですが・・・

おっと、申し遅れました、私、プロスペクターと申します。

現在進められているプロジェクトの責任者として、ゴート君とコンビを組んで仕事をこなしてます

それも今は、詰めの段階ですが・・・欲を言うと優秀な人材はもう少し欲しいところですね
特にパイロットとオペレーターは不足ぎみですし・・・

優秀なパイロットは、現在戦争中で軍がなかなか手放してくれません。
これからもっとも必要と予想されるのですが・・・
少なくとも『サツキミドリ』であの三人を補充するまで、うまくやりくりしないと・・・・・・頭の痛い問題です。


オペレーターはホシノ・ルリさんがいますし、運用は問題ないのですが・・・・・・
ルリさんはまだ十一歳、一人だけでは負担も大きいですし、本当はもう一人ほしいところです

こんな言い方はしたくありませんが、ルリさんに万が一の事があった場合、かわりとなる人がいませんし
彼女の負担を軽くするために、せめてサポートできる人材がほしいところですがそれもなかなか・・・・・・
ナデシコのメインコンピュータのオモイカネは、ルリさんのような特殊な能力がないとその性能をうまく引き出せないようですし・・・

おっと失礼、パイロットにせよ、オペレーターにせよ、ないものねだりをしても仕方がありません。
ともかく前例のない事をやろうとしているのだし、今現状でできる事にベストをつくすだけですな・・・・・・

 

 

「ああ、そうそう、この近くの食堂は最近評判が良いそうですよ」

打ち合わせが終わり、サセボドックにもどる途中にプロスペクターが発言した
情報通なだけに、そういう噂や評判にも精通しているようだ

「・・・食堂ですか?・・・それでどうすると?・・・」

ゴートが真面目くさって重々しく聞き返す

「せっかく近くに来たのです。食べに行ってみませんか?」

「・・・ドックにもどってから食事を摂ってもよろしいのでは?」

ゴートは言外に時間のムダではないか?と言う

「いえいえ、これからナデシコが発進してしまえばそんな機会はしばらくありません。たまには良いでしょう」

そう言われてしまえばゴートも強く言うこともできない

「それに、こういうのは噂だけってことはよくありますが、本当においしいらしいですよ」

プロスはそう言うと、楽しみですね、という顔をした・・・・・・肩をすくめるゴート


だが、彼らはこの時はまだ知らない

その今噂の雪谷食堂で、大きな出会いが待っているということを・・・・・・

 

 

機動戦艦ナデシコ

ラピスの想い



〜第二話「雪谷食堂での日常・・・そして」〜



By 三平

 

 

もともと雪谷食堂は、主人の雪谷サイゾウの腕に定評があり、小さいながらも客も多く活気のある店だった

ところが、現在はというと・・・・・・

以前にもまして客が来るようになり、店は戦場さながらの忙しさだった

「おう、こっちはあがったぞ。アキト、餃子にチャーハン追加だ・・・・・・」

サイゾウさんどなるように言う

「嬢ちゃん、これ奥のテーブルな」

「ハイ」

桃色の髪の少女も忙しく働いているようだ

とてとてとてとて

足音が何とも軽やか(笑)

いつの間にか店の風景に馴染んでるかも



初めのうちは、ラピスは人見知りして人前に出られなかったのだが

今ではウエイトレスの真似事をするようになっていた。

ラピスはここでは役立たずだったのだ・・・・・・

アキトの五感をサポートする必要もなく、ユーチャリスでやっていた様にオペレーターをすることもない

この時期なら、ホシノ・ルリをも上回る実力のマシンチャイルドも、この小さな店では

宝の持ち腐れだったりする

それどころかお荷物か・・・もちろんアキトもサイゾウも、ラピスに役に立つことなど求めてなどいない

なにしろ彼女はまだ子供なのだから

だが、それではラピス自身の気が済まなかったのだ

自身の存在意義を感じ取っていたのかもしれないが

ともかくも、ここに来てラピスは現実を知ることになったのかもしれない

ユーチャリスにいた時は何でも出来て、アキトの為にどんな事でも出来たかもしれない

だが、実は地上では、この店では自分は何も出来ない、常識的な事は何もわからない、という事に


じつは、ラピスが自分でその事に気づいたのはすごいことかもしれない

でもその時のラピスは、はたから見ても落ち込み、焦っていた・・・そんなとき

「何を焦っているのかわからないけど、できる事を少しづつやればいいよ・・・俺だってまだ何も出来ない半人前だけどさ」

そう言ってラピスをはげましたのはアキトだった。

ラピスはアキトのその言葉とそして・・・そのやさしさに救われたのだ

そしてラピスは、改めてアキトの為にできる事をしようと思い、まずできる事、店の手伝いを初めたのだった

今ではすっかり店になじんでおり、客の一部からは人気もでて、ラピスは店の『マスコット』状態のようだ

そして、ラピスは今ではこの生活がとても楽しく感じていた。
ユーチャリスにいた時には感じたことのない楽しさと安らぎを・・・・・・
何故かはラピス本人にもわからないが・・・今はまだ・・・・・・ね


ところでラピスは気づいているだろうか? 彼女はアキトの言葉に救われたかもしれないが
アキトもまた、ラピスの存在に心救われているということを・・・


アキトは十年前に家族を失って以来ずっと一人だった
そのうえ一年前に、火星で木星蜥蜴の攻撃を受けたときに
出会って話もした少女アイちゃんも守ることができず、心に傷を負ったりもしていた

でも、ラピスと出会い、この食堂でサイゾウさんたちと一緒に暮らして行くうちに、だんだん心癒されていってるようだ

「家族・・・か」失って久しいそれを仮初とは言え、アキトは手にしたのかもしれない
アキトにとってラピスは今や大切な家族だった・・・・・・
今は楽しいな・・・この楽しい時間が何時までもつづくといいなあ・・・・・・と、アキトは思う

だが、この楽しく平和な生活も、まもなく唐突に終わりを告げようとしていた・・・
そのことに二人はまだ気づかない。無理はないが・・・・・・

それはともかくとして、この店が前以上に評判が良くなったのは、アキトの存在が大きかった

あの日以来、なぜかアキトの料理の腕は格段にあがったのだ・・・
舌の肥えた常連客だけでなく、新規の客までアキトのファンに付いたのだ

「おれの客まで取りやがって・・・」

苦笑しつつサイゾウさんがアキトにそう言う・・・もっともこれはサイゾウさんなりの賞賛だが

「・・・すいません親方・・・・・・そんなつもりじゃ・・・」

そう言ってアキトは照れたように笑う
その笑顔もまた良かったりする
最近アキトは、木星蜥蜴を怖がらなくなり、明るくなった
そのため笑顔を見せる事が多くなり、それにともない・・・・・・

「わあっ私ラッキー、アキトさんの笑顔が見られちゃった」
「アキトさん、また来たわよ・・・」
「テンカワさん、私ラーメン定食ね」
「ねえアキトさん・・・」


どういうわけか女性客が急増しているのだった(爆)
中には露骨にモーションかける女性もいたのだが・・・アキトは軽く受け流していたのだった・・・

「・・・おまえ最近もてるな・・・・・・」
そう言ってサイゾウさんがアキトをからかう(少しやっかみもこめて)

「そんな事ないですよ、俺なんて・・・それに彼女達に話しかけられると、なぜだかラピスが不機嫌になるんですよ・・・」

「・・・おまえ、それ本気で言ってるのか?・・・・・・」

処置なし、と、言った顔でサイゾウさんがあきれたように肩をすくめた

どうやらアキトは彼女たちを軽く受け流しているのではなく鈍感なのらしい・・・それも重度の(汗)

何を今更・・・・・・と、つっこみが来たりして(苦笑)

 

 

その日のお昼がおわり、ピークが過ぎたころ、一見さんの二人組のお客がやって来た

温和そうなメガネヒゲの中年男性といかつい顔のゴツイ大男であった
二人ともサラリーマンのようなので、店の噂を聞いて来たのだろう(実際そういう客は増えているので珍しくないようだ)


「へいらっしゃい、ご注文は?」

店主の威勢の良い声が聞こえる
入ってきたうちの一人、メガネの中年プロスペクターがすぐ答える

「ラーメンにギョーザ、それとチャーハンそれぞれ二人前で」

その注文を聞いた店長から厨房へ指示がとび厨房からも了解の返事がとぶ

「ゴートさんもそれでよろしいですね?」

「・・・ミスター、それは・・・・・・」

勝手に注文を決められ、ゴートさん少し不満のよう・・・
なんだかんだ言いつつも、この店に来たからにはメニューくらいは自分で決めたかったらしい

「その店の味をみるには、このオーダーがいいんですよ」


プロスが言う。その店の基本の味をみれば、本当に美味しいかどうかがわかるというものだ

 

「とはいえ、確かに勝手に決めたのは申し訳ありませんね・・・ここは言いだしっぺの私がおごりますから・・・」

「そこまで言われるのならば・・・ではあともう一品二品頼んでもよろしいですか?」

ゴートさん結構しっかりしているようですな・・・

「・・・いいですよ、お手柔らかにおねがいしますね」

それを聞いてゴートさんは、いかつい顔してメニューとにらめっこをはじめたようです。うーん真剣ですね・・・


やがて、ゴートさんから追加のオーダーが告げられ、しばらくすると初めに頼んだメニューが来たようです

とてとてとてとてとて

桃色の髪の少し変わった少女が運んできました・・・・・・えっ!?

私はその子を見て、つい驚いてしまいました・・・この子は一体?

その少女は、私の驚きに敏感に反応したようです。
どこかわずかにおびえの反応がみえます・・・

「申し訳ない、ついその髪の色に驚いてしまって・・・怖がらせるつもりは無かったのです・・・ごめんねお嬢ちゃん」

すぐにフォローしたのが良かったのか、その場はすぐおさまりました。その子もぺこりと頭をさげて行ったようです

「いや、悪かったねお客さん。あの子あの外見でしょう? たまに心無いお客さんもいてね・・・ああ見えていい子なんですよ」

店長がフォローをいれます。こういう事はたまにあるようですね

「いえ、こちらこそ無神経な真似をして申し訳ありませんでした」

こういうあいさつは、何気ないようでいて社会の潤滑油として大切な事です

まあ、それはともかくとして・・・正直わたしが驚いたのは髪の毛の色でなく(それも驚いた一部だが)
まさかこんな所で『マシンチャイルド』に出会うとは思わなかったからです。それもわたしの知らない・・・

調べてみないと判りませんし、そう決め付けるのは危険ですが、まず間違いないでしょう
もしそうだとしたら・・・調べてみる必要がありそうです。
あの少女はほしかった人材かもしれませんし・・・・・・

それにしても、ルリさん以外にあの世代のマシンチャイルドがいたとは
それより幼い世代のマシンチャイルドなら話くらいは聞いた事ありますが・・・・・・(さすがに詳しい事は知らない)

クリムゾンかそれ以外のどこかで同じような研究がされていたのでしょうか?
まあ、今はいいでしょう。 調べればわかるかもしれません

「おっといけない、ハンカチが・・・」

ちょっとわざとらしかったですかね、食事の途中で口をぬぐうふりをして落とすのは・・・
でも、のぞみの物はありました。 ハンカチをひろうついでにその桃色の髪もひろえました
あとは持って帰って調べてみるだけですね・・・・・・



「・・・ミスター、この味は?・・・・・・」

「おや、ゴートさんも気づきましたか?」

ゴートさんがこの料理の味で何か言いたそうです。続きをうながします

「なぜかナデシコ食堂で食べた味に似ている気がするのだが・・・」

「ああ、やはりそうですか・・・ただこの店の名誉のために言っておきますが・・・・・・」

たしかにこの料理、特にチャーハンはホウメイさんに似た味もあります・・・が、
ここの料理人のオリジナルも十分に入ってますね、むしろ食べ比べてみて初めてわかる程度です
味をぬすんだとか、そういうものではなさそうです

むしろ、同じ師匠に学んだとか、同門とか、そんな感じではないでしょうか?
ふむ、これを作った料理人に少し興味が出てきましたね、どんな方でしょう?

さすがのプロスペクターも、時空を越えたところでホウメイと料理人(アキト)が師弟関係にあるとは気づかないようだ・・・

私たちの座った場所から厨房まで少し距離があり、角度的に見にくい位置ですが、改めて見直します

店に入るとき、ちらりと見た彼はまだ顔に幼さも残る若い青年で、少し意外に思ったものですが・・・

「おじさん、彼に興味があるの?」

私たちの様子に興味をもったのか、隣のテーブルから女子高生らしい子が話しかけてきました

ふむ、ショートカットでメガネをかけた知的な印象の娘ですね
いかにも情報通といったおもむきもあります。ためしにたずねて見るのもいいでしょう。

「彼の名前はテンカワ・アキト、十八歳、火星出身とかいう話らしいわ。一年ほど前からこの店で働いて・・・・・・」

説明が好きなのか、この子はえんえんと『説明?・・・』

・・・なにか聞こえた気がしますがおいといて・・・・・・(汗)
私は内心の動揺を表に出さないようにするのに苦労しました(でもはたから見るとへーぜんとしてるが)

まさか、こんな所で彼と・・・テンカワ博士の忘れ形見と出会えるなんて思ってもみませんでしたからね・・・
たしか全滅したユートピアコロニーにいたと聞いていたのですが・・・何時の間に地球に来ていたのでしょう?
一年前といえば丁度時期が重なりますし・・・・・・ともかく調べてみる価値はありそうです


「・・・そうそう、今みたいに料理の腕があがったのは一ヶ月ちょい前からだったかな・・・・・・」

・・・まだ、説明してましたねこの子・・・・・・『説明・・・私も説明・・・・・・』

・・・どこかからまた幻聴が聞こえてきた気もしますが、・・・ほんとに気のせいだろうか?

「あの子、あの金瞳で桃色髪の子ラピス・ラズリーが現れたのも同じ頃だったわよね・・・まったくいつもアキトさんの側にくっついてるんだもん・・・」

なにやらその件ご不満のようですが・・・そうですか、あの女の子の名前はラピス・ラズリーですか・・・・・・

「さて、食事も済みましたし、そろそろおいとましますかゴートさん」

「ああん、まだ話は終わってないのに・・・」

「いえ、十分ためになりましたよお嬢さん。お礼にあなたの勘定もこちらで済ませておきますよ」

「ええっそんな、そんなこと・・・・・・」

予想外の反応にこのお嬢さん・・・

「そうとわかってたらもっと高いもの頼んでおいたのにぃ〜」

ずるっ・・・現金なものです

 

 

店の外に出ると、プロスぺクターは、ゴートに指示を出した
その表情はいつもの営業スマイルだが、目は真剣で笑っていなかった

「ゴートさん、この後の予定は変更です。まずあの二人の事をしらべてもらいます。できるだけ早く」

あの二人・・・今更誰の事を指すのか言うまでもないだろう

「了解」

ゴートの答えは簡潔だった

こうして事態はアキト達の知らない所で動き出した・・・そして
その事により、プロスやゴートの知らない所でも事態が動き始めることになるのだった・・・

 

 

ネルガルのライバル企業に、オセアニアを本拠地としたクリムゾングループというものがある

おもに兵器産業を中核としており、地球を守るビッグバリアやデルフィニウムなどもクリムゾン製である。

さらに余談だが、これとあと明日香インダストリーを加えた三大企業が現在の地球のビッグスリーらしい



まあ、そんなわけで、ネルガルのスキャパレリプロジェクトも互いに角突合せているライバル企業には気になるらしい
もっとも情報隠匿がされているためか、現在のところクリムゾンも詳細をつかみかねているようだが・・・・・・

そのため、情報収集のためにあちこちに諜報員を派遣しているようだ・・・・・・もちろんサセボ周辺にも


ここ、サセボシティに出張派遣されている諜報員は現在十数名・・・成果は挙がっていない

どうでもいいような情報ならいくらでも入ってくるのだが(ナデシコのクルーは民間人ばかりなので完璧な隠匿は無理)
肝心なことは何もわからないのだ。

これは、ゴートとプロスのコンビが隠匿する情報のポイントをしぼってプロテクトをかけているからだろう
いずれにせよ、成果があがらないために諜報員たち(正確にはリーダーが)にはあせりがあった

そんな中、張っていた網に面白そうな情報が引っかかった
すなわち『雪谷食堂にいる少女』に関するもので、どうやらマシンチャイルドらしいこと
その少女と保護者の青年をスカウトすべく、プロスとゴートのコンビが動き始めているらしいこと・・・などなど

本来ならこんな情報はもれないはずだったのだが、予定外の行動のためガードが甘くなったのだろう。


リーダー(仮に諜報員A)は現在指揮下にいる部下たちの中から荒事のできる腕利き三名、自身を含め四名集めた

「・・・と、いうわけで我々の手でこのラピスとか言う小娘の身柄を確保する」

「ちょっとまってくれリーダー、いま俺たちの仕事はネルガルの情報集めのはずだろ、ここでやつらとやり合うのはまずいだろう?」

そう問いただすのは諜報員C、ちなみに黒服にグラサンというあやしい(?)かっこである・・・もっともここに居る全員黒服のサングラスすたいるだが・・・

諜報員Bは苦笑して肩をすくめ諜報員Dは表情変えず黙っている
荒事できるのがこれだけしか居ないのは、元々情報収集部隊だからだろう・・・まあ相手が子供一人くらいなら問題ないが


「ここまで我々は、目に見えた成果を挙げることが出来ないでいる。多少無理をしてもここで成果を挙げる必要があるのだ・・・」


諜報員Bは何も言わず、皮肉をこめた目でリーダーを見て思う
要は己の無能を棚に上げ、腕力に物を言わせようと言うことか・・・・・・
だれだ、こんな奴を責任者にして派遣したのは・・・
諜報員Bが知っている『真紅の牙』のイカレたあの男ならこんな馬鹿な暴発しなかっただろうな・・・と思う
だからと言って彼はあの男が嫌いだし、ここにいてほしいとは間違っても思わないが・・・

 

 

夜もふけて、今日も雪谷食堂はカンバンのようだ
表に出てのれんをかたずけるアキト

その前に大きな黒塗りのセダンがとまり二人の男が降りてくる

「今日はもうカンバンですよ、お客さん」

気配で昼過ぎに来た二人だな、と気づいたアキトは振り返らずに、そう声をかけた
ちなみにあの夢を見た次の朝からなぜか五感が鋭くなり、こういう芸当もできるようになったのだった


「いえ、今回は食べに来たわけじゃないのですよ」

メガネの男、プロスペクターが言う

「今回はスカウトに来たのですよ、貴方をね、テンカワ・アキトさん」

その答えにアキトは、思わず振り返って問い返す

「!!あんたいったい何者だ?」

「失礼・・・わたくしこういう者でして」

そう言いつつプロス、名刺を差し出す

「ネルガルの・・・プロスペクター? 名前なんですか?」

「いや、これはペンネームみたいな物でして・・・」

さすがにアキトは胡散臭げにプロスたちを見て

「・・・俺に何の用かは知らないが帰ってくれ、俺はどこにも行く気はない!!」

「いや〜これは手厳しい、ですが話くらいは聞いてほしいですな」

気は進まないが、たしかにそうかもしれない

「だいたいネルガルがなんで俺なんかに声かけるんです? ほかに当てはあるでしょうが・・・」

「これはまたご謙遜を、テンカワさんの料理は最近評判がよいではありませんか」

と、言いつつ次はどう勝負のカードを切り出すか思案するプロス

短期間で集めた情報では、ラピスの保護者(?)がアキトであり、ラピスもアキトべったりらしいとわかっている・・・・・・

と言う事は、アキトを釣り上げれば、もれなくラピスもついてくるということだ
逆に言えば、現時点では二人を別々になど考えられない状態なのだが・・・


プロスは思う、アキトみたいなタイプは隠し事を嫌う
ある程度こちらの本心も明かし、信用してもらわなくては・・・・・・
とはいえ、どの程度こちらのカードを切るか・・・そう考えていると・・・

「とにかく今はそんな気は・・・・・・!!ラピス? サイゾウさん!?」

話の途中でテンカワさん急にあわてて店の中に飛び込んでいきました
なにがあったのでしょう?

二人にはわからない。だが、アキトは店の中におかしな気配を感じたのだ・・・


プロスはゴートに目配せすると、つづいて店のなかに入って行った・・・



「!!サイゾウさん、しっかりしてください、サイゾウさん!・・・・・・」

店のさらに奥、住居部分ではアキトが倒れた店主サイゾウさんを介抱していた
さいわい、怪我などはないようだが・・・・・・

「・・・すまんアキト、俺がふがいないばっかりにラピスちゃんが・・・あいつらに・・・」

サイゾウさん申し訳なさそうに言う・・・
黒ずくめの男達が裏口から侵入し、あっという間だったようだ・・・
お粗末な手口はともかく相手はプロだろう。素人ではどうしようもない・・・
命があっただけでも儲けものかもしれない

怒りのぶつけ所の無いアキトはプロスたちにそれをぶつけた

「これもあんたたちのしわざか?だとしたら・・・・・・」

アキトの殺気が強まる・・・すごい威圧感です。それに対してゴートが反論する

「勘違いするな、我々はあくまでスカウトに来ただけだ・・・そんなお粗末なことはしない」

「その通りです。あくまで相手の同意が前提ですから・・・」


ふう、納得はしてないようですがアキトさん、少しだけ収まったようです
それにしてもすごい殺気でしたね、どこでどうやって身につけたのでしょう?
とてもそんなふうには見えないですが、ゴートさんが居なかったら私も身動き出来なかったかも・・・

そのゴートさん、携帯で連絡おわったようです

「ネルガルのシークレットサービスを動かした。見つかるのは時間の問題だろう・・・」

「・・・ラピス・・・・・・」

 

とはいえじりじりと時間が過ぎ、重苦しい空気が流れるなか、とつじょアキトさん


「!!ラピス、ラピスなのか!?」


よくわからない独り言をはじめました・・・・・・何なんでしょう?

「・・・・・・わかった、すぐ助けに行くからもう少しだけがまんしてくれ」


「どうしたんですテンカワさん?」

私は当然の疑問をぶつけた

「ラピスの声が聞こえた・・・助けに行く」

「何をばかな・・・」

ゴートさん困惑のようです。気持ちはわかりますが

「助けに行く、と言って場所はわかるのですか?」

「ああ、理由はわからないけど感じるんだ・・・」

「・・・わかりました、ゴートさん車をまわしてください」

「本気で信じてるのですかミスター?」

ゴートさん、さすがにあきれているようです

「ほかに手がかりがある訳でなし、奇跡を信じてみましょう。今は神の奇跡でも利用しないと」

「神、だの奇跡だの当てにするのは流儀でないが・・・」

そう言いつつ、代案があるわけでもないゴートさん車の方にはしります

「あんたたちも来るのか?」

「そのつもりですが、相手はプロです。テンカワさんがどれくらい強いのかわかりませんが、勝てるのですか?」

「それは・・・・・・」

さすがに自信はないようです・・・でも私たちを信用しきれないのでしょう。

「どうするかは貴方達の意思を尊重します。信用しろとは言いませんが信頼してください」

テンカワさん迷っているようです・・・でも、ある一点でふっきったようです

「・・・・・・おねがいします。力を貸してください・・・俺はラピスを、ラピスを助けたい・・・・・・」

話は決まりました・・・

 

 

気が付いたらワタシは知らない人に囲まれて知らない車のなかにいた・・・
どうしてこんな所にいるのだろう? ワタシは思い出す

たしか、あのときお店の後片付けのあと奥の部屋にきたとき、いきなり口に何かをあてられて・・・

!?アキト、アキトはどこ?・・・ここにはいない
ワタシは・・・ワタシはアキトと離れ離れになってシマッタの?

そんな・・・そんなコト・・・

「どうやらこのお嬢ちゃん、目が覚めたようだぜ」

「おびえてるぜ、むりないか・・・」

「やめておけ、こんなちいさい子を怖がらせてどうする」

「おまえ、まじめだねえ、女好きなのは知っていたがこんなガキ相手でもそうなのか?」

「・・・そんなんじゃない、女好きは認めるが子供相手にこんなマネが気に入らないだけだ・・・」

ラピスには誰かわからないが、諜報員Bはそう主張した。
(だいたい俺はロリコンじゃないぞ・・・)そうも思っているようだ・・・気に入らないのも確かだが


そんな諜報員たちのやりとりはともかく、ラピスの心は沈んでいた・・・
このままアキトと引き離されてもう会えないかもしれない・・・イヤだ・・・ソンナのイヤだ

『アキト・・・アキト、アキトアキトアキト・・・アキト〜ッ』

ワタシは心の中でアキトのことを呼び続けた、いまのワタシにはそれしかできないから・・・
このままこれっきりなんて、もう会えないかも知れないなんてイヤだよう・・・アキト

『アキトォーッ・・・』


そのときワタシはなつかしい感じを感じた・・・もう一人のアキトとリンクしていた時のあの感じを・・・


『!!ラピス、ラピスなのか!?』


『!!アキト、アキトォ!』


理由はわからない・・・だけどワタシは確信した、いまワタシはアキトとリンクしているのだと・・・
決して一人ではないのだと・・・今まで沈んでいたのがウソみたいにワタシの心は踊っていた

ワタシは今どうしているかアキトに伝える
どこにいるのかもアキトにつたえる・・・アキトにはわかるようだ

『・・・・・・わかった、すぐ助けに行くからもう少しだけがまんしてくれ』

『うん、ワカッタ・・・待ってる』

ワタシはもう何も心配していない、アキトが迎えに来てくれる
こんなやつらアキトの敵じゃない、アキト早く来ないかな・・・・・・


諜報員達はさっきまで暗く怯えていた少女が
今は少しも怯えたようすが見られないのにいぶかしがったが・・・
まさかその少女が、いまはルンルン気分でお迎え待っているとは夢にも思わないだろう

まさに今のラピスは、王子様の助けを待つお姫様であった。・・・で、こいつら障害物ね・・・(哀れな)

 

 

 

少し時間が経過して・・・

アキトとプロスペクターたちは雪谷食堂より十数キロはなれた廃ビルの近くまで来ていた

どうやらここに間違い無さそうである・・・あやしいワゴン車もすぐ側にとめてある

「信じられん、本当にどうしてここがわかったのか?」

「自分でもわからない・・・感じた通りにきたとしか・・・・・・」

アキトがラピスがいると感じる方に指示を出し、ゴートがそれにあわせて車を運転したのだが
ほんとうにここについてしまったのだ・・・・・・

『本当に神の奇跡か?・・・馬鹿馬鹿しい、何か別の理由があるのだろう』
根が真面目なゴートはそう結論づける

それはともかく、アキトたちは廃ビルに突入すべきか否か思案していた

「相手の人数がわかりませんし、ここはシークレットサービスが到着するのをまつべきですな」

「人数は四人、ラピスのそばに二人外に二人・・・」

すぐ帰ってきたアキトの答えにプロスがおどろく

「なんでそんなことがわかるのですか?」

そう問いつつプロスは油断無くアキトを見る・・・
ひょっとしてテンカワさん想像以上に油断のならない方でしょうか?

「中の様子はラピスがおしえてくれたんです、それに・・・」

感じる気配がその正しさを教えてくれる。中に気配を三つ感じ、そのひとつはラピスのもの
外に見張りらしい気配が二つ・・・

アキトはこの感覚を身につけてからとまどい続けていたが、
今日この瞬間正しくこのためのものだと気づく・・・・・・

あの、黒ずくめのあいつが言った事・・・

『ラピスを守ってやってくれ・・・』 『ラピスはマシンチャイルド、いつかやつらにねらわれる』 『力を受け取って欲しい・・・』

だとしたらこれは始まり?・・・ラピスは普通の生活を送ることできないのだろうか? だとしたら悲しすぎる・・・


「俺が近くまで行って確かめてみます・・・」

「ちょっ、ちょっとテンカワさん・・・」

プロスさんの返事を聞かず、アキトは見張りの近くまで行く・・・完璧に気配を殺して・・・・・・


「テンカワさん、あなたはいったい何者なんでしょうな?」

思わず疑問が口に出た・・・おそらくアキト本人さえわからない疑問を・・・

 

アキトは見張りのすぐ近くまで来たが、相手はまるで気づいてないようだ・・・
理由はわからないが、いけるという気がする。 見張りの首筋に手刀を叩き込む

呆気ないほどにその見張り、諜報員Dは崩れ落ちた・・・

「さすがだが、お前何者だ?」

アキトが動いたので、援護にきたゴートが聞く。援護など要らなかったようだが・・・

「俺も自分でよくわかりません・・・」

アキトは本当に困った顔をしていた・・・
アキト自身、まだとまどっているのだから・・・

「まあ、今はいいだろう。それよりもこうなったら踏み込むか?」

「・・・行きます、もう一人の見張りは反対側だし気づかれる前に・・・」




アキトは中の様子をラピスに聞き、気配で様子を探る・・・

部屋の中に二人とラピス・・・配置もわかる、ラピスは奥か・・・
すぐ側にリーダーらしい男、入り口近くにもう一人

ゴートと軽く打ち合わせ・・・そっとドアをあけて一気につっこむ

入り口の諜報員Cはゴートに制圧され、奥のリーダーこと諜報員Aは
ダッシュで突っ込んでくるアキトのスピードについていけず、拳銃を抜きかけた姿勢のまま
まともにアキトの一撃を受け悶絶した・・・・・・あわれなやつ

その一撃が、木連式柔のわざだと知るものは、本人をふくめここには誰もいなかった

『やっぱりアキトの木連式柔の敵じゃなかったネ、この人たち』

あ、一人いたっけ

でも、ラピスにとってそんな事はどうでも良かったりする

「アキトォ〜」

アキトがラピスの手足をしばってあったロープをほどいてやると
思うぞんぶんアキトに抱きついて甘えたりしたのだった・・・




ただ一人、難をのがれた諜報員Bは、外に放置されていた諜報員Dを起こすと一緒に逃走をはじめた

「いいのか? リーダー見捨てたりして・・・」

「そんなに心配なら引き返してリーダーに義理果たして来るか? 俺は止めんよ」

「・・・やめとく」

「賢明だね・・・・・・」

諜報員Bとしても、ホントは仲間を見捨てたくないが、時と場合によりけりだろう

「ネルガルのゴートがいる、まもなく増援が来るからな・・・」

それにしても、ゴートはわかるがもう一人はだれだろう?

ちらっとしか見てないが、できればお手合わせしたくないものだな・・・と思う

諜報員Bことヤガミ・ナオ、この後幾度かアキトと顔あわせ、腐れ縁になったあげく悪友になるのだが・・・
この時点ではだれもそんなことはわからないのだった・・・・・・

 

 

この日、と言ってももう日付が変わったが・・・

帰りの車の中、アキトの元に帰る事ができたために安心したのか、あるいはつかれたのか

ラピスはアキトに寄りかかったまま寝息を立てていた・・・

そんなラピスをやさしくなでながら、アキトは思う

もう、平和な日常は終わったんだろうか?と





つづく





あとがき

ということで、ラピスの想い 第二話送ります

ラピスの想い、と言う割にはラピス出番がすくなかったですけどね(苦笑)

次回は舞台が(やっと)ナデシコになるので、出番はまた増えるはずです

今回は何だかサイドストーリーっぽくなったせいか脇の人がなんだか目立っちゃいましたが、次につながる話としては
必要だと想いましたので・・・

ホントはもっとあっさり終わるはずだったのにね・・・なぜかな?
(雪谷食堂での話けずって外伝に回したはずなのになあ・・・)

あと、ナオとアキト今回で顔あわすつもりだったけど、なぜかすれ違っちゃいました(苦笑)

なんでかな、まあいいか

次回こそ、ナデシコ発進してそれらしくなると思うので、たのしみに(?)してくださいね、では


ああ、そうそう、うっかり書き忘れるところでしたが、この話は別人28号さんのSS、ナデシコIFのイツキ・カザマの影響を
うけてます・・・途中で開き直って共通部分作りましたし・・・(あの廃ビルは同じところのつもりです)

別人28号さんには、あわててこのSSをメールで送って見てもらい、かぶったネタの使用許可のOKもらいました。
感想と使用許可ありがとうございました。

あと代理人さん、ばたばたあわただしくてすみませんでした。






 

 

代理人の感想

 

この世界のゴートはラピスに神の奇跡を見るのだろうか(爆)?

ラピスが教祖なら信者はズンドコ集まりそうな気もするが(爆笑)。