それは、家政室から掛かった一本の通話器から始まった

いや、すこしまえから始まっていたのかもしれないが・・・


「なにごとだ!?」

フェブダーシュ男爵クロワールは不機嫌に聞き返す

寝台に横になった直後にこれでは不機嫌にもなろうが・・・

「こちら家政室、グレーダでございます。わが君、お休みの所、まことに申し訳ありませんが、
 べりア(連絡艇)に侵入したものがおります。いかがいたしましょう?」

男爵はがばっと跳ね起きた。彼は考え違いをしていた

この男爵領に来たじゃじゃ馬王女(ラルトネー)は、足止めされておとなしくしているタマではなかったのだ!!



「!?こっ、これは侵入者です!」

「そんな事はわかっている。少しは落ち着け!!」


さらに、うろたえて報告するグレーダを男爵は叱責する。
初めは落ち着いて報告していたくせに、なぜ急にあわてて報告するのか?


「そうではありません、新たな侵入者です。外部より埠頭(べス)へつけ侵入しました。・・・しかしどうやって?・・・」

グレーダの声は困惑していた。

男爵は困惑どころではなかった。何者かは知らないが侵入者の位置は王女に近すぎる!!

いったいこれからどうなるのか? 今は誰にもわからないのだった






時の流れにIF

星界の漂流者



〜第一話「男爵と王女の事情」〜



By 三平






さて、遺跡にとっつかまり、はるか遠くの宇宙に飛ばされてきたアキトだが

どうにかミニコロニーらしき人工建造物にたどりついていた。

『着いたけどアキト兄、これからどうするの?』

ディアがたずねてくる。
宇宙船を横付けする埠頭らしきポイントに付けはしたが、規格が違うしここから向こうの操作は出来ない
まあ、最悪の場合でも宇宙遊泳して行く手もあるが・・・

「試しにジャンプしてみるさ、駄目ならその時また考えるとして、ディア、ブロス、もどるまでブローディアのことたのむ」

そう言ってアキトはジャンプをためしてみる
遺跡の影響力がどうかかっているかわからないし、ジャンプできるかもわからないが・・・

次の瞬間、アキトはブローディアのコクピットから姿を消していた・・・どうやらジャンプできたようだ

『アキト兄、無事に帰って来るよね・・・』

『・・・うん』

ディアとブロスは不安を抑えるようにうなずきあった






フェブダーシュ男爵館、発着広間にて


その昇降筒の入り口でさっきまで男爵の家臣だったセールナイが新しい主人を待っていた

・・・いや、ほんとはまだそうじゃないんだけど、本人はもう王女の家臣になったつもりなので・・・(汗)


と、ここらで解説せねばなるまい

彼女、セールナイが待っているのはアーヴによる人類帝国のクリューヴ王国の第一王女殿下で、

正式名称、『アブリアル・ネイ・ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール』である。(長いわっ)

まあ、普通はラフィール殿下とかパリューニュ子爵とか表現すりゃあ良いようだが・・・(一部例外あり)

「王女殿下(フィア・ラルトネル)・・・」セールナイのような表現もあるようだ・・・もっとも彼女の場合、少し陶酔しているが


その王女殿下が、なぜこの辺境星系にいるのかと言うと、話せば長くなるのだが・・・・・・

星界軍の巡察艦(レスイー)ゴースロスが正体不明の部隊の追跡をうけ、このままでは戦闘になる可能性があると
判断したレクシュ艦長が、翔士修技生(要は見習い士官)のラフィールに任務をあたえたのだった。

ゴースロスに乗り込んでいた非戦闘員、ハイド伯爵公子ジントを戦闘空域外へ避難させること(最終的には帝都まで)

敵らしき艦隊の接近を帝国に知らせ警告すること(とりあえずこの先にあるスファグノーフ候国まで)

もっとも、任務にかこつけてラフィールを逃がす、という意味もあったようだが、決して軽視できない任務のはずだった

ところがどういう訳か、補給のために立ち寄ったここフェブダーシュ男爵領で足止めを食らったのだ

おまけに、帝都ラクファカールまで無事送り届けなければならないジントとも引き離され、ラフィールは男爵に対し苛立ち
と不審、反感をつのらせていたところだった・・・

いずれにせよ、ラフィールが実力行使に出るのは、彼女の性格からして時間の問題だったと思われる

で、男爵の指示でラフィール殿下の世話係をしていたのがセールナイだったのだが、ラフィールの説得(?)により彼女
は帝国と星界軍に味方することになったのだった(要はラフィールに味方するということだ)



セールナイの手引きで連絡艇に戻っていたラフィールが降りてきた。必要なものを持ってきたようだ

「王女殿下」セールナイがひざまずいてうやうやしく王女をむかえる

ホントはそういう態度で接せられるのをいやがるラフィールなのだが、今はそんな事言ってられないので話を切り出す

「家臣セールナイ、私をジントの所に連れて行ってほしい。あるいは私の所に連れて来るか。できるか?」

「ジントさま?」セールナイは首をかしげる

「私の連れだ、ハイド伯爵公子。男爵に監禁されてるんだ、そなたも会ったであろ」

ラフィールの問いにセールナイが考え・・・思い出す。ああ、あの地上人の青年だ

「どこに監禁されているか、知らないか?」

「まことに申し訳ありませんが・・・・・・」

「そなたが恐縮することはない」

そう言いつつも、ラフィールの口調はいらだっていた

「しかし前男爵の監禁されている場所はわかるであろ?」

「主君の父君でございますか・・・あの方は監禁されているのではなく、隠居なさっておられるのでございます」

このさいラフィ−ルにはそんな事はどうでもよい。肝心なのは・・・

「監禁か、隠居かはどうでもよい。ともかく、ジントは前男爵とともにいるらしい。
 なんとかあの者を連れ出してやってほしい」

「まことに申し訳ありませぬが、それは不可能にございます」

セールナイは身の縮こまる思いで答える

いわく、前男爵の隠居場(監禁場)は閉鎖されており、男爵の許可がないと立ち入ることが出来ないこと
また、連絡は家政室の通話機で話すことは出来るが少数の家臣しか出入りを許されていないこと・・・など

「そこに侵入出来そうか」

「見咎められずに、という意味でございましたら不可能でございます」
家政室には、いつも数人の家臣が詰めているのだから・・・

「じゃあ、制圧しよう、私とそなたとで」

ラフィールはこともなげに言い放った
そう言いつつ銃をとりだしセールナイにさしだす

セールナイにとって王女から寄せられた信頼は思いもよらぬもの・・・
呆然と銃をうけとりつつ内心感激していた。

ラフィールは、簡単に銃の使い方を教えると、セールナイをうながした

「行こう、時間がない」「はい」

と、その時、急に通路中央が光り出し、そこに今まで誰もいなかったはずなのに人影があらわれた


黒いパイロットスーツに身を包んだ青年が・・・


彼女たちにボゾンジャンプの知識があれば、それとわかったのだろうが、
あいにくそんな事知らなかったりする・・・・・・

あまりの出来事に、さすがのラフィールも一瞬呆然として動きが止まってしまったのであった

これが、ラフィールと異世界からやって来たその青年テンカワ・アキトの出会いであった

はたしてこの出会いは何かをもたらすのであろうか? 今は誰にもわからないのであった




つづく




あとがき

まずはじめに・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

確実にできるようなこと言っときながら予定より二週間近く遅くなっちゃいました・・・

おまけにそのわりに、今回の内容は薄っぺらいですし(予定した半分も書けてない)

いいのか? 主人公アキトほとんど出てなくて(おい)



テンションが上がらないので、今無理に書くよりも次回にまわした方が良いかもしれませんが(弱気な言い訳)

でも、アキトとラフィールが顔あわすとこ出来たので(?)次回はもう少しらくに出来ないかな、と思ってます

来週は『ラピス』をあげるので、このつづきは再来週に出来ないかな?(確約はできませんが)

さすがに次回には、ジントくん出せるでしょう・・・まってる人いるかわからないですが(苦笑)

ところで、巡察艦とはどんな艦なのでしょうね? 僕は高速戦艦と認識してますが・・・

ゴースロスの場合、大きさが全長1282メートル・・・ナデシコ世界の戦艦とは少なくとも大きさのけたがちがいますね

それでは今回はこんなところで、次回もよろしく

 

 

代理人の感想

 

遠未来の宇宙を舞台とする「星界」シリーズでは、当然ながら軍艦船の分類に関しても

現在の軍艦の分類とは全く異なる分類をしているでしょうから一概には言えませんが、

巡察艦を無理矢理当てはめるとするなら高速戦艦というよりも戦艦その物と言えるのではないでしょうか。

事実、火力と防御力に優れると言う点で巡察艦に勝る艦艇は無いようですし、

「足が遅いけど火力と防御力で巡察艦に並ぶ」艦種も見当たりません。

「戦列艦」と言うのもありますが、あれは機雷(ホクサス)発射に特化した艦種ですから

位置付けとしてはむしろ空母などに近いでしょう。

高速戦艦ならば「星界の戦記」第二巻に話だけ出てきた「巡察艦と突撃艦の中間のような艦」が

それに近いのではないかと思われます。

・・・いや、高速戦艦と言うよりは重巡洋艦の方が近いかな?