僕の名前はマキビ・・・ルリ!?






西暦2201年末・・・ナデシコSSではよくある光景が繰り広げられていた

ナデシコCとユーチャリス、ホシノ・ルリとテンカワ・アキトによる宇宙での鬼ごっこであった



「アキトさん!! ・・・もうすぐユリカさんが退院されるのですよ!!

 せめて、せめて顔を出すくらい・・・いいじゃないですか!!」



「俺とユリカの道が交わることはもうありえない・・・

 そう、ルリ君と同じ道を歩む事もない

 もし、全てが・・・

 よそう、それは言っても仕方が無いことだ。」



とまあ、お約束のやりとりをしているなか、ナデシコCのサブオペレーター

副長補佐のマキビ・ハリ君(愛称はハーリー君)は面白くなさそうであったりする



『・・・はあ〜っ、何だって艦長はあんなヤツの事にこんなにこだわるんだ!!』



そりゃまあ、あこがれの人がライバル(アキト)だけしか見ていない今の状況は面白くないでしょうけどね

とは言っても、ハーリー君の場合、現在歯牙にもかけられていない状態だけどもね(苦笑)



『・・・うるさいなほっといてよ!! 大体、昔はどうだったか知らないけれど

 あいつは、テンカワ・アキトは、今じゃコロニー連続襲撃犯のテロリストじゃないか! 艦長もどうかしてるよ!!

 もし僕が艦長だったとしても、あいつの事を追いかけるなんて考えられないよ!!』



・・・・・・まあ、ハーリー君が何をどう考えようとも、ルリさんの行動にはルリさんの想いや考え方があるのですけどね

とか何とかしている間にも、事態は進行していたりして・・・



「よし、ジャンプ先は・・・」



「させませんアキトさん!!」



ドガッッッンンン!!!!!



よくあるパターンで、ナデシコCよりユーチャリスにアンカーが打ち込まれ、命中したようだ・・・って、それは良いのだが



「アキト!!、ジャンプフィールドが暴走してる!!」



「ルリちゃん、早く逃げるかアンカーを切り離せ!!

 このままだとナデシコCもユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」



「ハーリー君、急いでアンカーを切り離して!! ディストンションフィールド緊急展開!!」



「はい!! 艦長!!」 (冗談じゃない!! こんな所でこんな事で、死んでたまるか!!)



これまたお約束の事態

ランダムジャンプ・・・ナデシコSSでは便利に逆行などの小道具のごとく使われているが

本来は、ランダムジャンプに巻き込まれて生きて帰れる保証は無い、この場合は死と同義語なのだ

とはいえ、結局はお約束通り間に合う事はなく、ナデシコCはユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれたのだった



『嫌だっ、こんなのは!! 僕はまだ死にたくない!! まだまだやりたい事はたくさんあるのに!!!』



未練である・・・生への執着、やり残したことに対する執着

本来はまだ十一歳の子供であるハーリーには、むしろそれは当たり前の感情かもしれない



『艦長〜ォ! ルリさ〜ん!!・・・』



やがて二隻の戦艦は、ランダムジャンプのはてにこの世界から忽然と消えたのだった


















機動戦艦ナデシコ

僕の名前はマキビ・・・ルリ!?



〜その1「ボクは誰?」〜



By 三平









光?・・・まぶしい・・・それになんだか身体がだるいや・・・・・・!?

・・・・・・あれ? ここはどこだろう???



なんだかよくわからないが、ハーリーはけだるい気分で目覚めた

まだ頭がぼ〜っとしていてすっきりしないようだ

いつもなら寝起きはもっとすっきりとしているはずなのに?

疲れでもたまっていて寝すぎただろうか??

そういえば身体がすごくだるい気がする、なんだか違和感も感じるし・・・・・・

よくわからないけれど、ここはどこかの医務室みたいだな

僕はここでベットに寝かされているみたいで・・・・・・

なんで僕はこんな所で寝ていたのかなあ?

だいたい僕たちはあの時ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれて・・・・・・!?



そうだよ、艦長は!! ナデシコのみんなはあれから一体どうしたんだ!!?



その事に気が付いたハーリーは、あわててがばっと跳ね起きた

とにかくあれからどうなったのか? どうして僕がここにいるのか?

ハーリーは知りたいと思った

布団を跳ね除けてベットから出ようとして・・・・・・改めておかしな事に気が付いた



・・・・・・あれ? この服装(?)、僕は何を着てるんだ!?



・・・なぜかハーリーは、身体にぴっちりした水色のレオタードみたいなボディスーツ(?)を着ていたのだった

!!? ナデシコCの制服ではなく、かといって病院などのパジャマとかでもなく・・・・・・!?

もっとも、そんな事は身体の変化に比べれば、ちいさな問題であることにすぐ気づかされる事になるのであるが

ともかく、状況を確認しようと辺りを見回して・・・

ツインテールに縛ってあった髪が頬にかかったので、ハーリーは煩わしそうにその髪をかき上げて・・・・・・!?



頬にかかる髪!? ツインテール!!?

何だよこの髪は!? 僕の髪の毛はこんなに長くなかったハズだし

それにこの色はまるで・・・・・・ 一体どうして!??




ハーリーの髪は本来は黒くてぼさぼさで硬かったはずだ、だけど今の彼の髪の色は蒼銀で柔らかで

なぜかその髪の色は、ハーリーのよく知っているあの人の髪と同じ色だった

その髪を手で引っ張ってみて、それがかつらなどではなく自分の頭から生えている事を確認して・・・固まった

髪の毛だけではない、その手があまりに生白くてほっそりしている事に気が付いたから

それによく見てみると、身体つきも本来の自分よりも華奢でほっそりとしていて色白で・・・・・・

胸元に手をやってみると、お世辞にも大きいとは言えないが

本来の自分ならありえないハズの緩やかなつぼみの様な膨らみがあり(一応ね、笑)

まさかと思って股間に手をやってみたら・・・・・・男ならある筈のモノがなくなっていて・・・・・・・・・この手の話のお約束かな、ぼそっと

これはひょっとして、もしかして・・・・・・ 少なくとも僕は女の子になっちゃってるって事!!?



「・・・あはは、あはははははは・・・・・・・・・・・・・・・」



ハーリーはおもわず乾いた笑い、笑ってごまかすしかないようで・・・・・・いつまで笑っていられるやら

その声もあきらかに元の自分の声より甲高い事にも気づいたのであるが・・・・・・今更ではあるか・・・



と、何時までも困惑して思考停止している訳にも行くまい

ハッと気を取り直したハーリーは、その部屋を見回して姿見の大きな鏡がある事に気が付いた

今、自分がどんな姿をしているのか? 怖いけれど、それを確かめない訳にはいかない

これはボクの身体じゃない!! それじゃあボクは一体誰なんだ!!?

ハーリーは覚悟を決めて、姿見の大鏡の前に立ってみたのであった



鏡に映っていたのは

蒼銀の色の髪を、赤い髪留めで留めて髪型をツインテールにした、色白で10歳前後の小柄な少女が

その金色の瞳に不安そうな色をたたえ、その顔に戸惑いの表情を浮かべて、鏡の中に立っていたのだった



「これがボク!? どうしてこんな!? だってこの顔は・・・!!?」



とまあ、予想通りの事というか、予想外の事というか

あまりの事にハーリー君(外見は鏡の少女?)は、そのまま固まっていたのだが、その時・・・・・・



「ルリ、被検体ホシノルリ!! 意識が戻ったのか!!?」



その部屋に入って来た、白衣を着た人物(研究所員?)が、少女の姿のハーリーに対してそう声をかけてきたのだった



『・・・ルリって僕の事? やっぱり!?・・・・・・でも、どうして僕がルリさんになったんだ!!?』



どうやら今は、ハーリー君はホシノ・ルリさんの姿になっているらしい???

それも、どういう訳だかわからないが、

ハーリーが映像でしか見たことない数年前のルリさん(小)の姿のようで・・・・・・



『そりゃあ、ボクは艦長の・・・ルリさんの事、憧れてたけど

 だけど、ボク自身がルリさんになっているなんて、

 一体何故!? ドウシテ!!?

 そんなの・・・あんまりじゃないか!!?』





ところで、この部屋に入ってきた所員が、そんなハーリー(?)に声をかけていたのだが

すっかり自分一人でパニックに陥ってるハーリーの耳には届いていなかったようだ

さて、これからどうなるのでしょうね?

まだパニックに陥ったままのハーリー君には、そんな事まで考える余裕はまだないようですが・・・・・・















その日の夜、蒼銀の髪の少女は、何か悩みがあるのかベットの中でなかなか寝付けないでいるようであり

ちなみにその少女の名前はホシノ・ルリ (11)・・・・・・しかしそれは世を忍ぶ仮の姿、仮の名前であり・・・





真実の名、魂の名は『マキビ・ハリ』ハーリー君だっ!!(劇爆)







『何だよ! その魂の名って!? ボクは真面目に悩んでるのに!!!』



「はあ〜〜っ・・・」怒ったと思ったら、またため息ついたり・・・いそがしいんだねハーリーちゃん?



そりゃ、ため息だってつきたくなるよ・・・・・・(何だよ、そのハーリーちゃんって、怒)

だって、ここの研究所員の人たちも、養父のハズのホシノ博士も

ボクの事もルリさんの事も、見てなんかいないし見ようともしていないんだよ!!

・・・・・・ルリさんは・・・どんな気持ちでここで生活していたんだろう?



生活といえば、ここはルリさんの寝泊りしていた部屋らしいけど・・・

殺風景で寒々として・・・あまり女の子の部屋って感じがしないし

前に艦長の部屋に泊めてもらったときは (火星の後継者の時ね)

あの部屋は、もっと生活感のある部屋だったと思うけど・・・・・・このギャップって



そんな風な事を思いながら・・・

ハーリー君、今日ホシノ・ルリ(小)として目覚めてからの事を、改めて思い出していたようだ

それが、決して心楽しいモノで無い事だとしても・・・・・・















ハーリーがルリとして目覚めて少しあとの事

ようやく落ち着いたハーリーは、

自分の置かれた状況や境遇を、客観的に見ようと努力していた



今、ボクの居る、僕のつれてこられたこの部屋は

何かの実験が行われていた研究室らしい

正直な所、ボクはこの場に居心地の悪さを感じていた

・・・・・・ボクはこの人達の事を知らないけれど、この人達はボクの事を知っているはず

というか、正確にはルリさんの事を知っているはず・・・なのかな? 今のボクはルリさん(小)の姿みたいだから

それはともかく・・・

それなのに、ここの人達のボク(ルリ)を見る目はどこか冷ややかに感じるし、態度もよそよそしく感じる

なぜ? どうして!? ここではルリさんは嫌われているの???



・・・・・・ともかく、なにがあったのかわからないのはスッキリしないから

ルリさんの身に何があったのか、ボクは近くに居た研究所員の一人に声をかけて質問をしてみた



「あの・・・事故だとか意識がなくなっていたとか、

 一体何があったんですか?・・・ボクに教えてくれませんか?」



ボクが声をかけたその所員は、声をかけられた事に凄く驚いていた

ボクがそんな質問するのがそんなに珍しいのかなあ?・・・・・・その人は周りの目を気にしながらこっそり教えてくれた

どうやらルリさんは、メインコンピュータとのアクセス中に、マシントラブルの事故に遭い・・・・・・

事故のショックでそのまま心停止、つまり一度死亡したのだと、(そんなバカな!!)

そのあと、心臓マッサージや人工呼吸などのかいあって、どうにか息を吹き返したらしい

(人工呼吸?、あまり考えたくないけどそれってつまり・・・・・・ううっ考えたら少し気分が・・・)

だけど、すぐには意識が戻らなくて、そのまま医務室のベットに寝かされて

やがて、ルリさんの意識が戻った・・・とまあ、そういう事らしい



もっとも、目を覚ましたのはルリさんじゃなくてボクの意識だったみたいだけど

・・・どうしてこんな事になったんだろう? ボクにも訳がわかんないや・・・・・・



・・・だけど、今日の日付をこの人に聞いて、ボクはある可能性を思い出した

というか、どうして今まで思い出さなかったんだろう?

無理ないかな・・・さっきまで精神的にパニックで、それ所ではなかったから (理由は今更言うまでも無いと思けど)

西暦2196年10月○日、それが今日の日付・・・・・・それって五年前の日付じゃないか!!?

どういうことだよ!!

あの時のランダムジャンプのせいでボクは過去に飛ばされたってこと?

目が覚めたら・・・・・・ボクが過去のルリさんになっていたのもジャンプの事故のせい!?

無茶苦茶な理屈だけど・・・今のボクには、それくらいしか原因が思いつかない・・・



「ところで・・・私からも質問いいかな? 君は私が誰だかわかるのかな?」

「え?、だ、誰って?・・・・・・」



ど、どうしよう? 急にそんな事言われたって、ボクがそんな事知るわけないし・・・そうだ!!



「・・・き、記憶が・・・・・・ひょっとしたらさっきの事故のせいかも・・・」



事故のせいで記憶が飛んじゃったとか混乱したとか・・・その路線でいこう・・・うまく誤魔化せたかな?

と、その所員を見たら、何かボクから視線を逸らして笑いをこらえているみたいだった

な、なんだよ、その失礼な態度は・・・そりゃあわざとらしいかもしれないけどさ!!!





と、そこに・・・報告を受けて来たのだろう、所長でルリさんの養父、ホシノ博士が来たようだ

仮にもルリさんの養父らしいし、ボクはこの人にどう接すればいいのか戸惑った・・・だけど

ホシノ博士はボクの戸惑いなんか気にする事なく、信じられない事を指示していた



「ルリのメインコンピュータへのアクセス実験を再開する。すぐ準備するように」



・・・・・・それどういう事だよ!!?



ボク・・・というより仮にもあなたの養女のルリさんが死にかけたんだよ!!

優しい言葉のひとつもかけてくれたっていいはずじゃないか!!

なのに・・・それもなしでいきなり実験を再開するんだって!!?

ボクはそう言ってやりたかった・・・結局何も言わなかったけど



ボクは釈然としないものを感じたけれど、結局実験には協力した

・・・この場合、他に選択肢なんかなさそうだったしね

ここの所員達も特にその事に反対するでもなく、当たり前のように実験の準備に忙しそうだったし

何故だか理由はわからないけど、ボクはすごく悲しく感じていた・・・・・・どうしてなんだよ!?



アクセス実験そのものは、そつなくあっさりこなしてみせた

(だって、今更この程度のコンピュータなんて、ナデシコCのオモイカネに比べたら子供騙しみたいなものだし)

そうしたら・・・どういう事かここの所員達は大騒ぎになってしまった

ボクがこの実験で、今までの本来のルリさんよりも好成績を収めてしまった事が原因らしい・・・

ボクがルリさんより好成績? なんだか複雑な気分だなあ・・・・・・

(単純に、この時期のルリと比べれば、技術や経験の差でハーリーの方が上ではないかと解釈してみました)







ともかくも、実験も無事おわったようで・・・



あ、さっきから表現が紛らわしかったとおもいますし

これ以後は彼?(彼女)の事は、今の外見を基準にしてルリもしくはルリちゃんと書きますね

あるいは、ルリ(ハーリー)外見(中身)という感じで表記かな?





それはともかく、ルリちゃんは更衣室に来て着替えのようです!!? この場合、着替えと言うと



「ど、どうしよう・・・・・・これ、ボクが着るんだよね!?」

更衣室では、ルリの私服とか下着とか・・・・・・

それを見ながら、ルリ(ハーリー)は恥ずかしそうに顔を赤めているようで・・・・・・

「それに、今着てるこれを脱いだら・・・・・・いいのだろうか?」

ちなみに、今ルリが身につけているボディースーツ(?)は、下着を付けずに直接身につけているようで

つまり、それを脱いだら何も・・・・・・下着すら身につけていないという事で・・・・・・

「でもさあ・・・今はボクがルリさんで、この身体が今のボクの身体だし・・・・・・見えちゃっても不可抗力だよね・・・」

ともかく、頭の中で言い訳を繰り返しながら、・・・・・・どうやらやっと覚悟を決めたようだ(何の?)

何はともあれルリ(ハーリー)は、着替えを始めたようであります



『艦長・・・ルリさんゴメンなさい、・・・・・・つい、見ちゃいました!!』



キミ・・・・・・今からそんなんで大丈夫かね?(結構小心者だねえ)

どうやらルリちゃんは、先ほどの実験などよりも着替えのほうで、よっぽど神経をつかっちゃったようですね(苦笑)





ともかく、ルリちゃんどうにか無事(?)着替えも終わったようですね・・・・・・

「・・・なんだかなあ・・・足元がスースーして落ち着かないなあ」

ルリちゃん、私服のワンピース姿でぼやいてます

そもそも、女物の服を着て歩く事自体が、女装してるみたいで恥ずかしいらしい

まあ、女装つーたって・・・・・・今は女の子なんだからそれが当たり前なのだが(苦笑)

まだ気分的には男の子なのか、ルリ(ハーリー)はまだそういう気分にはなれないようだ

(そうやって恥ずかしがるルリの図、というのもラヴリーかも? 本来のルリではありえないシチュエーションだし、笑)



ともかく、あとは自分の部屋に戻るだけ・・・・・・



「ところで・・・ボクの部屋って一体どこだろう?」



今更だが、ルリはようやくその事に気が付いた(汗)

どうも気が進まないけど、自分の部屋がどこなのか誰かに聞かないといけないんだろうな・・・やっぱり

「・・・・・・記憶が混乱して覚えていない・・・さっきのこの路線でいくか・・・・・・」

そうと決まれば、早く誰かに部屋の場所を聞くとしよう・・・早く一人で落ち着ける場所が恋しいし・・・・・・



休憩室に数名の所員がいるのを見かけ、ルリは話しかけようとして・・・・・・止まった



「・・・ホシノ所長上機嫌だったよな・・・・・・」

「まあ、そりゃそうだろう、一時は駄目かと思わせといてあの好成績だからな・・・・・・」



なんの話か・・・所員たちが噂話をしている場面らしい

なぜ、そうしたのか自分でもわからないが、ルリはとっさに物陰に身を隠していた

どうしてかな?・・・・・・なぜだかその話が気になって仕方がなく、身を隠したまま、その話を聞いた



「・・・ともかく、ネルガルから来てる話には間に合いそうだからな」

「ああ・・・ルリの心臓が止まってこのまま死んじまうのかと思われた時は、あのおっさん取り乱してたからなあ」



ホシノ博士が取り乱していた!? その言葉を聞いてルリ(ハーリー)は、どこか心に暖かいものを感じていた

さっきの実験の時は冷たい人だと思ったけど・・・・・・本当は自分の養女(ルリさん)の事を気にかけていたんだ、と

自分の事のように嬉しく思った・・・・・・ルリ(ハーリー)は、人の情や暖かさというものを信じたいと思っていたから

だけど、彼らの直後の会話が、その(ハーリーの)思い込みや幻想を木っ端微塵に打ち砕いたのだった



「まあ、何だな・・・これでルリはネルガルに高く売れるってわけだ」

「そういう事だな、あそこで死なれちゃこれまで投資した資金が全部チャラ、無駄になっちまう訳だからな」



・・・・・・そんな!! 高く売れる? 投資がチャラ!? それじゃまるでルリさんは商品か何かみたいじゃないか!!

一気に奈落に叩き落された気分のルリ(ハーリー)の存在なんか知る由もなく、さらに会話は続いていた



「それはそれとして、息を吹き返したあとのルリ、別人みたくかわいくないか?」

「お前、何言ってるんだ?、たしかに別人みたいに印象が変わったような気はするがな」

「そういや、無愛想で可愛げのない生意気なガキだったのがウソみたいだな・・・今のルリは」

「ひょっとすると、本当に中身が別人に入れ替わってたりするかもな」

「だからどうした? 人形の中身が別人だろうとどうだろうと関係ない、要は売り物になりゃいいんだ・・・」



研究所員達の会話を聞けば聞くほどルリ(ハーリー)は絶望的な気分になっていった

売り物、人形、中身なんてどうでもいい・・・・・・

この人たちにとってルリさんは何なんだ?・・・・・・ボクは何なんだよ!!?



少なくとも、ハーリーがマキビ博士の所で養子(戸籍上は実子)になってた時は、こんな扱いではなかった

普通に人間として扱われ、家族として扱われ・・・・・・だけどここにはそんなもの欠片もなかった

もし、ここにいたのが本来のルリだったら

『何を今更、・・・バカ』 くらいの冷ややかな反応で、逆に冷笑をあびせるくらいしたかもしれない

だが、そんなふうに扱われた経験はなく(少なくとも記憶にない)生真面目なハーリーは、ただひたすら落ち込むのだった



その後、そっとその場を離れたルリ(ハーリー)は

コンピュータの端末を見つけ、それを使って自分でルリの部屋を見つけたようだ

さらにその後、ルリはふさぎこんで、結局この日はだれとも話をしなかったのだった(軽い人間不信におちいったらしい)



で、ベットの中で寝付けないでいるシーンに戻る訳なのだが・・・・・・



ココハ・・・ココハボクノイバショジャナイ

ボクハココニハ・・・コンナトコロニハイタクハナイ・・・・・・



ふとルリは・・・・・・いやハーリーはつい、思い出を懐かしがっていた

艦長・・・ルリさん、サブロウタさん、ミナトさん・・・ナデシコCのみんな

みんなに会いたい、帰りたい、あのナデシコCに・・・・・・

だって一人だから、ボクはここでは一人ぼっちだから

もうみんなに会えない もう帰れない・・・

だけどボクはもう一度、みんなに会いたい、会いたいよ・・・・・・



気が付けば、ルリは・・・ハーリーは泣いた、泣いていた・・・・・・



やがて少女は泣きつかれたのか・・・・・・そのまま寝てしまったようであった

せめて、夢の世界だけでも・・・・・・・・・おやすみ













ネルガル重工のスキャパレリプロジェクトの一環として、

人事と会計の責任者、プロスペクターと、

軍事の責任者、ゴート・ホーリの両名による、人材集めが急ピッチで進められていた



そして10月某日

ネルガル系列の研究所である人間開発センターに、プロスとゴートの両名がやって来た

このプロジェクトの要である、機動戦艦ナデシコ運用のための重要人物をスカウトするためにである



まず、人間開発センター所長のホシノ博士と面会し

事前に通告と根回しもあったのだろうが、マシンチャイルド『ホシノ・ルリ』の身柄をあっさり買収した

ルリの今までの養育費として破格の金額がネルガルより提示され、ホシノ博士はあっさりこれを受け入れたのだった

これにより、ルリの所有権は正式にネルガルが確保したのであった

次いで、プロスはそのマシンチャイルド、ホシノ・ルリと面会をしていた





「・・・スカウトって・・・・・・ボクを・・・ですか?」

「はい、お仕事の内容は先ほども説明した通りでして、ぜひとも契約書にサインを・・・・・・」



自分よりはるかに年下の少女、ホシノ・ルリ相手に、にこやかに丁寧に営業スマイルのプロスさん

同時に、そのとぼけた様子とは裏腹に、その眼差しはルリの事をしっかり品定めをしていたのであった

プロスさん、仕事柄人を見る目には自信があるようですが・・・ この方からは今のルリはどう見えるのでしょうね?



『ふむ、この人がルリさんですか・・・

 男の子みたいな言葉遣いをするとは・・・意外(?)ですね

 外見とはイメージが合わないような気もしますが、人は見かけによらないという事でしょうか?

 それに、事前に受けていた報告とも少し印象が違いますなあ?

 まあ、実際に会ってみたら印象が違ってたなんて事は確かにありますが・・・・・・』



報告書の内容からは、ルリの基本的な性格は冷静沈着で、感情表現に乏しく(表に出さない?)

周りの事にも自分の事にも、無関心、無感動なのか醒めた目で物事を見ている・・・そんな印象を受けたのだが

(ついでに言うと、男の子っぽい性格だとか、言葉遣いだとか、そういう報告も受けていない)

この目の前の少女は、明らかに報告書のそれとは異なっているように思える

例えば・・・・・・



『ルリさんは私の話に興味がない。という風に無関心を装ってますが・・・本当は興味深々のようですね

 興味がある、と表情に出てますしバレバレですな、どうも隠し事があまりうまくないようで・・・・・・』



もし、報告書通りならば、ルリはこういう自分の運命にも無関心で興味を示さないだろうし、表情にも出さないだろう

少なくとも表向きは・・・・・・だが、現実にはこの少女は報告書とはむしろ反対の印象を受けるのだ



『まあ、いいでしょう。 むしろ好都合かもしれません』



こういう分野では百戦錬磨のプロスからすれば、報告書の通りのルリより、今のこのルリの方が組し易いと取ったようだ

ひょっとして、カマをかけたらこの少女は、案外簡単にボロを出すのではないかと思うが、今は控える事にしたようだ



『今、最優先すべきはルリさんと契約を結ぶ事です。余計な事をして要らない警戒心を抱かせるべきでは無いでしょう』



将来必要があれば、尋問でも何でもすればいいのであって、今は必要な仕事をこなしてくれればよいのだから

それに、プロスはこうも感じていた・・・

ルリの瞳は、決して回りを醒めた目でなど見ておらず、何か強い想いを抱いている・・・・・・と



このあと、ホシノ・ルリは契約書にサインをして

正式に、ナデシコのメインオペレーターとして乗り込む事が、決まったのであった。



そして、舞台はサセボドックのナデシコへ・・・・・・・・・











「どうですルリさん、これがわが社の誇る新鋭戦艦のナデシコです」



営業スマイルを浮かべつつ、ナデシコをバックにそう宣言するプロスペクター

その表情は、どこか誇らしげですらあった

ルリには・・・ハーリーには別の感慨があったが・・・・・・



『これがナデシコAか・・・ルリさんはナデシコに深い思いいれを持っていたみたいだけど、

 それが何だったのか、いつかボクにもわかるだろうか?』



かつて(?)、火星の後継者との戦いの前に

建前上、宇宙軍は正規の軍人を使うわけにはいかず、旧ナデシコクルーを集めて回ったものであるが

ハーリーはそれに反発したものだった

恥ずかしい話だけど、あの時はルリさんが旧ナデシコにこだわる事に、ハーリーは焼きもちを焼いていたから

ハーリーはその時ミナトさんと出会い、ミナトさんに励まされてその時のわだかまりを吹っ切ったのであったが

結局、その時のルリの想いをすべて理解出来た訳では決してない

でも、全部とは言わないが、今はその時のルリさんの気持ちが少しだけわかる気がした



『ボクにしても、今になったらナデシコBやCでの事は大切な思い出だし・・・・・・』



本来ならハーリーの体感時間で、ほんの数日前までナデシコCに乗っていたはずだったのに

それがいまとなってはルリ(ハーリー)にとって、随分遠い昔の遠い場所での夢か思い出のように感じられたのだった



『それに、・・・ここに来たら少なくともミナトさんには会えるだろうし・・・』



少なくとも人間開発センターの、人を人として見ていない、道具としてしか見ないような人達の所にいるよりも

ここに来ればミナトさんに会えるかもしれない事の方が、今のルリ(ハーリー)にとっては遥かに楽しみな事なのだった

それに・・・ミナトさんにかぎらずもう一度みんなと出会うことができるかもしれない・・・何時になるかわからないけど





「じゃあ、行ってみようか・・・始めましてよろしくね、ナデシコA」





マキビ・ハリ改め、彼・・・いや 彼女のホシノ・ルリとしての新しい人生(?)の第一歩が、はじまったのであった

彼女はここで何を見て、何を知る事になるのでしょうか?・・・ この話の続きはいずれまたと言う事で















おまけ

(時ナデハーリー抜きバージョン、笑)



ナデシコのデビュー戦も無事終わり、実力を隠して囮役をこなした黒い王子様、テンカワ・アキトは

ユリカを避けて医務室に退避していた。

でもって、元ナデシコC艦長、ハーリー憧れの元上司だったホシノ・ルリは、

コミニュケ越しに、アキトと今後の事を話し合っていたのであった



「・・・結構悪知恵が働くんですね・・・アキトさんて」



どうも、アキトがラピスに指示したという内容を聞いて、ルリは呆れているようだ

アキトを見つめる目が少し覚めているというか、冷ややかというか(汗)



「勿論、その作戦には私も参加させて貰います。・・・それでは後で私もラピスに接触してみる事にします」



「ありがとうルリちゃん、よろしく頼む・・・」



ふと、ここまで話が進んだ時、ルリは唐突に気が付いた・・・というか、ようやく思い出していた

こういう時、もしハーリー君がいたらラピスの手伝い(牽制)をさせる事ができるのに

あの子は帰ってきていなかったのだろうか?

私とアキトさん、・・・ラピスでさえこの世界に来ているというのに・・・・・・

ようやく思い出してもらえて、その存在意義がそれでは救いがないかもね、ハーリー君(苦笑)



『まあ、居ない者の事をとやかく考えても仕方ありませんね

 どうしてもハーリー君がいなくては支障がある、という訳でもないですし・・・・・・』 まったく、しょうがないですねハーリー君は・・・・・・



ともかくハーリー君は、ついさっきまでルリにその存在を忘れられていたようで・・・・・・酷い話である(涙)



だが、ルリは知らない

そのハーリーだけが、自分達とは少し別の世界(パラレルワールド?)に飛ばされていて

その世界での自分(?) ホシノ・ルリになりかわっていて、そこで四苦八苦しているという事を・・・

あるいは、ルリがその事を知らずにいられるのは、幸せなことなのかもしれない(いろんな意味で)



(そんな事知ったらルリさん平静保てるかなあ・・・たとえそれが、別の世界の自分の事だとしても・・・まあ、いいけどね)







とりあえず、つづく・・・・・・と、思う





あとがき



・・・・・・・・・はっ!?・・・・・・何を書いてるんだ僕は?

後が支えてるというのに・・・・・・砂沙美の航海日誌十四話、書いてる途中だったのに・・・・・・

(別人28号さんすみません。すぐ執筆再開しますので・・・・・・言い出した予定より遅れてすみません、汗)



それはそれとして・・・なぜこんな話を書こうと思ったのだろう? 自分でも不思議です

(電波なんて無責任な事は言いたくないですしね)

ただ、言える事は、半年前なら電波が来ようがアイデアを思いつこうが、この話を書くことは無かったでしょうね

砂沙美の航海日誌を書いていて、そこでハーリーを出して書いていて

この甘ったれの坊やの事気に入ったからかもしれませんね

(どこが? と聞かれたら困りますけどね、ツボにはまったかな?)

(ちなみに、あのシリーズで砂沙美がハーリーに対して恋愛感情もつ事はないと思いますが、ハーリー君の事は気に入っているようです)

そんでもって、先日ゴールドアーム先生のハーリー君講座を受講して(笑)

よりハーリー君というキャラに興味を持った所に、この設定を思いついてしまったこともあるかもしれません



そんな訳でもありませんが、これの感想はゴールドアームさんお願いしますね(こういうSSですみませんが、苦笑)



ハーリー君ランダムジャンプで飛ばされて、目が覚めたらルリさんになっていた・・・・・・いいのかなこの設定で

ルリファンを敵に回さなければいいけれど(滝汗)

言い訳させてもらうと、この世界のルリは元々事故で死んでいたはずだったのだけど

ハーリーの人格が、事故直後のルリの身体に入り込んで息を吹き返した・・・そういう設定にしてみました

(つまり、ハーリーの人格が来なければ、この世界のルリの身体はそのまま死んでいたと言う事です)

では、なぜハーリーは過去の自分の身体でなく、中身が空っぽだとはいえルリという他人の身体に入り込んだのか?

ランダムジャンプで飛ばされるときに、ルリの事を強く想ったから・・・その想いのせい(?)でそうなったと設定しときました

これ以上は突っ込まれてもどうにもなりませんので、そういう設定だ、と割り切って見てくださいね



こういう設定だと、結構コメディ調になるというか、もっと笑えるものになるかと思ったけれど

真面目に書いてみるとそうでもないと思いました

むしろ重いかもしれません、それが誰であれ他人の人生引き継ぐというのは・・・・・・

次回の続きを書くとすれば、もう少しお約束というか、笑えるシーンも書けるかと思いますが

ホシノ・ルリとしてのハーリー君は、この後も色々悩む事になるかもしれませんね

ただ、ルリちゃんとハーリー君の違いと言うか、ギャップが出せればそれはそれで面白いかもしれません



そうそう、ルリ(ハーリーバージョン)のボイスイメージですが

初めはキャラクターのイメージのギャップのせいで思い浮かびませんでした

が、ふと、魔術師オーフェンシリーズに出てくるマジク君を思い出し・・・

あとはそのイメージで想像していました・・・・・・皆さんはどう思います?

(ちなみにマジク君の声は、ルリと同じく南央美さんです・・・声優さんは芸風広いですね)



最後に、おまけの話

ハーリー抜きで時ナデを進めていくとどうなりますかね?

序盤の影響は少ないと思いますけど、中盤以降は結構影響大きいかな?

少なくともラピスの精神的な成長に影響はありでしょうし?(良いか悪いかは別として・・・・・・)

直接的にはネルガルの買収とか、ブラックサレナやブローディアの開発にこれまた影響あるでしょうね

まあ、あっちはあっちで話が進んでいく(?)でしょうし、それはそれでいいのですけどね



それでは、そう言った所で今回はこの辺で・・・・・・さあ、砂沙美の航海日誌とっとと続き書かないとな・・・・・・・・・




ゴールドアーム先生の感想

 ははは……ツボにはまりました(爆)。
 なにを隠そう、私のインターネットデビューは、『少年少女文庫』です(爆)。
 けど、よくもまあこの設定を思いついたものです。いわゆる、発想の隙をついた、とでも言いますか。
 タイプは違いますが、李章正さんが得意としている技でもあります、こういうのは。
 アキト<>ユリカの入れ替わりは既出ですが、ハリ<>ルリの入れ替わり……じゃなくって、ハリ>ルリの憑依パターンは見たこと無かったです。単に私が知らないだけかもしれませんけど(笑)

 で、お話としての批評ですが……合格!
 プロローグというか、第一話としては文句なしです。
 タイトルとオープニングによるツカミはOK!
 ギャグっぽい設定でありながら、あえてシリアスに徹する事によってぐっと読者を引き込むのも見事!
 この『いい意味での意外性』が、読み手にページをめくらせる原動力になるのです。
 その上、どっちに話が進むか読めない点もGOODです。  実際、この先どういう方向に持っていくかによって大幅に評価が変わってしまう作品です。あ、いい悪いではなく、シリアスにもコメディにも萌えにも持っていけるお話だと言う事です。
 真面目にルリになってしまったハーリー君の生き様を追求していけばシリアスに。
 ハリルリをおもちゃにすればコメディに。
 いわゆる『少年少女もの』的なノリを追求して『萌え路線』を突っ走るのもあり。
 いかようにも変化させられるでしょう。
 自信があれば3つまとめて追求するもよし(爆)。
 この懐の広さは、2話目を読ませる大きな武器になります。

 まあ、砂沙美もありますから、あんまり慌てず、じっくり話を練って続きを書いてください。息抜き程度に書く方がかえっていいかもしれませんね。
 と言うか、この話、真面目に書こうと思ったらかなりのエネルギーがいります。ほかの連載を止めかねないくらい(爆)。懐の広い話を破綻無く書こうとすると、それ相応の力がいりますから。
 無理せずに書いてください。続きは気長に待っています。面白そうだし(笑)。



 後、一つ申し訳ないのは……

 じつは、某チャットで語ったハーリー君講座、先生はまるで覚えていません(核爆)
 私はあの手の設定補完やキャラ分析をやっている時は、たいてい執筆モードに切り替わっている事が多いんです。で、このモードに切り替わっている私には、ある重大な欠陥があります。
 そう、モードが元に戻った瞬間、なにを話していたのか全部忘れちゃうんです。
 無意識レベルでは覚えているみたいなんですが、ノーマルモードでは自在にその記憶を引き出せないんです(泣)。
 だから割とログ必須だったりして(笑)。
 TRPGのマスターをしている時も、結構これで苦労していました。私は一部では『アドリブの天才』みたいないわれ方をしているんですが、困った事にセッションが終わった瞬間、使ったアドリブ設定をころっと忘れちゃうんですね。
 幸い友人に、外部HDとでも言うような、私の語った設定を逐一覚えてくれているという人物がいたので、何とか記憶を補完出来たんですけど(核爆)。
 う〜ん、あのときはわりとまともにいろいろ語っていた気はするんだけど……



 とにかく、面白かったです。砂沙美共々、頑張ってください。



……と、持ち上げておいて一言だけ。

 やっぱり、句読点はちゃんとつけた方がいいと思います。
 なにがしかの効果を狙っているのかもしれませんけど。
 幸い読みにくくなかったですから、これはこれでいいかもしれませんけど。
 ポリシーとして、あるいは意図して文末の句読点を抜いたんでしたら、この意見は的はずれですけどね。あくまで参考意見だと思ってください。