(僕の名前はマキビ・・・ルリ!?「リニューアル第1話、後編」 By 三平)





人材開発センター、早朝

医務室の入り口の前では、研究所の若い所員が、朝食を乗せたトレイを手にして立っていた。
この部屋で寝ている被験者の少女、ホシノ・ルリに、朝食や実験用の着替えなどを運んできたのと、
本日これからの実験スケジュールを、ルリに説明するためである。

「俺、あの子、苦手なんだよな……」

彼は、入り口の前で部屋に入るのを躊躇しつつ、思わずぼやいていた。
生意気で、ひややかに人を小馬鹿にした態度が、かわいげなさすぎる。
幸い(?)これまでは、所属部署が違っていたため、この少女と接する機会は少なかったのだが、

「これからは、その機会が増えるんだろうな」

というのも、彼が暫定的に、この少女の担当を任される事になったからである。
前任者のイチノセ・ナツミが、ルリの件で所長に意見を言って、暇を出されたからなのだが、

「…いったいイチノセは、所長に何を言ったんだ?」

おかげで、正直、彼の気が進まない仕事を、押し付けられる事になってしまった。
いや、一つ対応を間違えれば、自分だって首になりかねない。イチノセの件でそう思った。

「誰か他に、手の空いてるやついなかったのか?」

おもわず、またぼやいていた。だが、いつまでもぼやいてばかりもいられない。
彼は、覚悟を決めて(?)ドアを開けようとして……、
その直前に、ドアのほうが先に開き、たった今、苦手だと思っていた少女ルリが飛び出して来た。

「うわっと、危ない!!」

「わっ!!、ご、ごめんなさい」

彼は、危うくトレイを落としそうになったが、何とかこらえた。
ルリは、申し訳なさそうな顔をして、謝ったが、すぐに、思い出したように聞いて来た。

「トイレ! トイレはどこ!??」

ルリは、言葉通りトイレをガマンしているのか、両手で下腹を押さえながら、内股でもじもじしていた。
そんな落ち着きのない、いつもと雰囲気の違うルリの様子に、彼もうろたえて、咄嗟に答えていた。

「あ、ああ、お手洗いならそこの突き当たりを……」

「ありがと」

と、いうが早いか、ルリは廊下をドタバタ慌ただしくかけていったのだった。


「…なんだったんだ、今のは?」

ハタ、と我に返って思う。
つい、ルリの勢いに押されて、トイレの場所を教えはしたけど、
よく考えたら、ルリはトイレどころか、この研究所の間取りは、隅々まで全部知ってる筈だろうに?
それに、いつもは冷静なルリの、今のあの落ち着きの無さは、一体どういう事なんだ???

「事故のせいで、ルリがおかしくなったってのは、本当だったのか? 記憶障害?
いや、余計な詮索はしないでおこう。イチノセの二の舞は御免だからな」

それにしても、感情表現に乏しかった少女の、普段とのギャップのせいだろうか?
彼は、苦手な筈の少女の表情や仕草が、なぜだか可愛いと感じてしまっていた。

「ありがと…か」

直後、そう感じたことに困惑し、少女から目線を逸らして、彼は慌てて医務室に入っていった。
だから、彼は気づかなかった。なぜかその少女が、男子トイレの方に入っていった事に。





ルリ(の姿をしたハーリー)は、スッキリとした満ち足りた表情で、便座の上に腰掛けていた。

立ちションしようとして、あるべきモノがなくなっていることを思い出し、便器の前であたふたしたり、
直後に、この姿で男子トイレの方に入ってしまってた事に気づいて、今更ながら慌てたりしながらも、
もう我慢の限界だったので、そのまま男子トイレの個室に入り、無事に用を足し終えたのだった。

「はぁ〜〜っ」

ホッと一息つき、ハーリーは何気なく下を見下ろして、ハタと気づいた。
自分が、パジャマのズボンとショーツを引き下ろした状態のまま、便座の上に腰掛けている事に。
そして、便座に腰掛けて、剥き出しになっている、今の自分の下半身を目にして……。

「あわわっ!!」

ハーリーは慌ててショーツを引き上げて、直後に『しまった』と思った。
オシッコをした直後で、まだ濡れたままの股間に、ショーツが貼りついて気持ち悪かった。

「な、なにやってるんだよ、ボクわっ」

こんな事、ハーリーの、本来の男の子の身体だったなら、ありえない事だった。
今回のこれは、女の子としての初めての経験で、勝手がわからなくての失敗だった。
だけど同時に、ハーリーは文字通り身体で理解していた。実感していた。

『今のボクは、身体は女の子なんだ』

という現実を、そしてその事に改めてショックを感じていた。
ハーリーは、なんだか理由がわからないけど、悲しい気分で落ち込んでいた。
自分が女の子に、ルリさんになってしまった事に気づいた時もショックだったけど、
男でなくなった事に、改めて気付かされた事は、もっとショックな事だった。

それはともかく、このまま濡れたままなのショーツを穿いているのは気持ち悪かったし、
そのままだと、自分の大切なものが、汚されたままみたいでイヤだった。
だから、下を見ないように、そっぽを向きながら、トイレットペーパーで拭きなおしたのだった。

その行為に赤面しつつ、なんともいえないうしろめたさを感じながら。





「再実験は9時から、体調のチェックはその30分前から行う。
それまでに、食事と着替えを済ませておくように」

医務室に戻ったハーリーは、さっきの所員から、今後の実験スケジュールや内容の説明を受けた。
昨日事故で中断された、アクセス実験の再実験が行われるという事と、
それ以外の実験も、急遽追加されたので、その説明も行われた。
今日は、いくつもの実験をこなさなきゃならないから、ハードスケジュールになるようだ。





必要な説明をルリに言い渡し、担当所員はそそくさと医務室を後にした。
医務室から外に出ると、彼はホッと一息ついた。

「ルリのあんな表情、初めて見た」

まるで、捨てられた子犬のような、不安そうな、心細そうな表情だった。
おかげでなぜか罪悪感を感じて、説明中、彼はルリの顔をまともに見ることが出来なかった。

そして、そんな風に感じさせるルリに、なぜか戸惑っていたのだった。





一方、後に残されたルリ(ハーリー)は、というと……

説明が終わり、担当所員が医務室から出て行ったのを見届けて、ホッと一息ついていた。
ハーリーは、あまり人見知りしない方ではあるが、
それでも、気心の知れない人と一緒にいるのは緊張するし、気疲れもする。
特に、ずっと異常な状態に置かれ続けている、今のような状況の時には。

ふとハーリーは、生白くてほっそりとした、今の自分の手を見つめながらつぶやいた。

「ボクは、これからどうすればいいんだ」

自分の置かれた環境も、身体も、何もかもが、今までとは根こそぎ変わってしまった。
自分が、マキビ・ハリであることを証明できるものは何もなく、あるのは自分の記憶だけ、
その記憶が、正しいのかどうなのかも、段々自信がなくなってくる。

ボクは本当に、マキビ・ハリだったんだろうか?
ボクがそう思い込んでいるだけで、今までのことは、みんな夢だったんだろうか?
そんな事ない!! ボクはボクだ!! ボクはハーリーなんだ!!!
でも……

ハーリーは、思考がループして、心が出口の見えない迷宮に、閉じ込められたような気分だった。
不安で心が押しつぶされそうで、何をどうして良いのかわからない。

ボクがボクでなくなってしまって、本当のボクの事を、誰も知らなくて、
ボクの知っている人は誰もいなくて、ボクはボクの知らないこんな場所で一人ぼっちで、
それが、こんなにも心細いなんて。

「ボクは、どうすれば……」



きゅるるる くう〜〜っ!!

と、突然、悩める少女(?)のお腹が、かわいい音を立てて鳴った。
そのお腹の音で、ハーリーは夢の中の現実世界から、非日常な現実に引き戻されてしまった。
ハーリーは気がついた。この身体になってから、昨日から何も食べていない事に。

「そういや、お腹がすいた…」

どんなに悩んでいても、現実逃避をしていても、生きている以上、どうやらお腹は空くものらしい。
と、いう訳で、ひとまず悩むのは後まわしにして、ハーリーは朝食を食べる事にした。
そして、アイディンティティの危機は、本人の自覚がないまま、ひとまず回避されたのだった。



「…味気ないし美味しくない。やっぱり、ボクは暖かいご飯が食べたいなあ」

さっきの所員が朝食に持ってきた、カロリービスケットをかじりながら、ハーリーはぼやいた。
これは特別製の高カロリータイプのモノで、こういう急ぎの時の栄養補給には便利なのだが、味はいまいちだった。

空腹は最高の調味料とかいうけれど、さすがにこれを食べながら、美味しいとは思えなかった。
今は時間が無いし仕方ない。夕食には、ちゃんとしたご飯が出るだろうし、それまでは我慢だ。
ハーリーは、そう自分に言い聞かせながら、最後の欠片を口の中に放り込み、栄養ドリンクで流し込んだのだった。

ハーリーは知らなかった。実験などに関係なく、ルリの朝食はいつもこんなものだという事を。
あるいは、ジャンクフードばかり食べ、バランスは栄養剤などでフォ−ロ−していたという事も知らなかった。
ハーリーの望む温かいご飯は、結局ここにいる間は食べることはできずに、この研究所を出るまで、
もうしばらく、おあずけになるのであるが、この時点では、彼女の知る由もないことであった。





味気なく、物足りない朝食を済ませたハーリーは、次の実験に必要な準備をする事にした。
準備といっても、今のところ、実験用のボディースーツに着替えるだけなのだが、
今のハーリーにとって、実はその着替えこそが、最大の難関とも言えた。

ベットの側の籠の中には、髪留めのリングと紙袋、そして水色のスーツが置いてあった。
ハーリーは、それに手を伸ばしかけたが、この期に及んで、それに着替えるのをためらっていた。

「やっぱり、恥ずかしくて、なんかヤだ……」

ハーリーは、少しでも問題を先送りしようと、着替えではなく、髪留めの方を手にとってみた。
それは、赤い玉が飾りについた、リング状のものだった。
この時代のルリは、この髪留めで、髪をツインテールに結わえて飾っていたのだろう。
ふと、自分の頭に手をやってみる。長い髪が指に絡みつき、その存在を主張していた。

「これ、ボクがつけなきゃいけない…のかな?」

一瞬ハーリーは、男の子な元の自分が、髪をツインテールに結わえた姿を想像してしまい、

「イヤだ、それもイヤだ!!」

いっそのこと、この邪魔っけな長い髪は、切ってしまおうか? 勢いで、本気でそうも思った。

「でも、この髪は……」

ハーリーは、姿見の鏡に映るルリさんの姿を見た途端、そんな気分が消えていくのを感じた。

「ルリ…さん」

柔らかくて、さらさらしていて、蒼みがかった銀色で、背中までかかる長い髪。ルリさんの髪。
この髪を切ることは、自分の心の中にある大切な想いも、切ってしまうような気がした。
同時に、ハーリーは改めて、ルリさんが髪をツインテールに結わえた姿を、心に想い描いた。

「ボクじゃなくて、これはルリさんの髪だから」

心の中で言い訳を、無理やり自分に言い聞かせつつハーリーは、髪を結わえ始めたのだった。


ハーリーは、長い髪を結わえるのは初めての経験で、鏡を覗き込みながら四苦八苦していた。
もっとも、その手や指の動きは、初めてとは思えないほど、器用で手馴れたものだった。
だから、ほんのちょっと要領がわかれば、もっとスムーズに出来るようになる筈なのだけど、
傍から見れば、わざと下手にやっているようにも見えた。
もっとも、当の本人には、そんなつもりはないし、その事に気づく余裕もなかった。
あるいは、誰か髪結いのコツを教えてくれる人が側にいたら、もっとすんなり出来ただろう。
それでも、一人で苦戦しつつも、どうにかそれらしく出来たようで、少女はホッと一息ついた。

「こんなに長い髪なんて、ボクは初めてなんだし、こんなんでいいかな?」

鏡を見る。初めてにしてはうまく出来たかな? とハーリーは思った。
苦戦はしたけど、いや、だからこそ出来不出来はともかく、達成感を心地よく感じていた。
そのせいか、昨日からずっと落ち込んでいた気分も、少しだけ晴れてきたような気がする。

あとは、先送りしていた実験用の着替え……!!?
と、その事を思い出して、ハーリーはちらりと時計を見た。

「わあ〜、もう時間が!!」

髪を結うのに気をとられているうちに、思った以上に時間が経過していたらしい。
恥ずかしいだの、ルリさんの裸を見てしまうだの、もう余計な事を考える余裕はなかった。
ハーリーは、慌てて着ていたパジャマを、乱暴に脱ぎはじめたのだった。





人材開発センター、実験室

実験室では、前日の事故で中断されていた、アクセス実験が準備されていた。
いや、ホシノ所長の指示で、ルリの能力再確認のための実験が、いくつも追加されていた。

『昨日のあの取り乱し様といい、今の様子といい、ルリは本当に大丈夫なのか?』

『それに、マキビだと? どうしてルリがその名前を知っているんだ?』

マキビとは、おそらくネルガル系列のマキビ博士と、その研究施設のことを指すのだろう。
ハリとは誰の事かは知らないが、おそらく、その研究所のマシンチャイルドの事だろう。
だが、自分でさえ研究の詳細を知らない他所のマシンチャイルドのことを、ルリが知ってる?
ルリが勝手に外部にアクセスでもして、調べでもして知ったのだろうか?

こういう施設の研究は、企業秘密の度合いが高く、詳細な情報など、普通は外部には洩れない。
中には、自分の研究所などより、遥かに非合法で非人道的な研究をやっている所もあるとも聞く。
そもそも、マシンチャイルドという存在自体、今では非合法な存在で、表に出さない物なのだ。

『まあいい、その事で余計な詮索はしないほうが良いだろう。それよりも……』

前日の事故から、意識が回復はしたものの、様子のおかしなルリに、彼は不安を感じていた。
せめて、その能力に問題の無い事さえ証明できれば、その不安を解消する事ができるのだが。

『あの子は、ネルガルからの大切な預かり物なんだ。
ここにきて役に立たない。では困る。私の立場が!!』

一応、ホシノ所長は、ルリにとって保護者であり、養父のはずなのだが、
どうやらそれは形式だけの事で、別に親の愛情など感じているわけではないようだ。
そんなものより自分の立場や、ルリの能力や商品価値の方が、遥かに大事なようだった。
昨日ナツミが指摘した事は、どうやら所長の図星をさしていたようで、
余計な事を言った彼女が暇を出されたのも、ある意味当然だった。

また、そんなホシノ所長の空気を反映してか、つい昨日のイチノセ・ナツミの前例のせいか、
実験スタッフの、ルリに対する今の態度は、腫れ物に触るかのようにどこかよそよそしくなっていた。

そして、そんな微妙な空気を察してか、当のルリもなにやら縮こまって、居心地が悪そうに見えた。
まるで、この場に自分がいるのは、場違いだとでも感じているかのように……。





やがて準備が整い、アクセス実験が開始された。





「すごいですよ、ホシノ所長。この数値は今までで最高です」

「うむ」

スタッフから報告を受けて、ホシノ所長はホッとしながら、満足そうにうなずいた。
実験開始当初は、昨日の事故の後遺症からか、ルリは何やらもたついて、数値はイマイチだったが、
その後、ルリは調子の波に乗ったのか、これまでで最高の結果を叩き出し、スタッフ一同は沸いた。

『これで、ルリのことはネルガルに申し開きもたつ』

その後、予定されていた追加実験の全てに、ルリはこれまで以上の好成績を収め、
ホシノ所長は手放しでルリを称賛。当のルリは、かなり珍しいことだが、困惑の表情を浮かべていた。

ともかく、この日予定されていた実験は、夕方までにはすべて無事に終わったのだった。



「もう、へとへとだよ〜」

実験が終わった直後、ハーリーはぼやいた。
無理もない。朝から夕方まで、矢継ぎ早に、立て続けに、数多くの実験や試験をこなしてきたのだから。
でも、同時に、ハーリーは、実験中の事を思い出しながら、その余韻に浸っていた。



ハーリーは、ホシノルリとしての今の立場上、他に選択肢などないから、言われた通りにはしていた。
だけど、周りの研究所員の、自分に対するよそよそしい空気を肌で感じて、居心地が悪かった。

『マキビ博士の所では、こういう時、ちゃんと被験者の不安を取り除くように接するのに』
『ルリさんは、こんな所に、こんな人たちといたんだ』

実際に、以前自分のいた研究所と比較できるだけに、すっかり不信感を募らせていた。
それでなくとも、この異常な状況に、ずっと不安を感じつづけているのに。
だから、実験が始まるまでハーリーは、実験には消極的だった。だけど……、



『えっ、この感じ、この感じは……』

実験を始め、電脳世界にアクセスしてすぐに、ハーリーは奇妙な心地よさを感じていた。
まるで、遊び慣れた遊び場に、お気に入りの場所に帰って来たような、懐かしさを感じていた。
ここは、彼が幼い頃から慣れ親しんできた環境だった。

『まだ、残っていた。ボクにはまだ、ボクの居場所があったんだ。それに……』

『それに、ここにこうしている間は、ボクはボクでいられるんだ』

皮肉な事に、電脳世界にいる間は、失ってしまった本来の自分の身体の事も、
今のルリさんの身体の事も、意識せずに済む。

『ボクはボク、ボクはマキビ・ハリなんだ!!』

ハーリーは、この後はまるで、水をえた魚のように、生き生きと実験をこなし、
この研究所で、ホシノルリが以前出した記録を、大きく塗り替える結果をたたき出したのだった。





と、言うわけで、実験が終わった直後、ハーリーは気分良く、その余韻に浸っていたのだが、

「良くやった、良くやったぞルリ。いや私はお前のことを信じていたぞ」

ルリの形式上の保護者、養父のホシノ所長が、ルリ(ハーリー)に賞賛の声をかけてきた。
珍しい光景だった。が、あまりにも露骨な所長の態度に、周りのスタッフのは引いていた。
当のハーリーも、せっかく気分良く余韻に浸っていたのに、水をさされて少し不快に思った。

「今までで最高の結果だ。やれば出来るじゃないか。どうして今まで…いや、とにかく良くやった」

今までより結果が良い。つまりルリさんより良かったと言われた訳で、
そう言われてハーリーは、悪い気はなかったが、複雑な心境だった。
未来の世界で、ルリの元で鍛えられ、経験をつんできたハーリーにとって、
結果が良くて当たり前なのだから。ズルしたようなものなのだ。という意識もあったから。

『ボクが実力で、ルリさんにはまだまだ及ばない事は、ボクが一番良く知っている事だから』



「今日はもう予定はないから、ゆっくり休むといい。
汗もかいたようだし、まず、シャワーでも浴びてきなさい」

ホシノ所長は、優しくいたわりの言葉をかけてくれたが、ハーリーには、白々しく聞こえた。
こうも態度が露骨だと、かえって相手の思惑がわかるものらしい。

『ボクはこの人嫌いだ!!』

と、ハーリーは思った。
おかげでせっかくの気分の高揚が、すっかり冷めて白けてしまった。

『でも、まあいいや、お言葉に甘えてゆっくりと休ませてもらおう。ボクはもう、ヘトヘトだし』



と、いうわけで、ハーリーは浴室の脱衣所に移動して来たのであるが、

「……いいんだろうか?」

少女は、シャワーを浴びるためにここにきた筈なのに、
鏡の前で、着ている物も脱がずに何やら想像して、赤面して困惑していた。

「この場合、ボクがシャワーを浴びるって事は、当然ボクが裸になるって事で、
この場合、その裸って、それはつまりルリさんの裸な訳で……本当にいいんだろうか?」

昨日は、意識のない状態の時、誰かがパジャマに着替えさせてくれていたから覚えはない。
今朝は、時間がない状態で、慌てて着替えたから、幸か不幸かじっくり見る余裕なんて無かった。
でも、さすがに今は、時間も余裕もたっぷりあった。

ついさっきまでは、ルリさんの、女の子の身体の事を意識するどころではなかったけれど、
実験の後、精神的にひと山超えて、落ち着いて来たせいもあり、急にそれを意識し始めていた。

ハーリーは、思い出したようにもう一度、鏡に映る自分(ルリ)の姿を見た。
まだ、着替えてないから当然の事だが、実験用の水色のボディスーツを着たままだ。
身体にぴったりフィットして、女の子の緩やかに曲線的なラインがはっきりと出ていた。

「い、今は、この身体はボクの身体なんだ。不可抗力なんだし、ちょっとぐらい…いいよね?」

どうやらハーリー、心の中での言い訳ができたようである。
ハーリーだって男の子、女の子の、それも憧れの人の身体に、本当は興味津々だった。
胸がドキドキして、気分が高揚していくのを感じてる。「ごくり」と、つばを飲み込む音まで聞こえた。

「ボクは今、神秘のベールに包まれた、女の子の秘密に……いざっ!!」

ハーリーは、ドキドキしながら、自分の身に纏っているスーツに、そっと手をかけようとして……。



『ハーリーくん』

「は、はい〜〜っ!!!」

ハーリーは、突然ルリさんに呼ばれたような気がして、条件反射的にあたふた反応していた。
何か心に、やましい事でもあったのだろうか?

「わあぁ〜っ、ルリさん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

ハーリー君、こういう事に関しては、結構小心者だったりするようである。
そんでもって、実験よりこの件の方が、よっぽど神経使っているようであった。

結局、ハーリーが聞いたような気がしたルリの声は、空耳だったのだが、
盛り上がりかけた気分も、すっかり醒めてしまい、なんとなく気まずい気分になっていた。

「それでも、夢でも幻でもなんでもいいから、ルリさんに会いたい……」

鏡の中のルリさんの姿を見つめながら、ハーリーは呟いた。段々寂しさが募ってくる。
ハーリーは、そんな寂しさを紛らわすかのように、一旦鏡から目線を外し、脱衣用の籠を見た。
籠の中には、今朝、医務室に置いてあった、あの紙袋が置いてあった。

「この紙袋の中身は何だろう? って、これはっ!?」

ハーリーは中身を取り出して、目の前で広げてみた。
それはピンクのワンピース、ルリの私服だった。
実は、ルリが実験の後の着替えに用意していたモノで、後でそれに気づいたイチノセ・ナツミが、
やはり着替え用の下着と一緒に、紙袋に入れて用意しておいてくれたものだった。
そして今、ハーリーの手の中に、それはあった。

そのワンピースは、すっきりとして飾り気はなく、色もピンクといっても、淡く落ち着いた感じだった。

『かえってその方が、ルリさんらしくてよく似合う』

と、ハーリーは思い、口元を綻ばせた。……が、唐突に気づいた。
今回この場合、それを着ることになるのは、ルリさんではなく、

「って、これも、ボクが着る…の!!?」

ハーリーは、黒髪の少年な自分が、そのワンピースを着ている姿を、またもや想像してしまい、心底嫌そうな表情をした。
さらに、追い討ちをかけるような想像が、止まらなかった。

『こうして見るとハーリーは可愛いから、女の子になってもよく似合いそうだな』
『すぐ赤くなって、そういうところが可愛いって言ってるんだ。案外スカートも似合いそうだな』
『可愛いぞ、ハーリー』
『そのスカートよく似合うぞ、ハーリー』
『かわいい……』



「タカスギ大尉!!」



以前、サブロウタにからかわれた時の言葉を思い出し、追加の台詞まで想像してしまった。
サブロウタが、今の自分の境遇を笑っている。
ハーリーはそう感じて、思わずサブロウタに、言い返していた。

「余計なおせ…わ」

そこまで言いかけて、気がついた。たった今、目の前にいたサブロウタは幻で、
今、目の前には、ハーリーをからかってくれる、笑ってくれるその人はいなかった。
傍にいたら、あんなに煩わしかったサブロウタさんが、いなかったらこんなに寂しいなんて。
そう思ったら、また、寂しさがこみ上げてきた。急に目頭が熱くなってきて!!?



「いいもん、ボクはスカートなんか穿かないから」

「ずえええっっったい、スカートなんか穿くもんか!! 穿いてなんかやるもんか!!」



ハーリーは、後から後から溢れ出る、涙を手で拭いながら、
必要以上に、強い決意を込めて呟いていた。
まるで、その場に居ない誰かさんに当てつけるかのように、すっかり意地になって。
そして、その寂しさを振り払うかのように、強がって……。





「ルリさんの部屋ってどこだろう?」

ハーリーは、例の紙袋を抱えたまま、廊下をウロウロしていた。

結局あの後、気分が落ち着いた後も、シャワーを浴びなかったし、着替えもしなかった。
だから、ハーリーはまだ、実験用の水色のボディスーツ姿のままだった。
あのワンピースを、着るのがイヤだと思った以上、別の服を探す必要があったから。
今は、替わりの着替えを求めて、ルリの部屋を探しているのだけれど、どこかわからない。
ここは、比較的小さな研究所だけど、だからといって闇雲に探して見つかるものではない。

「やっぱり、誰かに聞くしかないかな?」

だとしても、誰にどんな風に聞く?
表向き、ルリさんの姿をした自分が、ルリさんの部屋の場所を聞く事が不自然な事くらいわかる。
それに、実験室でのあの態度を思うと、正直、ホシノ所長にも、研究スタッフの人たちにも、聞くのは気が進まなかった。他に誰か聞ける人、いないだろうか?

「イチノセさん……そういえばイチノセさんは?」

ハーリーは唐突に、この世界で目を覚ました時、最初に出会ったあの人の事を思い出した。





『良かった。このまま目を覚まさないんじゃないかって、私、心配したんだから』

最初に目を覚ました時、目を潤ませて、今にも泣きそうな顔をして、ボクの事を心配してくれていた。
正確には、ボクじゃなくて、ルリさんの事を心配してくれていたんだろうけど、
それでも、あの人には、暖かいものを感じていたし、今思うと、その暖かさに安心できたっけ。

何で、ボクは今までイチノセさんのことに、気づかなかったんだろう?
って、無理ないか。よく考えたら、ボクはあの人とは、あの時一度会ったきりだったんだから。

「とにかく、イチノセさんを探して、色々聞いてみよう」

少なくとも、他のスタッフに、聞いたり話したりするよりは、その方がずっといいと思いながら。



休憩室では、研究所員たち、特に実験のスタッフたちが、ゆっくりと休息していた。
この日、慌しく行われた実験も全て無事終わり、その後の後片付けも、一通り終わり、
休息しているスタッフの間には、どこかホッとした空気が流れていた。

と、そこへ……、

「え〜、あの〜、すみません。ちょっと聞きたい事が……」

蒼銀の髪の少女が、この場に顔を出し、声をかけた途端、場の空気ががらりと変わった。
スタッフたちの間に、気まずい張り詰めた空気が流れ、少女はそれを肌で感じていた。

『な、なんだよ。ボクは声をかけただけなのに、なんでこんなに空気が変わるんだよ!!』

ここまで変化が急激で露骨だと、余程の鈍感ででもない限りさすがに気づく。
この事で、少女は怒るよりも、悲しい気分になっていた。
この場での居心地の悪さも手伝い、さっさと用件を済ませるべく、気を取り直して質問した。

「イチノセさんは? イチノセさんに、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

少女がそう言った後、更にこの場の空気が重くなった。
同時に、その場に居るスタッフたちに視線が一斉に、一人の青年に集中した。
朝、少女の所に着替えや朝食を持ってきた、若い男性所員だった。

「そ、そういえば、まだ話してなかったっけ。俺がそのイチノセの後任なんだ」

少女は、一瞬、『その言葉の意味が分からない』、という顔をしていたが、

「そ、それってどういう事?」

「そういった、込み入った話はここではちょっと……。
もしルリさえ良ければ、この件はキミの部屋で話そう。それでいいかな?」

『ルリ』と呼ばれた少女には、異論はなかった。というより、好都合だった。
部屋の場所を、不自然な質問で聞かなくても、連れて行ってもらえるのだから。
だけど、同時に気になった。

『この人が後任? それじゃあイチノセさんは?』

後でその事も聞こう、少女はそう思った。





休憩室から、ルリの部屋へ移動中、ルリの担当を任された彼は、
廊下の角を曲がるとき、彼の後をついて来ている、ルリの姿をちらりと見た。

ルリは、なぜだかまだ、実験用の水色のボディースーツ姿のままで、
着替えの入っているはずの紙袋を、両手でかかえていた。

『それにしても、ルリはまだシャワー浴びてなかったのか?』

時間は充分あったはずなのに、何をしていたんだろう?
ルリは、汗っぽいのがイヤじゃないのだろうか? 見た所、髪だって少し乱れているし。
それとも、何か不都合な事でもあったのだろうか?

シャワーを浴びないのなら、せめて着替えくらい済ませておいても良かろうに。
その紙袋の中のワンピースは、何のために用意しておいたんだ?

ルリが聞いたら、「余計なお世話」と言うかもしれないが、彼はそう思った。



ちなみに、彼がなぜ中身を知っているかというと、事前に確認していたからである。
別に、やましい事は何もない。役目がら、確認しておく必要があった確認しただけである。
だいたい、お子様の服やら下着やらに、彼は興味などないのだから。……本当だぞ!!



とか何とかやっているうちに、彼が案内するような形で、ルリの部屋の前に到着した。

「さ、ついたぞ」

彼は、そう言って、両手の塞がっているルリの代わりに、部屋のドアを開けたのだった。



『ここが、ルリさんの部屋か…』

ボクは、案内されたルリさんの、部屋の中を見回していた。
部屋の中には、机とイス、ベットに、小さな洋服ダンスやロッカーなど、
生活に必要なものは、ちゃんと置かれていた。
部屋の中は、きちんと片付けられていて、几帳面なルリさんらしいとも思った。

だけど同時に、ボクはこの部屋に、何か物足りなさも感じていた。何だろう?
火星の後継者の事件の時、一度ルリさんの部屋に泊めてもらったことがあったけど、
あの時は、憧れの人の部屋の中で、ボクはドキドキのしっぱなしだったっけ(赤面)

……そうだ!! この部屋に来てからも、あの時のドキドキを感じないんだ!!
ここに今、ルリさんが一緒にいないからかもしれないけれど、でも、それだけじゃない。
この部屋には、女の子の部屋らしい、温もりとか飾り気を感じないんだ!!
僅かにそれを感じさせるのは、上から吊り下げられた、魚の飾りくらいだろうか。

「あの時のルリさんの部屋は、確かに温かみや飾り気があったのに……」

「温かみや飾り気って? それと…」

「な、なんでもない。なんでもないよっ!!」

つい、聞かれてしまった独り言を、ボクは慌てて打ち消した。
ボク、何を言ったんだろう? どこまで聞かれたんだろう? やばいかな?
でも、それ以上、何も聞かれなかったし、大丈夫だよね? ……多分。



少し気まずくなって、ボクは口を開けないでいた。どうやって話を振ろう?
そう思っていたら、担当所員さんが、先に話しかけてきた。

「とにかく、話をしようか。これに、座っても良いかな?」

「ど、どうぞ」

「ありがとう」

気まずい気分だったから、焦ってあっさりイスを譲っちゃったけど、失敗だったかな?
今更だけど、この部屋には、イスが一つしか置いてなかったんだよね。
ボクも、実験なんかで疲れているし、座りたいんだけど、もうイスがないし、どうしよう?
代わりのイスがないだろうかと、もう一度、部屋を見回すと、ベットが目に入った。
……あ、そうか、ベットに座ればいいんだ。
その事に気づいて、ボクは勢いよく、ベットに飛び込んだ。



俺は、正直気が重かった。

イチノセの辞めた事情、俺が後任を任された事、ルリにはどう話そうかと思っていた。
朝は、この件の事情を、ルリに聞かれたら答えようと思いながら、身構えていたのだが、
結局、聞かれずじまいでホッとして……もとい、拍子抜けしていた。

元々ルリは、他人にはあまり関心をもたない、ある意味可愛げのない子だったし、
ルリにとって担当の人事なんか、どうでもいい問題だったのか?
だとしたら、この件で辞めさせられたイチノセは、報われないな。とも思った。
だから、ついさっきまで、この件は無理に答えずに放置していたのだけれど。

「イチノセさんは? イチノセさんに、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

どうやら、完全に無関心、という訳ではなかったらしい。
それどころか、今のルリの態度は、逆にイチノセに、強い関心を持っているように見えた。
まいったなあ、とにかく、他の同僚の目もあることだし、
俺はこの件を、彼女の部屋で話す事にした。……したのだが。

この部屋でのルリの態度は、『変』だった。
きょろきょろと、自分の部屋を、まるで初めての来た部屋のように、物珍しそうに見回していた。
同時に、朝、ルリが知っているはずの、トイレの場所を聞いてきた時の事も、思い出していた。

ルリは、いったいどうしたんだ?

そう思って、ルリを見なおしたら、何やらぶつぶつと独り言を言っている。
洩れ聞こえる言葉の端に、「火星の後継者」「憧れの人の部屋」「ドキドキを感じない」
何を言っているのか、意味がよくわからない?
ルリの独り言の意味を、俺はつい、思わず聞き返していた。

「あの時のルリさんの部屋は、確かに温かみや飾り気があったのに……」

「温かみや飾り気って? それと…」

「な、なんでもない。なんでもないよっ!!」

その後は、警戒されたのか、気まずく感じたのか、ルリは押し黙ってしまった。
どういう事か、気にはなったけど、聞いても話してくれないだろう。
俺はひとまず、ルリから話を聞くのは諦めて、こっちから話を振る事にした。

「とにかく、話をしようか。これに、座っても良いかな?」

「ど、どうぞ」

「ありがとう」

俺は近くにあったイスを引き寄せて、背もたれを前にして座り、
ルリは、少しばかり落ち着かない様子で、きょろきょろしたり、戸惑った様子を見せていたが、
何か答えを見つけたのか、吹っ切れたような良い表情を見せた。
と思ったら、ルリは一瞬だけ微笑んで、ベットに勢い良く飛び込んで座ってみせていた。
その姿は、いつものルリのイメージとはかけ離れた、年相応なやんちゃな子供のように感じた。

俺は、感情を表に出さない、人形みたいで可愛げのないルリを、苦手だと思っていた。
だけど、この時の子供っぽいルリが、一瞬見せた微笑みに、俺は不覚にもドキリとしてしまった。
そんなルリが、今までとは別人のように思えて、可愛いと感じていた。
同時に、俺はこの子には嫌われたくない、とも思っていた。それなのに……。



俺は、俺がイチノセの後任になった事情を、簡潔にルリに話した。
そして、なぜイチノセが辞める事になったのか、その事情も、知る範囲で正確に話した。
下手に誤魔化しても、頭の良いルリには、すぐにばれるだろうから。

「細かい事情までは、俺も知らないが、イチノセは、ホシノ所長に意見を言ってクビになったんだ」

その意見が、ルリのあつかいに関する事らしい事、
そのせいで、周りがとばっちりを恐れて、ルリにはよそよそしい事、
言いにくい事を、はっきり教えたら、ルリはその事に責任を感じたのか、うなだれていた。
そして俺は、その時のルリの気持ちに気付かずに、調子に乗って余計な一言を、つい本音まで言ってしまった。

「ま、イチノセも馬鹿だよな。余計な一言を言って首になってりゃ世話無い。
それで、自分だけならいいが、周りの人間の迷惑も考えてほしいもんだ」

「……そうだよね、意見を言って結局首になってたら、馬鹿みたいだよね。だけど…」

そう言って、俺を見たルリの目は、表情は、怒っていた。怒りに満ちていた。
そして、そんなルリを見るのも、俺は初めてだった。

「そういうあんたも、所長や他のみんなと同じだよ! 結局の保身しか考えていないじゃないか!!
一度でも、イチノセさんみたいに、ルリさんの事を、親身になって考えた事あるの!!」

ルリの言葉は厳しくて、容赦なかった。
勢いに押されて、とっさに返す言葉がなかった。

「もういい、出てって!!」

俺は、一言の弁明も言う事が出来ないうちに、ルリの部屋から追い出されてしまった。
俺はこの時、自分の軽率さを、後悔していた。


結局この日はこれ以降、ルリは部屋に閉じこもり、出てこなかった。
翌日も、気まずい関係が続いた。ルリは部屋からは出てきたものの、
まるで元のルリに戻ったかのように、いや、それ以上に冷ややかな態度を取り続け、
誰とも、必要最小限でしか、ろくに口もきいてくれなかった。

そして、そんな中、ネルガルからのスカウトがやってきて、ルリは連れて行かれた。
直後にそれを知り、俺は永遠に、ルリと和解する機会が失われた事を知った。

あとは、伝聞でしかルリの活躍は知らない。
民間企業ネルガルの、戦艦ナデシコのオペレーターとして、期待以上の実績をあげているらしい。
そして、俺はもう、あの娘と出会う事はないだろう。

「そういえば」と、後になって、俺はおかしなことに気が付いた。
あの時ルリは、自分のためにではなく、他人のために、
それも、『イチノセ』と『ルリさん』という人のために怒ったように感じた。
だとすれば、イチノセはともかく、ルリにとって『ルリさん』とは誰の事を指していたのだろう?
まあ、今となっては知る由も無いことだが、
その謎と、あの時の事を、ルリに謝る事が出来なかった事は、今でも俺には心残りだった。
だけど、あの時、ルリがほんの一瞬見せた微笑みや、あの時の子供っぽい仕草、
そして、10歳ほど年下の女の子に、抱いてしまった淡い感情を、俺はずっと忘れないだろう。





この日、人材開発センターに、ネルガル重工から、スキャパレリプロジェクトの一環として、

人事と会計の責任者、プロスペクター
軍事と警備の担当、ゴート・ホーリー

この両名が、このプロジェクトの要である、重要人物をスカウトするためにやって来た。

まず、人材開発センター、ホシノ・トモ所長と面会し、
同センターのマシンチャイルド『ホシノ・ルリ』の身柄をあっさり買収した。
ルリの今までの養育費と、身柄の保証金を合わせ、ネルガルから破格な金額が提示され、
ホシノ所長は、あっさりこれを受け入れたのだった。
これにより、ルリの所有権は、正式にネルガルに移り、
次いで、プロスは、そのホシノ・ルリと面会をしていた。



「スカウトって、ボクを…ですか?」

「はい、お仕事の内容は、先ほども説明した通りでして、ぜひとも契約書の方にサインを……」

自分より、遥かに年下の少女、ホシノ・ルリ相手に、にこやかに丁寧に、営業スマイルのプロスさん。
同時に、そのとぼけた様子とは裏腹に、その眼差しは、しっかりルリの事を品定めしていた。

『ふむ、この子が噂の天才少女、マシンチャイルドのホシノ・ルリさんですか。
事前に受けていた報告とは、印象が違いますなあ?
まあ、実際に会ってみたら、印象が違っていたなんて事は、よくある事ですが……』

それにしては、報告書の内容との隔たりが、大きすぎるような気もする。
報告書の内容からは、この少女は、冷静沈着で感情表現に乏しく(感情をあまり表に出さない)
周りにも自分自身にも、無関心無感動で、醒めた目で物事を見ている。
報告書からは、そんな印象を受けていたのだが。
現実に、目の前にいるこの少女からは、報告書とは反対の印象を受けるのだ。

『ルリさんは、私の話に興味がない。という風に無関心を装っていますが、
本当は興味津々のようですね。顔に出ています。どうも隠し事が、あまりうまくないようです』

もし、ルリが報告書の通りなら、こういう自分の運命にも無関心で興味を示さないだろうし、
少なくとも、思った事を表情にも出さないだろう。

更に言うと、ボーイッシュな性格だとか、言葉づかいだとか、報告書には一言も書かれていない。
普通、そんな重要な事は、記入漏れがあるはずがない。これは一体、どういう事だろうか?
その事に関しては、プロスもルリには違和感を感じていた。
報告書の先入観があったとはいえ、ルリのイメージが、見かけと中身が一致しないような気がする。
ルリの何かがおかしい、何かが変だ?
それが、何かはわからないが、長年の経験と勘が、プロスにそうささやきかけるのだ。

『まあ、いいでしょう。今、私たちが欲しいのは、ルリさんのその能力です。
多少、性格に問題があろうと、報告書と食い違いがあろうと、それに比べれば些細な問題です。
まずは、ルリさんとの正式な契約を結ぶ事が優先です。今は、余計な詮索はしなくていいでしょう』

実際、プロスペクターの人材集めの方針は、多少人格に問題があっても、一流の人材を、なのだ。
もし将来必要があれば、尋問でも調査でも、何でもするつもりである。
だが、今、余計な事を言って、ルリにいらない警戒心を抱かせるべきではないだろう。

『もちろん、常に警戒は怠れませんがね』

ちなみに、これは余談であるが、後日、研究所からの、ルリの正規のデータを調べなおした際、
ルリの事故が隠蔽されていた事実を、プロスは知る事になるのだが、それはまた別のお話。



「スカウトって、ボクを…ですか?」

「はい、お仕事の内容は、先ほども説明した通りでして、ぜひとも契約書の方にサインを……」

にこやかに丁寧に、営業スマイルのプロスペクターを前に、ハーリーは考えるふりをする。
実は、考えるまでも無く、ハーリーの答えは決まっていた。

『もうこんな所にいたくない。ナデシコに乗れるのなら、一刻も早くここを出て行きたい』

とはいえ、あからさまにそんな態度を取るのも、嫌だった。(乙女心は複雑?、笑)
だから、ハーリーは、『ボクは、そんな話には興味が無いよ』という態度を装っていた。
もっとも、プロスはそんなルリ(ハーリー)の態度はお見通しだったが、ハーリーは気付いていない。

「上のほうとは、もう、話はついているんですよね?」

「はい、ホシノ所長とはもう話はつけてあります。ルリさんの親権は、既にネルガルに移っています。
後は、これからの仕事の関係上、ルリさんとは直接、社員契約を結びたい訳でして」

「後は、ボクがそれにサインするだけって事なんですよね。それじゃ、仕方ないか」

結局、一通りプロスさんに契約の話を聞いた後、
ハーリーは、差し出された契約書にサインをした。いかにも、仕方なさそうに。

「ここに、サイン。名前は、『星野ルリ』……と」

一瞬、ペンを持つ手が止まった。が、次の瞬間には、無事、契約書のサインを終わらせた。
内心ホッとしつつも、『星野ルリ』と、名前を書いた事に、ハーリーは複雑な想いも抱いていた。



こうして星野ルリは、メインオペレーターとして、正式に、ナデシコに乗り込む事が、決まったのであった。



翌朝、サセボを走る、ネルガル所有の車の中に、ルリの姿があった。
後部座席にちょこんと座っているルリに、前の座席から、プロスペクターが声をかけた。

「もうすぐ、サセボドックが見えてくるはずですよ」

そう言われて、ルリと呼ばれた少女は、窓の外を見た。
車は既に、サセボの郊外に走り抜けており、プロスの言葉の通り、到着は間もないようだ。

ちなみに、ルリたちは研究所を引き払った後、関東から北九州まで移動してきた所で夜になり、
昨晩は、ハカタ市内のホテルに一泊していた。
そして現在は、ハカタからサセボに、車で移動してきた所である。

「それはそうと、夕べはゆっくり休めましたか?」

「はい、昨日はぐっすり。気がついたら、いつの間にか朝になってましたし」

と、ルリは、にっこりと笑顔で、元気よく答えていた。
昨晩のルリは、研究所から出られた開放感と、ナデシコに乗れる嬉しさで、
遠足前の子供みたいにドキドキしていて、ベットに横になっても、最初はなかなか寝付けなかった。
けど、そのうち、ここ数日の疲れがどっと出たのか、何時の間にか眠っていた。

「それは良かった。環境が急に変わって、よく眠れなかったのでは、と、心配していたんですよ」

「それなら大丈夫です。だって、ボクの置かれている環境なんて、ここ数日変わりっぱなしだったし」

「環境が変わりっぱなし?」

「あっ!、……い、いえ、なんでもないです」

ルリは、少し慌てて自分の発言を打ち消していた。
どうやら、調子に乗って、余計な一言まで言ってしまったようだ。

でも、ルリはナデシコにいくのが、今から楽しみだった。
ルリは、人材開発センターの研究所員たちには、すっかり不信感を抱いてしまっていたが、
その反動もあってか、余計にナデシコクルーたちに会うのが楽しみだった。

火星の後継者の乱の時、ナデシコCで旧ナデシコクルーたちと、
ほんの少しの間だけど接したときの事は、今でもよく覚えている。

なぜなにナデシコで、一緒に黒子をやったウリバタケさん。
地球から月へ、ナビゲートして、一緒にジャンプしてくれたイネスさん。
締め切りまじかの原稿を手伝わされたヒカルさん。
日々平穏で、美味しい料理を作ってくれたホウメイさん。
今、同じ車に乗っているプロスさんなんかは、水槽の影から出てきたお茶目なおじさんだったっけ。
それに、なんといってもミナトさん。特に、ミナトさんには早く会いたい。

ルリ(ハーリー)は、すっかり期待に胸を膨らませていた。
やがて、ルリたちを乗せた車は、サセボドックに到着した。



「ルリさん、そんなに慌てなくても」

ドックに到着するや否や、ルリは車から元気よく駆け出していた。
が、それは良いけれど、入り口で警備員に制止させられていた。

「やれやれ、ルリさんがこんなに元気な方だったとは。まるで子犬みたいですね」

「だ、誰が子犬だよ、誰が!」

プロスの感想が聞こえたのか、ルリは強い調子で抗議した。
頬を赤らめて、ちょっと恥ずかしそうである。

「いやはや、これは失礼」

そんなルリに、苦笑しながらも、プロスは謝した。

『そうだと思ったら、急に、こんな風に可愛らしい一面も見せますし、まったく不思議な子です』

そんなルリの姿を見ていると、つい構ってあげたくもなる。

『子犬とは、言い得て妙かもしれませんな』

そう思いながら、プロスは改めてルリを見た。
可愛らしくて、一見おとなしそうな、女の子らしい容姿とは反対に、
活発そうな(ボーイッシュな)服装と雰囲気に、アンバランスなものを感じる。
スカウトでの初対面の時に、ルリに感じた違和感を、改めて感じていた。

『まあ、いいでしょう。ルリさんのことは、しばらく様子見です』



ちなみに、今のルリの服装は、上は女物のTシャツ、下はキュロットという、ラフで動きやすい格好で、
ルリ(ハーリー)の苦心の組み合わせであった。

ルリの持っていた私服は、スカート系ばかりだった。男物のズボンがないのはしょうがないとしても、
せめて、女物でもいいから、スラックスやハーフパンツの類がないか探したが、それすらなかった。
ハーリーは知らない事だが、ルリ(オリジナル)は、自分がスカートが似合うことを自覚していて、
基本的にスカートの類を好んで選んでいたので、パンツスタイルの服を、結果的にまったく持つ事はなかったのだ。

ルリとは逆にハーリーは、
『スカートだけは、絶対に穿きたくない。意地でも穿かない』と、嫌がっていた。
だから、ルリの持っていた私服に中に、我慢して着れそうなものがないか探し、キュロットを探し当てた。
これなら、ハーフパンツっぽいし、まだ我慢ができる。

そんな訳で、ナデシコに乗り込むまでの数日間、
ハーリーは、私服はキュロットと、数の少ない組み合わせて過ごしていたのであった。

と、そうこうしている間に、プロスとルリは、サセボドックの地下に到着した。
その地下ドックには、完成したばかりの新鋭戦艦、ナデシコの姿があった。



「どうですルリさん、これがわが社の誇る新鋭戦艦、ナデシコです」

営業スマイルを浮かべつつ、ナデシコをバックに、プロスペクターは宣言した。
その表情は、どこか誇らしげですらあった。が、直後に僅かに失望の色を浮かべた。
ナデシコを紹介された少女が、さほど驚いたり感動したりといった様子がなかったから。
もっともそれは、少女にとってナデシコそのものは、別に珍しいものではなかったからである。
少女は未来の世界で、ナデシコBやCなどに、実際に乗艦していた経験と記憶があったから。

それでも、ルリには……ハーリーには、別の感慨があった。

『これが、ナデシコAか、あの時ルリさんはナデシコに深い思い入れを持っていたけど、
それが何だったのか、いつかボクにもわかるだろうか?』

かつて(?)、火星の後継者との戦いを前に、
建前上、正規の軍人を使うわけにはいかない宇宙軍は、旧ナデシコクルーを集めて回った。
ハーリーは、それに反発したものだった。
恥ずかしい話だが、あの時は旧ナデシコにこだわるルリに、ハーリーは焼きもちを焼いていたから。
ハーリーはその時、ミナトと出会い、ミナトに励まされて、その時のわだかまりを吹っ切ったのだが、
結局、その時のルリの想いを、全て理解した訳では決してない。
でも、全部とは言わないが、今にして思えば、その時のルリさんの気持ちが、少しわかる気がする。

『ボクにとっても、今ではナデシコBやCで過ごした時間は、大切な思い出だし』

本来なら、ハーリーの体感時間では、ほんの数日前まで、ナデシコCに乗っていたはずなのに、
それが、今となっては、随分遠い過去(未来)の世界での、夢の世界での思い出になっていた。

かつて、ルリさんがたどった同じ道を、ボクもたどることで、
いつかもう一度、ナデシコBのみんなにも、出会えるかもしれない。



「じゃあ、いってみようか。はじめまして、よろしくね、ナデシコA」



彼、マキビ・ハリの、……いや、彼女のホシノ・ルリとしての、
新しい人生の第一歩が、ここから始まったのであった。
彼女は、これからナデシコで、なにを見て、何を知る事になるのだろうか?

この続きは、いずれまた、という事で。





つづく



あとがき

よ、ようやく終わった。少し手直しするだけと思っていたのに、こんなに苦労するなんて。

後編も大幅増量、ほとんど新しい話を書く程の、手間とエネルギーを注ぎ込んでしまいました。

ともかく、第一話後編、リニューアル版を、お届けします。



二年前(もう二年になるのか)ハリルリの第一話書いたときは、細かい心情や設定など、

僕が書けなかったこともありますが、その分開き直って、読者の想像にまかせたつもりでした。

今回、そのすきまを埋めた、詰め込んだ話を書いたのですが、どっちが良かったでしょう?

今回は、表現がくどかったかな? とも思うし、正直、この話書き終わった今でも、少し考えます。

でも、作者的には、これで行くと決めたんだから、これで行きます。



>予想を裏切ってくれることを期待しつつ、後編をお待ちしております。

前編で、代理人さんにもらった感想の、最後の一行ですが、

ひええっ、こんなこと言われたけど、どうしよう? と、思ってました。(笑)

話の大筋は変わらないし、制約のある状態でのリニューアルなだけに、期待に応えられる気がしない。

ただ、おかげで後半も、少し手直し程度でなく、あれからほとんど書き直してしまいましたが、

とりあえず、こんなんでどうでしょう?

でも、一つ言える事、今回のリニューアル版第一話は、

今まで書いてきた話や、キャラの積み重ねがあったからこそ、出来たと思ってます。

自分の書いてきたキャラクターの再確認も出来たし、思い入れも深まったような気もしますし、

だから、まったく無駄じゃなかった。と、今は思ってます。



キャラクターの話

イチノセさんというキャラは、本来の予定では、通りすがりの名無しキャラだったんです。

書いているうちに、思い入れが出来ちゃって、名前をあたえたら存在感が増しちゃったんです。

そもそも、本来イチノセさんにあたる役は、星野幸枝さん(養母、奥さん)にやらせるつもりでしたが、

それじゃ、ルリに思い入れすぎちゃって、都合が悪いのでボツにして、イチノセさん出したのだし。

(ところで、イチノセさんは、再登場検討してるんですけど、皆さんの意見はどうでしょう?)

だから、後編に登場した、若手の担当所員くん(仮名)には、名前は与えませんでした。

下手に、思い入れは入れたくなかったですしね。

それなのに、書いているうちに彼にも、段々思い入れが……、それじゃキリがないって(苦笑)



ルリ及び星野夫妻の設定

僕が見つけた(埋もれていた)昔の資料によると、

2189年、ネルガル重工人材開発センターにスカウトされ、
ネルガル傍系AKATUKI電算研究所のメインスタッフ、星野智、幸枝夫妻の養子となる。
この年、日本国籍取得。以降、
「ヒューマンインターフェイス・プロジェクト」にクラスAAA被験者として参加する。

と、こうなっており、最初はこれを元にリニューアル設定作ろうと思ったのですが、

前回作った話に矛盾発生。二話以降にも影響あると判断したのでやめました。

まあ、多少公式の設定と食い違いがあっても、これくらいなら問題ないかな……と。

あとついでに、2190年、
ネルガル重工スキャパレリプロジェクト開始。ルリはS機関搭載戦艦のオペレーターに選出される。
以降、宇宙船航行訓練その他の専門訓練が彼女のカリキュラムに含まれる。

実は、木星と戦争になる5年も前に、スタートしていたんですね、このプロジェクト。

多分、火星が陥落したから、計画に変更があったのだろうけど、元はどんな計画だったのだろう。

まだ幼いルリに、教育を施し、金を注ぎ込み、そう考えると凄いと思います。いろんな意味で。



ハーリー君の話

あと、リニューアル前のハーリー君て、生真面目な少年です。

もっとも、劇場版でも生真面目な気がするし、このリニューアル版でも基本は生真面目ですけれど。

今回のハリルリちゃんには、ちょっとだけ男の子っぽく、やんちゃ坊主な要素を入れたつもりです。

どうでしょうか? あまり、その要素強くしすぎても、却って良くないだろうし、加減が難しい所です。



あと、ハーリー君ついでに、ボツネタもひとつ。

憧れの人のはずのルリの身体に、ハーリーが嫌悪感を抱くシーンを書こうかとも思ったけれど、

本筋の話ではないし、その設定すると、話の流れが悪くなり、後々まで響くのでボツにしました。

思春期で微妙なお年頃、微妙な問題だと思いますしね。

でも、ハーリー君には、自分が男の子だというこだわりは大切だと思ったので、

それだけは譲れない線という事で、守らせています。今のところは……。(をいをい)

嫌悪感を抱くといえば、ハリルリちゃんは、スカートを穿くのは嫌がっていましたね、

その対比もあり、ルリの持っている私服は、スカートばかりにしましたが、

実際、イラスト集や設定集、TV、劇場版、どれ見てもルリってスカートばかりなんですよ。

だから、ルリはスカートを好み、私服はスカート系ばかりと設定しました。(話の都合もあるが)

唯一の例外は、なぜなにナデシコの、お姉さん役のルリの服装、つなぎの半ズボン姿かな?

これは、ナデシコの艦内放送用に準備したもので、(ウリバタケさんあたりが、準備したと推測)

ルリの私服にはないと判断しましたが、もしあったら、ハリルリちゃん、これ着たんだろうなあ(笑)

(ルリがスカートばかりというのは、イメージの関係もあるのかな。だから逆に、ハリルリちゃんのスカート嫌いが面白いのだろうと思う)



真面目な話、このシリーズのハリルリちゃんも、自分の置かれた状況は、痛いほどわかっている。

でも、感情がついていけない。理不尽な今の状況が許せない。そんなだと思います。



リニューアル版は、二話以降と、エピソードかぶったり、多少の矛盾があると思いますが、

気にしないで読んでくださいね。このシリーズは、それくらいはたいした問題ではないですから。

続きがいつになるかは、ここでは書きません。守れたためしがないですから。

でも、少しでも早く、書きたいとは思っています。



それでは、あとがきが、やたら長くなりましたが(苦笑)

今回はこの辺で、次回またお会いしましょう。





訂正版の追加説明

>今回のこれは、女の子としての初めての経験で、勝手がわからなくての失敗だった。
>だけど同時に、ハーリーは文字通り身体で

>そして、そんな風に感じさせるルリに、なぜか戸惑っていたのだった。

ここの部分が、なぜか抜けてました。最終チェックしたときに、見逃していました。
こんなミスするなんて、修正とかしていたときに、削除して気付かなかったのかなあ。
結構な分量なのに、どうしてだろう?

原因はともかく、そんな訳で、訂正版を送ります。申し訳ありませんでした。

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

楽しく、こそばゆく読ませていただきました。

イチノセさんの再登場はあってもいいと思います。

一方で名無しA君を名無しのままにしておいたのは正解かと。

三平さんがおっしゃったとおりの理由でも、イチノセとの対比という意味でも、ですね。