(僕の名前はマキビ・・・ルリ!?「その3」)



「自由への夢は一日にして終わる・・・か」

「だ〜〜っ、諦めるなっ、まだ希望はそこにある!!」

「・・・はいはい」

現在、ここナデシコ食堂には、ナデシコの主だったクルーたちが集められ、軟禁されていた。
そして上記の会話は、軟禁されているうちの、整備班長と熱血馬鹿の心温まる(?)会話であった。
なぜそんな事になってしまったのか?、というと・・・

「この艦は私がいただくわ」

連合軍から、副提督として派遣されて来ていたムネタケ副提督と、その指揮下の兵士たちに不意を突かれ、ナデシコは艦内の要所を占拠されてしまった。そして、その動きに呼応して現れた、連合宇宙軍第三艦隊に、艦長ミスマル・ユリカの身柄と、マスターキーを抑えられてしまった為である。
そのため、動力の停止した今のナデシコは、抵抗どころか身動きすら出来ない、無防備な状態だった。

ついさっきまでは、サセボでの木星蜥蜴との戦闘での勝利の勢いで、クルーたちの士気はおおいに盛り上がっていたのだが、現在はその出鼻をくじかれた形で食堂に軟禁され、意気消沈してすっかり元気をなくしていた。重苦しい空気がたちこめる。
もっとも約一名、場の空気の読めない熱血馬鹿が、声を大きく張り上げているが(苦笑)





そして、そんな光景を見つめながら、オペレーターの少女ホシノ・ルリは、ため息をついていた。

『そうか、連合軍のナデシコ拿捕未遂事件って、こういう事だったのか・・・』

心の中でつぶやきながら、ルリは以前に見た、ナデシコAの航海記録の内容を思い出していた。
史実(?)では、この後一斉蜂起したクルーたちによって、この艦は軍の手から取り戻される事になっているらしいけど、今のところそんな兆候は見られないし、本当のところはどうなのだろうか?

『こんな事になるとわかっていたら、ナデシコAの事、もっと詳しく調べておくんだった』

と、今更ながら、少女はあの時の事を少しばかり後悔し、心の中でぼやいていた。
あの時とは、彼女がまだ五年後の未来の世界にいて、マキビ・ハリ(愛称ハーリー)という名の少年だった時の事である。
あの時、確かに未来のナデシコBのオモイカネから、ナデシコAの航海記録のを閲覧した。けれど、その時見たのは、あくまで表面的な大雑把な内容でしかなかった。興味のある事以外は詳細までは調べなかったし、そこまでしようとは思わなかったのだ。あの時は、まさか自分がルリさんの身代わりに、こんな形で当事者になるとは夢にも思わなかったから。
今更悔やんでも仕方のないことだとも分かってはいるけれど、もしかしたら他に何かやりようがあったのではないだろうか?

考えても簡単に答えの出ない思考のループに陥りながらも、ハリルリは考え、ふと気付いた。
ついさっきまでは、オペレータさえこなしていれば、ルリさんの代役はどうにかなるかと思っていたけど

もしボクがミスをしたら?

ボクのミスのせいで失敗なんかしたら?

・・・・・失敗できない、失敗なんてできないよ!!

だって、ボクの失敗した事が、そのままルリさんの失敗した事になってしまうから・・・。



ハリルリは改めてその事に気がつき、急にプレッシャーを感じはじめたのだった。













機動戦艦ナデシコ

僕の名前はマキビ・・・ルリ!?



〜その3「ナデシコ拿捕の裏の事情」〜



By 三平











「みんな元気出せ〜っ。よ〜し、俺が元気が出る良いモノを見せてやる!」

熱血馬鹿、エステバリスパイロットのヤマダ・ジロウ(自称、ダイゴウジ・ガイ)が威勢良く宣言した。
意気消沈して元気の無いクルー達の、この場の重苦しい空気を吹き飛ばすかのように



「・・・ったく、すんげえ旧式のプレイヤーだからさあ、今のテレビに映すの面倒なんだよなぁ」

ぶつぶつとぼやきながらも、整備班長のウリバタケ・セイヤは、食堂のモニターとヤマダ(ガイ)の持ち込んでいた、映像ディスクのプレイヤーとを、手慣れた様子で接続していった。
文句を言いながらも、軟禁されてやることもなく腐っているよりは良いと思ったのだろう。

そしてそれは、他のクルー達も同じだった。今の重苦しい空気を改善するきっかけが欲しかったのか、あるいは退屈より刺激が欲しかったのだろう。ヤマダのディスクは皆の興味を引き、クルー達はモニターの前に集まりだしていた。
皮肉な事に、これがきっかけで、この場の雰囲気が変わりはじめたのだった。

ヤマダ・ジロウ、魂の名はダイゴウジ・ガイ、自称ナデシコのエースパイロット
場の空気が読めない事が逆に幸いした・・・かな?この場合(苦笑)
ただし、それがいつまで続くやら・・・・・・



「さ〜て見て驚け! ディスク・イン・ザ・スタ〜ト、スイッチオン!」

再生されたモニターに映っていたものは、暑苦しい巨大ロボットのアニメだった。
次の瞬間、モニターを見ていたクルーたちの表情が引きつり、辺りには白けた空気が流れていた。



「なんだこれは?」

「幻のアニメ、ゲキガンガー3、いやあ全39話モエモエっす」

真面目腐った表情で、質問するゴートの問いに、ヤマダは嬉しそうに答えた。
どうやらこの場の空気が白けてしまったことに、彼は気づいていないようだ(苦笑)
それはともかく、このロボットアニメのタイトルは、『ゲキガンガー3』というらしい。

「あれ、これオープニングが違うんだ?」

「だー、わかる? オープニングは3話から本当のになるんだよな・・・何だお前か」

やっと、ゲキガンガーを知っている者が現れて、喜色満面なヤマダだったが、それが前回勝手にロボットに乗って、彼の見せ場を奪った、例のコック見習いだと知り、露骨に態度を変えた。

「お前にゲキガンガーを語る資格はない!!」

「わかるよ、子供の頃火星で見ていたから」

「だったら何でパイロットが嫌なんだ! コックが何だ!!」

「いいじゃないか、コックだって」

理由はともかく、熱くなってにらみ合う二人、と、そこへ、



『無敵! ゲキガンガー発進!』



ゲキガンガーの本編が始まり、二人仲良く並んでゲキガンガーの鑑賞を始めたのだった(笑)
そんな光景を見ながら、周りのクルーたちは、すっかり呆れ果てていた。





さすがにミナトも、やれやれと呆れながらその光景を見ていたが、
ふと、周りを見まわし、『おや?』と思った。

「ルリルリは・・・?」

少なくともアニメの鑑賞がはじまるまでは、同じテーブルにいた。なのに今は姿が見えない。
いったいどこに? 軟禁されて外に出られない以上、少なくともこの食堂内にいるはず。
ミナトは、そっと辺りを見まわした。

「いたっ!」

ミナトは見つけた。モニターから、一番離れた隅っこのテーブルに、ぽつんと一人寂しげなルリを。
まるで何かを堪えて、今にも泣きそうな表情のルリを。





ヤマダさんのロボットアニメのオープニングを見て、みんなは呆れていた。
ボクも、こういうのは嫌いじゃないんだけどさあ・・・・・・(ため息)

そういえば、サブロウタさんが以前これの話を少しだけしてくれた事があったっけ。
木星連合じゃゲキガンガーは聖典だったって・・・

『サブロウタさん。 タカスギ・・・大尉』

ボクは思い出していた。連想してしまっていた。
未来のナデシコBやCで副長をしていた、タカスギ・サブロウタ大尉のことを。
あの時は話の流れで、なぜかゲキガンガーの話が出て、
でも、そういえば、その話をしている時のサブロウタさんは、どこか寂しそうだったっけ。
いつもの軽いお調子者なノリとは違っていたから、印象に残っていたけど、どうしてだろう?今更こんな事思い出すなんて・・・

忘れていたわけじゃない、ボクだってサブロウタさんのこと、忘れていたわけじゃない。
この世界に来てからも、ボクは何度もサブロウタさんの事、思い出していたんだ。



「わあぁ〜っ、ウインドウボールの中に勝手に入らないでって、前から何度も言ってるじゃないですか!」

「何むくれてるんだハーリー、俺とおまえの仲じゃないか」

「な、何言ってるんですか、エッチー!!、誰が俺とおまえの仲なんですか、誰がっ!!?」

「あははははは・・・」



まったく、サブロウタさんときたら・・・・・・(苦笑)
でも、いなくなって初めてわかる。ボクにとって、サブロウタさんがどんなに存在感のある人だったのか、
今頃、どうしているのだろう? サブロウタさんもこの世界に来てるのかな? それとも・・・
寂しい、もう一度会いたい。ううん、せめて無事でいるかどうかだけでも知りたいよ。
だけど、・・・だけどどうしようもないじゃないか! だって、今のボクには確かめようがないのだから。
たとえオモイカネの手を借りても、木星にいるサブロウタさんのことまで調べようがないんだから。

だから、ボクは最近は、サブロウタさんの事はできるだけ考えないようにしていた。
なのに、・・・・・・ボクは今、どうしようもなく寂しくて、懐かしくてたまらない気分になっていた。

これ以上、サブロウタさんの事を連想させるこのアニメ、見てなんかいられない
だから、ボクはそっとモニターの前を離れて一人で・・・・・



「どうしたのルリルリ?、こんな所に一人で」

「えっ?、あ、ミナト・・・さん」

ミナトさんに急に声をかけられて、ボクはどうしていいのか咄嗟には、わからなかった。





ルリルリは、初めのうちはなかなか話をしてくれなかったけれど、
ぽつりぽつりと少しづつ、話をしてくれた。

「以前ある人にゲキガンガーの事を聞いていて、・・・それであれを見ていたら、あの人の事思い出しちゃったんです」

一度口を開いたら、言いたい事がたくさんあったみたい。そのうちに、

「あの人は、態度は悪いし普段は不真面目だし、お節介だしすぐちょっかいをかけてくるし、女癖だって悪いし、それから・・・・・・」

名前とか具体的な事は伏せてだけど、ルリルリが、以前お世話になった人の話をしてくれた。
だんだん話がヒートアップして、言いたい放題、悪口のオンパレードになっちゃったけど(苦笑)
だけど、その悪口の中に、私はルリルリの、『あの人』に対する親しみを感じて、少し焼けちゃった。
だから、私はちょっと意地悪なことを言ってみたくなっちゃった。



「そっか、ルリルリはその人の事が嫌いなんだ」

「なっ、なんでそうなるんです! ボクは別にそこまで・・・」

「だって、ルリルリったら、さっきからその人の悪口ばかり言ってるしぃ」

「・・・確かに悪口は言いましたけど」

「じゃ、やっぱり嫌いなんだ♪」

私は、話の流れや口調でそうじゃないって事はわかっていたけど、
あえてそう決め付けるように、ルリルリを挑発するように言ってみた。
そうしたら、ルリルリがムキになって反応してくると思っていたけど・・・・・

「そんな事ないよ! だってボクは・・・」



「ボクは本当はサブロウタさんの事、大好きだもの!!」



・・・私もまさかこんな反応が返ってくるなんて、思ってもいなかったわ。





ルリ(ハーリー)は、今のルリの姿でその発言がどう言う意味を持つのか、
自分が自爆発言をしてしまったことに、すぐには気づかなかったようであり。



「へぇ〜っ、サブロウタさんていうのかぁ、ルリちゃんにもそんな人いたんだ?」

「えっ?」

ルリがハタと気づいて周りを見てみると、
いつのまにか、食堂勤務のお姉さんたち(後のホウメイガールズ)やメグミなどが、
こっそりと寄ってきて、気づかれないように、ルリとミナトの会話に聞き耳をたてていたようだ。

「あ、バカ、見つかっちゃったじゃない」

「あ〜あ、しょうがないなあ」

「あ、ルリちゃん。私達の事は気にしないでいいから」

「ねえルリちゃん、サブロウタさんって、どんな人だったの?」

「サブロウタさんてかっこ良かった?、ルリちゃんはどう想っていたの?」

「えっ?あわっ、あわわっ!!?」

まあ、どうやら暑苦しいゲキガンガーよりも、いかにも訳ありなこっちのお話の方が、
おしゃべり好きなお姉さんたちの興味を引いてしまったようである。
ルリに立ち聞きを気づかれてしまった事で、彼女達は逆に開き直って質問攻勢を開始したのだった。

ルリはルリで、急な状況の変化にどうしてよいのか、あたふたと戸惑っていた。
それどころか、自分の言った発言がどのように受け止められた(自爆した)のかようやく気づき、

「ちっ、違うよ、ボクがサブロウタさんの事好きだって言ったのは、そう言う意味じゃなくって・・・」

「わあ〜っ、ルリちゃんたらサブロウタさんだって」

「その辺りの事、私達も聞きたいな」



ルリは必死に発言の内容を打ち消そうとして、
かえって好奇心旺盛なお姉さまたちの、探求心の火に油をそそぐ結果になっていた。

そんな様子に、ミナトは思わず苦笑しつつも、なんだか雲行きが怪しくなってきたと感じ、
『私も興味はあるけど、そろそろルリルリに助け舟を出さなきゃ』と、思いはじめていたのだった。





一方その頃、モニターの前では・・・・・・

「しかし、暑苦しいなこいつら」

「武器の名前を叫ぶのは、音声入力なのか?」

などといった調子で、せっかくゲキガンガーの感動的な場面を見せてやっているのに、
ちっとも感動しようともしないクルー達に、業を煮やしたガイ(ヤマダ)は、熱弁を振るった。

「だーっ、ちがうちがう、これが熱血なんだよ、魂のほとばしりなんだよぉ〜」

だが、ウリバタケはビールのジョッキを煽り、フクベ提督などはうつらうつらと眠っているし、
更に一部の女性クルーたちは、ゲキガンガーに関係なく、何やら集まってキャピキャピと話をしているようでもあり、
そんな光景に、ガイ(ヤマダ)は更にヒートアップして吠えた。

「みんな、このシチュエーションに燃えるものを感じないのか!
 奪われた秘密基地、軍部の陰謀!!
 残された子供達だけでも事態を打開して、鼻を明かしてやろうとは思わねえのか!!」

「誰だよ子供達って・・・」

ガイ(ヤマダ)は仁王立ちして演説し、クルーたちの熱い正義の心に訴えかけた。
それでもなお、クルーたちは白けたままだったが一人だけ、心を動かされ始めた者がいた。
ぼさぼさ髪のコック見習いの青年が、ガイの演説を聞きながら、じっと何やら考え込んでいたが、
ふと、何かを決意した表情になり、中華なべをつかんで立ち上がった。が、その直後、



「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ん!!!!」



蒼銀の髪の少女が、なぜだか急に泣きながら走り出してきたのだった。





「うるさいぞ、おまえら静かにしろ!!」

外で見張っていた兵士が、食堂の中の騒がしさに怒鳴り込んできた。
こいつら、自分達の立場がわかっているのか?
が、兵士がドアを開けて、中に踏み込もうとした直後、

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ん!!!!」

「な、何いっ!?」

泣きながら走りこんできた少女に衝突され、一緒に倒れこんだのだった。



「この小娘があ〜〜っ!!」

あまりの展開に、すっかり頭に血が上り激高した兵士は、
持っていた銃を振り上げ、そのまま少女に振り下ろそうと・・・・・・



その少女ルリには、咄嗟に何が起こったのかわからなかった。
だけど、兵士が自分に銃を振り下ろそうとしているのは目に入り、

「なぐられる!」

ルリはそう感じ、反射的に両手で頭を庇い、目を閉じて身を硬くした。・・・・・・・・・おや?
いつまでたっても痛くならないし、何も起こらなかった。いったいどうして???
おそるおそる、ゆっくりと開かれたルリのその金色の瞳に映ったものは、
気絶した兵士と、中華なべを構えて心配そうな表情で自分を見つめる、コック見習いの青年、テンカワ・アキトの姿だった。





一瞬、ボクは自分の身に何がおこったのか判断できなかったけど、
次の瞬間気づいた。どうやらボクはアイツに、結果的にテンカワ・アキトに助けられたらしい事に、

『なんでボクがアイツに、よりにもよってテンカワ・アキトなんかに助けられたんだよ!!』

ボクはその事に、なぜだか理由のわからない強い苛立ちを感じていた。



「ルリルリ大丈夫だった? 怪我はない?」

唐突だった。そう言うのが早いか、ミナトさんはボクの事をいきなり抱きしめて、

「うぐ、むぐううう!!」じたばたじたばたじたばた

「ご、ごめんルリルリ、息苦しかった?」

ふううっ、死ぬかと思った。
み、ミナトさんの胸の中で窒息しかかるなんて思わなかった(真っ赤)

でも、次の瞬間、ミナトさんがとても心配そうな表情でボクの顔をのぞきこんでいて、
ボクはミナトさんにとっても心配をかけた事に気づき・・・

「大丈夫、・・・大丈夫です。ほら、どこも怪我なんてしてないし」

「そう、よかった・・・」

そう言って、ミナトさんはあきらかにほっとした顔をして、ボクの事を今度は優しく抱きしめてくれた。
ボクの事、心配してくれるのは嬉しいけれど、その・・・・・・
ボクの顔が、またミナトさんの胸の中に埋まっちゃってるんだけれど(真っ赤)
でも、ミナトさんの胸の中って柔らかくて気持ちいいし、甘くていい香りがするし(にへら)

「わあ、ルリちゃん赤くなってる」

「かわいい♪」

どうやら食堂のお姉さんたちも、心配して来てくれたみたいだけど、この人達のそんな台詞を聞いて、ボクはまた、あたふたともがいていた。

ミナトさんは、まだ心配そうだったけど、ボクがなんともなさそうだとわかってほっとしてくれて、
念のためにって、異常がないかもう一度ボクの身体を見てくれた。
正直、ボクもほっとしている。だってこの身体を、ルリさんの身体を傷つけずに済んだのだから。





「俺、火星の人達を助けたい」


そうこうしているうちに、あいつが、テンカワアキトが、自分の想いを打ち明けていて、
ナデシコの他のクルー達はアイツの想いを聞いていた。
ボクは、アイツを見ていたら、またふつふつと怒り湧いてくるのを感じて、でも、

「ルリルリ・・・」

ボクはボクの事を心配そうに見つめるミナトさんに気づいて、この苛立ちを抑えていた。





ミナトは思った。
ルリルリは、どうしてアキトくんの事、こんなに嫌うのだろう?
前回の戦闘の時といい、今回の事といい、アキトくんのこと睨みつけて、
ううん、嫌っているというより、あれはまるで仇でも見るような目だと思った。
ルリルリ、ここに来る以前にアキト君と何かあったの?

私は、『ルリルリの事をこのまま放ってはおけないと』直感的に感じた。
いいえ、そんなもの感じなくても放っておくなんて事、考えなかっただろうけど、
だからさっきは多少強引だと思ったけど、
私はルリルリの事強引に抱き寄せて、アキトくんから気を逸らせた。けれど・・・。



そのあとアキト君が、自分の気持ちを打ち明けていた。「火星の人達を助けたい」って、
みんな、アキト君の素直な想いに打たれたみたい、黙って話を聞いていた。
だけど、やっぱりルリルリだけはテンカワ君の事が気に入らないみたい、また彼の事を睨んでいた。

「ルリルリ・・・」

私の気持ちに気づいてくれたのか、ルリルリは今は自分の気持ちを抑えてくれたみたいだった。
だけど、このままではいけない、なんとかしないと・・・・・・でも、どうすれば?





この後、火星の人達を助けたい。淡々と語ったアキトの想いにナデシコクルー達は突き動かされ、
同時刻、活動を再開したチューリップの動きにも乗じて一斉蜂起し、事態は動き始めたのだった。









その日の夕方

ネルガル重工本社の会長室にて、会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンは、
ネルガル会長アカツキ・ナガレに対して、朝に続いてこの日二度目の緊急報告を行っていた。

いわく、サセボから緊急発進したナデシコは、太平洋上空で、
ヨコスカから出撃した、連合宇宙軍第三艦隊に補足され、一旦拿捕されてしまっていた。
だが、活動を再開したチューリップの襲撃を受けた事を奇貨として、クルー達がナデシコを奪回、
チューリップを撃破の後、連合軍を振り切って、現在は行動の自由を回復しているという。

「やれやれ、連合軍とは話はつけてあったはずなんだけどねえ」

などと、ネルガルの若き会長は、お気楽な口調で言った。どこかこの事態を楽しんでいる節もある。
そんな様子に、エリナは神経を尖らせてはいたが、報告を続けていた。





エリナの報告が終わった後、アカツキは珍しく真面目な調子で話を切り出した。

「ところでエリナくん。ネルガル会長宛に、匿名のこんなメールが来ていたんだけど」

「会長宛に匿名メール?」

「一応追跡調査はしてみたんだけれど、しっぽをつかませてくれなくてね」

つまりは、差出人は正体不明という事らしい。
本来、ネルガル会長宛のアドレスを知っている者など限られている。
匿名でメールを送るとは、何者なのか? いったい目的は何なのか?
エリナはいぶかしんだが、ともかくメールに目を通し・・・・・・
その内容を見て顔色が変わったのだった。

メールには、

『ラピスの事を保護してほしい。モルモットとしてではなく人間として扱ってあげてほしい』

そう書かれていた。

それだけならば、たいした問題ではない。
ラピスとは誰の事? 一瞬エリナがそう思った程度の事だ
問題はその先に続く内容、先代会長時代からのネルガルの負の遺産の情報だった。

マシンチャイルドや秘密実験の事、秘密の研究施設の所在などが記されており、
関わっているネルガルの幹部や重役などの名前や証拠、実験の成果など事細かく記されており、
非合法で、表ざたになったら非常にまずい人体実験のものまであった。
エリナの知らない情報、いや、現会長のアカツキ・ナガレでさえ全容を知らない情報だろう。
あ、ついでに、所長をはじめとして、所員たちの不正の証拠も

「いやあ、彼らが僕に内緒で、裏でこそこそやっているとは知ってはいたけどね」

そう言うアカツキの口調には苦いものが含まれていた。
この件に関わっているのは、先代会長時代からの重役や幹部たちなのだ、
彼と言えど、証拠なしに簡単にどうこうできる問題ではないのだ。

「エリナ君には、この件の裏をとってほしい」

アカツキは、この件を優秀な、信頼できる秘書のエリナにゆだねたのだった。
この場合、押し付けたともいえるかもしれないが(苦笑)





会長室を退室した後、エリナはこの件で行動を開始していた。
野心的で、何事も自分で仕切りたがるエリナは、アカツキの思惑はともかく、やる気は充分だった。
ただ、幹部連中に気づかれると証拠隠滅を図られる恐れもあり、今は慎重だった。
そして、行動を起こすときには、一気にけりをつけなければならないとも思っており、
まずはもう一度、例の資料を見なおして、詳細を検討しなおす事にしていた。

その資料見なおしの過程で、エリナはふと思った。

「ラピス・ラズリって、いったい誰がこの子に付けた名前なの?」

この資料にある桃色の髪の実験体の少女が、メールの指すラピスのようだが、
該当する実験体の少女には、ナンバーはあっても名前は付けられていないのだ。
では、このメールの差出人が名前を付けたのだろうか?

「ラピス・ラズリの和名は瑠璃。もしかしてこの名前から持ってきた?」

瑠璃、『ホシノ・ルリ』、ネルガルが身柄を保有するマシンチャイルド、現在唯一の成功例、
現在は、ナデシコのオペレーターを、予想以上の優秀さでこなしているらしいが。

「まさかね、そんな安直な・・・」

エリナは知らない、知る由もない。
その安直な名前の付け方をしたのは、未来の世界の黒ずくめの男だという事を、
未来の世界のもう一人の自分が、その黒ずくめの男や、桃色の髪の少女と大きく関わっている事を、

エリナは、そんな些細な疑問を心の棚にしまい込みつつ、資料を検討し直すのだった。





余談だが、後日、資料にあった研究所が、ネルガルのシークレットサービスの急襲を受け、
ラピス・ラズリを含む、実験体の少年少女たちは全員保護された。

また、この件に関わっていた重役連中も処分を受け、前会長派は勢力を大幅に減らしたようである。
あと、これはどうでもいいかもしれないが、サワムラという名の所長が不正を追求され、失脚したのはほんの些細な出来事である(笑)



この少女、ラピス・ラズリがナデシコに関わってくるのは、まだしばらく先の話である。





つづく



あとがき



まず・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
前回の話からもう9ヶ月近くか・・・こんなに遅くなるなんて思ってませんでした。ごめんなさい。
ようやく続きが書けましたのでお届けします。よければ読んでやってください。

これを書くために、以前の話を何度か読み返しました。今にして思えばよくこんな話書けたなあ(苦笑)
初期に書いた話は、文章はおかしいし(今もうまいとはいえないが)読んでいて恥ずかしいかったけど、
でも、勢いみたいなもの感じて、それもよいと思いました。もう一度書けっていっても無理かなあ。

僕の書くSSのミナトさん、特にこのシリーズのミナトさんは、実際よりお節介なんだろうか?
元々ミナトさんに、ここまでお節介を焼かせるつもりなんかなかったのですけどね(苦笑)
ふと、そう思ったのですが、元々世話焼きたがる人だとも思うし、相手がルリではなく、甘ったれなハリルリだからTVシリーズよりお節介の度合いが高くなってしまったのではないかと解釈しています。
それに、TVシリーズのルリは、構われる事をやんわり拒んでいるようにも見えましたしね

逆に、僕の書くハーリー(この場合ハリルリ)、書いていて改めて思ったけど、ヘタレなんですね、
たとえルリの姿をしていても、その辺は変わらないのかと(苦笑)
でも、今はへタレでも、経験をつんで成長して、男の子は大きく成長してほしいものです。(ん?男の子、笑)
男の子といえば、ハーリー君はオッパイ星人(古い、笑)の資質があるのかな?
劇場版でもミナトさんとの出会いは、巨乳との出会いだったし(残念ながら本人のは大きくならないが)

あと、今回没にしたネタとして、
ジュンがトビウメに置いてきぼりになった事に、ハリルリちゃんだけが気づき、
誰にも気づいてもらえない彼の事悲しむイベント予定していたのですが、
アキトがらみのイベントのおかげでハリルリちゃんその精神的余裕がなくなったので没にしました。
(本来、あそこでルリダッシュする予定も、アキトに助けられる予定もなかったんだけどね、なぜかああなっちゃいました)

カットというほどたいしたネタではないけれど、ゴートがルリとメグミをかかえてブリッジに入るシーンなんてのも入れて見たかったのですが(ハリルリちゃんがはしゃぐシーンとか)話の流れで入れるのをやめました。

あと、ラストのラピスネタですが、ハリルリがラピスの事、オモイカネで調べているシーンも初めは書いていたけど、ちょっと流れが悪くなるのでカットしました。無くても構わないし
ちなみに、ラピスは物見高い旅人さん(仮名)のリクエストで入れてみました。登場はまだ後になります。
リクエスト受けたのは正月、ずいぶん前の話だなあ(遠い目)



この続きは来月(10月)には書きたいと思っています。
でもその前に、砂沙美の航海日誌かな? こっちはもう一年だからなあ

それでは、今回はこのへんで、次回もよろしくお願いします。




 ゴールドアームの感想。

 まいど、このお話を担当しているゴールドアームです。
 さて、第3話ですが。

 今回は動きが少ないですね。着実に成長しているハリルリはかわいいですけど。
 まあ展開からすると仕方ないかな? もう少し盛り上がりが欲しかった気もしますが、話がそうならない以上はどうにもなりませんけどね。
 私が何か言える事は、この点ではありません。
 何となくですが、私が何か言っても、今回の話がよりよくなるとは思えないので。
 幸い続きは早そうとの事。期待しています。


 けど、いい意味で話の方向性は固まってきたような気がします。
 ヒロインはミナトさん(爆)。
 ナデシコで純粋に(?)ルリを中心に据えたら、そうなるのは見えてますけど。

 ハリルリちゃんが、あこがれの人・ルリがナデシコで何を見、何を学んだのか。それを知る事によりどう変わっていくのか。
 続きが楽しみです。ゆっくりとでも、着実に語り続け、綴り続けて欲しいと思います。


 ゴールドアームでした。



 PS

 サワムラさんって……