(僕の名前はマキビ・・・ルリ!?「第4話」)



唐突だが、

「ルリちゃんて、やっぱりテンカワさんの事を嫌っているのかな?」

と、メグミはミナトに話を振ってみた。
現在ルリは、食事休憩で食堂に行っていて、ブリッジにはいない。この話をするなら今のうちだろう。
実は、普段からこういう時に、二人でルリのことを話したり、相談したりする事はあるのだが、
今回は話題が話題なので、メグミにはいつもの気楽さはなかった。

「・・・メグちゃんは、どうしてそう思ったの?」

「それは・・・」

問われてメグミは話し始めた。先日の軍によるナデシコ徴用未遂事件の時の事を、

「あの時、私とルリちゃんは、ゴートさんやテンカワさん達と一緒に格納庫に行ったんです」

艦長を迎えに行くと宣言したアキトを、エステバリスで艦の外に出すためだったが、
その時メグミは、ルリと一緒にコントロールルームでアキトに指示を出していたのであった。

「その時ルリちゃん、テンカワさんの乗っているロボットの事、ずっと睨みつけてたんです。
 すっごく怖い目をしていて、ルリちゃん、横に私がいること忘れているんじゃないかって思った」

そんなルリの様子に、メグミは思わず引いてしまい、声をかけられなかった。
実際に、その時のルリは、アキトに気を取られていて、視野が狭くなっていたらしく、
そんなメグミの様子に、気づいてもいないようだった。

「そうか、そんなこともあったんだ。メグちゃんもルリルリの事、気づいていたのね」

「そんなこともって、やっぱりミナトさんも、他に何か気づいていたんだ?」

苦笑しながら、ミナトはうなずいた。
二人とも、さすがにブリッジ勤務で、ルリと直に接しているだけはあるようだ。
こと、テンカワアキトに関することに、ルリはなぜだか感情的になって強く意識しているように思える。
これまでは、そんな事がなかっただけに、二人ともルリの事が余計に心配になっているようだ。
ルリからすれば、そんなこと余計なお節介かもしれないが、
お姉さん達からすれば、そんなルリのことは、なんだか放ってはおけないのだ。

そんなこんなで、ミナトもその直前の食堂での出来事や、サセボでの戦闘時のルリの様子をメグミに話して、お互いにルリに関して気づいた事について、情報交換をしたのだった。



「ルリちゃん、テンカワさんとは以前からの知り合いだったのかな。その時に何かあったとか?」

「うーん、それはどうかなあ? なぜかあまり以前からの知りあいって感じはしないのよね。
 ルリルリはアキト君のことを知っているみたいだけど、アキト君の方はそうでないみたいだし・・・」

ミナトの言葉は、さすがに確信が持てないのか歯切れが悪かった。
だけど、『そう言われれば確かにそうかもしれない』ともメグミは思った。
少なくともテンカワさんの方は、ルリちゃんの事をあまり意識していなかったように思う。
もし知りあいだとして、あれだけルリちゃんに敵意を向けられる関係だったとしたら、
もし過去に何かあったのなら、テンカワさんも最初からルリちゃんのこと強く意識していただろう。
だけど、だとしたら、どうしてルリちゃんは、あんなにもテンカワさんに敵意を向けるのだろう?

と、そこへ・・・・・・、

「あれ、二人とも、何の話をしてるの?」

会話の内容が内容だけに、つい深刻な雰囲気になっていたメグミ達の前に、
明るくにこやかに、場違いな笑顔で現れたのは、艦長のミスマル・ユリカさん(20)であった。









機動戦艦ナデシコ

僕の名前はマキビ・・・ルリ!?



〜第4話「ルリの周りの人間模様」〜



By 三平









「ナデシコゆるすまじ!

 国家対国家の紛争が終わった今、地球人類は一致団結して木星蜥蜴と戦う時だ!!

 だが、ナデシコは火星に向かうという。こんな勝手を許していては地球はどうなる!?」



地球連合統合作戦本部ビル、総司令部内大会議場では、
ナデシコに対する処遇について、今まさに総司令が演説を行っている最中であった。
ちなみに総司令は大柄で壮年の黒人男性であり、その態度も堂々たるものである。

と、そこに、ナデシコから交渉を求めて緊急通信が入り、演説は一時中断された。



「あけましておめでとうございます」



場違いな挨拶とともに、会議場のモニターには、
これまた場違いな振袖姿で、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカが現れた。
そんなナデシコ艦長の様子を見て、総司令は表情は引きつらせていた。

もっとも会議場からは、なぜだか歓声とどよめきがおこり、一部の高官からは、

「おおっ、フジヤマ!」
「ゲイシャ!!」
「キモーノ!」

などと、ユリカの振袖姿は好評を博しているようであった。(笑)
さらに、極東方面軍、日本代表の席では、
ユリカの父親のミスマル提督が、娘の振袖姿に厳つい顔をすっかり緩ませており、(親バカ)
その隣の席では、極東方面軍司令のタナカ・サブロウ提督が、頭痛でもするのか頭を抱えていた。

「ほら、恥ずかしがってなんていないで、ルリちゃんも皆さんにご挨拶、ご挨拶」

「で、でもボクなんか・・・」

「いいからいいから、ユリカも一緒だから平気だよ♪」

「ううう・・・」



「「「「おお〜っ!!!」」」」


次の瞬間、ユリカに促されてモニターに映し出された少女の姿に、会場の一部から歓声があがった。
スクリーンには、ルリと呼ばれた小柄な少女が、振袖の晴れ着姿で映し出されていた。
少女の顔立ちは、小ぶりで繊細で整っており、特に印象的なのは神秘的な金色の瞳だった。
少女の着ている薄桃色の振袖に、結いなおされた蒼銀の髪がよく映えてよく似合っていた。
少女の病的なまでの肌の白さは、着物のおかげでかえって引き立っていた。

一言で言ってしまえば、とても『キレイ』だった。

もっとも、当の少女は、この振袖姿がイヤなのか、
それともそれを皆さんに見せるのがイヤなのか、
恥ずかしそうに頬を赤らめ、もじもじしていた。
そんな少女の様子にかえって、

「か、かわいい」

「オー、ビューティフォー」

「可憐だ・・・」

「名前、ルリちゃんていうのか・・・」

会場からの声の一部に、そんな声があがったりしていたのであった。
そんな会場の様子を知ってか知らずか、少女はさらに恥ずかしそうに身を縮こまらせていた。
これが、後に電子の妖精(?)と呼ばれる少女が、世にその存在を知らしめた第一歩・・・であった。
さらに、この時の映像が、本人の預かり知らぬ所でお宝映像として、ひそかに出まわったり、
更に戦後、木連のアララギが、この時のお宝映像を手に入れて、感動したという話もあるとかないとか、
それはまた別のお話である。(苦笑)

それはともかく



「か、艦長、君は緊張しているようだ。ここは私が・・・」

「大丈夫、会場の皆さんにも受けているみたいだし、ここは愛嬌だしたほうが」

「・・・君はまず、国際的なマナーを学ばれるべきだな。用件は何だ、ナデシコ艦長!!」

この状況に、生真面目なフクベ提督がたまらずユリカに声をかけ、
それにより、思わぬ展開に唖然としていた総司令も再起動をはたして、ユリカに嫌味を言い放った。
どうやら、振袖姿で場の空気を和ませようとしたユリカの目論見は、
これまた生真面目な総司令のお気に召さなかったようで、失敗に終わったようである。
それでもユリカは動じることなく、本来の用件を、ビッグバリア解除のお願いをはじめたのであった。

その一方で、総司令とナデシコ艦長との間で話が始まったので、
少女(ルリ)は、用件は終わったとばかりに、そそくさとモニターの外に消えてしまい

『ああっ、ルリちゃんが!!』
『総司令、余計な事を!!』

さすがに声にこそ出さないが、
なぜか、会場から残念そうな雰囲気が流れた。



「ビッグバリアを開放してくれたら、ユリカ感激♪」

「ビッグバリアを開放しろだと? ふざけるな!」

「あらそう、なら無理やり通っちゃうもんね」

「これではっきりした、ナデシコは我々地球連合の敵だ!!」

「では、お手柔らかに」

結局交渉は決裂、ナデシコは実力で地球の防衛ラインを突破することになったのであった。
もっとも今回の件で、地球連合の一部の将兵に、何やら強い印象を残していったようである。





一方その頃、ナデシコの格納庫では、整備班員たちが準備作業に大忙し・・・おや?

「一番人気は、ホシノ・ルリ」

「「「「おお〜っ!!」」」」

・・・・・・どうやら整備班員達の間で、美女コンテストの人気投票が行われていたようである。(汗)
彼らの名誉の為に言っておくと、仕事などやるべきことはきちんとこなしており、
その合間に息抜きでやっているのである。・・・・・・多分

まあ、ナデシコは一見女の子が多く、華やかそうに見えるが、
ウリバタケ・セイヤ率いる整備班は、その中では女っ気のまったく無い暑苦しい部署である。
士気を上げるのにこういうイベントも、あるいは必要なのかもしれない。
だとしても、こういうタイミングでやるか普通? とも言えなくもないが(苦笑)



「意外な結果っすね」

「馬鹿野郎、意外も何もあるかっ、おまえらもさっきのルリちゃんの晴れ着姿見ただろうが」

「確かに」

「ルリちゃん、綺麗だったっすね」

「今でも可愛いけど、大人になったらすごい美人になるだろうな」

「でも、あんなに顔を赤くして、着物が恥ずかしいのかな?」

「普段から、ああいう女の子っぽい事は、苦手みたいだったからな」

「ばか、そのギャップがまたいいんだよ!」

「そうそう、こういう普段ボーイッシュな子が、時たま見せる恥じらいがいいんじゃないか」

それは言えているかも?
だけど、そのギャップとかいうやつは、あまりに酷いと、かえって萎えてしまうものだが、
どうやら彼女(ルリ)の場合、絶妙な恥じらいのバランスがいいらしい。



「なんだかんだ言っても結局、ここにいるみんなはルリちゃんの事、気にかけているんだ」

その言葉に、そこにいる整備班員全員がうなずいていた。
どうやらルリちゃんは、整備班員達とはすでに顔見知りらしい。

実は、ある事がきっかけで、ルリは非番の時に、たまに格納庫などに見学に来るようになっていた。
整備班員達とも顔見知りになり、言葉を交わすうちに彼らと仲良くなっていったようである。
少なくとも、普段格納庫に立ち寄ることのあまりない、他の女性たちよりは親しみをもたれていた。
もっともその中に、ルリを通じてブリッジのお姉さま方と親しくなろうという、下心のある者もいたが(笑)

それでも美人コンテストでの評価では、お子様なルリの評価は他の大人の女性達に及ばず、
決め手に欠いており、本来なら一位になる事はなかったはずなのだが、(その辺はシビアに評価?)
今回の晴れ着姿で恥らう姿が決め手となり、評価はうなぎ上り、人気投票一位となったのであった。



「最近あの子は、エステバリスをよく見ていたよな」

「メカに興味あるのかな? あの子はコンピュータとか機械の相手ばかりしていたらしいから、
 お人形とかぬいぐるみとかよりロボットの方が好きなのかも?」

「・・・いや、俺思うんだけど」

「さてと、無駄話はそこまでだ。続きはまた今度にして、そろそろ作業に戻るぞ!!」

ウリバタケのその声に、皆弾かれた様に作業に戻った。
ナデシコはこれから、地球の各防衛ラインを突破しなければならない。
相転移エンジン、ディスト−ションブレード、エステバリス、これらの整備やチェックなど、これから忙しくなる。
彼ら整備員の作業は縁の下の力持ち、地味で目立たない仕事だけど、ナデシコには必要な人達だった。



作業に戻りながら、ある若い整備員が思った。
あの時、特にルリちゃんが見ていたのは、この青いエステバリス・・・いや、

『あの子は、エステバリスそのものではなく、もっと遠くにある、別の何かを見ていたような気がする』

その何か、とはいったい何なのかまではわからないけど、
その時のルリちゃんの表情には、いつもの明るさはなく、暗い目をしていたように感じた。
そこまで思いつめて、ルリちゃんは一体何を見ていたんだろう?
彼は、なぜだかその事が気になって仕方がなかった。 

「おーい、そこのおまえとおまえ、これから捕虜の様子見に行くから俺について来い」

と、そこで、ウリバタケに声をかけられた為、彼はそこで思考を中断し、
捕虜(?)になって軟禁されている軍人達の様子を見るために、その場を後にしたのだった。





ズウウウゥ〜〜〜ンンン

地上から発射されたミサイルの攻撃の衝撃で、またナデシコは揺れた。
ミサイルそのものは、ディストーションフィールドに弾かれて、艦には直接のダメージは無い。
だが、衝撃を完全に中和できる訳ではなく、そのたびに艦内に振動が伝わって揺れていた。

そしてここ、作戦会議中のナデシコブリッジでも、

「きゃあっ」
「わあっ」

約二名、振袖姿の成人女性と少女とが、ショックでバランスを崩して尻餅をついていた。

「あいたたた・・・」
「いててっ」

「こほん、二人とも着替えてきてはどうかね?」

あられもない格好で尻餅をつくユリカを見かねて、フクベ提督がそう切り出した。
ルリにいたっては、慣れない着物のすそを踏んづけたりして、起き上がりそこねて悪戦苦闘しており、
ミナトが苦笑しながら、助け起こしていたりした。

「はーい、でもその前に、アキトにこれ見せてあげなくっちゃ」

そう言って、ユリカは妙に気合を入れて、ブリッジを後にしたのだった。
そのうしろ姿を、ルリは複雑な表情で見送った。その直後、

「はあああ〜っ」

盛大にため息をつき、

「やっとこれを脱げる」

自分の着ている着物を見つめながら、安堵の声をあげた。
そんなルリの様子を見て、メグミとミナトはお互いに顔を見合わせ、思わず苦笑したのだった。





なぜ、ルリが晴れ着を着る羽目になったのだろうか?
ここで話は冒頭にまでさかのぼる。

「あれ、二人とも、何の話をしているの?」

メグミとミナトのルリがらみの会話に、艦長のミスマル・ユリカが参加してきた。のだが、
話題が話題だけに、二人ともどう対処して良いものかわからず、戸惑ってしまった。

「ルリちゃんが、テンカワさんの事を嫌っているみたいなんで、その事で相談していたんです」

などと、馬鹿正直な事を言ったら、一体どんな反応をするのやら?
なにしろユリカは、「アキトは私の王子様♪」と、周りの目を気にせずに言いきるほどだし、
そのテンカワ・アキトがらみの事で、下手な事は言えないような気がする。

「ルリちゃんの話をしていたんです。ルリちゃんて、あまり女の子らしくないでしょ? だから・・・」

メグミは咄嗟に話を逸らして誤魔化した。ルリの話をしていたのも嘘ではないし、
そういう議題の話を、ミナトさんと何度かしたこともあるから、うまく話をあわせる事もできるだろう。

そう言われて、ユリカは深く追求することなくアッサリと納得した。メグミの意見に同意する。
ユリカも、ルリちゃんとはじめて会った時から、その辺のギャップを感じていたのだから。
もっとも、そのギャップのおかげで、かえって強く印象に残ったとも言える。

「そうだよね、ルリちゃんて、外見はとても可愛くて、女の子らしいのに、
 言葉使いとか物腰とか雰囲気とか、なんだか男の子みたいって思うこともあるんだよね。
 せっかくかわいい女の子なのに、もったいないわよね」

うんうんと頷きながら、ユリカは思った事をストレートに言った。
そんなユリカの遠慮のないストレートな物言いに、メグミもミナトも苦笑しつつ頷きかえした。
二人に比べ、ルリと出会ったばかりで付き合いの浅いユリカには、遠慮なんてものはないようだ。
いや、この人の場合、付き合いが深くなっても遠慮はないかもしれないが(苦笑)

「そうだ! いい事思いついた」

メグミたちと、ルリの話をするうちに、なにやら思いついたユリカさん、
その思いついた名案を、にっこりと満面の笑顔で、ミナトたちに話し始めたのだった。

「きっとルリちゃんも、気に入ってくれるよ」





「と、言う訳で、ルリちゃんも一緒にお願いね」

「なっ!、何が、と言う訳ですか艦長!!」

「だから、地球連合のお偉いさんと交渉するときに、晴れ着姿をお披露目して、場を和ませるから・・・」

「そんなんで場が和む訳ないでしょ! だいたいなんでボクまでそんな事をする必要ないでしょ!!」

「大丈夫だって、ルリちゃんは可愛いから、着物もきっと良く似合うよ♪」

「だから、そういう問題じゃなくて!」

「じゃ早速、着替えた着替えた♪」

「ボクの話を聞いてくださいよぉ〜」(涙)



・・・ユリカの思いついた名案とは、簡単に言えば、ルリに晴れ着を着せてあげようというものであった。
ルリちゃんに、女の子の自覚を持たせるには、まず形からと言う事のようだ。
地球連合との交渉時に、ユリカ自身振袖姿を披露するつもりだったから、丁度良い機会でもあるし。

結局、ルリは明確にイヤだとは言い出せないうちに、ユリカのペースに巻き込まれ、
いつものように、泣いてルリダッシュで逃げる事もできないうちに畳み込まれ、
振袖姿を皆さんに、お披露目する羽目になったのだった。



ちなみに、ルリの着物の着付をしたのは、資格マニアのミナトさんである。
どうやら、着物の着付けの資格ももっていたようだ。
今度はルリの着物を脱ぐのを手伝ってあげながら、その時の事を思い出し、ミナトは思わず苦笑した。

ルリルリはあの時、最初のうちはすっかり拗ねていたけど・・・・・・、
でも、意外に大人しく、私のいう事をよく聞いて、着物の着付けをさせてくれていた。
もっと嫌がって、抵抗するんじゃないかって心配もしていたけど、

『やっぱりルリルリは良い子ね』

ミナトは心の中でそう思った。
こうなった経緯はともかく、ルリの着付けが出きるのは嬉しいし楽しく感じた。

『ルリルリって、とっても綺麗』

ミナトは、ルリが可愛くて、将来美人になる資質がある事はよくわかっているつもりだった。
でも、こうやって着付けをしてあげながら、真近でルリが綺麗になっていく様子を見ていると、改めてそう思うのだった。

『この子が大人になったら、私なんかよりきっと美人になるわね』

そう思ったら、ミナトはルリに軽い嫉妬も感じたが、それ以上にルリの成長を楽しみに思うのだった。



そうしている間に、着付けは出来た。
着物の着付けて帯を締め、髪の結いなおし、髪飾りなどの飾り付けから足袋や草履まで、
全てにおいて、可愛く綺麗に完璧に出来たと自負する、ミナトの自信作であった。



「ほら、これで出来たわよルリルリ」

「・・・・・・」

ルリが見つめる鏡の中には、振袖姿の少女がたたずんでいた。
鏡を見つめながら、ルリはしばし無言だった。
ルリはやっぱりこういうのに興味をもってくれないのだろうか・・・いや、ミナトは気づいていた。
ルリが着付けの途中から、鏡の中の綺麗に変わっていく自分の姿に、見とれていた事に。
そして今も、どうやら鏡の中の自分の姿に、魅入られているかのように見とれていた。

『どうやら取り越し苦労だったみたいね』

ミナトは苦笑しながら思った。
最初、ユリカに名案とやらを聞かされて、ミナトは危惧を抱いた。
以前、ルリに無理に女物の服を着せようとして、かえってルリを傷つけたことがあったから。
ルリルリは、あれから少しづつ、こう言う事を受け入れるようになってきたけど、
無理強いすれば、またあの時のように、あの子を傷つけてしまうかもしれない。
だから、ミナトはその時の事をユリカに話したのだが、

「そのワンピースの時は、ルリちゃん興味もってくれたんでしょう?
 大丈夫、ルリちゃん、きっと着物にも興味を持ってくれます」

ユリカはあっさりと、言い放ったのだった。





「わあ〜っ、ルリちゃんとっても綺麗、その振袖姿も可愛くて、良く似合っているよ」

その艦長が、鏡の前に立っていたルリルリに明るく声をかけていた。
どうやら艦長、自分の着物の着付けが終わって、ルリルリの様子を見に来たみたい。
艦長に声を掛けられて、ルリルリはハッと我に返って、何かを振り払うように頭を振っていた。

「・・・か、可愛いって!!ボクにはやっぱり・・・・・・だから

「あー、ルリちゃんたら、照れて赤くなってる」

「えっ? いや、これは・・・」(真っ赤)

本当に、ルリルリったら反応が素直で可愛いんだから。
照れてるとか、似合っているとか、綺麗とか、可愛いと言われて、ルリルリはますます赤くなっていた。

結局、あの後も艦長のペースで話しが進んで、
ルリルリは、晴れ姿をお披露目する事になっちゃったんだけどね。



もう、こんな格好なんかするもんか・・・

着物を脱ぎ終わったルリルリが、
いつものオペレーターの制服に着替えながら、小声でつぶやくのが聞こえた。
多分、自分に言い聞かせるように、独り言を言ったのだろう。
でも、ルリルリのその言葉を聞いて、私はかえって安心した。
だって、ルリルリが本気で嫌がっている訳じゃないってわかったから。

『艦長、今回はあなたの勝ちね』





一方、そのユリカは、アキトの部屋にいたのだが・・・・・・
(ちなみに、アキトはヤマダと相部屋だが、ユリカにとっては、ここはアキトの部屋、笑)



アキトとガイ(自称)は、暑苦しいアニメ(ゲキガンガー)を見ながら、抱き合って泣いていた。

「わかるか、わかってくれるか。男の死に様はああでなくっちゃ」

「ありがとう。こんな良いもの見せてくれて、本当にありがとう。うう〜っ」



「・・・こっちのほうがいいのに」

結局、アキトはロボットアニメや男の友情に夢中で、ユリカの事に気づくことなく、
アキトに、振袖姿を見てもらう事ができなかったユリカは、がっかりしていたのであった。





・・・だからユリカは気づかなかった。
ガイがぽつりともらした独り言に、

「少しは元気が出たみたいだな・・・」





つづく



あとがき

『僕の名前はマキビ・・・ルリ!?』第4話、ようやく出来たのでお届けします。
言い訳はいたしません。次は早くすると言いながら、遅くなって申し訳ありませんでした。



今回のお話は、ハリルリ視点無しで書いて見ました。どうだったでしょうか?
そのせいで、物足りない話になったかもしれませんが、こういうのやってみたかったんです。
今回書かなかったルリ(ハーリー)視点の話は、次回フォローしたいな、と思っています。
そもそも今回の話からして、中途半端だから、結局次回でフォローしなきゃなんないですけどね(苦笑)
(後半のエピソードは、ハリルリ視点無しではつらいですし)

ハリルリって、周りの目から見てどう見えるんだろう?
その辺、うまく表現できなかったなあ。
どうせ他の人から見たルリの話書くのなら、もっと普通のエピソードを挟めればよかったなあ
まあ、次回は食堂関係の人達(ホウメイさん、ホウメイガールズ、そしてテンカワ・アキト)
がらみのお話も書く予定だから、他のエピソードも挟む余地があるかも? ですがどうなるやら。



着物、振袖の話
ナデシコ本編では、ユリカが振袖姿で地球連合との交渉(?)にのぞむエピソードがありますが、
せっかくだからハリルリちゃんにも、晴れ着として振袖を着せてあげようと、以前から思ってました。
(本人が喜ぶかどうかは別として・・・でも、他の人たちが喜ぶからいいか、笑)
ネタとしては、逆行女性化黒アキトが、着物着せられる話はよくあることで、その亜流でしかないのですが、
やっぱりお約束というか、基本は押さえておかないと(笑)
ちなみに、ハリルリちゃんは着物が好きなのか嫌いなのかどっちでしょうね?
劇場版のオリジナルのルリは、風呂上りに浴衣を着ていたから、着物とか嫌いじゃないと思うし、
ハーリーも、そんなルリの浴衣姿見るなら好きだったと思うけど、自分が着るとなるとねえ(苦笑)

SS中で表現できないか、着物の着付け方とか検索してみたんですが、着物って手間かかりますね。
結局面倒そうだったし、よくわからなかったので、そんな表現は書けませんでしたけど(苦笑)
あと、調べてみてわかったけど、着物の着付けにも資格とかあるんですね。
きっと、資格マニアのミナトさんは、この資格ももっているとみて間違いはないかと思ってます。



以前のゴールドアームさんの感想(というか意見)で、
ナデシコ本来のエピソードはかっ飛ばしてもかまわない
ハリルリの心情と成長こそがテーマであり、ナデシコで何が起こったかなどは、
それに関わってこない限りまったく不要なものです。
そんなもんはばっさりと切り捨ててください。

という事をいわれました。まったくごもっともです。僕も書きたいのはハリルリの話だし(笑)
極端な話、このシリーズはハリルリ心の変化や成長の話さえ書けてれば、
原作と違って地球が木連に負けるでもかまわないかもしれません。(そんな話は書きませんが、苦笑)
ただ、中盤から後半にかけては、ハリルリと関わらないエピソードを端折っても構わないと思っていますが、
序盤、少なくとも火星に行くまでくらいは、ある程度書きこまないと駄目な気がしますので、
なかなか話が進んでくれないこのシリーズだけど、皆さん気長にお待ち下さい。
(話が進まないのは、お前が書くのが遅いからだと突っ込みが来そうですが、苦笑)



今回も、このSS書きながら、自分の文才の無さを痛感しています。
SSを書き始めた頃は、多少文章が単調だったりおかしかったりしても、読んだ人が内容を理解できれて楽しんでもらえればいいかなと思って書いていたのですが、最近ではそれでは満足できなくなっているんです。
かといって、文章力ってそう簡単に向上してくれませんしね
(努力が足りないとか言われるかもしれませんが)
あと、文章の分量のバランスも難しいですね、説明とかが多かったらテンポ悪くなるだろうし、
かといって、説明を削りすぎたらこんどは言いたいことが伝わらないような気もするし、
文章書いたり削ったり、繰り返していたらなかなか執筆も進みません(苦笑)
文才のあるひとは、こういうのもっとすんなりやるんだろうなあ・・・・・・
ちょっと愚痴っぽくなりましたが、とりあえず僕は僕のペースでがんばろうと思います。
ちょっとは早く書ける様にがんばりたいとも思いますが



この続きは一月、正月期間に書き上げたいと思っています。
本当はその前に、年が変わる前に砂沙美の航海日誌の方も書きたいけど、できるだろうか?
ともかく頑張ってみたいと思います。

それでは今回はこの辺で



PS、今日、天地無用のDVD(第三期二話)が来た。後で見ることにしよう。







 ゴールドアームの毎度毎度の感想。


 まいど、ゴールドアームです。
 今回は周辺の人物にスポット。相も変わらずハリルリ君の周りには萌えな人物が満載のようで。
 それほど話が進んだわけでもないのに、なんかこう、じわじわと来るものがあります。
 これに関しては続きを気長に待つ事にしますか。
 
 
 
 あと、自分の文才のなさを嘆いておられるようですが……
 むしろ、それ故に確実に進歩していると、私は思いますよ。
 「無知の知」という言葉もありますが、客観的な立場から見て、三平さんの文章力は十分一定の水準に達しているように見えます。にもかかわらず不満が出るという事は、より高みに登るための準備が出来たということです。
 真面目な話、文才のない人は己のおかしいところすら自覚できないのが普通です。
 だからこう、いわゆる自己満足な文章がはびこるわけでして。
 自分の才の無さ、というものを自覚できる点で、十分進歩しています。
 ただし、努力しなければ落ちるのもまた必然。これからも気を抜かず精進してください。

 ゴールドアームでした。