(僕の名前はマキビ・・・ルリ!?「サイドストーリーAパート」





朝である

機動戦艦ナデシコ艦内にも朝がやってきた。
もっともナデシコは、現在サセボの地下ドックに係留されており、
日の光は差し込まないのですけどね(苦笑)



そしてここは、そのナデシコクルーである、とある少女の私室



ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピ・・・・・・



朝っぱらから何事だろうか?

実は、その朝を知らせる目覚ましのアラームが部屋中に鳴り響いたのだが、
その部屋のヌシの少女は、その音にもなかなか起きてはこれないようだ。



・・・ううう、眠い・・・・・・もう少し・・・だけ・・・



とはいえ、何時までもそうしている訳にもいかないようで、
蒼銀の髪をしたパジャマ姿の少女が、気力でベッドの中から這い出てきてアラームをとめた
まだ眠そうな目をこすりながら、少女はどうにか起きる事ができたようで、眠そうな声でぼやいた。



「ふぁ〜〜あ、・・・まだねむいや・・・・・・どうしてこんなに・・・・・・・・・あ、そぉか・・・」



・・・このからだは・・・るりさんのからだは、ていけつあつであさがよわいからなんだ・・・・・・



まだ起きがけで半分寝ぼけていて本調子にならない頭で、少女はぼんやりそんな事を思い出していた。
(元の自分(?)の身体だったら、朝はすっきり目が覚めて、すぐに起きる事が出来たのだけれど)



この時少女は、ベッドの上で女の子座り(あるいはペッタンコ座りとも言う)で座っていた。
本人がこの事を意識していたら、普段なら絶対にやらない座り方なのだが、
この場合は寝ぼけていて、身体の方が無意識のうちに自然に、その座り方をしていたようで(苦笑)

寝ぼけついでに、少女は煩わしそうにおろした髪をかきあげつつ、頭をかいていた
それは、この少女の外見のイメージからは、どこか似つかわしくないアンバランスな仕草だったかも?









パシャパシャパシャ



洗面所で顔を洗い、少女はようやくすっきり目が覚めたようです。

もっとも、目が覚めたのはいいけれど、タオルで顔を拭きながら、
鏡に映る自分の顔を見て、思わず・・・・・・



「はあ〜〜っ」



・・・・・・少女は何故だか深く深〜く、ため息を付くのでありました。(苦笑)



鏡を見てみると、そこに映っているのは、髪をおろした蒼銀の髪の少女
そこに映るその顔、その姿は、自分が憧れたあの人の姿
自分が淡い恋心を抱いていたあの人の姿のはずなのだけど
少女は、今の自分がその姿になっている事に、とまどいと違和感、何より罪悪感を感じていた



『・・・もう目は覚めたはずなのに、ボクはまだ夢を見てるみたいだ

 だって、ボクが艦長に・・・ルリさんになったままなんだから』



そう思いながら、少女は自嘲気味に笑った。
いや、笑おうとして失敗して、再びため息をついていた。



『・・・・・・いつか、ボクはこの夢から覚めるんだろうか?』



今更だが、この少女の名前はホシノ・ルリ (11)
少女は、2日前からナデシコのメインオペレーターとして、この艦に乗り込んでいた。

もっとも、本人にとってはそれは仮の名前、仮の姿であり、
本当なら、マキビ・ハリ(愛称はハーリー)という名の少年だったハズなのだ。

未来の世界でボソンジャンプの事故に巻き込まれ、過去に跳ばされたあげく、本来の自分の身体を失い
そのハーリーの心は、どういう訳だかこの過去の世界のルリ(小)の身体の中に宿り、こんな形でここにいるのだった。



「・・・艦長・・・ルリさん・・・ボクは、ボクはこれからどうすればいいんですか?

 艦長、・・・何とか言ってくださいよ、・・・ボクはこれからどうすれば・・・・・・」



ルリ(ハーリー)は鏡の中に映っている少女ルリに、泣きそうな声でそう話しかけていた
でも、・・・・・・鏡の中にいる憧れのその人は、ハーリーに何も答えてくれる事はなかったのだった。












機動戦艦ナデシコ

僕の名前はマキビ・・・ルリ!?



〜サイドストーリーAパート「とある少女の悩み事」〜



By 三平











朝、ナデシコブリッジにて





『こっちの準備は良し、・・・昨日調べたスケジュールの通りなら、今は自室に一人でいるはずだ・・・』



ナデシコのオペレーター席で、オモイカネの調整作業と平行して、
ルリはこっそり何事か準備を行っていた。



『ミナトさんは、今はプロスさんの所に行っていてここには居ないし、

 メグミさんも、理由はわからないけど、席をはずしてブリッジの外に出た、チャンスは今だな・・・』



用心深く、今はブリッジには自分以外誰もいない事を確認して、
念のために、誰か戻ってきたら警告するようにオモイカネにも指示を出しておいて、
ルリは外部との回線を開いた。
この時代にいるもう一人の自分(?)、マキビ・ハリくん(6さい)に接触するために

昨日、この時代のハリくんのデーターを検索して調べあげた
自分の記憶と照らし合わせてもおかしな所は無く、
おそらくその子は、この時代のハリくんで間違いはないだろうが・・・・・・



『ボクは何を知りたいんだろう? ボクは一体何を期待している?』



自分でもわからない、正直本当のことを知るのが怖い、でもやらなきゃ
でないと自分自身が、自分の気持ちが納得できないでいるから
ルリ(ハーリー)は、はやる気持ちを抑えつつ通信を繋いだ・・・・・・そして



「おねえちゃん、だれ?」



コミュニケ越しに映っている、黒髪の男の子の第一声がそれだった
その姿を見て、その声を聞いたとき、ルリ(ハーリー)は確信した。



『この子は、・・・この時代のボクなんだ』



ひょっとしたら、ボクがルリさんになった代わりに、ルリさんがボクになっているかも?

ルリ(ハーリー)はそういう普通ならありえない事も考えたりもしたけれど、
その子がこの時代のハリくんだと確信したその瞬間、その可能性は消えた。

それと同時に、わかりきっていたはずの事なのに、
ルリ(ハーリー)は改めてショックを受けていた。



『それじゃボクは、ここにいるボクは一体誰なんだよ!!』



そんな少女の苦悩をよそに、
その男の子、ハリくんは興味津々もう一度聞いてきた



「おねえちゃんはだれなの?」と



「ボクは・・・・・・えーっと・・・」(汗)



受けたショックを振り払いつつ、少女は咄嗟にどう答えていいものか迷ってしまった。
まさかハーリーと名乗る訳にもいかず、だからと言ってここでルリと名乗る事に抵抗もある
それに本名(一応ルリ)で名乗ると、後で問題あるかもしれないし・・・



ど、どうしよう・・・ルリさんと言えば・・・でも、まさか電子の妖精と名乗るのもアレだし・・・


「ようせいさん?・・・おねえちゃんはようせいさんなんだ」



どうやら男の子は、少女が小声で言っていた妖精という単語を聞き取っていたようである。(汗)



「え?、いやあのね、この場合妖精と言うのは物の例えで・・・」(滝汗)


「こんにちは、ようせいさん」(にっこり)



男の子は、目をキラキラと輝かせ、にっこり笑いながら無邪気にそう言った。
突然、妖精なんて自称(?)する怪しいお姉ちゃんがモニターに現れて、
でも、そこはハリくんまだ子供、警戒するどころか逆に好奇心を刺激されたようだ。



「・・・そうだよ、・・・ボクは妖精、妖精って事でいいよ!!!」



ルリ(ハーリー)、もはや開き直りというかヤケクソである(笑)
どうやらこの路線で行く事に決めたようだ。
恥ずかしさのせいで、その生白い肌がすっかり朱に染まっていたりするが(苦笑)



「ぼくは・・・まきび・はり、はりくんだよ」



とてもあかるく元気良く答えるハリくんは、とても嬉しそうにそう言った。
でも逆に、そんなハリくんの姿を見ていたら、ルリ(ハーリー)はたまらなく暗い気持ちになってくる
ルリは、その気持ちをねじ伏せるように、他愛もない話を振って心の動揺を誤魔化した。



「そう、・・・ハリくんて言うんだ

 ハリくんのお父さんやお母さんは元気かな?」


「うん、おとうさんもおかあさんもげんきだよ」



自称妖精(笑)の少女が咄嗟に聞いたのは、かつて(?)の養父母の事
この時代の養父母が健在なのは、分かりきっている事だけど、
それでも、聞かずにはいられなかった。
ルリ(ハーリー)にとって、マキビ家での事は忘れられない大切な思い出なのだから・・・。



「・・・ハリくんは・・・お父さんやお母さんの事は好き?」


「うん、だいすきだよ。 おとうさんはやさしいし

 おかあさんはすぐおこるけど・・・でも、おかあさんもだいすきだよ」



嬉しそうに答えるハリくんの言葉を聞きながら、ルリ(ハーリー)は、
遠い未来の世界に置き去りにする形になってしまった家族の事を思い出していた。



『そうだった、この頃のボクは幸せだった。幸せだったんだ・・・』



優しく何でも教えてくれたマキビ博士、養父の事
厳しい所もあったけど、優しく愛情を注いで育ててくれた養母の事

この頃は英才教育とか、マシンチャイルドとしての実験とかもされていたけど、
決して無茶な事されていた訳じゃなく、養子とはいえ実の子以上に家族として可愛がられて・・・
ボクがいなくなって、義父さんも義母さんもどうしているかな? 悲しんでくれているのかな?
もう、あの未来には帰れないし、今のボクには確かめようもない事だけど



家族を、居場所を、ボクの持っていたモノ全てを失ってみて、
ボクにとってそれがどんなに大切なモノだったか、初めて思い知らされた気がする



この時代のマキビ家はボクのものじゃない

この世界のあの子の、ハリくんのものなんだ

そこにはボクの居場所なんてどこにもない

いや、この世界のどこにもボクの居場所なんてないんだ

そんな事、分かりきった事だったはずなのに・・・・・・





「どうしたの? ようせいさん泣いているの?」



そのハリくんの言葉に、ルリ(ハーリー)はハッと気が付いた。
その言葉に、顔に手をやってみると、自分でも気づかないうちに涙が頬を伝っていた





ボクはいつの間にか泣いていた・・・・・・泣いていたんだ

涙が後から後から溢れ出して止められない

視界が滲んで何も見えない





「ようせいさんだいじょうぶ?」



ハリくんがボクを気遣って声をかけてくる
ボクは慌てて涙を拭いながら答えてた



「ボクは大丈夫だよ・・・心配させてごめんよ、ハリくん」



自分でも無理してるような気はするけど、ボクは無理をしても作り笑いをした
ボクは悲しくなんかない、泣いてなんかいないんだ
この子が心配するような事は何もないんだ・・・・・・。



「よかった、ようせいさんがげんきになって」



そう言ってくれるハリくんは、ボクが言うのもなんだけど、いい子だよね・・・

だけど、それは今のボクには素直に受け取れない言葉だよ
それは決してこの子のせいじゃないけれど、
それでも、ボクは自分の気持ちをねじ伏せて、その言葉を受け取った。



「ありがとうハリくん・・・・・・それじゃ元気でね」


「!? ようせいさん、もういっちゃうの?」



たまらない、これ以上は・・・ハリくんの幸せそうな姿をこれ以上は見ていたくなんかない
我ながら屈折した心境だとは思うけど、ボクの我慢もそろそろ限界だと思う・・・



「もう少しお話しようよ」
と言うハリくんを振り切って、ボクは最後の一言を言った。



「さようなら、ハリくん・・・」



さようなら、もう一人の小さなボク、義父さんや義母さんの事、お願いだよ
今のボクはもう、マキビ家との絆も何も無くなって、何の関わりも持てなくなった根無し草だから

ボクには、もうボクの手には何も残っていないけど、せめてキミだけでも幸せになってよね









黒髪の男の子は、マキビ・ハリくんは、ようせいさんの姿が消えたモニターを、しばらく眺めていたが、
どうやら、ようせいさんがもう現れる事はないとわかったのか、ようやくモニターから目を離した。



「ようせいさん・・・またあえるよね?」



蒼銀の髪をした、金色の瞳をもった、とっても白い肌をした、
とっても綺麗で神秘的な妖精さん
その声、その姿、その存在は、
ほんの短い時間、少しだけ話をしただけだけど、男の子の心に深く刻みこまれたのだった。

ハリくんが、その妖精さんの名前を知ることになるのは翌年、十数ヶ月後の事であり、
更に直接出会うのは、数年後のことになる。





そして、・・・・・・妖精さんことハリルリちゃんは気づいていないが、この時
過去の自分自身(?)ハリくんに、きっちり刷り込みをしちゃったのだった。(汗)









儀式は終わり、ルリ(ハーリー)は落ち込んでいた。

全てを確かめればすっきりと(どんな結果になろうとも)気持ちは割り切れると思っていた。

でも、そうではなかった・・・・・・



ハリルリにとって、この事でこの世界には本当の自分を知るものは誰もいない、
自分の居場所はもうどこにもない事を思い知らされたから・・・・・・そしてあの人も・・・

このあとハリルリは、何事も無かったかのように平静に振舞おうしていたが、
どこか気持ちはうわの空、続けていたオモイカネの調整作業は集中力を欠き、
いつしかその作業は、完全に止まっていた。そんな状態だったせいだろうか?



『注意!、メグミが入室したよ』、『ルリ、注意!』



オモイカネが注意を促したのだが、ルリはぼんやり考えごとをしているようで気がつかない。
ウインドウを正面にまで持ってきてもう一度注意したのだが、なぜかまったく目に入っていないようで(汗)
ハリルリは、やはりその事に気づかなかったのであった。







「・・・ちゃん、・・・聞いてるのルリちゃん?」


「・・・・・・ えっ?、あ!?

 メグミさんいつの間に・・・それにルリちゃんって・・・

 ああ、そうか・・・そういえばルリってボクのことだったっけ?」



ルリちゃんのその返事には元気がなく、
思い切りボケた返事をしているのに、言い草がどこか他人事みたいで・・・
さらに自分でもその事に気づいていないようだった。

通信士のメグミレイナード (17) は、つい今しがたブリッジに戻ってきたのだが、
どういう訳だかルリちゃんがすっかり落ち込んでいて元気がないように見え、
その様子に心配して、声をかけてみたのだが、
そのルリのボケた返事におもわず脱力したのであった。



「いつの間にって・・・私は今戻ってきた所だけど、それより

 ボクのことだったっけ?って、ルリってあなたの名前でしょ?

 大丈夫? ルリちゃんひょっとして起きたまま寝ぼけているんじゃないの?」


「・・・あっ!?・・・だ、大丈夫です。 ボクは寝ぼけてなんかいませんよ」



どうやらルリちゃん、たった今自分がボケた返事をしていた事に気づいたようで、
少しだけ慌てた様子で返事を返していたが、その言葉にはやはり元気が無かった。



「ルリちゃん、やっぱりどこか変だよ

 どこか身体の具合でも悪いの?

 それとも何か悩みでもあるんじゃないの?

 もしそうだったら遠慮なく言ってよ、私でよかったら何でも相談に乗るから」



メグミは、そんなルリの事を心配そうに見つめながらそう言った。
メグミが見たところ、ルリはさっきから気持ちがうわの空で、どこか元気がないようにも見える



「何でもないんです本当に、・・・メグミさんの心配するような事は何もないんですっ!!」



でも・・・そう言ってルリは、メグミが関わって来る事をやんわりと拒否していた。
少し意地になってきたのか、その声色を少し荒げて・・・



「なんでもない事なんてないわよ、

 さっきからどう見たって元気がないし・・・それに

 ルリちゃんの顔を見たら、泣いたあとみたいだし

 いったいどうしたのよ?」



そのルリの態度に、メグミのほうもつい強い調子で言い返して



「!!?、放っておいて、ボクの事なんか放っておいてよ!!

 ボクが落ち込んでたって、泣いてたってメグミさんには関係ないでしょ!!

 ボクの・・・ボクの事なんて・・・・・・放っておいて・・・・・・

 ううう・・・うわあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜ん!!



さっきまで一人でこらえていたけど、メグミとの会話でもう我慢する事ができなくなって
ルリは泣きながらブリッジを飛び出していったのだった。



メグミは、そんなルリをしばし呆然と見送って・・・ぽつりと呟いた。



「ルリちゃん、・・・放っておいてなんて言われても、

 泣いてるルリちゃんの事を見て、放っておけるわけないわよ」


メグミにとって、ルリは同じ職場で働く事になった仲間、同僚、本来はただそれだけの関係のはずだけど
ついさっきルリに声をかけたのだって、実は本当はほんの少し気になった程度だったのだけど

メグミは今の件で、いつの間にか本気でルリの事を心配しはじめていた。
自分でもお節介だと思うけど、このままあの子の事を放っておけない、
黙って見てはいられない、なんとかしてあげなきゃ、と思ったから



ともかく、ついさっき出て行ったルリちゃんの事捜さなきゃ、
ようやくその事に思い至り、メグミもブリッジを出ようとしたその時
今朝は用事があり、遅れて来る事になっていたあの人が、ブリッジに入って来たのであった。



「おはようメグちゃんにルリちゃん、今日は遅くなっちゃってごめんね

 って、・・・どうしたのメグちゃん? そんなに慌てた様子で?」


「み、ミナトさん・・・・・・実は」



メグミは、一瞬躊躇しながらもミナトさんに、
ついさっきまでの、ルリとのやりとりや事情を素早く説明した。

現在ルリが唯一気を許している、と思われるこの女性に・・・・・・











その頃、泣きながらブリッジを飛び出したルリは、展望室の中でじっと座っていた。

例によって、ルリダッシュ(ハーリーダッシュ?)の後、激しく息を切らして立ち止まり、
ようやく気分も呼吸も落ち着いて、辺りを見回せば、そこは展望室の前だったのだ。





「はぁ〜〜っ、なんであんな事言っちゃったかなぁ・・・・・・でも今更・・・」



今更ブリッジには気まずくて戻れ無いや
メグミさん、きっと気を悪くしているよね、・・・ボクはちょっとだけ後悔していた。
だけど仕方がないか

今は頭の中がぐちゃぐちゃで、ボク自身どうしていいのか分からないんだし
それに、『しばらく一人になりたい』と思ったから、
だから、ボクは落ち着くまで展望室にいる事にした。





緑豊かな草原の風景が、バーチャルで再現されているそこは
普通なら、見るものの心を和ませるのだろうけれど、ルリ(ハーリー)の心は和まなかった。
背中を丸めて抱いたひざに、うつむかせた顔を埋めてぽつんと一人寂しく座っていた。



『・・・静かだな』



そう思うと、余計に寂しさが募ってくる
孤独だった。どうしようもないほどに・・・

だけど、この世界ではボクは一人ぼっちで
寂しくて仕方がないハズなのに



『それなのに、一人でいるほうがホッとするなんて、なんか皮肉だよね』



ルリは・・・いやハーリーはそう思った。
一人でいる間は、少なくとも意識だけは元の自分のまま、ハーリーのままでいられるような気がするから。



『どうしてボクはルリさんになっちゃったんだろう?』



ハーリーは、ふと、改めてそんな事を考えた。
これまでは考える事を、意図的に避けてきた事だけど・・・・・・でも



『それじゃあ、本当のルリさんは、どこにいっちゃったんだろう?』



この時代にこの身体の中にいたはずのルリさんは?
あの時、僕たちと一緒にランダムジャンプに巻き込まれたはずのルリさんは?
どうしてこの世界には、ルリさんがいないんだよ



『ボクはルリさんの側にいたかった、ボクはルリさんの隣に立っていたかったんだ・・・

 それなのに、今はボクがそのルリさんになっちゃってるなんて、そんなのってないよ、

 ボク自身がルリさんになりたかった訳じゃないのに・・・・・・』



そこまで考えてハーリーは、自分の身体を、
ルリの姿をした今の自分の身体を見下ろして、また小さくため息をついた。









「お隣、座っても良いかな?」


「み、ミナトさん・・・・・・どうしてここに!?」



ルリは、いきなり現れたハルカ・ミナトに驚いて、咄嗟に反応できなかった。
考えごとをしていて、注意力が散漫になっていたから、
ミナトが近づいてきた事に気づかなくても仕方ないかもしれないが

ミナトは、そんなルリの様子にもお構い無しに、その左隣に腰をおろした。
二人仲良く体育座りで、ミナトはルリの方を見て、ニッコリ笑いかけながら話しかけてきた。
ルリ(ハーリー)は、そのミナトの笑顔を見て、なぜか不思議にホッとした気分になりながら話を聞いた。



「ルリルリが、いきなり泣きながらブリッジを飛び出しちゃったって聞いたから

 心配しちゃったわよ・・・それにメグちゃんも、ルリルリの事心配しているわ」


「!?ど、どうしてその事を、それは・・・・・・って、ルリルリって??」



ハリルリは、ブリッジでのことを既にミナトさんに知られた事を悟り、ばつが悪く思った。
咄嗟に話題転換の意味も込めて、たった今『ルリルリ』と言われた事を聞いてみたのであるが・・・



「ルリちゃんの、ルリがふたつでルリルリ、いいでしょう♪」


「・・・・・・まあ、いいですけど、はあ〜っ」



向こうの世界では、ミナトさんはルリさんの事をルリルリと呼んでいたから、
その愛称の由来ってどんなだろう?、ハーリーは以前から興味をもっていたのだが、
いざ、自分がその立場に立たされてルリルリと愛称を付けられて、
ルリ(ハーリー)は思わず脱力するのを覚えたのだった。



『こ、こんなしょうもない決め方でルリルリって愛称が付いちゃったんですか?、艦長〜っ』



ちなみに、ルリ(ハーリー)は知らない事だが、史実(?)よりかなり早くこの愛称がついた事になる。
それというのも、ルリがミナトと親しくなる事が、史実よりかなり早くなったせいだろう。

なにはともあれ、ハリルリはこの件で抗弁する考えは、初めから放棄していた。
自分の知ってる未来の世界で、ルリルリという愛称がしっかり残って定着していた事を考えたら、
抗議したとしても、なし崩しに定着していくと思ったから。そして、その予想はまったく正しかったのであった。(苦笑)



ま、ルリルリという愛称の件はひとまずおくとして・・・・・・



一旦会話が途絶えて、気まずい沈黙が流れ、
その沈黙に耐えられず、ハリルリが口を開いた。



「ミナトさんは、・・・どうしてボクがここにいるってわかったんですか?」


「ああ、それはね、泣き虫の女の子がどこに走って行ったのかって聞いたらね、

 見てた人が教えてくれたの、ルリルリが走っていく姿って目立つみたいだから」



そう言って、ミナトは楽しそうににっこり笑った。
ハリルリは、恥ずかしさのせいで顔を真っ赤にしてうつむいたりして(苦笑)



「ルリルリ、初めて会った時も同じだったわね」


「えっ、同じって?」


「あの時も、泣きながら抱きついてきた時も、ルリルリは心細くて不安そうで寂しそうだった

 まるで迷子の仔ネコちゃんみたいに・・・今もその時と同じかなって・・・」



ハリルリはギクリとした。図星をさされているような気がしたから
ミナトさんに自分の心を見透かされているような気がしたから
そんなハリルリの様子を見て、ミナトはくすっと笑って言葉を続けた。



「それとも、迷子の仔イヌちゃんといった方がイメージ合うのかな?」


「み、ミナトさん!!!」


「ごめんごめん、でもね・・・

 あの後、ルリルリは私の前では明るく振舞っていたから安心していたんだけど、

 本当はそうじゃなかった、考えが甘かったみたいね・・・ごめんね、私もまだまだよね・・・」


「・・・・・・そんな事は・・・そんな事はないですよ、だって・・・」



その後の言葉が続かなかった。 でも、ハリルリは悟っていた。
ミナトさんはボクの事をそこまで見ていてくれてたんだ。
ボクの事を心配してくれていたんだ。と、・・・・・・その気持ちが嬉しかった。



「ルリルリは強がってムリしてる、やせ我慢しちゃってるけど、

 そういう時はムリしないで、もっと甘えちゃっていいのよ。

 こんな風に言ったら怒るかもしれないけど、ルリルリはまだ甘えたい盛りの子供なんだから・・・。」



そのミナトの言葉を聞いてルリは、いやハーリーは思い出した。
未来での事、あの日、ミナトさんに励まされた時の事を・・・







『ハーリー君?』


『えっ?』


『そうか、やっぱりね・・・・・・ルリルリからの手紙でね、

 君の事いっぱい書いてあったからね、ピピンときたの』


『ボクの?』


『そう・・・・・・私に弟が出来ました。

 私と同じような身の上の子ですが、私と違って明るい良い子です』


『あなたもナデシコの・・・・・・』


『甘えちゃえよ、弟くん』


『えっ』


『うふふ』



あの時は、ミナトさんのその言葉に、ボクは救われたんだっけ
その後、極冠遺跡の、火星の後継者との戦いで



『ハーリー君、ナデシコCのシステム、全てあなたに任せます。』


『えっ、ぜ、全部?、バックアップだけじゃ駄目なんですかぁ?』


『駄目、私はこれから火星全体の敵のシステムを掌握します。

 フネまでカバーできません。ナデシコC、あなたにあずけます。』



艦長の、ルリさんの厳しい言葉、それはボクに対する期待の現われでもあったけど
ボクは逆に重圧で尻込みしちゃったんだっけ・・・そんな時もミナトさんが・・・



『ハーリー君頑張れ!』


『えっ?』


『甘えた分まで男になれよ!』



結局、ボクはあの時のミナトさんの言葉に励まされて、
最後まで頑張ることができたんだっけ







「・・・どうしたのルリルリ?、急に・・・・」


「なんでもないんです・・・ただミナトさんの言葉が嬉しくて・・・・・・」



ハリルリはそう言って、ミナトに取りすがって泣き出した。
年相応の、甘えたい盛りの子供のように・・・・・・



「甘えていいって言ったけど、ルリルリはこんなにも甘えんぼさんだったのね・・・」



そう言って苦笑しつつ、ミナトは嫌がる事もなく
自分に取りすがって泣く少女を、そっと優しく抱きしめたのだった。





ミナトさんて温かいや

ミナトさんの身体って、柔らかくて気持ちいいや

ミナトさんて、本当にいい匂いがするんだ

不思議だ、こうしているととっても安心できるよ・・・どうしてかな?

ミナトさん、ボクはミナトさんの事、大好きだよ





「ルリルリったら、泣き疲れて寝ちゃったみたいね。」



ミナトは呆れたようにそう言ったが、
とっても幸せそうな安心しきった寝顔を見ていると、こっちまで表情が綻んでくるのを感じていた。
ミナトは知らないけれど、この世界にきて不安な日々をすごしてきたハリルリにとって、
それは、初めての安らかな眠りだった。



ルリが、気持ち良さそうにすやすや眠るのを見て、ミナトは今日はもう仕事にならないなと思いつつ



「今日はこのまま寝かせてあげるわね。おやすみルリルリ」







つづく





あとがき



中途半端な出来になった気もしますが、今回はサイドストーリーAパートを送ります。

しかし、なんでこんな話になったんだろう?

本来は二話の中で説明不足な日常のハリルリを書くつもりだったのに、軽い内容の話になるはずだったのに

当初の予定と話が変わってるし、話も重くなってるような気が(苦笑)

(そのせいでやたら手こずって、やたら時間をとられたし・・・他のSS書く時間まで、苦笑)

まあいいや、そんな訳でこの続きはサイドストーリーBパートとして来週にも投稿したいなと思います。

(今度は軽い内容になるはずです)

Bパート時間を置かずにさっさと書かないと、(二ヶ月とか)間をおいたら書けなくなる気もしますしね

Bパートが終わったら、第三話以降のTVシリーズのお話に繋がる予定です。



それでは、今回はこのへんで(あとがき短くてすみませんが)










ゴールドアームの感想。

 むう……今回はやや感想に困りました。
 褒めるにしろ貶すにしろ、ネタ不足とでもいいますか。
 面白さが出ているわけでもないし、萌えがあるわけでもない。けど、この話は、なくてはならない話でもある。
 こういう話はある意味批判のしようがないです(困)。
 いい話なんですが、いい話で終わってしまっている点が物足りないとでもいいましょうか。
 元々のパワーがすごいだけに、期待してしまうのかもしれません。
 まあBパートもある話なので、この時点で何か言うのも違うのかもしれませんが。



 かといって今回の話は、面白くしようと手を入れるとダメになってしまうというのもまた見えるんですね。
 淡々と語られることが、この話には必要だと思われるので。ここで手を加えると、それは『あざとい』表現になってしまいます。
 むずかしいですね。
 強力な物語の中で、ほっとする瞬間。
 この話は、そういう風に感じました。

 まあ、どことなく中途半端な感じがするのは作者も感じていることのようで。
 Bパート、楽しみにしています。



 以上、ゴールドアームでした。