西暦2186年 火星ユートピアコロニーにてクーデター発生。その日のうちに鎮圧された

そして、その混乱の中、両親を失った少年が一人




「それでは、あなた達夫婦が、あの子を引き取るというのですね?」

プロスペクターは念を押すようにその若い夫婦に問いかける
その若い男の方が迷うことなくはっきりと答えた

「はい、あの子は僕たちが引き取って僕たち夫婦の子供として育ててみせます」

「なるほど、本気のようですね、ですがよろしいのですね、あの子をアキト君を引き取るということは・・・」

その子、テンカワ・アキト君(このとき八歳)は先のクーデター未遂のとき両親を失っていた

問題なのは、その両親がテンカワ博士夫妻だということ

皆、口には出さないし、表ざたにはならないだろうけれども
テンカワ博士がネルガル上層部と意見が対立し、疎まれていたことは皆知っている

そしてその死にはやはり疑問がもたれているが、これまた誰も口にはださない
アキト君のことも同様、わざわざその子にかかわってネルガル上層部に睨まれるようなことはしたくないのだ

触らぬ神に祟りなし

本人の責任ではないが、アキト君はやっかいな腫れ物であり、だれも関わりあいたくはないのだ
それを引き取って養子にしようというのだから、プロスも念を押すのは当たり前かもしれない

「だが、良いのですか?君たち夫婦にはすでに一歳になったばかりの女の子もいるじゃないですか」

「はい、ですからあの子にとっても良いお兄さんになってくれるでしょう」

どうやら、本気で本気のようだ

「それに、ミスターもわかっておられるはずです。
 僕たち夫婦が夫婦としてここにいられるのは、テンカワ博士夫妻のおかげだということを・・・」

「本気ですねカワイさん、わかりました・・・」

ここまで話してプロスペクターも、彼らが本気だということがよくわかった
わざわざ嫌な言い方をしたのも、中途半端な気持ちで引き受けてほしくないからだったが・・・

「カワイさん、アキト君のことよろしく頼みましたよ」

合格だ、彼と彼の奥さんなら周りの圧力に負けたりせずにアキト君のことをしっかり育ててくれるだろう

いや、試すのがそもそも失礼だったかも
プロスの部下の中で、若いが彼ほど信頼できる男はそうはいないはずなのだから

彼、カワイ・ギンジが礼を述べ部屋を出た後、プロスはすぐに手続きに入った
凍結したテンカワ博士の遺産の一部を、アキトの養育費としてあてられるように
(もっとも、カワイ夫妻はこれを使わず、やはりアキトのために残したようだが)



機動戦艦ナデシコ

砂沙美の航海日誌



〜プロローグ〜



By 三平





少年は傷ついていた・・・何よりも心が

両親の死を目の当たりにし、天涯孤独、独りぼっちになってしまった事に耐えていた

それは痛々しくさえ見える、そんな少年の所に・・・


「初めましてアキトちゃん、私が新しいママですよ〜」


「ホッきょん、いきなりでアキト君が驚いているよ」


「そんな事ないよギンちゃん、だよねアキトちゃん?」


「!!・・・はい!?」


ハイテンションで明るく場違いな夫婦がやってきたのだった(汗)


それが、少年テンカワ・アキトとカワイ・ギンジ&ホノカの夫妻との出会いだった

そして・・・この時ホノカが抱いていた一歳の赤ちゃん

水色の髪をした金色の瞳の女の子、ササミちゃんにアキトが出会ったのもこれが最初だったようだ

もっとも、この時赤ん坊のササミが覚えている訳がなく、アキトもそんな事をこの時は意識していなかったようですが

(一歳って結構大きいし立って歩く事覚え始めるし微妙ですよね、この書き方でよかったかなあ?)



何はともあれ、アキトはカワイ夫妻の養子として引き取られ、以後カワイ・アキトと名乗る事になるのだが

そうすんなり事が進んだわけではない

「アキトちゃん、ごはんが出来たわよ、一緒に食べましょう」

「・・・・・・いらない」

元々他人との付き合いや接触がとくいでない少年は
カワイ家に溶け込めず、かえって自分の殻に閉じこもっていたのだった

「えーん、アキトちゃんがごはん食べてくれない、せっかく美味しく作ったのにぃ」

「よしよし、心配しなくてもホッきょんのご飯は美味しいよ、だからアキトくんもいつか食べてくれるよ」

てなわけで、ギンジがホノカのこと慰めたりしていたりして・・・

「ギンちゃん」「ホッきょん」

はいはい、勝手にやってて頂戴、万年新婚大ボケ夫婦(爆)



そんな夫婦とは蚊帳の外の少年アキトは、自分の部屋でうずくまっていたのだった

(勝手な事言ってるよ、僕はあんたたちの子供じゃない・・・)

(あんたなんか僕のお母さんじゃない)

(ここは僕の家じゃない)

(何で死んじゃったんだよお母さん・・・)

子供なりに思うことがあるのだろうか

気が付けば、アキトはうずくまったまま声を上げずに泣いていた





ふと、アキトは目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい

時間はまだ夜中だろうか?

なのになぜ目が覚めたかというと『きゅるるるぐう〜っ』

育ち盛りの少年の、お腹の方が栄養を欲しているらしい(苦笑)



ごそごそごそ

(キッチンで何か物音がしています)

パチッ、パッ

キッチンから物音がするのでホノカがキッチンへ行き明かりをつけてみると

お腹が空いて食べ物をさがすアキトくんがいたのだった



「スープくらいならすぐ暖められるからね」

そう言ってなべに向かうホノカはとても嬉しそうである
さすがにバツが悪いのか、アキトは大人しくテーブルに座って待っていたりする
アキトはぼんやりとホノカの後姿を見ていた・・・

そういえば、あの人の髪の色、桃色だよな?
めずらしい色だけど、そんなのもあるのかな・・・
目の色も金色だった気がするけど、どうしてかな?
などと考えながら・・・・・・

やがて、スープが温まったのか

「はい、暖かいうちに召し上がれ」

ホノカが皿に暖かいスープを入れてもってきた
にこにことうれしそうに微笑みながら

意地っ張りの少年は、しばらくためらっていたけれど、やがて意を決してスープを口に運んだ・・・

おいしい・・・アキトはそう思った

お腹が空いていたせいもあるかもしれない、でも

何よりもあたたかい

そう思う、両親が死んでから、こんなにもあたたかい物は食べていなかったから

いや、人のあたたかさに触れていなかったから、余計にあたたかく感じたのかもしれない

「どう、おいしい?」

そんなアキトの様子を見ていたホノカが聞く、変わらぬ笑顔をふりまきながら

「・・・おいしい」

「良かった、口に合わないかとひやひやしてたけど、まだあるからどんどん食べてね」

アキトの一言に、うれしそうなホノカだった
今までそっけない態度しかしてくれなかったので、本当にうれしいのだ

「あ・・・」

ホノカの笑顔に思わずどきりとするアキト、少し赤面しているかも

『あ、あれ?、僕はどうしたんだろう、ドウシテ涙なんか・・・?』

気が付けばアキトは涙を流していた。なぜだか理由はわからないけど

「あらあら、どうしたの?急に泣いたりなんかして」

そう言って、ホノカはやさしくアキトの涙をふいてあげるのだった

「いいよ、自分でやるから・・・」

言い草はまだ素直になれない少年のものだが
でも、なぜだろう?、アキトはもうホノカにかまわれるのが嫌でなくなっていた

そのやさしさに、あたたかさに
かたくなだった少年の凍て付いた心を溶かしたのかもしれない
流した涙が、少年のわだかまりを洗い流してくれたのかもしれない

まだ、ぎこちなくはあるけれども、この時からアキトはホノカの言う事を聞くようになったのだった


途中で気が付いて、二人の邪魔をしないように物陰に隠れてみていたギンジは
うんうんとうれしそうにうなずいているのであった


ともあれ、この日のこのときから、アキトは本当の意味でカワイ家の一員になったのかもしれない



数年後・・・西暦2193年河合家にて

「はい、ギンちゃんあ〜ん」

「あーん、んぐんぐ」

時刻は夕食時、カワイ家恒例の風景がそこにあった

「ホッきょんの作るご飯はいつも美味しいよ」

「うふふ、あわてなくてもまだ沢山ありますからね、ギンちゃん」

見つめあい二人の世界に入っているのだった
もっとも、毎朝見せ付けられる残りの家族は、たまったもんじゃないかも知れないが・・・

「万年新婚大ぼけ夫婦」

ため息まじりにぼそっと言ったのは、この夫婦の愛娘、カワイ・ササミちゃん (8歳)だった
水色の髪をツインテールにした女の子である。あと金色の瞳も特徴的であろうか

それはともかく、両親の事は毎日飽きもせずよくやるもんだ、とでも思っているであろうか

「まあ、いつもの事だしさ」

苦笑してそう言いながらも、実はやっぱり呆れているのはササミのお兄さんのカワイ・アキトくん (15歳)

あまり態度に出さないようにしているのは、もう慣れているのと、少し大人になったからであろうか?
もっとも、ああいう風景は、見ていてはずかしいのは大人になっても変わらないかも知れないが・・・

普段から子供たちに対しての接し方は、この夫婦の場合マメなのだが、こういう真空の時間もあるのである
そんな時、アキトの役目はササミのフォローをすることである

「アキト兄ちゃんおかわり」「はいはい、ただ今」

何だかんだ言いながら結構マイペースでやってるじゃない君たち(笑)



えーっと、夕食もおわり一家団欒のひととき、アキトは話を切り出した

「今日、学校で進路指導の話が出たんだ・・・僕はコックになりたい、駄目かな」

「はっはっはっ、駄目なんて事はないさ、好きなようにすればいい、アキトの人生なんだからなりたいものになるといい」

この件に関しては、ギンジは元からアキトの好きなようにさせるつもりだったので問題は無い
(宇宙海賊になりたいとか無茶なことでも言えば止めたかも知れんが)

「アキト兄ちゃん、お料理好きだし上手いもんね、ササミもいいコックさんになれると思うよ」

ササミちゃんはどうやら応援モードのようである
ちなみに、ササミちゃんもよくアキトと一緒に、ホノカに料理を習ったり手伝ったりしているため結構上手いようだ

「私もアキトちゃんがコックさんになりたいと言うならそれでいいと思うわ」

ホノカも賛成してくれるようである

家族の誰からの反対も無く、みんな認めてくれるようでアキトとしては、ホッとした所であろう
特に、ホノカ母さんには認めて欲しいと思っていたのでとても嬉しそうですらあった。が・・・・・・

「でも、どうしてコックさんになりたいのか、ママ理由を教えてほしいわ」

と聞かれ、一瞬アキトは固まった

「あ、それササミも聞きたい、ねえどうしてなのおにいちゃん?」

「なるほど、パパも聞きたいな」

一気に包囲網が狭められてアキトは答えざるをえなくなったのであった(笑)

どう答えたものか四苦八苦しつつも、理由に思い至ったのかアキト、咳払い一つしてから話を切り出した

「火星ではご飯や食材は美味しくないだろ、だけど腕のいいコックさんにかかれば美味しくなる・・・」

火星は開拓惑星で土が悪い、食材も味が落ちる、火星では常識でありここにいる皆知っている
(もっとも、全部が全部でなく、やせた土地でも美味しく育つ食材もあると筆者はおもうのでありますが)

「そのことがすごくて、僕の作った料理をみんなに美味しく食べてもらえればいいな、何てね・・・それに僕は料理が好きだし」

黙って話を聞いていたカワイ家の面々だったが、話を聞き終わったホノカは

「わかったわアキトちゃん。そういうことなら何も言う事は無いわ、頑張ってね」

その金色の瞳でじっとアキトの顔を見て、そう言ったのだった

「頑張れアキト兄ちゃん、ササミも応援するから」

とりあえず、家族は納得してくれたようなので、アキトはほっとしたのであった

「本当は、あの日のスープの暖かさが忘れられないなんて、恥ずかしくて言えないよな・・・」

あの日の夜、ホノカ母さんが作ってくれたスープは暖かくて美味しかった
何よりも心が暖かかった
アキトはその日のことは今でも忘れられない、そして
誰かの心を暖められるような料理を僕もいつか作りたい。そう思っているのであった



この頃はまだ河合家の面々は幸せだったのかもしれない
この幸せがいつまでも続けば良かったのに・・・あとで思い起こせばそう思わずにはいられない



しかしある日・・・・・・それはおわりをつげた





西暦2195年10月第一次火星会戦

突如現れた木星蜥蜴の侵攻に迎撃に出たフクベ提督の駐留艦隊は、無人兵器群に大敗したのであった

「チューリップ火星軌道に侵入、予想到達地点は同南極、六十秒後に到達します」

フクベ提督は決断した、その結果がどうなるのか知らずに

「総員退避、本艦をぶつける!」

そして・・・・・・火星ユートピアコロニーは地獄と化したのであった



つづく



あとがき

新連載です・・・じぶんでも無謀だと思いますが

魔○少女○リティ○ミー知っている人何人いるでしょうね(苦笑)

まあ、天○無○知っている人結構いるようなので心配ないと思いますけどね

サ○ーのテレビシリーズの河合家って暖かくていいなあ。と、前から思っていたので、ここにアキトを入れたらどうなるだろう?

そう思ってこれ書いてみました。個人的には銀二パパ好きなんですが、書いているうちにほのかママもいいなあ、と思っちゃいました

でも、何か上手く書けなかったなあ、もう少しあの明るい夫婦うまく書きたかったのですが

とある二人の瞳の色、金色に変更しちゃいましたが、どういう意味かナデシコSS読んでいる皆さんにはバレバレですね(苦笑)

でも、それだけで通用してしまうキャラクターデザインっていったい・・・

今回は、主人公に設定したはずの砂沙美ちゃん、あまり出番が無かったですけど次から増えるはずです

(正確には主人公達ですが・・・砂沙美ちゃんだけでないということで、それと、砂沙美は主人公ではあってもヒロインではないです、さてどうなるか)

さて、少なくともテレビシリーズより幸せな少年時代をすごしたアキト君、これからどうなりますやら

(なんか、アキトの少年時代がより不幸なSSが多いような気がしたので、こんなのもいいかな、などと考えてみました)

ところで、僕は砂沙美ちゃんって明るくて元気でみんなとすぐ仲良くなる健康優良児というイメージをもっているのですが

ルリやラピスとはそういう意味では逆ですね(爆)

どういう風をナデシコに流してくれるか楽しみにしています。(でも、うまく書けるかなあ)

あと一言、間違っても砂沙美ちゃんはプリ○ィサ○ーに変身することはありません。以上(笑)

では、つづきはこのあとすぐ書きますので、お楽しみに


 

 

代理人の感想

ごめんなさい、天○○用は知っててもサ○ーの方は知らないです(爆)。

 

まぁ行数稼ぎに土の話でもしますと、ナデシコが火星に来た時

ゴートが「思ったより赤くないな」とのたまってくれましたよね?

おそらく、ナノマシンによるテラフォーミングを行なった後でも以前ほどではないとは言え

まだまだ火星は赤いのでしょう(大気がある以外大して変わってないようにも見えますが)。

 

で、火星が赤いのはその大地の中に大量の酸化鉄(平たく言うと赤サビ)が含まれているからです。

地球でも(勿論火星よりはかなり少ないのですが)酸化鉄を含んだ赤土というのは

あまり「いい土」とはみなされません。

一つには酸性であること(これは酸性の土を好む植物もあるので一概には言えないのですが)、

そしてもう一つは植物の成長に必要な窒素を含む化合物、いわゆる「有機物」が少ないからです。

恐らくナデシコ世界で火星に施されたテラフォーミングの一つに

ナノマシンによって無理矢理窒素化合物を作り出す事があるのでしょうが、

それでも火星の土が赤いと言うのは「いい土」と言えるほどには土壌が豊かになっていない証拠でしょう。

有機化合物を多く含んだ土は黒くなりますから。

 

ついでに作物がまずい理由ですが、これは土地が痩せているので芋くらいしか満足に育たないのか、

農作物の中にあるナノマシン(ナノマシン=土そのものな訳ですから当然植物の中はナノマシンだらけです)が

作物をまずくしているのか、そのどちらかでしょう。