(砂沙美の航海日誌「第五話」)

何はともあれ、前回ミスマル提督の制止を振り切ったナデシコ

現在、地球の成層圏を突破するための最終準備中・・・作戦に入る前の最後のひとときと言った所だろうか

もっとも、忙しい人はいつでも忙しいのだろうが・・・



「・・・はい、ですからそう言う訳でして・・・わかりました、ではそういう事で」

どうやらプロスペクターさん、ネルガル本社サイドと報告や打ち合わせを行っていたようである。

ともかくも、今後どうするか方針は定まったようだが、さてどうなるのか

「ルリさんが倒れられてどうなる事かと思いましたが、代わりにササミさんは良くやってくれてます。しかし・・・」

将来はともかく、現時点ではササミの能力はルリに大きく劣っており

現在はナデシコを支障なく運用できる水準にどうにか達しているという状況にしかすぎない

プロスの理想とすれば、ルリをメインにすえ、その下でササミに経験を積ませオペレーターとして育てていきたい所だが

なぜか未だにルリは目を覚ますことはなく、理想は絵に描いた餅だった

(ちなみに逆行者のいない正史バージョンではその理想に近い状況だったのだが、当然プロスはそんな事知らない)

それでもササミは少しづつではあるが実力を付けつつあり、余裕があるのならばそれでも良かったのであるが

「このままの状態が続けばササミさんもいつか潰れてしまいます」

オペレーターに掛かるプレッシャーは半端でないのかもしれない

今、ササミまでダウンするようなことにでもなれば、今度こそナデシコの運用に支障をきたす事になるだろう

(そういう意味では、ルリって一人で良くやっていたよねオペレーター、性格的にプレッシャーに強かったのかな)

ともかく、サツキミドリで予備のオペレーター補充することと決まり、それまでにルリが回復すればよし、でなければ・・・







機動戦艦ナデシコ

砂沙美の航海日誌



〜第五話「眠り姫の事情」〜



By 三平







「!!ちょっと、ルリルリが下ろされるってどういうことなの!?」


さすがにプロスの説明を聞いて激高してますね、ミナトさん


「いや、そう言われましても、アレ以来ルリさんは眠ったまま目を覚ます気配がありません

 専門的にどんな状況かはともかく、要は夢を見続けている通常では考えられない状態らしいのです」


「・・・それってどういう事?」


さすがにミナトさん表情が真剣です、プロスさんに続きをうながします


「早い話が夢の世界に逃避したまま帰ってこないということです。

 何かいやな事があったのか、それとも夢の世界の方が居心地が良いのか

 ともかくルリさん本人が帰って来る気にならない事にはどうにも・・・・・・」


「そんな、あの子がそんな事・・・・・・」


ミナトとしては信じがたい話だった・・・ミナトの知っているルリはどこか冷めてて現実的で
およそ子供らしくないと言うか、夢見ると言うには程遠い子供だったから・・・
おそらくそういう育てられ方をしたのだろう

だからかえってミナトの興味を引いたのだし、放っておけない気がして何かと世話を焼いたのだが・・・
だとしたら、ルリルリはいったいどんな夢を見ているのだろうか?


「ともかく、このまま目が覚めないのではかえって足手まといです。

 我々の行き先を考えたら命にも関わりかねません・・・やむをえないでしょう

 それとあわせ、ササミさん一人ではこの先不安もあり、サツキミドリで予備のオペレーターを補充することも決まりました

 ルリさんはその交代で降りる事になります。これは本社サイドの決定です。」


そう言ってプロスは一旦言葉を切る・・・ミナトはまだ何か言いたそうだが言葉が出ないのだろうか?


「まあ、私としましてもそれまでにルリさんが目を覚まして復帰してくれることを望んでますがね・・・」



と、普通ならこの話はここで終わる所だが・・・
それまで会話に参加せずじっと話を聞いていたササミが、とうとう我慢できずに口を開いた



「それってササミ達のせいだよね・・・ササミ達が来なかったらルリちゃん眠らずに済んだんだよね、たぶん・・・ううん、きっとそうだよ・・・」


「さ、ササミちゃん、それどういう事!?」


思わぬ所から思わぬ発言が飛び出し困惑のミナトだが、それでもしっかりと聞き返した
聞き返されたササミのほうも少し躊躇したが、やがて話し始めた・・・性格的に隠したり誤魔化したりできないのだろう



「あの日、プロスさんにつれられてササミ達がナデシコに来たあの日・・・」



結局、ササミはあの日あった事をほとんど全部話したのだった・・・
くどいようだがササミはウソついたり誤魔化したりという事は得意でないのだ

だから、あの時のルリやアキト兄ちゃんの理解しがたい会話の内容や
ルリの発言に激高したアキト兄ちゃんが、ルリの首を絞めた経緯までかなり事細かに話す事になったのだった(爆)

そして、話のあちこちに信じられない事もあったのだが、ウソのつけないササミの話だけにかえってリアリティーがあった
(ミナトも、そして便乗して話を聞いていたプロスもササミの様子からウソついてない事は経験からわかったようだ)



「確かに、あの時のルリさんはアキトさんの事知っている風でしたな、肝心のアキトさんが知らないようでしたが・・・」


言われて見ればプロスから見てあの時のルリは様子がおかしかった
本来知りようの無い『テンカワ』の名を知っていたし・・・あの時アキトが倒れなければその事を尋問するつもりだったが


ミナトはミナトで信じられない思いだった。
ルリが理不尽な事言ってアキトに詰め寄っていくシーンなど、彼女の知っているルリでは考えられない事だから
そもそも『帰ってくる』とか『私の知っているアキトさん』とかどういうことなのだろう?


ミナトは思わずにはいられない『ルリルリ、あなたに一体何があったの?』と・・・・・・



「ごめんなさい、だからあの時ササミ達が来なければ・・・

 せめてお兄ちゃんがルリちゃんの首絞めるのをもっと早くササミが止められていたら・・・」



そう言って縮こまる水色の髪の少女を見てミナトはハッとした

この少女は、ササミちゃんはこの件で心に負担を感じつづけていたのだろう
ミナトはルリルリのこと心配するあまりその事を失念してしまっていたのだ


「こっちこそごめんなさい、ササミちゃんの気持ちも考えないでこんな話をさせて

 でも大丈夫よ、これはあなたたちの責任じゃないわ・・・ルリルリが目を覚まさないのはもっと別の理由よ」


ミナトはササミを安心させるようにやさしく言って聞かせたのだった


「でも・・・・・・」


「ミナトさんの言う通りです、あなたたちは切っ掛けではあってもルリさんが目を覚まさない原因ではないでしょう

 裏にもっと複雑な事情がありそうです・・・もっともそれが何なのか今の所わかりませんがね・・・ところで」



プロスはササミに切り出した、ササミのさっきの話が本当なら医務室でのやりとりがオモイカネの記録に残っているはずである
それの過去ログをチェックさせてはもらえないか、と


「そんな事できるんですか?」


そんなこと出来ると知らなかったササミはかえって驚いていた・・・そもそもそういう発想すらなかったのだろうが
何はともあれ言われてチェックしてみると、本当にその時の記録(映像付き)が残っていた

映像チェックにより、ササミの話が本当であることがわかったし
アキトに詰め寄るルリが、取り乱して感情的になっていることも確認された
もっともミナトなど、ルリの意外すぎる一面を見て唖然としたようだが・・・


「ルリルリにこんな一面があったなんて・・・・・・」


どうしても自分の知っているルリルリのイメージからは想像できないでいるようだった


「まあ、ともかく何があったのかよくわかりました。この件はわたくしに預けてはくれませんか?

 微妙な問題ですし、他のクルーに動揺を与えるわけにもいきませんから、この件は他言無用ということで・・・」


ともかくもプロスはこの場の収集にかかった、これ以上この場でなにを言っても事態が改善されるわけでもなく
かえってクルーの間に動揺やしこりを残しかねないから・・・今はこの場の話にとどめるべきだろう


と、そこへ・・・


「あれ、みんなどうかしたんですか? そんな所に集まって」


間一髪というか、それは食事休憩が終わってブリッジにもどってきたメグミ・レイナードであった







「ふう〜っ、つかれたよぉ」


メグミと交代で食事休憩に入ったササミの第一声がそれだった
だれもいない廊下でやっと一息と言ったところであろうか・・・・・・


「・・・とにかくご飯でも食べてこよう、おなかぺこぺこだし」


この休憩がおわったら次の作戦が始まるのである。
早く気持ちを切り替えるなり食事に行って英気を養うなりするべきだろう
ともかくそんなわけで、ササミが廊下を移動していると


「・・・たく、どこに行ったんだあいつは・・・ああ、そこの女の子ちょっと聞きたいことがあるのだが」


「!!えっ、そこのってササミのこと?」


出あったのはあのビデオの人、たしかヤマダさ『ダイゴウジ・ガイだあっ!!』


「え〜っと、そのガイさんがササミに何か(汗)」


「おおっ、俺の事ガイと呼んでくれるのか、そうかそうだよなあ〜

 俺の名はガイ、『ダイゴウジ・ガイ』だ、まあガイって呼んでくれ」


よほど嬉しいのかササミの両手をとって喜色満面喜びを表していた
ササミは頭痛がしてきた気がした・・・ひょっとしてエライ人につかまってしまったんじゃないかな(滝汗)

(もちろんササミは知らないが、パラレルワールドとよばれる別の世界では、ルリの代わりにこのガイさんがオペレータを
やっている世界もあるらしい・・・もちろんササミの想像の外だが、その事を知ったらササミはどう思うだろうか?)


「いやなに、パイロット同士親交を深めようと思ってな、カワイってやつを探してるんだがどこに行ったのかしらないか?」


お、お兄ちゃんを探している? 親交って何をするつもりなんだろう!?


「人がせっかくゲキガンガー見せてやろうと言ってるのに何遠慮してるんだあいつは・・・」


「あは、あははははは・・・」り、理由がわかっちゃったよ、お兄ちゃん逃げたんだね(汗)


「アキト兄ちゃん忙しいから仕方がないんじゃないかな? たしかコックさんもやってるはずだし」フォローしとかないと


「パイロットは待機命令が出てるから今はあいつはフリーのハズだ・・・って君はあいつの妹なのか?」


「そうだよ・・・ササミはアキト兄ちゃんの妹なんだよ・・・」


「じゃあ、あいつがどこに行ったのか知らないか?」


「ササミさっきまでブリッジにいたからちょっとわかんないよ」


たしかにササミはさっきまでブリッジにいたし、お兄ちゃんがどこにいるのか知らないけれど、ちょっと正直じゃないかな
オモイカネ君に場所聞いたらすぐわかる事だから、でもお兄ちゃんの事考えたらね・・・・・・教えられないよね
でも、そう言ったらガイさん目に見えてがっかりするし・・・ちょっと悪いことしたかなあ


「・・・あの、ササミで良かったらあとで一緒に見てあげても・・・」

「本当か? ぜひゲキガンガーを一緒に見たいと!!

うんうん、どうやら君とは話が合うみたいだな、良し特別サービスでロングランで・・・」


は、早まったかな、この人すごく立ち直りが早いんですけど(汗)


「で、でもでも、ササミこのあとお仕事あるからすぐにってわけにはいかないんだけど・・・」


「そうか、だが心配はいらない、俺はいつでも空いてるからいつでも都合のいい時に来てくれれば

 何だったら君のお兄さんも一緒につれてきてくれてもいいかな、はっははははははっ」


やっぱり早まっちゃったみたいだね、ガイさんもうすっかりその気だし・・・はあ〜っ
でも、こういう事ではしゃげるなんて子供みたいな人なんだね、基本的に悪い人じゃないみたいだけど
しょうがないか、約束しちゃったし・・・被害がお兄ちゃんの所に行かないようにせめてササミが防波堤になんないとね


「それじゃ、またなナナコさん」


はい!?・・・私の名前ササミなんですけど・・・・・・はあ〜〜っ、やっぱイヤかも





でも、結局この約束は果たされる事は無かった・・・だってガイさんは・・・・・・





つづく





あとがき

そんなわけで、砂沙美の航海日誌「第五話」おくります

本当は今回はルリの話はさらっと流してさっさとナデシコを宇宙までもっていくつもりだったのですけどね

でも、砂沙美ちゃん性格的にさらっと流せなかったんです。とはいえこれで僕もかえってこの後をすっきり書けそうです

そう言えば、元ネタの瑞白さんのとこのルリちゃん目を覚ましましたね・・・なるほどああきたか

僕はルリ眠らせる時に自分なりの答え用意しておいたので、問題はありませんが意表をつかれて感心してました(笑)

ガイの話は・・・なんか蛇足のような気がしないでもないですが・・・でもね・・・・・・(歯切れが悪い)

(気を取り直して)次回はいよいよナデシコは防衛ラインを突破して宇宙へ向かいます

そこに立ちふさがる某影の薄い・・・なんか可哀想なのでこの辺にしとくか・・・・・・



このSSはラストどうするかイメージは、ほぼ決まりました。三十五話〜四十話で終われないかな? と、今思ってます

途中経過がどうなるかはまだ検討の余地がありますけどね(ラスボス?も決めてありますし)

と、言った所で今回はこの辺で・・・次回もよろしくおねがいします



 

代理人の感想

・・・・・やっぱり殺すのか(爆)。

まさかとは思うけど、それがきっかけでアキトがゲキガンガーにはまったりして(笑)。