(砂沙美の航海日誌「第十三話」)

夜が明けて朝が来た

とは言っても、艦内標準時での事ですけどね
ナデシコは現在宇宙にいるので昼も夜もないのでありますが、
人が規則的な生活していくには便宜上必要な事ですしね

それはともかくとして・・・・・・



「あ、アキト・・・・・・」


「!?・・・・・・」


朝、身支度を整えて食堂に向かうカワイ・アキトと、艦長のミスマル・ユリカがばったりと出会い・・・


「・・・・・・」

「・・・・・・」


昨日の晩の出来事のためと言うかなんと言うか
二人の間には少し気まずい空気が流れてたりして・・・・・・


ユリカはとっさに言うべき言葉が出なかった・・・だけど

昨日の事、アキトを怒らせてしまったことでユリカは自分の甘さに気づかされた
でも、その事で改めて自分とアキトの関係を考え直すきっかけになったような気がする
お互いの事、昔一緒に遊んだアキトの事、今のユリカの知らないアキトの事

アキトがユリカの事をどう思っているのか、自分自身がアキトの事をどう考えているのか?


『私はアキトの事が好き、だけどアキトは私の事を本当はどう思ってくれているんだろう?』


ユリカはすれ違いざまアキトに声をかけようとして・・・


「昨日は酷い事言ってごめん・・・」

「え!?」


先に声をかけてきたのはアキトのほうだった


「昨日は虫の居所が悪くて・・・艦長の事傷つけるような事を言ってしまって・・・だから・・・」


アキトのほうはアキトのほうで、昨日の事をあとで冷静になって思い返して後悔も反省もしたのだろう
だから、この場は素直に謝ったのだが・・・


そのアキトの言葉を聞いて、ユリカの頭の中では昨晩のササミの言葉がリフレインしていた
ササミちゃんの言ったとおりアキトは本気でユリカの事を嫌っている訳じゃない


『・・・お兄ちゃんはあんな事言ったけど、本気で艦長の事嫌ってる訳じゃないと思うよ』


そう、アキトは本当にユリカのこと嫌ってる訳じゃない
そうか、そうだよね、アキトってば昔から照れ屋さんだったから
だからあの時、あんな事言ってたけど、本当は照れてただけなんだ
もう、アキトったら照れ無くったっていいのに

・・・・・・何だかユリカさん、だんだん怪しい論法で自分に有利な結論にたどり着いたようです


「・・・アキトは私が好き」


「はい!?」


ぽつりもらしたユリカさんの一言、アキト君おもわず間抜けに聞き返したりして


「私わかったの、口では何と言っても、アキトは本当はユリカの事が好きなんだって」


「・・・ちょっとまて、何だって今の話でそんな風に解釈できるんだ!?」


ユリカの態度や雰囲気が、再びがらっと変わったためにアキトは戸惑った
当のユリカさん、満面の笑みを浮かべて・・・・・・


「照れなくったってわかってる、アキトは私の事が大好きなんだって」


そう言って、嬉しそうにアキトに抱きつくユリカさん・・・すっかり調子を取り戻した(?)ようです


「違〜〜う!!、そんなんじゃなくてだなあ、ユリカ〜ッ!!」


「嬉しい、アキト私の事またユリカって呼んでくれるんだね、アキトアキトアキト・・・」



こうなると、この人の思い込みはそう簡単には覆らないではないでしょうか?
アキト君・・・・・・どこで対応間違えたのでしょうね(苦笑)



・・・そんな訳でどうやらユリカさん、アキト君と仲直りができそうなようです

ともかくも、めでたし、めでたし・・・・・・なのかな?



「めでたくなんかな〜い! 何でこうなるんだ!!」


まあ、お約束ですから









機動戦艦ナデシコ

砂沙美の航海日誌



〜第十三話「お料理行進曲・・・そして火星へ」〜



By 三平











ともかく、アキトはどうにかユリカを振り切って(まあ、ユリカも艦長の仕事がありますし・・・ってそうか?)
いつもの職場、ナデシコ食堂にたどり着くことができたようですが・・・


「カワイ、遅かったじゃないか」


「すみません、すぐ準備します」


雷が落ちると言うほどではないが、ホウメイさんに軽く咎められたようだ
さすがに、『艦長に捕まっていたから』、などと言い訳する気にもならないし(苦笑)


「ああ、それと今日から不定期に手伝いしてくれる子がここに来る事になってるから、カワイの知っている子がね」


そう言って、ホウメイさんは意味ありげに笑った、この人には珍しく悪戯っぽい表情だったかも

どういう事だろう? アキトはいぶかしく思ったが、その答えはすぐにわかったのだった





「今日から、このナデシコ食堂でお手伝いをする事になりましたカワイ・ササミです。よろしくお願いします」



自己紹介していたのはササミであった。エプロン姿がよく似合っているかも
今では皆知らない仲ではないが、改めて行われたそれは、ササミらしい元気ではっきりした自己紹介であった
ホウメイさんや、ホウメイガールズの皆が、ササミの事を拍手で迎える中、アキトは唖然としていたようだ


「これはどういう事なんですか?シェフ!!」


なぜいきなりササミが食堂のお手伝いをはじめる事になったのだ?
僕はそんな事知らなかった!! アキトはおもわずホウメイに疑問をぶつけていた


「おや、カワイは聞いてなかったのかい? 数日前からミスターやササミちゃんとは話はついてたんだけどね」


そう言いつつも、ホウメイさんどうやら確信犯のようで・・・
ササミに口止めされていたこともあるが、アキトの事を驚かせてやろうという意図もあったのかもしれない





フクベ提督の件でお互いが気まずい想いをしたのは、昨夜の出来事である
ササミもアキトも気まずいままなのか、お互いにまだ口を聞かないでそれぞれの仕事をしていた
そんなカワイ兄妹の状態とは無関係に、本日もナデシコ食堂は大忙しであり、実際今はそれどころではなかったようだ



『本当だったら今日からお兄ちゃんと一緒にお仕事、お兄ちゃんのお手伝いするはずだったんだけどなあ・・・』

まさかこんな展開になるとは思っていなかったから・・・だけどササミは気を取り直してお仕事をしていた
そのうちお兄ちゃんと仲直りする切っ掛けもあるだろうし・・・そして、その機会は思いのほか早く来るのであった



「カワイ!!、トムヤンクンには醤油じゃなくてナンプラー!!」


「あ、はいっ!!すみません」


ホウメイさん、忙しい中でもしっかり見ている所見てますね
ちなみに、トムヤンクンとはタイ料理、ナンプラーは東南アジアで使われてる魚醤(魚から作った醤油)の事です


「ナンプラー、ナンプラーっと・・・どこだ?」


通常の調味料ならば調理室に置いてあるのだが、ナンプラーのような珍しいものはどこだろう?
アキトは戸惑っていた・・・それを見てホウメイは、しょうがないなと思いながらアキトに声をかけようとしたのだが


「お兄ちゃん、ナンプラーはこっちだよ」


ササミがアキトの様子に気づいて先に声かけたので、この件はまかせる事にしたようだ

『やれやれ、ひょっとして妹の方がしっかりしてるのかねえ、・・・でもせっかくの機会だから二人ともうまく仲直りしなよ』

アキトとササミの兄妹の間に微妙にギクシャクした空気がある事を、ホウメイは薄々感じていたようだ
その理由まではわからないけれども・・・・・・



「こんな所に置いてあったのか・・・ササミ、よくこれの事を知っていたね?」


「あははは・・・、ここのアルバイトする事が決まった時にどこに何があるのか、一通りホウメイさんに聞いていたから」


ホウメイが世界中の調味料を集めた棚が調理室の隣の控え室にあり、
ササミはさらにそこに並んでいる物の中から迷わずナンプラーを選んでアキトに差し出していた
この件で、ササミの事をアキトは素直に感心し
ササミはその事でお兄ちゃんにほめられて照れていたのだが、そこで会話が止まり、また二人の間に沈黙が訪れた


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・お兄ちゃん昨日はごめんね、ササミはアキト兄ちゃんの事を怒らせるつもりじゃ・・・・・・」

「ササミ!! いいよそれ以上言わなくて」


先に沈黙をやぶったのはササミ、でもアキトはそれをさえぎって言った
昨日とは違っておだやかな表情で


「ササミは間違った事した訳じゃないんだろ?、だったら自分でその事を否定しちゃだめだよ」

「・・・お兄ちゃん、それって・・・」

「ササミの言いたい事もわかっている、わかってたんだ理屈では・・・だけどそれを感情が許せなかったんだ・・・」


だけど、ある意味アキトはあの時ササミに救われていたのかもしれない
あの時、怒りに任せてフクベ提督を殴ったとしても、それで気が済んだだろうか?
多分それで収まりはしなかっただろう・・・一晩経って今冷静に考えれば、あれでよかったのかもしれないとも思う



「・・・ありがとうお兄ちゃん・・・・・・」



やっぱりアキト兄ちゃんはわかってくれたんだ
そう思ったササミはそうお礼を言ってお兄ちゃんに微笑みかけたのだった、その事がうれしくて
アキトはそのササミの笑顔に見とれて思わずどきりとさせられて・・・


「あ、ああ・・・そ、それよりもササミ、どうして食堂でアルバイトなんか始めたんだ?、ブリッジの方はいいのか?」


アキト君、照れ隠しで話題転換をはかるとともに当然の疑問を投げかけてみた


「えっ、ああ、その事だけど・・・・・・」と、ササミは説明しかけたのだが


「二人とも!!何をやってるんだい! 何時までもサボってるんじゃない!!」


「す、すみません、ただ今!!」

「ご、ごめんなさい、今行きます!」



戻ってくるのが遅いカワイ兄妹に、ホウメイさんの怒声が飛んだのであった(笑)


ともかくも、アキトとササミの兄妹は、どうやら仲直りができたようであります
今までだって兄妹喧嘩した事もあるし、すれ違う事もあった

・・・・・・でも、いつもすぐ仲直りしてきたし、今回もどうやらそうだったようです



まあ、それはともかく

このあとは二人仲良く並んで調理場で調理をしたりしていたのであった
その姿はとても自然で、二人の息もぴったりで、そして楽しそうで
ある意味、見ていてとても微笑ましい光景だったのかもしれない



ちなみに、なぜササミちゃんが食堂でお手伝いを始める事になったのかというと、早い話が本人の希望である。

以前からササミは、お兄ちゃんの事を手伝いたいと思っていたのであるが、とてもそんな余裕などなかった
ルリが寝込んでしまったため、ササミが一人でなれないオペレーターの仕事をこなさなきゃならなかったのだから

だが、ハーリーが合流してきてから事情が変わってきた
ハーリーと役割分担をして、ササミの負担が軽くなったのがまず一つ
そのハーリーにオペレーターの技術を習い、ササミ自身も実力を向上させて余裕が出てきた事がもう一つ
そして、余裕の出てきたササミはプロスやホウメイさんに、アキト兄ちゃんの事を手伝いたいと頼み込んだのだった

プロスは最初この件ではしぶり、ホウメイさんと相談の上でササミの事を試験することにした

そして、ホウメイさんの試験の結果、ササミの腕はここで働くには遜色ないことがわかり(料理は得意だし)
はれてこの日より、食堂でのアルバイトも始める事になったのだった。
(もっとも、ホウメイさんが試験で試してみたのは腕とか実力だけではなく、本人のやる気なのではありますが)

あくまで、オペレーターの仕事に支障のない範囲で、という条件つきではあったけれども







「あの二人仲の良い兄妹だよね、ササミちゃんいい表情しているし」

「そうだよね、さっきまでギクシャクしてるって感じだったけど・・・」

「仲直りするのも早いんだね、やっぱり兄妹だからかな?」

「あの二人、一緒にいるの自然って感じだし、ちょっとうらやましいかな」



とか何とか、ホウメイガールズの女の子たちは、仲の良いカワイ兄妹の事を見ながら噂話のネタにしているようです


「・・・・・・・・・」


ただ一人、ホウメイガールズのリーダー格、ホウメイの助手のテラサキ・サユリさんだけ反応が違うようですけどね


『アキトさんとササミちゃんは・・・仲がいいのはわかるけど・・・・・・』


サユリは二人が兄妹だと言う以上の何かを感じたのかもしれない
そんでもって、そんな二人が仲良くしているのを見ているのがなぜだか面白くないと感じてもいたのであった
理由のわからない戸惑いとともに・・・・・・



ぼそぼそ

ねえ、やっぱりサユリ、アキトさんの事・・・・・・

あ、やっぱりそう思う?、私もそう思ってたんだ

アキトさんと一緒にいるときは楽しそうだったモンね・・・ササミちゃんにポジションとられちゃったかな?

えーーっ、そうだったの?、・・・でも言われてみれば確かに・・・



ホウメイガールズの残りのメンバーに、やっぱり話のネタにされていたりして(苦笑)







「「「「「お疲れ様でした〜っ」」」」」



「はい、お疲れさん」



「「「「「失礼しま〜す」」」」」



その日の夜、どうやらナデシコ食堂での仕事がおわったようで
ホウメイガールズの面々は、ホウメイさんに挨拶して引き上げていく所のようです


「エリちゃん、カワイ兄妹は?」


ふと、ある事に気が付いたホウメイさん、エリちゃんを呼び止めて声をかけた


「あ、あの二人なら控え室の調味料とにらめっこしてましたけど」





「お二人さん」


「あ、シェフ」

「ホウメイさん」


ホウメイさん、調味料の棚とにらめっこしていた二人に声をかけた
調味料を見るのに夢中だったのか、アキトなど声をかけられるまで気づかなかったようだ
(もっとも、主に興味深そうなのはアキトのほうで、ササミはそれにお付き合いしている感じでありますが)



「そんなに調味料珍しいかい?」

「はい、僕は火星にいたから・・・地球にはこんなにも調味料があるなんて珍しくて・・・」

「アキト兄ちゃん、調味料を見るのに夢中で・・・おおきな子供みたいでしょ?」

「ササミ!!」


ホウメイさん、そんな二人の様子に苦笑しながら調味料の話をした


「昔は・・・それぞれの地方、それぞれの町や村、
 それぞれの家庭でさえ、みんな違う味をもってたんだそうだ・・・お袋の味だってね」


アキトもササミも、ホウメイさんの話を興味深そうに聞いていた
だが、ふとアキトはとある疑問に思い至ったのか、ホウメイに質問した


「だけどシェフ、ここは街の高級レストランじゃない、なんで戦艦の食堂でここまでこだわるんですか?」


「戦艦だからさ・・・・・・」



そう言うホウメイは、何か思う所があるのか遠い目をしていたのだった







話が長くなりそうだからかな、このあと二人はホウメイさんの部屋まで来てその思い出話を聞いていた
ホウメイさんがまだ駆け出しの若い頃の話を・・・・・・


「昔、月と地球が小競り合いをやっていた頃、こんな事があった」


その時、死に掛けていた若い兵士がホウメイにこんな事を頼んだのだそうだ、『最後にパエリアが食べたい』と


「でも、その頃の私は中華料理しか作れなかった・・・
 その兵隊は私の作ったチャーハンの出来損ないみたいな物を食べてにっこり笑った」


『ありがとう、おいしかった・・・でもママの味とは違う』


そう言うホウメイは、特に感情を表に出す事もなく淡々と思い出話を続けていた
でも、だから却ってその時のホウメイの想いが伝わって来るような気がして
アキトもササミもその話に引き込まれ、だまって聞いていたのだった


「私、パエリアって名前もサフランの花が味の決め手になる事も知らなかった・・・そして、その兵隊は死んだ・・・」


まだ駆け出しの料理人だった頃の悔いの残る思い出
結局その若い兵士のために、その時のホウメイは満足な料理ひとつ作ってやる事が出来できなくて
その事が悔しくて悲しくて・・・・・・


「命がけの戦争だから、せめて最後は、最後にはせめて・・・本物のパエリア、サフランの香りを・・・」


それが、ホウメイさんの料理人としての原点だった


「その気持ちが、その棚の調味料さ」



「僕も、僕もコックになります! もっと上手になってシェフのような、ホウメイさんのようなコックに!!」


アキトは、ホウメイの話に心打たれていた
この人が大きな目標だったから、だからとっさにそう言い放っていた・・・だが


「お前さんにはもっと大切な事があるだろう」


それに対して、ホウメイの言葉は厳しいものだった
現在のアキトはパイロットとコックの二足わらじである
パイロットとして生き残る事だけでも大変なのだ・・・
いつぞやのリョウコの言い草ではないが、そんなに甘いものではないのだから
(だからこそ、アキトが時間を割いてイツキと訓練する事をホウメイは認めているのだが)


「お兄ちゃ・・・」


やや落ち込み加減(に見える)アキトに対し
ササミは声を掛けようとして・・・アキトはそれを制して言った


「こんな事言ったら生意気ととられるかも知れないけど・・・
 僕はコックにもなりたいし、みんなも守りたい・・・だから、だから僕はどっちも諦めないしどっちも頑張ります。」


アキトはキッパリと言っていた


パイロットとコックを両立させようというのは甘い考えかもしれない
だけどなお、だからこそ人より余計に努力してでも夢を諦めないで追いかけたいと思うのだ
努力を止めたら、夢を追い求める事を諦めたらそこで終わってしまうと思うから・・・・・・





そして、その隣で、ササミは決意を新たにした兄を見やっていて
『お兄ちゃんこんなに真剣に・・・』
ササミは、そんなアキト兄ちゃんを見て何故か胸の高鳴りを感じて戸惑っていたのだった





アキトとササミの二人が部屋から出て行ったあと、ホウメイさんぽつりと一言


「・・・言ってくれるじゃないか、どっちも諦めない・・・か」


そう言わしめたのはアキトの若さのせいだろうか?
だけどホウメイはそういうのは嫌いじゃなかった


「だったら最後まで頑張ってみな」









さて、あれから十数日経過してナデシコは火星の近くまでやってきたようで
(やっとここまでこれたなあ、苦笑)

一部にドタバタなどあるようだが(艦長がアキトの事追いかけるとか?)おおむね平和なようです

そんでもってここは早朝のナデシコブリッジ
この日のこの時間の当番は通信士メグミ・レイナードさんとオペレーターのマキビ・ハリ(ハーリー)くんであった

もっともそのハーリーくんは、このところ元気がないようなのでありますが・・・・・・
元気がない理由としては、ササミの(オペレーターとして)急激な成長のため追い上げられて焦りもあったかもしれない
だけど、本当にハーリーが落ち込んだ理由はそんな事だけではなかったようだ

ハーリーは、ついこの間まで調子に乗っていたため気づいていなかった
けれどもいざ精神的に落ち込んでみて初めて気が付いた、この世界では誰も頼れる人がいない事に
一人ぼっちで孤独だという事に気づかされたのだった・・・だからだろうか

『・・・艦長・・・ルリさん・・・僕はどうすればいいんですか・・・・・・』

彼がつい弱気になり、甘ったれなことを考えてしまうのは仕方がないのかもしれない・・・少し情けないが



ふと、ハーリーはなぜルリさんが眠ったまま起きてこないのか、今ならわかるような気がした
ルリさんは・・・・・・この世界での孤独と寂しさに耐えられなかったのではないだろうか?

現実からの逃避、この世界は自分達にはよそよそしいのだ
本当の所はどうだかわからないが、ハーリーはそんな風に感じたのだった


(考えてみれば逆行者というのは孤独なものかもしれません。それでなくともハーリーはまだ子供で甘ちゃんだろうし)





そんな訳で

「はあ〜〜っ」と、ハーリーくんオペレーター席でため息をついていると



「どうしたのハーリー君、ため息なんかついて?」



「えっ! さっ、砂沙美さん!?・・・何時の間に?・・・」



何時の間にって・・・・・・
ハーリー君がぼんやりしていたために、たった今ササミが側にきた事に気が付かなかったのですけどね(苦笑)


「ハーリーくん最近元気ないからちょっと心配かなって、
 はいさしいれ、朝ごはん作ってきたから食べてみて
 ササミの自信作だから・・・・・・ハーリーくん元気出してね」


ハーリー君最近元気ないけどどうしたんだろう
親元を離れて寂しいのだろうか?
ハーリー君の事元気付けるにはどうすればいいのだろうか?
そう考えてササミは今回のことを思いついたのだった


「あ、ありがとうございます」

そう言いつつハーリー君は戸惑っているようだ


『ササミさん、僕が元気がないからってどうしてそこまで・・・』



「あ〜っ、ハーリー君いいな、美味しそうじゃない」


「心配しなくてもメグミお姉ちゃんの分も作ってあるから良かったら食べてよ」


「ありがとうササミちゃん、それじゃ遠慮なく」

そう言ってメグミは自分の分のさし入れの朝ごはんをもらっていったのだった


朝ごはんのメニューは、ごはんとお味噌汁、おかずには海苔と玉子焼きとお新香
質素かつオーソドックスなものであるが、出来立てで美味しそうである


ぱくっ、もぐもぐもぐもぐもぐ・・・・・・
ともかくも、ハーリーくんは勧められるままご飯を食べてみて・・・


「どう、美味しいかな?」

「美味しい・・・美味しいですよこれ」


ハーリーそう答えていた、実際お世辞でもなんでもなく美味しかったから
そして、暖かいと思ったから


「よかった、美味しいく出来ているかササミ不安だったんだ、ハーリー君ありがとうね」


ハーリー君が食べてくれるのか?
美味しいと言ってくれるのか?
心配だっただけにササミはハーリーが『美味しい』と言ってくれた事がとても嬉しかったようだ
だから、そのハーリーの言葉にササミの不安そうな表情はこぼれるような笑顔に変わったのだった


ハーリーはササミのその笑顔に引き込まれ、思わずどきりとして・・・・・・
でも、この時ハーリーはそのササミの笑顔にしびれただけではなく
自分のことを気遣ってくれるササミの優しさや心遣いにも嬉しく感じていたのだった

と、同時にハーリーは気づいた・・・僕は決して一人じゃない一人じゃなかったんだ・・・と
少なくともササミさんは僕の事を見てくれていたし、気にかけてくれていたんだ


『なんか今まで落ち込んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた・・・・・・』


ハーリーはふと思った・・・今までササミさんに対してつまらない意地を張っていたからなあ
でも、だとしたら僕はこれからササミさんにどう接していけばいいのだろう?

ササミは、ハーリーがそんな事を考えているなんて思いもしていないし
そうと知ったとしても気にしなかっただろう・・・だけどハーリーは生真面目に思い悩むのだった



と、ハーリーがゆっくり悩む間も無く、その時突然ブリッジにとある集団が乱入してきてそこを占拠したのであった

はたしてこの後一体どうなる事でありましょうか?












「艦長、反乱です!!」

「ほえっ!?」

「乗員の一部が反乱を起こしました」


ブリッジから艦長ユリカの元に緊急の報告が上がる
メグミの報告に対しユリカの返答はちと間抜けであったかも・・・まあ無理ないかもしれないが(苦笑)


この時、ブリッジの当直をしていたのは通信士のメグミ・レイナードさんとサブオペレーターのマキビ・ハリくん
たまたまその場に居合わせたカワイ・ササミちゃんも人質(?)になってたりして

報告するメグミさん、銃を突きつけられたりして声が上ずってたりしてます・・・・・・


「責任者出てこ〜い!!」


そんでもってブリッジでは、占拠しているメンバーのウリバタケの雄叫びが木霊しているのであった(笑)



「我々は〜、断固〜、ネルガルの〜、悪辣さに〜、抗議を〜〜!!」



格納庫を占拠している整備員たちからもシュプレヒコールが上がっているようである
エステバリスに張り紙したり、飾りつけつけたり・・・まあ良くやるよ(苦笑)





「メグちゃんごめんね」

反乱分子(?)の一人ヒカルちゃんが銃を突きつけながらそんな事のたまってます
やってる事の割には口調が呑気で緊張感がないのですけどね(苦笑)
対照的にメグミさん表情が引きつっているようですが

そしてハーリー君は、あまりの事にパニックになりかけながらも、とっさに銃口からササミの事をかばう様に立っていた

「ハーリー君、危ないよ」

ササミはそう言ってハーリーの事を逆にかばおうとしたのだが、ハーリーはがんとしてどかなかったようだ
本当は怖くて震えても居たのに・・・・・・ハーリー君、男の子だね

もしその場にルリがいたら呆れて言ったかもしれない『バカですね』と
でも、当人達は大真面目だったようだ


反乱メンバーの構成は、ウリバタケをリーダーとして整備班ほぼ全員
それとパイロット三人娘(リョウコ、ヒカル、イズミ)で構成されているようです
アキトやイツキもパイロットだったが、三人娘(主にリョウコ)とは疎遠だったため参加していなかった模様



「どうしたんですか皆さん?」

ブリッジに来た艦長のミスマル・ユリカの第一声がそれだった

ユリカに続いて副長のアオイ・ジュン、カワイ・アキト、イツキ・カザマ、ハルカ・ミナトが続いてブリッジに入って来た
ミナトあたりはあくびをしていて緊張感に欠けているように見受けられるが、どうやらついさっきまで寝ていたようだ(汗)


なお、ユリカ達がブリッジに入ってきた事により、ブリッジで銃を突きつけられていたササミ達は一応解放されたようだ


「ハーリー君大丈夫だった?」

ササミはハーリーの事を心配して声をかけていた

「大丈夫、僕は大丈夫です・・・」

ハーリー君、とりあえず解放されてホッとしているようだ

「・・・よかった」

そう言ってササミはハーリーに微笑みかけたのだった

「ササミさん・・・・・・」



それはそれとして・・・


「どうしたもこうしたもあるか!! これを見ろ!!」


この抗議行動の首謀者(だよね?)ウリバタケがユリカの眼前に契約書を突きつける

「今時契約書よく読んでサインするやつがいるか!!」 その契約書にとても小さな字で書かれていた事とは・・・


「社員間の男女交際は禁止いたしませんが、風紀の維持のためお互いの接触は手をつなぐ以上の事は禁止・・・何これ?」


さすがに呆れた調子のユリカの台詞にウリバタケ調子に乗ってきたようです


「見てのとおりだ!・・・ここはナデシコ保育園か? いい若い者がお手々つないでって・・・」ドカッ


調子に乗ってウリバタケ、リョウコとヒカルの手を握って鳩尾に肘鉄食らったようです(汗)
でも、ウリバタケさんこりずに言葉を続けるようです


ウリバタケ 「俺はまだ若い、若い二人が見つめあい・・・見つめ合ったら」

ヒカル    「唇が・・・」

ウリバタケ 「若い二人の純情は、純なるがゆえ」

ヒカル    「せめて抱きたい抱かれたい・・・」

なんでもいいが、ヒカルの合いの手はウリバタケと息が合っているようで(苦笑)



「そのエスカレートが困るんですなあ・・・」


なぜかプロスペクターとゴート・ホーリーがスポットライトを浴びて登場したのであった
どうも登場するタイミングを狙っていたようですね、プロスさん(苦笑)


「きさま〜っ」


ウリバタケ激高しているが、プロスは構わずに涼しい顔をして言葉を続けていた


「やがて二人が結婚すれば、お金が掛かりますよね・・・
 さらに子供が生まれれば大変です。ナデシコは保育園ではありませんので、ハイ」


さっきウリバタケが言ったナデシコ保育園、という言葉をからめてそう言うとウリバタケはさらにヒートアップしたようだ


「黙れ、黙れ〜っ!!、いいかあ宇宙は広い恋愛は自由だっ
 それがお手々繋いでだとお・・・それじゃ女房の尻の下の方がまだマシだあ!!」


「ですが、契約書にサインした以上は・・・」


「うるせーっ、これが見えねえかっ」 そう言って再び銃を構えるウリバタケ


「この契約書も見てください・・・」 プロスは少しも慌てず契約書を突きつける


ある意味、馬鹿馬鹿しくも真剣なにらみ合いがその場で繰り広げられ・・・・・・だがその時



ドオォォォ〜〜ンンン・・・



ナデシコに衝撃が加わり艦が大きく揺れた


慌ててハーリーがオペレーター席に取り付き確認を行った


「これは・・・敵です、ナデシコはすでに火星の敵の勢力圏に入ってます、迎撃する必要があります」


ブリッジの空気は一気に緊迫の度を増した
彼らはやっと気が付いたようだ、自分達が火薬庫の側でそうとは知らずに火遊びをしていた事を


「皆さん、契約の事で色々言いたいことあるでしょうが今はその時ではありません
 ・・・戦いに勝たなくては、戦いに勝って生き残らなくては何も意味がありません!!」


さすがにユリカさん、艦長らしく素早く立ち直ったようです


「どうせなら、私も勝ち残ってアキトとラブラブしたいっ!!」


・・・・・・思い切り私情を挟みつつも
ユリカのその宣言で契約書の事は一時棚上げされ、ナデシコとそのクルー達は戦いに身を投じていく事になるのだった

はたして火星で彼らを待ち受けているのは何なのであろうか?

そして・・・・・・ようやく火星に帰ってきたアキトとササミは、そこで何を見ることになるのであろうか?



つづく



あとがき

代理人さんが調味料イベント楽しみにしているとの事だったのですが、どうだったでしょうか?

僕も好きなイベントだったしオリジナルの要素を入れてやりたいと思っていたのですが・・・

あまり上手く書けなかったかな?

ところで、逆行ものではこのイベントはカットされますが、ある意味仕方がないですね

だって逆行アキトの場合は調味料の位置知ってるだろうし、ホウメイさんの話を改めて聞く必要ないですしね(苦笑)

実はこの話でもあのイベントを無理に入れてるんです。

だって葬式がないから本来葬式料理としてのトムヤンクンを作る事ないはずだもの

そこはあえて無視して入れてみました(だって、僕もぜひやりたいイベントだったので)



ハーリーの事もフォローしなきゃと思いつつ・・・やや中途半端になっちゃったかなあ

でも、きっかけとしてはこんなもんでいいかな?

(なんか別の意味で問題があるような気がしてきたが・・・まあいいか)



ともかくも、まだ書き足りない事もあるような気もしますが(アキトの女難な話とか、これはまたあとで入れればいいか)

ようやくナデシコを火星に到着させる事が出来たのでほっとしています。

さあ、次回から火星で行動だ(嬉しいなったら嬉しいな)

それでは、今回はこの辺で





 

 

代理人の感想

いいですねぇ。

アキトもハーリーも、男はやっぱりこうでないと。

嗚呼少年よ大志を抱け、嗚呼青年よ荒野を目指せ。

ついでにちょっぴり意地も張れ。

意地の一つも通せないようでは男はやっとれんのだよ。