(砂沙美の航海日誌「第十六話」)

ササミ、アキト、イツキの三人が、イネスに連れられて来たのはユートピアコロニーの地下

そこには、火星の生き残りの避難民達がいた。地球では生存が絶望視されていた人達が・・・

だが、皆疲れ果て、生気の無い顔をしていた。

それも無理は無いかもしれない・・・・・・

今日は生き残れていても、明日はどうなるか分からないのだから

いつ敵に見つかるか怯えながら隠れてただ時を過ごすだけ

滅びの時をただ先延ばしにしているだけの事なのだから

彼らには、最早生きる希望はないのだろうか?

そして、そんな所に現れたササミ達は、彼らに何をもたらすのだろうか?

希望の光?

それとも更なる絶望?

それとも・・・・・・










機動戦艦ナデシコ

砂沙美の航海日誌



〜第十六話「再会×急転×ユートピアコロニー」〜



By 三平











「フィリスお姉ちゃん!? フィリスお姉ちゃんも無事だったんだ!!」

「さ、ササミちゃんこそ! よく無事で・・・今まで一体どこにいっていたの?」


イネスに案内されて、ユートピアコロニーの地下の更に奥に降りてきたササミは、
そこでも、懐かしい旧知の人と出会っていた。
名前は『フィリス・クロフォード』 イネスと同じく、ネルガルの火星の研究施設の人間だった。
そして、ササミは意識していない、というかまったく知らない事だが、
フィリスはホノカとは違ったタイプの、プロトタイプマシンチャイルドでもあった。


「フィリス、それにササミちゃんも、二人とも再会を喜ぶのは良いけど、今はホノカさんの所に・・・」

「!?そうだった、早くママの所へ行かなきゃ!!」

「それなら私も案内するわ、・・・・・・ホノカさんの所に・・・」







生きているかどうか分からなかった
地球じゃ生きてるかどうか絶望的って言われてた
でも、ホノカママは生きていた、生きていてくれた
だけど、イネスさんはママは今病気だって言っている
イネスさんやフィリスお姉ちゃんは詳しい事は何も言ってくれないし・・・



ササミの心に期待と不安が入り混じる







イネスさんに連れてこられたそこにホノカママはいた。
隅っこのほうで壁に縮こまるように寄りかかっていて・・・

とてもやつれてて、綺麗だった桃色の髪もすっかり薄汚れていて
まるで死んだ魚みたいに生気の無いうつろな目をしていて・・・
ここにいるのがあの明るかったホノカママだなんて信じられなかった。
病気ですっかり弱ったママを見るのはすごく悲しかった。

だけど・・・それでもママは生きていた。生きていてくれたんだ・・・


「ママ、ホノカママ!! ササミだよ、ササミはここにいるよ!!」

さ、ササミ・・・ちゃん?


ホノカママの声はとても消え入りそうだった。・・・だけど、ササミはママの手を、
すっかり痩せちゃったママの手を握りながら、声をかけていた


「本物のササミちゃん・・・夢でも幻でもないのね?」

「夢でも幻でもないよ、本当に本物のササミだよ・・・・・・ママぁ」


少しだけ、ほんの少しだけだけど、
ササミにはホノカママに元気が戻ってきたように感じられた
うつろだった目に光が灯ったように見えた

そしてササミも、それでもママの声を聞けた事が嬉しくて、
ササミはササミの目から、後から後から溢れ出てくる涙を止められなかった。
ササミは、気が付いたら泣きながらママに抱きついていた



「会いたかった・・・ササミはママに会いたかった。ずっとずっと・・・やっと・・・やっとママに会えた」

「ごめんね、ごめんねササミちゃん・・・今まで母親らしい事してあげられられなくて・・・」

「そんな事ない、そんな事無いよ・・・ママ」



見たら、ホノカママも涙ぐんでいた。
ママは病気で弱っているって聞いていたけど、
ササミの事を抱きしめるその手の力はとても強かった。


「痛い、痛いよママ・・・」

「ゴメンねササミちゃん。だけどもう少しだけ・・・もう少しだけこうさせていて」


ホノカママは、病気で弱っているって聞いてたけど、
ササミの事を抱きしめるその手の力はとても強かった。

確かに少しだけ痛かったけど、でも我慢した・・・それでママが喜んでくれるなら、
それに、ササミももう少しママの側でこうして甘えていたかったから。

ママ、ササミはホノカママの事大好きだよ・・・







『ササミちゃん・・・しばらく見ないうちに、こんなに大きくなって・・・』



ホノカは思う
さっきはササミちゃんの事、つい力を入れて抱きしめて、痛がらせてしまったけど、
でも、今はこうしていたかった。
今、この手を放してしまったら、目の前にいるササミちゃんがまた幻になって消えてしまいそうな気がしたから
今まで何度も見た幻が、ずっとそうだったように・・・・・・







アキトは、その少し離れた所でもらい泣きをしながら、じっとその様子を見守っていた。



『よかったなササミ・・・それにホノカ母さん病気だって聞いたけど、
 この様子なら養生すればきっと元気になってくれるよ・・・・・・』



本当なら、自分も真っ先にホノカの所に行って、甘えたい気持ちはあるけれど、ガマンしていた。
アキトは、今この場は二人の邪魔をしてはいけないような気がしたから・・・。





「・・・よかったですね・・・・・・本当に・・・」



ふとアキトが気が付いて見てみると、すぐ側でイツキもまた涙ぐんでいた。

実は、イツキも地球にいる多くの人たちと同様、火星に生存者などもういないだろうと思っていたし、
ナデシコが火星に行ったって無駄ではないかと密かに思っていた。
イツキがナデシコに乗ったのは、目的あっての事ではなく成り行きでそうなっただけの事なのだから・・・だけど



「無駄じゃなかった・・・ここに来たのは無駄じゃなかったんですね」



火星に来てみれば生き残っていた人たちがいたし、ササミちゃんは母親に再会する事もできた。
そんな様子を見てイツキほろっと感じたようで・・・



ポンポン 「えっ?」



アキトがそんなイツキの肩をそっとたたき、無言でうなずいていた
『かあ〜〜っ』イツキは、気恥ずかしさと照れくささで顔を真っ赤に赤らめたのだった。







「ササミちゃんに会えて、・・・あんなに嬉しそうなホノカさんを見るのは久しぶりですね」

「そうね、それにササミちゃんも・・・二人は本当の親子だもの・・・・・・親子・・・か」



あの日・・・あの日以来、ホノカはずっとふさぎこんでいて滅多に口も利いてくれないほど落ち込んでいた
だから、ホノカがササミと再会する事ができて喜ぶ姿を見て、イネスやフィリスはどこかホッとしたようだ

でも、二人は同時に複雑な思いも抱いていた・・・イネスもフィリスも家族には恵まれていなかったから
代償行為かもしれないが、ホノカに甘えるササミの姿に、どこか自分の姿を重ねて見ていたのかもしれない。

イネスは何故だか理由は分からないけれど、母親に寄り添うササミを見ていると心に響くものがあるようだ。

そしてフィリスが想うのは、自分のために苦労をかけさせた挙句に、過労で死なせてしまった両親の事だろうか・・・
それとも、フィリスの望みもしない実験で作り出され、生き永らえる事なく死んでいった実験体の子供達の事だろうか?





二人だけではない・・・その近くにいる避難民たちの中にもその様子に思いを馳せる人たちもいるようだ
ホノカのように子供を失っていた母親も、家族を失って希望を失っていた人たちもいたのだから・・・
気力もやる気もなにもかも失っていた人たちに、ある種の刺激を与えたようだ
暗く澱んで停滞したこの場に、ササミの存在は一種の清涼剤のような効果をもたらしたのかもしれない。
もっとも、その効果が出る程にはまだ影響は大きくはないようだけれど・・・・・・





それはともかくとして・・・・・・

「あの・・・イネス博士・・・そのぉ・・・・・・」


フィリスは少しばかり言いにくそうに、声をかけながら視線をイネスの腕の中に向けた
その腕の中には、リョーちゃん(リョウオウキ)がしっかりと抱かれていたりする(笑)


『みゃみゃ♪』


「こ、これはササミちゃんがホノカさんとの再会の邪魔にならないように、私が見てあげているだけよ・・・」(汗)


・・・まあ、説得力は少しはあるかもしれないし、そういう事にしときますね、イネスさん(苦笑)
もっとも、フィリスはそれを見ながらため息をついているようですが・・・・・・。







「そうだ、パパは? パパはどうしたの? ママと一緒じゃなかったの?」

「・・・・・・・・・・・・」



ササミは気づいてしまった・・・その当然の疑問に
返って来たのは重い沈黙、
その沈黙に何があったのか、ササミは悟らずにはいられなかった。・・・でも



「パパは、ギンジパパはどうなったの? どうしているの? ねえママ!!!」



本当は、今この事をママに聞くべきじゃないのかもしれないとササミは思った。
だけど、分かっているけどササミは聞かずにはいられなかった・・・・・・大好きなパパの事なのだから。



「・・・帰って来る、きっと帰ってくるわ・・・今ここにギンちゃんはいないけど必ず・・・
 約束したから、ギンちゃんは今までママとの約束を破った事なんてなかったもの・・・いつか必ず帰って・・・」



ホノカは、やっとの事でそれだけの事を搾り出すように言えたものの、それ以上は何も言えなかった。
直後に嗚咽・・・・・・あとは、ホノカはただ泣く事しかできなかったから。

そしてササミも、今はそれ以上話を聞くことはできなかった。出来るわけがなかった。
ホノカのその様子に、ササミは聞いたことを後悔した。
でも、こうなると分かっていても・・・・・・聞かずにはいられなかっただろう。







「・・・そだ、ねえママ、ササミ達、どういう訳だかわかんないけど気が付いたら地球にいたんだ、それでね・・・」



ホノカが少し落ち着いたのを見計らって、ササミはまた話をはじめた。
話題転換の意味も込めて、地球でアキト兄ちゃんと一緒に雪谷食堂でお世話になっていた話とか・・・



「・・・アキトちゃん、アキトちゃんもここにいるの!!」



ホノカはようやく気づいた。アキトの事に
今まですぐ目の前のササミの事しか目に入っていなかったので気づかなかったのだ。
薄情と思うなかれ、今の余裕の無いホノカの視野がある意味狭くなっているのは、仕方が無い事なのだから・・・。



「う、うん、お兄ちゃんもすぐそこに来ているよ・・・」(汗)



むしろ、兄を差し置いてホノカを独占していたササミのほうが、結果的には薄情かも(大汗)
とはいえこの場合も、まだまだ甘えたい盛りのお子様なササミに、そういう配慮を求めるのも酷かもしれない
一年ぶりの、しかも生死不明だった母との再会で、それ以外の事はどこかにすっとんでいっちゃってたのだから。

まあ、それはともかくとして・・・



「ササミちゃんお願い、ママはアキトちゃんと話したい事があるの・・・だから少しだけ」

「う、うん・・・わかったよママ・・・・・・だけど」


ホノカはササミに少しだけ席を外してほしいという
何か釈然としないものを感じながらも、ササミは言われた通りにした。






そんな訳で、ホノカの側に来てくれるように呼ばれたアキト、
呼ばれたとたんに、脱兎のごとくホノカのすぐ側まで来たのだった。(笑)



「ごめんね・・・アキトちゃんにも苦労をかけちゃったみたいね・・・」

「僕の苦労なんて、ホノカ母さんの苦労に比べたらたいした事なんてないよ!!」



さっきはササミとホノカ母さんの再会の際、もらい泣きをしていたアキトだったが、
こうしてすっかりやつれて病み衰えたホノカを前に見て、悲しくて泣けてくるのを感じていた。



「やっぱり男の子ね、アキトちゃんしばらく見ないうちにすっかりたくましくなったわね・・・」

「そう言いながら、母さんは僕の事まだ子供あつかいしてるじゃないか」



アキトは苦笑いをしながらそう返していた
なぜって、ホノカのアキトの呼び方は昔と変わらず『アキトちゃん』って、子供あつかいみたいに感じるし
それに、ホノカは側に来ていたアキトの頭をそっと撫でていたのだから・・・小さな子供の頃のように


『まったく、ホノカ母さんにはかなわないなあ』(苦笑)


もっとも、アキトはそれを嫌がることなく受け入れていたけれど、
それすらも、今ではアキトにとって、・・・そしてホノカにとっても貴重なひとときと感じていたから







一旦ホノカの元を離れたササミは、イネス達のいる所に来てみると、
そこでは、イネスとイツキが口論をしていた・・・・・・


「何度でも言うわ、・・・私達はナデシコには乗らない!!」


「何故です? 私達がはるばる地球からやってきたのは、あなたたちを助ける為なんですよ!!」


ナデシコには乗らない!! それってどういう事なんだろう?
『それってどういう事なの?』、ササミはイネスに話を聞こうと思ったが、
その前にイツキが決定的な言葉を言い放っていた。



「どういう事か、納得がいくように説明してください!!」


「よーし、説明しましょう♪」



ササミは思った・・・・・・『イツキお姉ちゃん、地雷を踏んじゃったよ・・・』と(汗)
心無しか、イネスはとても嬉しそうで張り切っているように見えた
フィリスが気づかれないように、そっとイネスの側を離れるのも見える(笑)
とはいえ、イネスの話も気になるので、ササミは覚悟を決めて話を聞くことにした。



「あなた達、本気で戦艦一隻で火星から脱出出来ると思っているの?

 だとしたら相当おめでたい人達だわ、あなた達は木星蜥蜴の何を知っているの?

 木星蜥蜴たちはまだまだ火星にはたくさんいるのよ・・・敵がその気になれば・・・」



「わ、私達は現実にあいつらと戦ってここまで来たんですよ、

 それにあなたこそ、ナデシコの戦闘力を知らないからそんな事が言えるんです!!」



「相転移エンジンとか?」



イツキの言葉に嘲笑を含む口調で答えるイネス
本当におめでたい人達だとでも思っているのであろうか?


「イネスさん、もしかしてナデシコの事知ってるの?」


ササミは思わず会話に口を挟んでいた。
イネスが何の研究をしていたか、良くは知らなかったけど、そのくらいの想像はつくようだ。


「その通りよササミちゃん・・・私は、その相転移エンジンとディストーションフィールドの開発者の一人」


イネスはササミの方に向き直ってそう答えた・・・イツキに対するよりは幾分か表情は和らいでいるようだ
ちなみに、開発者の一人という事は、他にも担当者はいるという事なのでしょうが、どこにいったのでしょうね(苦笑)


「と、いう事は、あなたはネルガルの人?」


「あれ、イネスさんの事、イツキお姉ちゃんには言ってなかったっけ?」


言ってませんよササミちゃん(笑)
自分がイネスと知り合いだからって、他のみんなもそうだって思い込んでたのでないかい?


「でも、どうして駄目なのイネスさん・・・

 ササミ達が苦労してここまで来たのは火星のみんなの事を助けたいと思ったからなのに」


「ササミちゃん、それはね・・・・・・」



さすがに、こういう事に裏表のないササミに、悲しそうな表情でそう言われると
さすがのイネスもやりにくいようだが、その質問に答えようとしたその時・・・・・・





ズズゥゥゥゥ〜〜〜〜ンンンン・・・・・・



重々しい地響きが、地下全体に響いたのでありました。


「!?ママ、・・・ホノカママは!!」


急な状況の変化に、ササミはとっさにその場を離れ、ホノカの元に戻ったのだった。







話は少しだけさかのぼる
アキトはホノカと話をしていたが、どうやらホノカの話は本題に入ったようだ。



「アキトちゃん・・・ササミちゃんの事お願いね、たとえどんな事があったとしても、そして、私に何かあったとしても・・・」



そして、・・・アキトはそんなホノカの言い草に思うところがあったのか、怒っていた



「何言ってるんだよ! 僕がササミの面倒を見るのは当たり前だよ・・・

 だけど、・・・ホノカ母さんはどういうつもりだよ!!

 僕もササミも苦労して火星まで帰って来たのは何のためだと思っているんだよ!!」



「・・・アキトちゃんお願い・・・今の私には、ササミちゃんの事を頼めるのはアキトちゃんだけだから・・・だから」



アキトは、病気のせいか、避難生活で衰弱しているせいなのか、
すっかり弱気になっているホノカの事を見ているのは、とても悲しかった・・・とても辛かった。
それに『・・・ホノカ母さん、人の気も知らないで・・・・・・勝手だよ・・・だけど・・・・・・』



「・・・わかったよ、母さん・・・ササミの事は約束するよ・・・だけど、だから母さんもそんな弱気な事は言わないで」



ともかく、アキトはホノカの事を安心させる為に、そう言ったのだった。
もちろん、ササミの事だけではなく、ホノカにも生き延びてもらうつもりでいるが・・・。



「・・・ありがとう・・・・・・アキトちゃん」


「お礼を言われるような事じゃないよ、ホノカ母さん。・・・それよりも」



アキトが、その続きの言葉を続けようとした、その時!!





ズズゥゥゥゥ〜〜〜〜ンンンン・・・・・・





何があったのか?、地下に重々しい地響きが響いたのであった。


「・・・なにがあったんだ?」


ハッと気がついて、アキトがホノカを見ると、ホノカは身体を強張らせていて、
その表情が、一瞬だが何かを恐れるように変化したのを、アキトは見逃してはいなかった。


「お兄ちゃん、・・・ママは、ホノカママは!?」


ササミが慌てて駆け寄ってくる


「ホノカ母さんは大丈夫だよ、何ともない・・・

 それよりも、お兄ちゃんは何があったのか見てくるから、ササミは母さんの事を・・・」



「アキトちゃん!!」



アキトもササミも驚いてホノカの方を見た
弱っていたはずのホノカが、思いもしなかった大きな声でアキトの事を呼び止めたのだから・・・



「ママの事だったら大丈夫だから、ササミちゃんはお兄ちゃんと一緒に様子を見てきて」


「で、でも・・・ママの事、放っておけないよ・・・」



ササミは渋っていた。ホノカママの事心配な事もあるし、
それに、やっと再会できたママの側に居たいという気持ちもあるのだから。

だけど、ホノカはササミが反論できないうちに次の言葉を放っていた。



「ママの事はフィリスちゃんが見ていてくれるから、心配しないで

 アキトちゃん、ササミちゃんの事お願い・・・」



アキトは・・・・・・自分を見つめるホノカの目を見ていたら、・・・その言葉を覆す事はできなかった。



「ササミ・・・行くぞ」


「お、お兄ちゃん・・・」


「フィリスさん・・・でしたよね? すぐ戻りますから、ホノカ母さんの事お願いします。」


「・・・わかったわ、ホノカさんは私が見てるから、

 ササミちゃんも、心配いらないからここは私にまかせて、お兄ちゃんと一緒に上を見てきておいて」



ササミは、それでもこの場を離れがたく思ったが、
こうまで言われたら、みんなの言うとおりにせざるおえないだろう。
だから、ササミができたのは、ホノカママの事をフィリスに頼む事だけだった。



「フィリスお姉ちゃん、様子を見てきたらササミはすぐ戻るから、それまでホノカママの事お願い」





この時ホノカは、ついもう一度だけササミの事を呼び止めた。


「ササミちゃん・・・もう一度ササミちゃんの顔をよく見せて」


「ママ・・・・・・うん」


ササミはホノカママに、そっと顔を近づけて
ホノカはササミの頭を、ツインテールに纏められた濃い水色の髪を、
改めて、そっと優しく撫でたのだった。


「・・・もういいわ、ササミちゃん、お兄ちゃんの言うことよく聞いて、良い子にしていてね」


「な、何言ってるのママ、そんな言い方って変だよ!! 後でササミまた来るから・・・」



そして、ササミ達が様子を見に地上に戻ったあと
ササミやアキトと再会できた事の余韻を感じながら・・・ホノカはぽつりと呟いた



「これでいい、・・・これで思い残す事はないわ・・・

 これでやっと・・・ギンちゃんの所に行ける・・・・・・」



ササミちゃんもアキトちゃんも生きている事がわかった
生きていて自分に会いに来てくれた
成長したササミちゃんの事を抱く事ができた
ササミちゃんの事をアキトちゃんに改めて託す事ができた
欲を言えば・・・ササミちゃんのこれからの成長を見たかった。見ていたかったけど・・・

ホノカの頬を涙が伝った



砂沙美ちゃん・・・良い人達と出会えたみたいね

あなたは決して一人ぼっちじゃない

だから・・・ママがいなくなっても悲しまないで元気でいてね

アキトちゃん、砂沙美ちゃんの事、お願いね

砂沙美ちゃんがママの自慢の娘で嬉しかったわ・・・・・・





「ホノカさん・・・本当にこれでよかったんですか?」



「ええ・・・私の事より、フィリスちゃんこそごめんね、私のせいで貧乏くじ引かせて・・・」



「いえ、いいんです。・・・どうせ私もここに残る事に決めてましたから・・・」



ホノカもフィリスも、二人とも・・・すでにある覚悟は決めていたようだった。









「やっほ〜、アキトアキト〜、心配だから迎えに来ちゃった♪」


・・・ユリカさん、一体何を心配していたのやら(苦笑)
ともかくも、ユートピアコロニー跡にやって来たナデシコは、その郊外に着地したのであった。
どうやら、さっきの地下での地響きと振動は、ナデシコの着地の衝撃だったようだが、
ナデシコがこの地に着地した事により、一体どんな事態を引き起こす事になるのか、
この時点では誰も知りようもない事であった。



「・・・一体何考えてるんだあいつは!!」



アキトは呆れてそうつぶやきながらナデシコを見上げていた
イツキやササミに至っては、言葉も出ないようで・・・

イネスは他の三人とは違って、複雑な表情でナデシコを見上げていた。
『困った事をしてくれたわね・・・』そう言いたげな様子で







「つまり、・・・とっとと帰れ・・・と、そういう事かな?」


「ええ、その通りよ、私達は火星に残ります。」



フクベの確認するような問いに、イネスははっきりと答えていた。
にべもないとはこの事だろうが、イネスはさらにたたみかけた。


「ナデシコの基本設計をして地球に送ったのはこの私

 だから私にはわかる!!

 この船では木星蜥蜴には勝てない! そんな船には乗る気にはなれないわ!!」



強い口調でイネスは言いたいことを言い放っていた。
だが、そう言われて『はいそうですか』と、おめおめと引き下がれなかった。
なによりナデシコクルー達は、ここまで連合軍と喧嘩までして、木星蜥蜴達とも戦ってここまで来たのだ
ここまで来て、そう言われたのでは、苦労して火星くんだりまでやってきたクルー達の立つ瀬はないではないか!!

だから、それに対してゴートが反論した。


「お言葉だがレディ、我々は木星蜥蜴との戦闘には常に勝利して来た。だから我々は・・・」はあ〜っ


イネスはわざとらしくため息を付き、ゴートの言葉を遮った。・・・本当におめでたい人たちだと思いながら・・・



「いいこと、あなた達は木星蜥蜴について何を知っているの?

 あれだけ高度な無人兵器がどこでどうして作られたのか?

 目的は? 火星を占拠した理由は?」



イネスは畳み掛けるようにゴートに、ナデシコクルー達に、言葉を叩き付けていた。
火星の現状を知らないで、木星蜥蜴の本当の恐ろしさも知らないで、
ナデシコクルー達はよくそんな簡単に、生きて帰れるような事が言えるものだと思いながら・・・。

そして、そのイネスの問いに、まともに答えられる者などここにはいなかった。
かろうじてアキトが反論した・・・理屈ではなく感情論で



「僕たちのことを信じてくれないのですか!!」と、



「あなたの心を解説してあげましょうか?

 少しばかり戦いに勝つことができて、可愛い彼女とデートして、僕は何でもできるんだ!、って

 誰だって英雄になれる訳じゃない!! 若いってだけで何でもできるって思ったら大間違いよ」



イネスの言葉は容赦が無かった。
そんな浮ついた事では私達の運命は託す事はできない・・・という事だろうか?


「違う・・・そんなつもりじゃ・・・」


そういうアキトの言葉には、動揺して力がなかった。
だが、再反論は意外な別の方角から来た



違うよイネスさん!!



その声の主はササミだった。



「ササミもお兄ちゃんも、ううん、ナデシコのみんなは火星の人達を助けたい、

 そう思って危険を冒してここまで来たんだよ!! みんないい加減な気持ちなんかじゃないよ・・・」



ササミが、・・・いや、ここにいるナデシコクルー達がいい加減な気持ちでなく、
本気で火星の人たちの事を助けたい!! そう思っていることは、イネスにも伝わっていた。
イネスにもわかっていた・・・だけど、だからといってどうにもならないこともあるのだ
イネスたちは、今までその事を散々思い知らされて来ていたのだから



「ササミちゃん・・・あなたの気持ちはわかるわ、

 だけど、気持ちだけではどうにもならないこともあるのよ・・・」



イネスは、ササミにその事を諭すように伝えようとしたのだが・・・その時!!



「て、敵襲!! 敵大型戦艦5、小型艦30」


この時、オペレータ席にいたハーリー(マキビ・ハリ)から報告が入った。
ハーリーくん、突然の敵襲にやや慌てているようだ。


グラビティーブラスト、フルパワー!!


間髪入れずにユリカの指示が飛ぶ!! こちらはさすがに落ち着いたものであった。
すぐさま発射体勢が整えられ、艦長ユリカから号令がかかる



撃て〜っ!!



ナデシコより発射された必殺の一撃は、敵艦隊に突き刺さる


「やったあ!!」


ブリッジは歓声に沸いたが、直後に驚愕に変わる


「グラビティーブラストを持ちこたえた!!」


「そんなあ・・・」


そんなナデシコクルー達に、イネスは冷静に説明する
出来の悪い生徒達に答えを教えるように・・・


「敵もディストーションフィールドを持っている、お互い一撃必殺という訳にはいかないわね」





そして、敵戦艦は前方のチューリップから続々と増援が送り出されてくる



「前方40キロ、チューリップから敵の増援なお増大中!!」


「なによあれ、なんであんなに入っているの?」


チューリップから途切れることなく敵戦艦が吐き出される様を見て、思わずミナトが疑問を口にした。
その疑問に答えるようにイネスはまたも説明する



「入ってるんじゃない、出てくるのよ途切れることなく

 あのたくさんの戦艦たちは、きっとどこか別の宇宙から送り込まれてくるのよ」



そうしている間にも、敵戦艦は続々増大していく・・・今のナデシコの手に負えないくらいに



「敵のフィールドとて無敵ではない!! グラビティーブラスト連続発射だ!!」


「は、はい」



ゴートの指示にユリカが反応し、指示を出そうとするが・・・


「無理よ、エネルギーが足りないわ」


ミナトがお手上げといった風に現状を報告をして、イネスがその事を補足するするように説明する。


「ここは真空の宇宙ではないのよ、この地上では相転移エンジンの反応が悪すぎるわ」



敵艦隊はなおも増大し、危機的状況は悪化をつづけていった。

イネスは問う・・・「この状況であなたたちはどうするつもりなの?」と、



「ディストーションフィールドを!!」


ユリカが指示を出そうとしたその時、ササミは悲痛な声で叫んでいた



「まって!下にはまだ避難している人達がいるよ!!
 それに・・・ママが、ほのかママも下にいるんだよ!!」




今、ナデシコがフィールドを張ったら、地下に避難している人達を押しつぶしてしまう事になる。
そしてササミちゃんの母親のホノカさんも・・・
ユリカはその事に気づかされた。確かにこのままではフィールドを張る事は出来ない
ならば、・・・ユリカは咄嗟に指示の内容を変えた



「ただちにフィールドを張りつつ上昇!!」だが・・・



「ごめん、一度着陸しちゃった以上、離陸には時間がかかるわ!!」



ミナトが申し訳なさそうにそう言った。
そうしている間にも、続々出てくる敵の無人艦隊は、ナデシコの上空を押さえつつあった。



「地下の住民を犠牲にしてフィ−ルドを張る?、それともこのまま敵の攻撃を受ける?」


「提督、これは艦長には重すぎる決断みたいですね!」


「うむ、ここは・・・」



イネスのシビアすぎる問いに、ナデシコの首脳たち、
特に艦長のミスマル・ユリカには決断を迫られる!!



「そんな、・・・だってママが、この下にはママがいるのに!!」


「ササミ・・・ちゃん・・・・・・」


ブリッジに、なおササミの悲痛な声が響き、その声が、更にユリカの決意を鈍らせた。





この状況下、アキトはついさっきホノカに言われた言葉を思い出していた。


『アキトちゃん・・・ササミちゃんの事お願いね、例えどんな事があったとしても、そして、私に何かあったとしても・・・』
『今の私には、ササミちゃんの事を頼めるのはアキトちゃんだけだから・・・』


アキトは気づいた・・・ホノカはこうなるかもしれない事に、薄々気づいていたのかもしれないと・・・
あれは、・・・もし、こうなった場合、ホノカは自分よりササミを生かす道をとれと、暗にそう言っていたのだ。



『ホノカ母さんは勝手すぎるよ!! そんなのどっちも選べっこないに決まってるだろ!!!』



嫌だ!! 僕は十年前に一度家族を失っている。
ササミにせよ、ホノカ母さんにせよ、もう一人だって失いたくはないのに・・・
それに、もし今度こそホノカ母さんがいなくなってしまったら・・・僕は
何よりも、ササミがどんなに悲しむか・・・母さんが生きていて、あんなに喜んでいたのに・・・

だけど・・・もし家族の誰かが犠牲にならなきゃいけない羽目に追い込まれたら?
答えはとっくの昔に出ていた、ホノカ母さんが出してくれていた。



・・・その答えを選びたくなかっただけだったのだ。



ふと、アキトは見た
やはり答えを出すことが出来ずに、苦悩している幼馴染を
まだ、テンカワ姓を名乗っていたころ、お隣だった幼馴染を

アキトは、彼女、ミスマル・ユリカもまた、すでに出ている答えを出しかねている事に気が付いた。
艦長として、自分なんかよりも責任が重い分、より苦悩が大きい事にも・・・・・・
ササミの事、避難民の事、ナデシコとそのクルーの事、それら全ての事に悩んでいる
いつもの軽い調子とは違う、それはある意味、アキトが初めて見るユリカのもう一つの姿だった。

最終決断を決めかねて、視線をさ迷わせていたユリカとアキトの視線が合ったその時
アキトは自分の決意を決めた!!



ユリカは決断を下す事ができなかった。
自分の軽率な行動のせいで、今の危機的状況に追い込まれた事がわかっていたから
ササミちゃんの、今や取り乱した悲痛な声が、ユリカの心を切り刻んでいた
ナデシコの真下に居る避難民たちの事が、ユリカの心に重くのしかかる

どうすれば良いの? その答えはすでに出ている
艦長として、ユリカのとるべき道は艦と乗員の安全を最優先にさせる事・・・だけど


『アキト・・・どうすれば良い?、私はどうすれば・・・』


最終決断を決めかねて、視線をさ迷わせていたユリカの視線がアキトの視線と絡み合った
視線の合ったアキトは・・・・・・何かを決意した表情になり、ユリカに対して小さくうなずくのが見えた。

この時ユリカは、・・・非情な決断を下した。







「敵艦隊、上空で停止しました」



「迷っている時間はない、構わん、自動防御だ!!」



「で、でも艦長命令がまだですよ!!」



ゴートの指示にハーリーは躊躇していた。
ここでフィールドを張らないと危ない事はわかっている。だけど



『僕のせいだ、僕があの時艦長を止めていれば・・・いや

 こうなる事はわかっていたはずなのに・・・肝心な時に覚えていないなんて

 僕は大馬鹿だ!!』



かつてハーリーは、向こうの世界でナデシコAの航海記録を閲覧していたけれど、
肝心な時に、この危機的状況に追い込まれる事を、思い出せなかったのだ。



『ごめん、ササミさん・・・僕がもっと早くその事に気づいていたら・・・』



生真面目なハーリーは、自分の責任以上の責任を感じてその事で後悔していた・・・
だからだろうか? つい、その決定を少しでも先延ばしにしようとしているのかもしれない。

もっとも逆行アキトや逆行ルリなどと違い
自分で経験した出来事の記憶でない以上、その事を気にしすぎても仕方がない事かもしれないが







だが、運命というやつは、どうやら時には気まぐれを起したくなるらしい



「敵艦に重力波反応!!」



木星蜥蜴の無人艦隊の攻撃態勢が整い、今やいつ攻撃が来てもおかしくない状況下で、
ブリッジの中は静まり返り、生か死か、全員がユリカの決断に注目している中
自分の中で決断を下していたユリカは、
運命のその言葉を口にしようとした、その時・・・奇跡は起きた!!



「!!こ、これは・・・敵艦隊後方のチュ−リップが消滅しました!! グラビティーブラストの砲撃です!!」


「な、なんだと、それはどういう事だ!!」



ハーリーの報告にゴートが聞き返したが、それに答えるより早く状況は変化を続けていた。



「グラビティーブラスト第二波、敵無人艦隊中央!! 敵艦隊の中核が消滅しました!!」



その様子がスクリーンに映し出される
上空からのグラビティーブラストの黒い光の帯が、敵艦隊を飲み込んで消滅と誘爆を引き起こしていた

敵の無人艦隊は、ナデシコに対して攻撃態勢をとっており、この時ディストーションフィールドを解除していた。
そこに遥か上空から、無防備な状態で、予想外の奇襲攻撃を食らったのだから、
この敵の惨状はむしろ当然かもしれない。

そして今や、チューリップという援軍の補給路を断たれ、中核戦力を撃滅された木星蜥蜴の残存無人艦隊は、
ナデシコ攻撃どころではなくなっていた。



「どういう事!!、一体何があったのハーリーくん!!?」


「わかりません、だって、レーダーには敵艦隊以外、上に居るはずの戦艦が映ってないんですよ!!

 ハッキリしているのは、遥か上空からグラビティーブラストの砲撃が行われて、敵が壊滅したという事だけです」



ユリカの問いに、ハーリーが答えることができたのはそれだけだった。
この謎の砲撃を行ったらしい戦艦(?)の存在は、レーダーにも何も映っていないのだから・・・
そして、生き残っていた敵の無人艦隊は・・・・・・



「敵艦隊、・・・同士討ちを始めています・・・・・・一体どうして!!」



それまで整然と進撃してきていた無人艦隊は、今や無秩序に隊列を乱していた。
味方の大型戦艦に体当たりする小型艦、それぞれ右と左に舵を切り衝突する艦、
いきなり味方に向けて砲撃する艦、味方の爆発に巻き込まれて誘爆する艦
そんな無秩序な状況が繰り広げられ・・・やがて無人艦隊は、一隻残らず全滅したのだった。



この、本来ならありえない、あまりの展開にナデシコクルーたちは、ただ呆然としているだけだった。



やはり、この成り行きのために、呆然として状況を見守っていたイネス・フレサンジュは、
この時どうにか精神的に再起動をはたし、説明を始めていた・・・



「たとえば・・・そうね、予想外の攻撃で敵のAIに何らかのバグが発生したと考えられるわね

 それとも、何者かが敵のコントロールを奪って同士討ちをするように仕向けたか・・・

 いずれにせよ、考える為の材料が少ないし、憶測の域を出ない現在、結論は出せないわ・・・」



少ない情報から予測せねばならず、イネスの説明は歯切れが悪いかも
そもそも、最初にグラビティーブラストを発射したと思われる戦艦の正体どころか、
本当にそんな物が存在するのか、その所在すら掴めないのだから・・・・・・

もっともこの時、その状況とイネスの説明を聞きながら、ハーリーは一つの可能性に思い至っていたが・・・



『まさかこれは電子戦? ナデシコBやC、あるいはユーチャリスでもあれば可能かもしれない・・・だけど』



だけど、この時代にはそんなものは無いし、そんな技術や発想もないはずだし・・・じゃあ、一体なぜ?
答えらしき物に近づいたりもするのだが、今の時期ではありえないと思って、その考えを引っ込めてみたり・・・
なまじ、未来の事を知っているだけに、ハーリーの思考は混乱したのだった。

その一方で、そんな事よりもササミは、自分の一番関心のある事に気が付いた



「そうだ、ママを・・・今のうちにホノカママ達を、地下にいる人達をナデシコに連れてこなきゃ!!」



訳の分からないうちに、どうにか危機的状況から回復したとはいえ、
何時また危機的状況が再現されるか分からないのだ!! この時、ササミの声には焦りの色があった。

それはともかくも、ササミの言葉にその事に気が付いたナデシコクルー達は、再び動き始めたのであった。
ナデシコは、自らの実力によらずに今回は、辛うじて敵を撃退することが出来た・・・だが、
まだ問題は、何も解決された訳ではないのだから・・・・・・。



ナデシコは、敵が再び進撃して来る前に避難民達を収容する事が出来るのか?
そして、無事にこの地を離れる事ができるのであろうか?









おまけ

ユートピアコロニーの遥か上空にそれはいた・・・ナデシコに良く似た外見の戦艦が・・・
ハーリーか、あるいは未だ眠っているホシノ・ルリ辺りがその戦艦を見ることがあれば、驚きの表情を浮かべただろう。
その戦艦は、この時代には存在するはずのない、ナデシコCと瓜二つ、そっくりなのだから・・・・・・



「グラビティーブラスト発射準備

 目標は、第一撃は木連無人艦隊後方のチューリップ!

 間髪入れずに、第二撃は無人艦隊の中核を撃滅します!!」


「・・・了解!!」



ナデシコCのそっくりさん(笑)のブリッジ中央の艦長席では、長くて濃い水色の髪をした女性艦長が、
ウインドウボールを展開させつつ、指示を出していた。
(ああ、そっくりさんてのも何なので、この後はナデシコCと書きますね、笑)

その指示を受け、その下の段、オペレーター席にいる黒髪の少年が、
やはりウインドウボールを展開させつつ、準備作業をしているようである。



「撃て!!」



女性艦長の号令とともに、ナデシコCから、グラビティーブラストの黒い光の帯がほとばしる
無人艦隊後方のチュ−リップは、この攻撃であっさり破壊され、続く第二撃で無人艦隊の主力は壊滅した。

もし、木星の無人艦隊が、ナデシコCの存在に気づいていたならば、警戒していたならば、
こんなにあっさりやられなかっただろう。

だが、無人艦隊はナデシコAの存在に気を取られていたうえに、
ステルス性に優れているナデシコCが、本気でその存在を隠していたせいもあり、
この時代の技術力では、それを見つけるのは困難だったようだ・・・。

結局、無人艦隊がナデシコA攻撃の為に、
フィールドを解除して無防備な状態になった時、ナデシコCの攻撃を受ける羽目になり、
最大の攻撃チャンスを待っていたナデシコCの女性艦長の思惑通りに、事は運んだのであった。

攻撃から逃れた残存無人艦隊は、ナデシコCからのハッキングとクラッキングを受け、自滅するように全滅した。
数年後の世界で、火星の後継者を電子戦で制圧した彼女の実力からすれば、赤子の手を捻るより簡単な事で、
証拠はまったく残すことなく、・・・おそらく木連側からは、ここで何があったのか、まったくわからないだろう。





「・・・無人艦隊は完全に沈黙、周囲百キロ圏内には木星兵器の反応なし・・・・・・

 でも、・・・いいんですか艦長、こんな風に露骨に歴史に介入なんかして・・・」



黒髪の少年が問いかける。
生真面目なその少年には、この件で何か引っかかるものがあるのだろうか?

その艦長からは返事は無かった。
どうやら何か感慨深い事があるのか、物思いにふけっている様である。



「艦長のことは、今はそっとして置いてやれ・・・・・・ここには何か深い想い入れがあるようだしな

 それに、サツキミドリで一度介入してるだろ! 今更一度が二度になった所でそう目くじら立てる事はないさ」



「た、タカスギ大尉!! そんなの大尉はいいんですか?

 無人兵器が相手だと言っても、木連相手に攻撃したんですよ!!!」



「わだかまりがまったくないと言えばウソになるな・・・だが、

 この場合は仕方ないさ、俺は俺の役割を果たすだけだ

 そういうお前はどうなんだ、ハーリー?

 艦長がなぜ無人艦隊を攻撃させたか、わかっているんだろ・・・」



「・・・・・・・・・わかってますよ僕だって!!

 だけど・・・・・・艦長、水臭いじゃないですか・・・」



「おいおい・・・」(苦笑)







副長と副長補佐の少年が、そんなやりとりをしているなか
濃い水色の髪の女性艦長は、あの日あの時経験した事を、思い出していた。
それは、決して心楽しい思い出などではなかったけれど・・・・・・







「まって!下にはまだ避難している人達がいるよ!!
 それに・・・ママが、ほのかママも下にいるんだよ!!」





あの時は・・・絶体絶命の状況だった。

ユートピアコロニー郊外に着陸したナデシコ
そこに敵襲!
続々とチュ−リップより吐き出される敵無人艦隊
ナデシコから必殺の一撃と信じたグラビティーブラストが発射され・・・
だけど、それは敵のフィールドに阻まれて効果が無く、
ナデシコは危機的状況に追い込まれていく・・・・・・





「敵艦、上方に回りこみつつあります。チューリップよりなおも敵増大中」



「地下の住民を犠牲にしてフィールドを張る? それともこのまま攻撃を受ける?」



こんな時でも何時ものように、淡々と現状報告をするルリ
イネスさんの問いが、どうしようもない残酷な現実を感じさせる



「敵艦停止、・・・来ます!」



「迷っている時間はない、構わん、自動防御だ!!」



「艦長命令がまだです」



ゴートの指示に、冷静にそう切り返すルリ
こういう時でも、原則は崩さないつもりのようだ。



「敵艦に重力波反応」



ルリの報告は、躊躇する時間が最早ない事を示し
その時ナデシコブリッジは、静まり返っていた。

とても短い時間なのに、無限に感じる長い時間が過ぎて行く
誰もが艦長の、ミスマル・ユリカの決断に注目していた・・・そして



「フィールド・オン」



ユリカの口が運命の言葉を紡ぎ出したその瞬間、すべては終わった。
ナデシコの発生させたディストーションフィールドは、
敵の攻撃をどうにか最小限度に防いだ代わりに、地下にいた人達をも押しつぶしたのだった。



そして・・・その場にいた彼女『その時は少女だった』、の希望はすべて打ち砕かれ、絶望にとって変わられて・・・



「・・・ママ・・・ママ・・・そんな、そんなの・・・・・・ママァ〜〜ッ!!!



ナデシコブリッジに、少女の悲痛な声が木霊した







そして、成長した少女は、この艦の艦長として今ここにいる。



「分かっているわ・・・今更こんな事をしても私のママが帰ってくる訳じゃない!! だけど・・・」



彼女は自分が何をしたのか、何をしているのか自覚していた。
こんな事までして、歴史に介入したとしても、彼女自身が報われる事がないことも分かっていた。



『だけど私は、それでも私は

 機会があるならばやってみせる!!

 何度でも!! 何度でも!!

 たとえそれで、報われる事が無かったとしても!!』



あの日の事を、あの時の悲しさ悔しさを、忘れられなかった
それが、悲しいまでの彼女の決意だった。



彼女はこの後、何を考えてどう行動するつもりなのだろうか?
その話はいずれまた書くとして

この直後、その戦艦(ナデシコC)は、
ジャンプフィールドを展開させて、一足先に地球に戻っていったのだった。







つづく



あとがき

そんな訳で二ヶ月ぶりに砂沙美の航海日誌の続きを送ります。

待っていてくれた人ごめんなさい、こんなに遅くなってしまって (気が付きゃ9月だし)

去年の8月24日が、僕のActionでのSSデビューだったので、

それまでには投稿したかったのですけどね・・・しょうがないか

(ちなみに同じ日デビュー組は、ザ・世界さんと皐月さん・・・僕が一番下手じゃん、・・・落ち込み)

ともかく一周年記念と言う事で(苦笑)



さて、気を取り直して・・・今回の話は色々詰め込んじゃいましたが、

感想代理人の別人28号さんの期待を、裏切る事が出来たのではないかと思っています。

良い意味でか悪い意味でかは、判断できないですけどね(苦笑)

他の皆さんはどうだったでしょうか?

今回の話は、できれば感想がほしいです。よければお願いしますね。



おまけの話に出てきた、正体不明の戦艦の、謎の女性艦長はだれでしょうね(笑)

正体はバレバレな気もしますが、よければ答えてみてくださいね。(何ならボケをかました答えでもいいですし)

この人達の正体は、次回かその次くらいにサイドストーリーとして書きますので、お楽しみに。



また少しだけ歴史が変わっちゃいましたが、今の所、それほど体勢に影響はないでしょう

まだ、地下にいる人たちを説得して連れ帰った訳ではないですから

今回は、訳のわからん現象で撃退された木星蜥蜴達だけど、

もたもたしていたら、前回を上回る数で来るかもしれませんしね

はたしてナデシコは、この状況から抜け出す事が出来るのでしょうか?

下手すりゃ今度こそ、ほのかさんや地下の人たちを圧殺して、砂沙美ちゃんを悲しませる事になりますからね

今度はうまくやる事を願うだけです。



とまあ、そう言った所で今回はこの辺で、・・・次回をお楽しみに。








コメント代理人 別人28号のコメント


私が期待してる事?

そりゃ 砂沙美がプリティサミーに変身する事ですか?

という冗談はさておき


しかし、ホノカってホントに病気だったんですね

私はてっきり『砂沙美禁断症状』か何かだと思ってたのですが

・・・甘かったようです


とりあえず 2人の仲は『親公認』までいったようで まずはめでたし(か?)

このアキトの場合は「砂沙美を頼む」と言われても

それこそ「言われるまでもない」事かもしれませんけどね

2人が幸せならば 草葉の陰から暖かい眼差しで見守ってくれる事でしょう




・・・と、思ったら どうも火星の生き残りの皆さん 助かりそうな気配

ナデシコや地球の設備は火星の比じゃありません

イネスえもんの力を以ってすれば ホノカも助けられるかも・・・

ホノカとフィリスの会話を見る限り 2人の「覚悟」がそれを妨げるような気もしますが


その後、助けにきた謎の女性艦長に関しては どこの誰だか知らないけど誰もがミンナ知っている

月光仮面としておきましょう 『月』だし




しかし・・・もし、この状況を無事突破できなかったら 砂沙美も勿論ショックを受けるでしょうが

それ見たアキトと原因作ったユリカの仲の方が致命的でしょうね


・・・強力な対抗馬が 1人確実に消えるんだから むしろ好都合かも?(邪悪)


でもやっぱり 砂沙美には泣いて欲しくないというのも事実なんですけどね