(月の女神「第一話」)

西暦2198年3月、火星極冠遺跡にて



今日は、カワイササミです

和平交渉失敗の後、火星の遺跡をめぐって木星連合、ネルガル、そしてナデシコ、三者三様の戦いが続いてました

それも今、決着が着きそうです

ううん、決着が着くのは戦いなんかじゃないか

そうだよね、アキト兄ちゃん・・・

やっと年貢の納め時みたいで、妹としてはホッとしているんだから

いままでだってヒヤヒヤものだったんだよ・・・



「だって、僕はユリカの事が大好きだから・・・」



「本当?それ本当に本当!?」



「本当だよ」



「うそっ」



「本当だって」



「うそうそ」



「本当だよ」ちゅっ



「!!?・・・アキト・・・」







『私はアキトが好き、ユリカもアキトの事大好きだよ』







見ているほうが目の毒かな

エステのコクピットでのアキト兄ちゃんとユリカお姉ちゃんのお暑いシーンは(ちょっと焼けるかな)

ちょっとだけ、ササミも胸の奥がちくちく痛いかな・・・でも、だから幸せになってよねお兄ちゃん

でも、これを切っ掛けにナデシコはジャンプ体勢に入っちゃったみたい

木連のロボットを押さえていたリョウコお姉ちゃんやアカツキさんたちエステバリス隊のみんなも帰ってきます

「・・・・・・座標、固定します」

すぐ隣を見るとルリちゃんが表情変えずにデーター入力をしていた・・・うつむいたまま顔を上げずに

ササミには、それがとても辛そうに見えた

ホシノ・ルリ、ナデシコで出会った大切な人の一人

ササミにとってルリちゃんは大切なお友達、今では親友といっていいかもしれない

ルリちゃん口には出さないけれど、アキト兄ちゃんのことが好きなんだよね・・・

あの二人を見ていて辛いのかな

今はルリちゃんのこと、そっとしておいてあげよう・・・



やがて、ナデシコは遺跡ユニットごとジャンプして・・・・・・ササミ達は火星を後にした

この後どうなるかはわからないけど

ササミ達は、ナデシコのみんなは、例によって先行きに何の心配もしていなかった

何とかなるさ・・・てな感じで



だけど・・・・・・





砂沙美の航海日誌(正史バージョン)

月の女神



〜第一話「悲劇は突然に」〜



By 三平







西暦2199年6月9日(月)

カワイ・アキト、ミスマル・ユリカ両名の結婚前夜

「違うよ、ミスマルでなくカワイ・ユリカだもん」

失礼しました・・・まだ結婚前なのにこだわってますね、ユリカさん(籍もまだ入れていないのにね、苦笑)



ちなみに、話はそれるが、名字はアキトには三つの選択肢があった。

テンカワ、カワイ、ミスマルの三つであるが、アキトは迷わずカワイ姓を選んだ。それは当然のこだわりだろう

(成人にあたり、テンカワ姓に戻すことも薦められたが、アキトにとってカワイ家でのことは大切な事だったのだ)



何にせよ、結婚前夜ということで、ユリカさんの実家のミスマル家に現在のカワイ家の住人全員来ているようです。

(カワイ家のメンバーはアキト、ササミ、ルリ、そしてユリカの四名です)

本当なら結婚前夜は、ユリカさんが一人で来て親子水入らずで過ごすのが普通なんですけどね(苦笑)

でも、最近は静かで少し寂しかったミスマル家だが、久しぶりに賑やかでこんなのもいいのかもね(ちなみにユリカの提案でこうなった)





「はあ〜っ、やっと落ち着いたね、ルリちゃん」


そう言ってカワイ・ササミちゃん大きく伸びをします
さっきまで賑やかに騒いでいたので少し寂しく感じつつもホッと一息かな


「よく言いますね、自分もしっかり騒いでいたくせに・・・・・・

 ひょっとしたら当事者以上ではないのですか?」


ちなみに、この当事者とは主にユリカの事を指す


「あははは、そうだったっけ(汗) でもでも、お祝い事なんだから場を盛り上げなきゃ・・・って、駄目?」


ルリのシビアな突っ込みにバツの悪そうなササミ
そんなササミを見てホシノ・ルリはクスッと笑った


「まあ、いいですけどね、その方が能天気なササミさんらしいといえばらしいですし・・・」


「ひどいよルリちゃん、ササミのことそんなふうにみてたんだ」


「・・・別に、見たままを言ったらそうなっただけです」


「あううう〜っ」


とまあ、何か漫才で言えばササミがボケでルリが突っ込みのようになってるが(汗)
別にササミも気を悪くするでもなく、どこか会話を楽しんでいるようであったりもする


ふと、ササミは思う、ナデシコで会ったばかりのころのルリちゃんだったらそもそもこんな会話も成立しなかったのだよね

良くて『ばか』とか『ばかばっか』だったしね・・・あまり感情を表に出す事もなかったし

初めてあったばかりのころのルリは、そもそも人に構われること事体いやがっていたと思う

ササミはそんなルリに積極的に話しかけるなり、かまうなりして少しづつ打ち解けて行ったのだった

まあ、ササミにとってもナデシコでは同年代の子がルリしか居なかったこともあるかもしれない

いや、他の子がいたとしても、やはりルリと積極的に関わろうとしただろう。

ともかくルリの事は、どこかほっとけなかったのだから・・・

ミナトお姉ちゃんもそうだったのか、いつの間にかこの件でタッグを組んでいたような気もするかな(苦笑)


『ルリちゃん、また笑ってくれた・・・最近はよく笑うようになったよね、ササミはルリちゃんの笑顔が大好きだよ』


ちなみに、ルリがササミと仲良くなる過程でアキトお兄ちゃんとも親しくなっていき
気が付かないうちにルリはアキトに惹かれていくようになったのだが、
ササミがその事に気が付いたのはずいぶん後の話であった。 (アキトはさらにもっと後)





「・・・ササミさん、あなただけにちょっと真面目なお話があるのですが」


「なに?、ササミでよかったら何でも聞くけど」


ルリが改まって話かけてきたのでササミも真面目に聞き返す
ちなみに、今この部屋にいるのはルリとササミの二人だけである
アキトとユリカはコウイチロウの相手をしているようだが、酒の飲めないアキト大丈夫であろうか?

まあ、それはともかくルリの話


「まだ、計画段階なのですが、ワンマン・オペレーションシステムプランというものがあるのですが・・・」


「わんまん・おぺれいしょん?」


聞きなれない単語が出てきて首をかしげるササミ
そんな様子に苦笑しつつルリは話を続ける

要は落ち目になったネルガルと統合軍の結成により斜陽の宇宙軍の共同計画であり


「まあ、日陰者同士利害が一致しての計画なのですが・・・」


「る、ルリちゃんキツイよその言い方は」(汗)


細かい事はともかく、要は宇宙軍の人員不足をカバーするため
オペレーターによる集中運用の可能な試作戦艦を建造することになったとの事だが


「試作戦艦の名はナデシコB、私はその艦長にと声をかけてもらっています・・・」



ちなみに、ルリにこんな話が来ているのは、まず技術的に運用できる人間が限られている事
今、確実にそれが出来るのはルリかあるいは少し劣るがササミくらいだろう。
(この時期ハーリーはまだ表に出てないし、年齢的にも経験的にも不足しているしね)

それと、宣伝効果と言う物もあるのだろう、早い話が宇宙軍のマスコットである
実際、二年後の火星の後継者の乱の時、ナデシコCの艦長が兵士達の人気を集めファンクラブもできたとか?
いや、軍内部だけでなく民間にも人気が出て宇宙軍の人気イメージキャラとして貢献したとか(笑)



とまあ、そんな話はともかくとして・・・・・・



「ナデシコB?、艦長って凄いじゃない・・・でも何でそんな話を?」


素直に感心しつつもなぜルリがこんな話をするのかその意図がササミはわからないでいた
でも、次にルリの言った発言でそれがわかったのだった


「アキトさんとユリカさんが結婚すれば私はお邪魔虫です、

 いずれ自立するつもりでしたので私はこの話を受けようと思っています。

 ササミさんにだけは、前もって話しておきたいと思ったんです」


ササミはハッとした
そうだった。ルリちゃんの気持ちは知っていたはずなのに・・・
その事に思い至らなかった自分が少し恥ずかしかった・・・だけど


「ルリちゃんはお邪魔虫なんかじゃないよ! ルリちゃんも大事な家族なんだからそんな言い方ってないよ!!」


「河合家のみんなが、ササミさんがそう思ってくれているのはわかっています。

 だから、お願いですからそんな顔をしないでください。

 それに、すぐにと言う訳でないのですし、私はもうしばらくカワイ家でお世話になりますから」


あと、「アキトさんやユリカさんにはもうしばらく内緒ですよ」と付け加え・・・


・・・ササミはこの時どんな顔をしていたんだろう?
ルリちゃんは確かにすぐ出て行く訳ではない・・・だけど、いつかは出ていくんだよね
お兄ちゃんもユリカさんと結婚するのだし
今の生活がいつまでも続くように感じていたけど、少しづつ変わっていくんだね・・・・・・


「わかってるよ、もうしばらくは一緒にいられるんだし

 それに、ルリちゃんならきっといい艦長になれるよ」


ササミにできる事は、その時が来たら笑顔でルリちゃんを送り出す事。
その時が来たらきっと寂しいだろうけど、でもきっと大丈夫だよね


そういえば、今はルリちゃんの話を聞いていたけど、ササミはこの先どうしているかな?
今まで考えもしなかったけど・・・・・・いつまでもこうしては居られないのだろうなあ
お兄ちゃん達の結婚式が終わって新婚旅行から帰ってきたら考えてみようかな?


ササミはこの時知る由も無い
その新婚旅行で何が起こるのかを・・・そして
今、話に出てきたナデシコBの艦長に自分がなることになるとは・・・・・・


それこそこの時は思いも寄らない事であった・・・・・・ササミは決してそれを望んだ訳では無かったのに







6月10日(火)

カワイ夫妻結婚当日

この日はある意味お祭りだった

かつてのナデシコクルーの主だったメンバーが集まって新郎新婦を祝福してくれるのだが

今ではこれだけ集まる機会がないのだから盛り上がるのは仕方がないか

盛り上がる結婚式なんてのもナデシコらしくていいかもしれませんが

(まあ、某落ち目の会長のように立場上来れない方もいますけどね・・・それでも祝電はくれたようですが)

でも、やっぱりこの日の主役は新郎新婦、特に花嫁のユリカさんは幸せいっぱい

その花嫁姿は特に美しくて・・・旧女性クルー達からため息が出たり、親ばか親父は涙を流していたりして



滞りなく式は進み、でも新郎新婦の口づけの場面になると

「いいぞ、そこぶちゅっといけぶちゅっと」

おいおい、某整備班長、何て掛け声かけてんだよ、アキト固まってるじゃないか(苦笑)

これに呼応して旧整備班中心にはやし立てる連中が出たりしたようだ

「今更照れる事じゃないだろう!」

「ヒューヒュー」

「俺たちが暖かく見守ってやるからさ・・・」


「あのね、お兄ちゃん達は見世物じゃないんだから
 もっと真面目にやってよね、今一番大事な所なんだから」



ササミちゃん、さすがに怒っちゃったようです。
隣にいるルリちゃんもあきれた顔をして、久々にあのセリフ


「ホント、相も変わらず馬鹿ばっかです」


ササミやルリにかぎらず、ミナトを筆頭に女性陣は基本的に目が怖いです

そんでもって、たちまち野次っていた連中は静かになったようですが・・・・・・(苦笑)



まあ、何にせよハプニングもありましたが、無事重要イベントもおわり


二人はライスシャワーを通り抜けて退場していきます


あと、最後は花嫁のブーケの争奪戦は女性クルー達の間で結構激しいものがあったとか・・・・・・それはまた別の話





二次会は、それまで真面目にやっていた反動(?)からか、ナデシコクルー達のバカ騒ぎに費やされたようだ

まあ、ここにいる人たちはみんなそういうの好きなんですけどね・・・





てなわけで、ようやく皆さんのお祝いから解放された新婚夫婦は
ホテルの一室にてようやく二人っきりになったのであった


この時、この新婚夫婦の間に重要な話が交わされて、過去と向き合った後、二人は改めてその仲を深めたのであった

その後、新婚さんが初夜に何をしたかについては皆さんのご想像におまかせするとしますか・・・・・・

(アキトとユリカの会話は初めは書いていたのですが、何か生々しい内容になりそうだったのでカットしちゃいました
 まあ、本編にかかわる内容でなかったですし・・・簡単に言えばアキトの初恋に関わる話題だったとだけね・・・)



(それと、念のため言っときますが、このシリーズでアキトとユリカが結ばれているからと言って、もう一つのシリーズ
 『砂沙美の航海日誌』でもそうなるとは限りません。そのあたりは柔軟性持たせてみたいと思っていますが、さて・・・)







6月18日(火)

この日はカワイ夫妻の新婚旅行出発の前日

翌日にはカワイ一家総出で新婚旅行(爆) いや、家族旅行に出発の予定になっている
旅行を家族全員で行こうと提案したのはユリカである

旅行先の火星はササミちゃんにとっても生まれ故郷なのだから、一緒に連れて行くべきだと言って
そういう話の流れになれば、ルリちゃんだけ置いていく訳にはいかない

いきおい全員で旅行に行こうという事になったのであるが・・・それとは別にこの日は重大なイベントが隠されていた





明日は旅行当日である。準備はほぼ出来ているがやはり直前まで何かと手が掛かったりするものである
そんな訳で、なぜか他に手の空いている者がおらず、ササミがちょっとお使いを頼まれて今帰ってきた所であるが・・・



戸をあけて部屋に入ったとたんパンッ、パパンッ



クラッカーの音が鳴り響きササミを驚かせた「な、何? 何なの!?」

驚くササミを尻目に、待ち構えていたアキト、ユリカ、ルリ、三人の声がハモる



「「「お誕生日おめでとう、砂沙美ちゃん」」」



ササミは一瞬何がおきたのか分からなかったのだが、「お誕生日って・・・ああっ!?」

旅行の準備とか何やらで忙しくてすっかり忘れていたのだが

(ササミちゃんカワイ家の家事も一手に引き受けているので、そういう意味でも忙しかったりする)

この日6月18日はササミの十四歳の誕生日だったのだ

そこまで気が付いた時、ササミはここ数日家族みんなの様子がおかしかった訳が分かった

何かこそこそ自分にだけ隠し事していると思ったらそういう訳だったのか


「ひどいよみんな、こんな事隠しているなんて、ルリちゃんまで一緒になって・・・」


「こういう事は事前にはばらせないものです、でも気を悪くしたのならごめんなさい」


「気を悪くなんて・・・ササミはうれしいよ、とっても・・・・・・みんなありがとう」


ササミはとっさにどうしていいのかわからない・・・うれしくて、何より照れくさくて


「とにかく、準備は出来ているんだし、主役が席に着かない事には始まらない、さっ、ササミ」


アキトがササミをうながす、その先には美味しそうな料理の数々と中央にはバースデーケーキ

ちなみに、ケーキも料理もすべてアキト作である

予断だが、ユリカが自分の料理をササミちゃんに食べてもらうんだとはりきっていたのだが
アキトとルリが何かと理由を付け(必死に)それは止めたようで、日の目を見る事は無かったのであった(爆)


「折角ユリカがササミちゃんに美味しい料理作ってあげようと思ったのに・・・」


ふとその話題が出てユリカのその発言、聞いたササミの顔は心なしかわずかに引きつっていたとか(苦笑)


「ま、まあ、ユリカさんの料理はこの次の楽しみにとっておくことにして・・・・・・」


ユリカに気を使ったササミらしい発言だが、同時に迂闊とも言えるかも


「今回は料理しょうがないけど、わかった、ササミちゃんがそう言ってくれるのなら、

 実はユリカ、考えていることがあるんだ、楽しみにしていてね、ササミちゃん」


ユリカがにこにこしながらそういうのを見て、はやまったかなあ、と思い直すササミがいるのであった


「ばか・・・」ぼそっとつぶやいたルリの発言が事態を物語っているのかも・・・・・・





それは置いといて気を取り直して (何でああいう話のそれ方したんだろう?)

十四本のろうそくの立ったバースデーケーキにササミが息を吹きかけ、どうやらうまく火を消せたようだ



改めてみんながササミにお祝いの言葉をかける



それを聞きながらササミはふと思う

『ササミは今、とっても幸せなんだろうな』と

どうしてそんな事考えたのかわからないけど、でも実感として幸せを感じていた

今、家は貧乏だし何も無いかもしれない、でも暖かい家族がいる

アキト兄ちゃんがいて、ユリカさんがいて、ルリちゃんがいて・・・・・・

そして、明日も変わらぬ穏やかな日々が続くものと信じていたのかもしれない・・・だけど







6月19日(水)

新婚(家族)旅行当日



宇宙港のシャトル発着場にはカワイ家の面々とお見送りの人たちが来ていた

そして、出発するシャトルの見送り組の中に、本来なら一緒にシャトルに乗り込んでいるはずの少女が一人

体調を崩して旅行どころでなくなったササミちゃんであった。



「・・・無理しないほうがいいわよササミちゃん、中で少し横になっていたら?」


「いい、せめてみんなが無事出発する所を見届けたいし・・・・・・」


そう言うササミの顔色は決して良くはない

横で付き添っているミナトは心配そうに見ていたが、一人留守番しなければならないササミの心中を思うと・・・


『もう少しだけ好きなようにさせてあげるか・・・折角旅行楽しみにしていたのについていないわねササミちゃん』


その体調を崩した理由を知ったらミナトはどう思うであろうか?





前日の誕生祝いでの事

ルリやアキトがササミにそれぞれプレゼントを贈り、次はユリカの番


「はい、これユリカから、一生懸命作った自信作だよ」


にこにこしてユリカが取り出したのはきれいにラッピングされた箱


「わあ〜っ、これあけていい?」


ササミが聞くとユリカが嬉しそうにうなずいたのでラッピングをといて箱を開けてみると・・・
中から出てきた物体は緑がかって変色した固形物・・・緑と言ってもどこか毒々しい感じのである


「ゆ、ユリカさん・・・これなんですか?」


少しばかりでなく表情を引きつらせながらササミが聞いた
そんな空気の変化に気づかずにユリカはにこやかに答えた


「やだなあ、これクッキーだよ、少し手間取ったけどユリカの自信作なんだから」


く、クッキー?? どこをどうやったらクッキー作ってこんな得体の知れない物体を作れるのか?
人並み以上に料理の得意なササミにはいっそ不思議でならない・・・いやこの場合問題は・・・・・・

ユリカの方を見ると期待に満ちた表情でササミを見ている・・・これは逃げられない(汗)

ササミは知る由も無い、アキトとルリに料理を止められたユリカが次に考えたのがこれだという事を

何にせよ、ササミは自分の迂闊さを呪った
ラッピングを今とかなければ、あとでこっそり処分することも出来ただろうに(はあ〜っ)

しょうがない、覚悟を決めて一口だけ口に入れよう
そのあと残りをこっそりと処分すればいい、何よりユリカさんをがっかりさせたくないし・・・

この時、ルリやアキトがさかんに目配せしていたのだが、自分の思考にとらわれたササミは気が付かなかったようだ
また、ユリカの作った物を甘く見ていたと言われても仕方が無いのかも知れないが



えいっ!!、とばかりにクッキー(のような物)を口の中に放り込み

直後、ササミは意味不明な言葉を発した後、気を失ったのであった(合掌)





翌日、旅行当日

ササミは目は覚ましたのだが、体調は最悪だった

とても旅行どころではないくらいに・・・よほどユリカの毒クッキーと相性が悪かったのだろう

でもって、ルリやアキトにしぼられたユリカがしゅんとしてササミに謝ったのだが・・・


「ユリカさんのせいじゃないよ。たまたまあの時ササミの体調が悪くなっただけだからそんなに気にしないで」


ササミはユリカに気をつかい、そう言ったのだった。

こうして見ると、自分のことより人の事の気をつかうそれは
ササミの美点であるが、同時に欠点でもあるかもしれない



それはともかくとして、どうやらササミはこの日の旅行に行けそうでないとわかり、どうするか緊急に話し合われた


いっそ、旅行を取りやめるか?


だが、ササミは反対した。
今止めたら次いつ行けるかわからない・・・ササミのためにみんなに迷惑かけるのは嫌だったのだ

では、アキトとユリカの二人が(初期の予定通り)旅行に行き
ルリは残ってササミの面倒を見るという案もでたが・・・


「でもいいの? ルリちゃんもこの旅行楽しみにしていたのに・・・・・・」


「・・・いいんですよ私は、大事なお友達のことを放っておけません

 それよりササミさんは自分の事より人の事に気を使いすぎです、

 もう少し自分に正直になっても良いのではないですか?」


ルリにそう言われてササミは少し恥ずかしくなった・・・そうかもしれない
でも、同時にルリの優しさにも触れた気もする
本当はササミも行きたくてしょうがなかったのに行けなくなった
だからといってルリまで付き合わせるわけにはいかない


「・・・ありがとうねルリちゃん、でもササミの事は心配いらないよ

 自分に正直にと言ったらルリちゃんだってこの旅行楽しみにしていたじゃない

 それに、アキト兄ちゃんと一緒に旅行に行ける最後のチャンスかもしれないって、こないだルリちゃんが・・・・・・

な、何を言ってるんですか、こんな時に・・・・・・



結局、時間もなかったし、アキトがササミの意思を確認する形で事を決めた

仕方が無いのでササミは留守番、その間はユリカの実家のミスマル家でお世話になる
ユリカが電話で父親のコウイチロウに事情を説明し、コウイチロウからはこの件では快諾を得た

アキトとユリカ、そしてルリの三人は予定通り旅行へ・・・



そしてこの決定が二手に分かれた家族の運命を大きく隔てることになる



そしてササミは後で後悔することになる



なぜ、あの時旅行を止めさせなかったんだろう?

なぜ!、どうして!?

せめてルリだけでも引き止めるべきだった・・・なのになぜ?

なぜササミだけ生きているの?

なぜ!!、ナゼ!!、何故!!?


何故・・・いったいどうして!!?







「それじゃササミ、行って来るよ。帰ってくるまでにちゃんと体直しておけよ」

「お土産も買ってくるから楽しみにしててね」

「お二人の面倒は私がみてますから心配しないでください」



で、三人を見送った後、シャトルの見送りシーンにもどるわけだが・・・・・・


「ミナトさん、あれがお兄ちゃん達の乗ったシャトルなんだよね?」


ササミは今しがた飛び立ったシャトルを指してつぶやく


「ええ、そうよ・・・どうかしたの、浮かない顔して?」


体調の悪さのせいだろうか?

ササミは嫌な胸騒ぎを覚えた・・・嫌な予感、なぜだろう?

そして、その予感は現実となって現れた



そう・・・


残酷な現実となって





ドオオオォォォ〜ンンン・・・・・・





今しがた飛び立ったシャトルが上空で爆発し落ちていく



一瞬何がおきたのかわからなかった



まるでニュース映像をみているような・・・この光景は何?



「イヤだ・・・イヤだよこんなの・・・こんなのウソだよ・・・・・・」



「イヤだ!、お兄ちゃんアキト兄ちゃ〜ん!!」



ササミはよろよろと走り出した、落ちて行くシャトルに向かって・・・・・・



「砂沙美ちゃん、落ち着いて、駄目よ落ち着いて・・・」



ミナトが必死でササミを止める、遅れてユキナも止めに入り、さらに何人か駆け寄って来る



「はなして、はなしてよミナトさん

 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、

 こんなのって・・・こんなのって・・・・・・」




半狂乱になり、泣き叫んでいたササミだが・・・・・・やがておとなしく静かになった



「あは、あはははははは・・・・・・ウソだよ

 みんないなくなっちゃった・・・ササミをおいて・・・うそだよ・・・あはは・・・・・・」




ササミのその涙にぬれた焦点のあわない金色の瞳は
ただシャトルの落ちていった方角を見ているだけでなにも写してはいない



「ササミちゃん・・・・・・」



ミナトはそんな痛々しいササミをみて、ただ抱きしめてあげることしかできないじぶんを悔しくおもうのだった





そして、この日少女は、大切な物、大切な人

 かけがえのないすべてのものを失ったのだった






つづく



あとがき

ともかく、第一話できました

前回、痛い話になる・・・とか言ったわりにそうならなかったなあ・・・・・・途中経過は

途中のほのぼの(?)した所は書いていて楽しかったですが、ラストのこと考えたら気が重かったですね

いいんだろうか? この幸せそうな人たちをズンドコにたたき落としても・・・・・・うーん

次回、砂沙美ちゃんは立ち直れるのだろうか?

何か、痛いというより痛々しいというイメージなんですけどね

ところで、劇場版のルリはどこか自分を客観的に見て、不幸な出来事を精神的に直撃するのを回避していたような気がします

砂沙美はそこまで器用じゃないせいか、直撃です(苦笑)

精神的にもルリよりもろいかも知れませんね・・・ある意味

ああ、リョウちゃんこと魎皇鬼出すのわすれた(おいおい) 次回は出番あるはずですが



ところで、スケジュールとか検討していて気づいたのですが、

砂沙美の誕生日と事故の日付は一日しか違わないんですね・・・すごい出来すぎた偶然ですね(苦笑)

そんなわけでああいう話にしてみましたが、どうだったでしょうか?

砂沙美からしたら絶対忘れられないな、ああいうのは・・・誕生会はまるで最後の晩餐か?(洒落にならんな)



とりあえず、早いうちに第二話書き上げて (砂沙美がナデシコB艦長になるまでの話)

そのあと第三話からはゆっくり一ヶ月くらいのペースで劇場版のストーリーに入ろうかと思います

それでは今回はここまで、次回もよろしく


 

 

代理人の感想

大蒲鉾菌増殖中!

 

voidさんに続き、三平さんも感染してしまいました!

このウイルスに感染してしまうとダーク傾向、自爆傾向が顕著に見られるようになります。

キャリアからの感染力は弱いようですが、SSなどからは容易に感染する物と思われます。

皆様も是非是非お気をつけ下さい。

 

 

 

※なお、このウイルスに有効なワクチンは
 今だに開発されておりません(核爆)。