(私、マキビ・ハリ、少年です。・・・!!?、第一話)



西暦2201年、12月某日、艦内標準時、PM22時頃
ナデシコC艦内の、とある私室にて、

シャァァァ〜〜〜ッ

黒髪の少年が、部屋に備え付けのユニットバスで、
気持ちよさそうにシャワーを浴びていた。



「はあ〜、生き返ります。

こんな状態になっても、身体がたとえ女の子の私じゃなくても、

疲れたときのシャワーは、気持ちが良いものですね」



えっ、言ってる事が変? お前はどう見ても男だろうって? それは……、

この身体は、本当は私の身体じゃないんです。
今は、この男の子の姿だけど、私、本当は少女なんです。

信じられませんか? そうですよね、私だって、今でも信じられません。
私だって、好きでこんな身体になった訳じゃないんです。

……そんな言い方は、ハーリー君に失礼でした。ハーリー君ごめんなさい。(ぺこり)

あ、ハーリー君というのは、この身体の本当の持ち主の、男の子の愛称です。
正確には、マキビ・ハリという名前なんだそうです。って、その言い方も変ですね。
まだ、ピンと来ませんが、今は、私の名前でもあるのですから。

年齢は11歳、今の私と同い年です。
本当なら、私のほうが五歳年上の、お姉さんだった筈なのですが……。



「はあ〜、どうしてこんな事に、なってしまったんでしょうか?」

今日一日、心の中で、何度同じ言葉を呟いた事か、
私は、シャワーを浴びながら、今日という長い一日を、振り返っていました。





「ところでこの場合、一日とは、どこからどの範囲を指すのでしょう?」









僕の名前はマキビ・・・ルリ!?、IF

私、マキビ・ハリ、少年です。・・・!!?



〜第一話「私、『少年?』です」〜



By 三平









西暦2196年10月、人材開発センター



改めてこんにちは、私、星野瑠璃(ホシノ・ルリ)です。

今朝、私はIFSによる、メインコンピュータへのアクセス実験を受けていました。
そう、この時点では、私はまだ本当の私、ホシノ・ルリという名前の少女でした。





「今回の実験…なぜか胸騒ぎがするのよね」

定期実験を前に、担当のイチノセ・ナツミさんが、不安そうに、こんな言葉を洩らしました。
ナツミさん、当の実験を受ける私が、不安になるような事を、普通言います?

「ごめんなさい。私そんなつもりで言ったわけじゃ…」

まあ、いいですけどね。私は気にしていませんから。私、少女ですし。
それに、ナツミさんが、私のことを心配してくれているらしいことは、私にもよくわかりました。

でも、ナツミさん、このくらいの事で不安がったり、人が良すぎたり、要領が悪かったり、
この場合、そういうのははっきり言って、ここでは馬鹿です。私には理解できません。
ナツミさんは、ここの研究所に向いていないです。

でも、そういう人、私は嫌いじゃないです。
だから、そんなナツミさんの不安を取り除くように、私は声をかけました。

「本当に、たいした実験じゃないですから。
初めてで緊張するのはわかりまけど、心配しなくても大丈夫ですよ」

普通、励ます人と励まされる人が、逆だと思いますけど、ナツミさん。
まあ、いいですけどね。



私は、虫の知らせとか、予感とか、そんな非科学的な事、その時は信じてはいませんでした。
今にして思えば、ナツミさんには、本当に何か予感があったのかもしれません。

その時の私は、まさかこんなことになるなんて、思ってもみませんでしたから。




実験は、いつも通り順調に、いえ、あの時はいつもより、調子がいいくらいでした。
それならばと、私は目を閉じたまま、電脳空間に集中、より深く意識を潜らせた、その時、



バシィィィッ!!



それは、パルスの逆流の事故でした。私はこの時、IFSを通じて、直撃をうけました。
でも私は、その時は咄嗟に何が起こったのか? まったくわかりませんでした。
わからないけれど、身体に強いショックを受け、悲鳴を上げた様な気はしています。
私の意識は、現実から切り離されてしまい、全ての感覚が、消失したように感じていました。

現実から切り離された私の意識は、次の瞬間、
何か強い力に引き込まれて、同時に感じていました。



イヤだっ、こんな所で!、こんな事で!

死にたくない!死にたくなんかないよ!!!



誰? その時は、誰かわかりませんでしたが、それはハーリー君の意識でした。
ハーリー君は、私と同じように、電脳空間に深く潜り込み、
何かの体勢を、必死に立て直そうとしているのを、私は感じていました。

そこで何が起きているのか、わかりませんでしたが、私は咄嗟に、彼に手を貸しました。
そうしなければ、私も彼も生き残れない。その時、なぜかそんな気がしたんです。

『艦長〜っ!、ルリさ〜ん!!』

私は、彼の心の叫びを聞いたみたいです。でも、なぜ彼は私の事を知っている?

それはともかく、私が彼に手を貸して、その場が安定したと感じたその次の瞬間、
私の意識は、何かに強く弾かれて、その先は完全に途絶えてしまいました。











ここは、ここはどこでしょう?

目が覚めて、辺りを見回してみると、そこは、私の見知らぬ場所でした。
目の前には、私が今まで見たこともない、新型の電子装備が設置され、
状況を表示する、無数のウインドウが球形状に浮かんでいて、視界を遮っていました。
そして私は、その球形状のウインドウと装置の中央に位置する座席に、
座ったままの姿勢で、気を失っていたみたいです。



……少なくとも、ここは人材開発センターではないようです。

どうして私はこんな所に?

あの事故のせい?

それに、なんだか『気持ちが悪い』…です。



さっきから、頭の中に靄がかかったように思考が鈍く、気分も悪くて、うまく考えがまとまりません。
私は、目を覚ましてから、ずっと気だるさ、身体に変な違和感と、居心地の悪さも感じていました。
うまくは言えませんが、サイズの合わない服を、無理やり着せらてもどかしい、そんな感じでしょうか?

『服? そういえば、私が今、着ている服は?』

見下ろしてみると、私はオレンジ色の制服に身を包み、黒いスラックスを穿いていました。
少なくとも、実験で着ていたボディスーツではないですし、私はこんな服、着た覚えはありません。

『何がどうなのかは分からないけど、何か違います』

それを見ていたら、理由の分からない強い違和感を感じて、余計に気持ち悪くなりました。
吐き気を感じて、思わず手で口を押さえましたが、その動作にも感覚にも、違和感を感じました。

「水、水が欲しい」

私は、自分の置かれている状況を、早く知りたいと思いましたが、考えるのは後回しにしました。
それより先に、この乗り物酔いを酷くしたような、気持ちの悪さを何とかしたいです。
私は、のろのろと立ち上がりました。立ちくらみがしてふらつきました。
ふらつきながら、視界を遮っていた無数のウインドウの外に出てみると、そこは、

『ここはまるで、宇宙船のブリッジのようです』

元々、私は将来、宇宙船のオペレーターになるために選抜され、
幼い頃から、その為の英才教育を受けてきました。その知識が答えを導き出していました。
私は、それらに強い興味を覚えました。でも、その時は、それ以上に気分が悪く、
ブリッジの中を、観察する精神的余裕なんてありません。私はすぐブリッジの外に出ました。

私は、頼りない足取りで、廊下の壁に手を当てて、身体を支えるように歩きました。
廊下の作りも、やっぱり宇宙船だと思いました。

私は、ブリッジを出てすぐのところに、お手洗いをみつけました。
お手洗いに入ってすぐの洗面所で、私は水を飲み、すぐその後、顔を洗いました。
まだ、少し気持ち悪さが残っていましたが、おかげで大分すっきりして、落ち着いてきました。
でも、気分が落ち着いて、精神的に余裕が出来ると同時に、それまで見えなかったもの、
それまで気付かなかった事に、私は、嫌でも気付かされてしまう事になりました。



「えっ、誰?」

私は、目の前の鏡の中に、黒髪の少年の姿を見て、慌てて振り返りました。

「いない?」

気のせいでしょうか? いえ、そんな筈ありません。
もう一度、振り返って鏡の中を覗き込む。やっぱりあの少年がいます。
黒髪をオールバックにした、10代の、私と同じか少し年上くらい少年が……。

「まさか、そんな事!?」

私は気付きました。鏡の少年の着ている制服が、いま私が着ている服と同じ物だという事に、
そして、鏡の中には、少年の姿はあっても私の姿がない事にも。
信じたくない。こんな事信じたくはないけど……。

「私?」

私が、鏡に手を伸ばしてみると、鏡の中の少年もそれに合わせて手を伸ばし、
私の手と少年の手は、鏡の表面でぴったりと重なりました。
慌てて手を離し、口を押さえると、鏡の少年も、左右対称同じ動きで口を押さえます。

「うそ、……こんなのうそです」

信じられません。私の身体が、鏡の中の少年になっているなんて、
私が、私じゃなくなってしまっているんです。そんなの嘘です。きっとこれは夢です。
私は、頬っぺたをつねりました。夢なら痛くない筈。でも…、

「痛い…です」

夢じゃない。鏡の中の少年も、私と同じように痛がってます。
そんな……、これが、夢じゃないというのなら、どうしてこんな事に???

と、その時……、

「そんな所で、何をしているのですか? ハーリー君?」

突然、空中にウインドウが開き、10台半ばくらいの少女が、私に声をかけてきました。
呆れた口調で、私のことを、呆れ顔で見つめながら…。

私は、よく冷静沈着で、子供らしくないとか、可愛げがないとか言われてきました。
そう言われても、別段気にも留めないで、常に冷静さを保ってきたつもりです。
だけど、立て続けに信じられない状況を突きつけられ、綻びが生じたかもしれません。

「わ、わた…『私、ですか???』

幸い、すぐ手で口を押さえましたから、声には出さずにすみました。
この時私は、珍しく動揺していましたから、そうでなければ何を口走っていたかわかりません。
ウインドウの中には、少女だった本来の自分と同じ顔の、いえ、
11歳の私より年上の、私によく似た顔の少女の姿が、映し出されていましたから。

私より年上で年齢が違います。でも、他人の空似というには、あまりにも似すぎています。
あのツインテールにした蒼銀の髪、生白い肌、金色の瞳、あの表情、間違いなく『私』です。
その『私』を、見ず知らずの男の子の姿になった私が、こんな形で見ているなんて。

いったい、何がどうなっているの?

そして、何をどうしていいのでしょう?

この時の私は、茫然自失な状態で、咄嗟には判断出来ませんでした。





でも、そんな状態でも、冷静に状況を見つめようとする、私も、そこにいました。

『そうか、この子(身体)はハーリー君、っていうのですか…』







その後、私は『私』に、非常時に勝手に持ち場を離れた事を咎められ、罰を言い渡されました。

私は、本当はハーリー君じゃない、身体はそうだけど中身はホシノ・ルリなんです。
と、『私』に主張しようかと、一瞬思いました。
でも結局、止めておきました。どうせ、今、こんな事言っても信じてもらえません。
今言っても、下手な嘘をついて誤魔化そうとしたと取られるだけでしょう。
もし逆の立場だったとしたら、私だって信じませんし、そう取ります。
実際、私自身が、こんな状態になった今でも、信じられないのですから。

でも、今は無理でも、いつか『私』に、私の事を信じさせよう。この時、そう心に期しました。

そして今、私は、最初に目を覚ました時に座っていた席、ハーリー君の席に座り、
罰として『私』から言い渡された、ジャンプ事故の後始末、情報整理の仕事をこなしています。



この時、こっそり調べて、知って驚いきました。あの私に似ていた少女は、この艦の艦長でした。
連合宇宙軍、ナデシコC艦長、ホシノ・ルリ少佐(16)、やっぱり『私』、それも五年後の私でした。
宇宙軍の史上最年少アイドル艦長、電子の妖精、火星の後継者の乱鎮圧の英雄……。

「勘弁して」

私だったら、赤面してしまいそうなフレーズばかりです。
『私』は、ホシノ・ルリ艦長は、どういう思いでいるのでしょう?
もし私が、あの事故にあわなかったら、私は『私』になっていたのでしょうか?
もしかしたら、私は……。



そして、ここは西暦2201年の12月、私は心だけ、五年後の世界に跳ばされたみたいです。

五年もの時間を跳ばされて、知らない男の子の身体に押し込められて、今でも信じられません。
どうして、こんな事に……、やっぱり、あの事故のせいなのでしょうか?
あの時、ナツミさんの忠告を、もっとよく聞いて、警戒しておくべきだったのでしょうか?
あの、パルスの逆流事故さえ無ければ、こんな事にはならなかったかもしれません。
それとも……。

止めましょう。現状をどんなに嘆いても、どんなに否定しても、もう何も変わりません。
だから私は、まず現実に、ここで与えられた仕事をこなすことから始めました。





「ウインドウボールですか、これは便利ですね」

コンピュータ技術の進歩というものを、ここではまざまざと見せ付けられました。
ソフトウェアーも、ハードウェアーも凄い進歩です。想像以上です。
私のよく知っている分野の事だけに、ここが五年未来というのは、嘘ではないと痛感させられます。
最初のうちは、進歩したこの艦の、メインコンピュータやプログラムに、正直私は戸惑いました。
わからない事を、『私』に聞くわけにもいかず、作業がなかなか進みません。

でも、そのうちに、私は、だんだん要領が飲み込めてきました。
気がつけば、気持ちよく、かなりの速度で作業がこなせています。
一旦調子に乗れば、性能が段違いなだけに以前とは比べ物になりません。
それだけでなく、私は、メインコンピュータのオモイカネとは、相性がとても良いようです。
オモイカネとは、まるで、昔からよく知っている友達のような気がします。

ちなみに、これも後で知ったことですが、オモイカネを育てたのは、
ナデシコA時代のホシノ・ルリ、『私』なのだそうです。
道理で私と相性がいい訳です。と、同時に複雑な心境です。
この時代に跳ばされてしまった私には、オモイカネとそんな関係になる事はないでしょうから。

そう思ったら、私はなぜか寂しいと、感じてしまいました。何故なんでしょう?



『私』に言いわたされていた作業を、全て終えた私は、
引き続きウインドウボールを開いたまま、必要な情報の収集を始めました。
ウインドウボール一面に、ナデシコCの全乗組員の、基本データを表示して、
私はそれを、片っ端から記憶していきました。

同時に、特に重要な二人、ホシノ・ルリ少佐とマキビ・ハリ少尉の情報は、
詳細まで詳しく表示して、細かいところまで覚えていきます。

表面的な情報を記憶しても、それがそのまま役に立つなんて、私も思っていません。
たとえば、ホシノ・ルリ少佐の、詳細な情報を全て覚えても、
それは私が経験した事ではなく、単なる情報の記憶でしかありません。
でも、私にとって、空白の五年を埋めるためには、必要なんです。

あるいは、ハーリー君の情報を、詳細まで覚えたとしても、
会った事も無いハーリー君の振りなんて、私には絶対無理です。
だとしても、私がここで、『マキビ・ハリ』、ハーリー君としてやっていくには、必要なんです。

今の私は、精神的にも、肉体的にも、疲労がたまっていて、疲れはてていました。
身体と心がバラバラで、違和感だらけで、本調子ではありません。
でも、今後のためには、今、無理してでも、やらないわけにはいかないんです。

私は、IFSを通じての、オモイカネとのシンクロに、より神経を集中させました。





「よっ、熱心に、何を調べてるんだ、ハーリー?」

私が、情報収集作業をしている最中に、髪を金髪に染めた男性が、
ウインドウボールの中に、いきなり首を突っ込んできました。
確か、副長のタカスギ・サブロウタ大尉、でしたよね。いきなり何の用でしょう?

「別に、たいした事じゃありません」

私は、素っ気なく答えました。
下手な事を言ったら、すぐボロが出るような気がしましたし、
別に、私はこの人と、特別親しいわけじゃないですから。
でも、私の答えは、このタカスギ副長の、お気に召さなかったのでしょうか?
ウインドウボールに、上半身突っ込んだ姿勢のまま、表情まで固まって動きません。

「まだ何か? 作業の邪魔ですから、用がないなら退いてほしいのですが」

「つれないなあ、俺とお前の仲じゃないか」

「俺とお前の仲って、どんな仲なんです?」

迂闊でした。タカスギ副長とハーリー君は、親しい間柄だったみたいです。
副長に対して、ハーリー君はその副長の補佐役、ある意味当然の事だったかもしれません。
だから私は聞き返しました。正直、興味ありました。野次馬根性なんかからではありません。
今後私がこの人とどう接すれば良いのか、データーだけではわかりませんから。
正確に教えてくれるのでしたら、大助かりです。

「ど、どんなって、そりゃあ……」

どういう訳か、タカスギ副長、困った顔をして答えに窮しています。
一体二人は、どういう関係だったのでしょうか?
まさか、人に言えないような関係?
そんな、困ります。私はそんな趣味ありません。一体どうすれば?



……この後、タカスギ副長は、少し話をしただけで、持ち場に帰っていきました。
あの人は、結局何をしにきたのでしょう?





夕食は、自動販売機のバーガーで軽く済ませて、その後も、私的な情報収集を続けました。



「この、テンカワ・アキトという人は?」

ホシノ・ルリ、『私』の経歴や、ナデシコAの航海記録、火星の後継者の乱、
ざっと目を通しただけでも、どこかに何らかの形で出てくる名前です。
ここでは既に、過去の出来事になっている、あの蜥蜴戦争での英雄(?)でもあり、
つい数ヶ月前の火星の後継者の乱では、コロニー連続襲撃犯のテロリスト、落ちた英雄です。
ここ数年の重要人物には違いありません。ですが、私が目を引いたのはそんな事ではありません。
この時代のホシノ・ルリ、『私』が、この人に異常な執着を見せている事です。

「個人的感情で追いかけっこの挙句、あのジャンプ事故。……『私』って馬鹿?」

ユーチャリスのジャンプ事故に、ナデシコCが巻き込まれた件は、つい数時間前の事故ですし、
私がここにいるのも、おそらくその事故に巻き込まれたからでしょうから、無関係ではありません。
だいいち、さっき罰として私がやらされた作業も、大部分が、この事故の後始末でした。

一応、火星の後継者の乱、コロニー連続襲撃事件の重要参考人として、この人を追跡してますが、
それは形式の事で、ホシノ・ルリ艦長の、個人的な理由で追跡しているのは明らかです。

「どうしてそこまで?、私にはわかりません」

ナデシコA時代は、二人は同じ艦に乗っていますから、何らかの関わりがあったのでしょうが、
記録からでは、そこまで細かい所まではわかりません。
ナデシコAを降りてから、『私』は、元艦長のミスマル・ユリカさんの実家にお世話になっています。が、
すぐに、そのユリカさんと一緒に、テンカワ・アキトさんの元に行って、そこで一緒に暮らしています。
その辺りが、ポイントでしょうか?、でも、その頃の事は、プライベートな事で、記録に残っていません。

「やっぱり、記録だけではわかりません。記録に残らない所で、何かがあったのでしょうか?」



いけない、つい夢中になってしまって、さすがに時間も遅くなってしまいました。
すっかり疲れが溜まっています。
私は私の部屋に、(この場合ハーリー君の部屋ですが)戻りました。そして……。





最初、私はこの身体でシャワーを浴びる事には、抵抗がありました。

それまで、できるだけ男の子なこの身体の事を、気にしないようにしてきたのですが、
入浴するとなれば、そうはいきません。裸になれば、嫌でも思い知らされます。
今日は、シャワーを浴びるのは止めて、明日以降にしておきましょうか? いいえ!!

「問題を先送りしても、問題の本質は何も変わりません。それは現実逃避なだけです」

明日になれば、私は元の私に戻れる? そんな保障はどこにもありません。
当分の間、いえ、かなりの確率で、一生このままの可能性の方が、高いような気がします。
だったら、どんなに嫌な事でも、今は受け入れて、立ち向かうしかないです。
だからと言って、いきなり全部を受け入れるのは嫌ですし無理です。それでも、少しづつでも、
現実を受け入れなければ、これから先も私は前に進めない。そんな気がします。

私は、覚悟を決めると、入浴の準備を済ませてから、バスルームに向かったのでした。





「ふう〜、いいお湯でした」

私は、バスルームから、バスタオルを身体に巻きつけて出てきました。
ちょっと回想(?)が長すぎて、少しのぼせたみたいです。まだ身体が火照っています。
服を着る前に、何か冷たいものでも欲しい気分です。
確か、ハーリー君の部屋の冷蔵庫には、フルーツ牛乳が入っていたはずです。
入浴前に確認しましたから間違いありません。
ハーリー君のものを、勝手に飲むのは少し気が引けますが、この場合は仕方ないですよね?

「ハーリー君ごめんなさい。いただきます」

そう言って、私はフルーツ牛乳を飲みました。冷たくて美味しかったです。



くしゅん

「いけない、せっかく暖まったのに、もう身体が冷えてきたみたいです」

私は、慌てて用意しておいた着替えに手を伸ばしました。
まだ、男物の服、特に他人の下着を身に付ける事に、強い抵抗はありますが、
他に選択肢はありませんし、仕方ありません。

まずは、男物のパンツ(ブリーフ)に素早く両足を通して、引き上げて穿きました。
基本的な動作は、女物のショーツと変わりません。簡単すぎて拍子抜けしたくらいです。

でも、男物のパンツを穿くのは、やっぱりちょっと恥ずかしいです。(赤面)

私は、その恥ずかしい気分をごまかすように、男物のプリントTシャツを手にとりました。
それを着るために、身体に巻きつけていた、バスタオルを取りました。
ハーリー君の、つるぺたな胸があらわになり、それを見て、私は悲しく感じました。
だって、本来の私の身体には、まだ小さなつぼみ状態だったけど、胸のふくらみがあったのに、
今は、元のつるぺたなんですよ、しかも身体が男の子だから、大きくなる望みはありません。
もし、私が少女のままだったら、いつか私だって……。

私はこの時、五年分成長した、この世界の『私』の姿を思い出し、
……余計に落ち込んでしまいました。

私は、落ち込んだ気分のまま、Tシャツを着込み、最後に、青い短パンを穿きました。
着替えは、拍子抜けするほど、簡単に終わってしまいました。

そう思ったら、気が抜けてしまったのか、急に眠気が襲ってきました。
無理はないかもしれません。今日一日の異常な体験で、いつも以上に緊張して気疲れしていた所に、
風呂上りで気が抜けて、どっと疲れが出たのですから。

「ふぁ〜〜ぁ、眠い……です

私は、なんとかベットの所まで行って倒れこむと、そのまま泥のように眠ってしまいました。
翌日、目を覚ました私が、夢を見ていたのかどうかすら、覚えていないくらいにぐっすりと……。





そういえば、過去の世界の私は、あれからどうなったのでしょうか?
あの事故で、無事では済まなかったから、私がここにいるのでしょうが……。

ふと、この世界で、私がハーリー君の中に入り込んでしまったように、
過去の世界の私の中には、ハーリー君が入り込んでいる。
私は、なぜか、そんな気がしていました。







ナデシコC艦長、ホシノ・ルリ少佐の事情



「アキトさん、アキトさんは?」

私は、ナデシコC艦長、ホシノ・ルリ、(16)
あのジャンプ事故の後、私が目を覚ましての第一声はそれでした。

「夢?、違います。確か…」

確かあの時、私たちは、ユーチャリスをアキトさんを追跡し、火星軌道で補足したのですが、

「そうです。あの時ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれたんです」

その時の状況を思い出した私は、早速艦の内外の状況把握を始めました。
正直、アキトさんの事は気になりますが、今は艦長の義務を果たすのが最優先です。

私は、オモイカネに、艦内の状況を調べさせ、次々状況を把握していきました。
まだ、殆どの乗員は気を失っていますが、幸いな事に、欠員はいないようです。
あれだけのジャンプ事故に巻き込まれ、損害、特に人的損害がないのは幸いな事でした。

また、ナデシコCがジャンプアウトしたのは、月軌道の近くでした。
時間的距離にして、約二日の位置、この後の後始末や準備を考慮すれば、三日という所でしょう。

とりあえず、この後は月にある宇宙軍の基地を目指し、そこで整備と補給をする事になりそうです。
本当は、すぐにでもアキトさんの追跡を再開したい所ですが、そういうわけにもいきません。
あと、もうちょっとの所だったのに、本当に残念です。

「いずれにしても、今後の事は、タカスギさんやハーリーくんとも相談して…」

と、ここで私は気付きました。
ブリッジに、マキビ・ハリ少尉、ハーリー君の姿がありません。

「オモイカネ、ハーリー君は、今どこにいます?」

オモイカネは、既に全員の無事を確認しています。
と、すれば、ハーリー君は艦内のどこかにいるはずです。では、一体どこに?
問題は、もしハーリー君が私より先に目を覚ましていたのなら、今は非常時です。
事故後の艦内の状況把握は、先に目を覚ましたハーリー君がやっておかなきゃいけない筈です。
なのに、この非常時に勝手に持ち場を離れて、いったい何をやっているのでしょうか?

「ハーリー君のいる場所は、ブリッジ近くの、……女子トイレの洗面所!?」

何故女子トイレの洗面所に? ハーリー君、寝ぼけて間違って入ったのでしょうか?
私は、さすがに呆れました。呆れながらも、ハーリー君に通信のウインドウを開きました。



「そんな所で、何をしているのですか? ハーリー君?」

いきなり私に声をかけられたせいでしょうか?
ウインドウの向こうで、ハーリー君は目を大きく見開き、口元を押さえて驚いていました。
ハーリー君は、動揺しながらも、私のことを見つめています。
気のせいでしょうか?、私はそんなハーリー君に、なんとなく違和感を感じていました。

私はその後、勝手に持ち場を離れたハーリー君に、柄にもなく説教をして、罰を言い渡しました。
この時は、さっきより、ハーリー君の様子がおかしいと感じていました。
いつものハーリー君なら、言い訳して泣きが入る所なのに、まったく泣きが入りません。
言い訳もしないで、私の言い渡した罰も、黙って淡々と受け入れていました。
私の中で、ハーリー君に対する違和感が、急速に大きくなっていきます。

でも、この時は、事故後のトラブルの後始末で、猫の手も借りたい程忙しかったですし、
ハーリー君が、事故のショックで動揺でもしていたのでは?、とも思い直し、
私は、ハーリー君の事は、深く追求せずに早めに許して、仕事に復帰させていました。





二日後、ナデシコC艦長室、

月軌道近くにジャンプアウトしたナデシコCは、明日にも月基地に入港可能な地点に来ていました。
今後の予定の事で、副長のタカスギ・サブロウタ大尉に来てもらい、相談していました。
この時、いつもならタカスギ大尉と一緒に、来てもらう筈のマキビ少尉には、声をかけていません。
それというのも、あれ以来様子のおかしなハーリー君のことを、副長と密かに相談する為です。



「…だからその時は、艦長に叱られて落ち込んでいるであろうハーリーの事を、
からかい…もとい、元気付けてやろうと、いつもの様に声をかけたんすけどね、
『よっ、熱心に、何を調べてるんだ、ハーリー?』って具合に」

タカスギ大尉の話を聞いていると、その時の情景が思い浮かぶようです。
いつものハーリー君なら、『勝手にウインドウボールに入らないで下さい』とか、
『エッチ』とか、言い返す所でしょうか?

「その時返ってきた返事が冷めた口調で、『別に、たいした事じゃありません』

「だから言ってやったんです『つれないなあ、俺とお前の仲じゃないか』って、
そうしたらアイツ、『俺とお前の仲って、どんな仲なんです?』
ハーリーのやつ、本気で真顔で聞き返してきやがった。アイツ、どうかしちまったのか?」

「……そんな事が、他に気付いた事は?」

「まあ、大きいネタで言えば、食事ですかね」

「食事?」

「あの日以来、アイツは朝昼版、三食ジャンクフードばかりなんですよ。
アイツはご飯が好きだったはずなのに、あれいらいなぜか食べずにジャンクフード漬け、
見かねて俺がさりげなく探りを入れたら、アイツ何て言ったと思います?」

話を聞いていて、私ははなぜか嫌な予感を覚えました。
奇妙な事に、デジャブーも感じます。

「必要な栄養は摂っているから大丈夫です。バランスは栄養剤で補えますし…ってね」

ガタッ!!

「だ、大丈夫っすか、艦長?」

「だ、大丈夫です。それより本当にハーリー君が、そんな事を言ったんですか?」

「ええ、何だったら他のやつに証言させますか?、食堂で、居合わせたやつが何人かいますが…」

「いいえ、必要ありません。タカスギさんの話は信用していますから」

そう言って、私はその件に関しては、話を止めさせました。
本当は、信じたくなかったから、これ以上聞きたくなかったからかもしれません。
それに、……。

「今、アイツは人付き合い悪いっすよ、態度は素っ気なくて無口で冷ややかだし、
何か、俺だけでなく、誰が相手でも他人と距離を置こうとしているし、
ハーリーのやつ、まるで人が変わったみたいで、いったいどうしちまったんだ?」

そう言って、嘆くタカスギ大尉は、本当にハーリー君の事、心配そうです。
私も心配しています。でも、今のハーリー君を見て、話を聞いていると、
私は、古傷を掘り返されているような気分にもさせられます。一体何故でしょう?



「わかりました。とにかくハーリー君のことは、今は、もう少しだけ様子を見ます」

私の決定に、タカスギさんは不満そうでした。私も、らしくないと思っています。
でも、なぜか今のハーリー君に、触れる事には躊躇いを覚えるんです。
心の準備が必要な気がするんです。

「ハーリー君とは、時期を見て私が話をしてみます。だから、もう少しだけ待ってください」

タカスギさんも、ようやく理解をしてくれたのか、引き下がってくれました。
タカスギさんが退室した後、私はつぶやいていました。



「ハーリー君、今の貴方は誰なんです?」





一方、話が終わり、艦長室を出たタカスギ・サブロウタ大尉は、
つい、言いそびれた事を、一人つぶやいていた。



「今のハーリー、妙に艦長に感じが似ている気がするんだよな。

気のせいだろうか? 艦長には言えないな、こんな馬鹿げた話は」





つづく



あとがき

まず、ルリファンの皆様、こんな話書いちゃってごめんなさい。
(時空を越えて、ルリとハーリーの心を入れ替えちゃいました。てへ♪)
この話の主人公はルリです。それともハーリーだったかな?

今回の話は、読者の皆さんを、がっかりさせたかもしれません。だとしたら、申し訳ありません。
設定上、この話では萌えがないかもしれませんが、僕は楽しんで、悪乗りして書きました。
このシリーズは、ハリルリの一話(改)を書いているときに、ふとアイデアが思いついたんです。
思いつきだけなら、今まででもいくつもありますけど、(妄想ともいう。普通は書くまでいかない)
このシリーズは書き始めちゃいましたからねえ。
(アキトINハリとか、アキトINサブロウタとか、特にサブのやつは女たらしのアキトなサブに、
ハリルリがやきもちを焼くとか、この設定だと、サブ、黄アキトよりやっかいかもね?)
(あ、今ユーチャリスの黒アキトと、ハーリーが入れ替わっているという妄想が、苦笑)

最近書いたSSでは珍しく、流れに乗って、勢いよく書けているので、
このまま突っ走ってみるつもりです。(鉄は熱いうちに打てとも言いますし)
全三話の予定です。(四話になるかも?)ラストまで、大筋の話は出来ているので、
コンスタンスに、半月に一話くらいのペースで出来ればいいなあと、思ってます。

出だしの設定では、ハリルリの第一話(改)と対応してますので、比較してみても面白いかも?
あっちを読まなくても、この話だけでも、読めるようにはしてあるつもりですけどね。
ただし、あくまで出だしだけで、向こうとこっちはまったく別の話なので、その点ご了承ください。

艦長のホシノ・ルリ(16)に、ハーリー(中身ルリ11)の正体を、今回ばらすかどうか迷いましたが、
次回に持越しです。どう表現するか、悩みまくりですが、ルリの反応どうなるか楽しみかも?

ルリ(16)と、ハーリー(ルリ11)、元は同じ人間だったはずなのに、
立場が変わると、結構温度差が出来るものですね。この辺も書いていて面白かったです。
案外ハーリー(ルリ)が、きつい事言ったり、思ったりしていますしね。

ハーリー(ルリ)ちゃんてば、慣れない男の子の身体に、悩んで四苦八苦していましたが、
案外、一度ハードル(障害)超えちゃったら、しれっとした顔をして、
あっさり立ちションくらい、こなしてしまいそうな気がします。(まだ、立ってしていないけど)
逆に、ハリルリの場合、ハードルを一つ超えても、また同じ事でうじうじと悩んでしまうとか、
僕の中では、そんな風に、キャラクターのイメージが出来上がりつつあるかな?、と

それでは、今回はこの辺で、次回もよろしくお願いします。





感想代理人プロフィール

戻る

 


 ゴールドアームのノリノリな感想。

 この手のネタの時は定番(?)のゴールドアームです。
 まあ私が好きな分野ということを割り引いても、作者が『のっている』のがよく伝わってくるお話でした。
 この手のお話、特に女の子in男の子の場合、好き嫌いがはっきりあるので、合わなかった方は続きを気にする必要はないと思います。
 今回のお話には、ツッコむところは感じませんでした。

 ただ、この手のお話は、『ノリとテンションをいかに維持するか』が重要なポイントになります。設定の衝撃で持つのはせいぜい2話分くらい。さらなる一捻りを加えるか、一般的な小説のようにキャラクター間の関係にポイントをシフトしないと、大抵立ち枯れます。枯れる前にケリをつけるという手も有効ですが。
 いずれにせよ、続きと決着(敢えて結末とはいわない)を楽しみに待たせていただきます。
 ゴールドアームでした。