薄暗い部屋にただ一箇所ある窓から外を見ている紳士が居た。
窓からは彼が支配する会社のみで成り立つ街が見える。
数々の高層ビルで埋め尽くされたこの街で一番高いこのクリムゾン本社ビル。
その最高階にある会長執務室がその薄暗い部屋の正体であった。
紳士の名はロバートクリムゾン卿。
ローレンツ家の滅びた後、百年ほど前からこのクリムゾンとゼーレを率いている家柄の現在の首領である。
彼の表の顔と役職を知る者は多い。だが、裏の顔と役職を知る者は非常に少ない。
180年ほど前にネルフドイツ本部が攻め滅ぼされたと共にゼーレは消え去ったと思われていた。
だが、事実は過去ほどの勢いこそないが、クリムゾンとして現在も生きつづけていた。

「六文儀シンジ、入ります。」

開いたドアがこの薄暗い部屋に新たな光を差し込ませた。
そして、そこから一人の少年が入ってきた。

「180年前の亡霊か。だが、ゼーレの次代当主が内定していたそうだな。」

「まぁ、あっちではですけどね。でも、驚きましたよ。ゼーレが未だに残っていたなんて ね。ネルフは攻め滅ぼされていたのに。」

「ローレンツ伯の時代に比べれば勢力は落ちたがね。」

皮肉っぽく彼は言った。

「まぁ、これが資料です。」

そう言ってシンジが三枚のディスクを渡した。
クリムゾン卿は即座に机に備え付けられたコンピューターにディスクを挿入して、中のデータを確認していく。
一枚目のディスクにはマギから抜き出してきたデータが入っている。
内容は使徒やエヴァ等シンジの世界でネルフが歩んだ歴史である。
二枚目のディスクには一機の機動兵器の設計図とスペックが入っていた。

機体名『Xクーゲル エクスクーゲル』
北辰の記憶にあるステルン・クーゲルをもとにエース用にネルフ超技術を加えて山崎ヨシオ博士が再設計した新型試作機である。機動性はエステよりわずかに劣るが、火力においては完全に凌駕する。ただ、ネルフ超技術の解析が間に合っておらず、能力を完全に出し切っているとは言いがたい部分も多い。それに、超技術を利用するため非常に高価となり、量産にはまったく適さないのも難点である。

「ほう。興味深い機体だな。」

その眼に興味のみをたたえたクリムゾン卿がシンジの方を向いた。

「建造はクリムゾンに任せるとのことです。」

「だが、乗り手は?」

「卿の目の前に。」

「そうか・・・まぁ、良かろう。」

そう言って、彼は三枚目のディスクの内容を見る。

「これは・・・」

窓の外では夕陽が遥か地平線に沈んでいった。
クリムゾン卿の呟きと共にこの街は夜の沈黙に包まれた。
そして、朝を迎えるまでこの街は沈黙に包まれたままだった。
ただ、クリムゾン会長執務室を除いては。

 

福音の向こうへ

第三話 機動戦艦ナデシコ

 

半年がたった。
それはナデシコの出航日直前であることを意味する。
だが、その出航日をまじかに見ても彼らは悩んでいた。
彼らの商敵であるクリムゾンから来た業務提携の依頼。
クリムゾンのこれまでのやり口から、おそらく依頼を蹴っても強引に搭乗してくるとは思われたが、一応は態度を示しておかねばならなかった。
結局示された態度はOKであった。
なんにしても、クリムゾンが提示してきた今後五年間はユーラシア大陸に対する彼らの進出を停止するという案が功を奏したといってよかった。

「で、彼らが派遣すると言う一人のパイロットは?」

「六分儀シンジと言う名らしいです。テストパイロットだったそうですが・・・」

「どうかしたのかね?」

「過去に遡って調査したところ、我々が製造した特殊試作型マシンチャイルドの碇シンジである可能性が高いです。」

「彼は死んだはずだろう?」

「ですが、クリムゾンが奪った可能性もあります。」

「まぁ、プロス君。考えたまえ。彼等が自らの行為をわざわざばらすと思うのかね?」

「いえ、そういうわけでは・・・」

「ならば答えは一つであろう。」

「わかりました。ですが、念のため今後乗艦中に調査します。」

会議はそこで終わった。
そして、そのままナデシコの出航につながる。

 

舞台を再度移す。

プロスとの交渉も終え、ナデシコに無事パイロット兼コックとして乗り込めたアキトは
デッキにて思わぬ再会を果たす事となった。

「・・・こちらは何方ですか?」

ルリちゃんが俺に視線を向ける・・・
この時期の彼女は無表情であったはずだ。
何故そんな懐かしい人を見た、とでも言うみたいな顔をするんだろうか?

「ああ、この方は先程このナデシコに就職された・・・」

プロスさんの説明を横で聞きながら、俺は疑問を感じていた。
どうしてルリちゃんがここに現れる?
たしか過去ではブリッジに待機していて、ユリカの到着を待っていたはずではないのか?

「こんにちわ・・・アキトさん。」

余りに衝撃的な一言が、ルリちゃんから発せられた。

「な!!」

「おやルリさん、アキトさんとお知り合いですか?」

「ええ、そうなんですよプロスさん。」

馬鹿な!! アキトさん・・・俺と知り合い、だと!!
ルリちゃんがその呼び方をするのは、家族として一緒に暮らしだしてからのはずだ!!
まさか、俺と同じく。
その可能性を俺は忘れていた。

「ルリ・・・ちゃん、かい?」

 俺も確認の一言を出す。

「ええ、そうですよアキトさん。」

微笑を浮かべながら、俺に返事を返すルリちゃん・・・
これは・・・間違いはなさそうだ。

「どうやら本当にお知り合いの様で・・・私は邪魔者みたいですからここから去りますか。
 ルリさん、テンカワさんにナデシコの案内をお願いしますね。」

「はい、解りましたプロスさん。」

「・・・はて、あんなに明るい方でしたかね、ルリさんは?」

 頭を捻りつつプロスさんは去って行った・・・

「・・・案内、しますかアキトさん?」

悪戯っぽく笑って・・・この頃のルリちゃんには、絶対に出来ない笑顔だ。
ルリちゃんは俺に話し掛けてきた。

「必要無いのは・・・解っているんだろ?
 ・・・驚いたよルリちゃん。
 まさかルリちゃんまで、過去に戻ってるなんて。」

お互いの視線が絡み合う・・・
もう会う事なんて無いと思っていた、かつての守りたかった人。

「私も驚きました・・・
 気が付くとナデシコAのオペレーター席にいたのですから。」

詳しく話を聞くと。
過去でもオモイカネの調整の為に、皆より先にナデシコに乗り込んでいたらしい。
そして一週間前・・・自分が、気が付けば昔のナデシコの、オペレータ席に居る事を知った。
そして俺を待っていたそうだ。
一縷の望みを抱いて。

「・・・もう一度乗るのかいナデシコに?」

乗った後に聞いても無駄な気がするのは自分だけだろうか?

「ええ、私の大切な思い出の場所・・・
そして、アキトさんとユリカさん達に出会った場所ですから。
それにアキトさんも必ず、このナデシコに来ると信じてましたから・・・」

信じる、か・・・
俺は今度こそルリちゃんの期待に、応えられるのだろうか。
いや!! 違う!! 応えなければいけないんだ!!

「ルリちゃん・・・戦闘が始まる。」

俺はコミニュケの時間を見て、無人兵器の強襲が近い事を思い出した。

「そうですね・・・では私もブリッジに帰ります。気を付けて下さいね。」

「ああ、解ってるよ。」

アキトはルリちゃんと分かれ・・・
先程ガイが倒したエステバリスに向かって歩き出す。

 

To the other side of the Evangelion

Third Movement : Mobile Battle Ship NADESICO

 

場所はサセボドック。
無数に乱れ舞う無人兵器の群は、地下にその巨体を隠す地球の新型戦艦を襲うべく戦闘行
動に入っていた。
それに地上軍が応戦するが、なす術も無くその数を減らしていく。

『緊急警報発令、緊急警報発令。木星蜥蜴の攻撃だ。
 ブリッジ要員は直ちに戦闘艦橋に集合せよ。』

「どうします艦長?」

プロスペクターが艦長の方を見ながらそう問い掛ける。
彼の頭の中には未だ到着しないクリムゾン派遣パイロットに対する頭痛が発生している。
この状況では猫の手も借りたいのである。

「艦長何か手はあるか?」

ユリカが顔をあげる。

「海底ゲートを抜け敵の後ろに廻り込んでグラビティブラストで殲滅します」

澄んだ声が響き渡る。

「しかし敵は散開しているぞ」

「囮を出します。エステバリスにパイロットを!」

「パイロットは先程、骨折して医療室です。」

「ほぇ?」

間抜けな声を出して顔を崩すユリカ。

「囮ならもう出てるわ。」

「「「「「「「え?」」」」」」

映し出される映像。
そこには生活班の制服を着たテンカワアキトが居た。

「だれだね、君は。所属と名前を言いたまえ。」

『テンカワアキト、コックです。』

「コック?」

「あぁぁっ、おまえ!!俺のゲキガンガー返せ!!」

「困りましたな。コックに危険手当は出せないんですが・・・」

「アキ・・ト?・・・う〜ん・・・アキト・・・」

その間にもエレベーターがのぼっていく。
そして、軍の戦力はどんどんと減っていく。

「アキト!?アキトなの!?ユリカうれし〜っ。」

「ユリカか・・・」

「わかったわ!アキト、ナデシコが出港するまでの時間を稼いでくれるのね。
 でも、アキトにそんな事はさせられない。」

一人妄想を爆走させながら艦長であるはずのユリカは自己陶酔の世界に入っていく。

「お〜〜い、かんちょ〜〜〜?」

「聞いてませんね。」

「じゃぁ、テンカワさん。囮お願いします。」

「あぁ。」

そのまま艦長不在のままテンカワ機は地上へとでた。
いいのか?ユリカ。

 

『作戦は十分間。敵の注意をナデシコからそらしてくれ。』

「了解。」

一気に加速をかけつつアキトの乗るエステは無人兵器の銃火を紙一重で避けつつ
彼らをドックから離して行く。

「ほぉ、凄い腕前ですなぁ。」

「初めてにしては上出来だな。」

そう、彼は今『Prince of Darkness』の時の実力を隠していた。
だから、プロス達は初心者にしては上出来という普通の評価を下したのである。
これが彼の腕前を100パーセント出し切ったら(機体スペック上不可能だが)、
彼らは露骨に怪しんだだろう。

 

そして、三分が立った時、事態はさらなる急変を迎える。

「サセボ方面より高エネルギー体。強い・・・」

地上を移していたカメラの目の前を紅い四条の光が駆け抜けた。
後には木星蜥蜴の影も形も残っていなかった。
そして、オペレーターからの報告にブリッジは驚愕する。

「木星蜥蜴の10パーセント、消滅しました。」

『こちら六分儀。遅れました。』

Sound Onlyのウィンドウが唐突に開かれる。

「へぇ、あんたがクリムゾンから派遣になったパイロットね。遅いじゃないの。
 あんたの遅刻のせいで私が死んじゃったらどうするつもりだったの!!」

うざいキノコを無視すると言う暗黙のルールは既にナデシコでは確立されているが、
シンジは律儀に彼の問いかけに答える。

『すいません、追加武装の取り付けに時間がかかってしまって・・・』

「んなもん取り付けるからいけないのよ!!次からは私のために、
 そう私のために!!早く来なさい。」

そんなムネ茸を無視しつつ交渉役であるプロスが口を開いた。

「おぉ、ようやく来られましたか。
 では、七分ほど囮を頼みたいのですが。」

『了解しました。』

クリムゾン所属機が舞いを始めた。
少なくとも、彼らにはそうとしか見えなかった。
それに対し木星蜥蜴が攻撃を仕掛けるが、対して効果を挙げるわけでもなく、逆に撃
破されていく。
一方のテンカワ機も木星蜥蜴の攻撃を華麗にかわし、ラピッドライフルを撃ち込んでい
く。

舞を舞うかのように敵の攻撃をかわしていく二機の機動兵器に、ブリッジに居る人間で
魅了されぬものは居なかった。

そして、ナデシコの初戦闘はグラビティ・ブラストの一撃で勝利を収めた。

「いやぁ、二人とも助かりました。
 どうでしたか?六分儀さん。ナデシコの威力は・・・」

『ようやく蜥蜴さんと同じスタートラインですか』

「いやぁ、これは厳しいですなぁ。」

次の言葉をプロスが紡ぎだす前にシンジは先手をとった。

『では、まだ改装が完全には終了していないので一端クリムゾンに戻ります。
 第三防衛線で落ち合いましょう。』

そうとだけ言うとXクーゲルは全速で飛び去っていった。

「行かせちゃって良いの?」

「良いも何も行っちゃった後ですし・・・
 後で給料から差し引く事にしましょう。」

このとき、シンジがクリムゾン旧極東拠点(撤退準備中)とは少し外れた方向・・・
そう、例えば箱根あたりを目指しているかのごとくXクーゲルを移動させている事
に気付いたものはいなかった。

ナデシコは長い航海に出た。

To Be Continued


後書き ByBlackCherubim

ふぅ、お久しぶりです
一応今回がTV版第一話に当たります
できれば、地球を出るまでの部分を圧縮しようと考えてましたが今話だけでは分からず・・・;;
ところで、話は変わりますがangelaのYOU GET TO BURNINGのカヴァーをようやく聞いてみました。
結構良いアレンジだったと思っていますが、他の聞いた方はどうでしたか?
まぁ、Dearestの方は元を覚えてなかったり;;
ではでは、こんな駄文にここまで付き合ってくださった方、ありがとうございました。

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

とりあえずお約束の第一話。

でももうひとつ足りないような気がしますねー。

何か1つでも予想を裏切ってくれるような驚きが欲しかったんですが。