機動戦艦ナデシコ Reterner

序章 終焉




 冬の初めの淡い光が窓から差し込み、穏やかなクリーム色を基調にまとめられた室内を優しく照らし出す。まだ残っていた赤く色づいた楓の葉が一枚、ひらひらと風に舞うのが見て取れた。
 そんな穏やかな昼下がり、テンカワ=ユリカは最後を迎えようとしていた。
「いい天気……だね……」
 ユリカは、窓から澄み切った青空を見上げながら、呟いた。その瞳に浮かぶ光は、往時と比べればあまりにも弱々しく、儚かった。
「ユリカさん」
 義娘のホシノ=ルリが、哀れなまでに痩せ衰えたユリカの腕を握り締める。黄金色の両の目は、今にもこぼれそうなほど、涙をたたえていた。
「ごめんなさい……せっかく……もう一度会えた……のにまたお別れ……だね……」
「そんな事、言わないで下さい」
 涙交じりの声に、ユリカはゆっくりと首を横に振る。
「自分の体……だよ……自分が一番……良く……分かってる……」
「――――!!」
 絶句するルリ。ユリカは、周りに集まった人たちを一人一人見た。
「お父様……ルリちゃんを……お願いします……」
「分かっている。もう何も言うな」
 ゆっくりと頷くコウイチロウ。その大柄な体が、なぜかひどく小さく見えた。
「ジュン君……今まで色々と……ありがとう……」
「何をいまさら。僕とユリカの仲じゃないか」
 親友の笑顔は、とても悲しそうだった。
 ミナト、メグミ、リョーコ、ヒカル、イズミ、イネス、ユキナ――集まってくれた人たちと一言一言、言葉を交わすユリカ。二度目の、そして永遠の別れを告げるために。
「ねえ……死んだら私……アキトとまた……会えるかな……」
 ユリカがアキトの死を知ったのは、丁度一月前のことだ。それ以来、ユリカの病状は急激に悪化している。
「もう、やめてください!」
 悲鳴にも似た声を上げるルリ。
「病は気から、って言うじゃありませんか!そんな風に思ってたら、治る病気も治りませんよ!アキトさんだけじゃなく、ユリカさんまでいってしまったら……私……私……」
「ルリちゃん……」
「死なないで下さい」
 頬を流れる涙を拭いもせず、ルリは懇願した。
「お願いです、死なないで下さい、ユリカさん」
「ありがとう」
 ユリカの口元が、笑みの形を作る。
「生き……ていたいな……」
 心からそう思う。
「こん……なに私……の事を想っ……てくれる人……達のために……も……生きていた……いな……」
 だが、人間の思考とは所詮、大脳の神経細胞を走る電気信号に過ぎない。いかに強く願おうと――いかに多くの人間が望もうと――想いそのものに、現実を変容しうる力など、ありようはずがない。
「なんだ……か……眠く……なっちゃ……った……」
 ユリカの眼が、ゆっくりと閉じられる。
「ユリカさんっ!!」
「艦長っ!!」
「ユリカっ!!」
 紛れもない悲鳴が上がる。
「アキト……」
 ルリは見た。ユリカの唇が、そう動いたのを――
 西暦2201年12月3日午後2時17分、テンカワ=ユリカの時は止まった。











































 

 後書き

 は後でまとめて