「ルリちゃん、早く逃げるかアンカーを切り離せ!!
 このままだとナデシコCも、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」

「し、しかし、アキトさんが!!」

『駄目だ!! ジャンプを開始したよ、アキト!!』

「くっ、フィールドは間に合わんか!! 済まんルリちゃん!! ナデシコのクルー!!」

 

 その言葉を最後に、俺の視界は虹色の光彩に包まれた・・・

 










嗚呼、薔薇色の人生
〜ある男の悲劇と対策 IF IN 時ナデ〜
第3話









アキト side



うわぁあああああ!!!


俺は叫びながら、勢いよく飛び起きた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁって、ここはどこだ?」

「ようやくお目覚めかアキト」

「・・・・・サイゾウさん!?」


声のした方に振り向くと、そこには雪谷サイゾウさんがいた。
懐かしかった。短い間だったが、とてもお世話になった人。
いきなり地球にジャンプして、途方に暮れていた俺を雇い料理を教えてくれた。
戦いが始まる度に怯えていた俺を、厳しい口調ながらも真摯になって励ましてくれた。
最終的にはクビになってしまったけど、あの時に「少ないが給料だ」ってくれたお金が、
実は奥さんの形見の指輪を売った代金だと知った時は涙が止まらなかった。
戦火で実家が焼け、写真すら残っていない奥さんとの最後の思い出の品だったそうだ。
俺が怯えていたから、IFSをしていたから、
腰抜けの元軍人を雇っていると評判が広まり、どんどん客が減ってしまったらしい。
このままでは、俺の給料はもちろん店の経営自体が危なかったのだ。
全部俺の所為なのに、このまま放り出すのは忍びないとそこまでしてくれたのだった。
それなのに、その時の俺はクビになった事で自棄になり、
憂さ晴らしに遊んでそのお金を無駄に使ってしまった。
サイゾウさんの気持ちが嬉しくて、自分のした事に腹が立って、
ユリカの胸に抱きしめられながら一晩中泣いた。


「今日は一段と酷かったな。気を失うなんてよ」

「・・・・・・・・」

「なんだぁアキト?まだ寝ぼけてんのか」

「いひゃい!ひゃめひぇふらはいひゃいろうはん!(痛い!やめてくださいサイゾウさん!)」


頬を思い切り抓られた。かなり痛いぞ!って痛い?
痛みを感じる・・・・それにバイザーを着けてないのに見えるし。
声もちゃんと聞こえるし。これは畳の匂いか?ちょっとかび臭いな。
しかし、これはもしかして五感が戻っているのか?でもどうして?


と、その時


《・・キ・・・ア・ト・・・アキト!》


ラピス!

うぉ!


驚くサイゾウを無視して、ラピスに話しかけるアキト。


《ラピスか?》

《うん!良かった。やっと繋がった》

《これはどういうことなんだ?》

《私たち過去に戻ったみたい。今は2196年○月▲日だよ。たぶんランダムジャンプの影響だよ。
 イネスやルリも戻ってきてるよ。・・・・・後あいつらも。
 でも、私の体が6歳に戻っちゃってるし、2人も若返ってるから、
 精神だけがジャンプしてきたんだろうってイネスが。
 私達は半年くらい前に跳んだんだけど・・・3人で色々話をしたんだよ?
 でもいくらアキトを呼んでも繋がらないから寂しかった》

《そうか、ごめんラピス。俺はついさっき戻ってきたばかりだ。
 これからはいつでも話し相手になってあげるからね》

《絶対だよ!ところでアキト。これからどうするの?》


ラピスにそう言われて考える。


俺はどうすればいいんだ?またナデシコに乗るのか?
だがナデシコに乗るということは・・・・・ユリカに逢う事になる。
俺はそれに耐えられるのか?
いや、俺の気持ちなんて関係ない!例えこの身がどうなろうと、
絶対に守って見せる。あんな未来は御免だ!


アキトの心は決まった。


《ラピス、俺はナデシコに乗ろうと思う。前回の二の舞にならないように注意しながらね。
 お前も絶対に北辰より先に助け出してみせる。だから協力してくれ!》

《もちろんだよアキト!でもどうすればいいの?》

《そうだな・・・・・》


俺はラピスにある計画を託した・・・
この計画は、この先にどうしても必要な事だった。


《・・・・以上だ。できるか?》

《う〜ん、難しいけど何とかやってみるよ》

《頼む。しばらくは1人で大変だと思うが・・・・絶対に助け出してやるからな》

《あ、うん。あの、そのことなんだけど》

《ん?どうしたんだ?》

《実はあの時と状況がちょっと変わってて、私今研究所にはいないの。
 それに、その・・・・北辰のことは心配しなくていいから》

《どうしてだ?例え研究所にいなくても、あいつは絶対にお前の情報をつかんで
 やってくる。そうなったらお前はどうなるか》

《とにかく大丈夫なの!!詳しい事はルリに聞いて。じゃバイバイ》

《ラピス?》


返事が無い。無視されているみたいだ。
どういうことなんだ?ルリちゃんにでも聞いてみるか。
後はどうやってナデシコに乗るかなんだが・・・・仕方ない。
前みたいにするし ゴン! 痛!って何をするんですかサイゾウさん!」

「何をするんですか、だぁ?」


サイゾウさん、怒ってるみたいだ。俺何かしたっけ?


「叫んだと思ったら急に黙りこくりやがって。
 何回呼んでも返事しねぇし、おまけに焦点があってない。
 だから正気に戻そうと思ってしょうがなしに殴ったんじゃねぇか!」

「そ、そうだったんですか、すいませんサイゾウさん。ちょっとボーとしてたもので」

「まぁいい。それより起きたんなら手伝え。明日の仕込みが残ってる」


そう言って部屋を出て行くサイゾウさんを、慌てて呼び止めた。


「待ってくださいサイゾウさん!」

「なんだ?」

「たいへん申し訳ないんですが、今日付けでここを辞めさせてもらえませんか」

「何を言い出すかと思えばそんな事か。
 なぁアキト。俺は前にも言ったよな、逃げてるだけじゃ駄目だってよ。
 大体お前、戦いの度にあんなに怯えてたらどこも雇ってくれねぇぞ?
 今言った事は忘れてやるから、さっさと手伝え。忙しいんだからよ」

「違いますサイゾウさん。逃げるわけじゃないんです。
 やらなきゃいけないことにやっと気付いたんです。
 その為には、どうしても行かなきゃいけないところがあるんです。
 だから・・・・ここにはもういられない」


サイゾウさんは、黙って俺を見ている。
すごいプレッシャーを感じる。本当にただの料理人か?
どのくらいそうしていただろうか。やがて


「嘘は言ってないみてぇだな。それで?行かなきゃならねぇところってどこだ?」

「それは・・・・・」


どう話せばいいのだろうか?ナデシコの名前を出すのは駄目だ。
この時期、まだナデシコは一般には知られていない。
ネルガルはどうだろうか?
これも駄目だ。今の俺には、両親が昔働いていたくらいしか繋がりが無い。
やはり火星しかないか。


「火星です」

「火星っておい、どうやって行くつもりだ?大体、何の為に行くんだよ?」

「守りたい人がいるんです。その為には、どうしても火星に行かなきゃ駄目なんです。
 だから、火星に行く為だったら何だってします」

「コックになる夢はどうした」

「それは・・・・確かにコックには今でもなりたいです。
 でも、火星に行く為に諦めなければいけないというのなら、俺は火星を優先します」

「そうかい。だがお前みたいなやつが火星に行ったって死ぬのが落ちだぜ?」

「そうですね。でも、結果守る事ができたのならかまいません」


そこで会話が途切れた。
サイゾウさん、難しい顔をしているな。
できれば納得してもらった上でナデシコに行きたかったんだけどな。
しょうがない、黙って出て行くしかないか。


「なぁアキト。約束できるか?」

「約束、ですか」

「そうだ。コックになるのを諦めない事と、絶対に死なない事をだ。
 守れるか?できるなら、火星行くのに手を貸してやってもいいぞ」

「本当ですか?」

「これでも結構顔が広いからな。ちゃんと手はあるんだよ。どうする?」


さて、どうするか。
サイゾウさんが嘘を言っているとは思えない。
しかし・・・どんな手があるんだ?軍に顔が利くのだろうか?
いや、そうだとしても、この時期軍が火星を目指すとは考えられない。
ということは民間か。だが、民間で火星に行ける力があるのは
ネルガルとクリムゾン、そして多分明日香インダストリーか。
サイゾウさんがクリムゾンと関係があるとは思えないし、残りは2つ。
だが、明日香インダストリーはそんなに火星に興味は無かったはずだ。
やはりネルガルか。それなら任せてみるのもいいかもしれないな。
少なくともあの時よりはスムーズにナデシコに乗れるはずだ。


「分かりました。約束しますサイゾウさん。
 コックは諦めません。それに、どんな事があっても絶対に生きてみせます」

「・・・・・いいだろう。ちょっと待ってな」


そう言うとサイゾウは奥の部屋に入っていった。
そして、1枚の紙を持って出てきた。


「アキト、まずはこれにサインしな。おっと、いきなりサインするなよ?
 ちゃんと内容を確認しないとな。」


それは契約書だった。


「はい」


そこには、やはりネルガルとナデシコの名があった。
言われたとおり契約書を読んでいたアキトだが、ふと気になる事を思い出した。


「あの、サイゾウさん。ちょっと変更してもらいたい内容があるんですけど、できますか?」

「あん?どこだ」

「ここなんですけど」

「お前よくこんなところ気付いたな。
 つーか、真面目な話ししてんのによく言い出せたもんだな」

「え?あ、すいません。ちょっと気になったんで駄目もとで言ってみたんですけど」

「まぁいいけどよ。真面目な話ばっかりしてっと息が詰まるからな。
 貸してみな。・・・・・と、これでよし。他に何かあるか?」

「今のところは」

「じゃあ今日はもう寝な。仕込みは俺だけでやるからよ」

「いえ、手伝わせてくださいよ」

「駄目だ。明日行くところは場所が場所だからな。
 何があるか分からねぇから今のうちにちゃんと寝とけ」

「そうですね。分かりました。
 ところで、明日どこに行けばいいんですか?」


サイゾウはニヤリとしながら言った。


「軍の佐世保基地だ」





 
 


 

????? side



さて、今日中に終わらせなければいけない仕事はもうありませんし、
そろそろ寝ましょうか。明日も早いですしね。
・・・・・っと、誰ですか?こんな時間に連絡を入れてくるなんて。
まったく、非常識ですな。
 

『・・・・・よう、起きてたか?』

「これはこれは。お久しぶりです。お元気でしたか?」

『まぁな。それより、いきなりで悪いが頼みたい事があるんだよ』

「はぁ、なんでしょう?」

『前に俺が預かった契約書があっただろ?』

「おや、やはり行かれるのですか?火星に」


あの時は驚きましたよ。
ナデシコの話をしたら「俺も乗るから契約書をよこせ」だなんて。
幸い出航までにはまだ1ヶ月以上ありましたから、その場の感情で決めるのではなく、
時間をかけてじっくり考えて欲しいと言って私は帰りましたよね。
そういえば、その後すぐにでしたか。
「弟子ができた」と連絡をいただいたのは。
私としてはそのまま静かに生活して欲しいのですが。
責任を取って立場を退かれましたが、貴方には大変お世話になりましたからね。
多少の事は私が手を回そうと思いますが、やはり火星行きは危険ですから。


『いや。俺はもういいんだ』


これは意外な答えですね。
契約書を返すとは言われませんでしたから、てっきり行かれるものと思っていましたよ。


「そうですか。私にとっては嬉しいかぎりですが。
 それにしてもあんなに行きたがっていましたのに、何かあったのですか?」

『それなんだけどよ。俺の代わりに乗せてやって欲しいやつがいるんだよ』

「それは構いませんが、いったいどなたですか?」

『俺の弟子だ』

「ほう。貴方が代わりを任せるほどの人物ですか。心当たりはありませんが」

『そいつの名前なんだがな。テンカワ アキトだ』

「テンカワ?まさか!」

『そうだ。俺が火星に行きたかった最大の理由だ。
 偶然町で会ってな。弟子にしたんだ』

「しかし、彼は火星にいたのでしょう?どうやって地球に」

『多分だがな。ボソンジャンプだ』

「なんと!?」

『あいつ、親にペンダントを預かっていたって言ってた。
 セイジのやつが持ってたCCだろう。
 どうやったかは知らねぇが、それで地球に来たんだ』

「彼らが知ったら喜びそうですな」

『そうだろうな。だからその事は秘密にしておいてくれ』

「分かりました」

『ほんと言うと行かせたくはないんだよ。折角あいつらとの約束が守れそうだってのに。
 だがな、あいつ言いやがったんだ。「守りたい人がいる」ってな。
 そのために火星に行きたいらしい。俺は後押ししてやる事に決めたよ』

「そうですか。では私もできうる限り彼の力になりましょうか」

『すまねぇな』

「貴方の為ですよ」

『いつも言ってるが、俺はもうお前の上司じゃないんだぞ?
 アキトのことは別としても、そんなに俺に尽くして何になる』

「ネルガルでは、です。あの時、貴方に拾われたおかげで私は生きているんです。
 あの恩は忘れません。だから貴方はこれからも私の仕えるべき相手なんですよ。
 アカツキ サイゾウ様」

『・・・・・ばかやろう。今は雪谷サイゾウだ。
 まったく、誰かに聞かれたらどうすんだ。ナガレにここがバレちまうじゃねぇか』

「おや、これは失言でした」

『とにかく頼んだぞ』

「ところで、貴方はこれからどうされるのですか?」

『俺はここで食堂を続けるよ。アキトのやつに約束させたからな。
 あいつが帰って来たら、ちゃんと一人前のコックになれたかテストしてやるんだ。
そういえば、ナデシコにはホウメイが乗るんだったな。
 アキトをしっかり鍛えるように言っといてくれ』

「分かりました」

『じゃ、頼んだぜシン坊』


もう少し話をしたかったのですが切られてしまいましたか。
それにしても、貴方はいつも突然ですね。
そういえばテンカワさんはいつナデシコに来るのでしょうか?
聞きそびれてしまいましたね。まぁ、まだ出航までには3日ありますが。
明日にでも軍の皆さんに言っておかなければいけませんね。
でないと折角来ても追い返されてしまいますから。
それにしても・・・・・


「シン坊、ですか。久しぶりにそう呼ばれましたね」











アキト side



「今までありがとうございました」

「お前も気をつけてな。それと餞別だ」

「ありがとうございます。大切に使いますから」


今回の餞別は、「雪谷食堂」と書かれたエプロンと包丁一式だった。


「このエプロンは特別製でな。ちょっとぐれぇ無茶しても破れたりしないからよ。
 お前はあくまで俺の弟子なんだからな。それを着て調理をする事。
 うちの店の宣伝にもなるしな。
 ここで働いた給料はナデシコにいるプロスペクターってやつから受け取ってくれ。
 それと、ナデシコでの修行はホウメイってやつに任せてあるから、
 しっかり扱かれて来い。帰ってきたらテストするからな」

「はい。行ってきます」

「がんばんな」


俺は自転車を走らせる。
そういえば、一応ユリカには逢っていた方が良いだろうか?
俺は多分、ここのユリカを受け入れる事はできないだろう。
俺の妻だったユリカは、あの時間のユリカただ1人だけだ。
たしか、木連が攻めて来るのは今日だったな。
あの時点でのユリカは、はじめ俺の事気がつかなかったんだよな。
ナデシコで逢うよりも、先に逢って気持ちの整理をつけておいた方が良いか。
見えた!あの丘のあたりで逢ったんだよな。しばらく待ってみるか。




だが、アキトは知らなかった。
この世界が、過去ではなく平行世界だということを。
そして、ラピス達はその事実に気付いていたが、
ある人物に口止めされて「平行世界」ではなく「過去の世界」と言ったことを。
ナデシコに思いもよらない人物がいることを。


 

 


 
 

「・・・・・来ない」


2時間以上待ったが、ユリカは来ない。それどころか車1台通らない。


「これ以上待ってると木連が来るかもしれない。仕方ない、行くか」


俺はナデシコへ向けて自転車を走らせた。


 

 

 

 

「貴方がテンカワアキトさんですか」

「はい」

「ではすいません、一応本人確認を・・・・・はい。間違いありませんね。
 ようこそナデシコへ。サイゾウ様から話は聞いていますよ。
 申し遅れました私プロスペクターといいます、はい。プロスとお呼びください」

「これからよろしくお願いします。あのプロスさん。
 サイゾウさんに食堂で働いていた分の給料は貴方から受け取ってくれと」

「ああ、それでしたらこのカードに振り込んでいますので。
 ナデシコ内は全てこのカードで決済していただきます。
 もちろん、ナデシコ外でも使用できますのよ。 ちょっとばかり手数料が掛かりますが。
 ところで、テンカワさんには契約どおり厨房で働いてもらうわけですが、お給料は・・・・」


そんなことを話しながら歩いていると、


「こんにちはプロスさん」


と声がかかった。


「おやルリさん珍しいですな。デッキに来られるなど」

「私だって散歩くらいします。ところで・・・・・」


そう言って俺に視線を向けるルリちゃん


「こんにちは、アキトさん」

「こんにちはルリちゃん」

「おや、お知り合いでしたか」

「そうなんですよ」


そう言って柔らかな笑みを浮かべ、頬を染める。


「私の大切な人です」

な!!

「ほほう、そうなんですか?テンカワさん」

「え?あの、それは」

「ええ、以前同棲もしてました。そういえばナデシコに就職が決まったそうですね?
 ラピスに聞きましたよ。ではプロスさん、私が案内しますので」

「・・・・どうやら私、邪魔者みたいですね。ではルリさん、お任せしましたので」


そういってプロスさんは去っていった。


「案内、どうしますか?」

「必要ないのは分かってるだろ?ラピスには聞いていたけど、
 本当にルリちゃんも過去に戻ってきてたんだね」

「え?ええ、そうなんですよ」


あれ?何で視線が泳いでるんだ?


「あの、アキトさん」

「なに?」

「実は、あの時とは少し違っているところがありまして、私、保護者が変わったんです」

「そうなんだ」

「ええ。苗字も変わりました。星野ルリ改め 影護ルリです」

「どんな人たちか聞いていいかい?前の保護者の人は、その・・・・」

「・・・・・とても優しい人ですよ。過保護なくらい。
 それに、姉が1人と妹が1人できました。妹はもちろんラピスです。
 今回ナデシコに乗るのは、お金で買われた訳じゃなくて、
 ナデシコに就職した姉に同伴という事になってます。オペレーターはアルバイトですね。
 だからといって仕事の内容が変わるわけではありませんけど。
 でも、肉親がいるというのは心強いです。色々相談できる相手がいるのは。
 この時期はまだミナトさんとも親しくなっていませんでしたからね」

「僕じゃ相談相手にはなれないのかな?」

「そんなわけありません!ただ、男性に話せないこととか、
 アキトさんだから余計に話せない事とかもありますから」

「そ、そうか」

「アキトさんは頼りにしてますから」

「ありがとう。ところでお姉さんてどんな人?俺も知ってる人かな?」


あれ?ルリちゃんまた目が泳いでる。


「ルリちゃんどうしたの?」

「なんでもありませんアキトさん」

「それならいいけど。それよりお姉さんの事教えてよ」

「ごめんなさいアキトさんあねにくちどめされているので」

「え?せめて名前だけでも」

「そんなことよりアキトさんいきましょうはやくしないともくれんがせめてくるかもしれませんし」

「ちょっ手が痛いよルリちゃん!それに何で棒読みなの!?」


ルリちゃんは俺の手を取って足早に歩き出した。
そのとき格納庫の方から


 

ガーイ!スゥパーナッパァーーーー!!!

「誰だ!勝手に動かしてるやつは!」

「あ゛あ゛!!あいつコケやがった!」

「やっぱりお前かヤマダ!」

「違う!俺はダイゴウジガイだ!ってなんだか足が痛いんだけど」

「あ〜、こりゃ折れてるな」

「なにぃ!?」
 


とそんなやり取りが聞こえてくる。
やれやれ。ルリちゃんの事とか色々変わったのに、お前は変わらないんだなガイ。
しかし、ルリちゃんどこまで行く気なんだ?


「あのルリちゃん。どこまで行くの?
 それに、その・・・・手、痛いんだけど」

「え?ご、ごめんなさい!食堂へ行こうと思って。
姉は食堂でウェイトレスをしてるんです。だから木連が攻めてくる前に顔合わせをと思って」

「そうなんだ。だったら早く行かな《アキト!木連に動きがあるよ!》・・・ラピス?」

「どうしたんですか?」

「ルリちゃん、どうやら木連が動き出したらしい。お姉さんには悪いけど顔合わせは後だ。
 ルリちゃんも早くブリッジへ行くんだ!」

「アキトさん!無理はしないでくださいね!」

「俺がバッタぐらいに手こずるとでも?負けはしないさ!」


ルリちゃんにそう言って、俺は格納庫へ向かい走り出した。



 

 
 
 
 


『テンカワ アキト、コックです』

何でコックがエステバリスに乗ってるのよ!

「もしもーし?危ないから降りたほうがいいですよ」


ブリッジでは前と変わらないやり取りが繰り広げられている。
メグミちゃん。すでに地上に出てるんだよ?今更降りるなんて自殺行為だよ。
しかしキノコめ。五月蝿いやつだ。いっそ処分してしまおうか?


「困りましたな。コックには危険手当は出せないのですが。
 しかもこんな所で死なれてしまっては約束が」


大丈夫ですよプロスさん。これくらいの数、遊びにもなりませんから。
しかしユリカはまだ来てないのか。いや、今日は来ないのかもしれないな。
どうする?
ナデシコが起動していない以上、下手に戦うとバッテリーがもたない。
できる限り実力は隠しておきたかったんだが・・・・。
ナデシコが動かないんじゃ囮になっても意味が無い。
グラビティブラストが使えないんじゃな。
しょうがない。最悪殲滅を視野にいれて戦うか。


『大丈夫ですよ皆さん。両親の影響でこういった機械の操縦には慣れてるんです。
 戦闘だって、シミュレーターでなら何度か経験がありますし』

「おや、そうだったんですか。それなら」

「しかしプロス。いくらなんでも素人に任せるなど」

「ゴートさん、彼はテンカワ夫妻のご子息です」

「む、そうなのか?セイジさんの息子なら安心だな」


プロスさんにゴートさんもそんなに簡単に納得されると逆にこっちが不安になりますよ。
この2人にナデシコの管理を任せて大丈夫なんだろうか?
あの時と歴史も違うみたいだしなんか心配だな。レベル下がったのかな?
しかし・・・親父は一体どんな人物だったんだろうか。気になるな。


「テンカワさん。あと10分くらいで艦長が到着します。
 15分もあれば起動できますので、それまで囮がんばってください」

『分かりました』

「いいですか?くれぐれも無理はしないように。死んでしまっては意味が無い」

『俺もこんな所で死ぬ気は無いですよ』


ふう。ユリカのやつ何とか間に合ったみたいだな。
15分くらいなら多少下手なフリをしてもバッテリーはもつだろう。
どうやら、実力は出さずに済みそうだな。


 

アキトは少しずつ敵を倒しながら囮を続けた。
だが、それから20分たってもユリカは来なかった。



ユリカは何をやってるんだ!
バッテリーは後5分ももたないのか。
敵は残りバッタ36機、今のエステのスペックじゃ本気を出してギリギリだな。
・・・・・仕方ない。やるか!



その時、ブリッジの扉が開き2人組が入ってきた。
二人とも白い制服に身を包んでいる。
一方はショートヘアーで、どこと無くオドオドした感じが嗜虐心を煽る。
ナデシコの不幸その1、アオイ ジュンその人である。
それに比べて、腰に届くほどの艶やかな黒髪、
整ったプロポーション、そして自信に満ち溢れた表情の人物。
ジュンを従えたそのヒトは、艦長席に着くとマスターキーを差込み、
ナデシコを起動させ、右手を天に掲げ言い放った。



 
 
 
 
 


 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

私が当ナデシコ艦長、ミスマル ユリカである!



 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

ブリッジに、野太い声が響き渡った。





作者後書き
レポートを作成しなければならずに更新が遅れてしまいました。
来週からは後期の試験があります。
また更新が遅れてしまう訳です。すみません

今回の話ですが、少し書き方を変えてみました。
前と比べてどうでしょうか?見やすくはなったでしょうか?
しかし、今回は会話が多いですね。自分で書いておいてなんですけど。
内容にもちょっと無理があった感があります。
ですが、今の私にはこれが限界です。
まだまだ精進が足りませんね・・・・・。
これから頑張っていきますので、見捨てないようお願いします。


ここでお詫び
今まで後書きで、色々な方にお礼を述べてきました。
キャラクターの使用についてです。
先日、自分の作品が掲載されている事を確認し、改めて思いました。


Benさまへの感謝を書くのを忘れていた事に・・・


本当にすみませんでした

改めまして、Benさまに百万の感謝を。


予告

ついにナデシコ発進!
テンカワ ユリカとミスマル ユリカのギャップに苦しむアキト。
そんなことはお構いなしに飛び出す、ユリカのあの台詞。
彼に安らぎはあたえられるか?
それは誰にも分からない。

ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
それではごきげんよう



感想代理人プロフィール

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代理人の感想

・・・・ほう?w

とりあえず次回に期待しましょうか。