アースティアの上空を航行する、一機の巨大な飛行艇。

 艦橋には、船を制御している者数名の他に一人、見た目には初老の女性がモニターを眺めている。



  暫くすると、後部のドアが開き騎士風の男がブリッジに入ってきた。

 黒衣の服と鎧を身に纏い、同系色のマントを付けている。胸元のアーマーの中央には

 大きな赤い水晶のようなものが埋め込まれていた。傍目には目のようにも取れる。

 長く美しい銀髪を持ち、顔は世間一般では美形で通る程の容貌だが、

 その表情は冷たくむしろ恐ろしさを覚える程。



  事実、この男が艦橋に入ってきてから、

 室内の温度が一気に下がったかのような錯覚を、艦橋にいる全員が感じていた。


  たった一人を除いて・・・・・・。



  その一人 - 老女が男に向かい平然と話しかける。



 「これはこれは、ガルデン様。如何様なご用件でこちらに?」

 「ふん、決まり切った事を聞くな、イドロよ。例のモノが見つかったのであろう?」



  そう言いながら、モニターに映し出されている映像を見る。



 「こんな辺境の街にあるというのか?」

 「確かな情報ではありませんが、『それらしきモノが存在する』という報告が入っております。

  それ故、確かめる価値はあると思い、現在そこに航行中であります。」

 「・・・・成る程。」

 「ですが、ガルデン様の手を煩わせる程でもありませぬ。どうかお休みになっておいでいてくだされ。」

 「いや、私も出よう。最近、腕が鈍っている様なのでな。虫けらを減らしておくのも悪くない。

  どうせ、いずれは滅ぶ運命にあるのだ。ならば、ここで私に殺されるのは、むしろ光栄と云うべきだろう。」



  そう言いつつ艦橋から出ようとした時、ガルデンはイドロにある提案を持ちかける。



 「そういえば、アレはもう動かせるか?」

 「はい、何時でも動かせる事ができますが、まさか?」



  冷徹な笑みを浮かべ、ガルデンは言葉を続ける。



 「そうだ、アレを投入する。まあ、虫けら相手では大したデータを取れんだろうが

  起動テストには十分なはずだ。」

 「確かに・・・。では、整備班にそのように伝えておきます。後、その他の兵力はどうなさります?」



 「いや、アレだけで十分だ。それに、私の楽しみが減っては面白くない。」



  ガルデンが踵を返すとドアが開き、一人の女性が艦橋に入ってくる。



 「・・・・セフィアか、何の用だ?」



  艦橋に入ってきた一人の女性。外見的には二十歳前後を感じさせる。

 長く美しい黒曜色の髪と同色系の切れ長の瞳、更に均整の取れたプロポーションを持つ女性。

 服装は戦士風で、そこそこの鎧を身に纏っているが、あくまで軽いもの。

 肌が露出している部分の方が多い。



  ある事を除けば、誰に聞いても【美しい人間の女性】と答えるだろう。

 しかし、彼女は外見上”人間”とは明らかに違っていた。

 耳は長くとがっており、そして彼女の背中には、一対の漆黒の翼が生えている!!



  セフィアと呼ばれた女性は、ガルデンの問い掛けに、臆する様子など微塵も見せずに返答する。



 「”例”の報告をしようと思いまして参ったのですが・・・・。」

 「そうか。その話は別の場所で聞くことにする。

  ・・・そうだ、セフィアよ。」



  突如、何か思いついたのか、セフィアに話しかけるガルデン。

 セフィアの方もいきなりで驚いた表情を一瞬だけ表したが、

 直ぐに元の表情に戻り返事をする。



 「はっ! 何でしょうか。ガルデン様。」



 「数時間後、モニターに移っているあの街に襲撃を仕掛ける。

  その時、アレを投入する。そこで・だ、貴様にその部隊の指揮権を命じる。

  拒否は許さん。いいな?」



  その命令に驚いたのはセフィアではなく、イドロだった。



 「ガルデン様! そのような小娘に指揮権を与えるなど!! 私がと――」



 「私の決定に、不服がある・・・とでも言いたいのか?」



  発せられた言葉は静かなものであったが、ガルデンから迸る圧力プレッシャーに対し、

 イドロは言葉を続ける事が出来ない。



 「・・・いえ、そのような事は微塵もありません。」

 「以後、気を付ける事だな。次は許さん。

  セフィアは俺と一緒に来い。聞かねばならぬ事もあるからな。」



  そう言い放つと、セフィアをつれて艦橋を後にする。





  ガルデンが去った後、イドロはその小さな身体を振るわせている。

 やはり納得がいかなかった様子だった。



 (忌々しいやつめ!ガルデン様も、何故あのような、

  絶滅した ”脆弱種族” をお気に召されるのか分からぬ!!)





  それから数時間後、ガルデンが乗る飛行艇は目的の街近くへと到着する。

 街の名は”エルゴ”。今まさに、その街に恐怖が舞い降りようとしていた。












覇王大系・AKITOLEGENDアキトレジェンド


第八話  接触ファースト・コンタクト!」



〜〜〜前編〜〜〜










  魔法都市・”エルゴ”。中央ヴァニール大陸の最も北西側に位置する街。

 他の大陸と比べて、中央ヴァニール大陸は魔法の研究が盛んであり、 この街も同じように、魔法研究が積極的に行われている。

 と同時に、この街は西部大陸ウエスト・ガンズとの玄関口の役割も担っている為、 人の往来も非常に多く、活気が溢れていた。



  そんな賑わいのある街の入り口に、アキト達が乗る一台のワゴンが到着する。

 実の処、予定よりも3日程遅れての到着となっていた。



 「う〜ん、やっと到着した。結構、綺麗な街だね。ここは。」

 「確かにそうだな。それに活気もある。ここなら必要な物資が全て揃えられそうだ。」



  レオーネと同じ感想をアキトも持っていたらしく、似たようなことを言う。



 〈それよりも、アキト兄。余計なものを片づけないと。〉

 《そうだよ。あんなもの連れて、街の中、歩けないよ?》



 「・・・確かにそうだな。早く引き渡さないと。」



  二人ディア・ブロスに言われ、アキトが見た先 ― ワゴンの後ろをよく見ると、10名程の男どもが、

 数珠繋ぎの形でロープで括られている。

 どうやら引きずってきたらしく、男どもは土にまみれていた。

  更に、付け加えるならば全員が気絶の状態で、

 その内数名は、打撲の跡がもの凄い事になっている輩もいる。



  実は、この男共はソリッドを操る山賊の一味で、アキト達が”エルゴ”に入る前に

 襲ってきた輩であった。勿論、アキトに否、アキトとレオーネにとっては大した敵ではなく、

 互いにリューを召還することはなく撃退出来たのだが・・・・。



  だが、彼らの襲った時期がまずかった。実はアキト達は、食事を始めようとしていた時に襲われたために、

 やつらの攻撃で、出していた食事全てが消し炭に変わってしまったのである。

  それが、レオーネの怒りを買うことになってしまい、必要以上の攻撃を彼女がしたのだ。



  俺は、その場面を思いだすが、無理矢理頭から消し去る!!



 (”食べ物の恨みは怖い”というが本当だな。特にレオーネに関しては。)



  余談だが、実際の所アキトが止めに入らなければ、

 彼らの怪我はこんなものでは済まなかった事を追記しておく。






  それから暫くして、山賊等を保安官に引き渡した処、

 案の定というか”賞金首”であった為、それなりの報奨金を受け取る事ができた。



  その後、必要な物資を調達しようと、商店街に向かおうとした矢先、

 レオーネがあるお願いをしてくる。



 「ねぇ、アキト。今日はこの街で一泊して行こうよ。ここ最近野宿だったし、

  それに、お風呂にも入りたいよ。ね、いいでしょ?」



 「ん〜〜、〔どうすれば良いと思う?お前達。〕」



 〈別に、いんじゃないの?別に相手が逃げる訳でもないし。〉

 《そうだね。それに僕たちもこの街を見てみたいし。一泊ぐらい良いんじゃない。》



 「あぁ、かまないよ。」

 「ほんと? ありがとうアキト!」



  かなり嬉しかったのか、そう言ってレオーネは俺に抱きついてきた。

 逆に俺は、この行為に対して慌てしまったのは言うまでもない。

 何せ道の真ん中であった為、往来する人々が俺達を見ている。



 「・・・嬉しいのは分かったから離れてくれ。」

 「・・・あっ、ごめんね。」



  俺に言われて、自分が大胆な行為をしている事に気づき、パッと離れる。

 その顔には、赤みが差しているのは言うまでもない。


  無論、アキトは気づきもしなかったが・・・・・・。



 「それじゃ、ボク宿を探してくるね。」

 「分かった、俺は物資を調達してくる。待ち合わせは此処でいいか?」

 「うん! いいよ。じゃ、また後でね。」



  レオーネにある程度のお金を渡した後、ワゴンを専用の置き場に駐車し

 幾つかの店舗を見て歩いた。



  調達したものは主に”食料”になった。これには2つの理由がある。

 一つはレオーネの食べっぷりから考えると生半可な量では足りないという事。

 もう一つは俺自身も、携帯食に飽きてきたために、偶には普通の食事も採りたいし、

 何より『料理がしたい』というのが最大の理由。

  その為、調理器具一式と大量の食材を買いそろえる事になった。


  名前は違うが、器具や食材の姿かたちは元の世界と変わっていなかった事が幸いした。



 〈アキト兄、調理器具はわかるんだけど・・・・。〉

 《そんなに食材買っても、腐っちゃうんじゃない?》



  二人が不安そうな声で聞いてくる。が、俺は諭す様に答える。



 〔その点は心配しなくても大丈夫だ。実は、この宝玉の中は時間が進行しない。

  その為、入れてさえおけば腐る事は決してないよ。どういう仕組みかは分からないけどな。〕



  食料以外では、薬草など万が一の為に薬や魔法の品物マジック・アイテム等を買い揃えて

 最初に決めた集合場所へと向かう。


  すると、既にレオーネはその場所で俺を待っていて、俺に気づくなり大きく手を振っている。

 俺は、その光景に何とも言えない暖かみを感じつつ彼女の元へと向かった。




 「お帰り、アキト。必要なものは買えた?」

 「大丈夫だ。レオーネの方こそ宿は取れたのか?」

 「うん、バッチリ! 結構良い宿だよ。これから案内するね。」



  宿に向かう道中、レオーネが心配そうな顔をして俺を見ているのに気づく。



 「ん?どうした、そんな顔して。」

 「身体の方はもう大丈夫なのかな・・・って思って。」

 「大丈夫だよ。あくまで ”気絶” しただけだから。心配してくれるのは嬉しいけど。」



  俺は、安心させるつもりで言ったのだが、レオーネは声を大きくして俺に詰め寄る。



 「丸々2日も ”昏睡状態” が続いたのは、”気絶” とは言わない!

  あの時、どれだけボクが心配したと思っているの!!」



  ここまで言われると言葉が出ない。

 よく見ればレオーネは、目尻にうっすらと涙を溜めている。

 更には・・・・、



 〈今回はアキト兄が悪いよね。ね、ブロス?〉

 《うん、アキト兄が悪い。レオーネ、付きっきりで看病していたんだから。》

 〈それに、まだ本調子じゃないんでしょう?〉



  二人にもこう言われてしまい、流石に分が悪い。

 観念し、現状について説明する。



 「・・・俺が悪かった。体調自体には問題ないから、通常の生活をする分には心配事はないよ。

  が、昂氣を使用すると話しが変わってくる。実は―――――――」



  全てを話し終えると、レオーネは「やっぱり」という表情を俺に見せた。



 「気づいていたのか?」

 「・・・うん。山賊と戦った後のアキトの表情を見た時に。何となくだけど・・・ね。」

 「そうか・・・。」

 「だから、あまり無理しないでよ。」

 「ああ、無理はしない。恐らく2〜3日ほどで治ると思うから。」



  レオーネも何とか納得したらしく、普段の表情に戻る。



 「でも、原因はやっぱりなのかな?」

 「恐らくは。というか、以外の事で思いつくのがないからな・・・。」


 〈尋常じゃない”力”だよね。は。〉

 《確かに・・・。でも、アキト兄も一日でも早く制御できるようにならないと。

  身体、保たないよ。絶対に。》

 〈そうだね。私たちがサポートできるのにも限度があるから。〉



  二人ディア・ブロスの言う通り、完璧に制御できるようにならなければいけない。

 この世界に来なければ、決して発現する事のなかった”力” を。



  その後、たわいもない会話をしながら目的の”宿”へと到着する。

 が、その宿で俺は一つの困難に遭遇することになった。



  それは・・・・・・





 「・・・・・え?。い・一緒の部屋ぁーーッ!?」






  宿のカウンターで、俺は大きな声を出さずにはいられなかった。

 周囲の客は「何事か?」 といった表情で俺の方を見ている。



  宿の主人から部屋の鍵をもらったまでは良かったのだ。

 しかし、何故かその”鍵”は一つしかなく、疑問に思っている俺を不思議に思ったのか、

 宿の主が答えを出してくれる。



 「そこのお嬢さんが予約取りに来た時、”二人分の空き部屋ないですか”ってしか

  聞いてこなかったから、同部屋で良いと思ったんですが・・・・。」



  レオーネの方をみると、申し訳なさそうな顔をしている。

 どうやら、主の言っている事は本当らしい。



 「・・・ボクは一緒の部屋でも構わないよ。アキト。」

 「いや・・・、流石にそれは不味いんじゃないかと・・・。」

 「なんで?ボクと一緒だと嫌?」

 「・・・・・・・・・。」



  唐突な成り行きに、アキトは言葉を発する事ができず固まっていた。

 そんなアキトを見かねてか、二人が助け船を出す。



 《別にアキト兄、構わないんじゃない? たかだか一緒の部屋になるぐらい。》

 〔ブロス! 人ごとだと思って。〕

 〈人ごとだし♪ 大丈夫。ルリ姉達には黙っててあげるから、ね。

  それとも、あんな顔したレオーネを放っておける? アキト兄は。〉



 「・・・・分かった。でも今回だけだからな。」



  俺は、渋々了承しつつ、主に宿泊金を払う。



 「毎度、有難うございます!!」



  何故か主の声が、妙に恨めしかった。




  そんなこんなで、多少(?)の問題はあったが、その後夕食を取り

 お風呂に入り(勿論別々ッ!!)、この街での一日が終わろうとしていた。



  案内された部屋は、ベットが2つあるツインルームだった。

 が、いかせんベットの距離が近い事が大問題である。

 といっても、気にしているのは俺だけみたいで、レオーネはというと既にベットに入ってる状態。


  よく見れば、レオーネの頬が薄っらと紅くなっていたが、

 アキトは「風呂上がりでそうなっているんだろう」としか考えていなかった。



  余談だが、その思考を感じ取った二人ディア・ブロスが、カードの中で互いに顔を見合わせ、

 とても大〜きな溜息をしていたらしい。

  恐らく、アキト以外の人物なら、二人の溜息の”意味”を理解できただろうが・・・・・・。




 「ねぇ、アキト、早く寝ないの?」

 「ハァ・・・・、今、寝るよ。」



  そう言うと、ベットの脇に見事な装飾を施された鞘に収まっている”剣”を置く。

 鞘の中央には、ある程度大きな”宝玉”が付いている。



 「へぇ〜、アキト、今回はその形にしたんだ。食事の時とは違う形態だよね。」

 「流石に、”手っ甲に盾が付いた” 状態では寝れないよ。寝返りもうてないしな。」



  俺が地下神殿で手に入れた武具は、持ち主の意志次第で

 ある程度の大きさの範囲に限り、その形態を変える事ができる。

  今回は、偶々この形になっただけだ。



 「いいな〜、ボクの”剣”もそうだと良いのに・・・。」



  レオーネは同じように、ベットの脇に置いてある鞘に収まった剣を見ていた。

 彼女の剣は、”リュー”と同じく細身の剣。通称”レイピア”と呼ばれるものである。


  ナジーに貰った物らしいのだが、通常の武器とは違い、驚く程の破壊力と強度を誇っている事を

 ここに来るまでの手合わせや、山賊等の戦いから知った。

  レオーネ曰く、【”過去の魔法文明の遺産”としかナジーから聞いていない】との事。



 「そう拗ねるなよ。レオーネにはアレ・・があるだろう。」

 「そうだけどさ〜、”剣”はアキトと比べると持ち運びにくいし・・・。」



  そんなたわいもない話をしていたが、かなりの時が経っていたのに気づいた。



 「明かりを消すぞ。明日も早いんだからな。」

 「あ・・・うん、お休みなさい。アキト」

 「あぁ、おやすみ。」




  こうして二人は、朝まで安眠できるはずだった。

 ・・・が数時間後、その眠りは突如として妨害される事になる。




  ある者達の襲来により・・・・・・。








<第弐幕>