第27話









  誰一人として、動くことが出来なかった

  全てのコミニュケに送りつけられている、爬虫類のような男の顔

  そしてその男が告げてきた、信じ難い事実

  思考が停止した全ての人間達の前、北辰を映し出すウインドウの横で、それでも無慈悲なカウントダウンは止まらない

  『残り時間29分45秒』

  刻一刻と減る、その数字。しかしそこに、現実感は無かった

  この数字がゼロになったその瞬間、世界は消える

  あまりに唐突に突きつけられたそんな事実を飲み込み、素早く対応出来るような人間など、ほとんどいない。スケールが巨大過ぎて、ついていけない

  凍りついた中、誰もがそう思った

  そんな話、漫画やアニメの世界での話だ。世界が滅ぶなんて大層なことを実際に目の前に突きつけられても、現実感など沸かない。沸くはずがない

  だが、そのほとんどの人間が凍りつき現状把握に脳みそをフル回転させている横で

  それでも、動く影があった

  ナデシコCのブリッジ、艦長席に座る一つの影

  連合宇宙軍中佐ホシノルリもまた、その一人だった

  カウントダウンを浮かべるウインドウをちらりとだけ見つめると、ルリは即座に自分の周囲にウインドウボールを展開した

  先程の、北辰の言葉を思い出す

  ――― 『無駄な希望を持たないように忠告してやろう、時限装置を止めるには張られた何重ものプロテクトを突破せねばならん、やってみるか? 人形細工、間に合わんだろうがなあ!?』

  間に合わない。あのときこの目の前のウインドウに映る狂人は、確かにそう言った。無理ではなく、不可能でもなく、間に合わないと

  何重にも張られたプロテクトがある。そしてそれを時間内に突破することは不可能、とも言った

  だが、それはつまり、まだ完全に手詰まりというわけではないということだ

  そしてもしそうならば、自分のやるべきことなど決まっている

  なにもしなければ、全ては終わりなのだ。ならばこの男がどんなに自分には無理だと言おうとも、関係ない

  言葉を聞く、暇も惜しい

  ルリは、コンソールの上に素早く手を伸ばした

  その手が触れた瞬間、ルリの顔に発光するナノマシンのラインが走り、その瞳の金色がより深くなる

  そのルリの行動を見てようやく我に返ったらしい様子のミナト達が、視界の隅に映る

  だが、今は構っている暇はない

  あの男が、断言したのだ。自分には出来ないと、間に合わないと

  過信の言葉とも、自惚れとも、虚勢だとも思えない

  だからルリは、目を閉じた

  今出来ることをするために、やらなければならないことをするために





  『さて・・・』

  だがそんなルリの行動など気にも止めず、火星の空に浮かぶ真紅の機体は、嘲るように笑った

  背後に黒煙と爆発を背負い、楽しそうに

  『貴様らに残された時間は四判刻を切った・・・・』

  言葉だけの、宣告。誰もが現実感などなく、終わりなど実感できていない中で、それでも事実は変わらない

  北辰は、止めない。着いてこれる奴だけ着いて来いとでも言うように、言葉を続ける

  『止める手段は、たった一つだ』

  楽しみように、嬲るように、笑う

  動きの止まった大艦隊。その目の前に浮かぶちっぽけな機動兵器の中で、全てを握る男が、笑う

  その目が、ギョロリと蠢く

  北辰の目の前に展開する大艦隊。その中の一角に位置する、赤と白の戦艦へと向けられる

  『もう気付いているかと思うがなあ、人形よ。いや、もう聞いてすらいないか?』

  それは、正解だった。すでにウインドウボールに包まれ、意識を電子の海へと沈めているルリに、言葉はすでに届かない

  だが、それでも北辰は喋る

  代わりとでもいうように、他の、全ての人間に突きつけるように

  『そこにいる人形細工が、演算ユニットに設置された時限装置を解除することだ』

  全ての人間の目が、ナデシコCへと向けられた

  そのブリッジでウインドウボールに包まれ、ナノマシンの発光に包まれている、ホシノルリへと

  それを見た瞬間、火星に展開している艦隊に僅かな動きが見えた

  空気が、微かに張り詰めたのだ

  欠けていた現実感が、彼らの中で足りなかった物が、北辰の言葉と彼ら自身が見たルリの姿で、具体化しつつあった

  そんな空気を感じたのか、ウインドウの中に映る北辰は笑う

  それで良い。そうでなければ面白くない

  このまま30分。呆けて腑抜けとなった敵を相手にしても面白くもなんともない。今自分が欲しい物は、死に物狂いで迫ってくる、生への渇望に満ちている敵からのプレッシャーだ

  そのために、わざわざクサカベの下につき、極秘に遺跡の時限装置まで手に入れたのだ

  もっと頑張ってくれなければ、割に合わない

  もっと追い詰めなければ、面白くない

  北辰にとって、もはや自分の命すら、己の快楽を追及する上での小道具の一つでしかなかった

  マトモにこの目の前の大艦隊とぶつかりあえば、勝てる見込みなど欠片もないことはわかっている

  敵が死に物狂いになればなるほど、自分の欲求が満たされれば満たされるほど、自分は死へと近づく

  ――― たまらんなあ

  口をカパリと開く。舌なめずりをしながら、北辰は目を細める

  そして、最後のふるいを掛けた

  恐怖のあまりに攻撃してくるような相手など、無論北辰にとっては論外の存在だった

  だが、如何せん規模が違いすぎた。そんな恐怖に駆られた上での見っとも無い攻撃でも、おそらく自分はあっさりと死ぬだろう

  『それと、もう一つ伝達事項があったなあ』

  だから、保険を掛けることにした

  本当に、覚悟を持って自分と相対する物しか、自分の目の前に現れないように

  腰抜け共を、燻り出すために

  北辰が、ゆっくりと掲げた右腕の中

  どこにでもありそうな、チャチなスイッチがあった

  だが、それだけで、その場にいた物全てが、確信した

  その意味と、そして

  この男が、本当に狂っているのだということを

  『これは、演算ユニットの自爆スイッチだ』

  掲げた腕の中、スイッチの上に置かれた指は

  すでに、半分程押し込まれていた

  ホンの些細な力加減で、すぐにでも作動してしまいそうな程深く、そして浅く

  だが、そんな異様な状況下でも、北辰は笑ったままだ

  『タイムリミットまでどれほどゆとりがあろうとも、我がこの指にもう少し力を加えた瞬間、遺跡は弾け飛ぶ』

  火星の空が、凍りついた

  誰もが、この目の前の男の異常さに言葉も無かった

  疑おうと思えば、確かに余地など幾らでもある

  あの起爆装置そのものが、そもそも本物である証拠などどこにもないのだ

  時限装置にしても同じ、今自分達の目の前にあるウインドウに映るカウントダウンが例えゼロになったとしても、なにも起こらない可能性とて、十分にある

  そもそもあの起爆装置が本物だとしたら、なぜこの目の前の男はこんなにも平然と、いつ作動しても可笑しくないほど力を込めることが出来るのか

  死ぬのが怖いわけなど、ないはずだ

  だから、あの起爆装置は別物だ

  だが、そんな甘い考えにすがろうとする彼らの頭の中に、当たり前のように浮かぶ言葉があった

  本物の証拠は、確かにない

  ならば、偽物の証拠はどこにあるのか

  そしてなによりも、極々当たり前の疑問が、頭を過ぎった

  仮にこの目の前の男が、自分達を撤退させるために、脅しの意味で遺跡を爆発させているといったのならば

  時限装置の、意味がなくなる

  逃げようと思えば、そんな周りくどい方法など取る必要などないのだ。今すぐ撤退しなければスイッチを押すと言えば良い。偽物だと否定するだけの材料がこちらにない以上、それだけで逃げ切ることなど容易なはずだ

  そこまで考えて、彼らの背筋を冷たい物が這いまわった

  偽物である可能性は、極めて低い。それはつまり

  本物の可能性が、極めて高いということだ

  そしてもしそうならば、目の前で時間を刻むカウントダウン。それがゼロになるとき

  本当に、世界が滅ぶ

  足りなかった現実感が、そのとき満たされた

  否定しようのない余りに多くの材料

  そしてなにより、初対面にも関わらず、ウインドウ越しでも伝わってくる、この男の狂気

  それらが、彼らに自覚させた

  これは脅しではない

  自分達を撤退させるための口実でも、生き残るための策略でも、なんでもない

  ただの、舞台装置なのだ。この男にとって

  なにもかもを道連れに、全てを破壊しようとしている

  生き残ることなど、この男の頭の中には欠片もない

  ただ、自分の欲求を満たすためだけに。それだけのために

  遺跡ごと、世界ごと潰そうとしているのだ

  正気の沙汰とは、思えなかった

  『さて』

  ウインドウの中の狂気が、笑う

  この上さらになにかを突きつけるように

  逃げ場などないのだという現実を、見せ付けるように

  『先ほども言った通り、遺跡の爆発を止める方法は一つだけだ』

  夜天光の手の中にある錫杖が、シャランと音を立てた

  見開かれた目が、再び焦点を結ぶ

  キュウッと、裂かれたように吊り上げられた口が、蠢く

  『我はこれから、ナデシコCを破壊しようと思う』

  最後通告、だった

  そのときその場にいた全員に、北辰は刃を突きつけた

  『さあ・・・・』

  死という刃を、最悪の選択肢と共に

  『精々、頑張れ』







  『残り時間、27分30秒』

  カウントダウンは、止まらない













  機動戦艦ナデシコ
  『 Lose Memory 』





  『 正義の味方 』

   

   









  「出られねえってどういうことだよ!!」

  ナデシコCの格納庫に、リョーコの叫び声が響き渡った

  広いスペース。通常ならば整備班の人間が少なくとも十数人はいなければならないはずの中、そこには四人の人影しか見えなかった

  リョーコにヒカル、イズミ、そしてウリバタケだ

  腕を震わせ詰め寄るリョーコに、ウリバタケが気圧されながら答える

  「無茶言わないでよリョーコちゃん!」

  「無茶もなにもねえだろ! 動かせるエステが一機もねえってどういうことなんだよ!」

  格納庫の中は、閉散としていた

  一辺五十メートルは優にあるだろうその格納庫の中には、リョーコ達四人と、ハンガーに固定されているエステバリスが一機しかいない

  「理由なんてわかってるでしょうが! 元々このナデシコCは月に隠されてたのを強引に持って来たんだから、リョーコちゃん達の分のエステなんて積んであるわけないでしょ!」

  「一機あるじゃねえか!」

  指し示すリョーコの指の先、未調整の印ともいえる灰色のエステバリスがある

  「だからあれはまだ調整も済んでないガラクタなんだって! 廃棄される予定だったエステバリスが書類ミスかなにかで偶然あっただけなの!」

  「くっ」

  その言葉に、さすがにリョーコも押し黙る他無かった

  確かにこのナデシコCは、軍の月ドッグにあった物をイネスのボソンジャンプで強引に持って来ただけの物だ。おそらく火星の後継者事件の直後からロクな整備もされずに放り込まれていたこのナデシコC自体が、こうして動いていることが幸運の賜物だろう

  未調整だとかそんなことなど関係ないとでも言って、今すぐにでも乗り込んで出撃したかった

  だが、IFSの個人調整が行われていないエステバリスなど、ただの木偶の坊だ。ノコノコ出て行ってもあの北辰の操る夜天光に瞬殺されることなど、火を見るより明らか

  悔しそうに歯を鳴らしながら、リョーコは手を握り締める

  そもそもあの北辰の存在自体がイレギュラーなのは、リョーコとてわかっている

  おそらく、この計画を仕組んだアカツキ達の筋書きでは、ナデシコCとルリの操るシステム掌握が存在してさえいれば良かったのだ

  そうすれば、クサカベは自分達に対して意識を傾けてくる、その間に先ほど火星上空に現れたユリカ達の登場、晴れてクーデターは鎮圧、クサカベも押さえられてハッピーエンドというわけだ

  だが、状況はもはやそんな物などもはや忘却の彼方である

  突如として現れ、全てをぶち壊したあの北辰のお陰で、全て台無しだ

  『残り時間、26分』

  「・・・ちくしょう」

  自分は、なんのためにここまで来たのだ

  あのアオタという男に助けられ、命賭けで刑務所を脱走し、クーデターを鎮圧するために決死の覚悟でここまで来たのではなかったのか

  だが、それすらあのいけ好かない薄ら笑いを浮かべている男にとって、囮以外の何者でもなかった

  悔しかった。自分達は一体なんなのだ

  死に物狂いでここまで辿り着いた、だがそれはお偉いさん達の計算通りで、そしていざそれが崩れている今になっても、また役立たずだ

  俯き、肩を震わせるリョーコを、ヒカルとイズミが見つめる

  そしてそのとき、一つの動きが生まれた

  それは、排気音だった。自分達パイロットにとって聞きなれた、排気音

  エステバリスの、機動音だ

  ハッとなった四人が、顔を上げる

  注がれる視線の先には、先ほどリョーコが指し示した一機のエステバリス

  灰色の、ポンコツ

  余りに突然の状況に、呆然とする四人

  その彼らの耳に、聞きなれた声が、スピーカーから聞こえた

  『危ないです。どいていてください』

  聞き間違えるはずなどなかった

  「ハ・・・・」

  四人の前を、エステバリスが跨ぐ。そのままその機体は格納庫を移動し、重力カタパルトの射出口へと歩き出した

  「ハーリー・・・・?」

  「おい! お前なにしてんだ!」

  呆然と呟くリョーコの隣、我に返ったウリバタケが怒鳴る

  その声に、エステバリスは足を止めた

  眼前にある射出口の口が開く。ライトが次々と灯り、火星の空までの一本道を照らした

  『・・・僕のオペレート用のIFSなら、未調整でもある程度のレベルで動かせます』

  振り返らず、それだけ答えるエステバリス

  「馬鹿野郎! 例え動けてもロクに訓練もしてねえお前が敵う相手じゃねえ!」

  怒鳴りながら、ウリバタケが駆け出す

  「死ぬ気か!」

  『・・・大丈夫です』

  エステバリスが、身を低くする

  背部にあるスラスターに、熱がこもる

  「ぐっ!」

  熱風にさらされ、ウリバタケが足を止めた。これ以上近づけば、火傷では済まない

  「なにが大丈夫ってんだ! 良いから戻れ! 軍のほかの連中がなんとかしてくれる!!」

  一層大きくなった駆動音と排気による風の中、ウリバタケがそれでも怒鳴った

  だが

  『・・・行かせて下さい』

  静かな言葉に、ウリバタケもリョーコ達も、思わず息を呑む

  「・・・お前」

  『死ぬつもりなんか、全然ありませんから』

  手順もなにもかもを無視したハーリーの発進シークエンスに、格納庫が熱風に包まれる

  荒れ狂う風に体をもっていかれないようにするので精一杯のリョーコ達に一礼し

  『・・・・行って来ます』

  エステバリスは、飛び立った







  電子の海に、沈む

  視覚化された、無数の色を伴う線が、無数に混ざり合う

  背景は白。その中で浮かぶ自分は、随分とこの世界からは浮いている

  取りとめのない思考で一瞬だけそう自嘲したルリは、目を向けた

  そこには、無数に混ざり合い回転する線の世界の中で、さらに特異な、奇妙な線の集合体がある

  一億、ひょっとするとその倍に届くかもしれないほどの数えるのも気が遠くなりそうなラインの集合体は、もはや一本一本の線など見えるはずもなく、隙間なく敷き詰められた壁に見える

  赤が混ざり、黄色が混ざり、青が混ざり、およそこの世界に存在する全ての色の集合体とも思えるその壁の色は、澱んだ黒だった

  大きさなど、ルリには予想もつかない。視覚化されたこの世界に天井などはないが、その無いはずの天井にすら届くかもしれないほど高く高く、その壁は伸びている

  僅かに圧倒され、それでもルリはすぐにその目に力を込めた

  縦に幾らあろうと、横に幾ら伸びていようと、関係ない

  一点、一点で良いのだ。この吐き気がするほど編み上げられたラインをむし破り、壁の向こうが例え針の先ほどでも見えれば、それだけで自分にとっては十分過ぎる

  チラリと目を移す

  『残り時間、25分30秒』

  それだけ見て取ると、ルリは即座に両手を広げた

  その手の平に、光が宿る。オモイカネにサポートされ視覚化された、自分のシステム掌握の光だ

  その光が、一瞬の内に弾けた

  飛沫のように広がった光の粒は、やがて形を針のように変え、数え切れないほどの弾丸となって壁へと叩き込まれた

  音は無い。甲高い幻聴のような、高い耳鳴りだけがする

  ぶつかり合った線と光、爆発すら表現しないその世界の中のその壁の中、僅かに窪みが出来ていた

  ホンの、僅かだった

  その事実に、ルリは眉を寄せる

  予想以上に堅固なプロテクト。だがそんなことなど、始める前からわかっていたことだ

  息を吸う。それと同時に再びルリの手の平に光が集まり

  勢い良く振り下ろされた手から、再び無数の光が飛び出した

  ルリは、踊るように舞う

  回転し勢いをつけ、右手の光が弾ける前に左手に光を集め、左手の光が弾ける前に右手に光を集める

  視覚化されたルリの体、腰までもある銀髪が宙を流れる

  少佐以上であることを示す白い軍服、その背中にあるマントもまた、舞う

  常人ならば脳が焼き切れてしまいそうな演算速度の中、ルリはただひたすらに壁へと穴を穿つ

  僅かにへこんだ穴を、周囲のラインが這いより塞ぐ

  だが、ルリは止まらない

  塞ぐのなら、その暇すらなく穿てば良い

  弱気になっている時間も、絶望に酔っている時間もない

  無心に、ルリはただ舞う

  そのとき

  ――― 艦長

  声が聞こえた、ハーリーの声だ

  ――― どうしました? ハーリー君

  突如掛けられた声にルリは眉一つ動かすことなく、光での破壊を止めない

  ――― 北辰が、宣言しました。ナデシコを落とすって

  時間がないのは、どうやら自分も彼も同じらしい

  ――― アキヤマさんに護衛を頼んでください。多分あの人もここに来ているはずですから

  右手にある光を降り飛ばし、直後左手に光を掴む

  ――― 艦長、提案があります

  ――― ?

  その言葉に、ルリは眉をしかめた

  この状況で他にどんな方法があるのかと

  ――― 実は

  そして、ハーリーは手短に語った。自分の考えを

  ――― ・・・・本気ですか?

  舞いながら、ルリは問うた

  確かにそれは、もし成功すれば効果的な方法だろう

  だがそれは、つい先ほどハーリーが説明した、その方法は

  ――― 死ぬかも、しれませんよ?

  ――― だ、大丈夫です

  問うた疑問に、返って来たのは断言だった

  ――― 絶対に・・・死にませんから







  火星の上空にある、大艦隊

  その一角を構成する艦隊の中に、志願しユリカ達の艦隊に合流した、アララギ達のそれもまた存在していた

  助けを求めるように、混乱しきった様子の部下達が声を掛けてくる

  その中で、アララギは両腕を組み、ただ目の前の巨大スクリーンに映る火星の空と、真紅の機体を睨んでいた

  『残り時間、24分42秒』

  時間はもう、幾らも残っていなかった

  ナデシコを攻撃する、そう宣言したあの真紅の機体は、未だ動きを見せていない

  その間に大部分の艦隊が、慌てふためいたように秩序も編隊もなにもなく、ただナデシコを守るために周囲に殺到している

  だがそんな中、アララギが自分達の艦隊に告げた命令は、待機だった

  「司令」

  背後にいる、もうじき父親となる自分の副官が声をかけてくる

  「どうするつもりですか?」

  混乱しきった自分の部下の大半と違い、この副官の声には焦りも焦燥も見られない

  大した物だ。内心でそう感心する

  「俺は昔、木連にいてな」

  ポツリと呟いたアララギの言葉に、副官が姿勢を正す

  「一般兵には隠匿されていたようだが、軍上層部の噂からその存在は聞いていた。非公式に地球圏の要人や、場合によっては木星軍内部の軍人を暗殺する隠密部隊があると」

  副官と始め、ブリッジにいた全てのクルー達が、アララギの言葉に耳を傾けていた

  「そしてその部隊の隊長を務める男は、本物の戦闘狂だとも、な。命令を遂行することよりも、場合によっては自分の命よりも、好敵手を求めあらゆる物を殺す男」

  「・・・なにが、おっしゃりたいので?」

  「似ていると思わんか?」

  誰のことを指しているのかは、聞くまでもなかった

  アララギは、口元を歪めた

  いつもの笑み、不敵とも不遜とも取れるような、曖昧な笑み

  「・・・・奴は押すぞ」

  だが、その顔を伝う汗だけは、いつものそれではなかった

  「戦闘態勢を解くな・・・・奴は今、おそらく我々を試している」

  「・・・どういう、ことでしょうか」

  「わからんか?」

  そこまで言って、アララギは初めて顔を副官へと向けた

  そして副官は、初めて見た

  あの、いつも呆れるほどマイペースを崩さない自分の上司の、脂汗に濡れた、引き攣った笑みを

  「全ての艦隊が、保身のみのためにナデシコの防衛を固めた瞬間、我々に失望した奴は間違いなくあのスイッチを押すぞ」

  歯痒さと悔しさに、拳を握る

  絶句する副官から目をそらし、再び正面を向いたアララギは、搾り出すように呟いた

  「動くな」

  なんという、惨めな結論だ

  腹の中で荒れ狂う自嘲の嵐に、アララギは生まれて初めて味わう無力感に打ちひしがれた

  静かな言葉は、ブリッジ全てに響き渡る

  「今はそれが・・・最善だ」







  「・・・なんという、ことだ」

  地球圏にいる艦隊の中で、シンジョウは呆然と呟いた

  その呟きに、言葉を返せる者などいない

  なにも出来ない。当たり前だ。事は今自分達のいる場所から遥か遠く、火星で起こっているのだから

  だが、自分達があの場にいたとしても、一体なにが出来るのか

  あのとき、アズマと戦っていたあの男が、まさかこんな暴挙に出るとは、夢にも思っていなかった

  おそらくアズマとて、これほどの大事になるとは思っていなかっただろう。だからあの男は彼を行かせた

  ならば

  指揮卓に置かれた手を、握り締める

  ならば今の事態の責任は、自分達にもある

  あのとき自分達があの男を、北辰を見逃さなければ、刺し違えてでも止めていれば、こんなことにはならなかったのだ

  傲慢だとでも言われても構わない。すでに事態は自分達の左右できる場所から遥か遠くに離れてしまっていても構わない

  なにか、出来ないのか

  なにも、出来ないのか

  そんなことは許されない。自分達は、アズマの意思を継いだのだ

  ならばなにかをしなければならない。例え無理でも、不可能でも、滑稽と笑われても、なにかをしなければならない

  だが、なにが出来る

  なにも出来はしない。それは自分達が火星から何万キロと離れている地球にいるということなど関係ない。自分達があそこにいたとしても、自分はきっとなんの考えも見つけられない

  悔しさに、噛み締めた歯が鳴った

  ふざけるな、甘えるな

  なんでも良い。なにか考えを搾り出せ。馬鹿なことでもアホなことでもなんでも良い、なにか考えろ

  ――― 司令・・・貴方なら、どうしますか

  やめろと思っても、どうしてもあの男の幻影にすがってしまう

  ウインドウに映る、火星の空

  そこに相変わらず佇む夜天光

  考えろ。あの男に対して、司令は対等に渡り合った

  力では及ばなかった、だが、そんなことがどうしたと凶暴に笑いながら、あの禿男は決して退かなかった

  真似ろとは思わない。だから、自分に出来ることをしなければならない

  だが

  なにも、浮かばなかった

  「・・・くそがっ!」

  指揮卓を、殴りつける

  「なんて・・・情けない・・・・!」

  これほどまでに、自分が無能だと思い知らされたことはなかった

  一人ではあの男に到底及ばず、ただ後を付いて行くことしか出来ない

  そしてその男が消えてしまえば、自分はその後をたどることすら、満足に出来やしない

  叩き付けた腕が、ブルブルと震えた

  「くそお」

  余りの不甲斐無さに、情けなくて目の奥が熱くなった

  ズルズルと体を崩し、指揮卓にすがりつくように、膝が折れそうになる

  「・・・・くそお」

  そのときだった

  『皆さん、聞いてください』

  突如として、目の前にウインドウが生まれた

  驚いて顔を上げる。そのウインドウの中

  『か・・・・火星にいる軍の皆さん。どうか協力してください』

  見覚えがある顔

  もう随分と昔に感じる、あの火星の後継者事件のとき、アマテラスで見た顔だ

  ナデシコBに乗っていた、ホシノルリと並ぶ史上最年少のオペレーター、マキビハリ

  慌てて身を起こす。一体なにがあったのかと

  そのウインドウの中に映る、緊張かそれとも恐怖かで震えているように見えるその少年は、それでも懸命に、口を開く

  『今すぐ、戦艦の火気管制その他全てのコントロールを切って、ください』

  この少年は、なにを言っているのだ

  シンジョウは、本気でそう思った

  火星の状況は、確かに今自分達には正確には把握出来ない

  夜天光の脅威も、自分達にはウインドウを介して見える、どこか他人事の脅威でしかない

  だが、それでもわかる。この少年の言葉は

  『か、各艦にいらっしゃるオペ、オペレーターの人は、全ての機能を今現在ナデシコCで遺跡の時限装置を解除しようとしている、ホシノルリさんへと回して下さい』

  冗談だろ? と、声が聞こえた。振り仰いでみれば、ウインドウに映る演算ユニット爆発までの残り時間は、二十分を切ろうとしていた

  そしてその横で、ウインドウを見つめている自分の部下達の姿が見える

  結論は、全ての軍人にとって共通だったらしい

  ウインドウに映るマキビハリという少年。その周囲を、抗議の言葉を発するウインドウが埋め尽くしていた。中には、明らかな悪意と侮蔑を持って言葉を吐く人間すらいる

  そんなウインドウに囲まれ、少年はその目に今にも溢れそうな涙を浮かべながら、俯いている

  同情を誘う絵ではあったが、シンジョウも気持ちは彼を罵倒する軍人達と全く同じだった

  本当に、出来の悪い冗談としか思えなかった

  言いたいことは、確かにわかる。現在火星に存在する大艦隊全てのオペレーターが協力すれば、ホシノルリの負担もかなり軽減される。あの北辰が言った間に合わないという言葉も、ひっくり返せるかもしれない

  子供らしい、穴だらけの算段だ

  だが、現実はそうはいかない。全てのシステムをナデシコCの補佐へと回せば、当然各艦の機能は完全に失われることになる

  無防備になるのだ。管制が切られれば、当然エステバリスも機能しない。その前に、シンジョウはあの男が月でアズマを相手に見せたでたらめな戦闘能力を知っている

  断言しても良い。エステバリスでの機動戦では、あの男を止められない

  やるとすれば、全戦艦によるグラビティーブラストの一斉発射だ。隙間無く空間全てを埋め尽くすほどの密度で発射すれば、回避など不可能だ。それしか、手は無い

  だが、そんなことなど不可能なことは、誰もが理解していた

  あの起爆スイッチをちらつかせられれば、おそらくそれだけで攻撃は出来なくなる

  偽物だと笑い飛ばせられるだけの材料がない以上、もしもという可能性が嫌でもついて回る

  そしてそんな可能性を背負った上で、攻撃など出来るのか

  出来るわけがない。撃てば押すと言われれば、撃てる訳が無いのだ

  それを目の前の少年は、わかっていない

  シンジョウの目に、哀れみすら浮かんだ

  子供は帰って寝ていろ。そんなことすら思った

  そして、そのとき

  『話は聞かせてもらったぞ? 人形よ』

  全ての人間が、思わず身を退いた

  蔑みの表情を浮かべた北辰のウインドウが、ハーリーの眼前に展開したからだ

  シンジョウも、思わず一歩後ず去る

  ハーリーも同様の反応だった。目の前に現れた異形の男に、一瞬息を呑む

  『成程。確かに良い計算だ。いかにも学び舎の中で戦争を学んだ餓鬼らしい発言だ』

  心底蔑んだ言葉に、ハーリーが身を震わせる

  『で? あの妖精が我のプロテクトを解除している間、誰が無防備となった奴等を守るのだ?』

  蛇に睨まれた蛙とはこのことだと、シンジョウは心底そう思った

  土台、格が違う。幾ら世界でも稀なIFS強化体質者といっても、所詮はただの子供

  殺すために殺し、戦うために戦ってきた修羅ともいえる北辰とは、住む世界が違うのだ

  見ているのが気の毒になるほど、ウインドウに映るマキビハリは震えていた

  射殺すような北辰の視線から、目を逸らすことも出来ず、震えている

  そんな少年を見て、北辰はその顔を蔑みの笑みから、失望の無表情へと変えた

  『餓鬼は、引っ込んでいろ』

  決まった。誰もがそう思った

  北辰の言葉に、ウインドウの中に映る少年は、とうとう堪えることが出来なかったように、その目に限界ギリギリまで溜まっていた涙を流した

  気の毒に、と、冷めた思考でそう思う

  この少年も、確かに自分なりに精一杯、この状況で出来ることを考えたのだろう

  だが、未熟過ぎた

  はなから子供が口を挟めるような状況では無かったのだ

  世界中が、そう思った

  だが

  『・・・くが・・・やります』

  『なに?』

  泣きながら、震えながら、それでも少年は、呟いた

  今度は、北辰の目を、しっかりと見つめながら

  『僕が・・・・やります』

  呟く

  『僕が・・・・時間を稼ぎます』

  それは微かな声だった

  震えていて、涙声で、おまけによくよく耳を澄ませていなければ聞こえないような、小さな声だった

  だが、確かに、少年は言ったのだ

  僕がやる、と

  『僕が・・・貴方を止めます』

  泣きながら、ガクガクと震えながら

  それでも、言った

  『僕が・・・・皆を守ります』

  誰もが、耳を疑った

  無理もなかった。ありえなかった

  エステバリスも操縦したことのないような、ただの子供と

  戦艦を軽々と撃破し、グラビティーブラストの雨を交わした、狂った男

  我に返った軍人達を写すウインドウの群れが、少年へと群がった

  皆口々に、不可能だと言葉にしながら

  そこにいたわりの言葉は無かった。やめろという言葉も無かった

  あるのは、ふざけるなという怒りと、いい加減にしろという焦りからの罵倒だ

  だが、その中で、シンジョウは呆然と、ウインドウに映るマキビハリを見つめていた

  自分に、出来るだろうか

  幾ら不可能に聞こえても、幾ら馬鹿らしく聞こえても、自分にあんなことが言えるだろうか

  万の罵倒に囲まれながら、殺人鬼と顔を突き合わせて、貴方を止めると、言えるだろうか

  言えない。自分には、出来ない

  それは子供ならではの無鉄砲さなのかもしれない。状況が飲み込めていないからこその言葉なのかもしれない

  だが、少なくとも自分には、出来ない

  ウインドウの中の少年が、顔を上げる

  相変わらず、みっともなく彼を罵倒する軍人達に囲まれながら

  少年は、叫んだ

  『だったら! 三十分後に死ぬんですか!!』

  全ての、言葉が止まった

  『攻撃しない言い訳を探して! 逃げ回って時間を稼いで! 頑張ってる艦長に頼りきって!』

  誰もが、呆気に取られた

  『僕もあの防壁を見ました! あんなの無理です! 幾ら艦長でも一人で解除なんてできっこない!』

  喚くように、マキビハリは叫んだ

  『それでもあの人は頑張ってるんです! たった一人で! 誰にも頼らず! 助けも求めないで!』

  ハーリーの頭に浮かぶのは、自分が見た憧れの人の姿だった

  たった一人孤独な舞を踊っていた、自分の憧れの人の姿

  間に合わないとわかっていても、それでも決して諦めずに、戦っていた彼女の姿

  『・・・僕は・・・・嫌です・・・』

  拳を握った

  『信じてください・・・・』

  搾り出すように、叫んだ

  『僕を信じてください!!』

  ――― ・・・司令

  叫ぶハーリーのウインドウを見つめるシンジョウ

  それを見つめながら、シンジョウは

  小さく、笑った

  ――― この少年は・・・・

  「全軍に通達だ!」

  突如として下ったシンジョウの言葉に、ウインドウに釘付けになっていた彼の部下達が驚いたように反応する

  「我が艦隊はこれより地球圏を離脱! ターミナルコロニーを通して火星へと向かう!」

  「し、しかし司令」

  オペレーターが、困惑の表情を浮かべる

  「今からでは、その・・・間に合いませんが」

  「構わん!」

  もとよりシンジョウも、そんなことは百も承知だ

  だが、これが自分に出来ることだと、踏ん切りがついた

  震えながら、それでも叫んだ、あの少年を見たときから

  ――― 司令

  目を移す。ウインドウに映る、少年へ

  ――― この少年は

  不可能だと思えるようなことを言い、しかしそれを絶対に譲らない頑固さ

  向かうは、火星

  間に合わないが、それでも、行かなければならない

  それが今、自分達に出来る、唯一のことだから

  ――― この少年は

  口元を笑みの形に変え、シンジョウはゆっくりと目を閉じた

  ――― 貴方に少し、似ています







  「はははは・・・・はははははは!」

  アララギは、笑う。おかしくてしょうがないとでも言うように

  ああ、そうだったと、そんなことを思いながら

  「し、司令?」

  だがアララギは相変わらず笑いながら、不審そうに声を掛けて来た副官の背中を叩く

  立派になった。心底そう思う

  自分が彼を初めて見たのは、火星の後継者事件のとき、電子の妖精の乗ったシャトルを月まで護衛したときだ

  あのとき自分が見たのは、軍にいながら戦争をどこか自分とは関わり合いのない世界のことだと思っている、ただの餓鬼の姿だった

  自分が放ったグラビティーブラストに巻き込まれた命の数の数え方すら知らず、艦長見ましたか? と、得意げに尋ねるような馬鹿な餓鬼の姿だった

  だが、今目の前のウインドウに映る男の姿はどうか

  怖いくせに、恐ろしいくせに、震えているくせに、泣いているくせに、それでも決して逃げなかった男の姿はなんだ

  そして、今の自分の姿はなんだ

  馬鹿らしい。なにが最善だ。結局ただ臆病風に吹かれていただけではないか

  誰かがなんとかしてくれると、他人任せにしていただけではないか

  「・・・立派になったなあ」

  「え?」

  たった一ヶ月。たった一ヶ月だ

  それだけであの馬鹿餓鬼が、あの狂人に喧嘩を売れるようになった

  本人の資質も確かにあるだろう。だが

  「さぞ、良い出会いをしてきたのだろうなあ」

  どんなに素晴らしい苗も、苗床が無ければ育たない

  ――― 今回の騒動で、器が広がったか

  笑う。ならば下らない男の下らない支配欲から引き起こされたこの戦争にも、少しは意味があるというものだ

  「全艦隊に通達だ!」

  そしてアララギは、声を張り上げた

  こんな単純なことも忘れていた、自分を笑いながら

  「我が艦はこれよりマキビハリ中尉の提案を全面的に支持する! 従わない馬鹿には敵だろうと味方だろうと無条件でグラビティーブラストを撃ちこむと言ってやれ!」

  「し、司令!」

  背後にいた副官が、慌てて声を掛ける

  「無謀です! 幾らIFS強化体質者とはいえあんな少年に奴が押さえられるとは思えません!」

  「通達しろ」

  「司令!!」

  アララギの言葉に、通信士がうろたえながらも頷くのを見て、副官が声を荒げる

  「どうか考え直してください! 余りにも無謀です!」

  「・・・・副官殿よ」

  いつもの笑みを顔に貼り付けたアララギが、顔を向けてくる

  「あの少年がなんと言ったか聞いてなかったのか?」

  「・・・え」

  クク、と笑いながら、アララギは顔をウインドウに向けた

  「信じろと言った。あの少年は、信じろとな」

  その、なんの迷いも疑いもない横顔に、思わず呆気に取られる

  まさか、この男は

  いつもの悪い癖が出ているのではないか

  そして、副官の予想は、当たった

  アララギは笑いながら、視線だけを副官へと向けて

  「子供一人信じられないような世界など、滅んだ方がマシだと思わんか?」

  頭を抱えた

  そんな副官の様子など意にも介さず、アララギは笑いながら叫ぶ

  「管制を切った艦隊の護衛は本艦とマキビハリ中尉で執り行う! 良いかお前ら! 絶対やつを近づけるなよ!」

  「りょ、了解!」

  どちらが良いのかなど、アララギの知ったことではない

  ただ、自分の好みで決めただけだ

  後ろのめりに倒れるよりは、前のめりに倒れる方が好きだっただけの話

  このまま三十分後に死ぬか。その三十分で出来ることをするか

  そして、じっとしてるのは自分の性に合わない。たったそれだけの話だ

  「子供を信じてやるのが、大人の仕事だろう?」

  固まっている副官に、そう告げる

  そんなアララギの様子に溜息をつくと、彼はゆっくりと首を振った

  「わかりました。わかりましたよ。付いて行きますよ。貴方は元々そういう方だ」

  「よおし良く言った! それでこそ俺の部下だ!」

  ウインドウの中、真紅の機体がその手に持った錫杖を構える

  それを見て、アララギは手を握る

  遺跡を爆破させる様子はない。どうやら自分達は、賭けの第一段階をクリアしたようだ

  緊張で乾いた唇を、舌で濡らす

  「本番は・・・これからだ」

  誰とも無しにそう呟き、アララギは口を開いた

  「グラビティーブラストチャージ!」

  「了解! グラビティーブラストチャージ!」







  『残り時間、19分33秒』







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  あとがき



  新作を次々と発売して貰えるのは嬉しいけど、時間がありません



  こんにちは、白鴉です



  人間、暇なときは暇なのですが、忙しいときはとことん忙しくなるというなんとも嫌な法則がある気がします

  気付けば一ヶ月以上も間が開いてるわけで、時間が経つのは早いです

  さて

  掲示板で感想を下さったお二方。メールを下さった方々、お返事が出来なくてどうも申し訳ありません

  気付いたときにはもう随分と下の方にあったので、今更返事するのも間抜けかと思いまして、どうもすみません

  励みになりますので、どうかこれからも見捨てないでくれるととてもありがたいです





  それでは次回で