目を覚ますと私の前ではたくさんの人が私を見つめていた

「・・・あれ・・・みんな・・・」

 ルリちゃん・・・ジュン君・・・ミナトさんにユキナちゃん・・・

「みんな、老けたねぇ・・・」

はぁ〜

 どっと周囲にため息が漏れる。

「よかったぁ・・・いつものボケだ」

 皆ちょっと酷いや・・・まるで人をド○フのコントの様に・・・

「私・・・ずっと夢見てた・・・」

 ふと呟いた瞬間、周りを見ると

 今自分が一番会いたい人物がここにいない事に気づいてしまった

「アキトは・・・アキトはどこ?」


機動戦艦ナデシコ

〜revenge of SNOW WHITE〜

プロローグ1 「目覚めた『白雪姫』」


 所は変わってここはネルガルが資本を出している病院である

 火星の後継者を無力化し草壁春樹の身柄を拘束し、ナデシコCの面々はミスマルユリカが緊急入院した病院へと集まっていた

 なにせ遺跡に取り込まれていたのだ。表面上は何時もの天然娘でも、中身はどのような事態になっているかわからないのだから









 だが、この時すぐにテンカワアキトを追いかけなかった事を後に彼女達は大きく後悔する事になる・・・







「そんな・・・アキトがそんな事になってるなんて・・・」

 ユリカは自分が遺跡に取り込まれていた間の事を説明(誰からかは言うまい)してもらい、アキトの置かれている立場に愕然とした

 以前の彼女なら『やっぱりアキトってば私の王子様なのね♪』とでも言っていたかもしれないが、

 アキトが人体実験で五感がまともに働かず廃人同然(しかも料理人としての前途も閉ざされた)と言う事や

 自分を助ける為にターミナルコロニーを襲撃していた事等を聞いてとてもそんな気にはなれなかった。

 ・・・彼女自身も人体実験の為に遺跡と一体化させられたのだが、彼の事を思うとそんな自分さえも幸運だと思った。







「会いたい・・・アキトに会いたい・・・」







 ユリカはそう呟くように喋ると目には自然と涙が溢れてくるのだった・・・

 誰も彼女に話しかける事が出来なかったが、唐突にその均衡は破られる




「そうですね、それじゃあアキトさんの居場所を教えてもらう事にしましょう」




「「「「「「・・・え?」」」」」」

 一瞬彼女以外の全員が”何を言ってるんだ?”とでも言わん顔をしていたが

 無論、彼女・・・”ホシノ・ルリ”が何も考えずにそんな事をいうわけが無い

 とまどう周囲を背に彼女はコミュニケで某所に連絡をいれる

「・・・はい、こちらはネルガル本社ビルになります、どのようなご用件でしょうか?」

「こんにちは、連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリです。アカツキさんをお願いします」

 彼女は呼び出した、 唯一何か知っていそうな”元大関スケコマシ”さんを・・・







「やぁ〜ルリ君、今回はお手柄だったねぇ。それにユリカ君も元気そうでなによりだ」

「はい、アカツキさんもお変わり無いようで」

 ユリカはかつての戦友で恩人である彼に泣きたいのを抑えて笑顔を向ける

「いやぁ〜、僕もお見舞いに行きたいんだけどねぇ〜。残念ながら後処理でもうしばらくは缶詰さ・・・
そうそう、メグミ君やホウメイさん達たちも心配していたから彼女達にも後で連絡を入れてやってくれ」

「今はそんな事はどうでも良いです、アカツキさん・・・あなたアキトさんの居場所を知ってますね?」

 ルリの言葉を聴きアカツキはピクッっと反応する

「ネタはあがってるんです、すっとぼけないでください」

「いや、もちろん知ってるけどね・・・」

「じゃあちゃっちゃと教えてください」

 今日のルリは少々強引である

「いやぁ、ほら一応彼らは我が社の最高機密だしバレると色々と不味いんだよねぇ〜・・・」

「アカツキさんケンカ売ってますか?」

 ルリの有無を言わせぬ態度にアカツキは本気でビビっていた

 巨大企業の会長ともあろう物が16歳の少女に・・・

 まぁアカツキが本気で言ってないで軽口を叩いてるからこそルリも怒っているのだが・・・

「いやいや、ほんのジョークだよ。・・・・・テンカワ君はネルガルの月ドックにいるよ、さっき連絡が入ったからね」

「わかりました、すぐに行きますからそこから離れさせないでください」

「はいはい、お姫様方の到着をお待ちしてますよ」


 そこまで言うと通信は切られた


「それで、どう致しましょうか、艦長?」

 三郎太は答えはわかりきっていたが聞いた

「さっきも言いました。帰ってこないなら追いかけるだけです。ユリカさんの為にもアキトさんを引っ張ってでも連れて来ます」

「ルリちゃん・・・」






 ユリカは一瞬何かを考え、そしておもむろに口に出した






「・・・イネスさん、検査の結果は特に以上無かったんですよね?」

「えぇ、もっとも調べられる範囲でだけど・・・」

「じゃあ退院しても平気ですよね♪」

「「「「「「「ユリカさん(艦長)!!」」」」」」

 ユリカの一言に皆が声を荒げる

 何せほんの少し前まで訳のわからない装置と一体化していたのだ

 心配しないほうがおかしいと言ったものだろう

「心配するのはわかりますけどアキトの身体はもっと辛い状態だったはずですよね?」

「え・・・えぇ・・・」

「それでもアキトは私を迎えに来てくれました、だから今度は私が迎えに行くんです!」

 その言葉に一同は呆然とするが、ルリなどは”さすがユリカさんだ”とでも言いたげに微かに微笑んでいた

「大丈夫ですよ♪アキトに助けてもらった身体ですもん。無理はしませんから♪」

「「「「「「はぁ・・・」」」」」」

 思わずため息が漏れた、彼らはこうと決めたミスマルユリカが梃子でも動かない事を知っているからだ

 こうなってしまった彼女を止められるのはテンカワアキトくらいであろう

「しょうがないわね・・・止めても無駄だろうからせめて私も一緒に付いて行くわ。
無理だと思ったらすぐにドクターストップをかけますからね・・・」

 そして一分一秒を惜しむかのように彼女らは動き出す。

 ただ、テンカワ・アキトに会いたいと・・・そしてアキトとユリカを会わせたいという思いで・・・









 だが、彼女達は知らなかった・・・







 彼女達を襲う不幸と言う名の波がいまだ収まっていなかった事に・・・・















 月にあるネルガルのドックには今一隻の船が収容されていた

 船の名前は”ユーチャリス”、たった二人の乗組員を乗せて闘い続けた戦舟である

「・・・ラピスは眠っちまったか・・・さすがに今日は疲れたんだな」

 ラピスをベッドで寝かしつけ、後の事をエリナに頼むとアキトはユーチャリスのブリッジを目指した

 そしてブリッジに着くと自分の椅子に深く腰を落とし、おもむろに天を仰いだ

『お疲れ様です、マスター』

 自立進化型AI”オモイカネ・ダッシュ”が彼に声をかける

 かつてナデシコでアキト達と共に闘ったオモイカネのコピー(時間的な都合で一から育てる事はしなかった)である

 そんな彼は、言わばアキトのもっとも古く、そして信頼できる戦友の一人と言っても良いだろう・・・

「あぁ、北辰も殺した・・・草壁やヤマザキも逮捕された・・・」

『終わりましたね・・・長い戦いが・・・』

 今、彼らにはこの数年の思いがフラッシュバックしている事だろう

「あぁ・・・もう俺には本当に何にも残って無い・・・復讐も・・・未練も・・・そして寿命も・・・」

『そんな事はありません!マスターには私達がついています!』

「ふ・・・ダッシュはやさしいな・・・ラピスもお前みたいにやさしい娘に育ってくれるかな?」

 闘い終えた復讐者の最後の懸念は、自分の都合で戦いに巻き込んでしまった薄桃色の髪をした少女の事だけであった

『マスターのおかげですよ、私もラピスもそんなマスターだからやさしくなれます』

「ふふ・・・お前も本当に人間臭いAIだな・・・」

『オモイカネシリーズはルリさんやマスター達ナデシコの皆さんに育てて頂きましたからね』






 ふと、頭にはかつて引き取った義理の妹の事が過ぎる・・・

 人より少し感情を表現する事が苦手だった娘のことを・・・






「あぁ、ルリちゃんも本当に立派になってた・・・ラピスはルリちゃんに任せたいな・・・」

『そんな事・・・マスターから離れるって言ったらラピスの方が嫌がると思いますよ?』

「俺は立派な人間じゃないよ、大量殺人者が子供を育てるなんて笑わせる話さ・・・」

『マスター・・・』

 沈黙が周囲を覆う・・・

 オモイカネ・ダッシュは敬愛する彼にかける言葉が見つからないでいた









 どのくらい時間がたっただろうか?

 沈黙を破るように不意に彼は言葉を漏らす、偽らざる自分の心からの言葉を・・・

「あぁ・・・さっき未練が無いって思ったけどそれは嘘だったんだな・・・・だってこんなにユリカに会いたい・・・」






 彼は思考する事をやめ、そして最後まで言葉を続ける事も出来ずに眼を閉じる・・・

 目蓋の裏に思い浮かぶのは、悲しそうな・・・そしてちょっと怒ったような顔をしたユリカの姿だった・・・

『アキトはユリカの王子様なんだから私を置いていったら駄目なんだよ!』

 ・・・不意にそんな言葉が聞こえたような気がして思わず口元が綻ぶ

バカヤロウ・・・最後まで勝手な事言いやがって・・・

 艦を支配するダッシュすら聞き取れないほどの小声であったが・・・それが彼の最後の言葉であった・・・・・






!?マスター!!マスター!!どうしました!?マスター!!








 彼は親しい者達誰一人にも看取られる事無く静かに逝った・・・

 ターミナルコロニー連続襲撃犯 ”prince of darkness” テンカワ・アキト

 その青春時代の大半を両親の、火星の人達の、そして自分の最愛の妻の復讐にかけた男の人生に今幕が下りた・・・

 くしくもその直後、ユーチャリスに彼が愛し愛された人たちが押しかけるが、

 最後を看取れなかった事を知り、その場で泣き崩れなかった者は唯の一人もいなかったと言う

 特に彼が一番会いたいと願った女性は彼の亡骸に抱きついたまま決して離れようとしなかった

 『安らかに弔ってやろう』と説得され、彼の亡骸から離れる際にあの結婚式以来のキスをした・・・






 最後のキスは自分の涙の味しかしなかった・・・・・






 その後、ユーチャリスに残った彼の身体のデータを見たイネス博士は驚くばかりだった

 体温や血圧は常人のそれより異常に低く、内臓器官の活動数値を見てもやっと動いてる程度

 ・・・データを見る限りもうしばらく前から彼の身体は死んだような物だったのだ。

 それは彼の愛する者を助けたい思いが生み出した奇跡なのか?

 それとも復讐心の為だけに生きていた為に復讐がが終わったそのすぐ後にこんな事になったのか?

 だが彼の人となりを知る者たちの中にそんな事を気にする者など誰一人もなく、

「最後まで無茶しやがって」と口を揃えて言った・・・












 アキトを弔ったミスマル・ユリカはアキトの最後の懸念であったラピス・ラズリを引き取り、実家に戻って生活をしていた

 ルリもまた自分の妹と言える存在であるラピスの為に忙しい中何かと世話をしようとした

 ・・・だが、アキトに依存しきっていたと言っても過言でないラピスは誰にも心を開く事も無く衰弱していった

「ユリカモルリモヤサシイ、アキトがイッテイタイジョウニヤサシイ・・・デモワタシハアキトガイナイトイキテイケナイ・・・」










 ・・・結局心が生きる事を拒んだラピス・ラズリはアキトを追いかけるように亡くなった。







「・・・ソレデモワタシハアキトトイッショガイイ・・・」

 ・・・・アキトが死んでから丁度四十九日が過ぎた頃の事だった・・・









 ラピスが亡くなったその日、ユリカは一つの決心をする・・・

「またルリちゃんを一人にしちゃうな・・・結局私も自分勝手なんだよね・・・」

 そして彼女を光が包み込み・・・この世界の何処からもいなくなった

つづく


後書き

皆さん始めまして、YU-TAと言う者です。この度は自分の拙い作品を見ていただきありがとうございます。

まず最初にこの作品では”ミスマルユリカ”に焦点を当てていますが、かなり天然部分は無くなって切れ者になって行きます。

なので”こんなのはユリカじゃない!”と言う意見も覚悟の上ですが、TV版と180°違う劇場版アキトのように

辛い事を乗り越える為に強くなった”ミスマル・ユリカ”の姿を書きたいと思います。

闇の王子様風に言うと『あなたの知っているミスマル・ユリカは死んだ』って感じでしょうか(死

ところで、いきなりアキトとラピスが死んじゃってます。

正直五感も失われ執念だけで生きていたアキトがそれが無くなった途端に亡くなりラピスもそれを追うような事もありだと思ってます。

ここで終われば間違いなくバッドエンドですが、もちろん物語は続きます。

アキトもルリもラピスも自分は大好きなので皆まとめてハッピーになれたらと思っています。

では物語の最後まで完走したいと思いますが、そこまでお付合いいただければと思います。